説明

カーボンナノ構造物の高効率合成方法、装置及びカーボンナノ構造物

原料ガス流量の初期揺らぎ時間や立上り時間を無くして、カーボンナノ構造物の初期成長を促進できる高効率合成方法及び装置を開発する。
本発明に係るカーボンナノ構造物の高効率合成方法は、原料ガスと触媒を反応条件下で接触させてカーボンナノ構造物を製造する方法において、原料ガスと触媒の接触の開始を瞬時に行うカーボンナノ構造物の高効率合成方法である。温度や原料ガス濃度などの反応条件を触媒成長条件に設定して、この反応条件下で原料ガスGと触媒6の接触の開始を瞬時に行うから、カーボンナノ構造物の初期成長を積極的に行わせ、の高さ成長や太さ成長を高効率にでき、高密度成長、短時間の高速度成長をも可能にする。前記触媒は触媒基板、触媒構造体、触媒粉体、触媒ペレットなどの任意形状の触媒を包含している。特に、原料ガスGの供給・遮断を電磁三方弁24により断続制御する方式が好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はカーボンナノチューブやカーボンナノコイル等のカーボンナノ構造物を製造する方法に関し、更に詳細には、原料ガスと触媒との反応時の接触条件を改良することによってカーボンナノ構造物の初期成長速度を高め、カーボンナノ構造物を高効率に製造できるカーボンナノ構造物の高効率合成方法、装置及びカーボンナノ構造物に関する。
【背景技術】
本発明のカーボンナノ構造物とは炭素原子から構成されるナノサイズの物質であり、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブにビーズが形成されたビーズ付カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブが多数林立したブラシ状カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブが捩れを有したカーボンナノツイスト、コイル状のカーボンナノコイル、球殻状のフラーレンなどである。以下では、これら多数の炭素物質をカーボンナノ構造物と総称する。
これらのカーボンナノ構造物を製造する方法として、炭化水素などの原料ガスを分解して目的物質を成長させる化学的気相成長法(CVD法、Chemical Vapor Deposition)、また触媒を利用して目的物質を成長させる触媒化学的気相成長法(CCVD法、Catalyst Chemical Vapor Deposition)が知られている。このCCVD法はCVD法の一形態に過ぎない。
本発明は前記CVD法によりカーボンナノ構造物を製造する方法に関連している。このCVD法とは、反応容器内で原料ガスを分解して触媒に目的物質を成長させる方法を総称しており、その分解手段には熱、電子ビーム、レーザービーム、イオンビームなど各種の分解手段が包含される。
従来、CVD法でカーボンナノ構造物を製造するには、反応室に原料ガスとキャリアガスの混合ガスを導入し、触媒により原料ガスを分解して触媒表面にカーボンナノ構造物を成長させる方法が採用されている。
図18は第1従来例であるカーボンナノ構造物合成装置50の概略構成図である。この従来型カーボンナノ構造物合成装置50は、反応室4の中に触媒体6を配置し、この反応室4にキャリアガスと原料ガスを供給し、触媒体6の表面にカーボンナノ構造物8を成長させるように構成されている。
キャリアガス容器10から送出されるHe等のキャリアガスはレギュレータ12により減圧された後、マスフローコントローラなどのキャリアガス流量制御器14により所定流量に調整され、キャリアガスバルブ16により必要なタイミングで供給される。
他方、原料ガス容器18から送出されるC等の原料ガスはレギュレータ20により減圧された後、マスフローコントローラなどの原料ガス流量制御器22により所定流量に調整され、原料ガスバルブ52により必要なタイミングで供給される。
キャリアガスと原料ガスは合流部32で混合され、ガス供給ノズル34から反応室4の中に矢印c方向に噴出される。原料ガスは触媒体6で分解され、触媒体6の表面にカーボンナノ構造物8が合成され、不要なガスはガス排出管36から矢印d方向に放出される。
図19は従来装置における原料ガス流量制御器22による原料ガス流量の初期不安定性を示す時間経過図である。原料ガス流量制御器22として通常マスフローコントローラが使用されており、このマスフローコントローラはPID制御により原料ガスを所定流量になるように設計されている。
PID制御とは比例制御(Proportional)と積分制御(Integral)と微分制御(Differential)を組み合わせた制御方式で、現在最も優れた制御方式と考えられている。この制御方式では、原料ガスを所定流量に制御するのに数秒を要する。その初期過程では、流量がオーバーシュートやアンダーシュートを繰り返しながら所定流量に到達し、この初期流量の揺らぎは避けることができない。初期揺らぎ時間ΔTは数秒に達する。
この原料ガス流量の初期揺らぎはカーボンナノ構造物8の初期成長に大きな影響を及ぼすことが本発明者等の研究により明らかになった。カーボンナノ構造物8はナノメートルサイズであるから、その成長時間は極めて短時間である。カーボンナノ構造物8の成長時間を数秒で停止させるような合成条件では、原料ガス流量の初期揺らぎはカーボンナノ構造物の合成に決定的な悪影響を与える。従って、原料ガスの初期揺らぎを抑制する工夫がなされた。
図20は第2従来例であるカーボンナノ構造物合成装置50の概略構成図である。このカーボンナノ構造物合成装置50では、原料ガスバルブ52が手動三方弁54に置換され、他の構成は図18と同様である。
この従来例では、原料ガスの初期揺らぎを無くすために、手動三方弁54が使用されている。原料ガス流量制御器22では原料ガスが所定流量に調整される。この所定流量の原料ガスが遮断状態では矢印a方向に示されるように補助排気管54bへと排気される。
原料ガスを反応室4に供給する場合には、手動三方弁54を手動操作で切換えて、所定流量の原料ガスを矢印b方向に示されるように注入管54aへと供給する。このようにすれば、PID制御による初期揺らぎ時間ΔTの影響を避けることが可能になる。しかし、別の問題が生じる。
図21は従来の手動三方弁による原料ガス流量の開閉緩慢性を示す時間経過図である。手動操作で三方弁54を切換えると、切換えにどうしても時間が掛かる。従って、供給時における矢印a方向から矢印b方向への切り替えによる開操作では、立上り時間ΔTが出現する。同様に、遮断時における矢印b方向から矢印a方向への切り替えによる閉操作では、立下り時間ΔTが出現する。
特に、立上り時間ΔTは初期過程における流量不安定性を生じるから、カーボンナノ構造物8の初期成長過程に悪影響を与える原因となる。カーボンナノ構造物8を成長させる時間が長い場合には、立下り時間ΔTはそれほど影響しないが、立上り時間ΔTは成長に多少の影響を与える。
第1従来例及び第2従来例から分かるように、原料ガスの供給を開始する場合に、原料ガス流量に初期揺らぎ時間ΔTや立上り時間ΔTが存在する場合には、カーボンナノ構造物の初期成長に悪影響を与えるだけでなく、ある程度の時間が経過した後でも、初期成長の歪が後の成長を阻害する可能性も存在する。
従って、本発明は、原料ガスの供給時における原料ガス流量の初期揺らぎ時間や立上り時間を無くし、反応条件下における原料ガスと触媒の接触の開始を瞬時に行うことにより、カーボンナノ構造物の初期成長に悪影響を与えることの無いカーボンナノ構造物の高効率合成方法、装置を提供し、高純度のカーボンナノ構造物を製造することを目的とする。
【発明の開示】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、本発明の第1の形態は、原料ガスと触媒を反応条件下で接触させてカーボンナノ構造物を製造する方法において、原料ガスと触媒の接触の開始を瞬時に行うカーボンナノ構造物の高効率合成方法である。温度や原料ガス濃度などの反応条件を触媒成長条件に設定して、この反応条件下で原料ガスと触媒の接触の開始を瞬時に行うから、原料ガス濃度(又は流量)の初期揺らぎや緩慢な立上りが無く、カーボンナノ構造物の初期成長を積極的に行わせ、カーボンナノ構造物の高さ成長や太さ成長を高効率にするだけでなく高密度成長、更に短時間の高速度成長をも可能にする。前記触媒は触媒基板、触媒構造体、触媒粉体、触媒ペレットなどの任意形状の触媒を包含している。
