説明

オフセット工具によるワークの加工方法

【課題】 工具に加わる切削負荷を最小限に抑えながら、波型形状の輪郭を含む溝を精度良く加工できるようにする。
【解決手段】 ワークDのY軸方向に延びる溝Daを、その仕上げ形状L1に対して所定のオフセット量だけ縮小方向にオフセットした形状L3の断面を有してZ軸と平行な回転軸まわりに回転するオフセット工具Tを用いて仕上げ加工する。オフセット工具TをX−Z平面内で初期位置を中心として前記オフセット量を半径とする仮想円Cの円周上を所定距離だけ相対移動させる切込み工程を行う度に、オフセット工具TをY軸方向に相対移動させながら溝Daの全長に亘って切削する切削工程を繰り返し行う。ワークDの溝Daの広い領域を一度に切削する総形工具に比べてオフセット工具Tが受ける荷重を低く抑えることができるので、オフセット工具Tの耐久性を高めるとともに加工面の仕上げ精度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波型形状の輪郭を含む一定の断面を有してY軸方向に延びる溝を、前記波型形状に対して所定のオフセット量だけ縮小方向にオフセットした形状の断面を有してY軸に直交するZ軸と平行な回転軸まわりに回転するオフセット工具を用いて、前記溝に対して所定の加工代を有するように粗加工されたワークに仕上げ加工するオフセット工具によるワークの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タービンディスクの外周溝にタービン動翼の根本部を組み付けるために、タービン動翼の根本部の円弧根溝を加工する加工方法が、下記特許文献1により公知である。特許文献1に記載されたものは、粗加工後の円弧根溝の切削仕上げ表面を4分割し、切削工具を2往復して切削仕上げを加工行うものであり、切削工具の2往復に含まれる4つの工程において各々異なる切込み方向で仕上げ加工を行うことで、切削振動を小さくして加工精度や加工速度の向上を図っている。
【0003】
またタービン軸の外周にタービン翼脚を収容するための断面クリスマスツリー状溝をフライス加工する方法が、下記特許文献2により公知である。特許文献2に記載されたものは、3回の粗加工工程で段階的に狭まっている断面クリスマスツリー状溝を予備形状にフライス加工した後に、仕上げ加工工程の1回の工具通過で断面クリスマスツリー状溝を仕上げ加工するようになっている。
【0004】
またタービンロータにクリスマスツリー形横断面を有する円弧状のロータ溝を加工する方法と、その加工を行うための沈めフライスとが、下記特許文献3により公知である。特許文献3に記載されたものは、タービンロータに円弧状のロータ溝を粗加工した後に、吊鐘形の沈めフライスに直線的な側方運動を行わせて前記ロータ溝を仕上げ加工するようになっている。
【0005】
またロータの外周にタービン翼装着用の翼溝を加工する翼溝加工用のカッターが、下記特許文献4により公知である。特許文献4に記載されたものは、クリスマスツリー形状の翼溝に対応して複数段に亘って形成される刃部を有しており、刃部のすくい角を前段(先端部)および後段(根本)部に向けて段階的に増大させている。
【特許文献1】特開平6−270006号公報
【特許文献2】特表2004−507369号公報
【特許文献3】特開平9−234617号公報
【特許文献4】特許第3364168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記特許文献1〜4に記載された発明の工具はいわゆる総形工具であり、その形状がワークの最終仕上げ形状に一致している。このような総形工具では、その切削刃の全域が常に切削に寄与しているので切削抵抗が大きくなり、加工装置や工具の剛性を高める必要がある。また工具をワークの被加工溝の壁面に向かって移動させる「送り」を行う場合、被加工溝の溝幅が狭い部分を加工する工具の直径は、前記溝幅よりも送り量に相当する分だけ細くなるため、寸法の小さい被加工溝を加工する場合に工具の剛性が不足する問題がある。