説明

カーボンファイバより線の引留金具

【課題】 電車線延線工事の現地で装着でき、カーボンファイバより線を傷付けることなく吊架線を強固に引き留めること。
【解決手段】 吊架線Mの端部の樹脂製被覆材Cを取り除いて露出したカーボンファイバーより線Fを引き留めるために、引留金具1を、支持物に連結するための引き手2と、カーボンファイバより線Fを挿入して圧縮固定するアルミスリーブ3とから構成する。カーボンファイバより線Fを挿入するためのアルミスリーブ2の挿通孔9の内周面には螺旋溝10を設ける。螺旋溝10は、軸線方向の相互間隔が溝幅より十分に広く、相互間に平坦面を形成して、圧縮時の吊架線Fへの食い込みを防ぐ一方、カーボンファイバより線Fとの接触抵抗を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロリ線を上方から支持する吊架線を支持物に引き留めるための引留金具に関し、特にカーボンファイバより線で構成された吊架線を引き留めるものに係る。
【背景技術】
【0002】
一般に吊架線は鋼線や銅線で構成されているが、気温や周囲の温度により伸縮するため、各種のバランサを設置して張力を調整する必要がある。これに対して、吊架線をカーボンファイバより線で構成すると、気温や周囲の温度に影響を受け難いので、架線設備を簡易化することができる。しかし、カーボンファイバより線で構成された吊架線を支持物に引き留めるのに通常の圧縮接続するタイプの引留金具を用いると、引留金具の圧縮によりカーボンファイバに傷をつけ易く、このため圧縮強度を高めた強固な把持力を確保するのが困難である。
従来、カーボンファイバのような高強度、高弾性繊維と合成樹脂を複合した撚り線の端末を定着する方法が特許文献1に記載されている。撚り線外形に合致する凹凸を内周に有する変形しやすい緩衝材を撚り線の端部に被覆し、これを金属スリーブに挿入して、金属スリーブを圧縮するものである。緩衝材はゴム成分を有する繊維又は樹脂との複合体で構成する。
また、カーボンファイバのテンションメンバの周りに導電用金属線を撚り合わせた撚合せ電線の引留端部が特許文献2に記載されている。この引留端部は、撚合せ電線端部のテンションメンバの外周に、テンションメンバの撚合せ外形に係合する係合面を内周に有する緩衝スリーブを被せ、その上に導電用金属線の撚合せ層を重ねて、その外側に金属スリーブを被せて圧縮固定するものである。緩衝スリーブは亜鉛又はアルミニウムで形成される。
【特許文献1】特開平5−179761号公報
【特許文献2】特開平8−237840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の引留金具にあっては、工場での製作となるので現地での吊架線の延線長さに応じた取り付けができない。また、上記緩衝材はゴム成分を有する繊維又は樹脂との複合体のため比較的軟弱で、高い圧縮強度による強固な把持力を得ることが困難であったり、上記緩衝スリーブは撚合せ外形に対応する鋭角的な凸部がカーボンファイバを傷付けるおそれがある。
そこで、本発明は、現地での製作、取付が容易で、延線状況に応じた適切長さの吊架線への取り付けが可能であり、カーボンファイバより線を傷付けることなく強固に引き留める引留金具を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明においては、上記課題を解決するため、支持物に連結する引き手2と、一端部が引き手2に固着され、カーボンファイバより線Fで構成される吊架線の端部を挿入して圧縮固定するアルミスリーブ3とを備えた引留金具1において、アルミスリーブ3の内周面に圧縮状態で吊架線を噛み込むことのない凸部が平坦な凹凸を設けた。
カーボンファイバより線Fとアルミスリーブ3とを接着する接着剤5を具備させた。
凹凸は、周方向の複数の溝10を相互間隔を置いて形成した。
溝10を螺旋状に形成した。
引き手2をアルミスリーブ3内に螺合させた。
【発明の効果】
【0005】
本発明においては、電車線の延線工事において必要長さの吊架線の端部に現地で装着し、吊架線を状況に応じて適切に引き留めることができる。アルミスリーブ3は適度に変形する柔軟性を有し、内周面に凸部を平坦面とする凹凸を備えるから、圧縮時にアルミスリーブ3に挿入されたカーボンファイバより線Fに食い込むことがなく、カーボンファイバより線Fを傷付け難い。一方、アルミスリーブ3の内周面の凹凸によって抜け出し方向への接触抵抗が大きくなり、カーボンファイバより線Fとアルミスリーブ3とが強固に結合される。
カーボンファイバより線Fとアルミスリーブ3とを接着剤12で接着させれば、接着剤12が凹凸に入り込むので把持力を補強する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1,図2において、引留金具1は、樹脂製被覆材Cを取り除いてカーボンファイバーより線Fを露出させた吊架線Mの端部を引き留めるものである。この引留金具1は、引き手2とアルミスリーブ3とを備えている。
【0007】
