説明

カスタードプリン用軟化剤及びカスタードプリン

【課題】軟らかく口溶けの良いカスタードプリンを提供する。
【解決手段】ヒアルロン酸及び/又はその塩を有効成分として含有するカスタードプリン用軟化剤及びカスタードプリン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵黄の加熱凝固性で固くなったカスタードプリンを軟らかく口溶けの良い食感に仕上げることができる、ヒアルロン酸及び/又はその塩を有効成分として含有するカスタードプリン用軟化剤及びカスタードプリンに関する。
【背景技術】
【0002】
カスタードプリンは、牛乳、砂糖、香料等を混ぜた卵黄混合液を加熱し、卵黄の加熱凝固性を利用して固めた洋菓子である。近年では、消費者の嗜好性に合わせ食感の多様化が求められており、特に軟らかく口溶けの良い食感が人気を博している。
【0003】
従来、軟らかく口溶けの良いカスタードプリンを調製するためには、パティシエが行うような極め細やかな作業が必要とされ、卵黄混合液を調製する際、加熱凝固性を有する卵黄配合量をカスタードプリンに対し生卵黄換算で5%程度の少量に抑えながら、いかに均一に加熱凝固させるかがもっとも重要なポイントとなる。具体的には、牛乳や砂糖等と混合する際に生じる卵黄蛋白質の僅かな変性むらにも注意を払いながら卵黄混合液を均一化後、加熱むらに注意を払い全体に均一かつ十分に熱が入るように加熱温度を微調整する高度な技術を必要とする。そこで、高度な技術を要さずに軟らかく口溶けの良いカスタードプリンを調製する方法が求められている。
【0004】
高度な技術を要さずにカスタードプリンを軟らかい食感に仕上げる方法として、前記のように加熱凝固性を有する卵黄の配合量を減らす方法が考えられる。しかしながら、卵黄の配合量を減らした場合、カスタードプリン全体を均一に加熱凝固させることは難しくなり、部分的に軟らかくなり過ぎてしまうため口溶けの良い食感に仕上げることができない。そこで、キサンタンガムやカラギーナン等の各種増粘剤を配合しカスタードプリン全体が均一な硬さになるように調整する方法が採られるが、少量の添加ではかえって離水が生じ易いために軟らかく調整することが難しく、さらに、加熱凝固した卵黄特有の口溶けの良い食感よりも増粘剤特有の粘調性の食感が勝ってしまうため、口溶けの点で消費者の要望を十分に満足するものが得られない。また、卵黄の配合量を減らすほど、カスタードプリンの人気の源となっている卵黄特有のコク味が減じてしまうため、卵黄配合量を減らさずに、かつ高度な技術を要さずに、軟らかく口溶けの良い食感に仕上げることがもっとも望ましい。
【0005】
卵黄の配合量を減らさずにカスタードプリンを口溶けの良い食感に仕上げる方法として卵黄の加熱凝固性を抑える方法が考えられ、例えば、卵黄混合液に糖アルコールを配合する方法(特許文献1)が挙げられる。しかしながら、前記方法で得られるカスタードプリンは、糖アルコール特有の食感があり口溶けの点で消費者の要望を十分に満足するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−257871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、高度な技術を要さずに軟らかく口溶けの良い食感のカスタードプリンを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、前記目的を達成すべく各種の添加剤について鋭意研究を重ねた結果、卵黄の加熱凝固性で固くなってしまうカスタードプリンにヒアルロン酸及び/又はその塩を添加したところ、意外にもカスタードプリンが軟化しかつ口溶けの良い食感が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)ヒアルロン酸及び/又はその塩を有効成分として含有するカスタードプリン用軟化剤、
(2)(1)の軟化剤を添加するカスタードプリン、
(3)(1)の軟化剤をヒアルロン酸及び/又はその塩換算で0.01〜1%添加するカスタードプリン、
(4)pH5.0〜6.5である(2)又は(3)のカスタードプリン、
(5)冷凍処理を施した(2)〜(4)のカスタードプリン、
(6)ヒアルロン酸及び/又はその塩を添加するカスタードプリン、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、軟らかく口溶けの良い食感のカスタードプリンを提供することができ、それゆえカスタードプリン市場の更なる拡大が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0012】
カスタードプリンとは、牛乳、砂糖、香料等を混ぜた卵黄混合液を加熱し、卵黄の加熱凝固性を利用して固めた洋菓子である。
【0013】
本発明のカスタードプリン用軟化剤は、ヒアルロン酸及び/又はその塩を有効成分として含有する。
【0014】
ヒアルロン酸とは、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとの二糖からなる繰り返し構成単位を1以上有する多糖類をいう。本発明で使用する原料ヒアルロン酸及び/又はその塩は、特に限定されるものではないが、例えば鶏冠、臍の緒、眼球、皮膚、軟骨等の生体組織、あるいはストレプトコッカス属等のヒアルロン酸産生微生物を培養して得られる培養液等を原料として、抽出(更に必要に応じて精製)して得られるものである。
【0015】
本発明のカスタードプリン用軟化剤に用いるヒアルロン酸及び/又はその塩は、特に限定されるものではなく、当該粗抽出物あるいは精製物の何れを用いても良いが、精製物、具体的にはヒアルロン酸及び/又はその塩の純度が90%以上のものが好ましい。純度が90%未満の場合は、保管中にヒアルロン酸及び/又はその塩が着色して、ひいては軟らかく口溶けの良い食感が損なわれる恐れがあり好ましくない。
【0016】
また、本発明で使用するヒアルロン酸の塩としては、通常食品素材として利用されているものであれば特に限定されない。好ましくは、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0017】
本発明のカスタードプリン用軟化剤におけるヒアルロン酸及び/又はその塩は、本発明の効果を奏する程度含有していれば良く、カスタードプリン用軟化剤に対しヒアルロン酸及び/又はその塩を0.05〜100%含有することが好ましい。また、カスタードプリンに対し、カスタードプリン用軟化剤をヒアルロン酸及び/又はその塩換算で0.01〜1%添加することが好ましく、0.1〜1%がより好ましい。ヒアルロン酸及び/又はその塩の添加量が前記範囲より少ない場合、カスタードプリンの軟化効果が得られないことがあり、前記範囲より多い場合、口溶けを損ねてしまうことがある。
【0018】
本発明のカスタードプリン用軟化剤は、ヒアルロン酸及び/又はその塩を含有していればいずれの形態であっても良く、種々の形態(例えば、液状、粉末状、クリーム状、ゼリー状)を有することができ、液状やクリーム状がカスタードプリンの加工適性に優れ好ましい。
