説明

ガスセンサ

【課題】 低温でも作動可能であり、測定対象外のガスの影響を受けないガスセンサの提供。
【解決手段】 電解質2を挟んで作用電極3と対極電極4と両電極間を流れる電流を測定する電流計とを備え、作用電極3と対極電極4間を流れる電流値によって、被測定ガス中の測定対象ガスの濃度を検出するガスセンサであって、作用電極3に、被測定ガス中の不純物ガスが関与する電気化学反応の平衡電位に同値、又は平衡電位±20mVの範囲にある電位を印加する電位印加装置8を備えることを特徴とするガスセンサの提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ、特にNOxガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や工場における燃焼排ガス中には、NOガス、及びNOガスを主体とした窒素酸化物ガスが含まれている。窒素酸化物ガスとしては、NO、NO、N、NO、N、及びNなどのガスが含まれているが、通常、これらの窒素酸化物ガスを総称してNOxガスと呼んでいる。自動車などの燃焼排ガス中のNOxガスは、ほとんどがNOガス、及びNOガスであり、大気中の公害物質としてのNOxガスについてもNOガス、及びNOガスが主体である。
【0003】
NOxガスは、低濃度でも人体に直接の悪影響を及ぼすばかりでなく、光化学スモッグの主要原因物質のひとつとみなされており、大気中への排出量の低減や制御が重要である。NOxガスの大気中への排出量を制御するためには、その測定が必要である。NOxガスの連続分析計としては、従来から吸光光度分析計、又は化学発光分析計等が知られている。吸光光度分析計は、NOガス等を酸化してNOガスとして、NOガスのザルツマン試薬との反応による発色を吸光光度計により測定するものである。化学発光分析計は、逆にNOガスをNOガスに還元しておき、NOガスとオゾンとの反応で生成されたNOの励起状態が基底状態に移るときの化学発光現象を光度計により測定するものである。上述の化学発光法を利用する以外にも、赤外線吸収法、紫外線吸収法、定電位電解法を利用したNOxガス分析装置が開発されている。
【0004】
しかし、これらのNOxガス分析装置は、測定精度はよいものの、分析装置が複雑で大型になり易く、自動車に搭載して、連続的にNOxガスを測定できるNOxセンサとしては不向きである。自動車搭載用のNOxセンサとしては、安定化ジルコニアを固体電解質として利用したものが開発されている。このジルコニア系固体電解質型センサは、安定化ジルコニア固体電解質を挟んで、空気等の含酸素ガスに接触する標準電極と排ガス等の被測定ガスに接触する作用電極を配置し、被測定ガス中の対象ガス、例えばNOガスの起電力が濃度に応じて変化することを利用して、起電力(電位)の変化からNOガスの濃度を測定している。このジルコニア系固体電解質型センサは、簡単な装置で連続的にNOガスの濃度を測定できるが、電解質として酸素イオン伝導体である安定化ジルコニアを使用しているので、500℃以上の高温環境でないと、イオン伝導度が小さいため、感度が十分でない。また、排ガス中の酸素濃度の影響を受けやすく、これらを一定に保つ多くの工夫が必要である。例えば、NOガス濃度を検出する電極の前に、ポンプ用電極を配置して、酸素の汲み出し、及び、汲み入れを行い、酸素濃度を調整している(特許文献1)。
【0005】
また、排ガス中のNOxを測定するNOxセンサとしては、この他にも、アルカリイオン伝導体等を用いたものが提案されている(特許文献2)。
【0006】
さらに、非特許文献1には、プロトン伝導体としてInをドープしたSnPを用い、作用電極にPt/C系電極、特にPtRhBa/C電極を使用することで、NOガス濃度及びNOガス濃度の増加に対して、比較的大きく増加する起電力(電位)の得られるNOxセンサが開示されている。この非特許文献1に記載のNOxセンサも従来のNOxセンサと同様、起電力(電位)を測定して、事前に測定又は算出しておいた起電力(電位)とNOxガス濃度との関係からNOxガス濃度を算出するものである。このNOxセンサは、250℃と比較的低温で作動し、ジルコニア系固体電解質型センサとは異なった利用方法が可能と考えられる。また、この非特許文献1に記載のNOxセンサは、COについては、ほとんど影響を受けないが、Oガスの影響が見られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−287939号公報
【特許文献2】特開平09−015199号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.Nagao et al. Solid State Ionics No.179(2008)p1655-1661
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のジルコニア系固体電解質型センサは、500℃以上の作動温度が必要であり、自動車排ガスのNOx浄化触媒の入口ガスのような高温領域のNOx測定用に使用される場合が多い。自動車排ガスのNOx浄化触媒の入口は、高温、高酸素濃度であり、且つ温度及び酸素濃度の変動が激しい領域である。このため、センサ周辺の温度や酸素濃度制御のための装置や部品の装着が必要となると考えられる。
【0010】
