説明

ガス拡散撥水層および膜電極接合体

【課題】 導電性および撥水性に優れたガス拡散撥水層と、発電特性に優れたMEAとを提供する。
【解決手段】 ガス拡散撥水層10,12は、炭素微粒子32と、シリカ撥水剤34とを含むことから、シリカ撥水剤34による撥水性と炭素微粒子32による導電性とが共に得られるので、撥水性および導電性に優れたガス拡散撥水層10,12が得られる。このとき、ガス拡散撥水層10,12にはシリカ撥水剤34によって撥水性が与えられることから、高温の熱処理が必要で製造コストも不利な弗素樹脂系撥水剤を用いる必要がない。そのため、高分子固体電解質から成る電解質膜16の耐熱温度よりも十分に低い低温でガス拡散撥水層10,12を形成することができる。この結果、発電性能に優れたMEA14が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に好適な通気性と撥水性とを兼ね備えたガス拡散撥水層と、これを備えた膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料として水素、メタノール、化石燃料からの改質水素等の還元剤を用い、空気や酸素を酸化剤として水素、メタノール、化石燃料からの改質水素等の還元剤を用い、空気や酸素を酸化剤として、電池内で燃料を電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換して取り出すものである。そのため、内燃機関に比較して効率が高く、静粛性に優れると共に、大気汚染の原因となるNOx、SOx、粒子状物質(PM)等の排出量が少ないことから、近年、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。例えば、自動車用エンジンの代替、住宅用等の分散型電源や熱電供給システムとしての利用が期待されている。
【0003】
このような燃料電池は、用いる電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形、固体高分子形等に分類される。これらのうちプロトン伝導性の電解質を用いるリン酸形および固体高分子形は、熱力学におけるカルノーサイクルの制限を受けることなく高い効率で運転できるものであり、その理論効率は、25(℃)において83(%)にも達する。特に、固体高分子形燃料電池は、近年電解質膜や触媒技術の発展により性能の向上が著しくなり、低公害自動車用電源や高効率発電方法として注目を集めている。
【0004】
ところで、固体高分子形燃料電池は、一般に、薄い高分子電解質層の両面を一対のガス拡散電極で挟んだ構造を備えるものであり、通常は、このような膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:以下、MEA)をセパレータを介して積層したスタック構造で用いられる。ガス拡散電極は、貴金属系触媒を担持したカーボン粉末等を主成分とする触媒層と、ガス拡散撥水層すなわちマイクロポーラスレイヤー(MPL)と、ガス拡散電極基材とから構成されており、MEAはその触媒層が内側になるように積層される。
【0005】
上記ガス拡散撥水層には、触媒層および電解質層表面に燃料ガスや空気を導くために高いガス拡散性能を有することや、発生した電流を取り出すために高い導電性を有することが要求される。また、加湿燃料中の水蒸気や反応により発生した水によるガス流路の閉塞を抑制するために優れた撥水性や排水性を有することも要求される。そのため、ガス拡散撥水層は、一般に、導電性のカーボンに撥水材料として弗素樹脂を添加すると共に、ガス透過および排水通路を確保するための多孔構造に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−202970号公報
【特許文献2】特開2002−289200号公報
【特許文献3】特開2003−208904号公報
【特許文献4】特開2006−120506号公報
【特許文献5】特開2006−294559号公報
【特許文献6】特開2007−214019号公報
【特許文献7】特開2008−117563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようなガス拡散撥水層の特性を実現するための構成として、例えば、触媒、含弗素イオン交換樹脂、および平均粒子径が10〜100(nm)のゾル粒子を含むゾル等を溶媒中に分散或いは溶解した粘性混合物を、固体高分子電解質膜に塗布するか、カーボンペーパー等のシート状基材に塗布してこれを電解質膜に転写または接合したガス拡散電極がある(例えば前記特許文献1を参照。)。このようなガス拡散電極は、平均細孔径が0.1〜10(μm)、細孔容積が0.1〜1.5(cm3/g)になるので、ガス拡散性・導電性・撥水性等に優れていることが示されている。なお、この構成では、粘性混合物から形成される膜が触媒層およびガス拡散撥水層を兼ねている。
【0008】
