説明

ガスエンジンのアイドル回転制御装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、高圧の天然ガスを燃料とするガスエンジンのアイドル回転制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】高圧の天然ガスを燃料として用いるガスエンジンは、高圧ボンベからの燃料を減圧弁(ガスレギュレータ)、制御バルブを介して供給し、混合器でエンジン吸入空気と混合し、この混合気をエンジンに供給している(特開昭61ー23857号公報等)。
【0003】この燃料供給量は、排気中の残存酸素濃度から計測した空燃比に応じてフィードバック制御し、エンジンの運転状態に最適な空燃比の混合気を形成するようにしている。
【0004】一方、エンジンのアイドル回転を制御するために、スロットル弁をバイパスしてアイドル吸気を導くアイドル制御弁(ISCバルブ)を設け、アイドル運転域にエンジン回転速度が目標回転速度になるようにアイドル制御弁の開度をフィードバック制御している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】このような従来例にあっては、図6のようにレーシング等でアイドル運転からオフアイドル運転に切り替わり、再びアイドル運転に入った場合、スロットル弁が急激に閉じるので、空燃比制御の追従性が悪くなり、出力トルクが安定せず、アイドル回転制御に大きく影響する。
【0006】これは、燃料の圧力を吸気管内圧に対し一定に保つためのガスレギュレータに加えるその吸気管内圧が急激に変化することに起因する。また、図7のようにアイドル域には、空燃比のバラツキが大きく、補正が難しい。
【0007】したがって、アイドル回転のフィードバック制御を行っていても、レーシング等でオフアイドル運転からアイドル運転に入ったときは、アイドル回転がなかなか安定化しないという問題があった。
【0008】なお、この場合空燃比制御の追従性を良くするために、特開平3ー54339号公報に、アイドル運転からオフアイドル運転へ切り替わる直前の空燃比の補正係数を記憶して、再びアイドル運転へ切り替わったとき、その記憶値を基に空燃比制御を行うものがあり、このようにすれば、空燃比のバラツキが小さくなるが、回転制御と共存させて安定なアイドル回転を得るにはチューニングが難しくなる。
【0009】この発明は、このような問題点を解決することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】第1の発明は、図1に示すように吸気にガス燃料を混合する空燃比を空燃比制御手段が目標値に制御するようにしたガスエンジンにおいて、エンジン回転速度を検出する手段と、スロットル開度を検出する手段と、エンジン回転速度とスロットル開度によりアイドル運転域を判定するアイドル判定手段と、アイドル吸気を導くアイドル制御弁と、アイドル運転域にエンジン回転速度を目標回転速度に維持するようにアイドル制御弁の開度をフィードバック制御するフィードバック制御手段と、エンジン回転速度が所定値以上のオフアイドル運転からアイドル運転域に入ったときは、所定時間だけフィードバック制御に代わってアイドル制御弁の開度を一定開度に固定制御する固定制御手段と、アイドル運転域にエンジン回転速度が安定条件を満たしたかどうかを判定する安定条件判定手段と、安定条件を満たしたときのアイドル制御弁の開度を学習する開度学習手段と、この学習値を固定制御手段のアイドル制御弁の開度制御値として付与する開度設定手段と、を設ける。
【0011】
【0012】
【作用】第1の発明では、エンジン回転速度が所定値以上のオフアイドル運転からアイドル運転域に入ったとき、つまり空燃比制御の追従性が悪く、バラツキが大きいときは、所定時間だけアイドル制御弁の開度を一定開度に固定する。これにより、アイドル吸気量を一定に保つことで、空燃比の変動を抑えつつ、エンジン回転が速やかに安定する。
【0013】この場合、アイドル運転域にエンジン回転速度が安定条件を満たしたかどうかを判定し、安定条件を満たしたときのアイドル制御弁の開度を固定制御手段のアイドル制御弁の開度制御値として設定する
【0014】このため、エンジン回転速度が所定値以上のオフアイドル運転からアイドル運転域に入ったときは、アイドル制御弁を所定時間だけ固定する開度制御値に前回の設定値(エンジン回転速度が安定条件を満たしたときの学習値)を使用することにより、アイドル吸気量は適正に保たれるため、エンジン回転速度が目標回転速度へ速やかに収束する。
【0015】したがって、最適なアイドル吸気量を保って、エンジン回転が目標回転に速やかに収束する。
【0016】
【実施例】図2は本発明の実施例であり、ガスエンジン20の吸気通路21にはスロットル弁22が設けられ、スロットル弁22をバイパスする補助吸気通路23が形成される。
