説明

ガラス積層構造体

【課題】 ガラス積層構造体において、封止剤部の透明性の優れた構造体を提供すること。
【解決手段】 封止剤として、下記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有し、エチレン含有率が20〜60モル%であるエチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物を用いる。
【化1】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合
または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示
す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向するガラス基板と封止剤で形成される密閉空間を有するガラス積層構造体、および該構造体に用いられる封止剤に関するものであって、さらに詳しくは封止剤部の透明性に優れるガラス積層構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光増感色素を用いた光電気化学電池や有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子を用いた有機ELディスプレイなどのデバイスが開発されている。
これらのデバイスは、通常、対向するガラス基板と封止剤で形成される密閉空間を有するガラス積層構造体から構成されており、かかる密閉空間に、光電気化学電池では、電解液(アセトニトリルなどの揮発性溶媒)や光増感色素(ヨウ素など)が充填され、また、有機ELディスプレイでは、有機色素(ジアミン、アントラセンなど)が充填されている。
【0003】
しかしながら、光電気化学電池の場合は、電解液や光増感色素がデバイス外部に漏れると、電池特性や寿命の低下の原因となる。
また、有機ELディスプレイの場合は、デバイス内に酸素または水分が浸入することによって、発光成分である有機EL素子の劣化が促進されて、デバイス内に非発光箇所(ダークスポット)が発生する問題がある。
【0004】
従って、デバイスの寿命を向上させるためには、封止剤の耐溶剤性やガスバリア性能が重要である。
【0005】
そこで、かかる封止剤として、耐溶剤性とガスバリア性に優れるエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(以下、「EVOH系樹脂」と称することがある)を用いたデバイスが提案されている。(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−149652号
【特許文献2】特開2007−294387号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載のデバイスの場合、封止剤部分の透明性が不十分であるため、光化学電池では、光電変換の向上、また有機ELディスプレイでは、発光強度の向上の障害となる場合がある。
【0008】
すなわち、本発明は、封止剤部の透明性に優れたガラス積層構造体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記実情に鑑み鋭意検討した結果、封止剤として1,2−ジオール構造単位を有するEVOH系樹脂を用いることで、封止剤部の透明性に優れたガラス積層構造体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
【化1】

[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合
または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示
す。]
【発明の効果】
【0011】
本発明のガラス積層構造体は、封止剤部の透明性に優れるため光化学電池に適用した場合には、高い光電変換を期待できるものである。また、有機ELディスプレイに適用した場合には、高い発光強度を期待できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に特定されるものではない。
【0013】
本発明のガラス積層構造体は、下記(1)式で表される側鎖1,2−ジオール構造単位を含有するEVOH系樹脂を封止剤として用い、対向するガラス基板と封止剤で形成される密閉空間を有するガラス積層構造体である。
【化2】

[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合
または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示
す。]
【0014】
<封止剤>
まず、本発明のガラス積層構造体において封止剤として用いるEVOH系樹脂について説明する。
本発明で用いられるEVOH系樹脂は、下記(1)式で示される側鎖1,2−ジオール構造単位を含有するEVOH系樹脂である。
【化3】

[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合
または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示
す。]
【0015】
(1)式において、R〜R、およびR〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表す。前記有機基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の飽和炭化水素基、フェニル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素数1〜30(より好ましくは炭素数1〜15、特に好ましくは炭素数1〜4)の飽和炭化水素基または水素原子であり、最も好ましくは水素原子である。特に、優れたガスバリア性能を得るためには、R〜R、およびR〜Rのすべてが水素原子であることが好ましい。