一方、NOxガスの浄化の必要のない低NOxガス濃度排ガスやNOx浄化後の排ガス等のNOxガス測定の場合は、低温でも測定可能で、簡単な構造のNOxセンサが適している。この点で、非特許文献1に開示されたNOxセンサは好ましい作動温度を有していると考えられる。
【0011】
図6は、非特許文献1に開示された従来のガスセンサ101(NOxセンサ)の構成図を示している。図6において、ガスセンサ101は、電解質102、作用電極103、対極電極104が積層された電池部(電気化学反応部)を備えている。作用電極103側には、被測定ガス室(例えば排ガス導入室)105が接しており、測定対象ガスであるNOガスを含む被測定ガス(例えば自動車排ガス)が供給されている。対極電極104側には基準ガス室(例えば空気室)106が接しており、空気が供給されている。なお、この空気は、通常の大気程度の湿分を含んでおり、完全な乾燥空気ではない。
【0012】
作用電極103と対極電極104の間をリード線109、110で結べば、被測定ガスと基準ガスは電池部において電気化学反応が進む。また、作用電極103と対極電極104の間の電位差は、リード線109、110を介して電位計107によって測定できる。
【0013】
電池部の電気化学反応のうち、対極電極104側では基準ガス中の水蒸気が分解して下記の反応が起こる。
O → 2H+1/2O+2e
一方、作用電極103側では、被測定ガス中の測定対象ガスであるNOガスにより、下記の反応が起こる。
NO+4H+4e → 1/2N+2H
両電極の反応を纏めて記載すると、
NO(作用電極側)+2HO(対極電極側) → 1/2N(作用電極側)+2HO(作用電極側)+O(対極電極側)
となり、作用電極103側で一分子のNOが分解して、1/2分子の窒素が生成し、対極電極104側で一分子の酸素が生成する。また、その際二分子のHOが対極電極104側で分解し、作用電極103側で生成している。この反応に伴い、作用電極103と対極電極104の間に反応ガス濃度で決まる起電力が発生する。このため、図6に示した従来のガスセンサにより被測定ガスの起電力(電位)を測定すれば、被測定ガス中のNO濃度を測定できる。測定対象ガスをNOガスとして説明したが、測定対象ガスをNOガスとしても、電気化学反応は異なるが、作用電極103と対極電極104の間にNOガス濃度で決まる起電力が発生するので、起電力を測定すれば、被測定ガス中のNO濃度を測定することができる。
【0014】
しかし、このNOxセンサは、酸素や水蒸気に対しても電気化学反応を生じ、被測定ガス中のこれらのガスの濃度変化により起電力(電位)が変動し、NOx濃度の測定精度が低下してしまうと考えられる。例えば、被測定ガス中にOガスが存在すると、作用電極103側で、被測定ガス中の不純物ガスであるOガスと電解質中を運ばれてきたプロトン(H)の再結合により、下記の反応が起こる。
+4H+4e → 2H
対極電極104側では上述の反応と向きが逆の同じ反応が起こるので、Oガスに関与する両電極の反応を纏めて記載すると、
(作用電極)+HO(対極電極) → O(対極電極)+HO(作用電極)
となる。
【0015】
通常、作用電極103側と対極電極104側の酸素濃度及び水蒸気濃度は異なるので、作用電極103側と対極電極104側の間に起電力が生じる。この起電力が、測定対象ガスであるNOガスによる起電力と混成されるため、作用電極103と対極電極104間の起電力をNOガス濃度との関係として直接表すことができなくなる(この起電力は混成起電力と呼ばれる)。さらに、一般に対極電極104側(空気中)の酸素濃度及び水蒸気濃度は一定にできるが、作用電極103側酸素濃度及び水蒸気濃度は変動するので、この電極間の起電力とNOガス濃度の関係は複雑に変動する。このような現象は、NOガス測定におけるOガス、及び水蒸気の影響としてももたらされると考えられる。
【0016】
本発明の目的は、上述の問題点を踏まえて、低温でも作動可能であり、測定対象外のガスの影響を受けないガスセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のガスセンサは、測定対象ガス(本発明のガスセンサが検知対象とするガス、以下同じ)の感応部に電池と同様の構造を有している、即ち電解質を挟んで作用電極と対極電極を備えている。そして、作用電極側に自動車排ガス等の被測定ガス(本発明のガスセンサの検知部に接触させるガス、以下同じ)を接触させ、測定対象ガスと電解質中のイオン、及び電子とによる電気化学反応を起こす場にする。対極電極側には空気(水蒸気を含む空気)等の基準ガスを接触させ、基準ガスと電解質中のイオン、及び電子との電気化学反応を起こす場にする。
【0018】
被測定ガス中の測定対象ガス(例えばNOガス)の濃度を測定する際は、事前に被測定ガス中の不純物ガス(被測定ガス中の測定対象ガス以外のガスで、ガスセンサの電池構造部分の起電力に影響を与えるガス、例えば酸素ガス。測定対象ガス外のガスと言うこともある。)の電気化学反応によるこの電池構造部分における起電力(平衡電位)を測定又は算出しておき、この平衡電位と同値、又は平衡電位±20mVの範囲にある電位を、作用電極に印加し、不純物ガスによる電気化学反応が起こらないようにして、測定対象ガスによる電気化学反応のみからなる電流値を測定する。そうすることで、測定対象ガスによる電気化学反応のみからなる電流値は、不純物ガスの濃度に依存せず、被測定ガス中の測定対象ガスの濃度と1対1に対応した値を示し、事前に測定対象ガス濃度と電流値の関係を把握しておくことにより、電流値から容易に被測定ガス中の測定対象ガスの濃度を測定することができる。