本発明における瞬時とは、例えば電磁弁などの高速弁で制御可能な範囲の瞬時性を意味し、高速弁でガス注入をオフからオンに切替え、また逆にオンからオフに切替える時間範囲内の瞬時性を意味する。前記高速弁は電磁弁に限られず、非手動式の高速弁の全てを包含する。また、より具体的には、0.1秒でカーボンナノ構造物を成長させる場合には、0.1秒よりも十分に短い時間で開閉制御する高速弁の切替え時間を本発明の瞬時という。
本発明の第2の形態は、前記第1形態において、前記触媒が静止しており、この触媒に対して前記原料ガスの供給を瞬時に開始することにより前記接触の開始を瞬時に行うカーボンナノ構造物の高効率合成方法である。反応室内に静置された触媒に対し、原料ガス流の供給を電子制御・コンピュータ制御などにより高速度で短時間に制御することによって、所定流量(所定濃度)の原料ガスが触媒に一気に接触反応し、カーボンナノ構造物の初期成長を促進し、カーボンナノ構造物の高さ成長や太さ成長を高効率にするだけでなく高密度成長、短時間の高速度成長を実現できる。触媒を静止させておくため、触媒基板や触媒構造体に好適である。
本発明の第3の形態は、前記第1形態において、前記原料ガスを流通させておき、この原料ガス流の外から原料ガス流の中へと前記触媒を移動させることにより前記接触の開始を瞬時に行うカーボンナノ構造物の高効率合成方法である。例えば、反応室内において原料ガス流が通過する領域と通過しない領域に区分しておき、所定流量で原料ガスが流通すると、通過しない領域に配置された触媒を機械的に通過する領域に瞬時移動させる方式がある。また、原料ガス流に対し触媒粉体を瞬時に噴霧する方式などが含まれる。瞬時移動・瞬時噴霧により、触媒と原料ガスとの接触の開始が瞬間的になり、カーボンナノ構造物の初期成長を促進し、カーボンナノ構造物の高さ成長や太さ成長を高効率にするだけでなく高密度成長、短時間の高速度成長を実現できる。
本発明の第4の形態は、前記第1形態において、前記原料ガスを滞留させておき、この滞留した原料ガスの外から原料ガスの中へと前記触媒を移動させることにより前記接触の開始を瞬時に行うカーボンナノ構造物の高効率合成方法である。例えば、反応室内に所定濃度の原料ガスを封入しておき、機械的に隔離された領域に触媒を配置し、この触媒を反応室へと機械的に瞬時に移動させれば、触媒と原料ガスとの接触開始を瞬時に起こすことができる。また、触媒粉体を前記反応室に瞬時に噴霧すれば、両者の瞬時接触を可能にする。このような瞬時移動・瞬時噴霧により、触媒と原料ガスとの接触の開始が瞬間的になり、カーボンナノ構造物の初期成長を促進し、カーボンナノ構造物の高さ成長や太さ成長を高効率にするだけでなく高密度成長、短時間の高速度成長を実現できる。
本発明の第5の形態は、前記第1形態において、前記原料ガスを滞留させておき、この滞留した原料ガスの中に触媒を配置し、この触媒又は触媒近傍の温度を反応温度にまで瞬時に昇温させることにより反応条件下での前記接触の開始を瞬時に行うカーボンナノ構造物の高効率合成方法である。原料ガスの触媒分解温度未満の温度領域では、触媒と原料ガスが接触していても、カーボンナノ構造物は成長しない。従って、触媒分解温度未満の温度領域で、原料ガスと触媒を接触配置しておき、この状態で触媒又は触媒近傍を瞬時に触媒分解温度以上に加熱すれば、カーボンナノ構造物が成長する反応条件が瞬時に満足され、結果的に前述した反応条件下における触媒と原料ガスの接触を瞬時に生起することができる。温度の瞬時上昇を実現するには、触媒のレーザービーム照射・赤外線ビーム照射・電子ビーム照射・イオンビーム照射などのビーム照射方式が有効であるが、その他の公知の加熱方法の全てを応用することができる。このような方法により、触媒と原料ガスとの接触の開始が瞬間的になり、カーボンナノ構造物の初期成長を促進し、カーボンナノ構造物の高さ成長や太さ成長を高効率にするだけでなく高密度成長、短時間の高速度成長を実現できる。
本発明の第6の形態は、前記第1〜第5形態において、前記反応条件下における前記原料ガスと前記触媒の接触の終了を瞬時に行うカーボンナノ構造物の高効率合成方法である。カーボンナノ構造物の成長時間が長時間の場合には、接触終了時の原料ガスの濃度揺らぎはカーボンナノ構造物の完成形態にそれ程影響を与えない。しかし、カーボンナノ構造物の成長時間が短時間の場合には、接触終了時の原料ガスの濃度揺らぎはカーボンナノ構造物の完成形態に強い影響を与える。この第6形態は、短時間成長条件において、原料ガスと触媒の接触を瞬時に行って濃度揺らぎを抑制し、良好な形態のカーボンナノ構造物の製造を実現する。
本発明の第7の形態は、キャリアガスと原料ガスを反応室に供給して触媒によりカーボンナノ構造物を製造する方法において、原料ガスの供給を開始するときに原料ガスを瞬時に所定流量で供給するカーボンナノ構造物の高効率合成方法である。この発明では、原料ガスの供給流量を瞬時に所定流量まで立ち上げて反応室に原料ガスを供給するから、供給時における原料ガス流量の初期揺らぎや緩慢な立上りが無く、カーボンナノ構造物の初期成長を積極的に行わせ、カーボンナノ構造物の高さ成長や太さ成長を高効率にするだけでなく高密度成長をも可能にする。
本発明の第8の形態は、キャリアガスと原料ガスを反応室に供給して触媒によりカーボンナノ構造物を製造する方法において、原料ガスの供給を瞬時に所定流量で開始する場合にはキャリアガスの流量をその分量だけ瞬時に低減させ、原料ガスの供給を瞬時に遮断する場合にはその分量だけキャリアガスの流量を瞬時に増大させて、キャリアガスと原料ガスの合計流量が常に一定になるように制御するカーボンナノ構造物の高効率合成方法である。この方法によれば、原料ガスの遮断時にはキャリアガスだけが流通し、原料ガスの供給時にはキャリアガスをその分量だけ低減するから、原料ガスの遮断時・供給時を通してキャリアガスと原料ガスの合計ガス流量は常に一定に保持される。このように、原料ガスの供給開始の前後における触媒表面のガス流量を一定に保持したときには、原料ガスを供給した後のカーボンナノ構造物の初期成長が著しく増大する事実は、本発明者等によって初めて発見されたものである。この発明は、この発見に基づいてなされたものである。特に、カーボンナノ構造物を短時間成長させるような場合には、ガス流量(キャリアガス流量+原料ガス流量)の一定性の条件は極めて重要な要素になる。このガス流量一定性の条件に加えて、反応室の圧力や温度の一定性が保持される場合には、カーボンナノ構造物の成長を一層促進させる効果がある。また、反応室内の物理化学的条件に揺らぎが無いことが望ましい。
本発明の第9の形態は、キャリアガスと原料ガスを反応室に供給して触媒によりカーボンナノ構造物を製造する方法において、反応過程で原料ガスの供給流量を複数段階で可変し、原料ガスの供給流量をある変化量だけ瞬時に増加又は減少させる場合にはキャリアガスの供給流量をその変化量だけ逆に瞬時に減少又は増加させて、キャリアガスと原料ガスの合計流量が常に一定になるように制御するカーボンナノ構造物の高効率合成方法である。例えば、合計流量をQに設定したときに、原料ガスの供給流量をq1、q2の2段階に可変する場合には、キャリアガスの供給流量をQ−q1とQ−q2の2段階に可変する必要がある。勿論、原料ガスを供給しない場合には、キャリアガスの流量はQに設定される。このように、原料ガスの供給流量を複数段階で制御する場合でも、合計流量を常に一定にするように制御するから、原料ガスの流量変更時においてもカーボンナノ構造物を効率的にすることが可能になる利点がある。