【0019】
本発明のカスタードプリンは、卵黄配合量を増やしても軟らかく口溶けの良い食感に適宜調整することができ、また同時に卵黄由来の濃厚なコク味を付与することができる。具体的には、卵黄配合量を増やすほど本発明の効果が発揮されるため、カスタードプリンに対し生卵黄換算で5〜50%が好ましく、10〜50%がより好ましく、20〜50%がさらに好ましい。
【0020】
本発明のカスタードプリンに用いる原料の卵黄は、凝固性を有していればいずれのものでも良く特に限定されないが、例えば、鶏卵を割卵して得られる生卵黄をはじめ、当該生卵黄にストレーナー等によるろ過処理、加熱等による殺菌処理、冷凍処理、乾燥処理、プロテイングルタミナーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、イオン交換樹脂等による脱塩処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したもののうち、1種又は2種以上を混合したものを挙げることができる。
【0021】
また、本発明のカスタードプリンに酸剤を加えpH5.0〜6.5に調整することでより軟らかく口溶けの良い食感が得られ好ましく、pH5.0〜6.0がより好ましい。pHが前記範囲より低い場合、pHの低下に応じた本発明の効果が増し難く、また、酸味によりカスタードプリンの風味を損ねてしまう場合がある。pHが前記範囲より高い場合、酸剤の添加による軟らかく口溶けの良い食感の向上が得られない。また、本発明のカスタードプリンに用いる酸剤は、特に限定されないが、リンゴ、グレープフルーツ等の透明果汁、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、酢酸等の有機酸等を挙げることができ、特に軟らかく口溶けの良い食感が経時的に保持されるクエン酸が好ましい。
【0022】
本発明のカスタードプリンの軟らかさは、破断応力を指標とした場合、20〜100gが好ましく20〜75gがより好ましい。破断応力が前記範囲より低い場合、輸送の際等に形が崩れ易く、前記範囲より高い場合、十分に軟らかく口溶けの良い食感が得られない場合がある。なお、測定は、レオメーター((株)レオテック製)を用い、品温10±2℃のプリンを厚さ3cmに切断し、その切断面に対して20mmφの球形プランジャーを10mm/sで押し込み6秒後の値を求めた。
【0023】
本発明のカスタードプリン用軟化剤及びカスタードプリンには、前記原料以外に、本発明の効果を損わない範囲で適宜選択し配合することができる。具体的には、例えば、牛乳、生クリーム、バター、チーズ、脱脂粉乳、発酵乳等の乳原料、グルコース、ショ糖、乳糖、麦芽糖、オリゴ糖、ぶどう糖果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、水飴、はちみつ、メープルシロップ、黒蜜、カラメルソース等の糖類、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、キシリトール、トレハロース、パラチノース等の甘味料、レモン、ライム、ブルーベリー、オレンジ、イチゴ、マンゴー等の果汁、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、オクテニルコハク酸化澱粉等の乳化剤、キサンタンガム、タマリンドシードガム、グアガム、アラビアガム、サイリュームシードガム、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、うるち米澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、ワキシコーンスターチ、もち米澱粉等の澱粉、湿熱処理澱粉、加工澱粉、蒟蒻、ペクチン、プルラン、マンナン、ガラクトマンナン、キチン、キトサン、デキストリン等のゲル化剤、菜種油、大豆油、パーム油、オリーブ油、グレープシードオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル等の油脂、難消化性デキストリン、結晶セルロース、アップルファイバー等の食物繊維、食塩、核酸、アミノ酸、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、各種ペプチド、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、酢酸等の有機酸塩、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、チョコレート、ココア、コーヒー、抹茶、リキュール類、ナッツ類、香辛料、香料等が挙げられる。
【0024】
本発明のカスタードプリンを製造方法する際は、常法に則り調製すればよいが、カスタードプリンをより軟らかで口溶けの良い食感に仕上げるために、加熱凝固後のカスタードプリンに冷凍処理を施すことが好ましく、−30℃以下で冷凍することがより好ましい。
【実施例】
【0025】
以下に本発明のカスタードプリン用軟化剤及びカスタードプリンを実施例及び試験例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0026】
〔実施例1〕
グラニュ糖90g、ヒアルロン酸及び/又はその塩10gを攪拌混合し、本発明のカスタードプリン用軟化剤を調製した。
【0027】
〔比較例1〕
ヒアルロン酸及び/又はその塩をグラニュ糖に置き換えた以外は、実施例1に準じてカスタードプリン用製剤を調製した。
【0028】
〔比較例2〕
ヒアルロン酸及び/又はその塩をキサンタンガムに置き換えた以外は、実施例1に準じてカスタードプリン用製剤を調製した。
【0029】
〔比較例3〕
ヒアルロン酸及び/又はその塩をカラギーナンに置き換えた以外は、実施例1に準じてカスタードプリン用製剤を調製した。
【0030】
〔比較例4〕
ヒアルロン酸及び/又はその塩10gをキサンタンガム2.5g及びグラニュ糖7.5gに置き換えた以外は、実施例1に準じてカスタードプリン用製剤を調製した。
【0031】
〔試験例1〕
牛乳28%、生クリーム28%、液卵黄10%、グラニュ糖18%、実施例1及び比較例1〜4のカスタードプリン用軟化剤又は製剤各2%、リキュール2%、清水12%を攪拌混合したものを150g容耐熱性カップに100gずつ充填後、スチーマーで90℃、40分間加熱凝固しカスタードプリンを調製した。
【0032】
評価は、下記の評価基準に従い、食感の軟らかさと口溶けの良さを官能評価により判定した。結果を表1に示す。
<軟らかさ>
A:軟らかい。
B:若干軟らかさを損ねたが品位上問題はない。
C:軟らかさに欠け本発明のカスタードプリンの適性を損ねる。
<口溶け>
A:口溶けが良い。
B:若干口溶けが悪いが品位上問題はない。
C:口溶けが悪く本発明のカスタードプリンの適性を損ねる。
【0033】
〔表1〕