【0019】
以下、便宜的に、測定対象ガスをNOガス、測定対象外のガスを酸素ガスとして、測定対象ガスの濃度を測定対象外のガスの影響を受けずに測定する方法を説明する。NOガスの濃度測定にあたっては、測定又は算出した酸素ガスの電気化学反応による平衡電位と同値、又は平衡電位±20mVの範囲にある電位を、この作用電極に印加し、酸素ガスによる電気化学反応が起こらないようにして、NOガスによる電気化学反応のみからなる電流値を測定する。そうすることで、このNOガスによる電気化学反応のみからなる電流値は、酸素ガスの濃度に依存せず、被測定ガス中のNOガスの濃度と1対1に対応した値を示し、事前にNOガス濃度と電流値の関係を把握しておけば、電流値から容易に被測定ガス中のNOガスの濃度を測定することができる。
【0020】
ここで、測定対象ガスはNOガス以外のNOxガス(窒素酸化物ガス)、例えばNO、NO、N、N、及びNなどのガスでもよい。実用的な測定対象NOxガスとしては、NO、又はNOガスであることが好ましい。また、測定対象ガスは、炭酸ガス、COガス、炭化水素ガス、アルコールガス等でもよく、場合によっては、酸素ガスや水蒸気等、上記の電極構造で電気化学反応を生じるガスであればいずれでもよい。この測定対象ガスは、被測定ガス中の不純物ガスとの関係において制限があり、作用電極に不純物ガスが関与する反応の平衡電位を印加したときにも、電気化学反応が起こるガスである必要がある。
【0021】
また、測定対象外のガスについては、酸素ガス以外に水蒸気、炭酸ガス、COガス等上記の電極構造部分で電気化学反応を生じ、測定対象ガスの濃度測定に妨害となるガスであれば、どのようなガスでも測定対象外のガスの対象となる。
【0022】
本発明のガスセンサにおける電解質は、伝導イオンがH(プロトン)、O2−、Li、Na、Al3+、Sc3+、Mg2+、F、Ba2+、Ag、又はCu2+などどのような電解質でもよい。これらの中でも、プロトン伝導性電解質は低温でも動作しやすいので好ましい。プロトン伝導性電解質としては、プロトン伝導パスがHO、液体HPOの有機電解質、プロトン伝導パスがSO2−、PO3−、又はP4−の無機電解質がある。プロトン伝導パスがHOのものとしては、骨格がテフロン(登録商標)などのフッ素系樹脂でできたNafion、又は骨格が炭化水素系樹脂でできたものがある。
【0023】
イオン伝導パスが液体HPOのものとしては、骨格がSiCでできたのもの、PBI(ポリベンゾイミダソール)でできたもの、又はピリジンでできたものがある。プロトン伝導パスがP4−のものはピロリン酸塩と呼ばれ、P4−イオンが面心位置に配置された最密充填構造をしており、プロトン伝導パスがSO2−、又はPO3−のものよりも、プロトンサイトが豊富で、プロトン伝導パスが多岐にわたっているので、特に好ましい。ピロリン酸塩は構造式M1−x(0≦x<1)で示され、Mは、Sn、Ti、Si、又はGe等が好ましく、ドープ原子Jは3価以下のカチオンとなる原子で、In、Al、又はMg等が好ましい。3価以下のカチオンとなる原子Jをドープすることにより、イオンの電荷補償として電子ホールが増え、雰囲気中のHOにより電子ホールがプロトンに置き換わることでプロトン濃度が増加してプロトン伝導度を増加させることができる。
【0024】
電解質がプロトン伝導性電解質である場合には、基準ガス中にはプロトン供給源が含まれていることが必要である。プロトン供給源としては、HOを用いることができる。対極電極の触媒を工夫することにより水素、アルコール、炭化水素、ヒドラジン、アンモニア、アミン、などもプロトン供給源として用いることができる。プロトン供給源の態様としての基準ガスとしては、通常の空気(湿度0%でない空気)を用い、その空気中の水蒸気をプロトン源として利用することが簡便であるので好ましい。
【0025】
電解質が無機材料の電解質の場合は、結晶体の粒から成る焼結体が耐熱性が良いので特に好ましい。また、有機バインダを混入した無機有機コンポジット体でもよい。このとき、有機バインダとしては、PTFEなどのフッ素系樹脂、イオン伝導性樹脂等を用いることができる。
【0026】
電解質を挟んで配置される作用電極と対極電極は、炭素電極、白金族電極、酸化物電極、遷移元素を含んだ電極などを用いることができる。なお、作用電極は、測定対象ガスに応じてその電気化学反応に対して触媒作用を有する物質、例えばPt、Rh、Ru、Pd、Ir、Co、及びAgのうち少なくともいずれかひとつを含有させてもよい。触媒作用を有する物質を含有させることで、測定対象ガスが関与する電気化学反応の反応速度を大きくでき、電気化学反応で生じる電流値が大きくなり、センサのS/N比[{=(信号)/(ノイズ)}={(測定対象ガスが関与する電気化学反応で生じる電流)/(不純物ガスが関与する電気化学反応で生じる電流等のノイズ電流の総計)}、以下同じ]を大きくすることができる。
【0027】
さらに、測定対象ガスがNOxガスの時は、電気化学反応の触媒作用に対する助触媒として、Ba、Ca、Mg、Sr等を含有させてもよい。これらの助触媒はNOx分子の作用電極への吸着を促進するので、センサのS/N比を大きくすることができる。
【0028】