本発明の第10の形態は、キャリアガスと原料ガスを反応室に供給して触媒によりカーボンナノ構造物を製造する装置において、基本流量に制御されたキャリアガスを反応室に供給する手段を設けておき、また所定流量に制御された原料ガスを反応室に瞬時に供給又は遮断する電磁三方弁を設け、原料ガスの遮断時には電磁三方弁を排気側に瞬時に切換えて原料ガスの供給を遮断し、原料ガスの供給時には電磁三方弁を供給側に瞬時に切換えて所定流量の原料ガスを反応室に供給するカーボンナノ構造物の高効率合成装置である。原料ガスの遮断時に所定流量に制御された原料ガスを排気しておき、原料ガスの供給時には電磁三方弁で原料ガスを瞬時に反応室に供給するから、原料ガスの供給・遮断が電磁力により瞬時に行える。従って、原料ガスが瞬時に所定流量に立ち上がって供給でき、原料ガスの供給初期時の流量変動が無くなる。その結果、カーボンナノ構造物の初期成長が促進され、この促進作用によって中期段階におけるカーボンナノ構造物の成長も促進される利点がある。
本発明の第11の形態は、キャリアガスと原料ガスを反応室に供給して触媒によりカーボンナノ構造物を製造する装置において、基本流量に制御されたキャリアガスを反応室に供給する手段を設けておき、所定流量に制御された原料ガスを反応室に瞬時に供給又は遮断する電磁三方弁を設け、同様に前記原料ガス流量と同じ所定流量に制御されたキャリアガスを反応室に瞬時に供給又は遮断する電磁三方弁を別に設けておき、電磁三方弁で原料ガスを供給する場合には電磁三方弁によりキャリアガスを遮断し、電磁三方弁で原料ガスの供給を遮断する場合には電磁三方弁によりキャリアガスを供給し、前記基本流量のキャリアガスを含めて反応室に供給されるキャリアガスと原料ガスの合計流量を一定になるように制御するカーボンナノ構造物の高効率合成装置である。この装置によれば、原料ガスを所定流量で瞬時に供給できるだけでなく、原料ガスの供給前後における合計流量が一定に保持されるから、触媒表面におけるガス流量の一定性とガス圧力の一定性が保証され、原料ガスの供給初期におけるカーボンナノ構造物の初期成長が促進される効果がある。例えば、カーボンナノ構造物を触媒基板に低密度で成長させる場合には、原料ガスの供給時間を短時間で終了させなければならないから、原料ガスの初期成長を強力に促進させる本発明が極めて有効になる。
本発明の第12の形態は、キャリアガスと原料ガスを反応室に供給して触媒によりカーボンナノ構造物を製造する装置において、基本流量に制御されたキャリアガスを反応室に供給する手段を設けておき、原料ガスの供給流量を複数段階に可変するために、原料ガスを各供給流量で反応室に瞬時に供給又は遮断する電磁三方弁を複数段並列に配置し、前記原料ガスの供給流量の複数段と同じ段数でキャリアガスの供給流量を可変するために、キャリアガスを各供給流量で反応室に瞬時に供給又は遮断する電磁三方弁を複数段並列に配置し、ガス供給時において、前記原料ガスの電磁三方弁と前記キャリアガスの電磁三方弁から常に1個以上の必要な電磁三方弁をガス供給側に切換え、残りの電磁三方弁をガス遮断側に切換え、前記基本流量のキャリアガスを含めて反応室に供給されるキャリアガスと原料ガスの合計流量を一定になるように制御するカーボンナノ構造物の高効率合成装置である。この発明は、原料ガスの供給流量を2段階以上で可変する場合に、合計流量を常に一定に保持する装置であり、原料ガスの供給開始時における瞬時性と合計流量一定性を両立させて、カーボンナノ構造物の初期成長を活性化し、高密度・高効率なカーボンナノ構造物の合成装置を提供する。
本発明の第13の形態は、前記第1〜第9形態のいずれかに記載のカーボンナノ構造物の高効率合成方法を使用して製造されたカーボンナノ構造物である。本発明によれば、触媒と原料ガスとの反応の開始を瞬時に行え、また反応の終了を瞬時に行えるから、高純度の各種カーボンナノ構造物を高効率に合成することができる。このカーボンナノ構造物には、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブにビーズが形成されたビーズ付カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブが多数林立したブラシ状カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブが捩れを有したカーボンナノツイスト、コイル状のカーボンナノコイル、球殻状のフラーレンなどが含まれる。
本発明の第14の形態は、前記第13形態において、前記カーボンナノ構造物がブラシ状カーボンナノチューブであり、最外層が主としてグラーフェンシートからなる高純度カーボンナノチューブを高密度に成長させたカーボンナノ構造物である。触媒として触媒基板のような触媒構造物を使用すれば、触媒上にカーボンナノチューブを高密度に立設成長させることができる。一般に、長時間の成長を行わせると、カーボンナノチューブの内部はグラーフェンシートから構成されるが、その外層にアモルファス炭素が堆積し、グラファイト層とアモルファス層の二重構造のカーボンナノチューブが生成される。本発明では、原料ガスとの接触を瞬時に開始・終了できるから、短時間の成長制御が可能になり、アモルファス層が存在しない、又は殆ど存在しない高純度のカーボンナノチューブを生成することが可能になる。
本発明の第15の形態は、前記第14形態において、100秒以内に成長が完了するカーボンナノ構造物である。触媒と原料ガスとの接触時間を、特に100秒以内の所望時間に制御すると、高純度のカーボンナノチューブを高密度にブラシ状に成長させることができる。100秒以内の任意時間でよいが、0.01秒〜60秒であれば、不純物の混入率を殆どゼロにすることができる。
本発明の第16の形態は、前記第14形態において、前記ブラシ状カーボンナノチューブを任意の断面で開裂させたときに、断面に糸屑状のカーボンナノチューブが出現するカーボンナノ構造物である。本発明では、カーボンナノチューブが高密度に成長するから、カーボンナノチューブが相互に接触状態で成長し、カーボンナノチューブが分子間力により相互に表面結合する場合が多い。その結果、ブラシ状カーボンナノチューブを任意の断面で開裂させると、カーボンナノチューブ相互の引力で、断面に糸屑状のカーボンナノチューブが出現する。この糸屑の出現により、高密度成長が証明される。従って、この糸屑が出現すると、本発明方法によりカーボンナノチューブを製造したことが証明される。
【図面の簡単な説明】
図1Aは静止した触媒体6に対し原料ガスGを瞬時に供給遮断する高効率合成方法の概略説明図であり、図1Bは流通する原料ガスG中に触媒体6を外部から移入させる高効率合成方法の概略説明図である。
図2Aは反応室内に滞留させた原料ガスG中に触媒体6を瞬時に移入する高効率合成方法の概略説明図であり、図2Bは反応室に滞留した原料ガスGの中に触媒体6を静置させて反応温度を瞬時に達成させる高効率合成方法の概略説明図である。
図3は、本発明に係るカーボンナノ構造物の高効率合成装置の第1実施形態の概略構成図である。
図4は、本発明の第1実施形態におけるガス流量の時間経過図である。
図5は、本発明の第1実施形態により成長させたカーボンナノ構造物8の一種であるカーボンナノチューブのSEM像である。
図6は、比較例として従来の手動三方弁(図13)により成長させたカーボンナノチューブのSEM像である。
図7は、本発明に係るカーボンナノ構造物の高効率合成装置の第2実施形態の概略構成図である。
図8は、本発明の第2実施形態におけるガス流量の時間経過図である。
図9は、本発明の第2実施形態により成長させたカーボンナノチューブのSEM像である。
図10は、比較例として本発明の第1実施形態により成長させたカーボンナノチューブのSEM像である。
図11は、本発明に係るカーボンナノ構造物の高効率合成装置の第3実施形態の概略構成図である。
図12は、本発明の第3実施形態におけるガス流量の時間経過図である。
図13は、前記実施形態におけるアセチレン濃度とカーボンナノチューブの成長速度との関係図である。
図14は、前記実施形態におけるアセチレン濃度とカーボンナノチューブ密度との関係図である。
図15は、前記実施形態におけるブラシ状ナノチューブの平均高さとアセチレン供給時間との関係図である。