また、弗素樹脂で撥水処理を施したカーボンペーパーでガス拡散層を構成すると共に、触媒層またはガス拡散層の微細孔内部に保湿性を有する金属酸化物を分散させるものがある(例えば前記特許文献2を参照。)。このようなガス拡散層によれば、金属酸化物の保湿性に基づき、電極の調湿性能を容易に制御できる。また、相対圧0.4における比表面積当たりの吸着水分量が3.0×10-3〜9.0×10-3(mg/m2)であるカーボンブラックを弗素樹脂等の撥水性物質で表面処理し、これをバインダーと配合して多孔質材料に含浸したガス拡散層がある(例えば前記特許文献3を参照。)。このようなガス拡散層によれば、上記のような物性を備えたカーボンブラックが用いられていることから、撥水性と導電性とを兼ね備えたガス拡散層が得られることが示されている。
【0009】
また、電子伝導性物質、撥水性樹脂、および造孔剤の混合物から成る細孔径が0.1〜10(μm)で細孔容積が0.1〜0.2(μl/cm2)の微多孔層を触媒層とガス拡散層との間に設けて、ガス拡散性およびガス透過性を改善することが提案されている(例えば前記特許文献4を参照。)。電子伝導性物質としてはカーボンブラックが、撥水性樹脂としてはPTFE等の弗素樹脂が、造孔剤としては無機繊維や炭素繊維等が挙げられている。上記微多孔層はガス拡散層と合わせて実質的にガス拡散撥水層を成しているもので、造孔剤は細孔径および細孔容積を上記範囲に制御する目的で混合されている。
【0010】
また、導電性フィラー、弗素系樹脂、繊維状フィラー、焼成によって熱分解する造孔剤粒子を混合した撥水ペーストを、カーボンペーパー等の基材に塗布し、乾燥・焼成処理を施したガス拡散層が提案されている(例えば前記特許文献5を参照。)。導電性フィラーとしてはカーボンブラックが、繊維状フィラーとしてはカーボンナノチューブや炭素繊維等が挙げられている。このようなガス拡散層によれば、造孔剤粒子が配合されることによって透気度が改善され、触媒層に均一にガスを供給できる等により、電池性能が向上する利点があるものとされている。
【0011】
また、比表面積が130(m2/g)以下のカーボンブラックと、撥水剤と、カーボン短繊維と、これらを担持する多孔質のカーボン基材とを備えたガス拡散層が提案されている(例えば前記特許文献6を参照。)。上記撥水剤としてはPTFEが挙げられている。このようなガス拡散層によれば、カーボンブラックの比表面積が十分に小さいことから水との接触面積が減じられるので、吸水しにくくなり延いては排水性が高められるため、出力電圧が高くなる利点があるものとされている。
【0012】
また、粒子状導電性フィラーと弗素系樹脂分散液と繊維状フィラーとを含む撥水ペーストをカーボンペーパー等の基材に塗布して焼成して形成される撥水層が提案されている(例えば前記特許文献7を参照。)。上記粒子状導電性フィラーとしてはカーボンブラック等が、繊維状フィラーとしては針状酸化チタンや酸化亜鉛ウィスカー等が挙げられている。このような撥水層によれば、繊維状フィラーの絡み合いなどによって空間が形成され延いては気孔率が大きくなることから、ガス拡散性および撥水性が高いため、優れた電力特性を示すことになるものとされている。
【0013】
上記特許文献1〜7に示されるように、従来からガス拡散撥水層の構成や製造方法について種々の提案が為されているが、何れも撥水材料として弗素樹脂を用いるか、弗素樹脂が撥水効果の面で特に好ましいとしている。しかしながら、弗素樹脂を撥水剤として用いる場合には、350(℃)程度の高温処理工程を経てこれを溶着することが必要である。そのため、溶着した弗素樹脂によってガス透過性が低下すると共に製造コストが高くなり、更に、電解質層は耐熱性が低いことからMEAの連続製造が不可能になる問題がある。因みに、高分子電解質の耐熱温度は例えば130(℃)程度であり、弗素樹脂の上記熱処理温度はこれを遙かに超えているから、各層を連続的に積層・接合してMEAを製造しようとしても、電解質膜の接合後には弗素樹脂の処理温度に曝すことができなくなる。
【0014】
また、近年、弗素および一部の弗素化合物は環境配慮の観点から規制対象となっている。例えば、環境基本法第16条に基づく環境省告示「水質汚濁に係る環境基準」では、1999年2月の改訂において「人の健康の保護に関する環境基準」別表1の項目に弗素、硼素、硝酸性窒素および亜硝酸窒素が追加された。その後、水質汚濁防止法においても、2001年7月の改正で排水基準に弗素およびその化合物、硼素およびその化合物、アンモニア、アンモニア化合物、亜硝酸化合物および硝酸化合物が追加され、排出規制の対象物質になっている(水質汚濁防止法第2条第2項第1号、同法第3条第1項、水質汚濁防止法施行令第2条、排水基準を定める省令第1項)。
【0015】
また、大気汚染防止法では、煤煙、揮発性有機化合物、粉塵、有害大気汚染物質、自動車排出ガスの5種類を規制しているが、これらのうち煤煙は、「物の燃焼、合成、分解その他の処理に伴い発生する物質のうち、カドミウム及びその化合物、塩素及び塩化水素、弗素、弗化水素及び弗化珪素、鉛及びその化合物、窒素酸化物」等と定められている(大気汚染防止法第2条第1項第3号、大気汚染防止法施行令第1条)。すなわち、弗素および弗素化合物は排出規制の対象物質である。これら水質および大気に係る規制は、全ての弗素樹脂に当てはまるものではないが、製造、使用、廃棄の過程において弗素或いは有害な弗素化合物が生成する可能性を考慮して使用を避けるべきとの要求がある。
