説明

ガラスの還元化方法

【課題】溶融ガラスに添加した場合の泡の発生が少なく、発生した泡が抜けやすい還元フリットを開発し、泡がほとんどない還元化ガラスを得る。
【解決手段】SnOを2〜19mass%、ZnOを1〜21mass%含み、かつ(SnO含有率〔mass%〕)/(ZnO含有率〔mass%〕)が0.7〜1.6の還元フリットとする。この還元フリットを溶融生地ガラスに投入し、該溶融生地ガラスを還元側に寄せると、泡の発生が少なく、発生した泡が抜けやすい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融生地ガラスに還元フリットを投入し、ガラスを還元側に寄せるガラスの還元化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、黄色、オレンジ色、赤色などの暖色系の色ガラスを製造する場合、ガラス生地がある程度還元性であることが必要とされる。
通常、暖色系の色ガラスは、必要な成分を調合したバッチをるつぼ窯で溶融して少量生産していた。このようなバッチ製造では大量生産に適さず、非常なコスト高となる問題がある。
そこで、アンバー色の還元性ガラスに、カララントフォアハースで着色剤を添加し、赤色ガラス(いわゆる銅赤ガラス)を得る方法が提案されている(特許文献1、2)。
しかし、通常アンバーガラスを溶融する窯はカララントフォアハースに接続されていないので、このような方法で赤色ガラスを製造する場合は大掛かりな窯替えを行うか、又はアンバーガラスを溶融する窯にカララントフォアハースを接続した専用の設備を設けなければならず、現実的ではない。
無色透明なフリントガラス(酸化性ガラス)にカララントフォアハースで酸化第二銅(着色剤)を添加しても、赤色にはならず青色となり、酸化第二銅(着色剤)と酸化第一スズ(還元剤)を同時に添加すると、一応銅赤色が得られるものの、リボイル泡(SOの泡)が多量に発生し不良品化するという問題がある(特許文献1)。
このように、溶融ガラスに還元剤(SnO含有フリット等)を添加すると、多量のリボイル泡が発生し、不良品となってしまうという問題があり、従来は、無色透明なフリントガラス(酸化性ガラス)にカララントフォアハースで着色剤などを添加して泡のない暖色系ガラスを安定して製造することは不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−26560
【特許文献2】特開2004−143003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、溶融ガラスに添加した場合の泡の発生が少なく、発生した泡が抜けやすい還元フリットを用い、泡がほとんどない還元化ガラスを得る、ガラスの還元化方法を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(請求項1)
本発明は、溶融窯内の溶融生地ガラスに対し、SnOを2〜19mass%、ZnOを1〜21mass%含み、かつ、(SnO含有率〔mass%〕)/(ZnO含有率〔mass%〕)が0.7〜1.6である還元フリットを投入することで、還元に必要なSnO総量の40〜60%を添加し、前記フリット投入完了から8分以上経過した後に、再び前記還元フリットを投入することで還元に必要な残りのSnOを添加することを特徴とするガラスの還元化方法である。
【0006】
本発明者らは、還元フリットに亜鉛を加えることで、スズでガラスを還元するときに発生する泡が少なくなると共に泡抜けが良くなること(清澄作用)を発見した。これは、亜鉛によりフリットの比重が大きくなること、粘性及び表面張力が小さくなることの相乗効果であると考えられる。すなわち、比重が大きくなることでフリットが溶融生地ガラスに速やかに沈み込み、周囲からほぼ均一に加熱されて速やかに溶融することで発生する泡が少なくなり、フリットの粘性及び表面張力が小さいために発生した泡がガラス中から外部に発散しやすくなるものと考えられる。
【0007】
還元フリット中のSnOの量は2〜19mass%が好ましく、さらに好ましくは3.7〜15mass%である。還元フリット中のSnOの量が少なすぎると還元フリットを多量に生地ガラス中に投入しなければならないので効率が悪くなり、多すぎるとリボイル泡の発生が多くなり好ましくない。
