説明

ガス保安訓練システム

【課題】種々の模擬ガス事故に対するガス保安訓練が実際の現場に近い環境下で効果的に実施できるシステムを提供する。
【解決手段】遠隔制御可能なガス設備を設置した模擬空間10において、想定されるガス事故を再現するための複数の訓練制御パターンに基づいてガス設備22を制御し、所定の訓練制御パターンに基づいて模擬空間10内に再現されたガス事故に対処する訓練者の行動を処置情報として記録するとともに、訓練者の行動を遠隔監視するガス保安訓練システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模擬的なガス事故の再現を通じて保安要員の訓練を支援するガス保安訓練システムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータシミュレーションを用いて、モニタ画面との対話を通じて訓練を行うタイプの訓練システムとして、特許文献1には、使用者に対して保安作業手順に関する訓練をコンピュータ処理により実行する保安作業訓練システムが記載されている。このシステムでは、訓練システムの使用者は、現場画面表示部が現場画面表示領域に表示した現場画面によって、保安作業現場を疑似体験できるとともに、訓練者である使用者の意思によって、現場画面の表示領域を変更しながら保安作業現場を移動して、現場画面内に表示されている作業個所を選択することで、訓練シナリオで予定されている一連の保安作業における個別作業を、使用者の意思によって選択された順序で各別に実行することができる。また、作業内容記録部が使用者の意思によって選択された順序で各別に実行される作業内容入力を受け付けて記録することにより、作業内容評価部が、作業内容入力により特定される順序で実行された各個別作業の作業内容を、訓練シナリオの各個別作業の内容と比較して評価することができる。しかしながら、モニタ画面を通じての訓練では体を動かさないために臨場感が不十分となり、いわゆる体で覚えるといった訓練成果が得られない。このことは、実際には大きな緊張のもとでの迅速で冷静な行動が必要とされるガス漏れや火災に対する防災訓練には、特に問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006‐139163号公報(段落番号〔0009−0026〕、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガス保安訓練において、モニタ上という制限があるが種々の事故を再現することで種々の事故に対する処置方法を会得することができるコンピュータシミュレーションでの利点と、特定の条件下であるという制限があるが特定の事故に対する処置を会得することができる実際の事故現場の立会いでの利点とを調和させた、効果的なガス保安訓練システムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるガス保安訓練システムの特徴は、遠隔制御可能なガス設備を設置した模擬空間と、想定されるガス事故を前記模擬空間において再現するための複数の訓練制御パターンを格納した訓練制御データベースと、前記訓練制御データベースから抽出した訓練制御パターンに基づいて前記ガス設備を制御する制御装置と、所定の訓練制御パターンに基づいて前記模擬空間に再現されたガス事故に対処する訓練者の行動を処置情報として記録する訓練記録データベースと、前記訓練者の行動を遠隔監視する監視装置とを備えている点にある。
【0006】
この構成によると、実際の訓練者が行動できるとともに、住居や店舗などのガス設備が設置される空間を模擬したリアルの模擬空間を作り、その中に遠隔制御可能なガス設備を設置しておく。このガス設備は制御装置によって遠隔制御可能であり、その訓練制御パターンは、想定されるガス事故を再現するように設定されており、複数の訓練制御パターンが訓練制御データベースに格納されている。これにより、訓練者は、模擬空間において任意のガス事故を再現する環境を体験することができ、そのガス事故において行わなければならない処置をリアルに体験学習することができる。さらに、再現されたガス事故における訓練者の処置行動が情報化されて訓練記録データベースに記録されるとともに、その訓練者の挙動が監視装置によって遠隔監視される。これにより、例えば、模擬空間から離れた場所の指令室において、訓練者に対する評価を実時間に及び訓練終了後に行うことができる。訓練制御パターンさえ準備すれば、実際に起こった事故のみならず、起こり得る事故も模擬的に作り出すことができ、それらを全て、実際の体の動きを使いながら体験できるので、良好な訓練効果が得られる。
