説明

ガスハイドレート率の測定方法及びその装置

【課題】ガスハイドレート率を効率よく測定することができる測定方法とその装置を提供する。
【解決手段】内容積5が拡縮可能に構成された容器1内をガスハイドレートの生成圧力及び生成温度に保持した後、容器1内に試料17を導入し、次いで容器1の内容積を縮小して容器1内のガスを放出した後、容器1内の圧力をガスハイドレートの生成圧力未満に減圧してガスハイドレートを原料ガスと原料水とに分解し、分解された原料ガスの体積と原料水及び付着水の体積からガスハイドレート率を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスハイドレート率の測定方法及びその装置に関し、詳しくは、シリンダ・ピストン型の円筒容器を用いることによりガスハイドレート率を効率よく測定することができるガスハイドレート率の測定方法及びそれに用いる測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然ガスやメタンなどの安全かつ経済的な輸送・貯蔵手段として、それら原料ガスの固体状の水和物であるガスハイドレートを用いる方法が注目されている。
【0003】
このガスハイドレートは一般に高圧・低温下(例えば、天然ガスハイドレートでは5.4MPa、5℃)で生成され、その生成方法としては、原料水中に原料ガスを気泡として吹き込みながら撹拌するいわゆる「気液撹拌方式」(例えば、特許文献1を参照)や、原料ガス中に原料水を噴霧するいわゆる「水スプレー方式」(例えば、特許文献2を参照)が代表的なものとして知られている。
【0004】
これらの生成方法により生成されたガスハイドレートは、多量の水の中に浮遊してスラリー状となっているか、若しくはガスハイドレートの周囲に水分が付着する程度に脱水されているため、その中のガスハイドレート率を直接測定することは一般に困難である。
【0005】
現状のガスハイドレート率の測定方法の一例を以下に説明する。
【0006】
この測定方法においては、図9に示すように、あらかじめ内部をガスハイドレートの生成圧力及び生成温度(例えば、天然ガスハイドレートでは5.4MPa、5℃)に保持したサンプリング容器30を用いる。まず、サンプリング容器30をガスハイドレート生成容器31に、エアロックを構成する2つのボール弁32、33を介して接続する。そして、これらのボール弁32、33を同時に開くことにより、サンプリング容器30内にガスハイドレートと付着水からなる試料を導入する。この際には、ガスハイドレート生成容器31内に存在する未反応の原料ガスも導入される。所定の量を導入した後にボール弁32、33を閉じ、その中間部でサンプリング容器30を生成容器31から切り離す。切り離し後のサンプリング容器30を大気圧下でガスハイドレートが分解しない温度(約−20℃)まで冷却してから、ガス抜き弁34を開いて未反応の原料ガスを外部へ放出する。ガスを放出した後に、サンプリング容器30の総重量と風袋重量から試料の重量Wを求める。最後に、サンプリング容器30をガスハイドレートの生成温度以上まで加熱してガスハイドレートを原料ガスと原料水に分解した後に、サンプリング容器30内の残留水を取り出してその重量Wを測定する。
【0007】
このようにして測定した試料の重量Wと残留水(付着水+原料水)の重量Wから、ガスハイドレートを生成していた原料ガスの重量Wを求める。
=W−W ---(1)
【0008】
ガスハイドレートの重量Wは、原料ガスの水和数をnとすると以下のようになる。
=W×(1+n×M/M) ---(2)
ここで、M及びMは、それぞれ原料ガスの分子量及び原料水の平均分子量を表す。
【0009】
従って、ガスハイドレート率α(重量%)は、次のように求められる。
α=W/W×100 ---(3)
【0010】
しかし、このようなガスハイドレート率の測定方法では、サンプリング容器の取扱いや冷却・加熱工程が必要となるため、測定に手間と時間がかかり効率が悪いという問題があった。
【特許文献1】特開2000−302701号公報
【特許文献2】特開2000−264852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ガスハイドレート率を効率よく測定することができる測定方法とその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明のガスハイドレート率の測定方法は、ガスハイドレートと付着水とからなる試料中のガスハイドレート率の測定方法であって、内容積が拡縮可能に構成された円筒容器内を前記ガスハイドレートの生成圧力及び生成温度に保持した後、前記円筒容器内に前記試料を導入し、次いで前記円筒容器の内容積を縮小して該円筒容器内のガスを放出した後、前記円筒容器内の圧力を前記生成圧力未満に減圧して前記ガスハイドレートを原料ガスと原料水とに分解し、前記原料ガスの体積と、前記原料水と前記付着水との体積と、から前記ガスハイドレート率を求めることを特徴とするものである。
【0013】
この測定方法においては、円筒容器内の圧力を生成圧力未満に減圧する際に、同時に円筒容器内の温度を生成温度超まで昇温して、ガスハイドレートを原料ガスと原料水とに分解することが望ましい。
【0014】
また、本発明のガスハイドレート率の測定装置は、保温ジャケットを備えた円筒容器内にピストンを摺動自在に挿設し、前記円筒容器上部に接続された2方向の切替手段の一方に圧力調整弁を接続し、他方にガス流量計を接続してなる。
