説明

カルシウムリッチ植物及びその栽培方法

【課題】 一般の圃場で得られた健全な生育で健康に役立つカルシウムリッチ植物を提供する。
【解決手段】 石膏を施用する圃場で栽培することにより得られる植物であって、該植物のカルシウム含有率が石膏を施用しない圃場で栽培した同一植物の1.2倍以上であるカルシウムリッチ植物;及び粒状の石膏を60Kg/10a以上施用した圃場で植物を栽培することを特徴とする前記植物の栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウムリッチ植物及びその栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物にとってカルシウムは窒素、リン、加里の三要素に次いで多量に必要とする重要な要素だが、最近の土壌分析結果ではpHが弱酸性〜弱アルカリ性でカルシウムも十分にあるのに、作物にカルシウム欠乏症が発生するという事例が報告されている。
【0003】
通称炭カルといわれる炭酸カルシウムや、消石灰などは、施肥量を増やしても土壌溶液中のカルシウム増加量は低く、土壌溶液中のカルシウム濃度が低かった。炭酸カルシウムの場合、水に対するカルシウム溶解度は1.4mg/100gと低いため、植物に吸収されにくかった。
【0004】
一般に使用されている化成肥料や過リン酸石灰には、石膏の混じっているものが多くあり、従来から圃場には石膏が施用されている。しかし、酸性土壌が多い日本において弱酸性である石膏を積極的に施用することは行われていない。
【0005】
特許文献1には、カルシウムを多く含む野菜の栽培方法が記載されている。しかし、特許文献1で具体的に開示されている栽培方法は、従来より葉面散布剤として使用されている溶解度の高い塩化カルシウムを用いた水耕栽培である。発明の詳細な説明には、栽培溶液にCaClを0.05〜1.0w%というように、従来の栽培溶液に比べて、25〜500倍といった高濃度のCaを含ませることにより、従来の6倍以上のカルシウムを含有する野菜(貝割大根)を得ることができることが記載されている。しかし、この方法は高濃度の塩化カルシウムを用いているため、生育の良い野菜を得ることはできない。
【0006】
特に、一般の土耕栽培では、溶解度の高い塩化カルシウムの土壌施用は、土壌中の塩類濃度が高まり、生育障害が発生するので、生育が健全なカルシウムリッチ植物は期待できない。
このため、健全な生育で健康に役立つカルシウムリッチ植物の開発が広く求められていた。
【0007】
【特許文献1】特開2001−346461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、一般の圃場で得られた健全な生育で健康に役立つカルシウムリッチ植物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために研究を重ねていく中で、一般の圃場に多量の石膏を施用することにより、一部の植物について、生育の良好なカルシウムリッチ植物が得られることを見出した。更に本発明者らは、酸性土壌に石膏を施用しても、土壌pHがほとんど変化しないことを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)石膏を施用する圃場で栽培することにより得られる植物であって、該植物のカルシウム含有率が石膏を施用しない圃場で栽培した同一植物の1.2倍以上であるカルシウムリッチ植物。
(2)当該植物の重量が、石膏を施用しない圃場で栽培した同一植物の重量と同等以上である前記(1)に記載のカルシウムリッチ植物。
(3)メイケナ、コマツナ、ハクサイ、ダイコン、サトイモ、トウモロコシ、ホウレンソウ、シュンギク、チンゲンサイ、ネギ、タマネギ、キャベツ、アルファルファ、ダイズ、エダマメ、落花生、牧草及びリンドウから選ばれる前記(1)又は(2)に記載のカルシウムリッチ植物。
(4)石膏を60Kg/10a以上施用した圃場で植物を栽培することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のカルシウムリッチ植物の栽培方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明で得られたカルシウムリッチな植物は、従来品の1.2倍以上のカルシウムが含有されているため、日常の食事でカルシウムを摂取でき、骨粗鬆症の多い日本においては、健康野菜等として特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
石膏は、二水石膏、半水石膏、無水石膏に分類され、具体的には、天然石膏(二水石膏)や、リン鉱石からリン酸を製造する工程で副生するリン酸石膏(二水石膏)、その他の副産石膏(排脱石膏、チタン石酸石膏、鉱水・精練石膏、硫酸石膏等)等が挙げられる。
【0013】
本発明では、前記の石膏のうち、二水石膏、或いは二水石膏が含まれている混合石膏(例:二水石膏と半水石膏の混合石膏)を使用することが好ましく、二水石膏だけを使用することがより好ましく、肥料取締法で特殊肥料に認定されているリン酸石膏(二水石膏)を用いることが最も好ましい。
