説明

カンチレバーチップホルダー

【目的】カンチレバー先端の振動のみを高精度に検出することができるカンチレバーチップホルダーを提供する。
【構成】支持部12と、その基端部が支持部12によって支持された板材(即ちシム)14と、この板材14の先端部下面に設けられたカンチレバーチップ16と、板材14の先端部上面に設けられ、所定の電圧を印加することによって、板材14の先端部を所定方向に振動させる振動部材18と、支持部12と板材14との間に介在され、板材14の先端部で発生した振動が支持部12に伝達されないように、上記振動を減衰させる振動減衰素材20とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、探針を試料に沿って走査させて、試料表面を測定するカンチレバーチップを保持するカンチレバーチップホルダーに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種のカンチレバーチップホルダーを備えた走査型プローブ顕微鏡として、例えば特開昭63−309803号公報に開示されたような原子間力顕微鏡(AFM)が知られている。
【0003】このようなAFMでは、探針を走査しながら、探針と試料との間に働く相互作用を検出することによって、試料の表面情報が測定されている。特に、ACモードのAFMには、探針を励振させながら試料に接近させることにより、試料と探針との間に作用する力勾配を検出する。
【0004】図6に示すように、上記カンチレバーチップホルダーは、支持部2と、この支持部2によって基端部が支持されたバイモルフアクチュエータ4と、このバイモルフアクチュエータ4の先端部に取り付けられたカンチレバーチップ6とを備えている。なお、カンチレバーチップ6には、その自由端に探針8を保持したカンチレバー10が設けられている。
【0005】ここで、力勾配は、カンチレバー10の共振特性の変化によって検出されている。具体的には、力勾配は、カンチレバー10の振動振幅信号に反映されており、振幅が一定になるように試料に対する探針8の位置関係を制御することによって、試料の表面情報が測定されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、カンチレバー10の励振は、支持部2を介して伝達されて、AFMを構成しているカンチレバー10以外の部材を振動させることになり、カンチレバー10の先端の振動のみを高精度に検出することが困難になってしまう場合がある。
【0007】また、カンチレバー10の共振点を検知するためには、共振周波数周辺の周波数領域内において、一様な振幅で励振させる必要がある。本発明は、このような問題点を解決するためになされており、その目的は、カンチレバー先端の振動のみを高精度に検出することができるカンチレバーチップホルダーを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】このような目的を達成するために、本発明のカンチレバーチップホルダーは、支持部と、前記支持部によって支持された板材と、この板材上に設けられたカンチレバーチップと、前記板材上に設けられ、所定の電圧を印加することによって、前記板材を所定方向に振動させる振動部材と、前記支持部と前記板材との間に介在され、前記板材から発生した振動が前記支持部に伝達されないように、上記振動を減衰させる振動減衰素材とを備える。
【0009】
【作用】振動部材を介して板材から発生した振動は、支持部に伝達される前に、振動減衰素材によって減衰される。
【0010】
【実施例】以下、本発明の第1の実施例に係るカンチレバーチップホルダーについて図1及び図2を参照して説明する。図1に示すように、本実施例のカンチレバーチップホルダーは、支持部12と、その基端部が支持部12によって支持された板材14と、この板材14の先端部下面に接着又は着脱自在に固定されたカンチレバーチップ16と、板材14の先端部上面に設けられ、所定の電圧を印加することによって、板材14の先端部を所定方向に振動させる振動部材18と、支持部12と板材14との間に介在され、板材14の先端部で発生した振動が支持部12に伝達されないように、上記振動を減衰させる振動減衰素材20とを備えている。
【0011】支持部12は、板材14をAFM本体(図示しない)に固定可能に構成されている。板材14は、例えばチタン(Ti)又はアルミナ等の固い金属(或いはセラミック)で構成されており、シムと称される(以下、板材をシムという)。
【0012】カンチレバーチップ16には、その自由端に尖鋭化した探針22を保持するカンチレバー24が設けられている。振動部材18は、所定の電圧を印加することによって長手方向に伸縮するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で構成されており、その両面には電極(図示しない)が形成されている。なお、このように長手方向に伸縮する素材(即ち、PZT)と固い素材(即ちシム14)とを組み合わせた構造をユニモルフアクチュエータと称される。
【0013】このような振動部材18の上部電極には、励振用発振器26から延出した電線28の延出端が半田付けされており、下部電極は、導電性のシム14又はシム14上の導電膜(図示しない)を介してアースされている。
【0014】振動減衰素材20は、その音響インピーダンスがシム14と異なるような、例えばゴム,アクリル,金属粉又はセラミックス粉を混ぜたエポキシ樹脂等の振動減衰の大きな板材で構成されている。
【0015】このような振動減衰素材20上には、支持部12に対する着脱性及び位置決め精度を向上させるように、支持部12との間に金属部30が介挿されている。このような構成において、カンチレバー24の振動特性に基づいたACモードのAFM測定を行う場合、まず、励振用発振器26から振動部材18の電極に所定の励振信号が印加される。
