カバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントおよびそれを用いたカバリング糸とストッキング
【課題】 ポリアミドマルチフィラメント糸を巻糸に用いたカバリング糸によりストッキングを編成したとき、透明性と素足感に優れ、さらにシャドウ効果により足を細く、美しく見せることができるカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメント糸を提供すること。
【解決手段】断面形状として断面に外接する長方形の長辺の長さL、短辺の長さSとするとき、扁平度=L/Sが1.5〜4.0の扁平断面を有し、扁平断面の長軸に対して線対称な形状であり、長軸面に1つまたは2つの凹部を有し、凹部以外を構成する扁平断面の両端では変曲点を有さないことを特徴とするカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメント。
【解決手段】断面形状として断面に外接する長方形の長辺の長さL、短辺の長さSとするとき、扁平度=L/Sが1.5〜4.0の扁平断面を有し、扁平断面の長軸に対して線対称な形状であり、長軸面に1つまたは2つの凹部を有し、凹部以外を構成する扁平断面の両端では変曲点を有さないことを特徴とするカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素肌のような光沢感を有するストッキングとするのに有効なカバリング糸用ポリアミドフィラメントおよびそれを用いたカバリング糸とストッキングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明性、フィット性を重視した婦人向けのストッキングには、弾性糸を芯糸とし、ポリアミドフィラメントを鞘糸として巻き付けたカバリング糸が広く用いられている。ポリアミドフィラメントは、強度、耐摩耗性、酸性染料または反応染料を用いて常圧で染色する染色特性、やわらかな風合い、吸湿特性からストッキング用素材として広く用いられている。
【0003】
ストッキングの要求特性として視覚的効果により足がより美しく見えることが求められている。例えば、特許文献1では、扁平度が2.0〜6.0の扁平面がフラットな繊維横断面形状を有する長繊維から構成されるカバリング用糸とすることにより、良好な透明性、フラット性、艶感、耐久性を有するストッキングとすることが提案されている。断面形状を特定範囲の扁平断面とすることにより弾性繊維を均一に被覆するのに有効で、摩耗耐久性を向上させることができ、さらにカバリング糸の直径(弾性糸とカバリング用糸全体を指す)が細くなることから、編み地の空隙が大きくなり透明性向上に大きく寄与する。しかしながら、後述するように丸断面と比べると反射光の強度は減少するものの足側面での反射光が依然として強く、ストッキングを着用していることが強く感じられるものであった。
【0004】
一方、特許文献2では、カバリング用糸として異形度1.03〜1.15の3〜8の多葉断面形状にすることが提案されている。しかしながらこのような多葉断面をカバリング用糸として用いるとポリアミドマルチフィラメント表面での乱反射が生じるため、ストッキング全体が白っぽく見え、透明性が低下するため好ましくなかった。
【0005】
また、特許文献3ではカタカナの「キ」型の突起部を有する特殊断面繊維が提案され、カバリング用糸への適用も提示されている。しかしながら、吸汗性を上げるために突起部が設けられているために特許文献2と同様カバリング用糸として用いると、ポリアミドフィラメント表面での乱反射が生じるため、ストッキング全体が白っぽく見え、透明性が低下するため好ましくなかった。
【0006】
さらに特許文献4ではアルファベットの「W」型の断面が提案され、カバリング用糸としてストッキングへの適用も提示されている。W型の溝構造による吸水・速乾性ときめ細やかな光沢と適度なシャリ感、さらに扁平化による柔らかな風合いが得られるとしている。しかしながら、W型は扁平方向の軸に対して線対称な構造でないため、曲げ方向により曲げ堅さが異なるという問題を有しており、扁平断面である割には特定方向に曲がろうとして被覆性が悪化する。さらに特許文献2および3と同様凹凸が多いためにカバリング用糸として用いると、ポリアミドフィラメント表面での乱反射が生じるため、ストッキング全体が白っぽく見え、透明性が低下することが懸念される。
【特許文献1】特開平7−157902号公報(段落番号[0001]〜[0012])
【特許文献2】特開平2−80635号公報(第1頁、右下欄第2行目〜第2頁、右上欄第8行目)
【特許文献3】特開平6−81207号公報(段落番号[0002]〜[0011])
【特許文献4】特開2002−146626号公報(段落番号[0002]〜[0012])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ストッキングを着用した際、脚部において正面での透明性向上とともに側面における反射光を抑制して、ストッキングの着用を意識させない素肌感に近い光沢感を発現させるカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントおよびそれを用いたカバリング糸とストッキングを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明は、次の構成を採用するものである。
(1)断面形状として断面に外接する長方形の長辺の長さL、短辺の長さSとするとき、扁平度=L/Sが1.5〜4.0の扁平断面を有し、扁平断面の長軸に対して線対称な形状であり、長軸面に1つまたは2つの凹部を有し、凹部以外を構成する扁平断面の両端では変曲点を有さないことを特徴とするカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメント。
(2)短辺の長さSの凹部底部長さBSに対する比であるS/BS=1.05〜2.50であることを特徴とする(1)記載のカバリング糸用ポリアミドフィラメント。
(3)弾性繊維からなる芯糸にカバリング糸用マルチフィラメントとして(1)または(2)記載のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたカバリング糸。
(4)(3)記載のカバリング糸をレッグ部の少なくとも1部に用いることを特徴とするストッキング。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上記の構成を採用した糸をカバリング用糸として用い、ストッキングに適用した場合、足の曲面において観察者からみて正面における透明性が向上するとともに側面における反射光が抑制されるためにストッキングの着用が意識されず、素足のごとき光沢感が得られる。また、扁平な断面構造のために被覆性に優れており、ストッキングとして求められる摩擦耐久性の高い商品とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の構成としては、断面形状として断面に外接する長方形の長辺の長さL、短辺の長さSとするとき、扁平度=L/Sが1.5〜4.0の扁平断面を有し、扁平断面の長軸に対して線対称な形状であり、長軸面に1つまたは2つの凹部を有し、凹部以外を構成する扁平断面の両端では変曲点を有さないカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントである。
【0011】
すなわち、足の曲面において観察者の正面における透明性を向上させるとともに、側面における反射光を抑制することによりストッキングを着用していることを意識させない素足のごとき光沢感を得るために上記構成を取っている。具体的には丸断面単糸2本が並んだごとき形状は、たとえば図1や図2に示すように長軸面に1つの凹部を有しており、丸断面単糸3本が一直線上に並んだごとき形状は、たとえば図3に示すように長軸面に2つの凹部を有している。
【0012】
本発明のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントは、繊維軸に対して垂直に切断した断面形状として、断面に外接する長方形の長辺の長さL、短辺の長さSとするとき、扁平度=L/Sが1.5〜4.0の扁平断面を有する。このような扁平断面とすることにより、扁平断面短軸方向の曲げ応力が低下し、弾性糸の周りに巻き付けたとき、被覆性が良くなる。被覆性が良くなることにより、背景技術にて記載しているようにカバリング糸の直径が細くなることから、編み地の空隙が大きくなり透明性向上に大きく寄与する。すなわち、脚の正面から見たとき透明性が向上する。さらに強度や耐摩耗性に劣る弾性糸をポリアミドマルチフィラメントで被覆性よく巻き付くことにより、着用中の弾性糸の切れ、いわゆるコア切れを抑制して、ストッキングの耐摩耗性を向上させることができる。
【0013】
ここで、扁平度=L/Sが1.5未満の時、上記扁平断面による効果を十分に発揮できないため、好ましくない。一方、4.0を越えると扁平度が高いため、長軸面の凹部による効果が十分に発揮されず、本発明の意図する効果が出にくいため、好ましくない。
【0014】
また、本発明のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントは、断面形状として扁平断面の長軸に対して線対称な形状である。これは、弾性糸の周りに巻き付ける際、扁平断面の長軸に対して線対称な形状とすることにより単糸が扁平断面の長軸に対してどちらの面に巻き付いたとしても曲げ応力が等しいため、安定したカバリングが行われる。一方、扁平断面の長軸に対して非対称な形状では、カバリング時に曲げ応力のより低い面に反転しようとするため、カバリングが安定せず、好ましくない。ここで、線対称として厳密な線対称である必要はなく、溶融紡糸時に発生する若干の形状バラツキは許容されるものである。さらに線対称ではないが、重心を中心に点対称な形状(ある点を中心に180°回転させても重なる形状、例えば、N字型やS字型)は、光が乱反射しやすい形態のため、好ましくない。なお、扁平断面を紡糸する際、扁平断面の長軸に対して冷却風を垂直に当てると扁平断面が三日月状に曲がり長軸に対して若干非対称な形状となる場合がある。断面の中心から扁平断面の長軸両端を結ぶ線により構成される角度が160度までは実質的に影響がないため、本発明の範囲内である。
【0015】
さらに、本発明のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントは、断面形状として扁平断面の長軸面に1つまたは2つの凹部を有している。長軸面に1つまたは2つの凹部を設けることにより、ストッキングを着用した際、観察者から見て足側面における反射光を抑制することによりストッキングを着用していることを意識させない素足のごとき光沢感が得られる。本発明における扁平断面の長軸とは、外接する長方形の長辺と平行な中心軸を意味し、また長軸面とは、外接する長方形の長辺に面している部分を意味している。例えば、図1において長軸面とは外接する長方形の長辺に面している2つの部分(上部長辺側と、下部長辺側の2つの部分)を意味しており、図1中、外接する長方形の下部長辺に面している部分を楕円LPで囲んで示した。さらに長軸面に1つの凹部を有しているとは、上面の長軸面を左から右にトレースした場合、外接する長方形の長辺と水平な面から負の傾きとなり、一旦傾きが0となった後、正の傾きとなって水平に戻るまでを意味しており、2つの凹部とはこれが2つ存在することを意味している。
【0016】
図12に丸断面のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果を示す。編み地に対して入射光の角度を45°とした時、正反射である45°の角度と編み地の面と水平な90°付近に反射光強度のピークが見られる。このうち、45°のピークは正反射であるため、ストッキングの編み地を用いた場合にはピークの大小はあったとしても必然的にピークが現れるものである。すなわち、ストッキングを着用した場合を想定したとき、光は一方向から当たることは少なく、さまざまな方向より円柱状の曲面を有する足に当たる。観察者から見て足正面からの反射光は少ないために比較的透明に足が見えることとなる。一方、編み地の面と水平な90°付近に反射光強度のピークが見られることから、観察者から見て足の側面において強い反射光が発生していることを意味しており、すなわち足の両側面から強い反射光により、白っぽく見えていることを示している。側面からの反射光により観察者はストッキングの着用を強く意識することとなり、素足のように見えない原因の一つとなっている。これは、ベージュやブラウンなど肌色に近い色において顕著に表れ、逆に反射光の比較的少ない黒や紺色などの濃色では比較的少ない。
【0017】
また、ストッキングが足を美しく見せる効果としてシャドウ効果が知られている。すなわち、ストッキングを着用した足を観察すると観察者からみて足正面では編み地密度が低い(空隙が大きい)のに対して、側面に行くほど編み地の密度が高い(空隙が小さい)ため、色が濃く見えて濃淡の効果により足が素足よりも細く見えるというものである。従来商品の淡色においては、黒色などの濃色ほどにはシャドウ効果を発現しなかったのはこのためである。
【0018】
図13には小判型のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果を示す。丸断面と比較したとき、入射光方向から編み地面に対して法線方向(0°)まで反射光が大きく低下しており、前述の通り編み地の空隙が大きくなる効果と相まって足正面での透明性が向上している。しかしながら、正反射である45°の角度と編み地の面と水平な90°付近に反射光強度のピークが見られ、いずれも丸断面の場合よりも高くなっている。したがって、足の両側面では、反射光により白っぽく見えることとなる。
