説明

カーボンナノ構造体およびその加工方法ならびに製造方法

【課題】カーボンナノ構造体の形状や電気的特性を制御する。
【解決手段】本発明に従ったカーボンナノ構造体の加工方法は、カーボンナノ構造体(たとえばカーボンナノチューブ1)を準備する工程(CNT準備工程)と、当該カーボンナノチューブ1に対して、一軸方向に応力を加えた状態で、エネルギー線(たとえば電子線)を照射する工程(照射工程)とを備える。このようにすれば、カーボンナノチューブ1の長さや電気的特性を容易に変更することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カーボンナノ構造体およびその加工方法ならびに製造方法に関し、より特定的には、一方向に延びる形状を有するカーボンナノ構造体およびその加工方法ならびに製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンナノチューブ(Carbon NanoTube:CNT)などのカーボンナノ構造体が知られている(たとえば、特開2010−99572号公報(以下、特許文献1と呼ぶ)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−99572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カーボンナノチューブなどのカーボンナノ構造体は、炭素原子がナノメートルレベルの直径で並ぶことにより形成される構造体であって、電子材料など様々な分野への応用が検討されている。そのため、カーボンナノ構造体が比較的新しい材料でもあることから、カーボンナノ構造体の電気的特性といった特性の制御方法やカーボンナノ構造体の加工方法などが広く研究されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は、カーボンナノ構造体について鋭意研究を進める中で、以下のような新たな知見を得た。すなわち、カーボンナノ構造体に一軸方向で応力を加えた状態でエネルギー線を照射すると、カーボンナノ構造体の長さが変化するという新たな現象を見出した。このようなカーボンナノ構造体の長さの変化は、応力(たとえば引張応力)を加えた状態でさらにエネルギー線を照射するという条件が揃って初めて起きる現象であった。また、エネルギー線のエネルギーレベルを変更することで、カーボン構造体の長さの変化量も変更可能であった。さらに、このように長さの変化したカーボンナノ構造体では、その電気抵抗も長さの変化の前後において変化していた。上記のような知見に基づく本発明に従ったカーボンナノ構造体の加工方法は、カーボンナノ構造体を準備する工程と、当該カーボンナノ構造体に対して、一軸方向に応力を加えた状態で、エネルギー線を照射する工程とを備える。
【0006】
このようにすれば、カーボンナノ構造体の上記一軸方向における(応力を加えた方向における)長さを、エネルギー線の照射エネルギーを調整することで変更することができる。また、発明者の知見によれば、エネルギー線の照射により長さが変更されたカーボンナノ構造体は、その電気的特性(たとえば電気抵抗値)もエネルギー線の照射前後で異なる。このため、たとえば1種類のカーボンナノ構造体より、長さおよび/または電気的特性が異なる複数種類のカーボンナノ構造体を得ることができる。
【0007】
なお、ここでカーボンナノ構造体とは、炭素原子により構成されるナノメートルオーダーの構造を持つ物質であり、たとえばカーボンナノチューブ(1層あるいは複数層のもの)が例として挙げられる。
【0008】
この発明に従ったカーボンナノ構造体の製造方法は、上記カーボンナノ構造体の加工方法を用いている。このようにすれば、エネルギー線の照射エネルギーを適宜変更することにより、一種類のカーボンナノ構造体を出発材料として、長さや電気的特性の異なる複数種類のカーボンナノ構造体を製造することができる。
【0009】