【0016】
また、(1)式において、Xは単結合又は結合鎖である。特に、EVOH系樹脂のガスバリア性の点などから、単結合であることが好ましい。
上記Xが結合鎖である場合は、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素鎖(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CHO)m−、−(OCH)m−、
−(CHO)nCH−等のエーテル結合部位を含む構造単位;−CO−、−COCO−、−CO(CHmCO−、−CO(C)CO−等のカルボニル基を含む構造単位;−S−、−CS−、−SO−、−SO−等の硫黄原子を含む構造単位;−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−等の窒素原子を含む構造単位;−HPO−等のリン原子を含む構造などのヘテロ原子を含む構造単位;−Si(OR)−、−OSi(OR)−、−OSi(OR)O−等の珪素原子を含む構造単位;−Ti(OR)−、−OTi(OR)−、−OTi(OR)O−等のチタン原子を含む構造単位;−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等のアルミニウム原子等の金属原子を含む構造単位などが挙げられる。これらの構造単位中、Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基であることが好ましい。またmは自然数であり、通常1〜30、好ましくは1〜15、特に好ましくは1〜10である。これらのうち、製造時あるいは使用時の安定性の点から、炭素数1〜10の炭化水素鎖が好ましく、さらには炭素数1〜6の炭化水素鎖、特に炭素数1の炭化水素鎖が好ましい。
【0017】
上記(1)式で表される側鎖1,2−ジオール構造単位における最も好ましい構造は、
〜Rのすべて水素原子であり、Xが単結合である構造単位である。すなわち、下記
式(1a)で示される構造単位が最も好ましい。
【化4】

【0018】
側鎖1,2−ジオール構造単位含有EVOH系樹脂中の側鎖1,2−ジオール構造単位の含有量は、通常0.1〜15モル%であり、好ましくは1〜10モル%であり、特に好ましくは2〜5モル%である。側鎖1,2−ジオール構造単位の含有量が少なすぎると、封止剤部分の透明性が低下する傾向がある。一方、側鎖1,2−ジオール構造単位の含有量が多すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。
なお、側鎖1、2−ジオール構造単位の含有量は、H−NMRの測定結果より算出することができる。
【0019】
側鎖1,2−ジオール構造単位含有EVOH系樹脂中のエチレン含有量は、ISO14663に基づいて測定したエチレン構造単位の含有量であり、通常20〜60モル%、好ましくは25〜50モル%、さらに好ましくは30〜45モル%である。エチレン構造単位の含有量が低すぎた場合、吸湿性が高くなるため、高湿度条件下でのガスバリア性が低下したり、ガラス基板に対する接着性が低下する。逆にエチレン構造単位の含有量が高くなりすぎると、必然的にポリマー鎖中に含まれるOH基の割合が低下しすぎ、ガスバリア性が低下する傾向にある。
【0020】
側鎖1,2−ジオール構造単位含有EVOH系樹脂のケン化度はJIS K6726に基づいて測定した値で、通常90モル%以上であり、好ましくは98モル%であり、特に好ましくは99.5モル%以上である。ケン化度が低すぎると、ガスバリア性が不足する傾向がある。
【0021】
以上のような構成を有する側鎖1,2−ジオール構造単位含有EVOH系樹脂の融点は、示差走査熱量計で測定した値で通常100〜220℃であり、好ましくは130〜200℃であり、特に好ましくは140〜190℃である。
【0022】
側鎖1,2−ジオール構造単位含有EVOH系樹脂のメルトフローレート(MFRと略すことがある)は210℃、荷重2160gにおいて、通常1〜100g/10分であり、好ましくは1〜50g/10分、特に好ましくは2〜20g/10分である。MFRが小さすぎた場合、粘度が高く、得られるEVOH系樹脂層のフィルムまたはシート成形時に押出機内が高トルク状態となって溶融成型性が低下する傾向があり、逆に大きすぎた場合、粘度が低く、EVOH系樹脂層のフィルムまたはシート成形時に厚み精度が低下する傾向がある。
【0023】
かかるEVOH系樹脂は、非水溶性の樹脂であり、エチレンとビニルエステル系モノマー、および側鎖に1,2−ジオール構造単位の原料となるコモノマーとの共重合体をケン化することによって得られる、エチレン−ビニルエステル系共重合体をケン化して得られたものである。エチレン−ビニルエステル系共重合体は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより製造され、エチレン−ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
【0024】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい
点から、代表的には酢酸ビニルである。このほか、例えば具体的には、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられ、通常、炭素数3〜20、好ましくは炭素数4〜10、特に好ましくは炭素数4〜7の脂肪族ビニルエステルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0025】
