説明

カーボンナノファイバ含有樹脂成形体

【課題】カーボンナノファイバを配合することによる各種の特性、特に導電性あるいは熱伝導性あるいは摺動性を高く得ることができるカーボンナノファイバ含有樹脂成形体を提供する。
【解決手段】フェノール類とアルデヒド類とを、カーボンナノファイバ1及び分散剤と混合しつつ、反応触媒の存在下で付加縮合反応させることによって、熱硬化性を有するフェノール樹脂2にカーボンナノファイバが分散された粒子からなるカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を得る。このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を成形することによって、カーボンナノファイバ含有樹脂成形体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノファイバとフェノール樹脂との複合材料を用いたカーボンナノファイバ含有樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維をフェノール樹脂などのマトリックス樹脂中に充填剤として分散させた炭素繊維とフェノール樹脂との複合材料が、導電性、熱伝導性、摺動性、その他機械的強度、耐熱性、電磁波シールド性、金属に対する非腐食性などに優れるために、各種の成形品を成形する材料として使用されている。
【0003】
ここで炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維やポリアクリロニトリル系炭素繊維などが従来から広く使用されてきたが、近年では、気相法によるカーボンナノチューブなど、微細なカーボンナノファイバが開発され、一般に市販されて実用に供されるようになってきた。カーボンナノファイバは繊維径が従来のミクロンオーダーからナノオーダーへと極めて微細になっており、このことは上記した各特性を有効に引き出すのに非常に好都合である。
【0004】
このようなカーボンナノファイバとフェノール樹脂との複合材料は、フェノール樹脂とカーボンナノファイバとを混合・混練して造粒することによって、粒状にしたものが一般的である(例えば特許文献1、特許文献2等参照)。すなわち、まずフェノール類とアルデヒド類とを反応触媒の存在下で反応させてフェノール樹脂を調製し、これを脱水する。次にこのフェノール樹脂をそのまま、あるいは溶剤を加えて希釈し、これにカーボンナノファイバを添加してニーダー等で混練すると共に、この混練物を押出した後に乾燥し、これを粉砕することによって、カーボンナノファイバとフェノール樹脂との混合粒体であるカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を得ることができるものである。
【0005】
そしてこの粒状のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を成形金型に充填して加熱・加圧等して成形することによって、導電性、熱伝導性、摺動性などの特性を有するフェノール樹脂系の成形品を得ることができるものである。またこの粒状のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料は、フェノール樹脂を不溶不融性に調製することによって、導電性等を有するフィラーとして使用することもできるものであり、このフィラーを成形用樹脂に配合して樹脂組成物を調製し、樹脂組成物を加熱・加圧等して成形することによって、導電性、熱伝導性、摺動性などの特性を有するフェノール樹脂系の成形品を得ることができるものである
【特許文献1】特開2002−60639号公報
【特許文献2】特開2003−12939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、カーボンナノファイバは直径に対する長さの比であるアスペクト比が大きいため、フェノール樹脂にカーボンナノファイバを混練する際に、カーボンナノファイバ同士が絡まり合って毛玉状になり、フェノール樹脂にカーボンナノファイバを均一に分散させることが難しい。またカーボンナノファイバのような炭素材料はフェノール樹脂との濡れ性が極めて悪く、微細なカーボンナノファイバはさらに濡れ性が悪くなり、マトリックスのフェノール樹脂に非常に分散し難くなる。このため、フェノール樹脂にカーボンナノファイバを複合することによる上記の特性を向上させる効果を十分に得ることができないという問題があった。
【0007】
また、フェノール樹脂にカーボンナノファイバを混練したものを粉砕することによって造粒したものでは、カーボンナノファイバはカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の粒子の表面に自立するように突出することはない。従ってこの粒子間においてカーボンナノファイバ同士を接触させるようなことはできないものであり、この点でも、導電性や熱伝導性を十分に向上させることができず、さらに摺動性も十分に向上させることができないという問題があった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、カーボンナノファイバを配合することによる各種の特性、特に導電性あるいは熱伝導性あるいは摺動性を高く得ることができるカーボンナノファイバ含有樹脂成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係るカーボンナノファイバ含有樹脂成形体は、フェノール類とアルデヒド類とを、カーボンナノファイバ及び分散剤と混合しつつ、反応触媒の存在下で付加縮合反応させることによって得られた、熱硬化性を有するフェノール樹脂にカーボンナノファイバが分散された粒子からなるカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料が、成形されたものであることを特徴とするものである。
【0010】