還元フリット中のZnOの量は1〜21mass%が好ましく、さらに好ましくは3〜15mass%である。還元フリット中のZnOの量が少なすぎると清澄作用が不十分であり、多すぎても不経済となる。
(SnO含有率〔mass%〕)/(ZnO含有率〔mass%〕)は0.7〜1.6とするのがよい。0.7未満では亜鉛が不必要に多すぎて不経済となり、1.6を越えると亜鉛が少なすぎてSnOにより発生するリボイル泡を清澄する作用が不足する。
【0008】
溶融生地ガラスに対し、まず約半量の還元フリットを投入し、少なくとも8分経過後に残りの還元フリットを投入することで、泡の非常に少ない還元化ガラスを得ることができる。最初に投入したフリットが溶融した後、及び2回目に投入したフリットが溶融した後に生地ガラスを撹拌すると、ガラスの清澄が促進され、さらに好ましい。
時間差が8分未満であると、第1フリット投入時に発生した泡が多く残り、第2フリット投入により更に泡が発生し、最終的に泡の多い不良品となる可能性がある。
【0009】
(請求項2)
また本発明は、フォアハース内の溶融生地ガラスに任意の第1投入位置で、SnOを2〜19mass%、ZnOを1〜21mass%含み、かつ、(SnO含有率〔mass%〕)/(ZnO含有率〔mass%〕)が0.7〜1.6である還元フリットを投入し、さらにその下流側の第2投入位置で前記還元フリットを投入するガラスの還元化方法であって、前記第1投入位置で投入する還元フリットの量は還元に必要なSnO総量の40〜60%に相当し、前記第2投入位置の還元フリット投入により必要量の残りのSnOが添加され、前記第1投入位置と第2投入位置の間のフォアハース内のガラスの平均流速をV(m/分)とした場合、前記第2投入位置が、前記第1投入位置よりも8V(m)以上下流側であることを特徴とするガラスの還元化方法である。
【0010】
第1投入位置で約半量の還元フリットを投入後、8V(m)以上下流側で残りの還元フリットを投入すると、フォアハースを流れる生地ガラスに対する第1フリットと第2フリットの投入時期の時間差が8分以上となり、前記請求項1の発明と同様に泡の非常に少ない還元化ガラスを得ることができる。
時間差が8分未満であると、第1フリット投入時に発生した泡が多く残り、第2フリット投入により更に泡が発生し、最終的に泡の多い不良品となる可能性がある。
第1投入位置で投入したフリットが溶融した後、及び第2投入位置で投入したフリットが溶融した後にフォアハース内の溶融ガラスをスターラで撹拌すると、ガラスの清澄が促進され、さらに好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の還元化方法によれば、泡の少ない還元化ガラスを高効率で得ることができる。
また無色透明(フリント)ガラスなどの酸化性ガラスにカララントフォアハースで還元フリットを投入してガラスを還元化し、さらに着色剤を添加して暖色系の色ガラスを製造することも可能となり、大掛かりな窯替えや、アンバーガラスを溶融する窯にカララントフォアハースを接続した専用の設備を設ける必要がなく、通常の設備で容易かつ安価に暖色系ガラスを製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のガラスの還元化方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
表1に示す組成の、SnOを7.4mass%、ZnOを7.4mass%含有する還元フリットを作成した。
【表1】

【0014】
〔実施例1〕
Fe2+/(Fe2++Fe3+)=0.27の無色透明(フリント)のソーダ石灰ガラスを生地ガラスとし、これを電気炉内のルツボに入れて溶融し1450℃の溶融生地ガラスとし、生地ガラスの10mass%の量の還元フリット(表1)を投入し、1450℃の電気炉内で10分間フリットを溶融し、撹拌棒で左右50回ずつ撹拌し、さらに1450℃の電気炉内で10分間溶融を続けた後、還元フリット(表1)を前回と同量投入し、1450℃の電気炉内で10分間フリットを溶融し、撹拌棒で左右50回ずつ撹拌し、さらに1450℃の電気炉内で20分間溶融を続け、その後電気炉内で徐冷し、600℃から自然放冷し、Fe2+/(Fe2++Fe3+)=0.81 の泡のないガラスを得た。