この発明に従ったカーボンナノ構造体は、一方向に延び、側壁を有するカーボンナノ構造体であって、当該一方向に対して、側壁が周期的に屈曲している。発明者は、上述したカーボンナノ構造体の加工方法または製造方法を適用して得られたカーボンナノ構造体の側壁を観察した結果、当該側壁が周期的に波打つように屈曲していることを見出した。このように側壁が周期的に屈曲することで、カーボンナノ構造体の延在方向(上記一方向)における単位長さ当たりでのカーボンナノ構造体の表面積は、当該屈曲が形成されていない場合(つまりエネルギー線を照射されていない場合)より大きくなる。このため、カーボンナノ構造体の単位体積当たりの表面積を大きくすることができるので、たとえば触媒などの用途に本発明によるカーボンナノ構造体を適用すると、触媒の単位体積当たりの反応面積(表面積)を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、長さや電気的特性の異なるカーボンナノ構造体を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明によるカーボンナノチューブの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】図1に示した照射工程を説明するための模式図である。
【図3】照射工程を実施した後のカーボンナノチューブを示す斜視模式図である。
【図4】図3の領域IVにおけるカーボンナノチューブの側壁の断面を示す模式図である。
【図5】比較例の試料に対して電子線を照射した前後における試料の状態を示す写真である。
【図6】実施例1の試料に対して電子線を照射した前後における試料の状態を示す写真である。
【図7】実施例2の試料に対して電子線を照射した前後における試料の状態を示す写真である。
【図8】実験2の結果を示すグラフである。
【図9】実験3の結果を示す図である。
【図10】実験4の結果を示すグラフである。
【図11】実験5の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0013】
図1および図2を参照して、本発明によるカーボンナノチューブの製造方法を説明する。
【0014】
図1に示すように、本発明によるカーボンナノ構造体の一例であるカーボンナノチューブの製造方法では、まずカーボンナノチューブ(CNT)準備工程(S10)を実施する。具体的には、図2に示すように、カーボンナノチューブ1を、タングステンからなるプローブ針3の先端とカンチレバー2の先端との間を繋ぐように配置する。プローブ針3とカーボンナノチューブ1との間の接続方法、およびカーボンナノチューブ1とカンチレバー2との接続方法は、任意の方法を用いることができる。たとえば、ナノチューブをプローブ針に接触させて通電し、針表面に吸着している炭素成分と接着させる、といった方法を用いることができる。この結果、図2に示すようにカンチレバー2とプローブ針3との先端を繋ぐようにカーボンナノチューブ1が配置された状態となる。
【0015】
ここで、カーボンナノチューブ1としては、炭素の層(グラフェン)が1層だけ筒状になっているシングルウォールナノチューブ(SWNT)や、炭素の層が複数層積層した状態で筒状になっているマルチウォールナノチューブ(MWNT)を用いることができる。カーボンナノチューブ1の長さはたとえば1μm以上3μm以下とすることができる。また、カーボンナノチューブ1がMWNTである場合には、当該カーボンナノチューブ1の直径はたとえば10nm程度である。また、カーボンナノチューブ1がSWNTである場合には、当該カーボンナノチューブ1の直径はたとえば2nm程度である。
【0016】
次に、図1に示した照射工程(S20)を実施する。具体的には、図2に示したように、プローブ針3の先端とカンチレバー2との間にカーボンナノチューブ1を配置した状態で、カンチレバー2を図2の上方に向けて(プローブ針3から離れる方向に向けて)移動させるようにカンチレバー2に対して応力を加える。このようにして、カーボンナノチューブ1の延在方向に沿って当該カーボンナノチューブ1に引張応力を加える。なお、カーボンナノチューブ1に応力を加えることができれば、プローブ針3をカンチレバー2に対して移動させてもよいし、プローブ針3とカンチレバー2との両方を移動させてもよい。また、カーボンナノチューブ1に加える応力は、カーボンナノチューブ1が破断しない範囲で任意の値とすることができるが、たとえば0.5GPa以上1.0GPa以下、より好ましくは0.8GPaとすることができる。
【0017】
そして、上記のようにカーボンナノチューブ1に応力が印加された状態で、照射領域4で示される領域にエネルギー線としての電子線を照射する。電子線の照射エネルギー値としては、たとえば5keV以上30keV以下といった数値範囲を採用することができる。このように、引張応力を加えた状態でカーボンナノチューブ1にエネルギー線を照射することで、エネルギー線の照射を行なう前に比べてカーボンナノチューブ1の長手方向における長さを変化させる(たとえば長さを短くする)ことができる。