フェノール類とアルデヒド類とを、カーボンナノファイバ及び分散剤と混合しつつ、反応触媒の存在下で付加縮合反応させることによって、カーボンナノファイバを取り込みながらフェノール樹脂が球状に凝集して、カーボンナノファイバが分散されたフェノール樹脂の粒子を得ることができ、このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を成形することによって、フェノール樹脂のマトリックスにカーボンナノファイバが均一に分散したカーボンナノファイバ含有樹脂成形体を得ることができるものであり、カーボンナノファイバを複合することによる導電性あるいは熱伝導性あるいは摺動性等の特性の向上効果を高く得ることができるものである。またカーボンナノファイバを取り込みながらフェノール樹脂が凝集して形成されるカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の粒子の表面からはカーボンナノファイバの一部がイガグリ状に突出するものであり、導電性あるいは熱伝導性あるいは摺動性等の特性をより高く得ることができるものである。
【0011】
また請求項2の発明は、請求項1において、カーボンナノファイバ含有樹脂成形体が、表面に流路パターンを備えた薄板として形成された燃料電池用セパレータであることを特徴とするものである。
【0012】
上記のようにカーボンナノファイバ含有樹脂成形体はカーボンナノファイバの複合によって導電性に優れるものであり、高い性能の燃料電池用セパレータを得ることができるものである。
【0013】
本発明の請求項3に係るカーボンナノファイバ含有樹脂成形体は、フェノール類とアルデヒド類とを、カーボンナノファイバ及び分散剤と混合しつつ、反応触媒の存在下で付加縮合反応させる工程を経て得られた、不溶不融性のフェノール樹脂にカーボンナノファイバが分散された粒子からなるカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を、成形用樹脂に配合して調製された樹脂組成物が、成形されたものであることを特徴とするものである。
【0014】
フェノール類とアルデヒド類とを、カーボンナノファイバ及び分散剤と混合しつつ、反応触媒の存在下で付加縮合反応させることによって、カーボンナノファイバを取り込みながらフェノール樹脂が球状に凝集して、カーボンナノファイバが分散されたフェノール樹脂の粒子を得ることができるものであり、このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料をフィラーとして成形樹脂に配合して成形することによって、成形樹脂のマトリックスにカーボンナノファイバが均一に分散したカーボンナノファイバ含有樹脂成形体を得ることができ、カーボンナノファイバを複合することによる導電性あるいは熱伝導性あるいは摺動性等の特性の向上効果を高く得ることができるものである。またカーボンナノファイバを取り込みながらフェノール樹脂が凝集して形成されるカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の粒子の表面からはカーボンナノファイバの一部がイガグリ状に突出するものであり、導電性あるいは熱伝導性あるいは摺動性等の特性をより高く得ることができるものである。
【0015】
また請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、カーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料中のカーボンナノファイバの含有量が0.05〜60質量%であることを特徴とするものであり、カーボンナノファイバを複合することによる特性向上の効果を有効に得ることができるものである。
【0016】
また請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれかにおいて、カーボンナノファイバは直径が1000nm以下であることを特徴とするものであり、カーボンナノファイバを複合することによる特性向上の効果を有効に得ることができるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フェノール類とアルデヒド類とを、カーボンナノファイバ及び分散剤と混合しつつ、反応触媒の存在下で付加縮合反応させることによって、カーボンナノファイバを取り込みながらフェノール樹脂が球状に凝集して、カーボンナノファイバが均一に分散されたカーボンナノファイバ・フェノール樹脂の粒子を得ることができるものであり、カーボンナノファイバを複合することによる導電性あるいは熱伝導性あるいは摺動性等の特性の向上効果を高く得ることができるものである。またカーボンナノファイバを取り込みながらフェノール樹脂が凝集して形成されるカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の粒子の表面からはカーボンナノファイバの一部がイガグリ状に突出するものであり、導電性あるいは熱伝導性あるいは摺動性等の特性をより高く得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0019】
本発明においてフェノール類としては、フェノールの他にフェノールの誘導体を用いることができる。フェノールの誘導体としては、例えばm−クレゾール、レゾルシノール、3,5−キシレノールなどの3官能性のもの、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ジヒドロキシジフェニルメタンなどの4官能性のもの、o−クレゾール、p−クレゾール、p−ter−ブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、2,4−又は2,6−キシレノールなどの2官能性のo−又はp−置換のフェノール類などを挙げることができ、さらに塩素又は臭素で置換されたハロゲン化フェノールなどを用いることもできる。フェノール類としてはこれらから1種を選択して用いる他、複数種のものを混合して用いることもできる。
【0020】