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、工具に加わる切削負荷を最小限に抑えながら、波型形状の輪郭を含む溝を精度良く加工できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、波型形状の輪郭を含む一定の断面を有してY軸方向に延びる溝を、前記波型形状に対して所定のオフセット量だけ縮小方向にオフセットした形状の断面を有してY軸に直交するZ軸と平行な回転軸まわりに回転するオフセット工具を用いて、前記溝に対して所定の加工代を有するように粗加工されたワークに仕上げ加工するオフセット工具によるワークの加工方法であって、オフセット工具をワークに対してY軸に直交するX−Z平面内で初期位置から任意の方向に前記オフセット量だけ相対移動させる送り工程と、オフセット工具をワークに対してY軸方向に相対移動させながら溝の全長に亘って前記加工代を切削する第1切削工程と、オフセット工具をワークに対してX−Z平面内で前記初期位置を中心として前記オフセット量を半径とする円周上を所定距離だけ相対移動させる切込み工程と、オフセット工具をワークに対してY軸方向に相対移動させながら溝の全長に亘って前記加工代を切削する第2切削工程とを含み、前記切込み工程および前記第2切削工程を複数回繰り返すことを特徴とするオフセット工具によるワークの加工方法が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記送り工程および前記第1切削工程を複数回繰り返すことで、オフセット工具をワークに対してY軸に直交するX−Z平面内で初期位置から任意の方向に前記オフセット量だけ相対移動させることを特徴とするオフセット工具によるワークの加工方法が提案される。
【0010】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、オフセット工具がワークに対してY軸方向の一方に相対移動するときと、Y軸方向の他方に相対移動するときとの両方で、前記第2切削工程を行うことを特徴とする、請求項1に記載のオフセット工具によるワークの加工方法が提案される。
【0011】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項3の構成に加えて、ワークの溝はクリスマスツリーの形状を有する翼取付溝であることを特徴とするオフセット工具によるワークの加工方法が提案される。
【0012】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、オフセット工具を支持してZ軸方向に移動可能な主軸ヘッドと、ワークを支持してX軸方向に移動可能な割り出し盤とを相互に同期させて移動させることで、オフセット工具をワークに対してX−Z平面内で相対移動させることを特徴とするオフセット工具によるワークの加工方法が提案される。
【0013】
また請求項6に記載された発明によれば、請求項5の構成に加えて、ワークは外周部に複数の溝を放射状に備える円板状の部材であり、Y軸と平行な軸線まわりに回転可能に割り出し盤に支持されることを特徴とするオフセット工具によるワークの加工方法が提案される。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の構成によれば、オフセット工具をワークに対してY軸に直交するX−Z平面内で初期位置から任意の方向にオフセット量だけ相対移動させる送り工程と、オフセット工具をワークに対してY軸方向に相対移動させながら溝の全長に亘って加工代を切削する第1切削工程と、オフセット工具をワークに対してX−Z平面内で初期位置を中心として前記オフセット量を半径とする円周上を所定距離だけ相対移動させる切込み工程と、オフセット工具をワークに対してY軸方向に相対移動させながら溝の全長に亘って加工代を切削する第2切削工程とを行うので、1回の第1切削工程あるいは1回の第2切削工程でワークの溝の加工代の一部だけを切削することになり、ワークの溝の広い領域を一度に切削する総形工具に比べて工具が受ける荷重を低く抑えることができる。これによりオフセット工具の耐久性を高めるとともに加工精度や加工面の仕上げ精度を高めることができ、しかも強度が低下しやすい小型のオフセット工具を使用することが可能になるため、総形工具では難しい小さい溝であっても加工することができる。
【0015】
請求項2の構成によれば、オフセット工具をワークに対してY軸に直交するX−Z平面内で初期位置から任意の方向に前記オフセット量だけ相対移動させる際に、送り工程および第1切削工程を複数回繰り返すので、ワークの切削量が大きくなる第1切削工程を複数回に分割してオフセット工具が受ける切削負荷を軽減することができる。
【0016】
請求項3の構成によれば、オフセット工具はワークに対してY軸方向の一方に相対移動するときと他方に相対移動するときとの両方で切削を行うので、オフセット工具の相対移動距離を最小限に抑えてワークの溝を短時間で加工することができる。
【0017】
請求項4の構成によれば、ワークの溝はクリスマスツリーの形状を有する翼取付溝であるので、加工精度が向上することによって例えば遠心力が加わってもワークや翼に応力を集中させないで取り付けることができる。
【0018】
