説明

オイル劣化検知装置

【課題】 簡素に構成できるオイル劣化検知装置を提供する。
【解決手段】 エンジンにオイルを循環させるオイルポンプ5の下流側のオイル流通路1に圧力センサ2を設け、その圧力センサ2で測定されるオイル圧力をあらかじめ設定した劣化判定圧力と比較してオイルが劣化したことを判定する判定部8を設けた。圧力センサ2が1個あればよく装置構成が簡素になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンオイルの劣化をエンジン運転中に検知するオイル劣化検知装置に係り、簡素に構成できるオイル劣化検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンオイル(以下、単にオイルという)の劣化状況は、エンジンのオイルパンにオイルゲージを挿入し、取り出したオイルゲージに付着したオイルを目視することで判断していた。この方法は、エンジン停止中にしか実施できない、作業が面倒である、官能評価であるため個人差があるなどの欠点があるため、オイルの何らかの状態を定量的に測定できるセンサを用いてその測定値からオイル劣化を検知する装置がいくつか提案されている。
【0003】
特許文献1に記載された発明は、オイル流通路に2点間の差圧を測定する差圧センサを設け、差圧と粘性係数との関係式に測定した差圧を代入して粘性係数(粘度の意と思われる)を算出し、算出した粘性係数があらかじめ設定された下限の粘性係数より小さくなると警告をするものである。
【0004】
特許文献2に記載された発明は、エンジンのオイルパンにオイルの電気抵抗値を測定する抵抗センサを設け、測定した電気抵抗値で劣化を表示し、その表示された電気抵抗値が大きくなって交換の表示に達するようにしたものである。
【0005】
特許文献3に記載された発明は、オイルを挟んだ電極間における静電容量からオイルの誘電率を測定する誘電率センサを設け、測定した誘電率があらかじめ設定された設定値より大きくなるとオイルが劣化したと判定するものである。
【0006】
特許文献4に記載された発明は、オイル中で羽根車を回転させてモータの回転負荷を測定し、測定した回転負荷があらかじめ設定された設定値より大きくなるとオイルの粘度が限界以上に高くなったと判定するものである。
【0007】
特許文献5に記載された発明は、オイル送出管を横断する鋼帯に歪みゲージを固着し、オイルポンプの回転数が特定した範囲内の値であり、温度が特定した温度範囲内であるときに、歪み量が所定以上であると粘度増加による劣化と判定するものである。
【0008】
特許文献6に記載された発明は、エンジンのオイルパンにオイルの電気抵抗値を測定する抵抗センサを設け、測定した電気抵抗値が低下してあらかじめ設定された劣化抵抗値に達すると運転者に知らせるものである。
【0009】
これらのオイル劣化検知装置をエンジンに適用することにより、運転中でもリアルタイムで、人手を煩わさず自動的に、定量的なオイル劣化検知が可能となるので、無駄なく、合理的なオイル交換時期を実現させてエンジンの寿命を延ばすことができると共に、測定した値から故障の前兆を検知するようにすることもできる。さらに、ピストンリングや軸受けの交換時期を確認することにも利用することができる。
【0010】
【特許文献1】実開平2−26711号公報
【特許文献2】実開平5−23121号公報
【特許文献3】特開平5−264495号公報
【特許文献4】特開平9−317432号公報
【特許文献5】特開平9−317433号公報
【特許文献6】特開平10−78402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、特許文献3や特許文献2,6においては、電気的性質の変化をもってオイルの劣化を判定しているが、電気的性質の変化で検知し得るのは金属やカーボンなどの電気的性質が顕著な異物の混入度合いだけに過ぎず、オイルの熱分解による粘度の上昇、オイル中の粘度指数向上剤の剪断による粘度の低下など異物要因でない劣化は検知できない。
【0012】
これに対し、特許文献1,4では粘度を測定しているので、粘度に依存した判定が可能である。しかし、特許文献1では、2点間の差圧を測定するために圧力測定管を付け加える必要があり、オイル流通路の構成が複雑になる。また、特許文献4では、羽根車を設ける必要があり、オイル流通路あるいはオイルパンの構成が複雑になる。このように、従来の粘度測定式の装置の問題点は構成が複雑となることである。