また本発明においてアルデヒド類としては、ホルムアルデヒドの水溶液の形態であるホルマリンが最適であるが、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンのような形態のものを用いることもでき、その他アルデヒドの一部あるいは大部分をフルフラールやフルフリルアルコールに置き換えたものを用いることも可能である。
【0021】
さらに本発明において反応触媒としては、フェノール類とアルデヒド類を反応させ、ベンゼン核とベンゼン核の間に=NCH−結合を生成するような塩基性物質、例えばヘキサメチレンテトラミン、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン等の第1級や第2級のアミン類などを用いることができる。また、ナトリウム、カリウム、リチウムなどアルカリ金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、あるいはカルシウム、マグネシウム、バリウムなどアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、あるいは第3級アミン化合物などを挙げることもできる。これらの具体例を挙げると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、1,8−ジアザビシクロ〔5,4,0〕ウンデセン−7などがある。
【0022】
そして、上記のフェノール類と、アルデヒド類と、反応触媒とを反応釜などの反応容器にとり、フェノール類とアルデヒド類とを付加縮合反応させるものであるが、このとき本発明ではさらにカーボンナノファイバと分散剤を反応容器に投入し、また必要に応じて滑剤、エポキシ樹脂、カップリング剤などの添加剤を反応容器に投入し、これらの存在下でフェノール類とアルデヒド類との反応を行なわせるものである。ここで、フェノール類に対するアルデヒド類の配合量は、フェノール類1モルに対してアルデヒド類1.0〜3.0モルの範囲が好ましい。また反応触媒の配合量は、反応触媒の種類によって大きく異なるが、フェノール類に対して0.05〜10質量%の範囲が好ましい。
【0023】
本発明において使用される上記のカーボンナノファイバは、直径が1000nm以下の微細炭素繊維であり、炭素六角網面からなる円筒の単層構造あるいは、この円筒が同心円状に配置された多層構造に形成されている。このカーボンナノファイバは、従来のポリアクリロニトリル、ピッチ、セルロース、レーヨンなどの繊維を熱処理することによって得られる繊維径が5〜10μm程度の炭素繊維とは大きく異なるものであり、このような炭素繊維とは繊維径や繊維長が異なるだけでなく、構造的にも大きく異なっており、電気伝導性や熱伝導性、摺動性などの特性が極めて優れているものである。カーボンナノファイバの好ましい例として、カーボンナノチューブと呼ばれるものを挙げることができる。カーボンナノチューブはグラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、炭素フィブリルなどとも呼ばれているものであり、単層のカーボンナノチューブや多層のカーボンナノチューブの他に、カーボンナノホーンなどチューブ形態を問うことなく使用することができる。カーボンナノチューブとしては、例えば、炭化水素などのガスを有機遷移金属系触媒の存在下において水素ガスと共に気相熱分解することによって製造される気相法炭素繊維を用いることができる。
【0024】
カーボンナノファイバは直径が上記のように1000nm以下であることが好ましく、その下限は特に設定されるものではないが、実用上0.5nm程度が直径の下限である。直径が1000nmを超えると、機械的強度、熱伝導性、摺動性などの特性向上の効果を十分に得ることができないものであり、直径が0.5nm未満であると、機械的強度の向上の効果を十分に得ることができない。また特に限定されるものではないが、カーボンナノファイバの長さは1〜1000μmの範囲、アスペクト比(長さ/直径)は、3〜1000の範囲であることが好ましい。カーボンナノファイバの長さが1000μmを超えると、カーボンナノファイバをフェノール樹脂に均一に分散させるのが難しくなる。
【0025】
また本発明で使用されるカーボンナノファイバは、2300℃以上、より好ましくは2500〜3500℃の温度で非酸化性雰囲気において熱処理することが好ましい。このように熱処理することによって、カーボンナノファイバの機械的強度や化学的安定性が向上するものである。非酸化性雰囲気は、例えばアルゴン、ヘリウム、窒素ガスによって形成することができる。またこの熱処理において、炭化ホウ素、酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸塩、窒化ホウ素、有機ホウ素化合物などのホウ素化合物を共存させることによって、熱処理の効果が一層向上すると共に、熱処理温度を低くすることが可能になるものである。
【0026】
さらに本発明において使用される上記の分散剤は、一種の乳化剤としても作用するものであり、例えばアラビアゴム、ポリビニルアルコール、ニカワ、グアーゴム、ガッテガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、可溶化でんぷん、寒天、アルギン酸ソーダなどを挙げることができ、これらのうちから一種単独で、あるいは複数種を併用して使用することができる。これらの中でも、アラビアゴムやポリビニルアルコールが最も好ましく用いることができる。分散剤の添加量は、分散剤が有する乳化効果によって大きく異なり、特に限定されるものではないが、フェノール類に対して0.1〜10.0質量%の範囲が好ましく、特に0.5〜7.0質量%の範囲がより好ましい。
【0027】