【0016】
また、今後の燃料電池の普及のためには初期費用をどれだけ下げられるかが重要な問題である。そのため、全ての材料や製造工程に低コスト化が求められているが、弗素樹脂は燃料電池材料の中では高価な材料であるから、これに代わる安価な撥水材料が望まれている。
【0017】
また、弗素樹脂で撥水膜を構成した燃料電池では、使用中に酸化性の強い弗素ガスが発生し、燃料電池システムを構成する周辺材料や周辺機器がその弗素ガスで腐食させられる懸念がある。そのため、弗素を含む物質の使用を避けたいとの要望が非常に強い。このように、製造コスト・特性・環境配慮等、種々の観点から弗素系材料の使用を避けることが望まれるが、弗素系材料以外の撥水材料を用い且つ十分な特性を有するガス拡散撥水層は未だ知られていない。
【0018】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、導電性および撥水性に優れ且つ低温で形成可能なガス拡散撥水層と、発電性能に優れたMEAとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
斯かる目的を達成するため、第1発明のガス拡散撥水層の要旨とするところは、固体高分子形燃料電池を構成するために触媒層とガス拡散電極基材との間に設けられるガス拡散撥水層であって、導電性炭素微粒子と、撥水性を付与するためのシリカ粒子とを含むことにある。
【0020】
また、第2発明の膜電極接合体の要旨とするところは、固体高分子電解質層の両面の各々に触媒層とガス拡散撥水層とガス拡散電極基材とが順次に積層された膜電極接合体であって、前記両面のうち少なくとも一方のガス拡散撥水層が前記第1発明のガス拡散撥水層で構成されたことにある。
【発明の効果】
【0021】
前記第1発明によれば、ガス拡散撥水層は、導電性炭素微粒子と、撥水性を付与するためのシリカ粒子とを含むことから、シリカ粒子による撥水性と導電性炭素微粒子による導電性とが共に得られるので、撥水性および導電性に優れたガス拡散撥水層が得られる。このとき、ガス拡散撥水層にはシリカ粒子によって撥水性が与えられていることから、高温の熱処理が必要で製造コストも不利な弗素樹脂系撥水剤を用いる必要がない。そのため、高分子固体電解質の耐熱温度よりも十分に低い低温でガス拡散撥水層を形成することができる。シリカ粒子を含む撥水膜は、そのシリカ粒子によって表面に形成される微細な凹凸により撥水性を有するため、弗素樹脂系撥水剤などを用いることなく高い撥水性が得られるものと考えられる。
【0022】
また、前記第2発明によれば、MEAに備えられた一対のガス拡散撥水層の少なくとも一方が、前記第1発明のガス拡散撥水層で構成されることから、高い導電性および撥水性を有するので、発電性能に優れたMEAが得られる。
【0023】
因みに、従来のガス拡散撥水層には、撥水性を高める目的で前述したように弗素系樹脂が用いられているが、弗素樹脂は水よりも表面張力が著しく小さいことから、弗素樹脂膜を表面に設ければその表面張力の差が大きくなって高い撥水性が得られるもので、接触角は110〜130°程度になる。一方、接触角が150°を超える超撥水性を有するものとして蓮の葉が知られているが、蓮の葉は表面が表面張力の小さいロウ状物質で覆われていると共に、フラクタル構造と称される極微細な凹凸が形成されているので高い撥水性を有する。したがって、無機微粒子等の非弗素系材料でガス拡散撥水層の表面に微細な凹凸を形成してその撥水性を高めれば、撥水性に優れ延いては発電性能に優れたMEAを低温処理で得ることができる。
【0024】
なお、弗素系樹脂を用いない撥水処理方法として、シランカップリング剤を用いるものが知られている。一般に、シランカップリング剤による撥水処理は、撥水性を与え或いは高めたい対象物を処理液に浸し、有機溶剤を除去することで疎水性を持たせるものであるが、導電性炭素粒子にこのような処理を施すと、その表面がシランカップリング剤で覆われることになるため、導電性が阻害される問題がある。本発明によれば、表面を疎水化したシリカ粒子が導電性炭素微粒子の表面等に点在してその表面に微細な凹凸を形成することから、前述したように撥水性に優れたガス拡散撥水層が得られる。しかも、弗素系樹脂を溶着させる場合のようなガス流通経路が閉塞され或いは導電性が阻害されることも抑制される。
【0025】
ここで、前記第1発明のガス拡散撥水層は、好適には、前記シリカ粒子を層内の固形分全体に対して1〜10(wt%)の範囲内の割合で含むものである。シリカ粒子が僅かでも含まれていれば撥水性の改善効果が認められるので、シリカ粒子量の範囲は特に限定されない。しかしながら、撥水性はシリカ粒子が多いほど高くなり、その反面でシリカ粒子が多いほど導電性が低下し延いてはMEAの発電性能が低下する。シリカ粒子量が1(wt%)未満では接触角が135°未満に留まる。また、シリカ粒子量が10(wt%)を超えるとガス拡散撥水層を備えたガス拡散電極の加圧抵抗が急激に上昇する。そのため、シリカ粒子は1〜10(wt%)の範囲内が好ましい。なお、接触角が135°未満に留まっても、要求される撥水性が比較的低い用途では十分な効果を享受できるので、例えば湿度30〜50(%)程度の低加湿条件で使用する場合にはシリカ粒子量が1(wt%)未満でも差し支えない。また、例えば運転温度90(℃)−湿度100(%)以上の高温条件のような特に高い撥水性が要求される用途では、加圧抵抗が高くとも十分な効果を享受できるので、シリカ粒子量が10(wt%)を越えても差し支えない。