図16は、前記実施形態におけるブラシ状ナノチューブの側面拡大電子顕微鏡像である。
図17は、前記実施形態におけるカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡像である。
図18は、第1従来例であるカーボンナノ構造物合成装置50の概略構成図である。
図19は、従来装置における原料ガス流量制御器22による原料ガス流量の初期不安定性を示す時間経過図である。
図20は、第2従来例であるカーボンナノ構造物合成装置50の概略構成図である。
図21は、従来の手動三方弁による原料ガス流量の開閉緩慢性を示す時間経過図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、本発明に係るカーボンナノ構造物の高効率合成方法及び装置の実施形態を図面に従って詳細に説明する。
図1の(1A)は静止した触媒体6に対し原料ガスGを瞬時に供給遮断する高効率合成方法の概略説明図である。触媒体6は触媒基板、触媒構造体、ペレット状触媒、触媒粉体などの任意形状の触媒を代表している。この触媒体6に原料ガスGを矢印w方向に瞬時に供給し、また瞬時に遮断する方式である。原料ガスの流量(又は濃度)と環境温度をカーボンナノ構造物が成長する反応条件に設定しておき、この反応条件下で原料ガス供給を瞬時に開始し、また供給を瞬時に遮断すると、原料ガスが供給されている時間だけ、カーボンナノ構造物が成長できる。短時間成長では、瞬時供給と瞬時遮断が極めて有効になる。原料ガス流の供給・遮断は電子制御・コンピュータ制御などにより高速度で短時間に制御できる。特に、瞬時供給により、原料ガス濃度(又は流量)の初期揺らぎや緩慢な立上りが無く、カーボンナノ構造物の初期成長を積極的に行わせ、カーボンナノ構造物の高さ成長や太さ成長を高効率にするだけでなく高密度成長、更に短時間の高速度成長をも可能にする。この詳細は、図3〜図18で後述する。
図1の(1B)は流通する原料ガスG中に触媒体6を外部から移入させる高効率合成方法の概略説明図である。触媒体6は触媒基板、触媒構造体、ペレット状触媒、触媒粉体などの任意形状の触媒を代表している。原料ガスGを矢印w方向に流通させておき、この原料ガス流に対し触媒体6を矢印v方向に移動させる。この触媒体6の移動を手動制御・電子制御・コンピュータ制御などに制御すると、触媒体6と原料ガスの接触開始は瞬時に行われる。移動方式には機械的移動や触媒粉体を噴霧する場合も含まれる。接触の遮断においては、機械的移動では単に原料ガス流から触媒体6を引き離せばよく、触媒粉体では吸引回収などにより遮断を短時間に瞬時制御することができる。瞬時移動や瞬時噴霧・瞬時回収により、触媒体と原料ガスとの接触の開始・終了が瞬間的になり、カーボンナノ構造物の短時間成長を実現でき、高純度カーボンナノ構造物の製造が可能になる。
図2の(2A)は反応室内に滞留させた原料ガスG中に触媒体6を瞬時に移入する高効率合成方法の概略説明図である。触媒体6は触媒基板、触媒構造体、ペレット状触媒、触媒粉体などの任意形状の触媒を代表している。原料ガスGを反応室内に滞留させておき、この滞留した原料ガスGの中に触媒体6を矢印v方向に移動させる。原料ガス濃度やガス温度は反応条件に設定されている。例えば、反応室内に所定濃度の原料ガスGを封入しておき、機械的に隔離された領域に触媒体6を配置し、この触媒体6を反応室へと機械的に瞬時に移動させれば、触媒体6と原料ガスGとの接触開始が瞬時行われ、成長開始の瞬時性が確保される。また、触媒粉体を前記反応室に瞬時に噴霧すれば、両者の瞬時接触を可能にする。このような瞬時移動・瞬時噴霧により、触媒と原料ガスとの接触の開始が瞬間的になり、カーボンナノ構造物の初期成長を促進し、カーボンナノ構造物の高さ成長や太さ成長を高効率にするだけでなく高密度成長、短時間の高速度成長を実現できる。
図2の(2B)は、反応室に滞留した原料ガスGの中に触媒体6を静置させて反応温度を瞬時に達成させる高効率合成方法の概略説明図である。実際には、触媒体6又は触媒体の近傍を一気に反応温度にまで昇温させればよい。通常、原料ガスの触媒分解温度未満の温度領域では、触媒体6と原料ガスGが接触していても、カーボンナノ構造物は成長しない。従って、触媒分解温度未満の温度領域で、原料ガスGと触媒体6を接触配置しておき、この状態で触媒又は触媒近傍を瞬時に触媒分解温度以上に加熱すれば、カーボンナノ構造物が成長する反応条件が瞬時に満足され、結果的に前述した反応条件下における触媒体6と原料ガスGの接触を瞬時に生起することができる。温度の瞬時上昇を実現するには、触媒体6のレーザービーム照射・赤外線ビーム照射・電子ビーム照射・イオンビーム照射などのビーム照射Hが有効であるが、その他の公知の加熱方法の全てを応用することができる。このような方法により、触媒体6と原料ガスGとの接触の開始が瞬間的になり、カーボンナノ構造物の初期成長を促進し、カーボンナノ構造物の高さ成長や太さ成長を高効率にするだけでなく高密度成長、短時間の高速度成長を実現できる。ビーム照射を停止すれば、触媒体6の温度は急速に低下し、カーボンナノ構造物の成長を停止できる。
以下では、(1A)で述べた減量ガス流の断続制御を図3〜図18を用いて詳述する。図3は本発明に係るカーボンナノ構造物の高効率合成装置の第1実施形態の概略構成図である。この高効率合成装置2は、CCVD法を使用してカーボンナノ構造物を製造する装置である。反応室4の中に触媒体6を配置し、この触媒体6の表面にカーボンナノ構造物8が触媒化学気相成長法により成長している。この第1実施形態では、カーボンナノ構造物8としてカーボンナノチューブが図示されている。
触媒体8は触媒を表面に形成した基体であり、その基体の形状は基板、多層基板、筒体、多面体、ペレット、粉体など種々の形態がある。また、使用される触媒はカーボンナノ構造物8の種類に応じて異なるが、例えば鉄、コバルト、ニッケル、鉄合金、コバルト合金、ニッケル合金、鉄酸化物、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、又はこれらの組み合わせなど各種の公知の触媒が利用できる。
キャリアガス容器10からは不活性ガスなどのキャリアガスが供給され、このキャリアガスはレギュレータ12により所定圧力まで低圧化される。低圧化されたキャリアガスはマスフローコントローラ(MFC1)からなるキャリアガス流量制御器14により基本流量Qに調節され、二方向弁からなるキャリアガスバルブ16を介して合流部32に供給される。
このキャリアガスとしては、He、Ne、Ar、N、Hなどのガスが利用される。キャリアガスは原料ガスを搬送するガスで、原料ガスが反応により消耗されるのに対し、キャリアガスは全く無反応で消耗しない特徴がある。
また、原料ガス容器18から原料ガスが供給され、この原料ガスはレギュレータ20により所定圧力まで低圧化される。低圧化された原料ガスはマスフローコントローラ(MFC2)からなる原料ガス流量制御器22により所定流量qに調節される。この原料ガスは電磁三方弁24を介して供給される。
この原料ガスとしては、炭化水素のみならず硫黄含有有機ガス、リン含有有機ガスなどの有機ガスが広く利用され、特定構造のカーボンナノ構造物の生成に好適な有機ガスが選択される。また、有機ガスの中でも余分な物質を生成しない意味で炭化水素が好適である。
炭化水素としては、メタン、エタンなどのアルカン化合物、エチレン、ブタジエンなどのアルケン化合物、アセチレンなどのアルキン化合物、ベンゼン、トルエン、スチレンなどのアリール炭化水素化合物、インデン、ナフタリン、フェナントレンなどの縮合環を有する芳香族炭化水素、シクロプロパン、シクロヘキサンなどのシクロパラフィン化合物、シクロペンテンなどのシクロオレフィン化合物、ステロイドなどの縮合環を有する脂環式炭化水素化合物などが利用できる。また、以上の炭化水素化合物を2種以上混合した混合炭化水素ガスを使用することも可能である。特に、望ましくは炭化水素の中でも低分子、例えば、アセチレン、アリレン、エチレン、ベンゼン、トルエンなどが好適である。
