説明

オートバイ乗りのためのエアーバッグシステム

【解決手段】その収縮状態にある休止態様から、その膨張状態にある動作態様へと膨らむことができる膨張可能な保護具と、この保護具を膨張させることができる膨張手段と、事故および/または危険信号が衣料に組み込まれたセンサーによって検出された場合に前記膨張手段を作動させることができる電子制御装置とを具えた衣料。動作態様へと作動した後の膨張可能な保護具は、詰め直しまたは組み直しする必要なく休止態様へと自動的に戻ることができ、膨張手段は再充填する必要性なく保護具を2回以上膨張させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の身体を通常の気象条件(風や雨など)から保護することに加え、膨張可能な保護具とも組み合わせられる衣料に関する。
【背景技術】
【0002】
オートバイに乗ることは、高速性およびライダーが事故に遭遇した時に衣料が与えることのできる限られた保護のため、付加的な危険性を持ったスポーツとしてずっと認識されている。何年もの間、オートバイの衣料デザイナーは、多層の堅い詰め物を通常は必要とする激しい衝撃に対して充分な保護を与える必要性と、より軽量かつ可能な限り柔軟である一着の衣料を着用することへの要求とのバランスを取ろうとしてきた。
【0003】
従って、膨張可能なプロテクター(一般に「エアーバッグ」と呼称される)を装備または組み合わせた衣料品が創案されている。保護が要求されない場合、収縮チャンバーは薄く柔軟であるが、事故が発生した場合、このチャンバーが膨張し、従って激しい衝撃からエネルギーを吸収することができる。文献1,文献2,文献3,文献4は、数年間に亙って提案された膨張可能なシステムのいくつかの例を示す。
【0004】
これらのシステムは、道路交通環境での使用のために主として想定され、オートバイが他の物体に対して衝突した時、通常は膨らむ。上のシステムは、道路環境に対して許容できるが、より頻繁な衝突事故があるオートバイレース環境において、これらのシステムは以下の欠点のためにそれほど有効ではない。
− 通常、事故は障害物に衝突するオートバイによって起きない。
− 膨張可能なチャンバーが実質的に大きく、これらは布地の増分およびより大きなガスシリンダーために重量損をもたらす。
− 事故後、それが可能ならば、ライダーは乗車し続けようと通常試みるが、これらのシステムが一度展開すると、膨張可能なチャンバーは露出したままであり、衣料のあちこちでばたつく可能性があり、これはライダーに邪魔しよう。
【0005】
上述した欠点に対する解決が特許文献5によって提案されており、これはレース用途のために特に設計されたエアーバッグシステムを記述している。前記システムの膨張可能なチャンバーはより小さく、展開した後にライダーは保護衣料から使用済みのチャンバーを取り外して乗車し続けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】ドイツ特許第36169890号
【特許文献2】米国特許第5535446号明細書
【特許文献3】国際公開2000−69292号公報
【特許文献4】欧州特許第1668999号公報
【特許文献5】国際公開第2008/044222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献5のシステムが従来技術に関する改良であるとしても、これは以下の欠点を解決していないので、これが最良の解決と考えることはできない。
− 膨張可能なチャンバーはまだまだ非常に大きく、エアーバッグが衣服に合うように折り畳まれ、膨張した時に衣服の外側に現われなければならないようになっている。
− ライダーは展開したチャンバーを取り外すための行動を今まで通り、行わなければならず、継続しているレースの重圧によって、ライダーがこの措置を正確に行わないという大きな可能性がある。
− ライダーがレースを続行して別な衝突事故にあった場合、システムが取り外されて膨張手段が1回の膨張を満たす気体容量を有しているだけのため、彼は保護を持たないことになる。
【0008】
本発明の目的は、上述した問題および欠点を解決する膨張可能な保護具を装備した衣料を提供することにある。
【0009】
特に、本発明の主たる目的は、事故の際に作動した後、交換したり、詰め直したり、あるいは組み直す必要のない膨張可能な保護具を装備した衣料を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、事故の後であっても、レース中のライダーを妨げることなく、正しく同程度の保護をライダーに保証するのにふさわしい膨張可能な保護具を装備した衣料を提供することにある。
【0011】
最後に、本発明の他の目的は、事故または衝突の結果としての作動後に、使用者からの何らかの操作を必要とすることなく、休止態様へと自律的かつ自動的に戻すことができる膨張可能な保護具を装備した衣料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらおよび他の目的は、請求項1に記載の衣料によって達成される。