【0034】
表1の結果、ヒアルロン酸及び/又はその塩を添加した場合、カスタードプリンが軟化し、軟らかく口溶けの良い食感が得られ好ましかった(No.1、2)。一方、ヒアルロン酸及び/又はその塩と同じ多糖類であるキサンタンガムやカラギーナンを添加した場合、カスタードプリンが硬化し口溶けが悪かった(No.3〜5)。また、試験例1のカスタードプリンの調製方法において、スチーマーで加熱凝固後、さらに−35℃の冷凍庫で中心品温が−18℃以下になるまで急速冷凍し12時間保管後、再び解凍した場合、より軟らかく口溶けの良い食感が得られ非常に好ましかった。
【0035】
〔試験例2〕
ヒアルロン酸及び/又はその塩による本発明に対する影響を調べるため、カスタードプリン用軟化剤の添加量以外はNo.1に準じカスタードプリンを調製し、試験例1と同様に官能評価を行った。結果を表2に示す。
【0036】
〔表2〕

【0037】
表2の結果、ヒアルロン酸及び/又はその塩を0.01〜1%添加した場合、カスタードプリンが軟化し、軟らかく口溶けの良い食感が得られ好ましかった(No.7〜10)。特に、ヒアルロン酸及び/又はその塩を0.1〜1%添加した場合、軟らかく口溶けの良いとろけるような食感が得られ非常に好ましかった(No.8、9)。
【0038】
〔試験例3〕
pHによる本発明に対する影響を調べるため、前記No.7の配合にクエン酸を添加してpH調整を行ったカスタードプリンを調製し、試験例1と同様に官能評価を行った。結果を表3に示す。
【0039】
〔表3〕

【0040】
表3の結果、pHを5.0〜6.5に調整した場合、よりカスタードプリンが軟化し、軟らかく口溶けの良い食感が得られ好ましかった(No.11〜14)。特に、pHを5.0〜6.0に調整した場合、軟らかく口溶けの良いとろけるような食感が得られ非常に好ましかった(No.12〜14)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸及び/又はその塩を有効成分として含有することを特徴とするカスタードプリン用軟化剤。
【請求項2】
請求項1記載の軟化剤を添加することを特徴とするカスタードプリン。
【請求項3】
請求項1記載の軟化剤をヒアルロン酸及び/又はその塩換算で0.01〜1%添加するカスタードプリン。
【請求項4】
pH5.0〜6.5である請求項2又は3記載のカスタードプリン。
【請求項5】
冷凍処理を施した請求項2〜4記載のカスタードプリン。
【請求項6】
ヒアルロン酸及び/又はその塩を添加することを特徴とするカスタードプリン。