【0014】
本発明に用いる石膏は、機械施肥が可能な硬度を有する粒状石膏であることが好ましい。また、本発明に用いる石膏は、機械施肥が可能な硬度を有する崩壊性粒状石膏であることが更に好ましい。これは、崩壊性のない粒状石膏の場合は、石膏の粒がそのまま土の中に施用されるのに対して、崩壊性粒状石膏の場合は、機械施用後、石膏が土中で崩壊するため、崩壊性粒状石膏は、粉末の石膏を畑全体に施用するのと同じ効果が得られるためである。具体的には、畑のカルシウム(コープケミカル株式会社製)が挙げられる。
【0015】
本発明のカルシウムリッチ植物は、石膏を施用する圃場で栽培することにより得られる植物であって、該植物のカルシウム含有率が石膏を施用しない圃場で栽培した同一植物の1.2倍以上であることを特徴とするものである。なお、本発明のカルシウムリッチ植物は、該植物のカルシウム含有率が石膏を施用しない圃場で栽培した同一植物の1.3倍以上、1.4倍以上、1.5倍以上、1.6倍以上、1.8倍以上の順に好ましく、最も好ましくは2.0倍以上の植物である。
【0016】
「石膏を施用する圃場」は、「石膏だけを施用する圃場」、「石膏と第三成分(肥料等)を施用する圃場」のどちらでもよい。また、「石膏を施用しない圃場」は、「石膏を施用する圃場」が「石膏だけを施用する圃場」である場合には「無施用の圃場」を意味し、「石膏を施用する圃場」が「石膏と第三成分を施用する圃場」である場合には、「第三成分だけを施用する圃場」を意味するものとする。
【0017】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
本発明のカルシウムリッチ植物は、圃場に、慣行区〔石膏:0Kg/10a、肥料は標準施用(作物の種類と生産地によって異なるが、化成肥料(N:15〜40Kg/10a、P:15〜40 Kg/10a、KO:15〜40Kg/10a)や炭酸カルシウム等を施用するのが一般的)〕、及び施用区〔石膏100Kg/10a、施用する肥料の種類と添加量は慣行区と同じ〕を設定して植物を栽培した場合、施用区で栽培した植物のカルシウム含有率(乾物当たり)は、慣行区で栽培した同一植物のカルシウム含有率(乾物当たり)の1.2倍以上であることが好ましい。また、本発明のカルシウムリッチ植物は、施用区で栽培した植物のカルシウム含有率(乾物当たり)が、慣行区で栽培した同一植物のカルシウム含有率(乾物当たり)の1.3倍以上、1.4倍以上、1.5倍以上、1.6倍以上、1.8倍以上の順に好ましく、2倍以上が最も好ましい。
【0018】
また、本発明のカルシウムリッチ植物は、石膏を施用する圃場で栽培した植物の総重量が、石膏を施用しない圃場で栽培した同一植物の総重量の同等以上であることが好ましい。更に、本発明のカルシウムリッチ植物は、石膏を施用する圃場で栽培した植物の総重量が、石膏を施用しない圃場で栽培した同一植物の総重量の1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上の順に好ましく、1.5倍以上であることが最も好ましい。
【0019】
本発明のカルシウムリッチ植物は、石膏を施用する圃場で栽培することにより得られる植物(例:葉菜、根菜、果菜、豆類、いも類、牧草、花卉類、観葉植物)であって、該植物のカルシウム含有率が石膏を施用しない圃場で栽培した同一植物の1.2倍以上である植物であれば特に限定されない。
【0020】
具体的には、メイケナ(女池菜)、コマツナ、ハクサイ、ホウレンソウ、キャベツ、アルファルファ、トウモロコシ、ネギ、シュンギク、チンゲンサイ等の葉菜、タマネギ、ダイコン等の根菜類、落花生、ダイズ、エダマメ等の豆類、サトイモ等のイモ類、リンドウ等の花卉類、観葉植物、及び牧草が挙げられる。これらの植物は、本発明の栽培方法によって、カルシウム欠乏症がなくなり、生育が良好になることが確認されている。
【0021】
石膏の施用量は本発明のカルシウムリッチ植物が得られる量であれば特に限定されないが、60Kg/10a以上、70Kg/10a以上、80Kg/10a、90Kg/10の順に好ましく、より好ましくは100Kg/10a以上である。石膏は土壌のpHをほとんど変化させないため、多量に施用して問題ないが、経済性を考えると、100Kg/10aが最も好ましい。
【0022】
カルシウムが十分に含まれた植物を得るには、石膏を基肥として一度に施用することが好ましいが、基肥と追肥に分けて複数回施用してもかまわない。基肥と追肥に分けて複数回施用する場合は、その施用量の合計が、60Kg/10a以上、70Kg/10a以上、80Kg/10a、90Kg/10a以上の順に好ましく、より好ましくは100Kg/10a以上である。なお、石膏は単独で施用しても、一般の肥料等と合わせて施用してもかまわない。
【0023】
植物体に含まれるカルシウム含有率は、財団法人日本土壌協会発行の「土壌、水質及び植物体分析法」に記載された作物体分析法等で求めることができる。具体的には、以下の分析方法で求めることができる。
i)植物体を70℃の通風乾燥機で、一晩乾燥する。
ii)乾燥させた植物体を、硝酸−過塩素酸溶液に添加して、湿式灰化させる。