請求項5の構成によれば、オフセット工具を支持してZ軸方向に移動可能な主軸ヘッドと、ワークを支持してX軸方向に移動可能な割り出し盤とを相互に同期させて移動させるので、オフセット工具をワークに対してX−Z平面内で自由に相対移動させることができる。
【0019】
また請求項6の構成によれば、円板状のワークをY軸と平行な軸線まわりに回転可能に割り出し盤に支持したので、円板状のワークの外周面に放射状をなす複数の溝を効率よく加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0021】
図1〜図7は本発明の第1実施例を示すもので、図1はタービンディスクに対するタービンブレードの取付部の斜視図、図2はタービンディスクおよびオフセット工具の斜視図、図3はタービンディスクの溝を切削加工するためのマシニングセンタの斜視図、図4はタービンディスクの溝およびオフセット工具の形状を示す図、図5はオフセット工具の基準点を仮想円の第1象限内で移動させたときの作用説明図、図6はオフセット工具の基準点を仮想円の第4象限内で移動させたときの作用説明図、図7はオフセット工具の移動経路を示す模式図である。
【0022】
図1はガスタービンエンジンのタービンディスクDの外周部に多数のタービンブレードBを放射状に取り付けた状態を示すもので、各々のタービンブレードBはその基端の取付部BaをタービンディスクDの溝Daに係合させることで、運転時に作用する強い遠心力に耐えるように強固に支持される。タービンディスクDの溝DaおよびタービンブレードBの取付部の形状は、樅の木の形状に似ていることからクリスマスツリーと呼ばれる。
【0023】
図2に示すように、X−Z平面内に配置されたタービンディスクDの外周部にはクリスマスツリーの形状を有する溝Da…が円周方向に等間隔でY軸方向に形成されており、それらの溝DaはZ軸に平行な回転軸まわりに回転するオフセット工具Tにより加工される。
【0024】
図3に示すように、タービンディスクDの溝Da…を切削加工するための汎用のマシニングセンタMCは、ベーステーブル11上に相互に直交するX軸およびY軸方向に移動自在に支持されたスライドテーブル12と、ベーステーブル11上にZ軸方向に移動自在に支持された主軸ヘッド13と、スライドテーブル12上に支持された割り出し盤14とを備える。割り出し盤14に設けた治具15に支持されたタービンディスクDは、Y軸と平行な軸線回りに所定角度ずつ回転可能である。主軸ヘッド13にはモータ16で駆動される主軸がZ軸方向に設けられており、主軸の軸線上にチャック17を介してオフセット工具Tが取り付けられる。
【0025】
従って、割り出し盤14のX軸方向の移動と主軸ヘッド13のZ軸方向の移動とを同期させることで、タービンディスクDに対してオフセット工具TをX−Z平面内で相対移動させることができ、また割り出し盤14をY軸方向に移動させることで、タービンディスクDに対してオフセット工具TをY軸方向に相対移動させることができる。
【0026】
図4におけるラインL1はタービンディスクDの溝Daの仕上げ形状であって、その溝DaはタービンディスクDの径方向に延びる対称面Pに関して左右対称な波形の輪郭を有している。ラインL2は溝Daを仕上げ加工する前の粗仕上げ形状であって、ラインL1とラインL2との間がオフセット工具Tにより切削される加工代となる。本実施例では、加工代の幅は約0.15mmとされる。加工代を有する溝Daは、それほど高い表面精度が要求されないため、例えば放電加工により加工される。
【0027】
ラインL3はオフセット工具Tの外形を示すものであり、溝Daの仕上げ形状のラインL1に対して、オフセット工具Tの外形のラインL3は所定のオフセット量oだけオフセットされている。本実施例では、オフセット量oは0.30mmとされる。溝Daの仕上げ形状のラインL1に沿ってオフセット量oを半径とする円を転がしたとき、その円の中心が通る軌跡がオフセット工具Tの外形のラインL3となる。
【0028】
オフセット工具Tの外形のラインL3が溝Daの仕上げ形状のラインL1に対して均等な距離(つまりオフセット量o)だけ離れているとき、オフセット工具Tは基準位置にあるという。このとき、オフセット工具Tの基準点OtはタービンディスクDの基準点Odに一致している。符号Cは、タービンディスクDの基準点Odを中心とし、オフセット量oを半径とする仮想円である。オフセット工具Tを任意の方向(例えば、X軸方向)に平行移動させ、オフセット工具Tの基準点Otを仮想円C上に位置させると、オフセット工具Tの外形のラインL3上の複数点が、溝Daの仕上げ形状のラインL1上の複数点に重なり合う。そしてオフセット工具Tの移動方向を任意に変化させ、オフセット工具Tの基準点Otを仮想円C上の他の任意の位置させると、オフセット工具Tの外形のラインL3上の異なる複数点が、溝Daの仕上げ形状のラインL1上の異なる複数点に重なり合うことになる。