【0007】
臨場感をもってガス事故を模擬空間内で実現するためには、ガス漏れ発生等の種々の事象を正確な時間経過で発生させる必要がある。また、訓練である以上、そのようなガス事故を再現する際に、実際の事象の発生時間から早めたり遅めたりする必要もある。そのような要望を満たして、より効果的な訓練を行うために、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記訓練制御パターンは、前記ガス設備を構成する要素機器に対する時系列的に実行される制御指令が含まれており、前記制御指令の実行時間が変更可能であり、複数の時系列的に実行される制御指令によってガス事故が再現されるように構成されている。
【0008】
ガス事故における重要な事象、つまりガス保安訓練で重要視しなければならない事象は、ガスの発生であり、発生したガスの溜まり分布である。従って、このような状況を模擬空間内で模擬的に再現するには模擬空間内に張りめぐらされたガス配管から自在にガスを適時適量に放出する必要がある。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記要素機器には模擬空間内に配置されたガス配管からガスを模擬空間に放出する遠隔操作弁が含まれている。これにより、最適なガスの溜まり分布が作り出され、効果的な訓練が実現する。
【0009】
本発明によるガス保安訓練システムの簡素であっても効果的な形態の1つとして、前記処置情報を訓練者の行動のテレビカメラ画像とし、前記訓練記録データベースを前記テレビカメラ画像の録画ファイルを格納するように構成することが提案される。このシステムによれば、種々のガス事故が再現された模擬空間での訓練を行っている訓練者の様子がテレビカメラで撮影され、そのテレビカメラ画像が録画され、訓練記録データベースに格納される。これにより、特定の訓練の様子をいつでもモニタ画面を通じて確認し、学習することができ、訓練効果がさらに高まる。また、訓練の様子を撮影したテレビカメラ画像を録画して格納する記録システムは、比較的安価に構築することができるのでコスト的にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明によるガス保安訓練システムの概略を示す模式図である。
【図2】店舗及び住居として作られている模擬空間の平面図である。
【図3】ガス保安訓練システムの一例を示す機能ブロック図である。
【図4】訓練制御パターンを規定するガス漏れシナリオの一例を示すリスト図である。
【図5】訓練制御パターンの登録編集画面を示す表示画面図である。
【図6】ガス保安訓練システムの別な実施形態の一例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明によるガス保安訓練システムの概略を示す模式図である。ここでの模擬空間10は、訓練施設ビルの複数階に間取られた店舗と住居として形成されており、その特定階における店舗と住居の配置が図2に示されている。店舗区域11及び住居区域12にはガス配管2、3が施されており、ガス配管2、3の各支流管には開閉弁が設けられている。この実施の形態では、ガス配管2の支流管として、その末端が開口されている開口支流管21と、ガス配管3の支流管として、その末端にガスコンロや湯沸かし器などの末端機器23が接続されている機器支流管31とが用意されている。開口支流管21の末端開口は、周辺区域におけるガス漏れ事故などにおいてガスが滞留しやすい場所に配置されており、その末端開口から所定の量のガスを放出することにより、事故をシミュレーションするために要求されるガスをその場所に滞留させることができる。この開口支流管21には、開閉弁22として電磁弁のみが設けられているものや、開閉弁22の他に、ガスメーター及び手動操作できるメーターガス栓25が設けられているものがある。ガス配管2に供給されるガスは、無害にもかかわらず、臭いが本物のガスに似たものである。また、ガス配管3には13Aガスが供給され、その終端付近には開閉弁32として電磁弁と末端機器23が接続されている。このように13Aガスが供給される機器支流管31を付加的に設けることは、店舗や住居での実際のガス配管状態をより正確に再現するために好都合である。この機器支流管31と末端機器23は、ガス保安訓練においては、ガス漏れを解消した後の点火試験を行うために用いることができる。
【0012】