そして上記の反応は反応系を攪拌するに足る量の液中で、攪拌しつつ行なわれるものであり、反応の当初ではカーボンナノファイバは液面に浮いているものもあるが、フェノール類とアルデヒド類の付加縮合反応の進行とともに濡れ性の高いフェノール類と接触することで液中に取り込まれる。さらに付加縮合反応が進むと、カーボンナノファイバを抱き込みながらフェノール類とアルデヒド類の縮合反応物が系中の水分と分離し始める。フェノール類とアルデヒド類が縮合反応して生成されるフェノール樹脂は分散剤の作用で凝集して球状になり、カーボンナノファイバが内部に分散されたフェノール樹脂の球状粒子を系中に分散された状態で得ることができる。カーボンナノファイバは機械的にフェノール樹脂と混合されるのではなく、カーボンナノファイバを抱き込みながらフェノール類とアルデヒド類が縮合反応して、カーボンナノファイバを内部に取り込んだフェノール樹脂の球状粒子が調製されるものであり、カーボンナノファイバが絡み合ったりするようなことがなく、カーボンナノファイバを均一に分散させたフェノール樹脂の球状粒子を得ることができるものである。さらに所望する程度に反応を進めて冷却した後に攪拌を停止すると、球状粒子は沈殿して水と分離される。この球状粒子は微小な含水粒状物となっており、濾過することによって水から容易に分離することができるものであり、これを乾燥することによって、自由流動性のある球状粒子としてカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を得ることができるものである。
【0028】
上記のようにしてカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の球状粒子を得ることができるものであり、この球状粒子Aは図1に示すように、カーボンナノファイバ1が分散されたフェノール樹脂2によって形成されるものであり、カーボンナノファイバ1を取り込みながらフェノール樹脂2が凝集して形成される球状粒子Aの表面からはカーボンナノファイバ1の一部がイガグリ状に突出している。従って、この表面から突出するカーボンナノファイバ1が接触することによって、球状粒子A間の導電性や熱伝導性を得ることができるものであり、高い導電性や熱伝導性を発揮させることができるものである。またこのように球状粒子Aの表面からカーボンナノファイバ1の一部がイガグリ状に突出していることによって、カーボンナノファイバ1による摺動性を高く発揮させることができるものである。
【0029】
また、上記のようにして得られるカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の球状粒子は、カーボンナノファイバが分散されたフェノール樹脂によって形成されているので、各球状粒子においてカーボンナノファイバとフェノール樹脂の割合が同一である。従って、カーボンナノファイバとフェノール樹脂とが均一に分散されたカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を得ることができるものである。
【0030】
ここで、カーボンナノファイバはフェノール樹脂と機械的に混合するものではないので、カーボンナノファイバの配合量を任意に設定することができるが、カーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の全量に対して0.05質量%以上配合するのが好ましい。カーボンナノファイバの配合量が0.05質量%未満であると、カーボンナノファイバの配合によって導電性、熱伝導性、摺動性等の特性を高める効果を十分に得ることができない。カーボンナノファイバの配合量の上限は特に設定されないが、カーボンナノファイバの配合量はカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の全量に対して60質量%以下に設定するのが好ましい。
【0031】
上記のようにフェノール類とアルデヒド類とを、カーボンナノファイバ及び分散剤と混合しつつ、反応触媒の存在下で付加縮合反応させることによって、カーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を製造するにあたって、カーボンナノファイバを付加縮合反応の開始時から反応系に投入して、反応を行なわせるようにすることができる。また、フェノール類とアルデヒド類の付加縮合反応を開始させる時点ではカーボンナノファイバを反応系に添加しておかないで、付加縮合反応の途中でカーボンナノファイバを反応系に投入して、反応を行なわせるようにしてもよい。さらに、フェノール類とアルデヒド類の付加縮合反応の開始から終了までの間に、複数回に分けてカーボンナノファイバを反応系に投入し、反応を行なわせるようにすることもできる。
【0032】
ここで、上記のようにしてカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を調製するにあたって、フェノール類とアルデヒド類との付加縮合反応を、生成されるフェノール樹脂が熱硬化性を有する状態で停止させることによって、未硬化のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を得ることができ、このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料は成形材料として用いることができる。そしてこのカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を成形材料として用い、加熱・加圧等して成形を行なうことによって、カーボンナノファイバ含有樹脂成形体を得ることができるものである。成形は、カーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を金型に射出する射出成形や、カーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を金型に充填して加熱・加圧する圧縮成形など任意の成形法で行なうことができる。このときの加熱は、金型の温度を130〜250℃の範囲に設定して行なうのが好ましく、加圧は、10〜200MPaの範囲の面圧で行なうのが好ましい。
【0033】