【0019】
また、図14にはY字型のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果を示す。丸断面と比較したとき、入射光方向(−45°)から正反射(45°)前までは全体として高いのに対して、正反射(45°)のピークは低く、さらに編み地の面と水平な90°付近には反射光強度のピークが見られないことが特徴である。断面に3本の突起部を有しているために巻き付けられたカバリング上で突起部がランダムな方向に配置されている。したがって、光は様々な方向に反射しているためであると推定される。ストッキングとしては、足全体が白っぽくなるために透明感を狙いとしたストッキングとしては用いることができない。
【0020】
一方、図11には図1の断面形状を有する本発明のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果を示す。入射光方向(−45°)から正反射方向(45°)までは小判型の断面形状と同様であるが、編み地の面と水平な90°付近には反射光強度のピークが見られないことが特徴である。
【0021】
したがって、小判型で述べたように足正面から見たときの透明性が高くなる効果と共に足側面での反射光が抑制されることにより、素足のように見えると共にストッキング着用時のシャドウ効果が有効に機能し、足が細く、美しく見えるのである。
【0022】
編み地の面と水平な90°付近には反射光強度のピークが見られない理由については、扁平断面の長軸面に1つまたは2つの凹部を有していることにより編み地の面と水平な方向には光の反射を抑制しているためであると推定され、本発明の断面形状によってストッキングの透明性とシャドウ効果の向上が達成できるものである。
【0023】
なお、扁平断面の長軸面に3つ以上の凹部を有する場合、扁平度が高くなり過ぎて強度が低下すること、口金の吐出孔形状が複雑になるため、さらに吐出孔面積が広くなるために操業性低下につながりやすく、好ましくない。
【0024】
さらに本発明のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントは、凹部以外を構成する扁平断面の両端では変曲点を有さない。ここで、変曲点とは、関数の凹凸が変化する境目であり、凹部以外の変曲点とは、図9のキ型断面で説明すると外接する長方形の長辺と接している凸部頂点から外接する長方形の短辺と接している凸部頂点までに存在する変曲点を指しいる。これは、扁平断面の長軸の端部に凸部が形成される場合、多葉断面と同様に乱反射が発生して、ストッキングの透明性を低下させるので好ましくないためである。具体的には本発明の扁平断面は長軸面に1つまたは2つの凹部を有しているため、長軸面に頂点を有している。頂点のうち長軸方向において端の頂点から長軸を構成する扁平断面の末端を経由して反対面の次の頂点までは変曲点を有さないことにより、表面乱反射によるストッキングの透明性低下を抑制できる。好ましい様態の例としては、丸断面が2つまたは3つ直線上に並んでいるごとき形態、または長方形の長辺に1つまたは2つの凹部を設けたごとき形態が挙げられる。
【0025】
また、ストッキングのレッグ部に用いる場合には、トータル繊度が7〜15デシテックスとすることが好ましく、フィラメント数としては2〜8本とすることが好ましい。これは、ストッキングとしたとき透明性と自然な表面反射光特性を発現させるため、さらにストッキングとしての実用耐久性から上記範囲にトータル繊度、フィラメント数を設計することが好ましいためである。トータル繊度が7デシテックス未満の場合、ストッキングとして破裂強力や摩擦耐久性が十分となりにくい。一方、15デシテックスを越える場合には、透明性が低下するため、本発明が目指す特性を十分に発現しにくい。一方、フィラメント数としてもモノフィラメントでは被覆性が十分となりにくいため、摩擦耐久性を維持することが難しく、9フィラメント以上はフィラメント数増加による表面積増加によってストッキングの透明性が低下しやすい。中でも単糸繊度1.3〜2.5デシテックスとすることにより透明性と自然な表面反射光特性を発現させることが可能となり、より好ましい。
【0026】
また、本発明の好ましい態様としては、短辺の長さSの凹部底部長さBSに対する比であるS/BS=1.05〜2.5とするものである。すなわち、凹部の形状を規定することにより、前述の表面反射特性を十分に発現させることができる。すなわち、S/BSが1.05未満の時には、小判型の扁平断面との差を顕著に発現させることが難しくなり、逆に2.5を越える時には突起と同様に乱反射が支配的となりストッキングの透明性低下を引き起こしてしまいやすい。なかでもS/BSが1.05〜1.5とすることによりより自然な表面反射特性を発現すると共に扁平断面化による強度低下を抑制することが可能となり好ましい。ここで、BSとは断面の外接する長方形の長辺と平行でかつ凹部底部に内接する2本の線の間隔を意味する。
【0027】
本発明のカバリング糸用ポリアミドフィラメントはフラットヤーンとして用いることが好ましい。これは仮撚加工等捲縮加工の施されていない長繊維を意味し、仮撚糸とすると断面が異形化すること、さらに繊維軸方向に凹凸が生じるため透明性が低下するためである。
【0028】
本発明においては上記フラットヤーンの伸度は20〜60%とすることが好ましい。伸度を上記範囲とすることにより、かつ強度をより高く設計することができ、例えばトータル繊度を細繊度化し、透明性をより高める設計が可能となるためである。この中でも伸度が30〜50%の範囲に設定することにより、強度と高次通過性を共に向上させることができる。
【0029】
本発明のカバリング糸用ポリアミドフィラメントは、扁平な断面形状を有しているため、パッケージフォーム(バルジ、サドル)も良好であり、糸落ちに対しても非常にタフである。良好なパッケージフォームは、パッケージからの解舒安定性を生み、高次通過性や製品品位の安定性にも寄与する。
本発明でいうポリアミドは、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結された高分子量体であって、好ましくは、染色性、洗濯堅牢度、機械特性に優れる点から、主としてポリカプロアミド、もしくはポリヘキサメチレンアジパミド等のポリアミドであることが好ましい。ここでいう主としてとは、ポリカプロアミドではそれを構成する全アミド単位中ε−カプロアミド単位として、ポリヘキサメチレンアジパミドではそれを構成する全アミド単位中ヘキサメチレンアジパミド単位として80モル%以上であることをいい、さらに好ましくは90モル%以上である。その他の成分としては、特に制限されないが、ポリカプロアミドの場合は、ヘキサメチレンアジパミド単位、ポリヘキサメチレンアジパミドの場合には、カプロアミド単位の他、例えば、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等を構成するモノマーである、アミノカルボン酸、ジカルボン酸、ジアミンなどの単位が挙げられる。
【0030】
本発明でいうポリアミドの重合度は、必要とする糸強度、初期引張抵抗度等を考慮して適宜選択して良いが、98%硫酸相対粘度で2.0〜3.3の範囲が好ましい。
【0031】
さらに必要に応じて光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、末端基調節剤、染色性向上剤等が添加されていてもよい。また、紫外線吸収や接触冷感、抗菌性等の付与のため、無機粒子や有機機能剤の添加を行うことも可能である。しかしながら、透明性低下を招くため、1μmを超える無機粒子の添加は好ましくなく、白色顔料も含めて無機粒子の添加は0.3%未満であることがより好ましい。
【0032】
上記のようなカバリング糸用ポリアミドフィラメントは、例えば下記のようにして製造することができるが、もちろんこれに限定されるものではない。
【0033】
溶融紡糸の方法として、用いる口金の一例として長軸面に1つの凹部を有する扁平断面は、例えばスリットの両端に丸孔を配した口金を用いることができる。この場合、吐出孔のスリット幅H、スリット方向の吐出孔長さN、丸孔の直径Dの比としては、スリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さNを4〜20、丸孔の直径Dを1.5〜4とすることにより得られる。2つの凹部を有する扁平断面も同様にスリットの両端および中心に丸孔を配した口金を用いることで得られる。上記口金から溶融ポリマーを吐出させ、冷却、給油後、1500〜4000m/min程度で引取り(第1ゴデーローラー)、次の第2ゴデーローラーとの間で1.0〜3.0倍程度の延伸を行った後で、3000m/min以上で巻き取ることができる。この際、第1ゴデーローラーと第2ゴデーローラーの間の延伸倍率(延伸倍率が高いと伸度は低くなる)、巻取速度(巻取速度が高いと低くなる)を適切に設計することにより、狙いとする強度・伸度を得ることが可能となる。また、第2ゴデーロールを150〜170℃の加熱ロールとすることで熱処理を行うことは好ましく行われる。各ゴデーロールはネルソンローラー、駆動ローラーに従動型のセパレートローラがついたもの、さらに片掛けローラーのいずれでも問題はない。またローラーとフィラメントの滑りを抑制するためにローラーの表面状態を平滑にしたり、糸離れを良くするために第2ゴデーロールを溝付きにしたり、梨地とすることは好ましく行われる。
【0034】
油剤はローラー給油、ガイド給油などによってマルチフィラメントに付与され、巻取時の有効成分付着量はマルチフィラメント重量当たり0.4〜1.5重量%程度が好ましい。油剤の付与は紡糸工程中、1度でも複数回に分けて行われても問題ない。複数回に分けて行う場合には、有効成分量が低い油剤を付与した後、有効成分量が高い油剤を付与することが好ましい。
【0035】
油剤の種類としては、特に制限はなく、脂肪酸エステル、非イオン乳化剤、制電剤等を混合分散させて用いることができる。
【0036】
本発明のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントは、弾性糸を芯糸とし、鞘糸として巻き付ける時に用いられる。
【0037】
弾性糸としては、ポリウレタン系弾性繊維、ポリアミド系エラストマ弾性繊維、ポリエステル系エラストマ弾性繊維、天然ゴム系繊維、合成ゴム系繊維、ブタジエン系繊維等が用いられ、弾性特性や熱セット性、耐久性等により適宜選択すればよい。中でも上記特性から好ましいのは、ポリウレタン系弾性繊維及びポリアミド系エラストマ弾性繊維である。弾性糸の太さは、靴下の用途、締め付け圧の設定により異なるが、耐久性と透明性を両立させるためには、一般に8〜40デシテックス程度であればよい。なかでも好ましいのは14〜25デシテックスである。8デシテックス未満では、糸強力が不足するのでカバリング時及び編立て時に芯糸切れ等のトラブルを生じ易く、靴下としての伸縮性、耐久性が不十分となり易いので好ましくない。逆に、40デシテックスを越えると締付け力が強くなり過ぎて粗硬感が強くなり、好ましく、透明性も低下しやすいため、好ましくない。
【0038】
カバリング撚数としては被覆糸の繊度、収縮率や製品風合い、透明性、耐久性を考慮して設計すればよい。カバリング撚数を上げると見かけ太さが細くなるため、透明性が向上する方向にあるが、上げすぎると弾性糸を締め付けすぎて耐久性が落ちたり、カバリング工程の生産性が低下するため、好ましくない。また、カバリング撚数が低すぎると被覆性が低下して耐久性と透明性が低下するため、好ましくない。したがって例えば、11デシテックスの被覆糸をシングルカバリングする時には1800〜2400T/mを目安に設計することが好ましい。さらにダブルカバリングする際には、下撚数の0.7〜0.9倍を目安に設定すればよく、撚方向としても下撚と上撚を同方向、逆方向のどちらでも設定可能であるが、トルクを抑制するために逆方向にカバリングすることが好ましい。また、ドラフト倍率も狙いとする着圧に合わせて設計すればよく、例えば、2.5〜3.5倍に設定することが好ましい。
【0039】
なお、カバリング糸を製造する場合は、常法のカバリング加工を実施すればよい。例えば、繊維の百科事典(丸善株式会社、平成14年3月25日発行、p439)に記載の加工を実施すればよい。すなわち一例を挙げると弾性糸を定速で引きだし、2つのローラー間で一定のドラフトをかけた状態で、予めHボビンに巻き付けた被覆糸を弾性糸に一定のカバリング撚数にて巻き付け、得られたカバリング糸をチーズに巻き取るものである。
【0040】
本発明のカバリング糸用ポリアミドフィラメントは、ストッキングに好ましく用いられる。なかでもストッキングとしては透明性、素足感とシャドウ効果に優れた光沢感を生かしてレッグ部に好ましく用いられる。ここで、ストッキングとは、パンティストッキング、ロングストッキング、ショートストッキングで代表されるストッキング製品が挙げられ、レッグ部とは、例えばパンティーストッキングの場合、ガーター部からつま先までの範囲を指す。
【0041】
また、ストッキングの編機として、通常の靴下編み機を用いることができ、制限はなく、2口あるいは4口給糸の編機を用い、本発明のカバリング糸を供給して編成するという通常の方法で編成すればよい。シングルカバリング糸の場合は、S方向カバリングのシングルカバリング糸とZ方向カバリングのシングルカバリング糸とを交互に編む方法が好適である。その他シングルカバリング糸と生糸の交編、ダブルカバリング糸と生糸の交編などが挙げられる。さらに編機の針本数としてはおおむね360〜474本が用いられ、針本数が少ないほど、透明性は高くなるが、破裂強さは劣り、針本数が多くなるほど破裂強さは向上するが、透明性は低下する傾向にある。したがって、使用する被覆糸、弾性糸の繊度と狙いとする耐久性、透明性に合わせて選択することができる。一例として被覆糸13デシテックスにて針本数360〜400本、同様に11デシテックスの時針本数400〜440本、8デシテックスの時440〜474本とすることが好ましい。