なお、ガス配管2に供給される無害にもかかわらず、臭いが本物のガスに似たガスの一例は、13Aガスを十分の1に希釈した上で、付臭剤を13Aガスの臭いになる程度だけ添加したものである。そのようなガスの成分として、ヘリウム35%、窒素55%、13Aガス10%が好適であり、それに適当な付臭剤を添加する。このようなガスでガス漏れ訓練を行う場合、用いられている13Aガスのためのガス検知器の検知感度を10倍にしておくと、13Aガスに対するのと同様な検知性能となるので好都合である。
【0013】
このようなガス配管により、各模擬空間10は、ガス漏れ事故、配管割れなどからのガス漏れによるガス溜まり事故などを忠実に再現することができる。また、各末端機器23の操作つまみやメーターガス栓などの操作状況を検出することができる操作検出センサ24も接続されており、訓練者が保安のために操作つまみやメーターガス栓25などを正しく操作しているかどうかも遠隔からチェックできるように構成されている。なお、本発明では、ガス配管2、3、支流管21、31、開閉弁22、25、32、末端機器23などを総称してガス設備と表現しており、少なくとも開閉弁22、32としての電磁弁は遠隔制御可能である。また、同一店舗区域11、同一住居12内のメーターガス栓25と開閉弁32としての電磁弁とは連動させることも可能であり、訓練者がメーターガス栓25を開操作するとガスコンロ等末端機器23の開閉弁32が連動して開弁され、点火試験をスムーズに行うことができる。
【0014】
ガス保安訓練システムにおける制御の中核要素となる、ガス保安訓練制御装置5は、同じ訓練施設ビルの一角に割り当てられた訓練指令室に設置されている。模擬空間10には、ガス保安訓練制御装置5に接続されているテレビカメラ81とスピーカ82が配置されている。訓練指令室に待機している指導員はテレビカメラ81によって取得された撮影画像を見ながら、訓練者の挙動を監視するとともに、必要に応じて訓練者に対してスピーカ82を通じて音声指示を行うことができる。テレビカメラ81とその撮影画像を表示するモニタ84は、訓練者の行動を遠隔監視する監視装置として機能する。
【0015】
実際の訓練にあたっては、訓練のために適用された訓練制御パターンに記述された制御内容を読み取って、その制御内容通りに電磁弁22、32や末端機器23や警報器を制御するための時系列的に展開される制御指令が生成され、適時に出力される。適用された訓練制御パターンによるガス事故のシナリオ通りに事象が発生し、その発生事象に対して訓練者が行った処置内容がガス保安訓練制御装置5内で処置情報化(電子カルテ化)され、訓練記録として保管される。
【0016】
訓練に適用される訓練制御パターンは多数用意されており、それぞれ事故シナリオが異なるが、訓練においては、訓練者の熟練度に応じて一部のシナリオを変更して実施したいケースが少なくない。このため、予め用意されている訓練制御パターンの一部を変更して、その変更された訓練制御パターンに基づいて制御指令を出力するマニュアル制御指令機能も備えられている。この訓練制御パターンの変更においては、より訓練が効果的なものとなるように、訓練者の過去の処置情報に基づいてシナリオが変更されると好都合である。また、このマニュアル制御指令機能を通じて、訓練中においても、訓練者の訓練状態に応じて、リアルタイムでシナリオの変更(ガス漏れ箇所の増減等)を行うことも可能である。これにより、訓練者の習熟度に適合した訓練の実施が実現する。
【0017】
次に、図3に示された機能ブロック図を用いて、本発明のガス保安訓練システムを構成するガス保安訓練制御装置の一例を説明する。この制御装置は、実質的にはテレビカメラ81、スピーカ82、マイク83、モニタ84、キーボード85、マウス86などの外部入出力機器と接続されたコンピュータであり、図3で示された機能及びその他の種々の機能はソフトウエア又はハードウエアあるいはその両方によって実現する。本発明に関する機能としては、ガス設備制御部50、ハードディスクや半導体メモリなどの記録部6内に構築される訓練制御データベース61及び訓練記録データベース62、処置情報生成部71、ビデオ処理部72、音声処理部73が挙げられる。なお、ここではモニタ84として、テレビカメラ81による撮影画像を表示する訓練状況確認用モニタ84aと、訓練制御パターンの設定等を行うために制御操作用モニタ84bが備えられている。この制御操作用モニタ84bは、警報器の発報、各電磁弁やガス栓の開閉を表示することもできる。もちろん、同じモニタで画面を切り替えることで訓練状況確認用モニタ84aまたは制御操作用モニタ84bとして兼用使用することも可能である。また、制御操作用モニタ84bでも、テレビカメラ81による撮影画像を表示させる構成を採用してもよい。この図3の例では、制御操作用モニタ84bは、ガス設備制御部50と処置情報生成部71とに接続されているが、どちらかに接続するだけでもよいし、その他の機能要素部に接続してもよい。この制御装置を構成する各機能要素部はLANによって接続されているので、訓練状況確認用モニタ84aや制御操作用モニタ84bなども任意の位置に任意の台数だけ設置することができる。