【0013】
また、特許文献5では、オイルの粘度変化に基づく歪み量を測定しているので、粘度に依存した判定が可能である。しかし、オイル送出管を横断する鋼帯が流体抵抗となってしまい、流量が低下したりオイルポンプに過大な負荷がかかるので、センサとして不適である。
【0014】
また、オイルは、粘度が低下すると摺動部が異常に摩耗し、粘度が上昇するとエンジン始動困難となる。よって、オイルの粘度は低すぎても高すぎてもいけない。しかしながら、特許文献1では、オイルが劣化すると粘性係数が低下するとの考えをとっており、粘性係数が下限に達したことしか検知しない。一方、特許文献4,5では、オイルが劣化すると粘度が上昇するとの考えをとっており、粘度が限界以上に高くなったことしか判定していない。
【0015】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、簡素に構成できるオイル劣化検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために本発明は、エンジンにオイルを循環させるオイルポンプのオイル流通路に圧力センサを設け、その圧力センサで測定される静圧をあらかじめ設定した劣化判定圧力と比較してオイルが劣化したことを判定する判定部を設けたものである。
【0017】
上記判定部は、エンジン回転数があらかじめ設定した判定回転数に等しいときに、上記劣化判定を行うとよい。
【0018】
上記判定部は、オイル温度があらかじめ設定した判定温度に等しいときに、上記劣化判定を行うとよい。
【0019】
上記判定部は、上記オイル圧力が下限劣化判定圧力より低いときオイルの粘度が過剰であると判定し、上記オイル圧力が上限劣化判定圧力より高いときオイルの粘度が不足であると判定するとよい。
【0020】
上記圧力センサは、上記オイル流通路内の側壁に圧電素子を取り付け、その圧電素子の受圧面をオイル流に側方から臨ませたものであるとよい。
【0021】
上記オイルポンプの出口に、上記オイル流通路内のオイル流を層流状態にするための層流格子を設けるとよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0023】
(1)装置構成が簡素にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0025】
図1に示されるように、本発明に係るオイル劣化検知装置では、オイルポンプ(図示せず)の下流側のオイル流通路1に1箇所だけ圧力センサ2を設ける。このオイル流通路1の上流には、エンジンのオイルパンからエンジン回転に比例した回転によりオイルを汲み上げるオイルポンプが設けられている。一方、オイル流通路1の下流はエンジン内の被潤滑箇所(図示せず)に通じている。圧力センサ2は、オイル流通路1内の側壁に圧電素子2aを取り付け、その圧電素子2aの受圧面3をオイル流に対して側方から臨ませたものである。この図において、圧力センサ2を配置するオイル流通路長手方向位置により、オイルポンプ出口から圧力センサ2までの距離が決まる。この圧力センサ2は、オイルポンプ出口から所定距離の位置における静圧(以下、オイル圧力と言う)を測定するものである。
【0026】
図2に示したオイル劣化検知装置は、オイル流通路1外に圧電素子2aを設け、オイル流通路1から圧電素子2aの受圧面まで細管4を伸ばして圧力センサ2を構成しているが、このようにしても本発明は実施できる。
【0027】
図2に示したオイルポンプ(ギアポンプ)5は図示しないエンジンと機械的に連動して回転する回転子を内蔵し、ポンプ回転数がエンジン回転数に比例するものである。オイルポンプ5の入口はオイルパン(図示せず)中に開口しており、オイルポンプ5の出口6にはメッシュ状に形成された層流格子7が設けられ、その出口6にオイル流通路1が接続されている。層流格子7は、オイル流通路1内のオイル流を層流状態にするために設けられる。圧電素子2aからのオイル圧力の信号線は、そのオイル圧力をあらかじめ設定した劣化判定圧力と比較してオイルが劣化したことを判定する判定部8に接続されている。判定部8には、オイルが劣化したと判定したときに点灯する警告灯9が接続されている。さらに、判定部8には、エンジン回転計10からのエンジン回転数信号が入力され、図示しないオイル温度センサからのオイル温度信号が入力されている。図2の構成において、図1に示したようにオイル流通路1内の側壁に圧電素子2aを取り付けてもよいことはもちろんである。