【0016】この結果、図2(a),(b)に示すように、振動部材18は、その長手方向に伸縮し、この振動部材18の伸縮に伴ってシム14の先端部が所定方向(図2中矢印S方向)に振動される。
【0017】このようなシム14の振動によって、シム14の先端部下面に接着されたカンチレバーチップ16が励振される。そして、カンチレバーチップ16を励振させた状態でAFM測定が行われることになる。
【0018】このとき、シム14の先端部に発生している振動は、シム14を介して支持部12に伝達される前に、上記振動減衰素材20によって減衰され、支持部12を介してAFM本体(図示しない)には伝達されない。
【0019】即ち、上記ユニモルフアクチュエータでは、カンチレバー24の励振のみが行われることになる。このように本実施例のカンチレバーチップホルダーには、シム14の先端部で発生した振動が支持部12に伝達される前に減衰させる振動減衰素材20が設けられているため、カンチレバー先端の振動のみを高精度に検出することが可能となる。
【0020】なお、上記金属部30は必ずしも必要ではなく、支持部12によって直接振動減衰素材20を保持することも可能である。次に、本発明の第2の実施例に係るカンチレバーチップホルダーについて、図3ないし図5を参照して説明する。なお、本実施例の説明に際し、第1の実施例と同一の構成には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0021】図3には、本実施例のカンチレバーチップホルダーの断面図が示されており、(a)にはその上面図が、(b)にはその正面図が、(c)にはその側面図が示されている。
【0022】図3に示すように、本実施例のカンチレバーチップホルダーには、その両側が突出した矩形状ホルダ本体32が設けられており、このホルダ本体32の内側面には、互いに対向配置された一対の振動減衰素材20が張り付けられている。
【0023】これら一対の振動減衰素材20は、両持ち支持部としての機能を有しており、その内側面の間には、所定角度だけ傾斜配置されたシム14がホルダ本体32の長手方向に張設支持されている。
【0024】このシム14上には、PZT製の振動部材18がホルダ本体32の長手方向に張設されている。これらシム14及び振動部材18によってユニモルフアクチュエータが構成され、カンチレバーチップ16は、ユニモルフアクチュエータの中心に着脱自在に張り付けられている。具体的には、カンチレバーチップ16は、カンチレバーチップ接着板及びカンチレバー位置決め固定板としての機能を有するシム14の中心に張り付けられている。
【0025】このような構成によれば、振動部材18に所定の励振信号が印加された場合、上記ユニモルフアクチュエータは、図4(a),(b)に示すように、両端を支持する振動減衰素材20を節として且つ中心の変位量が最大になるモードが一次のモードとして励振される。
【0026】しかしながら、本実施例も第1の実施例と同様に、ユニモルフアクチュエータから発生した振動は、その両端に設けられた振動減衰素材20によって減衰されるため、上記振動がホルダ本体32を介してAFM本体(図示しない)に伝達されることはない。
【0027】即ち、上記ユニモルフアクチュエータでは、カンチレバー24(図3参照)の励振のみが行われることになる。また、図5に示すように、シム14の面にカンチレバーチップ16の位置決め用の罫書線等の書き込み又は掘り込みを施すことによって、カンチレバー24の変位センサ(図示しない)を位置決めする際における調整範囲を限定することが可能となる。なお、本実施例の他の効果は、第1の実施例と同様であるため、その説明は省略する。
【0028】
【発明の効果】本発明によれば、板材から発生した振動が支持部に伝達される前に、その振動を減衰させる振動減衰素材が設けられているため、カンチレバー先端の振動のみを高精度に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例に係るカンチレバーチップホルダーの構成を概略的に示す断面図。
【図2】振動部材の伸縮に伴ってシムの先端部が矢印S方向に振動している状態を示す断面図。
【図3】本発明の第2の実施例に係るカンチレバーチップホルダーの構成を概略的に示す断面図。
【図4】両端を支持する振動減衰素材を節として中心の変位量が最大になるモードが一次のモードとして励振されている状態を示す断面図。
【図5】シムの面にカンチレバーチップの位置決め用の罫書線等の書き込み又は掘り込みが施された状態を示す平面図。
【図6】従来のカンチレバーチップホルダーの構成を概略的に示す断面図。
【符号の説明】
12…支持部、14…板材(シム)、16…カンチレバーチップ、18…振動部材、20…振動減衰素材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 支持部と、前記支持部によって支持された板材と、この板材上に設けられたカンチレバーチップと、前記板材上に設けられ、所定の電圧を印加することによって、前記板材を所定方向に振動させる振動部材と、前記支持部と前記板材との間に介在され、前記板材から発生した振動が前記支持部に伝達されないように、上記振動を減衰させる振動減衰素材とを備えていることを特徴とするカンチレバーチップホルダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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