【0018】
このように引張応力下でのエネルギー線の照射により長さが短くなったカーボンナノチューブは、図3および図4に示すように、その側壁が波打ったような状態になることにより、全体としての軸方向での長さがエネルギー線の照射前より短くなっている。
【0019】
図3および図4に示すように、本発明によるカーボンナノチューブ1は、その側壁を軸方向(カーボンナノチューブ1が延在する方向)に対して周期的に波打つように(屈曲するように)変形することにより、全体としての長さがエネルギー線の照射前よりも短くなっている。
【0020】
(実験1)
カーボンナノチューブに対する照射工程でのエネルギー線に関して、照射エネルギーとカーボンナノチューブの変形量との関係を調べるため、以下のような実験を行なった。
【0021】
(試料)
実施例1、実施例2、および比較例の試料として、MWNTであるカーボンナノチューブを準備した。実施例1および実施例2の試料であるカーボンナノチューブは、図2に示すようにプローブ針3とカンチレバー2との間をつなぐように配置された。一方、比較例の試料であるカーボンナノチューブはその一方端がプローブ針に固定された状態とされた。なお、準備したカーボンナノチューブの直径は約10.0nmであり、長さは約1.0μmであった。
【0022】
(実験)
上記のように準備した各試料に対して、図2で説明したようにエネルギー線としての電子線を照射した。ただし、実施例1、2についてはカーボンナノチューブに0.8GPaという値の引張応力を加えた状態で電子線を照射する一方、比較例の試料については引張応力を加えずに電子線を照射した。具体的には、実施例1の試料には照射エネルギーが5keVである電子線を照射し、実施例2の試料には照射エネルギーが3keVである電子線を照射した。なお、比較例の試料には、カーボンナノチューブに引張応力を加えない状態で照射エネルギーが5keVである電子線を照射した。
【0023】
(結果)
図5〜図7を参照して、上述した実験の結果を説明する。なお、図5〜図7では、それぞれ(a)として電子線照射前の試料の写真を示し、(b)として電子線照射後の試料の写真を示している。
【0024】
図5に示すように、カーボンナノチューブに対して引張応力を加えない状態で電子線を照射しても、比較例の試料ではカーボンナノチューブの長さに大きな変化は見られなかった。一方、本発明の実施例1および実施例2については、それぞれカーボンナノチューブの軸方向における長さに変化が見られた。具体的には、図6に示すように、引張応力を加えながらエネルギーが5keVの電子線を照射した場合には、電子線の照射前(図6(a))に比べて照射後のカーボンナノチューブは図6(b)に見られるようにその長さがおよそ半分程度にまで縮小した。一方、図7に示すように、エネルギーが3keVの電子線を照射した場合には、図7(a)に示す照射前のカーボンナノチューブに対して、図7(b)に示すように電子線の照射によりカーボンナノチューブ1の長さが照射前よりも長くなった。図5〜図7から分かるように、単にカーボンナノチューブに電子線を照射するだけではカーボンナノチューブの長さは変化せず、引張応力を加えた状態で電子線を照射することで、カーボンナノチューブの長さが変化することが示された。
【0025】
(実験2)
次に、照射工程における電子線のエネルギーとカーボンナノチューブの長さの変化量との関係を調べた。
【0026】
(試料)
試料としては、カーボンナノチューブ(マルチウォールナノチューブ(MWNT)およびシングルウォールナノチューブ(SWNT))を準備した。なお、準備したMWNTの直径は約10.0nmであり、長さは約1.0μmであった。また、準備したSWNTの直径は約2.0nmであり、長さは約1.0μmであった。そして、こられのカーボンナノチューブを図2に示すようにプローブ針とカンチレバーとの間を接続するように固定した。
【0027】
(実験)
それぞれのカーボンナノチューブの試料に対して、一定の引張り応力(0.8GPa)を印加した状態で、照射する電子線のエネルギー(電子線の加速電圧)を変えたときのカーボンナノチューブの長さ変化を測定した。電子線のエネルギーとしては、1keV〜30keVの範囲で変化させた。
【0028】
(結果)