次に、本発明の特徴である電磁三方弁24について説明する。電磁三方弁24は自動バルブ制御器26の作用により遮断状態と供給状態の2方向に制御される。即ち、原料ガスの遮断状態では、原料ガスは矢印a方向に補助排気管24bへと排気される。原料ガスの供給状態では、原料ガスは矢印b方向に注入管24aへと供給され、合流部32にて原料ガスはキャリアガスと混合される。
この電磁三方弁24を使用すると、既に原料ガスは所定流量qに制御されているから、矢印b方向に切換えられても原料ガスの初期揺らぎは存在しない。しかも電磁作用で矢印b方向に切換えられるから、その切換えは瞬時に行われ、原料ガスの緩慢な立上がりは無く、一気に所定流量qの原料ガスが供給される。
また、原料ガスを供給状態から遮断状態に切換える場合でも、自動バルブ制御器26による電磁作用で瞬時に流量qから流量ゼロに切換えることができ、原料ガスの緩慢な立下りは無い。このように、この電磁三方弁24を用いれば、原料ガスの反応室4への供給と遮断を瞬時に行うことができ、しかもその変化過程において流量の揺らぎは全く存在しない。
キャリアガスと原料ガスは合流部32で混合された後、混合流としてガス供給ノズル34から反応室4に供給される。反応室4はカーボンナノ構造物を最も生成しやすい温度域に加熱されており、原料ガスは触媒体6の近傍で熱分解され、触媒体6の表面で分解物からカーボンナノ構造物8が成長する。
図3では、触媒化学気相成長法において、原料ガスを分解するのに熱分解法を利用したが、例えばレーザービーム分解法、電子ビーム分解法、イオンビーム分解法、プラズマ分解法、その他の分解法が利用できる。いずれにしても、これらの分解物から触媒体6の表面にカーボンナノ構造物8が形成されることになる。
しかし、触媒体6の表面では原料ガスの一部がカーボンナノ構造物に変換され、反応に寄与しなかった未反応の原料ガスはキャリアガスと共に排出管端部36aからガス排出管36へと矢印d方向に流通する。
図4は本発明の第1実施形態におけるガス流量の時間経過図である。この第1実施例では、以下に共通するように、キャリアガスとしてヘリウム(He)、原料ガスとしてアセチレン(C)が使用されている。従って、Heと表示してもキャリアガス一般に適用でき、同様にCと表示しても原料ガス一般に適用できる。時刻t〜tではキャリアガスは基本流量Qの供給状態にあり、原料ガスは遮断状態にある。従って、キャリアガスと原料ガスの合計流量はQになる。
時刻tでは、原料ガスが供給状態となり、原料ガスは所定流量qで矢印A方向のように瞬時に立ち上り、合計流量はQ+qとなる。この状態は時刻t〜tの間継続する。時刻tでは、原料ガスは遮断状態となり、原料ガスは矢印B方向のように瞬時に立ち下がり、合計流量はキャリアガスの基本流量Qに一致する。原料ガスの供給時間Tはt−tに等しい。
図5は本発明の第1実施形態により成長させたカーボンナノ構造物8の一種であるカーボンナノチューブのSEM像である。このカーボンナノチューブの成長条件は次のとおりである。キャリアガスの流量Qは200sccmとし、原料ガスの流量qは60sccmである。反応室4内は700℃に制御され、圧力は大気圧(1×10Pa)に保たれた。(5A)では原料ガス供給時間Tは1(s)であり、(5B)では原料ガスの供給時間Tは30(s)である。電磁三方弁24の供給・遮断(即ちオン・オフ)により、1秒間という極めて短時間の原料ガス供給も可能になる。
T=1(s)でも、カーボンナノチューブは触媒体6に高密度にほぼ垂直に成長し、その高さHは35μmで、全領域にほぼ均一高さで成長している。従って、カーボンナノチューブ群の表面は平坦であり、鏡面性を有していることが観察される。T=30(s)では、高さHは107μmまで成長し、数分以上の長時間性長ではカーボンナノチューブの直径も太くなってくる。勿論、高さの均一性と表面の平坦性及び鏡面性は同様に保持されている。
図6は比較例として従来の手動三方弁(図20)により成長させたカーボンナノチューブのSEM像である。このカーボンナノチューブの成長条件は次の通りである。キャリアガスの流量Qは200sccmであり、原料ガスの流量qは60sccmである。反応室4内は700℃に制御され、圧力は大気圧(1×10Pa)に保持された。(6A)では原料ガス供給時間Tは1(s)であり、(6B)では原料ガスの供給時間Tは30(s)である。
手動三方弁54の操作では、T=1(s)の開閉操作は原理的に不可能であり、原料ガスの立上り時間Tと立下り時間Tを1秒以内に制御することは困難を極める。従って、原料ガス流量は1秒間の間にかなり揺らいでいることが分かる。この揺らぎにより、(6A)に示されるように、カーボンナノチューブは殆ど成長していない。
(6B)では、原料ガス供給時間は30秒であるが、カーボンナノチューブの高さHは図の領域内でも12μm〜20μmの範囲でバラツき、しかもカーボンナノチューブはそれほど太く成長していない。開閉の手動操作による原料ガス流量の揺らぎは、30秒間の間にかなりの影響を及ぼし、その結果成長速度が小さくなったと考えられる。しかも、カーボンナノチューブ群の表面の平坦性が悪く、その結果鏡面性も得られないことが分かる。
図5と図6の比較から、手動三方弁54を電磁三方弁24に交換するだけで、カーボンナノチューブの成長に大きな影響を与えることが理解できる。原料ガスの供給を瞬時に行うことによりカーボンナノチューブ等のカーボンナノ構造物8の成長を促進できることが実証された。
本発明者等は図6Bにおいて得られた30(s)で高さ107μmの成長結果が、現在までに得られている世界中のデータと比較して、どのような位置にあるかを検討した。結果は表1に示されている。

カーボンナノチューブの大量合成のためには、成長速度を高めることが必然的に要請される。本発明者等の成長速度は世界のどのデータよりも高さ方向の成長速度が速いことを示している。この結果から、成長速度を上げるためには、本発明により明らかにされた原料ガスの瞬時供給と原料ガスの供給流量の一定性が本質的に重要であることが理解される。
図7は本発明に係るカーボンナノ構造物の高効率合成装置の第2実施形態の概略構成図である。この高効率合成装置2は、キャリアガスと原料ガスの合計流量を常に一定に保持する点で第1実施形態と異なっており、同一符号部材の作用効果の説明は省略し、異なる符号部材を説明する。
キャリアガスは基本流量Qと所定流量qに分流される。つまり、キャリアガス流量制御器14により基本流量Qに制御され、これと同時に分流されたキャリアガスはキャリアガス流量制御器(マスフローコントローラMFC3)38により所定流量qに制御される。このキャリアガスの所定流量qは原料ガスの所定流量qに等しく設定される。
所定流量qのキャリアガスは電磁三方弁40により供給・遮断制御が行われる。電磁三方弁40の供給状態では、キャリアガスは矢印e方向に流れ、電磁三方弁40の遮断状態では、キャリアガスは矢印f方向に流れる。つまり、供給状態では、キャリアガスは注入管40aから合流部32に流れ込むが、遮断状態では、キャリアガスは補助排気管40bから外部に排気される。
自動バルブ制御器26は電磁三方弁24と電磁三方弁40の両者を開閉制御している。電磁三方弁24が供給状態のとき電磁三方弁40は遮断状態となり、電磁三方弁24が遮断状態のとき電磁三方弁40は供給状態に制御される。
電磁三方弁を使用するから、ガスの供給は瞬時に行われ、またガスの遮断も瞬時に行われる。従って、基本流量Qのキャリアガスに所定流量qの原料ガスが瞬時に合流され、又は原料ガスが遮断されると同時に所定流量qのキャリアガスが瞬時に合流するように制御される。
図8は本発明の第2実施形態におけるガス流量の時間経過図である。基本流量Qのキャリアガスはt〜tの時間範囲で常時供給されている。t〜tでは、所定流量qのキャリアガスが供給され、合計流量はQ+qになる。t〜tでは、所定流量qの原料ガスが供給され、合計流量はQ+qになる。また、t〜tでは、所定流量qのキャリアガスが供給され、合計流量はQ+qになる。