上記のようにカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料は、フェノール樹脂にカーボンナノファイバを機械的に混合したものではなく、カーボンナノファイバがフェノール樹脂に均一に分散している。従ってこのようなカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を成形材料として用いて成形することによって、フェノール樹脂のマトリックスにカーボンナノファイバが均一に分散したカーボンナノファイバ含有樹脂成形体を得ることができるものであり、カーボンナノファイバを複合することによって導電性あるいは熱伝導性あるいは摺動性等の特性を向上させる効果を高く得ることができるものである。そしてこのように成形して得たカーボンナノファイバ含有樹脂成形体は、高い導電性を要求される用途の燃料電池用セパレータなどの導電性成形体として、あるいは高い熱伝導性を要求される用途の放熱板や熱交換器などの熱伝導性成形体として、あるいは高い摺動性を有する用途の軸受けやメカニカルシールなど摺動材として、カーボンナノファイバの有する特性を利用した各種の用途に使用することができるものである。ここで、摺動材の滑性を有する骨材としては黒鉛や炭素繊維が従来から使用されているが、黒鉛を用いた場合は摺動の相手材に転写されて摩擦抵抗値が一定になり難いと共に摩耗量が大きくなり、炭素繊維を用いた場合は相手材を傷付けたり摩耗させたりするため、いずれも好ましくないが、カーボンナノファイバは、炭素繊維より軟らかく、繊維径や繊維長も微細であるため、高い摺動性と耐摩耗性を有しており、摺動材の滑性骨材として特に望ましいものである。
【0034】
図2は上記の成形によって得られたカーボンナノファイバ含有樹脂成形体の一例である、燃料電池用セパレータ4を示すものであり、所定の流路パターンで形成されるガス流路5,6を片面に設けて形成してある。そしてフッ素系樹脂などでイオン交換膜として形成される電解質膜7の両面に、カーボンクロスやカーボンペーパーなどによって形成されるアノード8とカソード9を配置し、さらにアノード8とカソード9の外側にそれぞれセパレータ4を配置することによって、固体高分子電解質型の燃料電池のセルを形成することができるものであり、アノード8とセパレータ4の間のガス流路5に水素を含有する燃料ガスを、カソード9とセパレータ4の間のガス流路6に空気を供給するようになっている。ここで、カーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料は、上記のようにカーボンナノファイバの含有率を高くしてもカーボンナノファイバを均一に分散させることができる。従って、導電性や熱伝導性が高く、且つガス不透過性が高い燃料電池用セパレータ4を得ることができるものである。
【0035】
また、上記のようにしてカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を調製するにあたって、フェノール類とアルデヒド類との付加縮合反応を、生成されるフェノール樹脂が不溶不融性になるまで持続した後に、停止させることによって、フェノール樹脂が完全硬化状態のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の粒子を得ることができる。あるいは、フェノール類とアルデヒド類との付加縮合反応を、生成されるフェノール樹脂が熱硬化性を有する状態で停止させて、未硬化のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を調製し、この後に、加熱してフェノール樹脂を不溶不融性になるまで硬化させることによって、フェノール樹脂が完全硬化状態のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の粒子を得ることができる。
【0036】
このフェノール樹脂が完全硬化状態のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の粒子は、電気伝導性あるいは摺動性のフィラーとして用いることができるものであり、成形用樹脂に配合することによって、樹脂組成物を得ることができるものである。成形用樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、液晶ポリマー、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂などの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。フィラーとして配合するカーボンファイバ・フェノール樹脂複合材料の配合量は任意に設定することができるが、質量比で成形樹脂が1に対して、カーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を0.01〜1.5程度の範囲に設定するのが好ましい。
【0037】
このように調製される樹脂組成物を射出成形や圧縮成形などの任意の方法で加熱・加圧して成形することによって、高い導電性を要求される用途の導電性成形体として、あるいは高い熱伝導性を要求される用途の熱伝導性成形体として、あるいは高い摺動性を有する用途の摺動材として、カーボンナノファイバの有する特性を利用した各種の用途に使用することができるものである。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0039】
(未硬化のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の製造例1)
攪拌装置を備えた反応容器にフェノールを450質量部、37質量%のホルマリンを460質量部、ヘキサメチレンテトラミンを50質量部、分散剤としてアラビアゴムを4.5質量部、水を1300質量部仕込み、さらに平均直径150nm、平均長さ15μm、アスペクト比が100の気相法炭素繊維からなるカーボンナノファイバ(昭和電工株式会社製「VGCF」)を6質量部仕込んだ。そしてこれを攪拌しながら60分を要して80℃にし、この温度で2時間、付加縮合反応を行なった。次に、内温が30℃になるまで冷却した後、反応容器の内容物をヌッチェで濾別した。
【0040】