iii)湿式灰化させた分解液を希釈した後、原子吸光やICP分光光度計にて分析する。
【実施例】
【0024】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
圃場に、慣行区A〔石膏 なし、炭酸カルシウム40Kg/10a、化成肥料(N:20Kg/10a、P:20 Kg/10a、KO:20Kg/10a)を施用〕、施用区B〔石膏100Kg/10a、施用する肥料の種類と添加量は、慣行区と同じ〕、及び施用区C〔石膏60Kg/10a、施用する肥料の種類と添加量は、慣行区と同じ〕を設置して女池菜を4ヶ月間栽培し、収穫時の女池菜の収量(平均重量g)、長さ(平均cm)、生葉数(平均枚数)、及び作物体中に含まれるカルシウム含量(%)を調べた。
【0026】
石膏はリン酸石膏を原料にして製造した崩壊性粒状石膏(畑のカルシウム(コープケミカル株式会社製))を使用し、作物体中に含まれるカルシウム含量は、収穫した野菜を70℃で一晩通風乾燥させた後、粉砕した野菜0.5gを硝酸−過塩素酸30mlで湿式灰化させ、該分解液を希釈した後、原子吸光光度計にて分析を行った。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
石膏を100kg/10a施用した施用区Bで栽培した女池菜は、作物の重量及び長さとも、慣行区Aより優れ、カルシウム含有率は、1.44倍に増加した。また、石膏を60kg/10a施用した施用区Cでも、作物の重量及び長さは、慣行区Aより優れ、カルシウム含有率は、1.25倍に増加した。
【0029】
(実施例2)
圃場に、慣行区A〔石膏 なし、炭酸カルシウム40Kg/10a、化成肥料(N:15〜30Kg/10a、P:15〜30 Kg/10a、KO:15〜30Kg/10a)を施用〕及び施用区B〔石膏100Kg/10a、施用する肥料の種類と添加量は、慣行区と同じ〕を設置し、コマツナ、ハクサイ、ダイコン、サトイモ、トウモロコシ、ホウレンソウ、ネギ、タマネギ、キャベツ、アルファルファ、落花生、牧草、リンドウを3〜6ヶ月間栽培し、実施例1と同様にして、作物体中に含まれるカルシウム含量(%)を調べた。石膏はリン酸石膏を原料にして製造した崩壊性粒状石膏(畑のカルシウム(コープケミカル株式会社製))を使用した。結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
前記の作物はいずれも施用区Bにおいて慣行区に比べてカルシウム含有率が1.2倍以上増加した。特に、コマツナは2.24倍、サトイモのイモ部(皮をはがしたもの)は3.25倍増加した。
【0032】
(比較例)
実施例2と同様の方法で、ジャガイモ、イチゴ、カブを栽培し、作物体中に含まれるカルシウム含量を調べた。結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
これらの植物は、施用区Bで栽培しても、カルシウム含有率はあまり増加しなかった。特にカブは、カルシウム含有率が石膏を施用していない慣行区よりも減少した。
【0035】
(実施例3)
圃場に、慣行区A〔石膏 なし、化成肥料(N:20Kg/10a、P:20 Kg/10a、KO:20Kg/10a)を施用〕及び施用区B〔石膏100Kg/10a、施用する肥料の種類と添加量は、慣行区と同じ〕を設置し、コマツナを4ヶ月間栽培し、実施例1と同様にして、作物体中に含まれるカルシウム含量(%)を調べた。石膏はリン酸石膏を原料にして製造した崩壊性粒状石膏(畑のカルシウム(コープケミカル株式会社製))を使用した。結果を表4に示す。
【0036】
【表4】

【0037】
炭酸カルシウムを施用しなかった栽培試験では、慣行区に比べて施用区のカルシウム含有率が2.71倍増加した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏を施用する圃場で栽培することにより得られる植物であって、該植物のカルシウム含有率が石膏を施用しない圃場で栽培した同一植物の1.2倍以上であるカルシウムリッチ植物。
【請求項2】
当該植物の重量が、石膏を施用しない圃場で栽培した同一植物の重量と同等以上である請求項1記載のカルシウムリッチ植物。
【請求項3】
メイケナ、コマツナ、ハクサイ、ダイコン、サトイモ、トウモロコシ、ホウレンソウ、シュンギク、チンゲンサイ、ネギ、タマネギ、キャベツ、アルファルファ、ダイズ、エダマメ、落花生、牧草及びリンドウから選ばれる請求項1又は2記載のカルシウムリッチ植物。
【請求項4】
石膏を60Kg/10a以上施用した圃場で植物を栽培することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のカルシウムリッチ植物の栽培方法。

【公開番号】特開2006−20522(P2006−20522A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199056(P2004−199056)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000105419)コープケミカル株式会社 (6)
【Fターム(参考)】