カーボンナノチューブの長さ変化を、収縮比という指標で評価した。ここで、収縮比とは、単位電子線照射量(1C/cm)あたりのカーボンナノチューブの収縮率(=((電子線照射後のカーボンナノチューブの長さ)−(電子線照射前のカーボンナノチューブの長さ))/(電子線照射前のカーボンナノチューブの長さ)×100(%))である。その結果を図8に示す。
【0029】
図8は、実験の結果を示すグラフであり、横軸が照射した電子線の加速電圧を示す。横軸の単位はkVである。また、縦軸が上述した収縮比を示す。縦軸の単位は%・cm2/Cである。また、図8では、MWNT(MWCNTとも記載している)のデータは黒塗り菱形のマークで示されており、SWNT(SWCNTとも記載している)のデータは黒塗り四角のマークで示されている。また、図8中には、電子線の加速電圧が30kVの場合のMWNTについて、電子線の照射前の試料の写真を写真(a)として、また電子線照射後の試料の写真を写真(b)として示している。また、図8中には、電子線の加速電圧が3kVの場合のMWNTについて、電子線の照射前の試料の写真を写真(c)として、また電子線照射後の試料の写真を写真(d)として示している。
【0030】
図8からもわかるように、加速電圧が低いとき(たとえば加速電圧が3kVである場合)には、MWNTについて収縮比はプラス側の値を示している。具体的には、図8の中の写真(c)、(d)から分かるように、照射前のカーボンナノチューブ(写真(c)参照)よりも、照射後のカーボンナノチューブ(写真(d)参照)の方が軸方向における長さが長くなっている。一方、加速電圧が5kV程度のときに収縮比は最もマイナス側に大きくなり、その後徐々に収縮比の絶対値は小さくなっていく。しかし、加速電圧が5kV以上の領域では、測定した範囲内ではいずれも照射前よりも照射後の方がカーボンナノチューブの長さは短くなっている。たとえば、図8中に示した写真(a)、(b)から分かるように、電子線の照射前のカーボンナノチューブに比べて、写真(b)に示す照射後のカーボンナノチューブの方が、長さが短くなっている。また、SWNTの方がMWNTよりも収縮比の絶対値が大きくなっていた。
【0031】
このように、電子線の照射エネルギーを変化させることで、カーボンナノチューブの長さの変化量を調整することが可能である。
【0032】
(実験3)
次に、引張応力下での照射工程前後でのカーボンナノチューブの側壁の状態を調査するため、以下のような実験を行なった。
【0033】
(試料)
試料として、SWNTを準備した。当該SWNTを実験2の場合と同様に、図2に示したようにプローブ針とカンチレバーとの間に固定した。なお、準備したSWNTの直径は約2.0nmであり、長さは約1.0μmであった。
【0034】
(実験)
準備した試料に対して引張応力を印加した状態で電子線を照射してた。そして、電子線の照射前後におけるカーボンナノチューブの側壁を透過型電子顕微鏡を用いて観察した。なお、照射した電子線のエネルギーは5keVとした。また、印加した引張応力の値は約0.8GPaとした。
【0035】
(結果)
図9を参照して、上述した測定結果を説明する。図9(a)は、電子線を照射する前のカーボンナノチューブの側壁の状態を示す透過型電子顕微鏡写真である。また、図9(b)、(c)は、それぞれ電子線を照射した後のカーボンナノチューブの側壁の状態を示す透過型電子顕微鏡写真である。なお、図9(b)と図9(c)は、それぞれフォーカス量を互いに変化させた状態で撮影されている。また、図9(d)は、上記図9(b)、(c)から想定されるカーボンナノチューブの側壁の断面図を示す模式図である。
【0036】
図9からわかるように、電子線をカーボンナノチューブに照射する前では、当該側壁は平坦であって特にうねりなどは検出されなかった。一方、電子線照射後には、図9(b)、(c)からわかるように、フォーカス量を変化させることによって、焦点が合う領域が変わっている。すなわち、カーボンナノチューブの側壁が図9(d)に示すようにうねったような状態となっていることがわかる。
【0037】
(実験4)
引張応力下での電子線照射前後における、カーボンナノチューブの電気的特性の変化を調査するため、以下のような実験を行った。
【0038】
(試料)
試料として、SWNTを準備した。当該SWNTを実験2の場合と同様に、図2に示したようにプローブ針とカンチレバーとの間に固定した。なお、準備したSWNTの直径は約2.0nmであり、長さは約1.0μmであった。
【0039】
(実験)