【0028】
判定部8は、エンジン回転数があらかじめ設定した判定回転数に等しく、かつ、オイル温度があらかじめ設定した判定温度に等しいときに、劣化判定を行うようになっている。そして、判定部8は、オイル圧力が下限劣化判定圧力より低いときオイルの粘度が過剰であると判定し、オイル圧力が上限劣化判定圧力より高いときオイルの粘度が不足であると判定するようになっている。
【0029】
次に、本発明の原理を説明する。
【0030】
一般に管路を流れる流体は、境界層の流速の速度勾配による剪断力によって圧力損失を生じる。流量Qと圧力損失(2点間の差圧ΔPで表す)との関係は、ハーゲン・ポアズイユの法則により、
Q=K×(π×d4×ΔP)/(128×μ×l) (1)
ただし、Q:流量(m3/s)
K:管路の性状(壁面粗さ、管路曲率など)によって決まる定数で実験 により決定可能なもの(0≦K≦1)
π:円周率
d:管路の直径(m)
ΔP:2点間の差圧(Pa)
μ:粘度(Pa・s)
l:2点間の距離(m)
で表される。よって、流量Qが既知であれば2点間の差圧ΔP及び2点間の距離lから粘度μが求まる。この考え方は特許文献1と同じである。
【0031】
これに対し、本発明は圧力センサを1箇所しか設けない。また、粘度μも算出しない。それにもかかわらず、オイルが劣化したことを判定できる理由は、エンジン回転数があらかじめ設定した判定回転数に等しいとき、すなわちエンジン回転数に比例するオイルポンプ回転数が所定値である条件の下で、オイルポンプ出口6から所定距離にある圧力センサ2で測定した圧力でもって劣化を判定しているからである。
【0032】
ここで、オイルポンプ回転数が所定値であるとき、オイルポンプ出口6の流量が所定値になるので、次式で表されるベルヌーイの法則により、
2×ρ+P=const (2)
ただし、
v:流速(m/s)
ρ;密度(kg/m3
P:静圧(Pa)
となるから、オイルポンプ入口の条件をオイルパンと同じ流速ゼロ、圧力ゼロ(ゲージ圧力にて)と仮定すれば、オイルポンプ出口6の圧力も所定値となる。つまり、オイルポンプ出口6の圧力を固定として考えると、オイルポンプ出口6から所定距離にある圧力センサ2で圧力を測定すれば差圧ΔPが測定できたことになる。もし粘度μが高くなれば、差圧ΔPが大きくなるので、圧力センサで測定される圧力は低下する。このように、本発明では、エンジン回転数があらかじめ設定した判定回転数に等しいときに、すなわちオイルポンプ出口6の圧力が所定値であるときに、オイルポンプ出口6から所定距離のところの圧力を測定するようにしたので、その圧力測定値の低い高いが粘度μの高い低いを表すことになり、わざわざ粘度μを算出するまでもなく、圧力測定値でもってオイルの劣化を判定することができる。
【0033】
なお、図1の形態ではオイルポンプの下流側のオイル流通路1に圧力センサ2を設けたが、オイルポンプの上流側のオイル流通路に圧力センサを設けても、同じ理由で、圧力測定値でもってオイルの劣化を判定することができる。
【0034】
次に、圧力センサ2について説明する。圧電素子2aは、イオン結合物質の結晶に圧力を加えると、その圧力を加えたのと同じ方向に、圧力に比例した電圧が得られるというピエゾ効果を利用したものである。一般に、ピエゾ効果では、圧力が高くなれば発生電圧も高くなる。ハーゲン・ポアズイユの法則により、粘度μとオイルポンプの下流側の所定距離lにおける圧力とは比例関係にあるので、圧力センサ2に圧電素子2aを用いた場合、粘度μと発生電圧も粘度が高くなれば発生電圧は低くなるという比例関係が成り立つ。よって、判定部8では、圧力センサ2の出力電圧でもってオイルの劣化を判定することができる。圧力センサ2は、圧力に比例した電圧を出力するものであればよく、圧電素子2aに限らない。
【0035】
次に、層流格子について説明すると、ハーゲン・ポアズイユの法則は、層流状態でのみ成り立つ法則である。層流から乱流への遷移点はレイノルズ数に関係があり、その遷移レイノルズ数を理論で求めることは困難である。よって、層流格子7を用いない場合でも、実験により層流状態であることが確認できた場所に圧力センサ2を設置すれば、本発明は実施できる。層流格子7を設ければ、オイル流通路1内のオイル流を確実に層流状態とすることができるので、本発明にとって好適である。