一方、測定対象ガスの濃度測定の妨害となる不純物ガスの電気化学反応に対して触媒作用を発揮する物質の添加は抑えることが好ましい。不純物ガスが関与する電気化学反応の反応速度を小さく抑えることによって、不純物ガスが関与する電気化学反応で生じる電流の大きさを小さくして、センサのS/N比を大きくすることができる。
【0029】
対極電極は、電解質にプロトンを供給する役目を有しており、通常、プロトンはHO、又は、Hから供給されるので、HO、又はHを分解してプロトンを生成する触媒作用を有する金属等を含むことが好ましい。このような触媒作用を有する物質としては、例えばPt、Rh、Ru、Pd、Ir、Co、又はAgなどが挙げられる。
【0030】
本発明のガスセンサのガス濃度測定温度は、ピロリン酸塩等のプロトン導電性電解質を用いれば、低温でもプロトン伝導度が大きいので、20〜350℃の低温で作動させることができる。Ptなどの電気化学反応の触媒作用を有する物質を含む作用電極へのNOxガスの吸着は低温ほど強いので、作用電極のNOxガスに対する感度が良くなり、センサのS/N比が大きくなる利点がある。しかしながら、作動温度が100℃未満では、電気化学反応の反応速度が遅くなりNOxに対する応答速度が遅くなる。また、COガスによる作用電極への被毒によりNOxに対する感度が下がってしまう。したがって、ガス濃度測定温度は、100〜350℃で作動させることがより好ましい。
【0031】
本発明のガスセンサにおいては、不純物ガスに起因する電気化学反応の影響を抑えるため、作用電極(と対極電極の間)に電位を印加している。この電位は、対象となる不純物ガスの濃度によって異なっている。これらの不純物ガスの濃度が一定の被測定ガスであれば、被測定ガスに対して一度測定した、又は理論的に算出した不純物ガスが関与する電気化学反応の平衡電位に同値、又はその電位±20mVの範囲にある電位を作用電極(と対極電極の間)に印加して、不純物ガスが関与する電気化学反応を平衡状態にして、不純物ガスが関与する電気化学反応が起きないようにする。しかし、被測定ガス中の対象となる不純物ガスの濃度が変化しやすい自動車排ガスのような場合には、その変化に対応して、作用電極(と対極電極の間)に印加している電位を調整して、常に不純物ガスが関与する電気化学反応が起きないようにすることが好ましい。このような場合、本発明のガスセンサは、上述の起電力測定装置により被測定ガス中の不純物ガスの濃度、又は濃度に依存する電気化学反応の平衡電位を測定し、この測定値に応じて作用電極(と対極電極の間)に印加する電位を、ポテンショスタットなどの電位印加装置を用いて調整することが好ましい。
【0032】
この為、本発明のガスセンサは、被測定ガス中の測定対象外のガス(不純物ガス)が関与する電気化学反応の平衡電位を測定する起電力測定装置を備えていることが好ましい。測定対象外のガスが関与する電気化学反応の平衡電位を常に測定することで、作用電極に対し不純物ガスによる起電力を打ち消す電位を常に正確に印加することができる。
【0033】
起電力測定装置は、作用電極と対極電極の間に電解質を設けた電池タイプのものが使用できる。しかし、この起電力測定装置の作用電極上で測定対象ガスが関与する電気化学反応が起こると、不純物ガスが関与する電気化学反応の起電力以外に測定対象ガスが関与する電気化学反応の起電力による電位が混成される恐れがある。このため、起電力測定装置は、測定対象ガスの電気化学反応に対し不活性又は低活性であることがより好ましい。そのため、起電力測定装置は、不純物ガスの電気化学反応を促進し、測定対象ガスの電気化学反応を相対的に抑制する作用電極を備えていることが好ましい。不純物ガスの電気化学反応が促進され、測定対象ガスの電気化学反応が抑制されている作用電極は、実質的には測定対象ガスの電気化学反応に対し不活性又は低活性であるとみなせるからである。具体的な、起電力測定装置における作用電極としては、Au、又はカーボン等を含む電極を用いることができる。
【0034】
被測定ガスがディーゼル排ガスで測定対象ガスがNOxである場合は、不純物ガスとして測定結果に影響を与えやすいガスは、酸素と水蒸気である。特に被測定ガス中の酸素濃度が、高く変動が激しいので、起電力測定装置を用いて電位測定対象とすることが好ましい。また、水蒸気も比較的測定対象ガスの測定の妨害ガスとなりやすいので、酸素と共に又は別個に起電力測定装置による電位測定対象ガスとしてもよい。不純物ガスとしての酸素と水蒸気の混合ガスが関与する電気化学反応の平衡電位を測定して、この電位と同値、又はこの電位±20mVの範囲にある電位を、ガス検知部の作用電極に印加することもできる。
【0035】
起電力測定装置が酸素及び/又は水蒸気を電位測定対象ガスとする場合は、プロトン導電体に、作用電極と対極電極を挟む電池タイプのものを採用すればよい。作用電極としては、Au、又はカーボン等いずれかを含む電極を挙げることができる。対極電極としては、
ガス検知部の対極電極と同じ材料でよい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、低温でも作動可能であり、測定対象外のガスの影響を受けないガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のガスセンサの模式図である。
【図2】本発明に係る作用電極に印加する電位の説明図である。