【0042】
さらに編成後の染色やそれに続く後加工、ファイナルセット条件についても公知の方法にしたがい行えばよく、染料として酸性染料、反応染料を用いることやもちろん色なども限定されるものではない。
【0043】
また、上記カバリング糸は、発色性、被覆性、肌触りに優れ、肌着用の丸編にも好ましく用いられる。肌着として用いる場合は、丸編みの供給糸のうち一部、もしくは全部を本カバリング糸とすることにより、自然な光沢感を有しながら薄地感を有する肌着とすることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。
【0045】
なお、実施例および比較例における各測定値は、次の方法で得たものである。
【0046】
A.断面形状
被覆糸に用いる繊維の任意の位置にて横断面方向に薄切片を切り出し、透過顕微鏡で繊維横断面を単糸本数として100本撮影し、倍率1000倍でプリントアウト(三菱電機社製SCT−P66)した後、スキャナー(エプソン社製GT−5500WINS)を用いて取り込み(白黒写真、400dpi)、ディスプレー上で1500倍に拡大した状態で、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて長軸長さLと短軸長さSの比=L/Sおよび、短辺の長さSに対して凹部底部長さBSとの比=S/BSを算出し、100本から得られた値の数平均値から扁平度=L/S、とS/BSを求めた。
【0047】
B.編み地反射光強度の角度依存性測定
測定装置としてGONIO PHOTOMETER(村上色彩技術研究所製 GP−200)を用いた。測定条件としては、光束絞り=3.0、受光絞り=2.0、入射角=45°、あおり角=0°、反射角=−45°〜90°、SENSITIVITY=940、さらに付属の標準白色板(STD4010A)を用いて光沢度の最高値が100となるようにHIGH VOLT=628に設定した。また、測定時のサンプル位置、入射光方向、反射光の測定角度についての位置関係を図10に示した。
【0048】
測定に用いるストッキング製品は、染色の色による影響を取り除くため、油剤や汚れを取り除く精練工程(90℃×30min)を行い、その後染色工程や固着剤付与、柔軟剤付与工程については、染料や固着剤、柔軟剤を付与しない白生地の状態で熱処理のみ行い、最終セット(スチームセット110℃×60sec)を通したものを用いる。
【0049】
ストッキング製品を足形に履かせ、踵から大腿部方向に65cmの位置にガーター部を合わせた上で、踵から大腿部方向に57.5cmの位置を中心として、直径10cmの刺繍枠で着用状態の伸長状態を固定した。その上で、着用状態で垂直方向3cm、水平方向2cmの内窓を有する固定枠に刺繍枠中心部のストッキング製品を固定させた。これにより大腿部の着用状態と同じ状態で反射光強度の角度依存性を測定するものである。固定枠はストッキング製品の表の面(肌と接しない側)を測定面として測定装置に設置した。なお、受光部において編み地の背面には、なにも置かないこととした。
なお、足形は人間の足に似せて作成しており、つま先から踵までの長さが23.5cm、つま先から足の裏方向に13.5cm離れた土踏まず部分の周長が22.5cm、踵から大腿部方向に8cmの足首部の周長が22cm、踵から大腿部方向に25cmのふくらはぎ部の周長が34.5cm、踵から大腿部方向に43cmの膝裏部の周長が37cm、踵から大腿部方向に50cmの大腿部の周長が39.5cm、踵から大腿部方向に60cmの大腿部の周長が48cmとなっている。
【0050】
C.98%硫酸相対粘度(ηr)
(a)試料を秤量し、98重量%濃硫酸に試料濃度(C)が1g/100mlとなるように溶解する。
(b)(a)項の溶液をオストワルド粘度計にて25℃での落下秒数(T1)を測定する。
(c)試料を溶解していない98重量%濃硫酸の25℃での落下秒数(T2)を(2)項と同様に測定する。
(d)試料の98%硫酸相対粘度(ηr)を下式により算出する。測定温度は25℃とする。
(ηr)=(T1/T2)+{1.891×(1.000−C)}。
【0051】
D.伸度測定
JIS L1013−1992 7.5引張強さ及び伸び率に準じて測定を行った。試験条件としては、試験機の種類としては定速緊張形、つかみ間隔50cmにて行った。
【0052】
実施例1
98%硫酸相対粘度が2.7で酸化チタン等無機粒子を含まないポリカプロアミド(以下ナイロン6)チップを275℃で溶融し(紡糸温度は270℃)、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=4.4、丸孔の直径D/H=2.0)となるスリット形状の吐出孔を有する紡糸口金から吐出させ、冷却、ガイド給油により油剤(油剤有効成分として脂肪酸エステル、非イオン乳化剤、制電剤を含む)付与後、交絡圧空圧0.2MPaにて交絡を付与し、第1ゴデーロールに片掛けして引取り、巻き取ることなく、155℃に加熱している第2ゴデーロールに片掛けして、第1と第2ゴデーロール間で延伸、第2ゴデーロールにて熱セットした後、東レエンジニアリング社製TW−716ワインダーを用いて、巻取張力1.3cNで巻取速度4000m/minの速度で11デシテックス5フィラメントのポリアミドフィラメントを1パッケージ当たり3kgで巻き取った。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0053】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが1.8、S/BS=1.07であり、2つの丸断面が重なり合いながら並んでいるごとき断面形状(図1)となっていた。伸度は44%であった。また、トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0054】
実施例2
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端と中心に丸孔を有する吐出孔(吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=10.6、両端の丸孔の直径D/H=2.5、中央部の丸孔の直径D/H=2.0)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整した。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0055】
断面形状は、長軸面に2つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが3.0、S/BS=1.20であり、3つの丸断面が重なり合いながら並んでいるごとき断面形状(図4)となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0056】
実施例3
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、長い中央のスリットの両端に各2本ずつ短いスリットが、中央のスリットに対して135°の角度で合計4本配置した吐出孔(スリット幅0.1mm、スリット長0.2mmの両端にスリット幅0.07mm、スリット長さ0.1mmのスリットが中央のスリットに対して135°の角度で合計4本配置した吐出孔)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整した。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0057】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが2.0、S/BS=1.20であり、2つの長方形が凹部でつながりながら並んでいるごとき断面形状(図5)となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0058】
実施例4
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=4.1、丸孔の直径D/H=2.2)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整した。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0059】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが1.6、S/BS=1.20であり、図2のように2つの丸断面が重なり合いながら並んでいるごとき断面形状となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0060】
実施例5
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=18.5、丸孔の直径D/H=2.1)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整した。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0061】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが3.8、S/BS=1.20であり、ドックボーンのごとき断面形状となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0062】
実施例6
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=6.1、丸孔の直径D/H=2.0)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整した。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0063】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが2.0、S/BS=1.13であり、図2のように2つの丸断面が重なり合いながら並んでいるごとき断面形状となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0064】
実施例7
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=6.1、丸孔の直径D/H=3.0)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整した。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0065】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが2.0、S/BS=2.80であり、図2のように2つの丸断面が重なり合いながら並んでいるごとき断面形状となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0066】
実施例8
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=6.1、丸孔の直径D/H=2.3)を用い、ポリマーの吐出量と吐出孔の数を変え、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整して9デシテックス3フィラメントのポリアミドフィラメントを巻き取った。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0067】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが2.0、S/BS=1.20であり、図2のように2つの丸断面が重なり合いながら並んでいるごとき断面形状となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0068】
実施例9
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=7.8、丸孔の直径D/H=2.3)を用い、ポリマーの吐出量と吐出孔の数を変え、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整して13デシテックス7フィラメントのポリアミドフィラメントを巻き取った。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0069】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが2.2、S/BS=1.36であり、図2のように2つの丸断面が重なり合いながら並んでいるごとき断面形状となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0070】
比較例1
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、0.2mmの丸孔を有する吐出孔を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整して、11デシテックス5フィラメントの丸断面ポリアミドフィラメントを巻き取った。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0071】
トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0072】
比較例2
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=4.4、丸孔の直径D/H=1.3)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整して11デシテックス5フィラメントのポリアミドフィラメントを巻き取った。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0073】
断面形状は、長軸面に凹部が存在しない小判型であり、扁平度=L/Sが2.0である断面形状(図7)となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0074】
比較例3
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、Y字状に中心から3本のスリットが120°の角度を保ちながら構成された吐出孔(スリット幅0.07mm、スリット長さ1.0のスリットが中心から120°ずつ3方向に配置されてY型となっている)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整して11デシテックス5フィラメントのポリアミドフィラメントを巻き取った。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0075】
断面形状は、Y字型であり、断面の外接円直径(OC)を内接円直径(IC)で割ったM値=2.4となる断面形状(図8)となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.2重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生はなかったが、ドラム端面の膨れが大きかった。
【0076】
比較例4
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、キ字状に長いスリットに2本の短いスリットが平行して直交している吐出孔(スリット幅0.07mm、スリット長さ3.0mmのスリットに直行してスリット幅0.07mm、スリット長さ1.0mmのスリットが2本水平に線対称に配置されてキ型となっている)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整して11デシテックス5フィラメントのポリアミドフィラメントを巻き取った。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れ2回と口金吐出孔が複雑であるため、糸切れが多かった。また、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0077】
断面形状は、キ字型であり、長軸面の頂点と長軸を構成する扁平断面の末端との間に変曲点が存在していた(図9)。すなわち、小判型の扁平断面の長軸面からそれぞれ2本の凸部がでている形状となっていた。扁平度=L/Sは2.5、S/BS=2.0となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.2重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生はなかったが、ドラム端面の膨れが大きかった。
【0078】
比較例5
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように単糸1本あたり0.15mmの丸孔を中心間距離0.2mm開けて配置)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整した。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0079】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが1.3、S/BS=1.20であり、小判型断面の中央に凹部を有するような断面形状となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0080】
比較例6
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=24.0、丸孔の直径D/H=2.1)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整した。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れ1回でやや糸切れが多く、巻取張力の変動は若干大きかった。
【0081】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが4.5、S/BS=1.20であり、ドッグボーンのごとき断面形状となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0082】
【表1】
【0083】
得られた実施例および比較例のポリアミドフィラメントを鞘糸に、芯糸にポリウレタン弾性糸(日清紡社製モビロン Kタイプ 繊度19デシテックス)を用い、ドラフト倍率2.6倍、カバリング撚数として、11デシテックスの時には2200T/m、9デシテックスの時には2400T/m、13デシテックスの時には2000T/mの条件にてS撚のカバリング、Z撚のカバリングを行ない、各2種のカバリング糸を得た。
【0084】
上記カバリング糸を用いて永田精機(株)製のスーパー4編機(針数400本)で、S方向シングルカバリング糸とZ方向シングルカバリング糸とを交互に編機の給糸口に供給し、レッグ部編地がカバリング糸のみで編成した。精練した後、淡ブラウンに染色し(98℃×20min)、仕上げ及び型板セット(スチームセット、110℃×60sec)してパンティストッキング製品とした。
【0085】
編み地反射光強度の角度依存性測定を行い、実施例1、比較例1、比較例2、比較例3の結果をそれぞれ図11〜14に示した。図12に比較例1の丸断面および図13に比較例2の小判型のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果を示す。共に編み地に対して入射光の角度を45°とした時、正反射である45°の角度と編み地の面と水平な90°付近に反射光強度のピークが見られる。すなわち、ストッキングを着用した場合を想定したとき、編み地の面と水平な90°付近に反射光強度のピークが見られることから、観察者から見て足の側面において強い反射光が発生していることを意味しており、すなわち足の両側面から強い反射光により、白っぽく見えていることを示している。
【0086】
一方、図11には実施例1のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果を示す。入射光方向(−45°)から正反射方向(45°)までは丸断面や小判型の断面形状と同様であったが、編み地の面と水平な90°付近には反射光強度のピークが見られなかった。これは、他の実施例を用いたストッキングの編み地においても同様なピーク形状であった。
【0087】
また、図14には比較例3のY字型のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果を示す。図11〜13と比較したとき、入射光方向(−45°)から正反射(45°)前までは全体として高いのに対して、正反射(45°)のピークは低く、さらに編み地の面と水平な90°付近には反射光強度のピークが見られないことが特徴である。すなわち、ストッキングを着用した場合を想定したとき、足全体が白っぽく光って見えており、透明感に欠けることを意味している。同様に比較例4を用いたストッキングは、比較例3と同様の反射光強度の角度依存性を有していた。また、比較例5および6は比較例1および比較例2と同様の反射光強度の角度依存性を有していた。
【0088】
実際に比較例1〜3と実施例1のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングを編み地反射光強度の角度依存性測定に用いた足形に履かせて北窓に面して垂直に配置し、観察者が窓に向かって観察した。なお、サンプルは淡ブラウンに染めたサンプルを用いた。比較例3では、全体に白っぽく光り、透明感が感じられなかった。比較例1および2では比較例3と比較して透明性に優れているものの観察者から見て足の側面部分が白っぽく見えるためにストッキングを着用していることを強く感じてしまうレベルであった。一方、実施例1では比較例1および2と同レベルまたは同レベル以上の透明性を有しながら足の側面部分での白っぽい光が抑制され、素足感が優れていた。
【0089】
他の実施例のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングにおいても実施例1と同様に足の側面部分での白っぽい光が抑制され、素足感に優れていた。一方、比較例4は、比較例3と同様に全体に白っぽく光り、透明感が感じられず、比較例5および6は、比較例1および2と同様、足の側面部分が白っぽく見えるためにストッキングを着用していることを強く感じてしまうレベルであった。
【0090】
表1には、淡ブラウンに染色したパンティーストッキングを編み地反射光強度の角度依存性測定に用いた足形に履かせて北窓に面して垂直に配置し、観察者が窓に向かって観察したときの透明性とシャドウ効果についてパンティーストッキングの商品開発熟練者3名による評価結果を記載した。透明性としては、◎:透明性に優れている、○:一般商品レベル、×:透明性に劣るの3段階とした。シャドウ効果としては、◎:優れている、○:一般商品レベル、×:劣っているの3段階で評価した。
【0091】
実施例のパンティーストッキングは、透明性が高く、シャドウ効果も高いため、美脚効果に優れていた。一方、比較例3、および4では、全体的に白っぽく、透明性が明らかに劣っていた。また、比較例1、5は一般商品レベルの透明性とシャドウ効果であった。さらに比較例2および6では透明性は優れていたもののシャドウ効果は実施例に比べて劣るものであった。
【0092】
また、触感の比較をパンティーストッキングの商品開発熟練者3名により実施したところ、比較例1を基準とすると比較例2がソフトになっているのに対して、比較例3、4は粗硬となっていた。一方、実施例では全体にサラッとした肌離れのよい触感となっており、特に実施例7と実施例9においてその傾向が強かった。
【0093】
また、仕上げたパンティーストッキングを足形にいれて伸長した状態でカバリング糸の被覆状況を観察した。実施例のカバリング糸用ポリアミドフィラメントを用いた製品では、スパンデックスの周りをリボン状に被覆しており、スパンデックスの露出部分は少なく、被覆性良好であった。また、パンティーストッキングの製品品位としても優れていた。
【0094】
一方、比較例3および4では、カバリングの撚数が安定しておらず、撚だまりや弾性糸と併走する部分も見られた。比較例1および5では比較的良好に被覆されているものの一部に被覆されていない弾性糸が観察された。また、比較例2および比較例6では、実施例同様良好な被覆性を有していた。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の長軸面に1つの凹部を有する扁平断面の一例
【図2】本発明の長軸面に1つの凹部を有する扁平断面の別の一例
【図3】本発明の長軸面に2つの凹部を有する扁平断面の一例
【図4】本発明の長軸面に2つの凹部を有する扁平断面の別の一例
【図5】本発明の長軸面に1つの凹部を有する扁平断面の別の一例
【図6】本発明の長軸面に1つの凹部を有する扁平断面の別の一例
【図7】比較例の小判型断面の一例
【図8】比較例のY字型断面の一例
【図9】比較例のキ字型断面の一例
【図10】編み地反射光強度の角度依存性測定における位置関係説明図
【図11】本発明の実施例1に示すカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果の一例
【図12】丸断面ポリアミドマルチフィラメント(比較例1)を用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果の一例
【図13】小判型断面ポリアミドマルチフィラメント(比較例2)を用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果の一例
【図14】Y型断面ポリアミドマルチフィラメント(比較例3)を用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果の一例
【図15】吐出孔形状の一例
【符号の説明】
【0096】
L:長辺の長さ、S:短辺の長さ、BS:凹部底部長さ、LP:外接する長方形の下部長辺に面している部分を囲んでいる楕円、OC:外接円、IC:内接円、H:スリット幅、N:吐出孔長さ、D:丸孔の直径
【技術分野】
【0001】
本発明は、素肌のような光沢感を有するストッキングとするのに有効なカバリング糸用ポリアミドフィラメントおよびそれを用いたカバリング糸とストッキングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明性、フィット性を重視した婦人向けのストッキングには、弾性糸を芯糸とし、ポリアミドフィラメントを鞘糸として巻き付けたカバリング糸が広く用いられている。ポリアミドフィラメントは、強度、耐摩耗性、酸性染料または反応染料を用いて常圧で染色する染色特性、やわらかな風合い、吸湿特性からストッキング用素材として広く用いられている。
【0003】