【0036】
次に、判定部が行う判定アルゴリズムを説明する。
【0037】
温度によっても粘度μが変化することは既に述べた。本発明の原理となる式(1)では温度に関する処理を省いたが、実際には必要であるので、図3の判定アルゴリズムでは温度も含めて処理を行う。
【0038】
図3に示されるように、ステップ31にて、判定部8は、エンジン回転計10からのエンジン回転数信号とオイル温度温度センサからのオイル温度信号を読み取る。ステップ32にて、判定部8は、エンジン回転数があらかじめ設定した判定回転数に等しいかどうか、及びオイル温度があらかじめ設定した判定温度に等しいかどうか調べる。両方とも真であれば、結果はYES(劣化判定をしてよい)なので、ステップ33に移行する。片方でも偽であれば、結果はNO(劣化判定をしてはいけない)なので、ステップ31に戻る。
【0039】
ステップ33では、判定部8は、圧電素子2aからのオイル圧力信号(電圧)を読み取る。ステップ34にて、判定部8は、その電圧が上限電圧(上限劣化判定圧力に相当)より高いかどうか調べる。結果がYES(電圧≧上限電圧)であれば、オイルの粘度が不足(低粘度)であると判定し、ステップ36へ移行する。ステップ34の結果がNOであれば、ステップ35にて、上記電圧が下限電圧(下限劣化判定圧力に相当)より低いかどうか調べる。結果がYES(電圧≦下限電圧)であれば、オイルの粘度が過剰(高粘度)であると判定し、ステップ36へ移行する。ステップ35の結果がNOであれば、オイルは劣化していない(適正粘度)と判定し、オイルの粘度ステップ31に戻る。
【0040】
ステップ36では、判定部8は、警告灯9を点灯させることにより、オイルが劣化したという判定を運転者に伝える。なお、図3の判定アルゴリズム及び図2の装置構成では、説明を簡単にするため、単にオイル劣化判定に基づいて警告灯を点灯させるだけとしたが、エンジン制御等の一般の車両制御においてオイル状態を制御要素のひとつとする場合、判定部8の判定結果が信号として利用に供されることは言うまでもない。
【0041】
以上説明したように、本発明に係るオイル劣化検知装置は、圧力センサ2を1個だけ設置すればよいので、装置構成が簡素にできる。また、圧電素子2aをオイル流通路1内に設置すれば、オイル流通路1に余分な測定管を付け加える必要がなくなり、装置構成がいっそう簡素にできる。
【0042】
さらに、オイル流通路1内の側壁に圧電素子2aを取り付け、その圧電素子2aの受圧面3をオイル流に側方から臨ませた構成によれば、圧電素子2aがオイル流の妨げにならないので好適である。なお、図1の形態では、圧電素子2aは受圧面3の反対面が側壁に接するようにして取り付けられているため、圧電素子2aが側壁から内方に圧電素子2aの厚み分だけ凸に出ているのでオイル流に対する抵抗が多少あるが、受圧面3の反対面を側壁の外に出し、受圧面3が側壁と同一面になるよう圧電素子2aを取り付けるとオイル流に対する抵抗を無くすることができる。
【0043】
また、従来技術と比較すると、特許文献5の構成では、オイル流の動圧を測定していることになる。動圧とは、流体の運動により発生するもの(いわゆる抵抗)であり、静圧とは、流体そのものが持っている圧力(大気圧のようなもの)である。つまり、管内流において、流れと直角な面の受ける圧力が動圧であり、流れと平行な面の受ける圧力が静圧である。本発明で測定するべき圧力は静圧であり、特許文献5の構成では静圧を測定することができない。
【0044】
また、本発明では、エンジン回転数があらかじめ設定した判定回転数に等しく、かつ、オイル温度があらかじめ設定した判定温度に等しいときに、劣化判定を行うようにしたので、圧力センサ2が1個だけであってもハーゲン・ポアズイユの法則を利用したオイル劣化判定(粘度の良否判定)をすることができる。なお、特許文献5においてもオイルポンプの回転数が特定した範囲内の値であり、温度が特定した温度範囲内であるときに鋼帯の歪み量を判断するようになっているが、オイルポンプの回転数を規定したのはオイル送出流量の多少による歪み量への影響を鑑みたもので、オイルポンプ出口の圧力が所定値であるという条件を与えるためのものではないし、オイルポンプの回転数を判断するにはオイルポンプから回転数を電気信号として取り出すための余分な部材が必要となる。