従って、全過程を通して、原料ガスとキャリアガスの合計流量は常にQ+qになるように制御される。合計流量が一定であると、反応室4の内部のガス圧力が一定になる。この全圧力(ガス圧力)が一定の中で原料ガスが分解されため、反応室4の内部に圧力揺らぎが発生せず、触媒体8のガス環境条件を定常化でき、カーボンナノ構造物8の成長を促進する作用がある。
時刻tにおいては、電磁三方弁の制御により、原料ガスの立上り(矢印A方向)とキャリアガスの立下りが同時的に瞬時に行われ、ガス流の乱れが生じない。また、時刻tにおいても、電磁三方弁の制御により、原料ガスの立下り(矢印B方向)とキャリアガスの立上りが同時的に瞬時に行われ、ガス流の乱れが生じない。原料ガス供給時間Tにおける合計ガス流量に揺らぎや乱れが生じないから、カーボンナノ構造物の成長を促進できる。特に、原料ガスの供給時(時刻t)に乱れが無いから初期成長を著しく促進できる効果がある。
図9は本発明の第2実施形態により成長させたカーボンナノチューブのSEM像である。このカーボンナノチューブの成長条件は次の通りである。Qの流量は200sccmであり、qの流量は60sccmである。反応室4内は700℃に制御され、圧力は大気圧(1×10Pa)に保持された。原料ガス供給時から0.1秒間という短時間でも、カーボンナノチューブが平均高さ<H>=2.5μmまで成長するという画期的な成長促進効果が得られることが分かった。
図10は比較例として本発明の第1実施形態により成長させたカーボンナノチューブのSEM像である。このカーボンナノチューブの成長条件も次の通りである。キャリアガスの流量Qは200sccmであり、原料ガスの流量qは60sccmである。反応室4内は700℃に制御され、圧力は大気圧(1×10Pa)に保たれた。第1実施形態では、合計流量の一定性は無いが、カーボンナノチューブが平均高さ<H>=1.0μmまで成長するという結果が得られた。合計流量の一定性を加えると、成長初期段階でも2.5倍の高さ成長速度が得られることが理解できる。
図11は本発明に係るカーボンナノ構造物の高効率合成装置の第3実施形態の概略構成図である。この第3実施形態では、原料ガスは所定流量q、qの2段階に分流され、この分流段数に対応して、基本流量Qを除いてキャリアガスも所定流量Q、Qの2段階に分流されている。
マスフローコントローラMFC3のキャリアガス流量制御器38によりキャリアガス流量Qが得られ、同様にマスフローコントローラMFC5のキャリアガス流量制御器39によりキャリアガス流量Qが得られる。これらのキャリアガス流量の供給・遮断は電磁三方弁40、42により制御される。
また、マスフローコントローラMFC2の原料ガス流量制御器22により原料ガス流量qが得られ、同様にマスフローコントローラMFC4の原料ガス流量制御器23により原料ガス流量qが得られる。これらの原料ガス流量の供給・遮断は電磁三方弁24、44により制御される。
キャリアガス流量Qは供給時には矢印e方向の注入管40aに流れ、遮断時には矢印f方向の補助排気管40bに流れる。キャリアガス流量Qは供給時には矢印g方向の注入管42aに流れ、遮断時には矢印h方向の補助排気管42bに流れる。
また、原料ガス流量qは供給時には矢印b方向の注入管24aに流れ、遮断時には矢印a方向の補助排気管24bに流れる。原料ガス流量qは供給時には矢印i方向の注入管44aに流れ、遮断時には矢印j方向の補助排気管44bに流れる。
キャリアガス側の電磁三方弁40、42はキャリアガスバルブ制御器26aにより供給・遮断の制御が行われ、原料ガス側の電磁三方弁24、44は原料ガスバルブ制御器26bにより供給・遮断の制御が行われる。これらのバルブ制御器26a,26bは統括ガスバルブ制御器26cによりタイミング調整が行われる。キャリアガスバルブ制御器26a、原料ガスバルブ制御器26b及び統括ガスバルブ制御器26cの全体により自動バルブ制御器26が構成される。
図12は本発明の第3実施形態におけるガス流量の時間経過図である。時間t〜tの全範囲を通して基本流量Qのキャリアガスは供給されている。まず、時刻tでは電磁三方弁40だけが供給状態になり、流量Qのキャリアガスが供給され、他の電磁三方弁42、24、44は遮断されている。従って、t〜tでは流量Q+Qのキャリアガスだけが反応室4に供給される。
次に、時刻tでは電磁三方弁42、44が供給状態になり、流量Qのキャリアガスと流量qの原料ガスが供給され、他の電磁三方弁40、24は遮断されている。従って、t〜tでは流量Q+Q+qの混合ガスが反応室4に供給される。しかし、Q+q=Qに設定されているから、合計流量は一定に制御される。
更に、時刻tでは電磁三方弁24だけが供給状態になり、流量qの原料ガスが供給され、他の電磁三方弁40、42、44は遮断されている。従って、t〜tでは流量Q+qの混合ガスが反応室4に供給される。しかし、q=Qに設定されているから、合計流量は一定に制御される。
また、時刻tでは電磁三方弁42、44が供給状態になり、流量Qのキャリアガスと流量qの原料ガスが供給され、他の電磁三方弁40、24は遮断されている。従って、t〜tでは流量Q+Q+qの混合ガスが反応室4に供給される。前述と同様に、Q+q=Qに設定されているから、合計流量は一定に制御される。
最後に、時刻tでは電磁三方弁40だけが供給状態になり、流量Qのキャリアガスが供給され、他の電磁三方弁42、24、44は遮断されている。従って、t〜tでは流量Q+Qのキャリアガスだけが反応室4に供給されることになる。
以上のように、原料ガスを多段階で供給する場合には、原料ガスの供給制御のためにその段数の電磁三方弁が必要になる。同様に、キャリアガスの供給制御のために同じ段数の電磁三方弁が必要になる。しかも、原料ガスとキャリアガスの合計流量が常に一定になるように、原料ガス流量とキャリアガス流量が適切に調節される必要がある。
このような多段階制御であっても、原料ガスとキャリアガスの供給・遮断は瞬時に行われるから、ガス流に揺らぎが生じず、カーボンナノ構造物の成長を促進することができる。また、合計流量を常時一定に制御するから、原料ガスの分解が安定し、カーボンナノ構造物の成長を促進することができる。特に、原料ガスの供給時の瞬時性と安定性により、カーボンナノ構造物の初期成長を促進することができる。
図13は前記実施形態におけるアセチレン濃度とカーボンナノチューブの成長速度との関係図である。縦軸のカーボンナノチューブ成長速度(Growth rate:μm/s)は初期成長速度であり、横軸はアセチレン濃度(Concentration of C)を示している。アセチレン濃度は全ガス量に対する容量%で示されている。アセチレン濃度が小さい場合には成長速度は比例的に増大する傾向を示し、アセチレン濃度が50%を超えると次第に増加率が減少することが分かる。このことから、本発明はアセチレン濃度を適切に調整して成長速度を制御することができる。
図14は前記実施形態におけるアセチレン濃度とカーボンナノチューブ密度との関係図である。縦軸はカーボンナノチューブ密度(Carbon Nanotube density:number/cm)であり、横軸はアセチレン濃度(Concentration of C)である。アセチレン濃度は全ガス量に対する容量%で示されている。ナノチューブ密度はアセチレン濃度に関し指数関数的に増加する傾向を示す。アセチレン濃度が23%ではナノチューブ密度は2×1010(number/cm)であるが、76%になるとナノチューブ密度は7×1011(number/cm)に増大する。このことから、本発明はブラシ状ナノチューブの高密度成長を実現することができる。
図15は前記実施形態におけるブラシ状ナノチューブの平均高さとアセチレン供給時間との関係図である。縦軸はブラシ状ナノチューブの平均高さ(Mean Height of Brush−Type CNTs:μm)であり、横軸はアセチレン供給時間(Feed time of C:s)である。第1実施形態(図4)及び第2実施形態(図8)では、平均高さは約10秒で飽和する傾向を示す。従って、ブラシ状カーボンナノチューブは初期の約10秒間で成長することが実証され、初期制御の重要性を実証している。