濾別して得た反応物をステンレスバットに敷いたポリエチレンシートの上に広げ、これを熱風乾燥器に入れて器内温度45℃で48時間乾燥させることによって、さらさらとした球状粒子のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料(フェノール樹脂は未硬化)を得た。
【0041】
このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料中の、カーボンナノファイバの含有率は1.0質量%であった。
【0042】
(未硬化のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の製造例2)
カーボンナノファイバの仕込み量を31質量部に変更するようにした他は、製造例1と同様にして球状粒子のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料(フェノール樹脂は未硬化)を得た。このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料中の、カーボンナノファイバの含有率は4.9質量%であった。このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の電子顕微鏡(SEM)写真を図3に示す。
【0043】
(未硬化のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の製造例3)
カーボンナノファイバの仕込み量を63.4質量部に変更するようにした他は、製造例1と同様にして球状粒子のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料(フェノール樹脂は未硬化)を得た。このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料中の、カーボンナノファイバの含有率は9.8質量%であった。
【0044】
(未硬化のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の製造例4)
カーボンナノファイバの仕込み量を143質量部に変更するようにした他は、製造例1と同様にして球状粒子のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料(フェノール樹脂は未硬化)を得た。このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料中の、カーボンナノファイバの含有率は19.8質量%であった。
【0045】
(硬化したカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の製造例5)
攪拌しながら60分を要して沸騰還流状態にし、この温度で2時間、付加縮合反応を行なうようにした他は、製造例3と同様にして球状粒子のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料(フェノール樹脂は不溶不融状態に硬化)を得た。このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料中の、カーボンナノファイバの含有率は9.8質量%であった。
【0046】
(硬化したカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の製造例6)
カーボンナノファイバの仕込み量を143質量部に変更するようにした他は、製造例5と同様にして球状粒子のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料(フェノール樹脂は不溶不融状態に硬化)を得た。このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料中の、カーボンナノファイバの含有率は19.8質量%であった。
【0047】
(未硬化のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の比較製造例1)
粒径74μm以下に粉砕したレゾール型フェノール樹脂を990質量部とり、これにメタノールを加えてスラリー状にし、これにカーボンナノファイバ(昭和電工株式会社製「VGCF」)を10質量部加え、ニーダーで混合攪拌した。これを払い出して風乾し、メタノールを蒸発させた後、さらに45℃の乾燥器中で乾燥を行なった。そしてこれを直径212μm以下に粉砕することによって、粒状のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料(フェノール樹脂は未硬化)を得た。
【0048】
このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料中の、カーボンナノファイバの含有率は1.0質量%であった。
【0049】
(未硬化のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の比較製造例2)
レゾール型フェノール樹脂を950質量部、カーボンナノファイバを50質量部に変更するようにした他は、比較製造例1と同様にして粒状のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料(フェノール樹脂は未硬化)を得た。このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料中の、カーボンナノファイバの含有率は5.0質量%であった。
【0050】
(未硬化のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の比較製造例3)
レゾール型フェノール樹脂を900質量部、カーボンナノファイバを100質量部に変更するようにした他は、比較製造例1と同様にして粒状のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料(フェノール樹脂は未硬化)を得た。このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料中の、カーボンナノファイバの含有率は9.8質量%であった。