カーボンナノチューブの試料に引張応力を加えながらエネルギーが5keVの電子線を照射することにより、その軸方向における長さが約6割に縮小したカーボンナノチューブを作製した。そして、当該カーボンナノチューブについて、電子線照射を行なう前と後についてそれぞれ電流−電圧特性を測定した。
【0040】
(結果)
その結果を図10に示す。なお、図10の横軸はカーボンナノチューブの両端間に印加した電圧を示し、単位はVである。また、図10の縦軸はカーボンナノチューブの両端間に流れた電流の値を示し、その単位はμAである。図中の黒塗り菱形のマークが電子線を照射する前の測定データを示し、黒塗り四角のマークが電子線照射後の測定データを示している。なお、図10のグラフの右隣に示した写真(a)は電子線照射前のカーボンナノチューブの写真であり、写真(b)は、電子線照射後のカーボンナノチューブの写真である。
【0041】
図10からわかるように、電子線照射により長さが収縮したカーボンナノチューブでは、電気抵抗値が電子線照射前に比べておよそ2倍程度、単位長さ当たりでおよそ4倍程度に増大していることがわかる。このように、電子線照射による長さの収縮が起きると、カーボンナノチューブの電気抵抗値も増大する。
【0042】
(実験5)
電子線照射工程においてカーボンナノチューブを加熱することが、カーボンナノチューブの長さ変化にどのような影響を与えるかを調べるため、以下のような実験を行なった。
【0043】
(試料)
試料として、複数のMWNTを準備した。当該MWNTを実験2の場合と同様に、図2に示したようにプローブ針とカンチレバーとの間に固定した。なお、準備したMWNTの直径は約10.0nmであり、長さは約1.0μmであった。
【0044】
(実験)
上述のように準備したカーボンナノチューブの試料に対して引張応力下での電子線照射を行なった。但し、このときカーボンナノチューブに電流を流してジュール加熱を行なった場合と、ジュール加熱を行なわない場合という2種類の条件で電子線の照射を行なった。照射した電子のエネルギーについては1keVから10keVまで複数レベルで照射実験を行なった。なお、カーボンナノチューブに印加した引張応力は約0.8GPaであり、ジュール加熱のためカーボンナノチューブに流した電流は5μAである。
【0045】
(結果)
結果を図11に示す。図11において、横軸は照射された電子線のエネルギーを示し、単位はkeVである。また、図11の縦軸は収縮比であり、単位は%・cm2/Cである。なお図11の縦軸の収縮比は、図8に示したグラフの縦軸の収縮比と同じである。また、図中の黒塗り四角はジュール加熱を行なわない状態で照射工程を行った試料に関する測定結果を示しており、図11中の黒塗り菱形はジュール加熱を行なった状態で照射工程を行なった試料に関する測定結果を示している。
【0046】
図11からもわかるように、特に照射エネルギーが3keV以下の領域において、ジュール加熱をすることにより収縮比の絶対値が大きくなっている。逆に、照射エネルギーが3keVを超えると、ジュール加熱を行なうことにより収縮比の絶対値が小さくなる(すなわち照射工程によるカーボンナノチューブの収縮量が小さくなる)という傾向が示されている。
【0047】
以下、上述した実施の形態と一部重複する部分もあるが、本発明の特徴的な構成を列挙する。本発明に従ったカーボンナノ構造体の加工方法は、カーボンナノ構造体(たとえばカーボンナノチューブ1)を準備する工程(CNT準備工程(S10))と、当該カーボンナノチューブ1に対して、一軸方向に応力を加えた状態で、エネルギー線(たとえば電子線)を照射する工程(照射工程(S20))とを備える。なお、エネルギー線として電子線以外では、たとえば光やX線などの電磁波や粒子線などの、任意の放射線を用いることができる。
【0048】
このようにすれば、カーボンナノチューブ1の上記一軸方向における(応力を加えた方向における)長さを、電子線の照射エネルギーを調整することで変更することができる。また、発明者の知見によれば、電子線の照射により長さが変更されたカーボンナノチューブ1は、その電気的特性(たとえば電気抵抗値)も電子線の照射前後で異なる。このため、たとえば1種類のカーボンナノチューブ1から、長さおよび/または電気的特性が異なる複数種類のカーボンナノチューブを得ることができる。
【0049】
上記カーボンナノ構造体の加工方法では、照射工程(S20)において用いられるエネルギー線は電子線であってもよい。この場合、確実にカーボンナノチューブ1の長さを変更することができる。また、電子線は電子の加速電圧を変更することでエネルギーレベルを容易に変更できるので、カーボンナノチューブ1の長さや電気的特性を調整するために電子線のエネルギーレベルの変更を容易に行なうことができる。
