説明

キャビネット

【課題】使用者が力を要さずとも引出を引き出すことができるキャビネットを提供すること。
【解決手段】前板8に係止部25を設けるとともに、キャビネット本体2または収納箱6のいずれか一方に、前板8が収納箱6の正面側を閉塞する際に係止部25と係止する被係止部26を設け、収納箱6には、係止部25と被係止部26との係止が解除されることで前板8が収納箱6の前方側に所定開度揺動され、前板8の所定開度の揺動に応じて引出1を一定量引出位置に向けて引き出す連動手段15,16,17a,17b,18が設けられている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正面側に向けて開口するキャビネット本体内に収納される収納位置と、キャビネット本体外に引き出される引出位置と、の間で移動可能に案内される引出を備え、引出の正面側に、下端部が枢支され前後方向に揺動可能な前板が設けられているキャビネットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、引出としては、流し台の天板の下方に配置されている引き出し本体と、引き出し本体の正面側に設けられている前板と、前板の裏面に設けられた収納用囲い棚と、を備え、レールに案内されることによって前方に引き出すことができるようになっている。また、引出には、使用者が前板の引き手を持って前方に引くと、前板が枢軸を中心に前方に回転して所定の角度まで可倒することで収納用囲い棚内の収納物を取り出すことができるようになっている。更に、前板の裏面には、先端部がレールに形成された溝部内を摺動する係脱アームの基端部が取り付けられており、この係脱アームは、前板が前方に可倒することで溝部の前端に係合し、引出の前方への移動を規制するようになっている。このような引出には、使用者が前板を前方に可倒した後に、引き手で引出を前方に強く引くことによって係脱アームと溝部との係合を解除し、引出を前方に移動させているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3922035号公報(第4頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にあっては、前板の可倒する角度や収納用囲い棚内の収納物の大きさによっては、前板を可倒しただけでは使用者は収納用囲い棚から収納物を取り出しにくくなっており、このような場合には、引き手で引出を前方に強く引くことによって係脱アームと溝部との係合を解除した後に引出を前方に移動させなければならず、使用者が引出を引き出すには大きな力を要するという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、使用者が力を要さずとも引出を引き出すことができるキャビネットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明のキャビネットは、
前方に向けて開口する収納箱と該収納箱の正面側に配置される前板とから構成されるとともに、前方側に向けて開口するキャビネット本体内に収納される収納位置と、前記キャビネット本体外に引き出される引出位置と、の間で移動可能に案内される引出を備え、前記前板を前後方向に揺動可能に該前板の下端部を前記収納箱の正面側に枢支したキャビネットであって、
前記前板に係止部を設けるとともに、前記キャビネット本体または前記収納箱のいずれか一方に、前記前板が前記収納箱の正面側を閉塞する際に前記係止部と係止する被係止部を設け、
前記収納箱には、前記係止部と前記被係止部との係止が解除されることで前記前板が前記収納箱の前方側に所定開度揺動され、該前板の所定開度の揺動に応じて前記引出を一定量前記引出位置に向けて引き出す連動手段が設けられていることを特徴としている。
この特徴によれば、係止部と被係止部との係止が解除され前板が引出の前方側に揺動すると、使用者が引出に対して引出位置に向けて力を加えずとも、連動手段により引出を収納位置から引出位置に向けて自動的に引き出すことができる。
【0007】
本発明のキャビネットは、
前記前板を前記引出の前方側に向けて付勢する付勢手段を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、前板の揺動を付勢手段の付勢力によって行うことができるので、引出を引出位置に向けてより確実に引き出すことができる。
【0008】
本発明のキャビネットは、
前記係止部と前記被係止部との係止が解除されたことを検知する検知手段を備え、前記付勢手段は、前記検知手段が前記係止部と前記被係止部との係止が解除されたことを検知することによって前記前板を前記引出の前方側に向けて付勢することを特徴としている。
この特徴によれば、係止部と被係止部との係止が解除されない限り付勢手段が作用しないので、前板が急激に揺動することを防止することができる。
【0009】
本発明のキャビネットは、
前記連動手段は、前記引出位置に向けて移動可能な第1リンク部材と、該第1リンク部材にかかる力を前記キャビネット本体の背面側に向けて転換する伝達部と、該伝達部からの力の伝達によって前記キャビネット本体の背面側に向けて移動可能な第2リンク部材と、から構成され、前記キャビネット本体には、前記第2リンク部材の前記キャビネット本体の背面側への移動を阻止する阻止部材が設けられていることを特徴としている。