【図3】起電力測定装置を備えた本発明のガスセンサの模式図である。
【図4】実施例1におけるNO濃度に対する電解電流値の測定値を表すグラフである。
【図5】比較例1におけるNO濃度に対する起電力(電位)の変化を表すグラフである。
【図6】従来のガスセンサの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的に沿って実施できる各種の形態を含むものである。
【0039】
本発明のガスセンサは、ディーゼルエンジン車やガソリンエンジン車の自動車排ガス、又は加熱炉、ボイラー等の固定式の燃焼炉などのNOx発生源からの排ガス中のNOx濃度の連続測定に好適である。また、大気中のNOx濃度測定や特殊な環境におけるNOx濃度測定等にも応用できる。測定対象ガスとしては、NOガス、NOガスが好ましいが、その他のNOxガス、炭酸ガス、COガス、炭化水素ガス、アルコールガスなどへも応用ができる。
【0040】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るガスセンサ1を表し、ガスセンサ1はNOセンサ(又はNOセンサ)として機能する。ガスセンサ1は、電解質2、作用電極3、対極電極4が積層された電池部(電気化学反応部)を備えている。作用電極3側には被測定ガス室(例えば排ガス導入室)5が接しており、被測定ガスが供給されている。対極電極4側には基準ガス室(例えば空気室)6が接しており、空気が供給されている。なお、この空気は、通常の大気程度の湿分を含んでおり、完全な乾燥空気ではない。
【0041】
そして、この形態のガスセンサ1には、作用電極3と対極電極4とを結ぶリード線9、10を流れる電流を測定する電流計7、及び作用電極3と対極電極4の間に所定の電位差を印加する電位印加装置8が配置されている。
【0042】
ガスセンサ1において、被測定ガス(自動車排ガス等)中の測定対象ガス(NOガス)を測定する。NOガスを含む被測定ガスと空気等の基準ガスは、電池部において電気化学反応を生じる。対極電極4側では基準ガス中の水蒸気が分解されて、下記の反応が起こる。
O → 2H+1/2O+2e
一方、作用電極3側では、被測定ガス中の測定対象ガスであるNOガスにより、下記の(還元)反応が起こる 。
【0043】
NO+4H+4e → 2HO+1/2N
両方の反応を纏めて記載すると、
NO → 1/2N+O
となり、作用電極3側で一分子のNOが分解して1/2分子の窒素が発生し、対極電極4側で一分子の酸素が発生する。また、その際2分子のHOが、対極電極4側で消滅し、作用電極3側で発生する。そして、作用電極3と対極電極4の間に起電力差が発生し、電極間を結ぶリード線9、10には、NO一分子の分解(還元)に対し4個の電子に相当する電流が流れる。また、電解質2中では、4個のプロトンが対極電極4側から作用電極3側に移動している。
【0044】
ここで、実施の形態1においては、副反応として作用電極3における被測定ガス中の不純物ガスである酸素ガスのプロトンとの結合反応(還元反応)や水蒸気の分解反応(酸化反応)が考えられる。例えば、作用電極3における酸素のプロトンとの結合反応(還元反応)であれば、
1/2O+2H+2e → H
である。この反応は、対極電極4における水蒸気の分解反応(酸化反応)との対の反応として起こるものであり、作用電極3表面における酸素濃度、HO濃度、及びプロトン濃度から決まる反応平衡電位が存在する。このため、図2の作用電極に印加する電位の説明図に模式的に示すように、この反応平衡電位に対応する電位を作用電極に付加してやれば、酸素のプロトン及びeとの結合反応(還元反応)は平衡状態に達して正味の反応としては右にも左にも進行しない。すなわち、作用電極上では、測定対象ガスであるNOガスの分解反応(還元反応、右方向への反応)のみを進行させることができる。そうすれば、作用電極3と対極電極4の両極間に流れる電流値から正確にNOガスの濃度を算出することができる。
【0045】
なお、被測定ガス中の酸素濃度と水蒸気濃度は、別途測定しておきこの酸素濃度と水蒸気濃度が関与する電気化学反応の平衡電位を計算しておき、その平衡電位に相当する電位(その平衡電位に同値又は平衡電位±20mVの範囲にある電位)を作用電極に印加すれば、酸素のプロトンとの結合反応(還元反応)は平衡状態、又は、近似的に平衡状態となり、酸素と水蒸気が関与する電気化学反応(副反応)は正味の反応としては右にも左にも進行しない。このようにして副反応を抑えることができ、作用電極3と対極電極4の両電極間に流れる電流値から、正確にNOガスの濃度を算出することができる。
【0046】
測定対象ガスとしてNOガスの代わりにNOガスを選定した場合、対極電極4側では基準ガス中の水蒸気が分解(酸化)して、下記の反応が起こる。
O → 2H+1/2O+2e
一方、作用電極3側では、被測定ガス中の測定対象ガスであるNOガスにより、下記の反応が起こる 。
【0047】
NO+2H+2e → HO+1/2N
両方の反応を纏めて記載すると、
NO → 1/2N+1/2O
となり、作用電極3側で一分子のNOが分解して1/2分子の窒素が発生し、対極電極4側で1/2分子の酸素が発生する。また、その際一分子のHOが、対極電極4側で消滅し、作用電極3側で発生する。作用電極3と対極電極4の間に起電力が発生し、電極間を結ぶリード線9、10には、NO一分子の分解に対し2個の電子に相当する電流が流れる。