【0051】
(未硬化のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の比較製造例4)
レゾール型フェノール樹脂を800質量部、カーボンナノファイバを200質量部に変更するようにした他は、比較製造例1と同様にして粒状のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料(フェノール樹脂は未硬化)を得た。このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料中の、カーボンナノファイバの含有率は20.1質量%であった。
【0052】
(硬化したカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の比較製造例5)
比較製造例3で得た未硬化のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を80℃の乾燥機に48時間入れ、フェノール樹脂を不溶不融状態に硬化させ、硬化した粒状のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を得た。このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料中の、カーボンナノファイバの含有率は10.3質量%であった。
【0053】
(硬化したカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の比較製造例6)
比較製造例4で得た未硬化のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を80℃の乾燥機に48時間入れ、フェノール樹脂を不溶不融状態に硬化させ、硬化した粒状のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を得た。このカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料中の、カーボンナノファイバの含有率は20.5質量%であった。
【0054】
上記の製造例1〜4及び比較製造例1〜4で得た球状あるいは粒状のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料について、外観を目視観察し、また電子顕微鏡(SEM)写真によって外観を観察し、さらに疎充填かさ密度を測定した。
【0055】
疎充填かさ密度の測定は、筒井理化学機械(株)製の「ABD粉体物性測定器」を用い、測定円台に100cmの試料容器を載せ、これに試料を上部のホッパから供給し、試料容器が一杯になった時点で山になった部分をヘラですり取り、試料容器内の試料の全量を測定することによって行ない、次の式から疎充填かさ密度を算出した。
疎充填かさ密度(g/cm
=(試料の重量:g)/(試料容器の容量:100cm
結果を表1に示す。尚、表1の「SEMによる外観」の欄において、
*0:粒子の表面から自立して突出するカーボンナノファイバが殆ど存在しない。
*1:粒子の表面から自立して突出するカーボンナノファイバが少ないが存在する。
*2:粒子の表面から自立して突出するカーボンナノファイバが多く存在する。
*3:粒子の表面から自立して突出するカーボンナノファイバが無数に存在する。
*4:粒子の表面から自立して突出するカーボンナノファイバが、カーボンナノファイバ同士が絡み合っている程に多数存在する。
【0056】
また、製造例1〜4及び比較製造例1〜4で得た球状あるいは粒状のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料について、成形の際の流れの測定をした。流れの測定は、試料量を10g、荷重を39.2kN、加圧時間を2分に設定して、JIS K 6911「成形材料(円板式流れ)」に準拠して行なった。上記の各結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1にみられるように、製造例1〜4のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料は、カーボンナノファイバの含有率に応じて多い少ないはあるが、球状表面からカーボンナノファイバが突出しているものであった。
【0059】
(実施例1〜4、比較例1〜4)
上記の製造例1〜4及び比較製造例1〜4で得た未硬化のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を用い、これらのカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を予め160℃に加熱した金型に充填し、約15MPaの面圧で加圧しながら3分間加熱して成形することによって、カーボンナノファイバ含有樹脂成形体を得た。そしてこのカーボンナノファイバ含有樹脂成形体を試験片として、曲げ強さ、曲げ弾性率、最大たわみ量、抵抗率、接触抵抗、電磁波遮断性能、熱伝導率を測定した。
【0060】
ここで、曲げ強さ、曲げ弾性率、最大たわみ量の測定は、長さ180mm×幅10mm×厚さ4mmの試験片を用い、JIS K 6911に準拠して行なった。また抵抗率の測定は、板厚2mmの試験片を用いてJIS K 7194に準拠して行なった。接触抵抗の測定は、縦横20mm、厚さ2mmの試験片2枚を測定電極間に重ねて配置すると共に接触面圧0.98MPaで挟圧させた状態で、1Aの電流を流したときの電圧を測定することによって行なった。接触抵抗の数値が小さい程、電気を良く通すことを意味する。電磁波遮断性能の測定は、ASTM ES−83に準拠したDUAL chamber法(近接電界)によって、150mm×75mm×2mmの寸法の試験片について、電界シールド性能を求めることによって行なった。測定数値が高い程、電磁波遮断性能が高いことを意味する。熱伝導率の測定は、真空理工(株)製レーザーフラッシュ法熱定数測定装置「TC−7000H」を用い、直径10mm、厚さ1mmの寸法の試験片について行なった。測定数値が高い程、熱伝導性が良好であることを意味する。上記の各結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2にみられるように、各実施例のものは抵抗率や接触抵抗が小さく、導電性に優れることが確認される。また各実施例のものは熱伝導率が高く熱伝導性に優れることが確認される。さらに各実施例のものは電磁波遮断性能に優れることが確認される。