【0015】
円筒容器上部と切替手段の間には、試料検知部とバッファー部とを順に接続することが望ましい。
【0016】
試料検知部には、赤外線式センサー又はサイトグラスが好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のガスハイドレート率の測定方法によれば、内容積が拡縮可能に構成された円筒容器内をガスハイドレートの生成圧力及び生成温度に保持した後に円筒容器内に前記試料を導入し、次いで前記円筒容器の内容積を縮小して円筒容器内のガスを放出した後、円筒容器内の圧力をガスハイドレートの生成圧力未満に減圧してガスハイドレートを原料ガスと原料水とに分解して、原料ガスの体積と、原料水と付着水との体積と、からガスハイドレート率を求めるようにしたので、サンプリング容器等の取扱いや加熱・冷却工程が不要となるため、効率的にガスハイドレート率の測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
本発明に係るガスハイドレート率の測定方法は、原料ガスと原料水から生成されたガスハイドレートと、そのガスハイドレートに付着している原料水(以下、単に「付着水」という。)とからなる試料中に含まれるガスハイドレート率を測定するものである。
【0020】
代表的な原料ガスとしては天然ガスが例示されるが、所定の圧力及び温度でガスハイドレートを生成するものならば特に種類は問わず、天然ガスの成分であるメタン、エタン、プロパンなどの炭化水素ガス及びそれらの混合ガス、あるいは二酸化炭素、硫化水素及びそれらの混合ガスなどでもよい。また、ガスハイドレートの生成圧力及び生成温度とは、上記のそれぞれの原料ガスと原料水からガスハイドレートを生成する際の圧力範囲及び温度範囲をいう。
【0021】
このようなガスハイドレート率の測定方法を実施するために、図1に示すようなガスハイドレート率の測定装置が用いられる。
【0022】
この測定装置は、筒形の容器1とその内部を摺動可能なピストン2から主に構成される。容器1の側面は、ボール弁3を介してガスハイドレート生成容器(以下、単に「生成容器」という。)4に接続されている。また、容器1の内部はピストン2を境に2つに分けられ、容器1の上部側に第1空間部5が、ロッド7の側に第2空間部6が、それぞれ形成されている。
【0023】
第1空間部5の端面の排出口には、切替手段である三方弁8と排水弁9が接続されており、その三方弁8の切替先の一方には定圧調整弁10が接続され、他方には圧力計11、減圧弁12及びガス流量計13が順に接続されている。
【0024】
第2空間部6の端面は、第1弁14を介して生成容器4に接続すると共に、第2弁15を通じて第2空間部6を大気圧にすることができるようになっている。
【0025】
また、容器1の外面には、保温ジャケット16が取り付けられており、容器1を常にガスハイドレートの生成温度(例えば、天然ガスハイドレートでは5℃)を超える一定温度(例えば、6℃)に保持している。
【0026】
このような測定装置を用いたガスハイドレート率の測定方法を、図2〜図8を用いて説明する。なお、図2〜図8においては、関連する部分にのみ符号を付すと共に、弁の開状態を白で、閉状態を黒で、それぞれ表すこととする。
【0027】
まず、図2に示すように、ピストン2を後退させて第1空間部5を大きくした状態で、ボール弁3を開いてガスハイドレートの生成条件下(例えば、天然ガスハイドレートでは圧力5.4MPa、温度5℃)にある生成容器4からガスハイドレートと付着水からなる試料17を第1空間部5へ導入する。このとき同時に、未反応の原料ガスの一部も第1空間部5へ導入される。この試料17の導入方法としては、重力を利用するのが望ましいが、スクリューコンベア等の機械的な手段でもよい。
【0028】
次に、図3に示すように、ボール弁3を閉じてから三方弁8を定圧調整弁10の方へ開く。このとき、定圧調整弁10の設定圧力を生成容器4よりも0.2MPa程度低くしておくことで、第1空間部5と第2空間部6の間の差圧によりピストン2が前進する。これにより、容器1内の試料17が集められると共に、容器1内の原料ガス18が外部へ排出される。
【0029】
なお、上記の工程においては、ピストン2が前進し過ぎることにより、試料17が三方弁8側へ流出して三方弁8の開閉動作に影響を与える可能性がある。そのためには、あらかじめ試料17の体積を見積もっておくとともに、ピストン2の位置が分かるようにロッド7に目盛りを付しておき、第1空間部5内の試料17の上方に常に原料ガスからなる空間ができるようにピストン2の位置を制御することが望ましい。
【0030】
また、ロッド7に目盛りを付す代わりに、図4に示すように、容器1と三方弁8の間に試料検知部22とバッファー部23を設けてもよい。この場合には、バッファー部23が原料ガスの空間の役割を有し、試料検知部22において試料17の存在を検知するまでピストン2を前進させることで、ピストン2の位置を適切に制御することができる。試料検知部22としては、赤外線センサーやサイトグラスなどを用いることができる。
【0031】
次に、図5に示すように、三方弁8を他方へ切り替えて、圧力計11を確認しつつ減圧弁12を操作して、第1空間部5を大気圧まで徐々に減圧することにより、試料17中のガスハイドレートを原料ガスと原料水に分解する。分解した原料ガス19は、ガス流量計13を通過する際に体積Vが測定される。