【0026】
また、好適には、前記シリカ粒子は撥水処理が施されたものである。このようにすれば、シリカ粒子自体が有する撥水性が一層高められるので、一層撥水性に優れたガス拡散撥水層が得られる。
【0027】
また、好適には、上記撥水処理は前記シリカ粒子をシランカップリング剤で疎水化するものである。シリカ粒子に施される撥水処理は、従来から一般に用いられている弗素樹脂等で行うこともできるが、前述したような環境上の配慮等から弗素化合物を用いないことが望ましく、本発明によれば、前記の通り、弗素を用いなくとも撥水性および導電性の高いガス拡散撥水層が得られ、延いては撥水性、導電性、ガス拡散性の高いガス拡散電極を得ることができる。弗素を含まない撥水剤としてはロウが挙げられるが、耐熱性が低く撥水性も不十分であるから、シランカップリング剤が特に好適である。しかも、シランカップリング剤を用いれば、シリカ粒子および撥水被膜が共に珪素化合物であるので、それらの親和性が高く撥水処理が容易である。シランカップリング剤は、官能基および加水分解性基の異なる種々のものが知られているが、特に限定されず様々なものを用い得る。例えば、アミノプロピルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランが挙げられる。
【0028】
また、前記シリカ粒子の撥水処理は、シランカップリング剤を溶剤或いはこれに精製水を混合した液に加えて溶液或いは分散液に調製し、これにシリカ粒子を加えて、攪拌後、室温の自然乾燥或いは低温(例えば100(℃)以下)の熱風乾燥で有機溶剤を除去すること等で行うことができる。好適には、上記シリカ粒子はゾル(すなわちコロイド溶液)中の分散粒子である。すなわち、シリカゾル(コロイダルシリカともいう)を用いることができる。このようにすれば、粉体のままでは取扱いが困難な程度まで微細な粒径が1(μm)以下、例えば10〜100(nm)程度のシリカ粒子に容易に撥水処理を施して用いることができる。また、上記溶剤はシリカ粒子が好適に分散し且つ容易に除去できるものであれば特に限定されないが、例えば2−プロパノール等を好適に用い得る。また、攪拌条件は撥水剤や溶剤の種類に応じて適宜定められるが、例えばホットスターラを用いて300(rpm)、80(℃)で30分程度行われる。
【0029】
なお、前記シリカ粒子は、特に限定されず種々のものを用い得るが、例えば、10〜100(nm)の範囲内の粒径を有するものが好適である。また、前記炭素微粒子は、特に限定されず種々のものを用い得るが、例えば、20〜50(nm)程度の粒径を有するものが好適である。
【0030】
また、前記シリカ粒子の撥水処理は、シリカ粒子や撥水剤等を適宜の割合で混合することで調製されるが、好ましい混合割合の一例としては、例えば、ゾルをシリカ粒子の固形分換算で0.5〜10(重量%)の範囲内、例えば5(重量%)、撥水剤を0.5〜20(重量%)の範囲内、例えば5〜10(重量%)の範囲内、精製水を1〜10(重量%)の範囲内、例えば5(重量%)、有機溶媒(ゾルの分散媒を含む)を60〜98(重量%)の範囲内、例えば80〜85(重量%)の範囲内の割合が挙げられる。
【0031】
また、好適には、前記第1発明のガス拡散撥水層は、導電性炭素微粒子およびシリカ粒子を溶剤に分散してガス拡散撥水層ペーストを調製するペースト調製工程と、前記ガス拡散撥水層ペーストをガス拡散電極基材に塗布する塗布工程と、塗布したペーストに加熱処理を施して前記溶剤を除去する加熱工程とを、含む工程によって製造される。上記シリカ粒子は、前述した撥水処理を施したものを用いることが好ましい。
【0032】
また、好適には、前記ガス拡散電極基材は、表面の算術平均粗さRaが2〜50(μm)の範囲内である。このようにすれば、ガス拡散電極に積層される電解質膜の性能に影響を与えない範囲で表面が十分に粗いため、水が容易に転がる程度の高い撥水性が与えられ、高い排水性能を有するガス拡散電極が得られる。表面粗さが2(μm)以上であれば、ガス拡散電極基材の表面で水が転がる程度の撥水性が現れる。また、表面粗さが50(μm)以下であれば、電解質膜が破損し延いてはその性能が低下させられることがない。因みに、固体高分子形燃料電池を構成する電解質膜の厚さ寸法は、一般に20〜100(μm)程度の範囲内である。プロトンの移動抵抗を低くするためには電解質膜は薄い方がよいが、薄くなるほど膜に欠陥が生じ易くなるので、上記厚さ寸法の範囲が好ましい。ガス拡散電極基材の表面粗さは、電解質膜の膜厚の半分以下が好ましく、上記の通り通常用いられる膜厚が100(μm)程度以下であるから、表面粗さは50(μm)以下が好ましい。
【0033】