【0048】
このように一分子のNOガスに対して流れる電流はNOの場合の半分になるが、NOの測定と同様の考え方で測定できる。その他のガスを測定対象ガスとした場合も、同様に、測定対象ガスの電気化学反応を解析して測定対象ガスの濃度と電流値との関係を把握すれば、測定対象ガスの濃度を測定できる。
【0049】
NOガス濃度とNOガス濃度の和をトータルNOxガスの濃度と呼ぶ。トータルNOxガスの濃度を測定するには、NOガスを事前に酸化してNOガスに変換しておき、NOガスを測定対象ガスをとして測定すればよい。または、NOガスを事前に還元してNOガスに変換しておき、NOガスを測定対象ガスをとして測定してもよい。上記のようにすることで、トータルNOxガスの濃度を測定することができる。
【0050】
図2は、作用電極3に印加する電位を模式的に示したものであり、作用電極3の電位Aを被測定ガス中の不純物ガス(この場合、不純物ガスを酸素ガスとする。)のプロトンとの結合反応(還元反応)の平衡電位Cと同じレベルとなるようにする。このとき、被測定ガス中の測定対象ガス(この場合、NOガス)の分解反応(還元反応)の平衡電位Bは、作用電極3の電位AよりVだけ高い位置にあり(図2では、下側を電位が高い方向としている。)、電子eを受け取り反応が右へ進行することを示している。なお、この場合、図2に示すように、酸素ガスのプロトンとの結合反応の平衡電位D(起電力W)は、NOガスの分解反応の平衡電位B(起電力V)よりも低い(起電力が小さい)関係になっている。
【0051】
プロトンは作用電極3と対極電極4の間の電解質2中を移動可能なので、作用電極3と対極電極4の間を導通して電子eの流通を可能にすれば、作用電極上では酸素ガスの分解反応は起きず、NOガスの分解反応(還元反応)のみが進行する。それ故、電流値(電子eの流通量に比例する反対符号の大きさ)によってNOガスの分解反応量(還元反応量)が測定できる。このとき、NOガスの分解反応量(還元反応量)は、被測定ガス中のNOガスの濃度に応じて比例して増加する。この為、電流値も被測定ガス中のNOガスの濃度に比例して増加する。すなわち、電流値が、酸素ガスの濃度に依存せず、NOガスの濃度と1対1の関係にあるため、電流値からNOガスの濃度を測定することができる。
【0052】
(実施形態2)
図3に本発明の実施の形態2のガスセンサを示した。この形態のガスセンサ51は、測定対象ガスのガス検知部には、実施の形態1に示したガスセンサ1と同様の電池部分を有し、さらに、被測定ガス流路の上流側に、不純物ガスによる起電力を測定する起電力測定装置21が配置されている。図3に示すように、起電力測定装置21の作用電極13をガスセンサ51のガス検知部分である作用電極3より上流側に配置することにより、ガスセンサ51のガス検知部分における被測定ガス中の不純物による起電力を、測定対象ガス濃度の測定以前に把握して、上記の起電力の大きさと同値又は、その起電力±20mVの範囲にある電圧をガス検知部の作用電極に印加する。
【0053】
図3において、符号2〜10は実施の形態1に示したガスセンサ1と類似しており、ガスセンサ1と同様の部分は説明を省略する。起電力測定装置21は、上記の符号2〜4に示したガスセンサの電池部分の被測定ガス及び基準ガスの流れの上流側又は同じ位置にあり、電解質12を挟んで作用電極13、対極電極14が積層された電池構造をしている。ここでガスセンサ51においては、測定対象ガスをNOガス、不純物ガスを酸素ガスと想定している。この起電力測定装置21は、被測定ガスの流れが作用電極13の表面と接しており、基準ガスの流れが対極電極14の表面と接している。そして、作用電極13と対極電極14との間の電位を電圧計17によって測定できる。
【0054】
電圧計17によって測定された電位信号は制御装置11に送られ、制御装置11はこれを基に電位印加装置8により所定の電位を作用電極3に印加する。この際、起電力測定装置21の作用電極13がガスセンサ51のガス検知部分である作用電極3より上流側又は同じ位置に配置されていれば、作用電極3に対しては、時間遅れなく電位印加装置8により被測定ガス中の不純物ガス濃度に対応した電位(不純物ガスが関与する電気化学反応の平衡電位と同値又は平衡電位±20mVの範囲にある電位)を印加することができる。
【0055】
起電力測定装置21の作用電極13と対極電極14とは、作用電極13表面における被測定ガス中の酸素ガスと水蒸気が関与する電気化学反応の平衡電位を測定している。ここでは、ガス検知部の作用電極に印加することになる副反応の平衡電位を測定したいので、酸素ガスと水蒸気が関与する電気化学反応の平衡電位のみを測定し、被測定ガス中のNOガスが関与する電気化学反応の平衡電位を測定しないようにすることが重要である。この為に、作用電極13には、酸素ガスのプロトンとの還元反応、又は、水蒸気の酸化反応を促進させ、NOガスのプロトンによる還元反応を抑制する触媒作用を有する電極を使用する。こうすることで、NOガスが関与する電気化学反応の平衡電位を測定せず、酸素ガスと水蒸気が関与する電気化学反応の平衡電位のみを測定することができる。具体的な作用電極13としては、Au、カーボン等を含む電極を用いることができる。不純物ガスとして、酸素及び、水蒸気以外のガスの影響を考慮することもできる。
【0056】