【0013】
本発明の利点および典型的特長は、以下の好ましいけれども限定されない衣料の一実施形態の説明から、添付図面の参照を伴ってより明確に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】膨張可能な保護具が収縮状態にある本発明による衣料の概略正面図を示す。
【図2】膨張可能な保護具が膨張状態にある図1と同様な概略正面図を示す。
【図3】本発明による衣料の概略背面図を示す。
【図4】膨張可能な保護具とその作動手段との間の結合部分の概略背面図を示す。
【図5】衣料と組み合わされた収縮状態の膨張可能な保護具の正面断面図を示す。
【図6】衣料と組み合わされた膨張状態の膨張可能な保護具の正面断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付図面を参照し、本発明は、その収縮状態にある休止態様から、その膨張状態にある動作態様へと作動することができる膨張可能な保護具11と、この保護具11を膨らませることができる膨張手段10と、事故および/または危険信号が衣料100に組み込まれたセンサーによって検出された場合、膨張手段10を作動させることができる電子制御装置9とを具えた衣料100に関する。作動、すなわち膨張状態を取った後、膨張可能な保護具11は、詰め直したり組み直したりする必要性なく、自律的かつ自動的に休止態様へと戻され、再充填することなく膨張手段10は保護具11を2回以上膨らませることができる。
【0016】
保護具11は、ポリウレタンの如き可撓性材料の単一シートから作られ、普通に用いられるエアーバッグ材料と比較してより大きな材料の膨張を可能にする。実際のところ、ポリエチレンやナイロン6およびナイロン6,6のようなエアーバッグ構造体で普通に用いられる材料は、布地に縫い付けられる。これは適当な摩耗抵抗を与えるが、極めて僅かな伸縮性しか与えない。
【0017】
摩擦に対して可撓性材料の抵抗がより少ないという潜在的な欠点は、保護具11が外部環境に決して露出しておらず、従って障害物または路面に対して決して直接的に接触しないように設計されているため、克服される。保護具11は、これが動作態様にある場合、これが衣料100の外側に出てくるのではなく、衣料100の外層14に固定された保護部材4と、衣料100の外層14との間に形成されたポケット7の内側に留まっている。保護具11の大きさは相対的に小さく、包装または折り畳まれる必要性なく、ポケット7の内側に平らに配されている。前述したように、実際のところ、その弾性のため、周知のエアーバッグによってもたらされるのと同程度の保護を保証する容積に達することがやはり可能である。
【0018】
保護部材4は、その弾性のため、可撓性縁部3によって衣料100に固定されており、後者が休止態様からその容積を増大する動作態様へと作動する時、保護具11の衣料100の内側に追従可能とするために延びることができる。
【0019】
本発明の好ましい一実施形態において、前記膨張可能な保護具11は、袋のような形状の2つの膨張可能なチャンバー20,30を具えており、第1の膨張可能なチャンバー20が右肩部に配され、第2の膨張可能なチャンバー30が左肩部に配されている。
【0020】
他の実施形態(図示せず)において、膨張可能な保護具11は、肩部および/または例えば首部,胸部,背中,腕部および/または脚部のような他の身体部分を保護する2つ以上の膨張可能なチャンバー20,30を具えている。
【0021】
好ましい一実施形態において、膨張可能なチャンバー20,30は、衣料100の外面14の肩カップ4の下に縫い付けられている。
【0022】
それぞれのチャンバー20,30の大きさは、通常10リットル未満である。それで、これを折り畳んだり、あるいはこれを特別な方法で包装したりする必要なく、それぞれのチャンバー20,30を衣料100に挿入することができる。図5および図6に示すように、チャンバー20,30は、保護すべき面に直接平らに置くことができる。チャンバー20,30は、たった2つの材料層(肩カップ4および衣料100の外面14)の間に配され、具合がよいことに衣料100に対して極めて僅かな厚みを加えるだけである。結果として、このシステムのための重量損は、減少した布地の量のためにほとんど無視してよく、これはライダーが重さのせいでこの保護具の使用を思いとどまらせはしないことを意味する。
【0023】
図5および図6に示すように、チャンバー20,30の一部は肩カップ4によって覆われ、同時に外側の部分は2つの第2のフラップ5,21によって覆われている。第1のフラップ5は肩部から使用者の胸に向けて延在し、第2のフラップ21は肩部から使用者の肩甲骨に向けて後方に延在している。これらフラップ5,21は、通常、皮革または同様な材料で作られる。