また、前記ガス拡散電極基材は、特に限定されず、固体高分子形燃料電池のガス拡散電極に一般に用いられている適宜のものを用い得るが、例えば、市販のカーボンペーパー、炭素繊維織物、或いは炭素繊維を樹脂炭化物で結着したもの等、炭素材料から成るものが好ましい。ガス拡散電極基材がこのような炭素繊維により構成される場合には、前記表面粗さは、その炭素繊維によって基材表面に形成される凹凸に基づくものである。
【0034】
また、上記の他、炭素繊維を炭素微粒子が相互間に介在させられた状態で樹脂で相互に結合したもの等もガス拡散電極基材に好適である。例えば、ガス拡散電極基材の膜厚に対する繊維長の比(=繊維長/膜厚)が0.1〜1の範囲内の多数の炭素繊維と、粒径がそれら炭素繊維の繊維径よりも小さい多数の炭素微粒子と、それら多数の炭素繊維を相互間にそれら多数の炭素微粒子が介在させられた状態で相互に接合する樹脂とを含むものが挙げられる。このようなガス拡散電極基材は、高いガス透過性を有すると共に、樹脂を炭化することなく高い導電性を有するため、本発明を適用してそのガス透過性および導電性を保ちながら撥水性を高めることにより、発電特性の優れたMEAを構成することができる。また、上記のように構成されることによって炭素繊維相互の絡み合いが生じ、前記のような好適な表面粗さが得られる。前記「炭素材料から成る」ガス拡散電極基材には、このような炭素繊維や炭素微粒子を接合するための樹脂が炭化されないまま残存するものも含まれ、主として炭素から成るものであれば足りる。
【0035】
なお、上記のガス拡散電極基材等において、前記炭素繊維は特に限定されず、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維等の適宜のものを用い得る。ポリアクリロニトリル系炭素繊維を用いた場合には、炭素繊維の強度が高いため機械的強度の特に高いガス拡散電極が得られる。また、ピッチ系炭素繊維を用いた場合には、電気伝導性の特に高いガス拡散電極が得られる。
【0036】
また、固体高分子形燃料電池には、燃料極側および空気極側のそれぞれにガス拡散電極が備えられるが、本発明のガス拡散撥水層は、それら燃料極側および空気極側の何れの電極にも適用され得る。但し、両極で同一構成の電極が設けられることが必須ではなく、所望する特性や製造上の都合等に応じて、適宜の電極構成を採用することができ、本発明が両極のうちの一方のみに適用されてもよい。
【0037】
また、本発明は、種々の固体高分子電解質が用いられた固体高分子形燃料電池に適用され、固体高分子電解質の材質は特に限定されない。例えば、イオン交換基(-SO3H基等)を有するモノマーの単独重合体または共重合体、イオン交換基を有するモノマーとそのモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、加水分解等の後処理によりイオン交換基に転換し得る官能基(すなわちイオン交換基の前駆的官能基)を有するモノマーの単独重合体、または共重合体(プロトン伝導性高分子前駆体)に同様な後処理を施したもの等が挙げられる。
【0038】
上記高分子電解質の具体例としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂等のパーフルオロ型のプロトン伝導性高分子、パーフルオロカーボンカルボン酸樹脂膜、スルホン酸型ポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)共重合体膜、スルホン酸型ポリ(トリフルオロスチレン)−グラフト−ETFE共重合体膜、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)スルホン酸膜、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(ATBS)膜、炭化水素系膜等が例示される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例のガス拡散撥水層を備えた平板型のMEAの断面構造を模式的に示す図である。
【図2】図1のガス拡散撥水層およびガス拡散電極基材の断面を模式的に示す図である。
【図3】図1のガス拡散電極の製造方法を説明する工程図である。
【図4】図1のガス拡散電極の加圧抵抗評価結果を示す図である。
【図5】図1のガス拡散電極のガス透過性評価結果を示す図である。
【図6】図1のガス拡散電極の発電性能評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0041】
図1は、本発明の一実施例のガス拡散撥水層10,12を備えた平板型のMEA14の断面構造を模式的に示す図で、MEA14は、薄い平板層状の電解質膜16が一対のガス拡散電極18,20で挟まれた構造を成している。ガス拡散電極18,20は、それぞれ電解質膜16側から触媒層22,24、前記ガス拡散撥水層10,12、ガス拡散電極基材26,28が積層されることにより構成されている。
【0042】
上記の電解質膜16は、例えばNafion(デュポン社の登録商標) DE520CS等のプロトン導電性電解質から成るもので、例えば20〜100(μm)の範囲内、例えば50(μm)程度の厚さ寸法を備えている。