この特徴によれば、前板の引出の前方側への揺動を、第2リンク部材のキャビネット本体の背面側への移動に転換し、第2リンク部材が阻止部材を押圧する力によって引出を引出位置に向けて引き出すことができるので、前板の引出の前方側への揺動と収納箱の引出位置に向けての引き出しとを阻止部材の設置位置により調整することができる。
【0010】
本発明のキャビネットは、
前記伝達部は、前記第1リンク部材にかかる力を増力させて前記第2リンク部材に伝達することを特徴としている。
この特徴によれば、伝達部から第2リンク部材に伝達する力を増大させることができるので、前板が引出の前方側に向けて揺動する際に前板にかかる力が小さくとも収納箱を引出位置に向けて引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1における引出を示す斜視図である。
【図2】引出しとガイドレールと緩衝装置とを示す側面図である。
【図3】引出の側板を示す一部拡大斜視図である。
【図4】引出の側板を示す横断平面図である。
【図5】収納位置に配置された引出の側板を示す縦断側面図である。
【図6】図5における引出の側板のA−A断面図である。
【図7】当接部が阻止部材を押圧するまで前板が正面側に揺動された状態を示す縦断側面図である。
【図8】引出位置に引き出された引出を示す縦断側面図である。
【図9】(a)は、実施例2における引出が収納位置に配置されている状態を示す縦断側面図であり、(b)は、引出が収納位置から引き出された状態を示す縦断側面図である。
【図10】実施例3における引出の縦断側面図である。
【図11】実施例4における引出の縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るキャビネットを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0013】
実施例1に係るキャビネットにつき、図1から図8を参照して説明する。以下、図2、図5、図7、図8の紙面左側と、図4の紙面下側及び図6の紙面手前側をキャビネットの正面側(前方側)として説明する。
【0014】
図1の符号1は、本発明の適用された引出である。この引出1は、図1に示すように、正面側に開口するキャビネット本体2内に上下2段が収納されている。この引出1は、前方と上方とに開口して内部に皿や鍋等の収納物5を収納可能な略方形状の収納箱6を有しており、収納箱6の正面側には、上端部に使用者が把持するための把手7が取り付けられた前板8が配置されている。
【0015】
また、それぞれの引出1の左右側方には側板2a,2aが設けられている。これら側板2a,2aは、キャビネット本体2の左右両側板を構成するほか、引出1同士の間に設けられる仕切板を構成している。
【0016】
図2に示すように、キャビネット本体2における両側板2a,2aの内側には、ガイドレール3が取り付けられており、これらガイドレール3は左右側方から収納箱6を支持している。尚、本実施例では、両ガイドレール3の構成は同一につき、一方のガイドレール3のみで説明する。尚、本実施例では、収納箱6が使用者によって使用者の手前方向(前方向)に向けて長さL1だけ引き出され、以降、後方を向く抗力を受けることなく前方への引き出しが可能となる引出1の位置を引出位置として定義する(図8参照)。
【0017】
引出1は、引出位置から使用者によりキャビネット本体2の背面側に向けて押し込まれることでキャビネット本体2内に収納配置されるようになっている。このとき、前板8がキャビネット本体2の側板2aの前端部に当接して、引出1が収納された状態の引出1の位置を収納位置と定義する。
【0018】
また、ガイドレール3の後方であるキャビネット本体2の後端部には、引出1が引出位置から収納位置近傍まで移動されたときに、収納箱6に当接(緩衝)して引出1の移動速度を低減させるオイルダンパ4が取り付けられている。このオイルダンパ4は、図2及び図8に示すように、キャビネット本体2に対して固定されるとともに、内部に粘性抵抗を発生させるオイルが充填された筒体4aと、後部側がこの筒体4aの前端部から筒体4a内に挿入されたロッド4bと、を備えている。ロッド4bは、後部側を筒体4a内に配置した状態で前後動可能となっており、このロッド4bの前後動に伴って筒体4a内のオイルとロッド4bの後部とで粘性抵抗が発生するようになっている。尚、ロッド4bの前端部には、強磁性の永久磁石4cが取り付けられている。
【0019】
ガイドレール3について詳述する。図2に示すように、ガイドレール3の上部には、キャビネット本体2の内方側に突出する上板3aが形成されるとともに、ガイドレール3の下部には、上板3aと同様に、キャビネット本体2の内方側に突出する下板3bが形成されている。
【0020】
ガイドレール3を構成する上板3a及び下板3bは、その前端部から後端部近傍にかけて水平な水平部3cに形成されている。また、ガイドレール3の後端部は、所定の傾斜角度θで後方に向かって下方に傾斜する傾斜部3dに形成されている。更に、ガイドレール3の前端部には、後述する収納箱6の支持板6bを支持するためのガイドローラ3eが取り付けられている。
【0021】
尚、本実施例においては、傾斜部3dの水平部3cに対する傾斜角度θを4度としている。更に尚、ガイドレール3の傾斜部3dの傾斜は、少なくとも下板3bに形成されていればよく、上板3aは前端部から後端部にかけて水平に形成されていてもよい。
【0022】