【0050】
上記カーボンナノ構造体の加工方法において、電子線のエネルギーは5keV以上30keV以下であってもよい。この場合、カーボンナノチューブ1の長さを、電子線の照射により確実に短くすることができる。また、カーボンナノチューブ1の電気抵抗値を電子線の照射前に比べて高くすることができる。
【0051】
上記カーボンナノ構造体の加工方法において、照射工程(S20)では、カーボンナノチューブ1を加熱しながら応力を加えた状態で、エネルギー線(たとえば電子線)を照射してもよい。この場合、カーボンナノチューブ1の加熱条件を変えることで、エネルギー線の照射エネルギーレベルが一定であってもカーボンナノチューブ1の変形(長さの伸長あるいは短縮)の程度や電気的特性を変えることができる。つまり、カーボンナノ構造体の長さ変化や電気的特性の変化を制御する要因として、エネルギー線の照射エネルギーに加えてカーボンナノチューブ1の加熱条件も利用することができる。このため、カーボンナノチューブ1の長さや電気的特性の変更における自由度をより大きくすることができる。
【0052】
この発明に従ったカーボンナノ構造体(たとえばカーボンナノチューブ1)の製造方法は、上記カーボンナノ構造体の加工方法を用いている。このようにすれば、エネルギー線の照射エネルギーを適宜変更することにより、一種類のカーボンナノ構造体(カーボンナノチューブ1)を出発材料として、長さや電気的特性の異なる複数種類のカーボンナノ構造体を製造することができる。
【0053】
この発明に従ったカーボンナノ構造体としてのカーボンナノチューブ1は、一方向に延び、側壁を有するカーボンナノチューブであって、図4や図9に示すように当該一方向に対して、側壁が周期的に屈曲している。このように側壁が周期的に屈曲することで、カーボンナノチューブ1の延在方向(上記一方向)における単位長さ当たりでのカーボンナノチューブ1の表面積は、当該屈曲が形成されていない場合(つまりエネルギー線を照射されていない場合)より大きくなる。このため、カーボンナノチューブ1の単位体積当たりの表面積を大きくすることができるので、たとえば触媒などの用途に本発明によるカーボンナノチューブ1を適用すると、触媒の単位体積当たりの反応面積(表面積)を大きくすることができる。
【0054】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、特に所定の方向に延びる線状のカーボンナノ構造体に特に有利に適用される。
【符号の説明】
【0056】
1 カーボンナノチューブ、2 カンチレバー、3 プローブ針、4 照射領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノ構造体を準備する工程と、
前記カーボンナノ構造体に対して、一軸方向に応力を加えた状態で、エネルギー線を照射する工程とを備える、カーボンナノ構造体の加工方法。
【請求項2】
前記エネルギー線を照射する工程において用いられるエネルギー線は電子線である、請求項1に記載のカーボンナノ構造体の加工方法。
【請求項3】
前記電子線のエネルギーは5keV以上30keV以下である、請求項2に記載のカーボンナノ構造体の加工方法。
【請求項4】
前記エネルギー線を照射する工程では、前記カーボンナノ構造体を加熱しながら前記応力を加えた状態で、前記エネルギー線を照射する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のカーボンナノ構造体の加工方法。
【請求項5】
請求項1に記載のカーボンナノ構造体の加工方法を用いた、カーボンナノ構造体の製造方法。
【請求項6】
一方向に延び、側壁を有するカーボンナノ構造体であって、
前記一方向に対して、前記側壁が周期的に屈曲している、カーボンナノ構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図11】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−46388(P2012−46388A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191071(P2010−191071)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】