【0043】
また、上記の触媒層22,24は、例えば球状の炭素粉末に白金等の触媒を担持させたPt担持カーボンブラックから成るものである。これは、例えば田中貴金属工業(株)から市販されているもの(例えばTEC10E50E等)を用い得る。触媒層22,24の厚さ寸法は、20〜100(μm)程度の範囲内、例えば50(μm)程度である。
【0044】
また、上記のガス拡散撥水層10,12は、高い導電性を有し且つその表面と裏面(すなわち触媒層22,24側の一面)との間で容易に気体が流通し得るように構成された多孔質層で、例えばそれぞれ20〜100(μm)程度の範囲内、例えば50(μm)程度の厚さ寸法を備えている。
【0045】
図2にガス拡散撥水層10およびガス拡散電極基材26の断面構造を模式的に示す。ガス拡散電極基材26は、例えば市販のカーボンペーパー(例えば東レ製TGP-H-060)から成る多孔質体で、多数の炭素繊維30が絡み合った構造を有している。また、ガス拡散撥水層10は、多数の炭素微粒子32から成る多孔質組織中にシリカ撥水剤34が点在したものである。このガス拡散撥水層10には、粒子を固着するための樹脂等は何ら含まれていない。そのため、炭素微粒子32,シリカ撥水剤34相互間には十分に大きな隙間が残されており、ガス拡散撥水層10は十分に高い通気性を有している。なお、図示は省略するが、ガス拡散撥水層12も上記ガス拡散撥水層10と同様に構成されている。
【0046】
また、上記の炭素微粒子32は、例えば20〜50(nm)程度の平均粒径を備えた導電性の微粉末で、多数個が凝集してクラスター構造を成している。また、上記のシリカ撥水剤34は、例えば10〜100(nm)の範囲内の粒径を有するシリカ微粒子36を、それぞれシランカップリング剤由来の撥水被膜38で被覆したものである。シランカップリング剤は親水基がシリカ微粒子36に結合することから、その疎水基が表面側に位置するので、撥水被膜38は高い撥水性を有する。シリカ微粒子36は、このような撥水被膜38が設けられることによって撥水性が高められている。ガス拡散撥水層10,12は、このように導電性の炭素微粒子32とシリカ撥水剤34とから構成されていることから、高い導電性と高い撥水性とを兼ね備えている。
【0047】
そのため、上記のようなガス拡散撥水層10,12を備えたガス拡散電極18,20は、優れた撥水性を有するので、加湿燃料中の水蒸気や使用中に生成された水がそれらガス拡散撥水層10,12を経由して容易に排出される。
【0048】
上記ガス拡散電極18,20は、例えば図3に示す工程に従い、シリカ撥水剤34の作製およびこれを用いたガス拡散撥水層10,12の作製を経て製造される。図3において、まず、撹拌工程P1において、シリカゾルにシランカップリング剤、精製水、およびプロパノール等の溶剤を加えて、ホットスターラーで加熱しつつ撹拌処理を施す。撹拌条件は、例えば、温度が80(℃)、回転数が300(rpm)、撹拌時間が30分である。これにより、シリカゾル中のシリカ微粒子36がシランカップリング剤によって撥水処理されたシリカ撥水剤34が得られる。このシリカ撥水剤34は、例えばシリカ微粒子36が1(wt%)程度の濃度で含まれるように調合割合が定められる。
【0049】
なお、上記のシリカゾルは、所望する撥水性能に応じて適宜のものを用い得るが、例えば日産化学工業製シリカゾルIPA-ST-ZLまたはIPA-ST等である。IPA-ST-ZLは、粒子径が70〜100(nm)の範囲内のシリカ微粒子を30(重量%)の割合で含むイソプロピルアルコール分散シリカゾルである。また、IPA-STは粒子径が10〜20(nm)の範囲内のシリカ微粒子を含む他はこれと同様に構成されたものである。また、シランカップリング剤は、東レダウコーニング製シランカップリング剤AY43-048(化合物名:イソブチルトリメトキシシラン)等である。
【0050】
次いで、分散工程P2では、炭素微粒子32に上記シリカ撥水剤34およびイソプロピルアルコール等の溶剤を加えてスターラー等で攪拌することにより、シリカ撥水剤34および炭素微粒子32の分散液を得る。攪拌条件は回転数が300(rpm)で攪拌時間が30分程度である。
【0051】
次いで、印刷工程P3では、カーボンペーパーすなわちガス拡散電極基材26,28に上記の分散液すなわちガス拡散撥水層ペーストを塗布する。ペースト塗布量は固形分(すなわち炭素微粒子32およびシリカ撥水剤34)の担持量で例えば2(mg/cm2)程度である。そして、乾燥工程P4において、これを例えば80(℃)で1時間加熱することにより、分散液中の溶剤および水分を除去する。これにより、ガス拡散電極基材26,28の表面に前記ガス拡散撥水層10,12が形成される。
【0052】
前記のMEA14は、このようにしてガス拡散撥水層10,12を形成した後、それらの表面にそれぞれ触媒層22,24を設け、電解質膜16の両面にそれら触媒層22,24を内側にして固着することで製造される。触媒層22,24はカーボン担持白金触媒ペーストをスクリーン印刷して形成した。また、電解質膜16への固着は130(℃)−5(MPa)で1分間熱プレスすることで行った。