ストッキングの要求特性として視覚的効果により足がより美しく見えることが求められている。例えば、特許文献1では、扁平度が2.0〜6.0の扁平面がフラットな繊維横断面形状を有する長繊維から構成されるカバリング用糸とすることにより、良好な透明性、フラット性、艶感、耐久性を有するストッキングとすることが提案されている。断面形状を特定範囲の扁平断面とすることにより弾性繊維を均一に被覆するのに有効で、摩耗耐久性を向上させることができ、さらにカバリング糸の直径(弾性糸とカバリング用糸全体を指す)が細くなることから、編み地の空隙が大きくなり透明性向上に大きく寄与する。しかしながら、後述するように丸断面と比べると反射光の強度は減少するものの足側面での反射光が依然として強く、ストッキングを着用していることが強く感じられるものであった。
【0004】
一方、特許文献2では、カバリング用糸として異形度1.03〜1.15の3〜8の多葉断面形状にすることが提案されている。しかしながらこのような多葉断面をカバリング用糸として用いるとポリアミドマルチフィラメント表面での乱反射が生じるため、ストッキング全体が白っぽく見え、透明性が低下するため好ましくなかった。
【0005】
また、特許文献3ではカタカナの「キ」型の突起部を有する特殊断面繊維が提案され、カバリング用糸への適用も提示されている。しかしながら、吸汗性を上げるために突起部が設けられているために特許文献2と同様カバリング用糸として用いると、ポリアミドフィラメント表面での乱反射が生じるため、ストッキング全体が白っぽく見え、透明性が低下するため好ましくなかった。
【0006】
さらに特許文献4ではアルファベットの「W」型の断面が提案され、カバリング用糸としてストッキングへの適用も提示されている。W型の溝構造による吸水・速乾性ときめ細やかな光沢と適度なシャリ感、さらに扁平化による柔らかな風合いが得られるとしている。しかしながら、W型は扁平方向の軸に対して線対称な構造でないため、曲げ方向により曲げ堅さが異なるという問題を有しており、扁平断面である割には特定方向に曲がろうとして被覆性が悪化する。さらに特許文献2および3と同様凹凸が多いためにカバリング用糸として用いると、ポリアミドフィラメント表面での乱反射が生じるため、ストッキング全体が白っぽく見え、透明性が低下することが懸念される。
【特許文献1】特開平7−157902号公報(段落番号[0001]〜[0012])
【特許文献2】特開平2−80635号公報(第1頁、右下欄第2行目〜第2頁、右上欄第8行目)
【特許文献3】特開平6−81207号公報(段落番号[0002]〜[0011])
【特許文献4】特開2002−146626号公報(段落番号[0002]〜[0012])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ストッキングを着用した際、脚部において正面での透明性向上とともに側面における反射光を抑制して、ストッキングの着用を意識させない素肌感に近い光沢感を発現させるカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントおよびそれを用いたカバリング糸とストッキングを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明は、次の構成を採用するものである。
(1)断面形状として断面に外接する長方形の長辺の長さL、短辺の長さSとするとき、扁平度=L/Sが1.5〜4.0の扁平断面を有し、扁平断面の長軸に対して線対称な形状であり、長軸面に1つまたは2つの凹部を有し、凹部以外を構成する扁平断面の両端では変曲点を有さないことを特徴とするカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメント。
(2)短辺の長さSの凹部底部長さBSに対する比であるS/BS=1.05〜2.50であることを特徴とする(1)記載のカバリング糸用ポリアミドフィラメント。
(3)弾性繊維からなる芯糸にカバリング糸用マルチフィラメントとして(1)または(2)記載のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたカバリング糸。
(4)(3)記載のカバリング糸をレッグ部の少なくとも1部に用いることを特徴とするストッキング。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上記の構成を採用した糸をカバリング用糸として用い、ストッキングに適用した場合、足の曲面において観察者からみて正面における透明性が向上するとともに側面における反射光が抑制されるためにストッキングの着用が意識されず、素足のごとき光沢感が得られる。また、扁平な断面構造のために被覆性に優れており、ストッキングとして求められる摩擦耐久性の高い商品とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の構成としては、断面形状として断面に外接する長方形の長辺の長さL、短辺の長さSとするとき、扁平度=L/Sが1.5〜4.0の扁平断面を有し、扁平断面の長軸に対して線対称な形状であり、長軸面に1つまたは2つの凹部を有し、凹部以外を構成する扁平断面の両端では変曲点を有さないカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントである。
【0011】
すなわち、足の曲面において観察者の正面における透明性を向上させるとともに、側面における反射光を抑制することによりストッキングを着用していることを意識させない素足のごとき光沢感を得るために上記構成を取っている。具体的には丸断面単糸2本が並んだごとき形状は、たとえば図1や図2に示すように長軸面に1つの凹部を有しており、丸断面単糸3本が一直線上に並んだごとき形状は、たとえば図3に示すように長軸面に2つの凹部を有している。
【0012】
本発明のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントは、繊維軸に対して垂直に切断した断面形状として、断面に外接する長方形の長辺の長さL、短辺の長さSとするとき、扁平度=L/Sが1.5〜4.0の扁平断面を有する。このような扁平断面とすることにより、扁平断面短軸方向の曲げ応力が低下し、弾性糸の周りに巻き付けたとき、被覆性が良くなる。被覆性が良くなることにより、背景技術にて記載しているようにカバリング糸の直径が細くなることから、編み地の空隙が大きくなり透明性向上に大きく寄与する。すなわち、脚の正面から見たとき透明性が向上する。さらに強度や耐摩耗性に劣る弾性糸をポリアミドマルチフィラメントで被覆性よく巻き付くことにより、着用中の弾性糸の切れ、いわゆるコア切れを抑制して、ストッキングの耐摩耗性を向上させることができる。
【0013】
ここで、扁平度=L/Sが1.5未満の時、上記扁平断面による効果を十分に発揮できないため、好ましくない。一方、4.0を越えると扁平度が高いため、長軸面の凹部による効果が十分に発揮されず、本発明の意図する効果が出にくいため、好ましくない。
【0014】
また、本発明のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントは、断面形状として扁平断面の長軸に対して線対称な形状である。これは、弾性糸の周りに巻き付ける際、扁平断面の長軸に対して線対称な形状とすることにより単糸が扁平断面の長軸に対してどちらの面に巻き付いたとしても曲げ応力が等しいため、安定したカバリングが行われる。一方、扁平断面の長軸に対して非対称な形状では、カバリング時に曲げ応力のより低い面に反転しようとするため、カバリングが安定せず、好ましくない。ここで、線対称として厳密な線対称である必要はなく、溶融紡糸時に発生する若干の形状バラツキは許容されるものである。さらに線対称ではないが、重心を中心に点対称な形状(ある点を中心に180°回転させても重なる形状、例えば、N字型やS字型)は、光が乱反射しやすい形態のため、好ましくない。なお、扁平断面を紡糸する際、扁平断面の長軸に対して冷却風を垂直に当てると扁平断面が三日月状に曲がり長軸に対して若干非対称な形状となる場合がある。断面の中心から扁平断面の長軸両端を結ぶ線により構成される角度が160度までは実質的に影響がないため、本発明の範囲内である。
【0015】
さらに、本発明のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントは、断面形状として扁平断面の長軸面に1つまたは2つの凹部を有している。長軸面に1つまたは2つの凹部を設けることにより、ストッキングを着用した際、観察者から見て足側面における反射光を抑制することによりストッキングを着用していることを意識させない素足のごとき光沢感が得られる。本発明における扁平断面の長軸とは、外接する長方形の長辺と平行な中心軸を意味し、また長軸面とは、外接する長方形の長辺に面している部分を意味している。例えば、図1において長軸面とは外接する長方形の長辺に面している2つの部分(上部長辺側と、下部長辺側の2つの部分)を意味しており、図1中、外接する長方形の下部長辺に面している部分を楕円LPで囲んで示した。さらに長軸面に1つの凹部を有しているとは、上面の長軸面を左から右にトレースした場合、外接する長方形の長辺と水平な面から負の傾きとなり、一旦傾きが0となった後、正の傾きとなって水平に戻るまでを意味しており、2つの凹部とはこれが2つ存在することを意味している。
【0016】
図12に丸断面のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果を示す。編み地に対して入射光の角度を45°とした時、正反射である45°の角度と編み地の面と水平な90°付近に反射光強度のピークが見られる。このうち、45°のピークは正反射であるため、ストッキングの編み地を用いた場合にはピークの大小はあったとしても必然的にピークが現れるものである。すなわち、ストッキングを着用した場合を想定したとき、光は一方向から当たることは少なく、さまざまな方向より円柱状の曲面を有する足に当たる。観察者から見て足正面からの反射光は少ないために比較的透明に足が見えることとなる。一方、編み地の面と水平な90°付近に反射光強度のピークが見られることから、観察者から見て足の側面において強い反射光が発生していることを意味しており、すなわち足の両側面から強い反射光により、白っぽく見えていることを示している。側面からの反射光により観察者はストッキングの着用を強く意識することとなり、素足のように見えない原因の一つとなっている。これは、ベージュやブラウンなど肌色に近い色において顕著に表れ、逆に反射光の比較的少ない黒や紺色などの濃色では比較的少ない。
【0017】
また、ストッキングが足を美しく見せる効果としてシャドウ効果が知られている。すなわち、ストッキングを着用した足を観察すると観察者からみて足正面では編み地密度が低い(空隙が大きい)のに対して、側面に行くほど編み地の密度が高い(空隙が小さい)ため、色が濃く見えて濃淡の効果により足が素足よりも細く見えるというものである。従来商品の淡色においては、黒色などの濃色ほどにはシャドウ効果を発現しなかったのはこのためである。
【0018】
図13には小判型のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果を示す。丸断面と比較したとき、入射光方向から編み地面に対して法線方向(0°)まで反射光が大きく低下しており、前述の通り編み地の空隙が大きくなる効果と相まって足正面での透明性が向上している。しかしながら、正反射である45°の角度と編み地の面と水平な90°付近に反射光強度のピークが見られ、いずれも丸断面の場合よりも高くなっている。したがって、足の両側面では、反射光により白っぽく見えることとなる。
【0019】
また、図14にはY字型のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果を示す。丸断面と比較したとき、入射光方向(−45°)から正反射(45°)前までは全体として高いのに対して、正反射(45°)のピークは低く、さらに編み地の面と水平な90°付近には反射光強度のピークが見られないことが特徴である。断面に3本の突起部を有しているために巻き付けられたカバリング上で突起部がランダムな方向に配置されている。したがって、光は様々な方向に反射しているためであると推定される。ストッキングとしては、足全体が白っぽくなるために透明感を狙いとしたストッキングとしては用いることができない。
【0020】
一方、図11には図1の断面形状を有する本発明のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果を示す。入射光方向(−45°)から正反射方向(45°)までは小判型の断面形状と同様であるが、編み地の面と水平な90°付近には反射光強度のピークが見られないことが特徴である。
【0021】
したがって、小判型で述べたように足正面から見たときの透明性が高くなる効果と共に足側面での反射光が抑制されることにより、素足のように見えると共にストッキング着用時のシャドウ効果が有効に機能し、足が細く、美しく見えるのである。
【0022】
編み地の面と水平な90°付近には反射光強度のピークが見られない理由については、扁平断面の長軸面に1つまたは2つの凹部を有していることにより編み地の面と水平な方向には光の反射を抑制しているためであると推定され、本発明の断面形状によってストッキングの透明性とシャドウ効果の向上が達成できるものである。
【0023】
なお、扁平断面の長軸面に3つ以上の凹部を有する場合、扁平度が高くなり過ぎて強度が低下すること、口金の吐出孔形状が複雑になるため、さらに吐出孔面積が広くなるために操業性低下につながりやすく、好ましくない。
【0024】