【0017】スロットル弁22は図示しないアクセルペダルによって開閉され、補助吸気通路23にはアイドル吸気を導くアイドル制御弁(ISCバルブ)24が設けられる。
【0018】スロットル弁22の上流には主燃料供給系として、主燃料通路25の開口に混合器26が設けられ、吸入空気量に対応して主燃料通路25からの燃料を混合し、所定の混合気を生成する。
【0019】混合器26には、高圧の天然ガスを充填したガスボンベ27からの燃料が、吸気管内圧力が導かれるガスレギュレータ28を介して、吸気管内圧に対し一定の圧力まで減圧された状態で導かれ、吸入空気量に比例してベンチュリ部に発生する負圧に応じて吸入される。
【0020】主燃料供給系の燃料の一部は、途中から副燃料供給系に分岐して、スロットル弁22の近傍上流に開口する副燃料通路30に設けた燃料噴射ソレノイドバルブ31に導かれ、燃料噴射ソレノイドバルブ31の開弁によって、副燃料通路30から吸気通路21に燃料が追加供給される。
【0021】主燃料通路25には、ガスレギュレータ28の前後に燃料遮断ソレノイドバルブ32,33が設けられる。
【0022】エンジン燃焼室34には、混合気に圧縮上死点付近で点火する点火栓35が設けられる。
【0023】36はこれらのアイドル制御弁24や燃料噴射ソレノイドバルブ31、点火栓35等の作動を制御するコントロールユニットで、コントロールユニット36はCPU、ROM、RAM、入出力インターフェース等のマイクロコンピュータから構成される。
【0024】コントロールユニット36には、エンジン回転速度、クランク角度を検出するクランク角センサ37、スロットル弁22下流の吸気管内圧を検出する圧力センサ(負荷センサ)38、スロットル弁22の開度を検出するスロットル弁開度センサ40、エンジンの冷却水温を検出する水温センサ41からの運転状態を代表する信号、および排気通路42の排気空燃比(残存酸素濃度)を検出する空燃比センサ(O2センサ)43からの信号が入力される。
【0025】これらの信号に基づいて、コントロールユニット36は、運転状態に応じて目標空燃比を決定し、空燃比センサ43により検出した空燃比つまりエンジンに供給する混合気の空燃比が目標空燃比に一致するように、燃料噴射ソレノイドバルブ31からの補助燃料の供給量をフィードバック制御する。
【0026】また、点火栓35を運転状態に応じて最適な点火時期をもって点火させるように、パワートランジスタ44の導通を制御し、イグニッションコイル45から高電圧を点火栓35に印加する。
【0027】また、イグニッションキースイッチ46がオンすると、主燃料通路25に設けた燃料遮断ソレノイドバルブ32,33を開く。
【0028】一方、コントロールユニット36は、エンジン回転速度とスロットル弁開度とからエンジンのアイドル運転域を判定し、アイドル運転域にアイドル制御弁24の開度を制御して、アイドル回転制御を行う。
【0029】次に、図3〜図5を参照しながら、コントロールユニット36によるアイドル回転制御を説明する。
【0030】まず、ステップ1でエンジン回転速度とスロットル弁開度とからアイドル運転の条件成立かどうかを判定する。これは、図4のようにエンジン回転速度が所定回転以下かつスロットル弁開度が所定開度以下のときアイドル運転条件成立とする。
【0031】なお、この場合各設定値にヒステリシスを設けてアイドル運転、オフアイドル運転の条件判定を行う。
【0032】アイドル運転の条件成立つまりアイドル運転域の場合、ステップ2でその前にエンジン回転速度が所定回転NISCD(例えば1600rpm)以上のオフアイドル運転状態にあったかどうかを判定する。
【0033】ここで、エンジン回転速度が所定回転NISCD以上のオフアイドル運転状態からアイドル運転域に入った場合、ステップ3,4に進み、前回のアイドル運転時に学習した記憶データを、所定時間TISCD(例えば10秒)アイドル制御弁24の開度データとして設定する。
【0034】この開度データに基づき、ステップ6でアイドル制御弁24を駆動する。
【0035】この一方、エンジン回転速度が所定回転NISCD以下のオフアイドル運転状態からアイドル運転域に入った場合、また前記記憶データに基づくアイドル制御弁24の駆動後、所定時間が経過すると、ステップ5に進み、エンジン回転速度と目標アイドル回転速度との差に応じてアイドル制御弁24のフィードバック制御の開度データを設定する。
【0036】この開度データにしたがって、ステップ6でアイドル制御弁24を駆動する(フィードバック制御)。
【0037】そして、ステップ7では、アイドル回転が安定条件を満たしたかどうかを判定し、安定条件を満たすと、ステップ8でそのときのアイドル制御弁24の開度を学習し、次回にエンジン回転速度が所定回転NISCD以上のオフアイドル運転状態からアイドル運転域に入った場合のアイドル制御弁24の開度データとして記憶する。
【0038】アイドル回転の安定条件は、図5のようにエンジン回転速度が目標所定アイドル回転速度NSISCの一定範囲(例えば±50rpm)内に入り、一定時間TSISC(例えば10秒)が経過したときに、成立と判定する。