制御装置11は、起電力測定装置21により測定された不純物ガスによる起電力(電位)信号を受け、作用電極3に印加する電位を決定し、電位印加装置8により電位を作用電極3に印加する。電流計7は、NOガスの分解反応(還元反応)に伴う電流値を測定して制御装置11に電流値信号を伝達する。制御装置11は、この電流値信号を基に被測定ガス中のNOガス濃度(測定対象ガス)を算出する。
【0057】
次に、具体的な実施例、比較例により本発明のガスセンサを説明する。なお、本発明のガスセンサは、本発明の目的を達成するガスセンサであればよく、これらの実施例に限定されるものではない。
(実施例)
図1に示すような構造のガスセンサを作製した。主な構成要素の材質、及び被測定ガスの測定条件等を以下に示す。
・電解質2 :Sn0.9In0.1(インジウムをドープしたピロ燐酸スズ)
・作用電極3:Pt/C(白金担持カーボン電極、白金量は0.6mg/cmで10重量%、BASF社製)
・対極電極4:Pt/C(白金担持カーボン電極、白金量は0.6mg/cmで10重量%、BASF社製)
・電位印加装置8:ポテンショスタット(HABF5001:HOKUTO DENKO社製)
・測定環境温度:150℃
(被測定ガス(ディーゼルエンジン排ガスを排気管から分岐して引込んで測定することを想定))
・NOガス濃度:0ppm、50ppm、100ppm、200ppmの4レベル
・Oガス濃度:5%、10%、20%の3レベル
・HOガス濃度:10%
・Nガス濃度:残り(バランス)
(基準ガス(空気))
・Oガス濃度:21%
・HOガス濃度:2%
・Nガス濃度:76%
・炭酸ガスその他:残り(バランス)
なお、上記各ガス中の成分ガス濃度は体積分率で表す。
【0058】
ガスによる測定誤差を除去するため、作用電極には、それぞれの被測定ガス中のOガス濃度(5%、10%、20%)に応じて、被測定ガス中のOガス濃度及びHO濃度で決まる電気化学反応の平衡電位に応じた電位(−42.4mV、−36.1mV、−29.8mV)を作用電極−対極電極の間に印加しておく。作用電極に印加する電位は、被測定ガス中のOガス濃度及びHOガス濃度の組合せから理論的に算出してもよいし、起電力測定装置を設けて電気化学反応(O+4H+4e ⇔ 2HO)の平衡電位の測定値から決めても良い。作用電極にそれぞれOガス濃度、及び、HOガス濃度の組み合わせに応じた平衡電位を印加しておき、上記被測定ガス中のNOガス濃度4レベルに対しNOガスの電解電流値を測定した。
【0059】
ガス濃度レベル毎の被測定ガス中のNOガス濃度4レベルに対して測定した電解電流値を図4のグラフに示す。図4において、横軸は被測定ガス中のNOガス濃度であり、縦軸はガスセンサにより観察された電解電流値である。また、グラフ中△は被測定ガスのOガス濃度5%の場合の測定値を表し、□は被測定ガスのOガス濃度10%の場合の測定値を表し、◇は被測定ガスのOガス濃度20%の場合の測定値を表す。
【0060】
図4から判るように、Oガス濃度を5〜20%と大きく変動させたが、Oガス濃度の変化によるNOガス濃度に対する電解電流値の変化は小さかった。例えば、NOガス濃度50ppmにおけるOガス濃度5〜20%の変動に対し最大19%の電流値の変動、NOガス濃度100ppmにおけるOガス濃度5〜20%の変動に対し最大30%の電流値の変動に収まっている。また、NOガス濃度0〜200ppmの範囲で、NOガス濃度に対して電解電流値がほぼ比例的に増加している。
【0061】
すなわち、このガスセンサにより、不純物ガスであるOガス及びHOガスに対する補償電位(平衡電位)を印加しておけば、NOガス濃度未知のディーゼルエンジン排ガス等の被測定ガスに対し、計測電流値から容易に精度よくNOガス濃度が算出できることが判る。
【0062】
(比較例)
図6に示すガスセンサを作製した。このガスセンサは、図1に示すガスセンサから電位印加と電流計7を除いて、替わりに電圧計を備えている。被測定ガス及び基準ガス等の測定条件は実施例とおなじである。
【0063】
NOガス濃度0ppmに対応した混成電位(不純物ガスであるOガスとHOガスを含むNOガス以外による反応の平衡電位)を基準として、各Oガスレベル毎にNOガス濃度50、100、200ppmにおける混成電位の変化を電位シフト値として求め、これを図5に表した。図5において、横軸は被測定ガス中のNOガス濃度であり、縦軸はガスセンサにより観察された混成電位の電位シフト値である。また、グラフ中△は被測定ガスのOガス濃度5%の場合の電位シフト値を表し、□は被測定ガスのOガス濃度10%の場合の電位シフト値を表し、◇は被測定ガスのOガス濃度20%の場合の電位シフト値をそれぞれ表す。
【0064】
図5から判るように、それぞれのOガス濃度毎にNOガス濃度に対する電位シフト値は増加する。しかし、NOガス濃度に対する電位シフト値の増加傾向はそれぞれのOガス濃度毎に大きく異なっている。例えば、NOガス濃度50ppmにおけるOガス濃度5%の電位シフト値に対しOガス濃度20%の電位シフト値は31%小さくなっている。NOガス濃度100ppmにおけるOガス濃度5%の電位シフト値に対しては、Oガス濃度20%の電位シフト値は42%小さくなっている。また、NOガス濃度に対する電位シフト値は、直線的な増加をせずに上に凸な曲線上に乗る。
【0065】