【0018】
訓練制御データベース61は、想定されるガス事故を模擬空間10において再現するためのシナリオを時系列的なガス設備に対する制御情報で記述した訓練制御パターンを多数格納している。この実施形態では、訓練制御パターンには模擬ガス事故の基本情報と、そのシナリオとしての時系列情報が含まれている。
【0019】
訓練制御パターンの基本情報が図5に模式的に例示されている。この例示されたガス事故のための訓練制御パターンには、ガス事故(ここではガス漏洩)通報者(ガス警報器も含む)、通報されたガス事故情報、ガス漏れ箇所、ガスが滞留する箇所、遠隔操作されるガス設備(ここでは電磁弁22)の指定などが含まれている。例えば、No.1の訓練制
御パターンは、
(1)101号住居の台所の警報器によってガス漏れ検知され、
(2)ガス漏れ原因は、階段ピット内での50A共有管の腐食であり、
(3)ガス漏れ(ガス滞留)が検出されるべき箇所は、当該住居の台所床下点検口、押入床点検口、シンク下収納庫であり、
(4)この模擬ガス事故を再現するために操作される電磁弁番号が1、2、8・・・である、
という内容となっている。
【0020】
図5には、特定の訓練制御パターンの時系列情報がこの時系列情報を編集するための編集画面での表示形態として例示されている。この図5から、時系列情報には、シナリオに合わせた、制御対象となる各電磁弁22の開放時刻、閉鎖時刻などが含まれている。従って、この各電磁弁22の開放時刻、閉鎖時刻をシナリオに合致するように設定入力することで、各電磁弁22は、シナリオ通りに時系列に制御され、所望のガス事故が模擬的に作り出される。また、ガス漏れ警報もシナリオの内容に含めることができるように、その報知時刻の設定が可能である。なお、この図5の編集画面は訓練中のガス事故内容を確認する目的にも利用できるように構成されており、例えば、訓練者に要求される操作内容をチェックするために、この訓練制御パターンにおいて、操作されるメーターガス栓25に対するチェック欄も設けられている。
【0021】
この実施形態では、記録部6内に構築されているもう一つのデータベースである訓練記録データベース62は、この施設で実施されたガス保安訓練における結果としての処置情報を、訓練者及び訓練制御パターンに分けて格納されている。処置情報として、訓練者に要求される操作や挙動の達成度やその訓練中の撮影されたビデオ画像などが含まれている。この処置情報は処置情報生成部71を通じて作成され、訓練記録データベース62に格納される。処置情報生成部71には、ビデオ処理部72で処理された訓練状況を撮影したビデオ画像情報、音声によって行われた訓練時の指導内容、さらに指導員によって作成された訓練評価情報などが入力される。なお、ビデオ処理部72は、複数台のテレビカメラ81から送られてくるビデオ画像情報をモニタ84や処置情報生成部71に振り分ける機能を有し、必要な場合にはビデオフォーマット(画面サイズ等)変換機能を付加することも可能であるが、単にビデオセレクタとして構成してもよい。あるいは、ビデオ処理部72に要求される機能を処置情報生成部71に組み込むことで、このビデオ処理部72を省略してもよい。なお、この実施形態では、モニタ84として訓練状況確認用モニタ84aと、制御操作用モニタ84bとが備えられていたが、訓練状況確認用モニタ84aを省略して制御操作用モニタ84bを訓練状況確認用モニタとしても利用可能なように、制御操作用モニタ84bにテレビカメラ81によるリアルタイムのビデオ画像情報または録画したビデオ画像情報を表示するように構成してもよい。なお、ビデオ画像情報にはビデオ画像だけでなくその撮影日時や撮影場所も含まれている。
【0022】
ガス設備制御部50は、店舗や住居の形態に構築された模擬空間に設置されたガス配管2に設けられた多数の電磁弁22を、ガス設備制御ドライバ80を介して時系列的に開閉制御して、所定のシナリオに沿った模擬的なガス事故を作り出す。ガス設備制御部50には、制御指令生成部51、シナリオ評価部52、時系列処理部53、訓練情報評価部54が含まれている。シナリオ評価部52は、訓練制御データベース61に格納されている訓練制御パターンを抽出して、当該訓練制御パターンに含まれている特定のガス事故を再現するための制御内容、つまりガス事故シナリオを読み出す。抽出された訓練制御パターンに含まれている内容は、図4、図5に例示されているように、モニタ84に表示される。表示された内容の少なくとも一部は、マニュアル制御指令部70を通じてのキーボード85やマウス86による操作入力で追加、修正などの編集が可能である。