さらに本発明のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントは、凹部以外を構成する扁平断面の両端では変曲点を有さない。ここで、変曲点とは、関数の凹凸が変化する境目であり、凹部以外の変曲点とは、図9のキ型断面で説明すると外接する長方形の長辺と接している凸部頂点から外接する長方形の短辺と接している凸部頂点までに存在する変曲点を指しいる。これは、扁平断面の長軸の端部に凸部が形成される場合、多葉断面と同様に乱反射が発生して、ストッキングの透明性を低下させるので好ましくないためである。具体的には本発明の扁平断面は長軸面に1つまたは2つの凹部を有しているため、長軸面に頂点を有している。頂点のうち長軸方向において端の頂点から長軸を構成する扁平断面の末端を経由して反対面の次の頂点までは変曲点を有さないことにより、表面乱反射によるストッキングの透明性低下を抑制できる。好ましい様態の例としては、丸断面が2つまたは3つ直線上に並んでいるごとき形態、または長方形の長辺に1つまたは2つの凹部を設けたごとき形態が挙げられる。
【0025】
また、ストッキングのレッグ部に用いる場合には、トータル繊度が7〜15デシテックスとすることが好ましく、フィラメント数としては2〜8本とすることが好ましい。これは、ストッキングとしたとき透明性と自然な表面反射光特性を発現させるため、さらにストッキングとしての実用耐久性から上記範囲にトータル繊度、フィラメント数を設計することが好ましいためである。トータル繊度が7デシテックス未満の場合、ストッキングとして破裂強力や摩擦耐久性が十分となりにくい。一方、15デシテックスを越える場合には、透明性が低下するため、本発明が目指す特性を十分に発現しにくい。一方、フィラメント数としてもモノフィラメントでは被覆性が十分となりにくいため、摩擦耐久性を維持することが難しく、9フィラメント以上はフィラメント数増加による表面積増加によってストッキングの透明性が低下しやすい。中でも単糸繊度1.3〜2.5デシテックスとすることにより透明性と自然な表面反射光特性を発現させることが可能となり、より好ましい。
【0026】
また、本発明の好ましい態様としては、短辺の長さSの凹部底部長さBSに対する比であるS/BS=1.05〜2.5とするものである。すなわち、凹部の形状を規定することにより、前述の表面反射特性を十分に発現させることができる。すなわち、S/BSが1.05未満の時には、小判型の扁平断面との差を顕著に発現させることが難しくなり、逆に2.5を越える時には突起と同様に乱反射が支配的となりストッキングの透明性低下を引き起こしてしまいやすい。なかでもS/BSが1.05〜1.5とすることによりより自然な表面反射特性を発現すると共に扁平断面化による強度低下を抑制することが可能となり好ましい。ここで、BSとは断面の外接する長方形の長辺と平行でかつ凹部底部に内接する2本の線の間隔を意味する。
【0027】
本発明のカバリング糸用ポリアミドフィラメントはフラットヤーンとして用いることが好ましい。これは仮撚加工等捲縮加工の施されていない長繊維を意味し、仮撚糸とすると断面が異形化すること、さらに繊維軸方向に凹凸が生じるため透明性が低下するためである。
【0028】
本発明においては上記フラットヤーンの伸度は20〜60%とすることが好ましい。伸度を上記範囲とすることにより、かつ強度をより高く設計することができ、例えばトータル繊度を細繊度化し、透明性をより高める設計が可能となるためである。この中でも伸度が30〜50%の範囲に設定することにより、強度と高次通過性を共に向上させることができる。
【0029】
本発明のカバリング糸用ポリアミドフィラメントは、扁平な断面形状を有しているため、パッケージフォーム(バルジ、サドル)も良好であり、糸落ちに対しても非常にタフである。良好なパッケージフォームは、パッケージからの解舒安定性を生み、高次通過性や製品品位の安定性にも寄与する。
本発明でいうポリアミドは、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結された高分子量体であって、好ましくは、染色性、洗濯堅牢度、機械特性に優れる点から、主としてポリカプロアミド、もしくはポリヘキサメチレンアジパミド等のポリアミドであることが好ましい。ここでいう主としてとは、ポリカプロアミドではそれを構成する全アミド単位中ε−カプロアミド単位として、ポリヘキサメチレンアジパミドではそれを構成する全アミド単位中ヘキサメチレンアジパミド単位として80モル%以上であることをいい、さらに好ましくは90モル%以上である。その他の成分としては、特に制限されないが、ポリカプロアミドの場合は、ヘキサメチレンアジパミド単位、ポリヘキサメチレンアジパミドの場合には、カプロアミド単位の他、例えば、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等を構成するモノマーである、アミノカルボン酸、ジカルボン酸、ジアミンなどの単位が挙げられる。
【0030】
本発明でいうポリアミドの重合度は、必要とする糸強度、初期引張抵抗度等を考慮して適宜選択して良いが、98%硫酸相対粘度で2.0〜3.3の範囲が好ましい。
【0031】
さらに必要に応じて光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、末端基調節剤、染色性向上剤等が添加されていてもよい。また、紫外線吸収や接触冷感、抗菌性等の付与のため、無機粒子や有機機能剤の添加を行うことも可能である。しかしながら、透明性低下を招くため、1μmを超える無機粒子の添加は好ましくなく、白色顔料も含めて無機粒子の添加は0.3%未満であることがより好ましい。
【0032】
上記のようなカバリング糸用ポリアミドフィラメントは、例えば下記のようにして製造することができるが、もちろんこれに限定されるものではない。
【0033】
溶融紡糸の方法として、用いる口金の一例として長軸面に1つの凹部を有する扁平断面は、例えばスリットの両端に丸孔を配した口金を用いることができる。この場合、吐出孔のスリット幅H、スリット方向の吐出孔長さN、丸孔の直径Dの比としては、スリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さNを4〜20、丸孔の直径Dを1.5〜4とすることにより得られる。2つの凹部を有する扁平断面も同様にスリットの両端および中心に丸孔を配した口金を用いることで得られる。上記口金から溶融ポリマーを吐出させ、冷却、給油後、1500〜4000m/min程度で引取り(第1ゴデーローラー)、次の第2ゴデーローラーとの間で1.0〜3.0倍程度の延伸を行った後で、3000m/min以上で巻き取ることができる。この際、第1ゴデーローラーと第2ゴデーローラーの間の延伸倍率(延伸倍率が高いと伸度は低くなる)、巻取速度(巻取速度が高いと低くなる)を適切に設計することにより、狙いとする強度・伸度を得ることが可能となる。また、第2ゴデーロールを150〜170℃の加熱ロールとすることで熱処理を行うことは好ましく行われる。各ゴデーロールはネルソンローラー、駆動ローラーに従動型のセパレートローラがついたもの、さらに片掛けローラーのいずれでも問題はない。またローラーとフィラメントの滑りを抑制するためにローラーの表面状態を平滑にしたり、糸離れを良くするために第2ゴデーロールを溝付きにしたり、梨地とすることは好ましく行われる。
【0034】
油剤はローラー給油、ガイド給油などによってマルチフィラメントに付与され、巻取時の有効成分付着量はマルチフィラメント重量当たり0.4〜1.5重量%程度が好ましい。油剤の付与は紡糸工程中、1度でも複数回に分けて行われても問題ない。複数回に分けて行う場合には、有効成分量が低い油剤を付与した後、有効成分量が高い油剤を付与することが好ましい。
【0035】
油剤の種類としては、特に制限はなく、脂肪酸エステル、非イオン乳化剤、制電剤等を混合分散させて用いることができる。
【0036】
本発明のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントは、弾性糸を芯糸とし、鞘糸として巻き付ける時に用いられる。
【0037】
弾性糸としては、ポリウレタン系弾性繊維、ポリアミド系エラストマ弾性繊維、ポリエステル系エラストマ弾性繊維、天然ゴム系繊維、合成ゴム系繊維、ブタジエン系繊維等が用いられ、弾性特性や熱セット性、耐久性等により適宜選択すればよい。中でも上記特性から好ましいのは、ポリウレタン系弾性繊維及びポリアミド系エラストマ弾性繊維である。弾性糸の太さは、靴下の用途、締め付け圧の設定により異なるが、耐久性と透明性を両立させるためには、一般に8〜40デシテックス程度であればよい。なかでも好ましいのは14〜25デシテックスである。8デシテックス未満では、糸強力が不足するのでカバリング時及び編立て時に芯糸切れ等のトラブルを生じ易く、靴下としての伸縮性、耐久性が不十分となり易いので好ましくない。逆に、40デシテックスを越えると締付け力が強くなり過ぎて粗硬感が強くなり、好ましく、透明性も低下しやすいため、好ましくない。
【0038】
カバリング撚数としては被覆糸の繊度、収縮率や製品風合い、透明性、耐久性を考慮して設計すればよい。カバリング撚数を上げると見かけ太さが細くなるため、透明性が向上する方向にあるが、上げすぎると弾性糸を締め付けすぎて耐久性が落ちたり、カバリング工程の生産性が低下するため、好ましくない。また、カバリング撚数が低すぎると被覆性が低下して耐久性と透明性が低下するため、好ましくない。したがって例えば、11デシテックスの被覆糸をシングルカバリングする時には1800〜2400T/mを目安に設計することが好ましい。さらにダブルカバリングする際には、下撚数の0.7〜0.9倍を目安に設定すればよく、撚方向としても下撚と上撚を同方向、逆方向のどちらでも設定可能であるが、トルクを抑制するために逆方向にカバリングすることが好ましい。また、ドラフト倍率も狙いとする着圧に合わせて設計すればよく、例えば、2.5〜3.5倍に設定することが好ましい。
【0039】
なお、カバリング糸を製造する場合は、常法のカバリング加工を実施すればよい。例えば、繊維の百科事典(丸善株式会社、平成14年3月25日発行、p439)に記載の加工を実施すればよい。すなわち一例を挙げると弾性糸を定速で引きだし、2つのローラー間で一定のドラフトをかけた状態で、予めHボビンに巻き付けた被覆糸を弾性糸に一定のカバリング撚数にて巻き付け、得られたカバリング糸をチーズに巻き取るものである。
【0040】
本発明のカバリング糸用ポリアミドフィラメントは、ストッキングに好ましく用いられる。なかでもストッキングとしては透明性、素足感とシャドウ効果に優れた光沢感を生かしてレッグ部に好ましく用いられる。ここで、ストッキングとは、パンティストッキング、ロングストッキング、ショートストッキングで代表されるストッキング製品が挙げられ、レッグ部とは、例えばパンティーストッキングの場合、ガーター部からつま先までの範囲を指す。
【0041】
また、ストッキングの編機として、通常の靴下編み機を用いることができ、制限はなく、2口あるいは4口給糸の編機を用い、本発明のカバリング糸を供給して編成するという通常の方法で編成すればよい。シングルカバリング糸の場合は、S方向カバリングのシングルカバリング糸とZ方向カバリングのシングルカバリング糸とを交互に編む方法が好適である。その他シングルカバリング糸と生糸の交編、ダブルカバリング糸と生糸の交編などが挙げられる。さらに編機の針本数としてはおおむね360〜474本が用いられ、針本数が少ないほど、透明性は高くなるが、破裂強さは劣り、針本数が多くなるほど破裂強さは向上するが、透明性は低下する傾向にある。したがって、使用する被覆糸、弾性糸の繊度と狙いとする耐久性、透明性に合わせて選択することができる。一例として被覆糸13デシテックスにて針本数360〜400本、同様に11デシテックスの時針本数400〜440本、8デシテックスの時440〜474本とすることが好ましい。
【0042】
さらに編成後の染色やそれに続く後加工、ファイナルセット条件についても公知の方法にしたがい行えばよく、染料として酸性染料、反応染料を用いることやもちろん色なども限定されるものではない。
【0043】
また、上記カバリング糸は、発色性、被覆性、肌触りに優れ、肌着用の丸編にも好ましく用いられる。肌着として用いる場合は、丸編みの供給糸のうち一部、もしくは全部を本カバリング糸とすることにより、自然な光沢感を有しながら薄地感を有する肌着とすることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。
【0045】
なお、実施例および比較例における各測定値は、次の方法で得たものである。
【0046】
A.断面形状
被覆糸に用いる繊維の任意の位置にて横断面方向に薄切片を切り出し、透過顕微鏡で繊維横断面を単糸本数として100本撮影し、倍率1000倍でプリントアウト(三菱電機社製SCT−P66)した後、スキャナー(エプソン社製GT−5500WINS)を用いて取り込み(白黒写真、400dpi)、ディスプレー上で1500倍に拡大した状態で、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて長軸長さLと短軸長さSの比=L/Sおよび、短辺の長さSに対して凹部底部長さBSとの比=S/BSを算出し、100本から得られた値の数平均値から扁平度=L/S、とS/BSを求めた。
【0047】
B.編み地反射光強度の角度依存性測定
測定装置としてGONIO PHOTOMETER(村上色彩技術研究所製 GP−200)を用いた。測定条件としては、光束絞り=3.0、受光絞り=2.0、入射角=45°、あおり角=0°、反射角=−45°〜90°、SENSITIVITY=940、さらに付属の標準白色板(STD4010A)を用いて光沢度の最高値が100となるようにHIGH VOLT=628に設定した。また、測定時のサンプル位置、入射光方向、反射光の測定角度についての位置関係を図10に示した。