引き手2の一端側には支持物に連結するためのアイ部6が形成され、他端側にはアルミスリーブ3と螺合するねじ軸部7を有する。引き手2は、アルミスリーブ3をねじ軸部7もろとも貫通する回り止めピン4によって、アルミスリーブ3に対する回転を阻止され、アルミスリーブ3から抜け止めされる。
【0008】
アルミスリーブ3は、カーボンファイバより線Fを傷めることなく圧縮固定するための必要な硬度を有する。アルミスリーブ3は、略円筒状を成し、一端部に引き手2のねじ軸部7と螺合するねじ孔8を備えている。アルミスリーブ2の中心軸上には、カーボンファイバより線Fを挿入するためにねじ孔8に連通して他端まで延びる挿通孔9を備えている。挿通孔9の引き手2側端部の内周面には凹凸を形成する螺旋溝10が設けられている。この螺旋溝10は、図3に示すように、ピッチが溝幅より十分に広く、軸線方向の相互間に平坦な凸部が形成され、挿通孔9に挿入される圧縮時のカーボンファイバより線Fへの食い込みを防ぐ。アルミスリーブ3の他端部には、先細りのテーパ部11が形成されている。
【0009】
本実施形態の引留金具1は、電車線の延線工事の現地において必要長さの吊架線の端部に装着される。引留金具1は、予めアルミスリーブ3の一端側に引き手2を挿入してから、回り止めピン4をアルミスリーブ3に引き手2のねじ軸部7もろとも貫通させて抜け止めしておく。引留金具1をカーボンファイバより線Fに装着するには、アルミスリーブ3の他端側に、吊架線Mの端部のカーボンファイバより線Fを挿入し、アルミスリーブ3のカーボンファイバより線F挿入側を圧縮接続する。アルミスリーブ3は、適度に変形する柔軟性を有するし、挿通孔9の溝10の相互間隔が溝幅より十分に広いので、圧縮時にアルミスリーブ3に挿入されたカーボンファイバより線Fに食い込まないので、これを傷め難い。しかも、挿通孔9の溝10により抜け出し方向への接触抵抗が大きくなるので、引留金具1が吊架線Mのカーボンファイバより線Fを強固に把持する。
【0010】
引留金具1は、カーボンファイバより線F周りに硬化樹脂製の接着剤5を塗った状態でアルミスリーブ3に挿入し、硬化前にアルミスリーブ3を圧縮することとしてもよい。このとき、接着剤5は挿通孔9の溝10に接着剤5が入り込むので、カーボンファイバより線Fとアルミスリーブ3との接着効果が高まり、引留金具1の把持力を補強する。
【0011】
なお、本実施形態では、アルミスリーブ3の挿通孔9に螺旋溝10を設けたが、本発明はこれに限定されることはなく、螺旋溝10に代えて、軸線方向に相互に間隔をおいた周方向の多数の環状溝や突条でもよく、要するにアルミスリーブの圧縮状態でカーボンファイバより線Fを噛み込むことのない平坦な接触面を有する凹凸であればよい。
また、凹凸はアルミスリーブ3の挿通孔9に部分的に設けてもよいし、また全体にわたって設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明は、カーボンファイバより線から成る吊架線を傷めることなく、支持物に強固に引き留めるのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る引留金具の正面図である。
【図2】引留金具の使用状態の縦断面図である。
【図3】アルミスリーブの拡大断面図である。
【符号の説明】
【0014】
1 引留金具
2 引き手
3 アルミスリーブ
4 回り止めピン
5 接着剤
6 アイ部
7 ねじ軸部
8 ナット部
9 挿通孔
10 螺旋溝
11 テーパ部
F カーボンファイバより線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持物に連結される引き手と、一端部が引き手に固着され、カーボンファイバより線からなる吊架線の端部が挿入されて圧縮固定されるアルミスリーブとを備えた引留金具において、
前記アルミスリーブの内周面には、圧縮状態でカーボンファイバより線を傷めない凸部が平坦な凹凸を備えることを特徴とするカーボンファイバより線の引留金具。
【請求項2】
前記カーボンファイバより線とアルミスリーブとを接着するための接着剤を備えることを特徴とする請求項1に記載のカーボンファイバより線の引留金具。
【請求項3】
前記アルミスリーブの内周面の凹凸が、軸線方向に相互間隔を置いた周方向の複数の溝であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のカーボンファイバより線の引留金具。
【請求項4】
前記アルミスリーブの内周面の溝が螺旋状に連続していることを特徴とする請求項3に記載のカーボンファイバより線の引留金具。
【請求項5】
前記引き手がアルミスリーブ内に螺合することを特徴とする請求項1ないし4に記載のカーボンファイバより線の引留金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−220276(P2010−220276A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60434(P2009−60434)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000001890)三和テッキ株式会社 (134)
【Fターム(参考)】