【0024】
肩カップ4の外周部の第1の部分41,42はフラップ5,21に装着され、肩カップ4の外周部の第2の部分43は可撓性縁部3に装着されている。肩カップ4に装着されていないフラップ5,21の外周部分51,52は可撓性縁部3に結合されている。それで、肩カップとフラップとのアセンブリーが衣料100ではなく、可撓性縁部3に直接装着され、次にその外周部31を囲む衣料100に結合されることに注意すべきである。前記装着具は、縫製か、あるいはベルクロ(登録商標)やジッパーまたは鋲止めのような他の締結手段によりなすことができる。
【0025】
全ての場合において、肩カップ4と、フラップ5,21と、可撓性縁部3とは、衣料100の破損および衣料100から膨張可能な保護具11の膨出を阻止するように、衣料100に装着される。
【0026】
休止態様および動作態様の両方において、チャンバー20,30は、肩カップ4と、可撓性縁部3と、付加フラップ5および21とによって作り出されるポケットの内側に留まる。
【0027】
膨張手段10は、保護具11を膨らませることが可能であって、ライダーの背中に配置される衣料の空力突起12内に通常は配される。
【0028】
このような手段は、気体発生器または圧縮気体のシリンダあるいは他の周知の手段を具えることができる。全ての場合において、膨張手段10は、詳細に説明するように1回の膨張量よりも多く収容し、それで膨張手段10は保護具11を2回以上膨張させることができる。
【0029】
事故および/または危険信号が衣料100に組み込まれたセンサーによって検出された場合、膨張手段10を作動させるための機能を有する周知の種類の電子制御装置9によって、膨張手段10を作動させることができる。電子制御装置9から作動信号を受け取った後、膨張手段10は気体を結合手段8によって保護具11に送り込むことができる。それで、保護具11はこれが収縮状態にある休止態様から、これが膨張状態にある動作態様へとその形状を変えることができる。保護具11の外面には、膨張可能な保護具11からの膨張空気の制御された排出のための排気孔13が設けられている。この排気孔13は、保護具11の膨張を妨げないような大きさを有し、結果として衝撃保護が衣料100によりもたらされる。結合手段8によって保護具11に給送される気体は、排気孔13を通って外に出ることが可能である。それで、保護具11は、事故の場合に動作態様へと移動した後、ゆっくりと空気が抜け、そして休止態様へと戻ることができる。
【0030】
好ましい一実施形態において、図4に示すように、2つのチャンバー20,30は、衣料の裏地16と外層14との間に配されたY字形の管8により膨張手段10から給送される気体を収容することができる。
【0031】
図5および図6に示すように、それぞれのチャンバー20,30の下には、対応する詰め物手段を持つ肩部アーマー15が配されている。
【0032】
以下、保護具11の作動が好ましい実施形態を参照して詳細に記述されよう。
【0033】
通常の使用中、例えばレース中、それぞれのチャンバー20,30は休止収縮状態にあり、同時に電子制御装置9は、もし危険な状況が使用者に起こる時を検出するためのセンサー入力の連続的な監視を行う。
【0034】
転倒した場合、電子制御装置9は気体発生器10に作動信号を与える。次に、気体発生器10がそれぞれのチャンバー20,30に気体を給送し、これらを休止態様から動作態様へと膨張させ、こうしてその最大容積に到達させる。
【0035】
可撓性縁部3は、肩カップとフラップとのアセンブリーの下でそれぞれのチャンバー20,30の増大した容積を収容するために引き伸ばされ、同時に肩カップ4の形状および剛性が下にある膨張したチャンバー20,30の形成および強化に寄与する。
【0036】
それぞれのチャンバー20,30の膨張は瞬間的であり、それで使用者に対する適切な保護が確実に与えられる。上述したように、排気孔13は、その大きさが膨張したチャンバー20,30から空気の外部への迅速な排出を可能にするには余りにも小さ過ぎるので、チャンバー20,30の膨張を損なわない。
【0037】
実際のところ、排気孔13は、それぞれのチャンバー20,30の緩慢な排出を可能にするように設計され、これらは動作態様から初期の休止態様へとおよそ60秒で空気が抜けることとができるようになっている。
【0038】
それぞれのチャンバー20,30の収縮は、排気孔13によってのみ可能となるのではなく、 可撓性縁部3によってもこれが促進される。その弾性のため、縁部3は、それぞれのチャンバー20,30の容積の増大によって延伸された後、その最初の非緊張状態へと戻るようにさせられる。従って、肩カップ4はチャンバー20,30の圧縮を行って気体の排除を助ける。
【0039】
チャンバー20,30がこれらの休止態様に戻ると、衣料100の空力が元に戻され、そして転倒が何らかの特別な損害をもたらさなかった場合、その展開後の保護具11の詰め直しまたは投棄の必要性なく、ライダーは彼のレースを続けることができる。