【0045】
また、本発明では、測定されたオイル圧力に対し下限劣化判定圧力と上限劣化判定圧力の両方を比較するようにしたので、スラッジの混入やオイルの熱分解による粘度の上昇についても、オイル中の粘度指数向上剤の剪断による粘度の低下についても異常を検知することができる。
【0046】
また、本発明では、オイルポンプの出口6に層流格子7を設けたので、オイル流通路1内のオイル流を確実に層流状態にしてハーゲン・ポアズイユの法則が成り立つことを保証し、オイル劣化判定の精度を高めることができる。
【0047】
次に、本発明のオイル劣化検知方式と他のオイル劣化検知方式とを複合したオイル劣化検知装置について、図4と図5を参照しつつ説明する。
【0048】
図1で既に説明したように、オイルポンプの下流側のオイル流通路1には圧力センサ2としての圧電素子2aが設置されている。本実施の形態では、これに加え、図4の構成を用いる。
【0049】
図4に示されるように、このオイル劣化検知装置では、オイルパン中の液面S下に送信コイル41と受信コイル42を設置してある。これらのコイル41,42は後述する金属粒子の検出に用いるものである。また、オイルパン中の液面S下にオイル温度センサ43を設置してある。これは図2で省略していたものである。さらに、オイルパン中の液面S下には送信電極44と受信電極45とを所定の距離離して設置してある。これらの電極44,45は後述するカーボンの検出に用いるものである。また、オイルパン中の液面S上にモータ46を設置し、そのモータ46の回転軸47を液面S下に浸漬させ、その回転軸47に攪拌板48を取り付けてある。このモータ46と攪拌板48とからなる攪拌器49は後述する粘度変化の検出に用いるものである。これらの部材は図示しない信号線で図示しない判定部に接続されている。
【0050】
図5には、判定部内に組み込まれる回路と図1、図4で説明したセンサ系の各部材とが一緒に示されている。すなわち、判定部には、送信コイル41をインダクタとして使用したLC発振器51が設けられている。発振周波数や電圧は実験により適宜に定めるものとする。判定部には、受信コイル42に接続された全波整流器52と、その全波整流器52の出力から高周波を取り除くLCフィルタ53と、そのLCフィルタ53から出力される受信信号をしきい値電圧Vtと比較する演算増幅器54とが設けられている。
【0051】
判定部には、圧電素子2aの出力を上限しきい値電圧Vuと比較する演算増幅器55と、圧電素子2aの出力を下限しきい値電圧Vtと比較する演算増幅器56と、これら2つの演算増幅器55,56の出力を論理和するOR素子57と、このOR素子57の出力とオイル温度センサの出力に基づくオイル温度信号とエンジン回転計の出力に基づくエンジン回転数信号とを論理積するAND素子58と、このAND素子58の出力でゲートを開閉するスイッチングダイオード(サイリスタ)59とが設けられている。ただし、この図におけるオイル温度信号はオイル温度に比例する信号ではなく、オイル温度があらかじめ設定した判定温度に等しいという事象を論理“1”で表す信号である。また、エンジン回転数信号はエンジン回転数に比例する信号ではなく、エンジン回転数があらかじめ設定した判定回転数に等しいという事象を論理“1”で表す信号である。
【0052】
判定部には、送信電極44と受信電極45との間に挟まれたオイルに表れる電気抵抗(以下、オイル抵抗という)に直列接続された内部抵抗60と、これらオイル抵抗と内部抵抗60とにより分圧された電圧(以下、オイル抵抗測定電圧という)をしきい値電圧Vtと比較する演算増幅器61とが設けられている。
【0053】
また、判定部には、3つの演算増幅器54,56,61に共通するしきい値電圧Vtを設定するための可変抵抗62と、この可変抵抗62に直列接続されて演算増幅器55に上限しきい値電圧Vuを提供する第一抵抗63及び第二抵抗64が電源65と接地との間に設けられている。3つの演算増幅器54,56,61に対するしきい値電圧をそれぞれ個別に設定できるように可変抵抗を増やしてもよい。
【0054】
そして、判定部には、演算増幅器54の出力と、演算増幅器61の出力と、スイッチングダイオード59のカソード出力とを論理和して警告灯9を点灯するOR素子66が設けられている。
【0055】
以下、検出内容別に図5の回路の動作を説明する。