【0023】
時系列処理部53は、抽出された訓練制御パターンに含まれる時系列情報つまりタイムラインを処理して、例えば各電磁弁22の開閉操作の訓練開始点を基準とする操作タイミングを算定する。訓練情報評価部54は付加的な機能であり、このガス保安訓練を行う訓練者の過去の訓練情報が訓練記録データベース62に格納されていれば、その訓練情報を評価して、今回の採用した訓練制御パターンに対する修正や追加を促す。また、そのような過去の訓練情報に基づいて、今回実施する訓練制御パターンを決定するための支援機能として動作するように構成してもよい。
【0024】
制御指令生成部51は、シナリオ評価部52から電磁弁22などの開閉制御情報、時系列処理部53からは算定された操作タイミングを受け取って、制御指令(制御信号)を生成し、適時にガス設備制御ドライバ80に出力する。また、訓練情報評価部54によって評価された訓練者の過去訓練情報があれば、これを参照しながら、指導員がマニュアル制御指令部70を通じて、訓練制御パターン、つまり訓練シナリオを図5に示すようなグラフィックインタフェースを通じて編集する機能も有する。また、マニュアル制御指令部70は指導員によって新規な訓練制御パターンを作成する機能も有する。つまり、指導者による新規な訓練制御パターンの入力を可能にする訓練制御パターン入力部としても機能する。
【0025】
上述したように構成されたガス保安訓練システムにおいて、所定の訓練制御パターン(所定ガス事故のシナリオ)に基づくガス保安訓練がスタートすると、ガス漏洩報知が模擬通報やガス漏れ警報器を通じて行われる。それと同時に訓練者は、保安訓練対象となっている模擬空間10としての住居や店舗に向かう。模擬空間10に設置されているガス配管2に装着されている電磁弁22が操作され、シナリオ通りのガス漏れが引き起こされる。訓練者は、ガス保安マニュアルに基づいて順次危険なガス漏れ箇所の発見と処置、メーターガス栓やサービスバルブ等の開放された開閉栓の閉止、滞留ガスの除去または封鎖を行っていく。その模様は訓練指令室で指導員に監視され、必要に応じて音声指示が与えられる。訓練結果は、情報化されて訓練記録データベース62に記録される。
【0026】
訓練途中においても、訓練状況を監視している指導員が実行中の訓練制御パターンを修正した方がよいと判断した場合は、マニュアル制御指令部70による訓練制御パターンの修正機能を用いて、訓練中の事故シナリオを変更することも可能である。
【0027】
本発明の重要な点は、直接訓練者がリアルに行動できる模擬空間を構築し、その模擬空間にガス配管を設置して、ガス事故を再現できるように、模擬空間の所定の箇所から所定の時間に所定量でガスが放出される構成を採用していることである。想定できる種々のガス事故をシナリオ化した訓練制御パターンを予め作成して格納しておくことで、所望のガス事故に対する訓練の実施が可能となる。
【0028】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施の形態では、支流管として、開口支流管21と機器支流管31とが用意されていたが、開口支流管21だけを用意するだけでもよい。事故シナリオに沿って、開口支流管21の末端開口から適切にガスを出すことでガス事故を再現することができるからである。
(2)上述した実施の形態では、機器支流管31にガス配管3から13Aガスを供給していたが、開口支流管21と同じようにガス配管2から無害で臭いが本物のガスに似たものを供給してもよい。事故シナリオに沿って、機器支流管31のガス機器からも適切にガスを出すことでガス事故を再現することができるからである。
(3)上記した実施の形態では、模擬空間として、取り扱うガスとして都市ガスを想定した住居や店舗を取り上げたが、その他の有毒ガスや爆発性ガスを取り扱う工場などを模擬空間としてもよい。
【0029】