側鎖1,2−ジオール単位を供給できるコモノマーとしては、最も好ましい構造である構造単位(1a)を含有するEVOH系樹脂を例とすると、3,4−ジオール−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−オール−1−ブテン、4−アシロキシ−3−オール−1−ブテン等のジオール誘導体、ビニルエチレンカーボネート等のカーボネート化合物、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン等のアセタール化合物が挙げられる。
【0026】
中でも、ビニルエステルモノマーとの反応性の点、およびケン化による副生成物がビニルエステルモノマーと共通する点などから、ジオール誘導体が好ましく用いられる。
【0027】
さらに、EVOH系樹脂としての特性を損なわない範囲(例えば、EVOH系樹脂に対
して5モル%以下にて)で共重合可能なモノマーを含有していても良い。例えば具体的に
は、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸
、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和
酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類、アクリ
ルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルア
ミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピル
ジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類、メタアクリ
ルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリ
ルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミド
プロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類、
N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニ
ルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、炭素数1〜
18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキ
ルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、
フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類、トリメトキシビニルシラ
ン等のビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類、アリル
アルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類、トリメチル−(3−
アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2
−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。これらのモノマーは、単独でまたは2種以
上を同時に用いてもよい。
【0028】
なお、側鎖1,2−ジオール構造単位含有EVOH系樹脂は、1種類だけでなく、ケン化度が異なるもの、分子量が異なるもの、他の共重合モノマーの種類が異なっているもの、エチレン構造単位の含有量が異なるものなど、2種類以上の側鎖1,2−ジオール構造単位含有EVOH系樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
場合によっては側鎖1,2−ジオール構造単位を含有していない未変性EVOH系樹脂
が混合されていてもよい。EVOH系樹脂混合物の場合、側鎖1,2−ジオール構造単位の含有量が、EVOH系樹脂混合物全体の平均値として、通常、0.5〜30モル%であり、好ましくは1〜20モル%であり、特に好ましくは1〜10モル%となるような割合で混合されることが好ましい。
【0030】
異なる2種以上の側鎖1,2−ジオール構造単位含有EVOH系樹脂をブレンドして用いる場合、そのブレンド物の製造方法は特に限定しない。例えばケン化前のビニルエステル系共重合体の各ペーストを混合後ケン化する方法;ケン化後のEVOH系樹脂をアルコールまたは水とアルコールの混合溶媒に溶解させた溶液を混合する方法;各EVOH系樹脂のペレットまたは粉体を混合した後、溶融混練する方法などが挙げられる。
【0031】
さらに、EVOH系樹脂の熱安定性等の各種物性を向上させるために、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸類またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)などの塩、また、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸類、またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)などの塩等の添加剤を添加してもよい。これらのうち、特に、酢酸、ホウ酸およびその塩を含むホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を添加することが好ましい。
【0032】
酢酸を添加する場合、その添加量は、EVOH系樹脂100重量部に対して通常0.001〜1重量部、好ましくは0.005〜0.2重量部、特に好ましくは0.010〜0.1重量部である。酢酸の添加量が少なすぎると、酢酸の含有効果が十分に得られない傾向があり、逆に多すぎると均一なフィルムまたはシートを得ることが難しくなる傾向がある。