【0063】
(実施例5〜6、比較例5〜6)
上記の製造例5〜6及び比較製造例5〜6で得た硬化したカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を40質量部、ポリフェニレンエーテル樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製「ユピエースAH8」)を60質量部とり、これをドライブレンドした後、ラボテストミルを用いて320℃で均一に溶融混練した。そしてこれを冷却して固化させた後、粉砕することによって、樹脂組成物を得た。
【0064】
次に、この樹脂組成物を射出成形することによって、縦・横が100mm、厚さ2mmのカーボンナノファイバ含有樹脂成形体を作製した。このカーボンナノファイバ含有樹脂成形体について、抵抗率をJIS K 7194に準拠して測定し、その結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3にみられるように、各実施例のものは抵抗率が小さく、導電性に優れることが確認される。
【0067】
(実施例7、比較例7)
上記の製造例4及び比較製造例4で得た未硬化のカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を、実施例4及び比較例4と同様にして成形した。この板から図4に示す寸法(単位はmm)のリングを切り出し、熱水耐摩耗試験機にかけて摩耗試験を行なった。摩耗試験はリングに切り出した試験片をメカニカルシールとして使用すると共に摺接する相手材としてアルミナ材を使用し、90℃の工業用水を0.2MPaで作用させつつ、モータを駆動源として3600rpmの回転数で100時間運転することによって行なった。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】

【0069】
表4にみられるように、各実施例のものは鳴きがなく、摩耗量が小さく、漏洩量が少なく、耐摩耗性に優れることが確認される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係るカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の粒体の構造を概略的に示す断面図である。
【図2】燃料電池用セパレータを用いた燃料電池セルを示す概略断面図である。
【図3】製造例2で得たカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料の粒体の顕微鏡写真であり、(a)は100倍、(b)は2000倍である。
【図4】摩耗試験に用いるリングを示す一部を破断した正面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 カーボンナノファイバ
2 フェノール樹脂
4 燃料電池用セパレータ
A 球状粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール類とアルデヒド類とを、カーボンナノファイバ及び分散剤と混合しつつ、反応触媒の存在下で付加縮合反応させることによって得られた、熱硬化性を有するフェノール樹脂にカーボンナノファイバが分散された粒子からなるカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料が、成形されたものであることを特徴とするカーボンナノファイバ含有樹脂成形体。
【請求項2】
カーボンナノファイバ含有樹脂成形体が、表面に流路パターンを備えた薄板として形成された燃料電池用セパレータであることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノファイバ含有樹脂成形体。
【請求項3】
フェノール類とアルデヒド類とを、カーボンナノファイバ及び分散剤と混合しつつ、反応触媒の存在下で付加縮合反応させる工程を経て得られた、不溶不融性のフェノール樹脂にカーボンナノファイバが分散された粒子からなるカーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料を、成形用樹脂に配合して調製された樹脂組成物が、成形されたものであることを特徴とするカーボンナノファイバ含有樹脂成形体。
【請求項4】
カーボンナノファイバ・フェノール樹脂複合材料中のカーボンナノファイバの含有量が0.05〜60質量%であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のカーボンナノファイバ含有樹脂成形体。
【請求項5】
カーボンナノファイバは直径が1000nm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のカーボンナノファイバ含有樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−117766(P2006−117766A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305921(P2004−305921)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000115658)リグナイト株式会社 (34)
【出願人】(000005979)三菱商事株式会社 (56)
【出願人】(504333248)株式会社 FJコンポジット (3)
【Fターム(参考)】