【0039】また、アイドル制御弁24の開度データは、一定期間の平均開度を学習し、記憶する。
【0040】このような構成のため、エンジン回転速度が所定値以上のオフアイドル運転からアイドル運転に入った場合、前回のアイドル運転時に目標アイドル回転に安定制御していたアイドル制御弁24の開度に所定時間、固定制御される。
【0041】このため、アイドル吸気が適正量に維持されるので、空燃比が変動しても、回転への影響は最小限に抑えられ、アンダーシュートはもとより、過剰な開度によるオーバーシュートも防止される。
【0042】これにより、レーシング等でオフアイドル運転からアイドル運転に入ったときに、エンジン回転が目標回転にスムーズに収束し、早期に安定化することができる。
【0043】
【0044】
【発明の効果】以上のように第1の発明は、吸気にガス燃料を混合する空燃比を空燃比制御手段が目標値に制御するようにしたガスエンジンにおいて、エンジン回転速度を検出する手段と、スロットル開度を検出する手段と、エンジン回転速度とスロットル開度によりアイドル運転域を判定するアイドル判定手段と、アイドル吸気を導くアイドル制御弁と、アイドル運転域にエンジン回転速度を目標回転速度に維持するようにアイドル制御弁の開度をフィードバック制御するフィードバック制御手段と、エンジン回転速度が所定値以上のオフアイドル運転からアイドル運転域に入ったときは、所定時間だけフィードバック制御に代わってアイドル制御弁の開度を一定開度に固定制御する固定制御手段と、アイドル運転域にエンジン回転速度が安定条件を満たしたかどうかを判定する安定条件判定手段と、安定条件を満たしたときのアイドル制御弁の開度を学習する開度学習手段と、この学習値を固定制御手段のアイドル制御弁の開度制御値として付与する開度設定手段と、を設けたので、レーシング等でオフアイドル運転からアイドル運転に入ったときに、アイドル制御弁を前回の学習値に所定時間だけ固定することにより、エンジン回転速度の安定化および目標回転速度への早期収束を促進できるという効果が得られ
【0045】
【図面の簡単な説明】
【図1】発明の構成図である。
【図2】実施例の構成断面図である。
【図3】アイドル回転制御のフローチャートである。
【図4】アイドル域の判定条件を示す特性図である。
【図5】アイドル回転の安定条件を示す特性図である。
【図6】従来のアイドル運転移行時の特性図である。
【図7】ガスレギュレータの特性図である。
【符号の説明】
20 ガスエンジン
22 スロットル弁
23 補助吸気通路
24 アイドル制御弁
25 主燃料通路
26 混合器
27 ガスボンベ
28 ガスレギュレータ
30 副燃料通路
31 燃料噴射ソレノイドバルブ
32,33 燃料遮断ソレノイドバルブ
36 コントロールユニット
37 クランク角センサ
38 圧力センサ
40 スロットル弁開度センサ
41 水温センサ
43 空燃比センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】吸気にガス燃料を混合する空燃比を空燃比制御手段が目標値に制御するようにしたガスエンジンにおいて、エンジン回転速度を検出する手段と、スロットル開度を検出する手段と、エンジン回転速度とスロットル開度によりアイドル運転域を判定するアイドル判定手段と、アイドル吸気を導くアイドル制御弁と、アイドル運転域にエンジン回転速度を目標回転速度に維持するようにアイドル制御弁の開度をフィードバック制御するフィードバック制御手段と、エンジン回転速度が所定値以上のオフアイドル運転からアイドル運転域に入ったときは、所定時間だけフィードバック制御に代わってアイドル制御弁の開度を一定開度に固定制御する固定制御手段と、アイドル運転域にエンジン回転速度が安定条件を満たしたかどうかを判定する安定条件判定手段と、安定条件を満たしたときのアイドル制御弁の開度を学習する開度学習手段と、この学習値を固定制御手段のアイドル制御弁の開度制御値として付与する開度設定手段と、を設けたことを特徴とするガスエンジンのアイドル回転制御装置。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【特許番号】第2966249号
【登録日】平成11年(1999)8月13日
【発行日】平成11年(1999)10月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−258470
【出願日】平成5年(1993)10月15日
【公開番号】特開平7−109944
【公開日】平成7年(1995)4月25日
【審査請求日】平成9年(1997)9月25日
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【参考文献】
【文献】特開 平3−54339(JP,A)
【文献】特開 昭61−25940(JP,A)
【文献】特開 昭59−176445(JP,A)