【0053】
ここで、上記の製造方法に従って製造したガス拡散電極18,20の特性を評価した結果を説明する。この特性評価は、ガス拡散撥水層ペーストを調製する際のシリカ撥水剤の種類および量を種々変化させた他は、全て同一の条件で行った。また、評価項目は、断面加圧抵抗、ガス透過性、および撥水性である。一部の試料については発電性能も評価した。
【0054】
断面加圧抵抗は、小型熱プレス機(例えば、アズワン製AH-2003)を用いて、電極面積を25(mm)×35(mm)、温度を25(℃)として、金コートCu板で挟んで2(MPa)で加圧した状態で電圧を印加し、電流値が50(mA)になるときの電圧値から算出した。また、ガス透過性は、25(mm)×25(mm)の試験片を切り出して試料厚みを実測した上で、パームポロメータ(例えば、PMI社製Capillary Flow Porometer 1200 AEL)を用いて厚み方向の差圧を30(kPa)に設定して測定した。また、撥水性は、接触角計(例えば協和界面科学(株)製FACE接触角計CA-DT)を用いて、水の静的接触角を測定した。これらの特性はガス拡散撥水層10,12上に触媒層22,24を設けない状態で測定した。また、発電性能は、例えば東陽テクニカ製燃料電池測定システムを用い、MEA14の温度、配管温度、加湿槽温度を何れも80(℃)に保持し、H2流量を100(ml/min)、O2流量を500(ml/min)として、回路負荷を調節することにより電流を変化させつつ端子電圧を測定して、電流−電圧特性を求めた。測定結果を表1〜3に示す。表1が本発明の範囲内の実施例、表2、表3が比較例で、表2はシリカ撥水剤量が過少或いは過剰なもの、表3は従来の弗素系撥水剤を用いたものである。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
上記の表1〜3において、「撥水剤種類(粒径)」欄は、ガス拡散撥水層を構成するシリカ撥水剤の種類とシリカの粒径とを表しており、シリカ粒径は大小で表した。撥水剤Aは、シリカゾル IPA-ST-ZLを固形分換算で5(wt%)、シランカップリング剤 AY43-048を5(wt%)、2-プロパノールを85(wt%)含むペーストから作製したもので、シリカ粒子径は70〜100(nm)である。2-プロパノール量はシリカゾル中のものも合計した値とした。撥水剤Bは、シリカゾルを固形分換算で10(wt%)、2-プロパノールを80(wt%)とした他は撥水剤Aの場合と同様に構成されるペーストから作成したものである。撥水剤Cは、シリカゾル IPA-STを IPA-ST-ZLに代えた他は撥水剤Aと同様に構成されるもので、シリカ粒子径は10〜20(nm)である。また、撥水剤Dは、シリカゾル IPA-STを IPA-ST-ZLに代えた他は撥水剤Bと同様に構成されるものである。したがって、撥水剤A,Bはシリカ粒径が大で、撥水剤C,Dはシリカ粒径が小となっている。
【0059】
上記表1に示す評価結果によれば、シリカ撥水剤量を1.2〜10(wt%)の範囲で含むガス拡散撥水層を備えた実施例1〜8のガス拡散電極は、シリカ粒径の大小に拘わらず、ガス透過率が3600(ml・mm/cm2/min)以上と高く、加圧抵抗も5.8(mΩ・cm2)以下と低く、接触角は135°以上で、良好な発電性能を示した。なお、発電特性は実施例1,3,8,比較例1,5,9のみについて測定した。撥水剤量と加圧抵抗との関係を図4に、ガス透過性との関係を図5にそれぞれ示す。
【0060】
図4に示されるように、撥水剤量が10(wt%)以下の範囲では、撥水剤量が多くなっても加圧抵抗の変化は殆どなく、5(mΩ・cm2)前後の小さい値に保たれる。この加圧抵抗は、図4に示されるように撥水剤無しの場合と同程度の値である。しかしながら、10(wt%)を超えると加圧抵抗が10(mΩ・cm2)を超える値に急激に増大しする。加圧抵抗値およびその変化傾向はシリカ粒径の大小で相違がない。少なくとも評価した範囲では、加圧抵抗はシリカ粒径とは関係なく、撥水剤量のみに依存する。一方、ガス透過性は、図5に示されるように、撥水剤量が多くなっても殆ど変化がなく、4000(ml・mm/cm2/min)前後の大きい値に保たれる。少なくとも評価した範囲では、ガス透過性はシリカ粒径にも撥水剤量にも依存しない。撥水性は、撥水剤量が多くなるほど高くなる傾向が認められ、1.2(wt%)では135°程度であったのに対し、2.5(wt%)では140°程度、5.0(wt%)では142°程度、10(wt%)では144°程度になる。
【0061】
これに対して、表2に示す比較例1では、加圧抵抗は5.4(mΩ・cm2)と十分に低く且つガス透過性は4100(ml・mm/cm2/min)と十分に大きいが、撥水剤量が0.4(wt%)と過少であることから接触角が129°と小さく撥水性が不十分であった。また、比較例2〜7では、ガス透過率は3900〜4500(ml・mm/cm2/min)と十分に大きく、撥水性も接触角が143〜148°程度と極めて大きくなったが、図4に示されるように加圧抵抗が10.5〜13.4(mΩ・cm2)と著しく大きくなり、発電性能が得られなかった。この表2に示す比較例は、本実施例と同様にシリカ撥水剤を用いるものであるが、撥水層中の含有量が過少或いは過剰であることから、何れも十分な発電性能が得られなかった。