【0033】
また、ホウ素化合物を添加する場合、その添加量は、EVOH系樹脂100重量部に対してホウ素換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.001〜1重量部であり、好ましくは0.002〜0.2重量部であり、特に好ましくは0.005〜0.1重量部である。ホウ素化合物の添加量が少なすぎると、ホウ素化合物の添加効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると均一なフィルムまたはシートを得るのが困難となる傾向がある。
【0034】
また、酢酸塩、リン酸塩(リン酸水素塩を含む)の添加量としては、EVOH系樹脂100重量部に対して金属換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.0005〜0.1重量部、好ましくは0.001〜0.05重量部、特に好ましくは0.002〜0.03重量部であり、かかる添加量が少なすぎるとその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると均一なフィルムまたはシートを得るのが困難となる傾向がある。尚、EVOH系樹脂に2種以上の塩を添加する場合は、その総計が上記の添加量の範囲にあることが好ましい。
【0035】
その他の添加剤としては、例えば、飽和脂肪族アミド(例えば、ステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えば、オレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えば、エチレンビスステアリン酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば、分子量500〜10,000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等)などの滑剤、不溶性無機塩(例えば、ハイドロタルサイト等)、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコールなどの可塑剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、充填材(例えば、無機フィラー等)、酸素吸収剤(例えば、ポリオクテニレン等のシクロアルケン類の開環重合体や、ブタジエン等の共役ジエン重合体の環化物等)、共役ポリエン化合物(例えば、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩等)などが挙げられる。
これらのEVOH系樹脂以外の配合剤は、通常30重量%未満であり、好ましくは20重量%未満であり、特に好ましくは10重量%未満である。
【0036】
かくして得られたEVOH系樹脂は、ペレット、粉末、フィラメント、フィルム、シートなどの形状で、封止剤として用いられる。封止工程での扱い易さの点からフィルムまたはシートで使用するのが好ましい。
【0037】
かかるEVOH系樹脂のフィルムまたはシートの製造法は、特に限定されるものではなく、例えば、溶液流延製膜法や、溶融押出製膜法などを挙げることができる。
溶液流延製膜法とは、EVOH系樹脂を含有する溶液を金属ロール等の支持体上に流延し、加熱乾燥することで膜状に成形する方法であり、その際の溶液の濃度、流延量は所望するフィルムまたはシート状接着剤の膜厚に応じて選定すればよい。
溶融押出製膜法とは、EVOH系樹脂を押出機(単軸押出機、二軸押出機など)内で加熱溶融させて押出製膜する方法である。代表的なフィルムまたはシートの製膜方法としては、Tダイに代表されるフラットダイを通した溶融樹脂を金属ロール等の支持体上で冷却固化させてフィルムまたはシートを成形するTダイキャスト製膜法や、あるいはサーキュラーダイを通した溶融樹脂を筒状に押出して空冷、または水冷しながら冷却固化させて円筒状のフィルムまたはシートを成形するチューブラー製膜法などが挙げられる。
また、成形したフィルムまたはシートを一軸延伸や二軸延伸などの公知の方法で延伸処理した延伸フィルムとして用いてもよい。
【0038】
成形温度は、120℃〜280℃、好ましくは140〜250℃、さらに好ましくは160〜230℃である。成形温度が低すぎると、粘度が高く、溶融成形時に押出機内が高トルク状態となって押出加工が困難となる。また、未溶融状態の樹脂が原因でフィルムまたはシートにフィッシュアイが発生する問題となる。一方で、成形温度が高すぎると、粘度が低く、フィルムまたはシート成形時の厚み精度が低下する。また、熱劣化した樹脂が原因でフィルムまたはシートにフィッシュアイが発生する問題となる。
【0039】
フィルムの厚さは、1〜1000μm、好ましくは20〜500μm、さらに好ましくは50〜300μmである。フィルムの厚さが薄すぎると、十分な接着強度が得られない。一方で、フィルムの厚さが厚すぎると、フィルムまたはシートの柔軟性が低下して割れやすくなる。
【0040】
<基板>
本発明のガラス積層構造体に用いられる基板について説明する。
基板としては、ガラスが挙げられる。ガラス材料組成については、特に限定されず、例えば、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウ酸塩ガラス、リン酸塩ガラスから選択される。