【0056】
(1)金属粒子の含有量の検出と判定
まず、LC発振器51が発振することにより、送信コイル41よりオイル中に電磁波が放射され、受信コイル42には誘導による電流が生じる。その電流が全波整流器52で整流され、LCフィルタ53で高周波を取り除かれると、オイル中を伝搬して到着した電磁波エネルギに比例した直流の受信信号が演算増幅器54に入力される。ここで、オイルの劣化が進み含有される金属粒子が多くなると、オイルの透磁率が大きくなり、送信コイル41から受信コイル42へ伝搬する磁力が増大することにより、受信コイル42に誘起される起電力が大きくなる。従って、オイルが劣化してくると、受信コイル42に誘起された交流電圧が全波整流器52とLCフィルタ53を通して受信信号として演算増幅器54に入力されると、その受信信号は電圧が増加する。演算増幅器54では、受信信号の電圧がしきい値電圧Vtよりも高くなると、論理“1”を出力する。この論理“1”がOR素子に入力される。
【0057】
(2)カーボンの含有量の検出と判定
演算増幅器61には、送信電極44と受信電極45との間に挟まれたオイル抵抗と内部抵抗60とにより分圧されたオイル抵抗測定電圧が入力されている。ここで、オイルの劣化が進み含有されるカーボンが多くなると、オイル抵抗が減少するので、オイル抵抗測定電圧は上昇する。演算増幅器61では、オイル抵抗測定電圧がしきい値電圧Vtよりも高くなると、論理“1”を出力する。この論理“1”がOR素子に入力される。
【0058】
(3)攪拌式による粘度の検出と判定
この項目に関する回路は図6に示す。図6は、図5の回路から圧電素子2aを除外して代わりに、図4の攪拌器49のモータ46を回路に組み込んだものである。モータ46には直列抵抗67を介して電源65からの電源電圧が印加されている。そして、図5の回路で圧電素子2aの出力を判定するのに用いた演算増幅器55,56をモータ46の電力を判定するのに用いる。
【0059】
ここで、オイルの劣化が進み粘度が変化すると、モータ46の負荷が変化するので、モータ46に流れる電流が変化する。この電流の変化は直列抵抗67に電圧降下として表れる。すなわち、粘度が高くなるとモータ46の負荷が重くなり、回転数が落ちて電流が増加するので、直列抵抗67の電圧降下は大きくなる。逆に、粘度が低くなるとモータ46の負荷が軽くなり、回転数が上がって電流が減少するので直列抵抗67の電圧降下は小さくなる。つまり、モータ46の負荷が大きくなると、モータ46の実質的な抵抗が小さくなるという性質を利用して年度の変化を検知することができる。そこで、直列抵抗から取り出される電圧降下信号を2つの演算増幅器に入力し、それぞれ下限しきい値と上限しきい値とを設定しておく。これら2つの演算増幅器の動作は、次に述べる圧力検出による劣化の判定におけるものと同等なのでここでは説明を省略する。
【0060】
(4)圧力による判定
これについては、図1〜図3の形態において説明したことなので、図5の回路上での動作だけ述べる。オイル温度があらかじめ設定した判定温度に等しく、かつ、エンジン回転数があらかじめ設定した判定回転数に等しいとき、オイル温度信号が論理“1”、かつ、エンジン回転数信号が論理“1”であるから、AND素子58はOR素子57の出力と同じ値の論理を出力するようになっている。ここで、オイルが高粘度に劣化すると、圧電素子2aの出力が低下して下限しきい値電圧Vtより低くなる。よって、演算増幅器56が論理“1”を出力するので、OR素子57が論理“1”を出力し、AND素子58も論理“1”を出力することになる。一方、オイルが低粘度に劣化すると、圧電素子2aの出力が上昇して上限しきい値電圧Vuより高くなる。よって、演算増幅器55が論理“1”を出力するので、OR素子57が論理“1”を出力し、AND素子58も論理“1”を出力することになる。このように、高粘度でも低粘度でもオイルが劣化すると、AND素子58が論理“1”を出力する。これにより、スイッチングダイオード59のゲートが開いて電源電圧(論理“1”に相当する)がOR素子66に入力される。
【0061】
オイル温度があらかじめ設定した判定温度に等しくないか、又は、エンジン回転数があらかじめ設定した判定回転数に等しくないとき、オイル温度信号又はエンジン回転数信号が論理“0”となるので、AND素子58はOR素子57の出力に関係なく論理“0”を出力する。つまり、圧力によるオイル劣化の判定はペンディングとなる。