【0015】
〔比較例〕
ZnOを含まない他は表1と同じ組成の還元フリットを作成し、これを用いて前記実施例1と同じ方法でFe2+/(Fe2++Fe3+)=0.77のガラスを得た。このガラスは1cm当たり約21個の泡を含む不良品であった。
実施例1及び比較例により、亜鉛の清澄作用が確認された。
【0016】
〔実施例2〕
Fe2+/(Fe2++Fe3+)=0.27の無色透明(フリント)のソーダ石灰生地ガラスに、カララントフォアハースの第1投入位置において、SnO7.4mass%、ZnO7.4mass%を含む第1フリットを生地ガラスに対し10mass%投入した。また、カララントフォアハースの第2投入位置において、着色剤である銅(CuO換算)3mass%、SnO7.4mass%、ZnO7.4mass%を含む第2フリットを生地ガラスに対し10mass%投入し、銅(CuO換算)0.3mass%、SnO1.48mass%、ZnO1.48mass%を含む泡のない赤色ガラスを得た。
この赤色ガラスの色調は厚さ4mm換算で、明度4.44主波長617.16刺激純度96.3%であった。
【0017】
図1はこのときの製造方法の説明図である。同図において符号1は生地ガラス、符号2はカララントフォアハース、符号3,5は投入機、符号4は第1フリット、符号6は第2フリット、符号7,8はスターラである。生地ガラス1はカララントフォアハース2の中を左から右に向かって矢印方向に流れていく。
第2フリット投入位置(第2投入位置)は、第1フリット投入位置(第1投入位置)よりもLだけ下流側であり、この場合L=20V(Vは第1投入位置と第2投入位置の間のガラスの平均流速)とした。第1及び第2フリットの投入速度は、生地ガラスに対して第1、第2フリットが所定の割合(10mass%)となるように調整してある。
【符号の説明】
【0018】
1 生地ガラス
2 カララントフォアハース
3 投入機
4 第1フリット
5 投入機
6 第2フリット
7 スターラ
8 スターラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融窯内の溶融生地ガラスに対し、SnOを2〜19mass%、ZnOを1〜21mass%含み、かつ、(SnO含有率〔mass%〕)/(ZnO含有率〔mass%〕)が0.7〜1.6である還元フリットを投入することで、還元に必要なSnO総量の40〜60%を添加し、前記フリット投入完了から8分以上経過した後に、再び前記還元フリットを投入することで還元に必要な残りのSnOを添加することを特徴とするガラスの還元化方法。
【請求項2】
フォアハース内の溶融生地ガラスに任意の第1投入位置で、SnOを2〜19mass%、ZnOを1〜21mass%含み、かつ、(SnO含有率〔mass%〕)/(ZnO含有率〔mass%〕)が0.7〜1.6である還元フリットを投入し、さらにその下流側の第2投入位置で前記還元フリットを投入するガラスの還元化方法であって、前記第1投入位置で投入する還元フリットの量は還元に必要なSnO総量の40〜60%に相当し、前記第2投入位置の還元フリット投入により必要量の残りのSnOが添加され、前記第1投入位置と第2投入位置の間のフォアハース内のガラスの平均流速をV(m/分)とした場合、前記第2投入位置が、前記第1投入位置よりも8V(m)以上下流側であることを特徴とするガラスの還元化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−224543(P2012−224543A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−159547(P2012−159547)
【出願日】平成24年7月18日(2012.7.18)
【分割の表示】特願2008−237354(P2008−237354)の分割
【原出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000222222)東洋ガラス株式会社 (102)
【Fターム(参考)】