光電気化学電池として用いる場合には、ガラス基板表面に導電層を積層した導電性ガラスを用いることが好ましい。導電層に用いられる導電性物質としては、鉄、ニッケル、クロム、チタン、アルミニウム、白金、金、銀、コバルト、パラジウム、銅、タンタル、ルテニウム、タングステン、亜鉛、スズ等の金属;該金属のアロイ;インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)等の導電性金属酸化物;炭素、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリアニリン等の導電性高分子などが挙げられる。導電性物質そのものを基板に積層する、または基板表面に導電性物質の薄膜を蒸着、スパッタリング、接着等することにより導電層が形成される。
【0041】
ガラスの厚みは、通常0.10〜10mm、好ましくは0.25〜7.5mm、特に好ましくは0.5〜5mmであり、かかる厚みが薄すぎると強度不足により破損しやすい傾向となり、逆に厚すぎると重量が重くなりすぎて軽量小型化が困難となる傾向がある。
【0042】
<構造体の製造条件>
得られたフィルムまたはシートから任意形状に切り取ることで封止枠を作製して、封止枠をガラス基板間に配置して張り合わせることで、側鎖1,2−ジオール構造単位を含有するEVOH系樹脂を封止剤として用い、対向するガラス基板と封止剤で形成される密閉空間を有するガラス積層構造体が得られる。
【0043】
液状の封止剤では密封空間の設計自由度が限定されるのに対して、フィルムまたはシートから封止枠を作製する方法では枠内形状の自由度が高く、また複数個の密封空間を有する封止枠などを容易に設計することが可能である。
枠内領域の形状としては四角状、三角状、ライン状、円形状、六角状が例示され、複数枠を組み合わせた場合の配置形状としては格子状やハニカム状や網目状などが例示される。
また、構造体の側面方向から材料を注入する場合には、予め封止枠に注入孔を形成した構造体にしておいて、材料注入後に注入孔を封止する方法が用いられる。
【0044】
封止枠をガラス基板間に接着する方法として、例えば以下の方法が挙げられる。
(1)2枚のガラス基板間に封止枠を配置した構造体を加熱して張り合わせる方法
(2)2枚のガラス基板間に封止枠を配置した構造体に加熱プレスを行い張り合わせる方法
(3)2枚のガラス基板間に封止枠を配置した構造体にレーザー光を照射して張り合わせる方法
【0045】
接着温度は、120〜180℃、好ましくは150〜170℃である。接着温度が低すぎると、ガラス基板に対する高速接着性が得られない。一方で、接着温度が高すぎると、構造体内部に封止される光増感色素や有機ELなどの材料が劣化して、デバイス性能の低下を招く。
【0046】
接着圧力は、加熱と基板自重のみで接着することも可能である。また、高い接着強度を必要とする場合には加熱プレス機やラミネーターなどで加熱圧縮して張り合わせることが好ましい。
接着圧力は、0.00001〜50MPa、好ましくは0.0001〜30MPa、さらに好ましくは0.0005〜20MPaである。
[時間]
時間は、1秒〜30分、好ましくは10秒〜20分、さらに好ましくは30秒〜15分である。時間が短すぎると、ガラス基板に対する接着性が不足する。一方で、時間が長すぎると、生産性の低下を招く。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0048】
実施例1
<EVOH系樹脂(A1)の製造>
冷却コイルを持つ1m3の重合缶に酢酸ビニルを300kg、メタノール50kg、アセチルパーオキシド600ppm(対酢酸ビニル)、クエン酸30ppm(対酢酸ビニル)、および3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを25kgを仕込み、系を窒素ガスで一旦置換した後、次いでエチレンで置換して、エチレン圧が49kg/cm2となるまで圧入して、攪拌しながら、67℃まで昇温して、重合率が60%になるまで6時間重合した。その後、重合反応を停止してエチレン含有量37モル%のエチレン−酢酸ビニル−ジアセトキシブテン三元共重合体を得た。
【0049】
該エチレン−酢酸ビニル−ジアセトキシブテン三元共重合体のメタノール溶液に、該共重合体中の残存酢酸基に対して、0.012当量の水酸化ナトリウムを含むメタノール溶液を供給することにより、ケン化を行い、上述の側鎖1,2−グリコール結合を有する構造単位(式(1a)参照)を3.0モル%含有するEVOH系樹脂のメタノール溶液(EVOH系樹脂30%、メタノール70%)を得た。
【0050】
得られたEVOH系樹脂のメタノール溶液を冷水中に、ストランド状に押し出し、得られたストランド状物(含水多孔質体)をカッターで切断し、直径3.8mm、長さ4mmの樹脂分35%のEVOH系樹脂の多孔性ペレットを得た。
【0051】
得られた多孔性ペレットを水洗した後、0.064%のホウ酸を含有する水溶液に投入して35℃で4時間攪拌した後に、酸素濃度0.5%以下の窒素気流下中で110℃で8時間乾燥を行い、揮発分として0.17重量%のEVOH系樹脂(A1)[エチレン含有量37モル%、ケン化度99.7モル%、側鎖1,2−ジオール構造単位(1a)含有量3.0モル%、MFR4.1g/10分(210℃、2160g)、ホウ酸350ppm(ホウ素換算)]のペレットを得た。
【0052】
得られたEVOH系樹脂(A1)を用いて、Tダイを取り付けた単軸押出機に供給して単層フィルム(膜厚200μm)を作製した。
【0053】
<単層フィルム成形条件> 押出機:直径(D)40mm、L/D=28
スクリュー:フルフライトタイプ 圧縮比=3.5
スクリーンパック:90/120/90メッシュ
ダイ:幅450mm、コートハンガータイプ
設定温度:C1/C2/C3/C4/A/D=180/200/210/210/210/210℃
スクリュ回転数:68rpm
引取速度:2m/min
ロール温度:50℃
エアーギャップ:15cm
【0054】
<構造体作製条件>