【0062】
(5)総合判定による警告
上述したように、(1)〜(4)の判定結果である信号が全てOR素子66に入力されている。ただし、(3)に対応する回路は図5では省略されている。これらの判定結果の信号が全て論理“0”であればOR素子66の出力は論理“0”となり、警告灯9は点灯しない。しかし、これらの判定結果の信号のうちいずれか一つでも論理“1”であれば、OR素子66の出力は論理“1”となり、警告灯9が点灯する。つまり、(1)〜(4)の判定の中に一つでもオイルが劣化したという判定があれば警告灯9が点灯することになる。
【0063】
なお、図5の回路における各部材のリアクタンス、抵抗値、定格値、寸法、配置間隔などの諸数値は実験により適宜な値を決定しておくことができる。また、オイルは銘柄により透磁率、抵抗値、粘度などの性状が異なるので、上記数値は違ったものになる。従って、各部材の諸数値を決定する際に用いた銘柄又は性状でもってオイル劣化検知装置が正確に働くことができる銘柄を指定しておくとよい。
【実施例1】
【0064】
市販されているエンジンオイルの粘度を測定したところ5×10-6(Pa・s)であった。このエンジンオイルを排気量2000cm3クラスのエンジンを中負荷で運転したときの標準的なオイル流量10cm3/minで直径5mmのオイル流通路に流し、オイルポンプ出口の下流10cmに設置した圧力センサで測定した圧力は約0.2気圧であった。この圧力は圧電センサ等の車載可能な圧力センサで十分測定可能な圧力である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態を示すオイル劣化検知装置の圧力センサ配置図である。
【図2】本発明の一実施形態を示すオイル劣化検知装置の実体配線図である。
【図3】本発明におけるオイル劣化判定の手順図である。
【図4】本発明の他の実施形態を示すオイル劣化検知装置のセンサ配置図である。
【図5】本発明の他の実施形態を示すオイル劣化検知装置の回路図である。
【図6】本発明の他の実施形態を示すオイル劣化検知装置の回路図である。
【符号の説明】
【0066】
1 オイル流通路
2 圧力センサ
3 受圧面
5 オイルポンプ
6 オイルポンプ出口
7 層流格子
8 判定部
9 警告灯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにオイルを循環させるオイルポンプのオイル流通路に圧力センサを設け、その圧力センサで測定される静圧をあらかじめ設定した劣化判定圧力と比較してオイルが劣化したことを判定する判定部を設けたことを特徴とするオイル劣化検知装置。
【請求項2】
上記判定部は、エンジン回転数があらかじめ設定した判定回転数に等しいときに、上記劣化判定を行うことを特徴とする請求項1記載のオイル劣化検知装置。
【請求項3】
上記判定部は、オイル温度があらかじめ設定した判定温度に等しいときに、上記劣化判定を行うことを特徴とする請求項1又は2記載のオイル劣化検知装置。
【請求項4】
上記判定部は、上記オイル圧力が下限劣化判定圧力より低いときオイルの粘度が過剰であると判定し、上記オイル圧力が上限劣化判定圧力より高いときオイルの粘度が不足であると判定することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のオイル劣化検知装置。
【請求項5】
上記圧力センサは、上記オイル流通路内の側壁に圧電素子を取り付け、その圧電素子の受圧面をオイル流に側方から臨ませたものであることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のオイル劣化検知装置。
【請求項6】
上記オイルポンプの出口に、上記オイル流通路内のオイル流を層流状態にするための層流格子を設けたことを特徴とする請求項1〜5いずれか記載のオイル劣化検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−97496(P2006−97496A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282106(P2004−282106)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】