(4)上述した実施の形態では、処置情報生成部71で生成される処置情報には、訓練者に要求される操作、各末端機器23の操作つまみやメーターガス栓などの操作状況を検出することができる操作検出センサ24の検出結果、訓練者挙動の達成度、その訓練中の撮影されたビデオ画像、指導員による指導音声などを含ませることが可能で、この処置情報が訓練記録データベース62訓練者及び訓練制御パターンに分けて格納されていた。しかしながら、この処置情報を簡素化することも可能であり、そのような別実施形態の機能ブロック図が図6に示されている。この別実施形態では、処置情報は訓練者の行動のテレビカメラ画像であり、処置情報生成部71は、テレビカメラ81から送られてくるテレビカメラ画像を録画して、ファイル化する録画ファイル処理部として構成されている。従って、訓練記録データベース62は、録画ファイル処理部としての処置情報生成部71によって生成された録画ファイルを格納する画像サーバとして機能する。また、テレビカメラ81に内蔵されるか、あるいは個別に設けられた録音マイク73aによって、訓練空間での音声が取得できる場合は、この音声もテレビカメラ画像に組み込まれて処理される。なお、この別実施形態では、ビデオ処理部72が省略されており、処置情報生成部71に接続された訓練状況確認用モニタ84aにテレビカメラ81によるリアルタイムのビデオ画像または録画したビデオ画像が録画ファイル処理部71を通じて表示される。なお、ビデオ画像情報にはビデオ画像だけでなくその撮影日時や撮影場所も含まれている。
このようなシステムによれば、種々のガス事故が再現された模擬空間での訓練を行っている訓練者の様子がテレビカメラ81で撮影され、そのテレビカメラ画像が録画され、訓練記録データベースに格納されることにより、特定の訓練の様子をいつでもモニタ画面を通じて確認し、学習することができる。
(5)上述した実施の形態では、処置情報生成部71は訓練記録データベース62とは別に設けられていたが、訓練記録データベース62であるサーバがその機能を有していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、都市ガスのみならず、有害ガスや爆発性ガスを取り扱っている種々の施設で保安活動を行っている作業者のための保安訓練施設のために適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
10:模擬空間
2、3:ガス配管
21:開口支流管
31:機器支流管
22、32:電磁弁(遠隔操作弁、要素機器、ガス設備)
23:末端機器(要素機器、ガス設備)
50:ガス設備制御部
51:制御指令生成部
52:シナリオ評価部
53:時系列処理部
61:訓練制御データベース
62:訓練記録データベース
70:マニュアル制御指令部(訓練制御パターン入力部)
71:処置情報生成部(録画ファイル処理部)
81:カメラ(監視装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔制御可能なガス設備を設置した模擬空間と、想定されるガス事故を前記模擬空間において再現するための複数の訓練制御パターンを格納した訓練制御データベースと、前記訓練制御データベースから抽出した訓練制御パターンに基づいて前記ガス設備を制御する制御装置と、所定の訓練制御パターンに基づいて前記模擬空間に再現されたガス事故に対処する訓練者の行動を処置情報として記録する訓練記録データベースと、前記訓練者の行動を遠隔監視する監視装置とを備えたガス保安訓練システム。
【請求項2】
前記訓練制御パターンは、前記ガス設備を構成する要素機器に対する時系列的に実行される制御指令が含まれており、前記制御指令の実行時間が変更可能であり、複数の時系列的に実行される制御指令によってガス事故が再現される請求項1に記載のガス保安訓練システム。
【請求項3】
前記要素機器には模擬空間内に配置されたガス配管からガスを模擬空間に放出する遠隔操作弁が含まれている請求項2に記載のガス保安訓練システム。
【請求項4】
前記訓練制御パターンに含まれている制御内容の一部を変更するマニュアル制御指令部が備えられている請求項1から3のいずれか一項に記載のガス保安訓練システム。
【請求項5】
前記マニュアル制御指令部は、新規の訓練制御パターンを生成する訓練制御パターン入力部として機能可能である請求項4に記載のガス保安訓練システム。
【請求項6】
前記処置情報が訓練者の行動のテレビカメラ画像であり、前記訓練記録データベースは前記テレビカメラ画像の録画ファイルを格納する請求項1から5のいずれか一項に記載のガス保安訓練システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−215820(P2012−215820A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214972(P2011−214972)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)