得られた単層フィルムから2cm正方に切り取った接着試験用試験片を作製して、2枚のスライドガラス板(松浪硝子工業製「S1112(白緑磨NO.2) 長さ76mm、幅26mm、厚み1.1mm」)の中央部に試験片を挟みこみ、ガラス板中央部に40gの重石を載せた状態にして160℃に調整した乾燥機内に投入し、10分間加熱して、ガラス板とフィルムの構造体を作製した。
【0055】
上記で得られた構造体について、以下の評価を行った。
【0056】
<ガラスとの接着性>
得られた構造体において、接着状態を評価した。
25mm幅の両面テープ(「ナイスタック」品番NW−25 ニチバン製)を用いて得られた構造体の下面側を机上に固定した後、構造体上面側の中央部に幅24mmのセロハンテープ(「セロテープ」(登録商標)品番CT405AP−24 ニチバン製)を貼り付けた。貼り付けたセロハンテープをガラスと垂直方向に手で引っ張り上げた際の剥離状態について評価した。
○:ガラス板とセロハンテープ面が剥離して、セロハンテープのみ剥がれる。
(ガラスとの接着力 > セロハンテープの粘着力)
×:ガラス板とフィルム接着面が剥離して、セロハンテープと一緒に上面ガラス板が持ち上がる。
(ガラスとの接着力 < セロハンテープの粘着力)
【0057】
<封止部の透明性>
得られた構造体において、ヘイズメーター(日本電色社製「NDH2000」)を用い、JIS K7105に順じて、ガラス板とフィルム接着箇所のヘイズ値を測定した。ヘイズ値は、試験片の拡散光線透過率を全光線透過率で割ったものを百分率で表したものであり、ヘイズ値が低い値であるほど接着箇所の透明性が良好であること(白濁度合が少ない)を示す。
【0058】
実施例2
実施例1において、EVOH系樹脂として、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂(A1)の代わりにエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂(A2)[エチレン含有量38モル%、ケン化度99.7モル%、側鎖1,2−ジオール構造単位(1a)含有量1.5モル%、MFR4.0g/10分(210℃、2160g)、ホウ酸300ppm(ホウ素換算)]を用いた以外は、実施例1と同様にして構造体を作製し、同様に評価した。
【0059】
比較例1 実施例1において、EVOH系樹脂として、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂(A1)の代わりに未変性のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂(A3)[エチレン含有量38モル%、ケン化度99.7モル%、MFR4.0g/10分(210℃、2160g)、ホウ酸300ppm(ホウ素換算)]を用いた以外は、実施例1と同様にして構造体を作製し、同様に評価した。
【0060】
ガラス接着性、およびヘイズ値の評価結果を表1に示す。
[表1]

【0061】
表1からわかるように、変性のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂を用いた場合(実施例1、2)、封止部の透明性が高い結果となった。
従って、特定構造を有するエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物を用いることで、封止部の高透明性に関して有用であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の構造体は、封止部の高透明性において優れた効果が得られるので、封止部の透明性が要求される光電気化学電池や有機ELディスプレイなどのデバイスに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向するガラス基板と封止剤で形成される密閉空間を有するガラス積層構造体であって、かかる封止剤として下記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有し、エチレン含有量が20〜60モル%であるエチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物を用いることを特徴とするガラス積層構造体。
【化1】

[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合
または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示
す。]
【請求項2】
対向するガラス基板と封止剤で形成される密閉空間を有するガラス積層構造体に用いられる封止剤であって、下記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有し、エチレン含有量が20〜60モル%であるエチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物からなることを特徴とする封止剤。
【化2】

[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合
または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示
す。]
【請求項3】
対向するガラス基板と封止剤で形成される密閉空間を有するガラス積層構造体に用いられる封止剤であって、厚さ0.10〜10mmであるであることを特徴とするフィルムまたはシート状の封止剤。
【請求項4】
請求項1記載の構造体を用いたデバイス。

【公開番号】特開2013−23395(P2013−23395A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156913(P2011−156913)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】