図16は前記実施形態におけるブラシ状ナノチューブの側面拡大電子顕微鏡像である。最上の電子顕微鏡像は第1実施形態(図4)を示し、カーボンナノチューブがほぼ直線的に直立していることを示す。中段の電子顕微鏡像は第2実施形態(図8)を示し、カーボンナノチューブの直立状態がややジグザグしていることを示す。最下の電子顕微鏡像は三方弁を手動操作する従来技術を示し、カーボンナノチューブがかなりジグザグし、カーボンナノチューブの直立性が保証されないことを示している。このことから、初期制御を行う本発明が高密度・高直立性を有したブラシ状カーボンナノチューブを実現できることが分かる。
図17は前記実施形態におけるカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡像である。上段の透過型電子顕微鏡像は成長時間が0.1秒のカーボンナノチューブに対して得られ、グラファイト層(Graphite Layer)だけからなる高純度カーボンナノチューブ(Pure Carbon nanotube)を示している。このグラファイト層はグラーフェンシートが積層した構造であることが分かる。下段の透過型電子顕微鏡像は成長時間が20分のカーボンナノチューブに対して得られ、グラファイト層(Graphite Layer)の外周にアモルファス層(Amorphous Layer)が堆積したカーボンナノチューブ(Carbon Nanotube with Amorphous Layer)を示している。このことから本発明を用いた短時間成長では高純度カーボンナノチューブが成長し、長時間成長になると不純物としてアモルファス層が堆積することが実証された。
本発明は、カーボンナノチューブやカーボンナノコイルやフラーレンの製造に限定されるものではなく、カーボンナノツイスト、ビーズ付きカーボンナノチューブ、カーボンナノブラシなどの広範囲のカーボンナノ構造物の製造に利用できるものである。
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
本発明の第1の形態によれば、反応条件下で原料ガスと触媒の接触の開始を瞬時に行うから、原料ガス濃度(又は流量)の初期揺らぎや緩慢な立上りが無く、カーボンナノ構造物の初期成長を積極的に行わせ、カーボンナノ構造物の高さ成長や太さ成長を高効率にするだけでなく高密度成長、更に短時間の高速度成長をも可能にする。前記触媒は触媒基板、触媒構造体、触媒粉体、触媒ペレットなどの任意形状の触媒を包含している。
本発明の第2の形態によれば、反応室内に静置された触媒に対し、原料ガス流の供給を電子制御・コンピュータ制御などにより高速度で短時間に制御するから、所定流量(所定濃度)の原料ガスが触媒に一気に接触反応し、カーボンナノ構造物の初期成長を促進し、カーボンナノ構造物の高さ成長や太さ成長を高効率にするだけでなく高密度成長、短時間の高速度成長を実現できる。触媒を静止させておくため、触媒基板や触媒構造体に好適である。
本発明の第3の形態によれば、原料ガスを流通させておき、この原料ガス流の外から原料ガス流の中へと前記触媒を移動させることにより前記接触の開始を瞬時に行うことができる。触媒の瞬時移動・瞬時噴霧により、触媒と原料ガスとの接触の開始が瞬間的になり、カーボンナノ構造物の初期成長を促進し、カーボンナノ構造物の高さ成長や太さ成長を高効率にするだけでなく高密度成長、短時間の高速度成長を実現できる。
本発明の第4の形態によれば、反応室内に所定濃度の原料ガスを封入しておき、機械的に隔離された領域に触媒を配置し、この触媒を反応室へと機械的に瞬時に移動させることにより、触媒と原料ガスとの接触開始を瞬時に起こすことができる。また、触媒粉体を前記反応室に瞬時に噴霧すれば、両者の瞬時接触を可能にする。このような瞬時移動・瞬時噴霧により、触媒と原料ガスとの接触の開始が瞬間的になり、カーボンナノ構造物の初期成長を促進し、カーボンナノ構造物の高さ成長や太さ成長を高効率にするだけでなく高密度成長、短時間の高速度成長を実現できる。
本発明の第5の形態によれば、相互に接触状態にある触媒と原料ガスの環境温度を反応温度にまで瞬時に昇温させるから、触媒と原料ガスとの反応接触の開始が瞬間的になり、カーボンナノ構造物の初期成長を促進し、カーボンナノ構造物の高さ成長や太さ成長を高効率にするだけでなく高密度成長、短時間の高速度成長を実現できる。温度の瞬時上昇を実現するには、触媒のレーザービーム照射・赤外線ビーム照射・電子ビーム照射・イオンビーム照射などのビーム照射方式が有効であり、その他の公知の加熱方法の全てを応用することができる。
本発明の第6の形態によれば、原料ガスと触媒の接触の終了を瞬時に行うから、短時間成長によるカーボンナノ構造物の製造に特に有効である。
本発明の第7形態によれば、原料ガスの供給流量を瞬時に所定流量まで立ち上げて反応室に原料ガスを供給するから、供給時における原料ガス流量の初期揺らぎや緩慢な立上りが無く、カーボンナノ構造物の初期成長を積極的に行わせ、カーボンナノ構造物の高さ成長や太さ成長を高効率にするだけでなく高密度成長をも可能にする。
本発明の第8形態によれば、原料ガスの遮断時にはキャリアガスだけが流通し、原料ガスの供給時にはキャリアガスをその分量だけ低減するから、原料ガスの遮断時・供給時を通してキャリアガスと原料ガスの合計ガス流量は常に一定に保持される。このように、原料ガスの供給開始の前後における触媒表面のガス流量を一定に保持したときには、原料ガスを供給した後のカーボンナノ構造物の初期成長を著しく増大させることができ、カーボンナノ構造物の大量合成を可能にする。特に、カーボンナノ構造物を短時間成長させるような場合には、ガス流量(キャリアガス流量+原料ガス流量)の一定性の条件は極めて重要な要素になる。
本発明の第9形態によれば、キャリアガスと原料ガスの合計流量を常時一定に保持しながら、原料ガス流量を複数段に可変制御するから、カーボンナノ構造物の成長速度を自在に増大させることが可能になる。例えば、合計流量をQに設定したときに、原料ガスの供給流量をq、qの2段階に可変する場合には、キャリアガスの供給流量をQ−qとQ−qの2段階に可変する必要がある。勿論、原料ガスを供給しない場合には、キャリアガスの流量はQに設定される。このように、原料ガスの供給流量を複数段階で制御する場合でも、合計流量を常に一定にするように制御するから、原料ガスの流量変更時においてもカーボンナノ構造物を効率的に合成することが可能になるのである。
本発明の第10形態によれば、原料ガスの遮断時に所定流量に制御された原料ガスを排気しておき、原料ガスの供給時には電磁三方弁で原料ガスを瞬時に反応室に供給するから、原料ガスの供給・遮断が電磁力により瞬時に行える。従って、原料ガスが瞬時に所定流量に立ち上がって供給でき、原料ガスの供給初期時の流量変動が無くなる。その結果、カーボンナノ構造物の初期成長が促進され、この促進作用によって中期段階におけるカーボンナノ構造物の成長も促進される利点があり、カーボンナノ構造物の高速量産性を可能にできる。
本発明の第11形態によれば、原料ガスを所定流量で瞬時に供給できるだけでなく、原料ガスの供給前後における合計流量が一定に保持されるから、触媒表面におけるガス流量の一定性とガス圧力の一定性が保証され、原料ガスの供給初期におけるカーボンナノ構造物の初期成長が促進される効果がある。例えば、カーボンナノ構造物を触媒基板に低密度で成長させる場合には、原料ガスの供給時間を短時間で終了させなければならないから、原料ガスの初期成長を強力に促進させる本発明が極めて有効になる。
本発明の第12形態によれば、原料ガスの供給流量を2段階以上で可変する場合でも、合計流量を常に一定に保持することができる。従って、原料ガスの供給開始時における瞬時性と合計流量一定性を両立させて、カーボンナノ構造物の初期成長を活性化し、高密度・高効率なカーボンナノ構造物の合成装置を提供できる。