【0048】
測定に用いるストッキング製品は、染色の色による影響を取り除くため、油剤や汚れを取り除く精練工程(90℃×30min)を行い、その後染色工程や固着剤付与、柔軟剤付与工程については、染料や固着剤、柔軟剤を付与しない白生地の状態で熱処理のみ行い、最終セット(スチームセット110℃×60sec)を通したものを用いる。
【0049】
ストッキング製品を足形に履かせ、踵から大腿部方向に65cmの位置にガーター部を合わせた上で、踵から大腿部方向に57.5cmの位置を中心として、直径10cmの刺繍枠で着用状態の伸長状態を固定した。その上で、着用状態で垂直方向3cm、水平方向2cmの内窓を有する固定枠に刺繍枠中心部のストッキング製品を固定させた。これにより大腿部の着用状態と同じ状態で反射光強度の角度依存性を測定するものである。固定枠はストッキング製品の表の面(肌と接しない側)を測定面として測定装置に設置した。なお、受光部において編み地の背面には、なにも置かないこととした。
なお、足形は人間の足に似せて作成しており、つま先から踵までの長さが23.5cm、つま先から足の裏方向に13.5cm離れた土踏まず部分の周長が22.5cm、踵から大腿部方向に8cmの足首部の周長が22cm、踵から大腿部方向に25cmのふくらはぎ部の周長が34.5cm、踵から大腿部方向に43cmの膝裏部の周長が37cm、踵から大腿部方向に50cmの大腿部の周長が39.5cm、踵から大腿部方向に60cmの大腿部の周長が48cmとなっている。
【0050】
C.98%硫酸相対粘度(ηr)
(a)試料を秤量し、98重量%濃硫酸に試料濃度(C)が1g/100mlとなるように溶解する。
(b)(a)項の溶液をオストワルド粘度計にて25℃での落下秒数(T1)を測定する。
(c)試料を溶解していない98重量%濃硫酸の25℃での落下秒数(T2)を(2)項と同様に測定する。
(d)試料の98%硫酸相対粘度(ηr)を下式により算出する。測定温度は25℃とする。
(ηr)=(T1/T2)+{1.891×(1.000−C)}。
【0051】
D.伸度測定
JIS L1013−1992 7.5引張強さ及び伸び率に準じて測定を行った。試験条件としては、試験機の種類としては定速緊張形、つかみ間隔50cmにて行った。
【0052】
実施例1
98%硫酸相対粘度が2.7で酸化チタン等無機粒子を含まないポリカプロアミド(以下ナイロン6)チップを275℃で溶融し(紡糸温度は270℃)、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=4.4、丸孔の直径D/H=2.0)となるスリット形状の吐出孔を有する紡糸口金から吐出させ、冷却、ガイド給油により油剤(油剤有効成分として脂肪酸エステル、非イオン乳化剤、制電剤を含む)付与後、交絡圧空圧0.2MPaにて交絡を付与し、第1ゴデーロールに片掛けして引取り、巻き取ることなく、155℃に加熱している第2ゴデーロールに片掛けして、第1と第2ゴデーロール間で延伸、第2ゴデーロールにて熱セットした後、東レエンジニアリング社製TW−716ワインダーを用いて、巻取張力1.3cNで巻取速度4000m/minの速度で11デシテックス5フィラメントのポリアミドフィラメントを1パッケージ当たり3kgで巻き取った。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0053】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが1.8、S/BS=1.07であり、2つの丸断面が重なり合いながら並んでいるごとき断面形状(図1)となっていた。伸度は44%であった。また、トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0054】
実施例2
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端と中心に丸孔を有する吐出孔(吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=10.6、両端の丸孔の直径D/H=2.5、中央部の丸孔の直径D/H=2.0)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整した。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0055】
断面形状は、長軸面に2つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが3.0、S/BS=1.20であり、3つの丸断面が重なり合いながら並んでいるごとき断面形状(図4)となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0056】
実施例3
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、長い中央のスリットの両端に各2本ずつ短いスリットが、中央のスリットに対して135°の角度で合計4本配置した吐出孔(スリット幅0.1mm、スリット長0.2mmの両端にスリット幅0.07mm、スリット長さ0.1mmのスリットが中央のスリットに対して135°の角度で合計4本配置した吐出孔)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整した。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0057】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが2.0、S/BS=1.20であり、2つの長方形が凹部でつながりながら並んでいるごとき断面形状(図5)となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0058】
実施例4
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=4.1、丸孔の直径D/H=2.2)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整した。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0059】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが1.6、S/BS=1.20であり、図2のように2つの丸断面が重なり合いながら並んでいるごとき断面形状となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0060】
実施例5
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=18.5、丸孔の直径D/H=2.1)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整した。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0061】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが3.8、S/BS=1.20であり、ドックボーンのごとき断面形状となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0062】
実施例6
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=6.1、丸孔の直径D/H=2.0)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整した。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0063】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが2.0、S/BS=1.13であり、図2のように2つの丸断面が重なり合いながら並んでいるごとき断面形状となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0064】
実施例7
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=6.1、丸孔の直径D/H=3.0)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整した。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0065】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが2.0、S/BS=2.80であり、図2のように2つの丸断面が重なり合いながら並んでいるごとき断面形状となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0066】
実施例8
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=6.1、丸孔の直径D/H=2.3)を用い、ポリマーの吐出量と吐出孔の数を変え、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整して9デシテックス3フィラメントのポリアミドフィラメントを巻き取った。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0067】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが2.0、S/BS=1.20であり、図2のように2つの丸断面が重なり合いながら並んでいるごとき断面形状となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0068】
実施例9
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=7.8、丸孔の直径D/H=2.3)を用い、ポリマーの吐出量と吐出孔の数を変え、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整して13デシテックス7フィラメントのポリアミドフィラメントを巻き取った。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0069】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが2.2、S/BS=1.36であり、図2のように2つの丸断面が重なり合いながら並んでいるごとき断面形状となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0070】
比較例1
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、0.2mmの丸孔を有する吐出孔を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整して、11デシテックス5フィラメントの丸断面ポリアミドフィラメントを巻き取った。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0071】
トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0072】
比較例2
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=4.4、丸孔の直径D/H=1.3)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整して11デシテックス5フィラメントのポリアミドフィラメントを巻き取った。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0073】
断面形状は、長軸面に凹部が存在しない小判型であり、扁平度=L/Sが2.0である断面形状(図7)となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0074】
比較例3
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、Y字状に中心から3本のスリットが120°の角度を保ちながら構成された吐出孔(スリット幅0.07mm、スリット長さ1.0のスリットが中心から120°ずつ3方向に配置されてY型となっている)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整して11デシテックス5フィラメントのポリアミドフィラメントを巻き取った。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0075】
断面形状は、Y字型であり、断面の外接円直径(OC)を内接円直径(IC)で割ったM値=2.4となる断面形状(図8)となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.2重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生はなかったが、ドラム端面の膨れが大きかった。
【0076】
比較例4