【0062】
また、表3に示す比較例8〜12では、弗素樹脂が撥水層に用いられていることから、ガス透過性が著しく低下し、延いては発電性能が得られなかったものである。比較例8は、弗素樹脂量を2.5(wt%)と比較的少なくしたものであるが、これでもガス透過率が2500(ml・mm/cm2/min)と著しく低くなり、しかも、撥水性も接触角が132°と不十分な値に留まった。比較例9〜12は、弗素樹脂量を5〜30(wt%)とすることにより、135°以上の接触角が得られたものであるが、ガス透過率が2700〜1500(ml・mm/cm2/min)と弗素樹脂量を多くするほど低くなった。そのため、これらでも発電性能は得られない。なお、弗素撥水剤を用いた上記比較例8〜12は、ガス透過率が著しく低下し、延いては発電性能が得られないことを確かめるために評価したもので、加圧抵抗は測定していない。
【0063】
図6は、上記実施例1〜8および比較例1〜12のうちから、実施例1,3,8,比較例1,5,9について、発電特性を評価したものである。実施例1,3,8の間で電流−電圧の値と変化傾向に若干の相違はあるものの、図6によれば、実施例の発電特性が比較例に対して著しく優れていることが明らかである。燃料電池の運転は電圧値0.60〜0.70(V)程度で行われるが、その場合の電流値は実施例が比較例の1.5〜2倍にもなる。
【0064】
上記の評価結果によれば、炭素微粒子に1〜10(wt%)のシリカ撥水剤を含むガス拡散撥水層を備えたガス拡散電極は、5.8(mΩ・cm2)以下の低い加圧抵抗および3600(ml・mm/cm2/min)以上の高いガス透過率を有しながら接触角が135°以上の高い撥水性を有することから、高い発電性能を有する。シリカ撥水剤を用いても、含有量が0.4(wt%)程度と過少であったり、15(wt%)以上と過剰であると、前者では撥水性が不足し、後者では導電性が不足するため、何れも発電性能が得られない。また、従来の弗素撥水剤を用いた場合には、ガス透過率が不足するため、やはり発電性能が得られない。
【0065】
要するに、本実施例によれば、ガス拡散撥水層10,12は、炭素微粒子32と、シリカ撥水剤34とを含むことから、シリカ撥水剤34による撥水性と炭素微粒子32による導電性とが共に得られるので、撥水性および導電性に優れたガス拡散撥水層10,12が得られる。このとき、ガス拡散撥水層10,12にはシリカ撥水剤34によって撥水性が与えられることから、高温の熱処理が必要で製造コストも不利な弗素樹脂系撥水剤を用いる必要がない。そのため、製造工程を前述したように高分子固体電解質から成る電解質膜16の耐熱温度よりも十分に低い低温でガス拡散撥水層10,12を形成することができる。この結果、発電性能に優れたMEA14が得られる。
【0066】
また、本実施例によれば、シリカ撥水剤34が層内の固形分全体に対して1.2〜10(wt%)の範囲内の割合で含まれることから、導電性および撥水性に共に優れたガス拡散撥水層10,12が得られる。
【0067】
また、本実施例によれば、シリカ微粒子36に撥水被膜38を設けたシリカ撥水剤34が用いられていることから、シリカ微粒子36自体が有する撥水性が一層高められるので、一層撥水性に優れたガス拡散撥水層10,12が得られる。
【0068】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【符号の説明】
【0069】
10,12:ガス拡散撥水層、14:MEA、16:電解質膜、18,20:ガス拡散電極、22,24:触媒層、26,28:ガス拡散電極基材、30:炭素繊維、32:炭素微粒子、34:シリカ撥水剤、36:シリカ微粒子、38:撥水被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形燃料電池を構成するために触媒層とガス拡散電極基材との間に設けられるガス拡散撥水層であって、
導電性炭素微粒子と、撥水性を付与するためのシリカ粒子とを含むことを特徴とするガス拡散撥水層。
【請求項2】
前記シリカ粒子を層内の固形分全体に対して1〜10(wt%)の範囲内の割合で含むものである請求項1のガス拡散撥水層。
【請求項3】
固体高分子電解質層の両面の各々に触媒層とガス拡散撥水層とガス拡散電極基材とが順次に積層された膜電極接合体であって、
前記両面のうち少なくとも一方のガス拡散撥水層が前記請求項1または請求項2のガス拡散撥水層で構成されたことを特徴とする膜電極接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−65965(P2011−65965A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217946(P2009−217946)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】