すなわち、このガスセンサにより、不純物ガスであるOガス及びHOガスに対する電位シフト値を測定すれば、NOガス濃度未知のディーゼルエンジン排ガス等の被測定ガスに対して電位シフト値からNOガス濃度が算出できる。しかし、Oガス濃度により電位シフト値が大きく異なり、さらに、NOガス濃度と電位シフト値が単純な比例関係にもない。このため、電位シフト値によるNOガス濃度の測定においてはOガス濃度の変動による誤差が生じやすい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のガスセンサは、ディーゼルエンジン車やガソリンエンジン車の自動車排ガス、又は加熱炉、ボイラー等の固定式の燃焼炉などのNOx発生源からの排ガス中のNOx濃度の連続測定に好適である。また、大気中のNOx濃度測定や特殊な環境におけるNOx濃度測定等にも応用できる。測定対象ガスとしては、NOガス、NOガスが好ましいが、その他のNOxガス、炭酸ガス、COガス、炭化水素ガス、アルコールガスなどへも応用ができる。
【符号の説明】
【0067】
1 :ガスセンサ(NOセンサ、NOセンサなど)
2 :電解質
3 :作用電極
4 :対極電極
5 :被測定ガス室(作用電極側)
6 :基準ガス室(対極電極側)
7 :電流計
8 :電位印加装置(ポテンショスタットなど)
9 :リード線(作用電極側)
10 :リード線(対極電極側)
11 :制御装置
12 :電解質
13 :作用電極
14 :対極電極
15 :被測定ガス室(作用電極側)
16 :基準ガス室(対極電極側)
17 :電圧計
19 :リード線(作用電極側)
20 :リード線(対極電極側)
21 :起電力測定装置
22 :ガス検知部
51 :ガスセンサ
101 :ガスセンサ
102 :電解質
103 :作用電極
104 :対極電極
105 :被測定ガス室(作用電極側)
106 :基準ガス室(対極電極側)
107 :電圧計
109 :リード線(作用電極側)
110 :リード線(対極電極側)
A :作用電極電位
B :不純物ガスの電気化学反応の平衡電位
C :測定対象ガスの電気化学反応の平衡電位
D :対極電極の電位(=基準ガスの電気化学反応の平衡電位)
V :測定対象ガスが関与する電気化学反応の平衡電位と不純物ガスが関与する電気化学反応の平衡電位の電位差
W :電位印加装置による印加電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質と、前記電解質を挟む作用電極と対極電極と、前記作用電極と前記対極電極の間を流れる電流を測定する電流計とを備え、
前記両電極間を流れる電流値によって被測定ガス中の測定対象ガスの濃度を検出するガスセンサであって、
前記作用電極に、被測定ガス中の不純物ガスが関与する電気化学反応の平衡電位に同値、又は前記平衡電位±20mVの範囲にある電位を印加する電位印加装置を備えることを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記電解質は、プロトン伝導性電解質であることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記測定対象ガスは、NOxガスのうちのいずれかのガスであることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記不純物ガスは、酸素ガス、及び/又は水蒸気であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記電解質は、ピロリン酸塩を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記電解質は、高分子電解質を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記電解質は、有機バインダを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項8】
ガス濃度測定温度は、20〜350℃であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項9】
前記作用電極及び/又は対極電極は、Pt、Rh、Ru、Pd、Ir、Co、及びAgのうち少なくともいずれかひとつを含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項10】
前記被測定ガス中の不純物ガスが関与する電気化学反応の平衡電位を測定する起電力測定装置を備えたことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項11】
前記不純物ガスが関与する電気化学反応の平衡電位を測定する起電力測定装置は、前記測定対象ガスが関与する電気化学反応の平衡電位に対し不活性又は低活性であることを特徴とする請求項10に記載のガスセンサ。
【請求項12】
前記起電力測定装置は、酸素センサ、又は酸素センサ及び水蒸気センサを含むことを特徴とする請求項10又は11に記載のガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−226892(P2011−226892A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96255(P2010−96255)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)