【0029】
従って、オフセット工具Tの基準点Otが仮想円C上を360°に亘って移動するように該オフセット工具TをX−Z平面内で平行移動させれば、溝Daの仕上げ形状のラインL1の全ての位置に、オフセット工具Tの外形のラインL3の一部が必ず一度は接触することになる。この原理を用いて、オフセット工具Tにより溝Daのすべての部分を仕上げ形状のラインL1まで精度良く切削することができる。
【0030】
ここで用語の定義をすると、オフセット工具TをタービンディスクDに対して、基準点OtがタービンディスクDの基準点Odに一致している状態(基準位置)から、オフセット工具Tの基準点Otを仮想円C上の任意の位置までZ−X平面上で相対移動させることを「送り」という。またオフセット工具TをタービンディスクDに対して、基準点Otが仮想円Cに沿って移動するようにZ−X平面上で相対移動させることを「切込み」という。またオフセット工具Tで溝Daの加工代を切削すべく、タービンディスクDに対してオフセット工具TをY軸方向に相対移動させることを「切削」という。
【0031】
次に、上記構成を備えた本発明の実施例の作用について説明する。
【0032】
オフセット工具TをタービンディスクDに対してX−Z平面内で移動させる「送り」あるいは「切込み」は、オフセット工具Tを支持する主軸ヘッド13のZ軸方向の移動と、タービンディスクDを支持するスライドテーブル14のX軸方向の移動とを相互に同期して制御することで可能である。またオフセット工具TをタービンディスクDに対してY軸方向に相対移動させる「切削」は、割り出し盤14をスライドテーブル12と一体にY軸方向に移動させることで可能である。更に、タービンディスクDの複数の溝Daのうち、加工すべき溝Daを所定の加工位置に位置決めする「割り出し」は、割り出し盤14の治具15に保持したタービンディスクDをY軸に平行な軸線回りに所定角度ずつ回転させることで可能である。
【0033】
タービンディスクDの溝Daの加工を開始する前の状態では、図4に示すように、オフセット工具Tは、その外形のラインL3が溝Daの仕上げ形状のラインL1に対して均等な距離(つまりオフセット量o)だけ離れた基準位置にある。この状態から、図5に示すように、オフセット工具の基準点OtをX−Z平面内の任意の方向(実施例ではX軸方向)にオフセット量oだけ移動させ、前記基準点Otが仮想円C上のa点に一致するように、オフセット工具Tの「送り」を行う。「送り」はオフセット工具TがタービンディスクDの端面からY軸方向に外れた位置で行われるため、オフセット工具Tが溝Daを切削することはない。「送り」によって、オフセット工具Tの外形のラインL3が、Y軸方向に見て溝Daの仕上げ形状のラインL1に複数点において重なり合う。
【0034】
続いてオフセット工具TをY軸方向に移動させて溝Daの加工代を「切削」することで、前記複数点において仕上げ形状のラインL1が仕上げられる。実際には、上記「切削」で除去される加工代は厚さが0.15mmもあって極めて厚いため、1回の「送り」で切削するのは困難である。そこで前記「送り」を例えば0.05mmピッチで複数回に分割し、その都度Y軸方向の「切削」を行うことで、オフセット工具Tが受ける切削荷重を低減するとともに、仕上げ精度を高めることができる。
【0035】
上述のようにして、「送り」による「切削」が完了すると、オフセット工具Tの基準点OtをX−Z平面内の仮想円C上で反時計方向にa点からb点まで1ピッチ(例えば0.05mm)分だけ移動させる「切込み」を行った後、オフセット工具TをY軸方向に移動させて溝Daの仕上げ代を0.05mm分だけ「切削」することで、前記複数点に隣接する位置で仕上げ形状のラインL1が仕上げられる。
【0036】
しかして、上記「切込み」および「送り」を、オフセット工具の基準点OtをX−Z平面内の仮想円Cの第1象限上でa点→b点→c点→d点→e点の順番に反時計方向に1ピッチずつ移動させながら複数回繰り返すことにより、仕上げ形状のラインL1のうちの4分の1が仕上げられる。また図6に示すように、上記「切込み」および「送り」を、オフセット工具の基準点OtをX−Z平面上の仮想円Cの第4象限上でm点→n点→o点→p点→a点の順番に時計方向に1ピッチずつ移動させながら複数回繰り返すことにより、仕上げ形状のラインL1のうちの別の4分の1が仕上げられる。従って、上記「切込み」および「送り」を、オフセット工具の基準点OtをX−Z平面内の仮想円Cの全域に亘って1ピッチずつ移動させながら複数回繰り返すことにより、仕上げ形状のラインL1の全体が仕上げられる。