【0032】
このとき、第1空間部5に未反応の原料ガスが存在していると、ガスハイドレートが分解した原料ガス19と一緒にガス流量計13において計測されてしまい、測定誤差の原因となる。その場合には、図4に示す測定装置を用いて、バッファー部23の容積から未反応の原料ガスの体積を求めておき、体積Vから差し引くことで測定精度を向上することができる。
【0033】
ガスハイドレートが全て分解した後は、図6に示すように、第1空間部5には原料水と付着水からなる残留水20が残るので、三方弁8を閉じて排水弁9を開けてピストン2を前進させることにより、残留水20を容器1外部へ排水21して、その体積Vをメスシリンダ等により測定する。
【0034】
なお、この工程においても、図4に示す測定装置を用いることにより、残留水20が三方弁8側へ流出して測定誤差を生じることを防ぐことができる。
【0035】
測定終了後においては、図7に示すように、第2弁15を開放して第2空間部6を大気圧まで減圧することにより、ピストン2を後退させて次回の測定に備える。
【0036】
このようにして測定した原料ガスの体積Vと残留水の体積Vを、原料ガスの重量Wと残留水の重量Wにそれぞれ変換して、試料17の重量Wを以下のように求める。
=W+W ---(4)
【0037】
これより、前出の(1)〜(3)式を用いることにより、ガスハイドレート率αを求めることができる。
【0038】
なお、上述したガスハイドレート率の測定方法においては、生成圧力未満への減圧操作のみによりガスハイドレートの分解を行っているが、生成温度超への昇温操作を併用することにより、測定時間の短縮を図ることができる。図8は、更に別の実施形態からなる測定装置であり、第1空間部5の上部に当たる容器1の外面に加熱・冷却ジャケット24を設けることにより、試料17を生成温度を超える温度で加熱すると共に、測定後は次回の測定に備えて容器1を冷却することができるようになっている。なお、図4に示す実施形態と組み合わせてもよいことはもちろんである。
【0039】
以上のように、本発明に係る測定方法及び測定装置を用いることにより、生成容器へのサンプリング用の円筒容器の取り付け及び取り外しが不要となると共に、加熱や冷却を行うことなくガスハイドレート率を測定できるため、ガスハイドレート率を効率的に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態からなるガスハイドレート率の測定装置に係る系統図である。
【図2】本発明に係るガスハイドレート率の測定方法における最初の工程の系統図である。
【図3】図2の次の工程の系統図である。
【図4】本発明の別の実施形態からなるガスハイドレート率の測定装置に係る系統図である。
【図5】図3の次の工程の系統図である。
【図6】図5の次の工程の系統図である。
【図7】図6の次の工程の系統図である。
【図8】本発明の更に別の実施形態からなるガスハイドレート率の測定装置に係る系統図である。
【図9】従来のガスハイドレート率の測定装置である。
【符号の説明】
【0041】
1 容器
2 ピストン
3 ボール弁
4 ガスハイドレート生成容器
5 第1空間部
6 第2空間部
7 ロッド
8 三方弁
9 排水弁
10 定圧調整弁
11 圧力計
12 減圧弁
13 ガス流量計
14 第1弁
15 第2弁
16 保温ジャケット
17 試料
18 未反応の原料ガス
19 ガスハイドレートの分解により生じた原料ガス
20 残留水
21 排水
22 試料検知部
23 バッファー部
24 加熱・冷却ジャケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスハイドレートと付着水とからなる試料中のガスハイドレート率の測定方法であって、
内容積が拡縮可能に構成された円筒容器内を前記ガスハイドレートの生成圧力及び生成温度に保持した後、前記円筒容器内に前記試料を導入し、次いで前記円筒容器の内容積を縮小して該円筒容器内のガスを放出した後、前記円筒容器内の圧力を前記生成圧力未満に減圧して前記ガスハイドレートを原料ガスと原料水とに分解し、前記原料ガスの体積と、前記原料水と前記付着水との体積と、から前記ガスハイドレート率を求めることを特徴とするガスハイドレート率の測定方法。
【請求項2】
前記円筒容器内の圧力を前記生成圧力未満に減圧すると同時に、該円筒容器内の温度を前記生成温度超に昇温して、前記ガスハイドレートを原料ガスと原料水とに分解する請求項1に記載のガスハイドレート率の測定方法。
【請求項3】
保温ジャケットを備えた円筒容器内にピストンを摺動自在に挿設し、前記円筒容器上部に接続された2方向の切替手段の一方に圧力調整弁を接続し、他方にガス流量計を接続してなるガスハイドレート率の測定装置。
【請求項4】
前記円筒容器上部と前記切替手段との間に、試料検知部とバッファー部とを順に接続した請求項3に記載のガスハイドレート率の測定装置。
【請求項5】
前記試料検知部が、赤外線式センサー又はサイトグラスである請求項4に記載のガスハイドレート率の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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