【0040】
上述のように、気体発生器10は2回分以上の膨張量を収容する。
【0041】
チャンバー20,30から空気が抜かれた後、電子制御装置9はセンサー入力を監視し続け、ガス発生器10内の充填物の量が使い尽くされるまで、必要に応じて再びガス発生器10を作動させることができる。それで、この衣料100は、以前に経験したものと同程度の保護を使用者にもたらすことができる。
【0042】
上の説明から、本発明の衣料が従来技術にて述べた器具の問題および欠点を都合よく解決するような特性を有することは明確である。
【0043】
本発明は、好ましい一実施形態を参照して記述しているが、機械的に均等な解決が予測可能であり、以下の特許請求の範囲内に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その収縮状態にある休止態様から、その膨張状態にある動作態様へと作動することができる少なくとも1つの膨張可能な保護具(11)と、
この保護具(11)を膨らませることができる少なくとも1回分の膨張量を有する膨張手段(10)と、
事故および/または危険信号が衣料(100)に組み込まれたセンサーにより検出された場合、前記膨張手段(10)を作動させることができる電子制御装置(9)と
を具え、前記膨張可能な保護具(11)から膨らむ空気の制御された排出のための手段(13)をさらに具えたことを特徴とする衣料(100)。
【請求項2】
動作態様にある場合の前記保護具(11)は衣料(100)の外側に現われないけれども、衣料(100)の外層(14)固定された保護部材(4)と衣料(100)の外層(14)との間に形成されたポケット(7)の内側に留まっていることを特徴とする請求項1に記載の衣料(100)。
【請求項3】
前記保護部材(4)は、保護具(11)の衣料(100)の内側への適合を可能とするため、かつまた前記保護具(11)が前記休止態様からその容積を増大する前記動作態様へと作動する場合に延伸することができる可撓性縁部(3)により衣料(100)に固定されていることを特徴とする請求項2に記載の衣料(100)。
【請求項4】
前記保護具(11)は、可撓性材料、例えばポリウレタンの単一シートから作られることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の衣料(100)。
【請求項5】
前記保護具(11)は、梱包または折り畳む必要なく、前記ポケット(7)内に平らに配されていることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の衣料(100)。
【請求項6】
前記膨張手段(10)は、2回分以上の膨張量を収容することを特徴とする請求項1に記載の衣料(100)。
【請求項7】
前記保護具(11)が袋のような形状の2つの膨張可能なチャンバー(20,30)を具え、第1の膨張可能なチャンバー(20)が右肩部に配されると共に第2の膨張可能なチャンバー(30)が左肩部に配されることを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載の衣料(100)。
【請求項8】
前記保護具(11)は、肩部および/または例えば頸部,胸部,背部,腕部および/または脚部のような他の身体部分を保護する2つ以上の膨張可能なチャンバー(20,30)を具えていることを特徴とする請求項1から請求項7の何れかに記載の衣料(100)。
【請求項9】
前記2つのチャンバー(20,30)は、前記膨張手段(10)によりY字形状の管(8)を通って送り込まれるガスを収容することができることを特徴とする請求項7に記載の衣料(100)。
【請求項10】
チャンバー(20,30)のそれぞれは、肩カップ(4)と可撓性縁部(3)と付加フラップ(5,21)とで画成されるポケット(T)の内側に留まっていることを特徴とする請求項7から請求項10の何れかに記載の衣料(100)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−528949(P2012−528949A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513741(P2012−513741)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【国際出願番号】PCT/IT2009/000247
【国際公開番号】WO2010/140176
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(502016471)アルパインスターズ リサーチ ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (9)
【Fターム(参考)】