【0037】
図7はオフセット工具Tを移動させる経路を示すものである。先ず、オフセット工具Tの基準点OtをX−Z平面内でタービンディスクDの基準点Odから仮想円C上のa点まで移動させる「送り」を行い、続いてオフセット工具Tの基準点OtをY軸方向にa′点まで移動させる「切削」を行う。この「送り」に伴う「切削」は切削負荷が大きいため、前述したように、実際には「送り」が複数回に分割して行われ、その都度対応する「切削」が行われる。
【0038】
続いて、オフセット工具Tの基準点Otを仮想円C上で1ピッチずつ移動させる「切込み」を行いながら、それに対応する「切削」を行うことで、タービンディスクDの溝Daの仕上げ加工を行う。このとき、オフセット工具Tの往路と復路の両方で「切削」が行われる。即ち、オフセット工具Tの基準点Otは、a点→a′点→b′点→b点→c点→c′点→d′点→d点→e点→e′点→f点→g点→g′点→h′点→h点→i点→i′点→j′点→k点→k′点→l′点→l点→m点→m′点→n′点→n点→o点→o′点→p′点→p点の経路で移動する。上記各工程のうち、X−Z平面内の仮想円C上の移動が「切込み」に相当し、Y軸方向の移動が「切削」に対応する。
【0039】
図9は、仕上げ形状のラインL1を有する溝Daを、外形のラインL3′を有する総形工具T′を用いて切削する比較例を示すものである。この場合、溝Daの仕上げ形状のラインL1と総形工具T′の外形のラインL3′とは、平行移動によって重なる同一形状となる。しかして、総形工具T′を矢印A方向に移動させて溝Daの一方の輪郭の全域を切削し、総形工具T′を矢印B方向に移動させて溝Daの他方の輪郭の全域を切削する。
【0040】
このように、総形工具T′では溝Daの一方あるいは他方の輪郭の全域を同時に切削するために切削負荷が大きくなり、加工装置や総形工具T′の剛性を高める必要がある。しかも溝Daの幅が最も狭くなる部分で、対応する総形工具T′の直径W′が細くなる問題がある。溝Daの寸法が大きい場合には前記直径W′をある程度確保することが可能であるが、溝Daの寸法が小さい場合には前記直径W′が小さくなり、その部分で総形工具T′が破損する可能もある。
【0041】
それに対して、図4に示す本実施例のオフセット工具Tは、タービンディスクDの溝Daの幅が最も狭くなる部分に対応する直径Wが、総形工具T′の直径W′(図9参照)に比べて大きくなるため、小さい溝Daを加工するためのオフセット工具Tを小型化した場合でも、その破損を防止することができる。
【0042】
以上のように、本実施例によれば、オフセット工具Tを仮想円Cに沿って所定ピッチずつ移動させる度に、オフセット工具TをY軸方向に移動させて溝Daの加工代の一部だけを切削するので、溝Daの広い領域を一度に切削する総形工具に比べてオフセット工具Tが受ける荷重を低く抑えることができる。これによりオフセット工具Tの耐久性を高めるとともに溝Daの加工面の仕上げ精度を高めることができる。しかも強度が低下しやすい小型のオフセット工具Tを使用することが可能になるため、総形工具では難しい小さい溝Daであっても加工することができる。
【0043】
次に、図8に基づいて本発明の第2実施例を説明する。
【0044】
第2実施例は、オフセット工具Tの移動経路が、図7に示す第1実施例の移動経路と異なっている。この第2実施例では、オフセット工具Tの基準点Otを仮想円Cの第1象限および第2象限内で左右対称に移動させて溝Daの上半分を左右対称に仕上げ加工し、更にオフセット工具Tの基準点Otを仮想円Cの第4象限および第3象限内で左右対称に移動させて溝Daの下半分を左右対称に仕上げ加工する。
【0045】
具体的には、溝Daの上半分を左右対称に仕上げ加工する場合には、オフセット工具Tの基準点OtをX−Z平面内でタービンディスクDの基準点Odから仮想円C上のa点まで移動させた後に、前記基準点Otを、a点→a′点→i′点→i点→b点→b′点→h′点→h点→c点→c′点→g′点→g点→d点→d′点→f′点→f点→e点→e′点の経路で移動させる。
【0046】
また溝Daの下半分を左右対称に仕上げ加工する場合には、オフセット工具Tの基準点OtをX−Z平面内でタービンディスクDの基準点Odから仮想円C上のp点まで移動させた後に、前記基準点Otを、p点→p′点→j′点→j点→o点→o′点→k′点→k点→n点→n′点→l′点→l点→m点→m′点の経路で移動させる。
【0047】
この第2実施例では仮想円Cの各象限内で基準点Otが移動するとき、オフセット工具Tは常にY軸方向の同方向に移動しながら切削を行うことになる。本実施例の場合、第1象限および第4象限では、オフセット工具Tは図8の手前側から向こう側に移動しながら切削を行い、第2象限および第3象限では、オフセット工具Tは図8の向こう側から手前側に移動しながら切削を行うことになる。