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、キ字状に長いスリットに2本の短いスリットが平行して直交している吐出孔(スリット幅0.07mm、スリット長さ3.0mmのスリットに直行してスリット幅0.07mm、スリット長さ1.0mmのスリットが2本水平に線対称に配置されてキ型となっている)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整して11デシテックス5フィラメントのポリアミドフィラメントを巻き取った。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れ2回と口金吐出孔が複雑であるため、糸切れが多かった。また、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0077】
断面形状は、キ字型であり、長軸面の頂点と長軸を構成する扁平断面の末端との間に変曲点が存在していた(図9)。すなわち、小判型の扁平断面の長軸面からそれぞれ2本の凸部がでている形状となっていた。扁平度=L/Sは2.5、S/BS=2.0となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.2重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生はなかったが、ドラム端面の膨れが大きかった。
【0078】
比較例5
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように単糸1本あたり0.15mmの丸孔を中心間距離0.2mm開けて配置)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整した。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れなく、巻取張力の変動は小さく安定していた。
【0079】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが1.3、S/BS=1.20であり、小判型断面の中央に凹部を有するような断面形状となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0080】
比較例6
特記しない限りは実施例1と同様の方法で以下の通り紡糸を実施した。吐出孔形状としては、スリットの両端に丸孔を有する吐出孔(図15に示すように吐出孔のスリット幅Hを1としたとき、スリット方向の吐出孔長さN/H=24.0、丸孔の直径D/H=2.1)を用い、伸度が44%となり、巻取張力が1.3cNとなるように第1および第2ゴデーロールの速度を調整した。100kgの原料を用いての操業性評価では糸切れ1回でやや糸切れが多く、巻取張力の変動は若干大きかった。
【0081】
断面形状は、長軸面に1つの凹部が存在し、扁平度=L/Sが4.5、S/BS=1.20であり、ドッグボーンのごとき断面形状となっていた。トリクロロエチレンで油剤を抽出後、トリクロロエチレンを100℃で蒸発させて残留物の重量を測定する方法で確認したところ、油分は1.0重量%であった。巻き取ったパッケージは糸落ちの発生もなく、フォームも良好で解舒性もスムーズで優れたパッケージフォームとなっていた。
【0082】
【表1】
【0083】
得られた実施例および比較例のポリアミドフィラメントを鞘糸に、芯糸にポリウレタン弾性糸(日清紡社製モビロン Kタイプ 繊度19デシテックス)を用い、ドラフト倍率2.6倍、カバリング撚数として、11デシテックスの時には2200T/m、9デシテックスの時には2400T/m、13デシテックスの時には2000T/mの条件にてS撚のカバリング、Z撚のカバリングを行ない、各2種のカバリング糸を得た。
【0084】
上記カバリング糸を用いて永田精機(株)製のスーパー4編機(針数400本)で、S方向シングルカバリング糸とZ方向シングルカバリング糸とを交互に編機の給糸口に供給し、レッグ部編地がカバリング糸のみで編成した。精練した後、淡ブラウンに染色し(98℃×20min)、仕上げ及び型板セット(スチームセット、110℃×60sec)してパンティストッキング製品とした。
【0085】
編み地反射光強度の角度依存性測定を行い、実施例1、比較例1、比較例2、比較例3の結果をそれぞれ図11〜14に示した。図12に比較例1の丸断面および図13に比較例2の小判型のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果を示す。共に編み地に対して入射光の角度を45°とした時、正反射である45°の角度と編み地の面と水平な90°付近に反射光強度のピークが見られる。すなわち、ストッキングを着用した場合を想定したとき、編み地の面と水平な90°付近に反射光強度のピークが見られることから、観察者から見て足の側面において強い反射光が発生していることを意味しており、すなわち足の両側面から強い反射光により、白っぽく見えていることを示している。
【0086】
一方、図11には実施例1のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果を示す。入射光方向(−45°)から正反射方向(45°)までは丸断面や小判型の断面形状と同様であったが、編み地の面と水平な90°付近には反射光強度のピークが見られなかった。これは、他の実施例を用いたストッキングの編み地においても同様なピーク形状であった。
【0087】
また、図14には比較例3のY字型のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果を示す。図11〜13と比較したとき、入射光方向(−45°)から正反射(45°)前までは全体として高いのに対して、正反射(45°)のピークは低く、さらに編み地の面と水平な90°付近には反射光強度のピークが見られないことが特徴である。すなわち、ストッキングを着用した場合を想定したとき、足全体が白っぽく光って見えており、透明感に欠けることを意味している。同様に比較例4を用いたストッキングは、比較例3と同様の反射光強度の角度依存性を有していた。また、比較例5および6は比較例1および比較例2と同様の反射光強度の角度依存性を有していた。
【0088】
実際に比較例1〜3と実施例1のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングを編み地反射光強度の角度依存性測定に用いた足形に履かせて北窓に面して垂直に配置し、観察者が窓に向かって観察した。なお、サンプルは淡ブラウンに染めたサンプルを用いた。比較例3では、全体に白っぽく光り、透明感が感じられなかった。比較例1および2では比較例3と比較して透明性に優れているものの観察者から見て足の側面部分が白っぽく見えるためにストッキングを着用していることを強く感じてしまうレベルであった。一方、実施例1では比較例1および2と同レベルまたは同レベル以上の透明性を有しながら足の側面部分での白っぽい光が抑制され、素足感が優れていた。
【0089】
他の実施例のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングにおいても実施例1と同様に足の側面部分での白っぽい光が抑制され、素足感に優れていた。一方、比較例4は、比較例3と同様に全体に白っぽく光り、透明感が感じられず、比較例5および6は、比較例1および2と同様、足の側面部分が白っぽく見えるためにストッキングを着用していることを強く感じてしまうレベルであった。
【0090】
表1には、淡ブラウンに染色したパンティーストッキングを編み地反射光強度の角度依存性測定に用いた足形に履かせて北窓に面して垂直に配置し、観察者が窓に向かって観察したときの透明性とシャドウ効果についてパンティーストッキングの商品開発熟練者3名による評価結果を記載した。透明性としては、◎:透明性に優れている、○:一般商品レベル、×:透明性に劣るの3段階とした。シャドウ効果としては、◎:優れている、○:一般商品レベル、×:劣っているの3段階で評価した。
【0091】
実施例のパンティーストッキングは、透明性が高く、シャドウ効果も高いため、美脚効果に優れていた。一方、比較例3、および4では、全体的に白っぽく、透明性が明らかに劣っていた。また、比較例1、5は一般商品レベルの透明性とシャドウ効果であった。さらに比較例2および6では透明性は優れていたもののシャドウ効果は実施例に比べて劣るものであった。
【0092】
また、触感の比較をパンティーストッキングの商品開発熟練者3名により実施したところ、比較例1を基準とすると比較例2がソフトになっているのに対して、比較例3、4は粗硬となっていた。一方、実施例では全体にサラッとした肌離れのよい触感となっており、特に実施例7と実施例9においてその傾向が強かった。
【0093】
また、仕上げたパンティーストッキングを足形にいれて伸長した状態でカバリング糸の被覆状況を観察した。実施例のカバリング糸用ポリアミドフィラメントを用いた製品では、スパンデックスの周りをリボン状に被覆しており、スパンデックスの露出部分は少なく、被覆性良好であった。また、パンティーストッキングの製品品位としても優れていた。
【0094】
一方、比較例3および4では、カバリングの撚数が安定しておらず、撚だまりや弾性糸と併走する部分も見られた。比較例1および5では比較的良好に被覆されているものの一部に被覆されていない弾性糸が観察された。また、比較例2および比較例6では、実施例同様良好な被覆性を有していた。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の長軸面に1つの凹部を有する扁平断面の一例
【図2】本発明の長軸面に1つの凹部を有する扁平断面の別の一例
【図3】本発明の長軸面に2つの凹部を有する扁平断面の一例
【図4】本発明の長軸面に2つの凹部を有する扁平断面の別の一例
【図5】本発明の長軸面に1つの凹部を有する扁平断面の別の一例
【図6】本発明の長軸面に1つの凹部を有する扁平断面の別の一例
【図7】比較例の小判型断面の一例
【図8】比較例のY字型断面の一例
【図9】比較例のキ字型断面の一例
【図10】編み地反射光強度の角度依存性測定における位置関係説明図
【図11】本発明の実施例1に示すカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果の一例
【図12】丸断面ポリアミドマルチフィラメント(比較例1)を用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果の一例
【図13】小判型断面ポリアミドマルチフィラメント(比較例2)を用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果の一例
【図14】Y型断面ポリアミドマルチフィラメント(比較例3)を用いたストッキングの編み地反射光強度の角度依存性測定結果の一例
【図15】吐出孔形状の一例
【符号の説明】
【0096】
L:長辺の長さ、S:短辺の長さ、BS:凹部底部長さ、LP:外接する長方形の下部長辺に面している部分を囲んでいる楕円、OC:外接円、IC:内接円、H:スリット幅、N:吐出孔長さ、D:丸孔の直径
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状として断面に外接する長方形の長辺の長さL、短辺の長さSとするとき、扁平度=L/Sが1.5〜4.0の扁平断面を有し、扁平断面の長軸に対して線対称な形状であり、長軸面に1つまたは2つの凹部を有し、凹部以外を構成する扁平断面の両端では変曲点を有さないことを特徴とするカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメント。
【請求項2】
短辺の長さSの凹部底部長さBSに対する比であるS/BS=1.05〜2.50であることを特徴とする請求項1記載のカバリング糸用ポリアミドフィラメント。
【請求項3】
弾性繊維からなる芯糸にカバリング糸用マルチフィラメントとして請求項1または2記載のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたカバリング糸。
【請求項4】
請求項3記載のカバリング糸をレッグ部の少なくとも1部に用いることを特徴とするストッキング。
【請求項1】
断面形状として断面に外接する長方形の長辺の長さL、短辺の長さSとするとき、扁平度=L/Sが1.5〜4.0の扁平断面を有し、扁平断面の長軸に対して線対称な形状であり、長軸面に1つまたは2つの凹部を有し、凹部以外を構成する扁平断面の両端では変曲点を有さないことを特徴とするカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメント。
【請求項2】
短辺の長さSの凹部底部長さBSに対する比であるS/BS=1.05〜2.50であることを特徴とする請求項1記載のカバリング糸用ポリアミドフィラメント。
【請求項3】
弾性繊維からなる芯糸にカバリング糸用マルチフィラメントとして請求項1または2記載のカバリング糸用ポリアミドマルチフィラメントを用いたカバリング糸。
【請求項4】
請求項3記載のカバリング糸をレッグ部の少なくとも1部に用いることを特徴とするストッキング。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−277739(P2007−277739A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102587(P2006−102587)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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