本発明の第13の形態によれば、触媒と原料ガスとの反応の開始を瞬時に行え、また反応の終了を瞬時に行えるから、高純度の各種カーボンナノ構造物を高効率に合成することができる。このカーボンナノ構造物には、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブにビーズが形成されたビーズ付カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブが多数林立したブラシ状カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブが捩れを有したカーボンナノツイスト、コイル状のカーボンナノコイル、球殻状のフラーレンなどが含まれる。
本発明の第14の形態によれば、原料ガスとの接触を瞬時に開始・終了できるから、短時間の成長制御が可能になり、アモルファス層が存在しない、又は殆ど存在しない高純度のカーボンナノチューブを生成することが可能になる。
本発明の第15の形態によれば、触媒と原料ガスとの接触時間を、特に100秒以内の所望時間に制御するから、高純度のカーボンナノチューブを高密度にブラシ状に成長させることができる。100秒以内の任意時間でよいが、0.01秒〜60秒であれば、不純物の混入率を殆どゼロにすることができる。
本発明の第16の形態によれば、カーボンナノチューブが高密度に成長するから、カーボンナノチューブが相互に接触状態で成長し、カーボンナノチューブが分子間力により相互に表面結合する場合が多い。その結果、ブラシ状カーボンナノチューブを任意の断面で開裂させると、カーボンナノチューブ相互の引力で、断面に糸屑状のカーボンナノチューブが出現する。この糸屑の出現により、高密度成長が実証される。従って、この糸屑が出現することにより、本発明方法によりカーボンナノチューブが製造されたことを実証できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスと触媒を反応条件下で接触させてカーボンナノ構造物を製造する方法において、原料ガスと触媒の接触の開始を瞬時に行うことを特徴とするカーボンナノ構造物の高効率合成方法。
【請求項2】
前記触媒が静止しており、この触媒に対して前記原料ガスの供給を瞬時に開始することにより前記接触の開始を瞬時に行う請求項1に記載のカーボンナノ構造物の高効率合成方法。
【請求項3】
前記原料ガスを流通させておき、この原料ガス流の外から原料ガス流の中へと前記触媒を移動させることにより前記接触の開始を瞬時に行う請求項1に記載のカーボンナノ構造物の高効率合成方法。
【請求項4】
前記原料ガスを滞留させておき、この滞留した原料ガスの外から原料ガスの中へと前記触媒を移動させることにより前記接触の開始を瞬時に行う請求項1に記載のカーボンナノ構造物の高効率合成方法。
【請求項5】
前記原料ガスを滞留させておき、この滞留した原料ガスの中に触媒を配置し、この触媒又は触媒近傍の温度を反応温度にまで瞬時に昇温させることにより反応条件下での前記接触の開始を瞬時に行う請求項1に記載のカーボンナノ構造物の高効率合成方法。
【請求項6】
前記反応条件下における前記原料ガスと前記触媒の接触の終了を瞬時に行う請求項1〜5のいずれかに記載のカーボンナノ構造物の高効率合成方法。
【請求項7】
キャリアガスと原料ガスを反応室に供給して触媒によりカーボンナノ構造物を製造する方法において、原料ガスの供給を開始するときに原料ガスを瞬時に所定流量で供給することを特徴とするカーボンナノ構造物の高効率合成方法。
【請求項8】
キャリアガスと原料ガスを反応室に供給して触媒によりカーボンナノ構造物を製造する方法において、原料ガスの供給を瞬時に所定流量で開始する場合にはキャリアガスの流量をその分量だけ瞬時に低減させ、原料ガスの供給を瞬時に遮断する場合にはその分量だけキャリアガスの流量を瞬時に増大させて、キャリアガスと原料ガスの合計流量が常に一定になるように制御することを特徴とするカーボンナノ構造物の高効率合成方法。
【請求項9】
キャリアガスと原料ガスを反応室に供給して触媒によりカーボンナノ構造物を製造する方法において、反応過程で原料ガスの供給流量を複数段階で可変し、原料ガスの供給流量をある変化量だけ瞬時に増加又は減少させる場合にはキャリアガスの供給流量をその変化量だけ逆に瞬時に減少又は増加させて、キャリアガスと原料ガスの合計流量が常に一定になるように制御することを特徴とするカーボンナノ構造物の高効率合成方法。
【請求項10】
キャリアガスと原料ガスを反応室に供給して触媒によりカーボンナノ構造物を製造する装置において、基本流量に制御されたキャリアガスを反応室に供給する手段を設けておき、また所定流量に制御された原料ガスを反応室に瞬時に供給又は遮断する電磁三方弁を設け、原料ガスの遮断時には電磁三方弁を排気側に瞬時に切換えて原料ガスの供給を遮断し、原料ガスの供給時には電磁三方弁を供給側に瞬時に切換えて所定流量の原料ガスを反応室に供給することを特徴とするカーボンナノ構造物の高効率合成装置。
【請求項11】
キャリアガスと原料ガスを反応室に供給して触媒によりカーボンナノ構造物を製造する装置において、基本流量に制御されたキャリアガスを反応室に供給する手段を設けておき、所定流量に制御された原料ガスを反応室に瞬時に供給又は遮断する電磁三方弁を設け、同様に前記原料ガス流量と同じ所定流量に制御されたキャリアガスを反応室に瞬時に供給又は遮断する電磁三方弁を別に設けておき、電磁三方弁で原料ガスを供給する場合には電磁三方弁によりキャリアガスを遮断し、電磁三方弁で原料ガスの供給を遮断する場合には電磁三方弁によりキャリアガスを供給し、前記基本流量のキャリアガスを含めて反応室に供給されるキャリアガスと原料ガスの合計流量を一定になるように制御することを特徴とするカーボンナノ構造物の高効率合成装置。
【請求項12】
キャリアガスと原料ガスを反応室に供給して触媒によりカーボンナノ構造物を製造する装置において、基本流量に制御されたキャリアガスを反応室に供給する手段を設けておき、原料ガスの供給流量を複数段階に可変するために、原料ガスを各供給流量で反応室に瞬時に供給又は遮断する電磁三方弁を複数段並列に配置し、前記原料ガスの供給流量の複数段と同じ段数でキャリアガスの供給流量を可変するために、キャリアガスを各供給流量で反応室に瞬時に供給又は遮断する電磁三方弁を複数段並列に配置し、ガス供給時において、前記原料ガスの電磁三方弁と前記キャリアガスの電磁三方弁から常に1個以上の必要な電磁三方弁をガス供給側に切換え、残りの電磁三方弁をガス遮断側に切換え、前記基本流量のキャリアガスを含めて反応室に供給されるキャリアガスと原料ガスの合計流量を一定になるように制御することを特徴とするカーボンナノ構造物の高効率合成装置。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載のカーボンナノ構造物の高効率合成方法を使用して製造されたことを特徴とするカーボンナノ構造物。
【請求項14】
前記カーボンナノ構造物がブラシ状カーボンナノチューブであり、最外層が主としてグラーフェンシートからなる高純度カーボンナノチューブを高密度に成長させた請求項13に記載のカーボンナノ構造物。
【請求項15】
100秒以内に成長が完了する請求項14に記載のカーボンナノ構造物。
【請求項16】
前記ブラシ状カーボンナノチューブを任意の断面で開裂させたときに、断面に糸屑状のカーボンナノチューブが出現する請求項14に記載のカーボンナノ構造物。

【国際公開番号】WO2004/085309
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504069(P2005−504069)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003988
【国際出願日】平成16年3月23日(2004.3.23)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【出願人】(591040292)大研化学工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】