【0048】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0049】
例えば、実施例ではタービンディスクDにタービンブレードBを取り付けるための溝Daの加工について説明したが、本発明はタービンディスクD以外の任意のワークの加工に対して適用することができる。
【0050】
またオフセット工具Tの移動経路は第1、第2実施例に限定されるものではないが、オフセット工具Tの移動距離を最小限に抑えて加工時間を短縮するには、Y軸方向の移動の往路および復路の両方で「切削」を行うことが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】タービンディスクに対するタービンブレードの取付部の斜視図
【図2】タービンディスクおよびオフセット工具の斜視図
【図3】タービンディスクの溝を切削加工するための汎用のマシニングセンタの斜視図
【図4】タービンディスクの溝およびオフセット工具の形状を示す図
【図5】オフセット工具の基準点を仮想円の第1象限内で移動させたときの作用説明図
【図6】オフセット工具の基準点を仮想円の第4象限内で移動させたときの作用説明図
【図7】オフセット工具の移動経路を示す模式図
【図8】第2実施例に係るオフセット工具の移動経路を示す模式図
【図9】タービンディスクの溝および総形工具の形状を示す図
【符号の説明】
【0052】
D タービンディスク
Da 溝
o オフセット量
T オフセット工具
13 主軸ヘッド
14 割り出し盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波型形状の輪郭を含む一定の断面を有してY軸方向に延びる溝(Da)を、前記波型形状に対して所定のオフセット量(o)だけ縮小方向にオフセットした形状の断面を有してY軸に直交するZ軸と平行な回転軸まわりに回転するオフセット工具(T)を用いて、前記溝(Da)に対して所定の加工代を有するように粗加工されたワーク(D)に仕上げ加工するオフセット工具によるワークの加工方法であって、
オフセット工具(T)をワーク(D)に対してY軸に直交するX−Z平面内で初期位置から任意の方向に前記オフセット量(o)だけ相対移動させる送り工程と、
オフセット工具(T)をワーク(D)に対してY軸方向に相対移動させながら溝(Da)の全長に亘って前記加工代を切削する第1切削工程と、
オフセット工具(T)をワーク(D)に対してX−Z平面内で前記初期位置を中心として前記オフセット量(o)を半径とする円周上を所定距離だけ相対移動させる切込み工程と、
オフセット工具(T)をワーク(D)に対してY軸方向に相対移動させながら溝(Da)の全長に亘って前記加工代を切削する第2切削工程と、
を含み、
前記切込み工程および前記第2切削工程を複数回繰り返すことを特徴とするオフセット工具によるワークの加工方法。
【請求項2】
前記送り工程および前記第1切削工程を複数回繰り返すことで、オフセット工具(T)をワーク(D)に対してY軸に直交するX−Z平面内で初期位置から任意の方向に前記オフセット量(o)だけ相対移動させることを特徴とする、請求項1に記載のオフセット工具によるワークの加工方法。
【請求項3】
オフセット工具(T)がワーク(D)に対してY軸方向の一方に相対移動するときと、Y軸方向の他方に相対移動するときとの両方で、前記第2切削工程を行うことを特徴とする、請求項1に記載のオフセット工具によるワークの加工方法。
【請求項4】
ワーク(D)の溝(Da)はクリスマスツリーの形状を有する翼取付溝であることを特徴とする、請求項3に記載のオフセット工具によるワークの加工方法。
【請求項5】
オフセット工具(T)を支持してZ軸方向に移動可能な主軸ヘッド(13)と、ワーク(D)を支持してX軸方向に移動可能な割り出し盤(14)とを相互に同期させて移動させることで、オフセット工具(T)をワーク(D)に対してX−Z平面内で相対移動させることを特徴とする、請求項1に記載のオフセット工具によるワークの加工方法。
【請求項6】
ワーク(D)は外周部に複数の溝(Da)を放射状に備える円板状の部材であり、Y軸と平行な軸線まわりに回転可能に割り出し盤(14)に支持されることを特徴とする、請求項5に記載のオフセット工具によるワークの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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