次に、引出1について詳述する。尚、本実施例の引出1は左右対称に構成されているため、本実施例では引出1の右方側のみを説明し、引出1の左方側については説明を省略する。
【0023】
前板8の背面には、収納箱6内の収納物5よりも使用頻度の高いまな板や包丁等の収納物9を収納するための収納篭10が取り付けられており、前板8の背面における左右側端上部には、前板8の後方に向けて係止部25が突設されている。この係止部25の後端部は、球状に形成されている。また、収納箱6の背面における下端部には、オイルダンパ4のロッド4bの前端部に設けられた永久磁石4cが磁着するための金属片11が取り付けられている。
【0024】
更に、収納箱6を構成する側板6aは、図3、図4及び図5に示すように、前端部をカバー体12によって被覆されている。前板8はこのカバー体12の前端下部に設けられた左右方向を向く枢軸13によって下端部を枢支され、前後方向に揺動可能となっている。このため、前板8の前後方向への揺動によって収納箱6の正面側への開放及び閉塞がなされるようになっている。
【0025】
加えて、カバー体12の上部には、係止部25が係止するための被係止部26が設けられている。これら係止部25と被係止部26とは、公知のプッシュラッチを構成している。
【0026】
すなわち、係止部25は、図4及び図5に示すように、前板8が収納箱6の正面側を閉塞する際に、球状に形成された後端部を被係止部26で保持されることで係止されるようになっており、図7に示すように、前板8を収納箱6の背面側に向けて押圧することで係止部25と被係止部26の係止が解除され、係止部25が被係止部26内に内蔵された図示しないコイルバネによって収納箱6の前方側に付勢されるようになっている。つまり、被係止部26は、本発明における付勢手段を構成している。
【0027】
尚、図5に示すように、引出1が収納位置に収納配置されているときの前板8の重心Gは、前板8をカバー体12に枢支する枢軸13よりも収納箱6の背面側に配置されている。
【0028】
一方、図2及び図3に示すように、側板6aの外側面には、前後方向に長い支持板6bが取り付けられている。この支持板6bは、ガイドレール3の上板3aと下板3bとの間でガイドローラ3eによって支持されている。更に、この側板6aの外側面における支持板6bよりも後部側の下方には、ローラ6cが左右方向を向く枢軸によって回転自在に枢支されている。このローラ6cは、ガイドレール3の上板3aと下板3bとの間で転動可能に載置されている。このため、引出1は、ガイドレール3によって引出位置と収納位置との間を滑らかに移動可能となって支持されている。
【0029】
また、図4及び図5に示すように、側板6aは、内部が中空部14に形成されている。この中空部14の上端部には、前後方向を向く略直方体形状のスライド板15が前後方向に移動自在に配置されている。具体的には、中空部14の上端部の左右側部には、左右方向を向く溝部6dが側板6aの前後方向略全長に亘って形成されており、スライド板15の上端部には、これら溝部6d内に配置される摺接片15aが突設されている。
【0030】
このため、スライド板15は溝部6d内で両摺接片15a,15aによって吊持されている状態で、中空部14内を前後方向に摺動する。尚、スライド板15の下面には、前後方向略全長に亘ってラック部15bが形成されている。
【0031】
そして、スライド板15の前端部には、棒状のステー16の一端が左右方向を向く枢軸によって前後方向に揺動可能に枢支されている。このステー16の他端は、側板6aの正面に形成された貫通孔6eとカバー体12に形成された貫通孔12aとを介して前板8の背面の右端部に左右方向を向く枢軸によって揺動可能に枢着されている。つまり、スライド板15とステー16とで本発明における第1リンク部材を構成しており、スライド板15は前板8の前後方向への揺動に応じて前後方向に中空部14内を移動可能となっている。
【0032】
尚、スライド板15は、摺接片15aが溝部6dの前端部に当接することでそれ以上の収納箱6の正面側への移動が規制されているため、スライド板にステー16を介して接続されている前板8も収納箱6の前方側への揺動が規制されている。
【0033】
図4、図5及び図6に示すように、中空部14内のスライド板15下方には、ラック部15bと噛み合うピニオンギア(歯車)17aが左右方向を向く枢軸によって枢支されている。このピニオンギア17aの同一の枢軸上には、ピニオンギア17aよりも小径に形成されたピニオンギア17bが枢支されている。
【0034】
更に、ピニオンギア17bの下方には、上面にピニオンギア17bに噛み合うラック部18aが形成された前後方向を向く直方体形状の本発明における第2リンク部材としてのスライド板18が、スライド板15の移動に従い中空部14内を前後方向に移動自在に配置されている。このため、スライド板15にかかる力は、ピニオンギア17a、17bによって増力されるようになっている。つまり、これらピニオンギア17a,17bによって本発明における伝達手段が構成されている。
【0035】
更に、ピニオンギア17bの下方には、上面にピニオンギア17bに噛み合うラック部18aが形成された前後方向を向く直方体形状のスライド板18が、スライド板15の移動に従い中空部14内を前後方向に移動自在に配置されており、ピニオンギア17a,17bで増力された力が伝達されるようになっている。
【0036】
図5、図6及び図7に示すように、側板6aの外側面には、中空部14に貫通する貫通長孔6fが側板6aの前後方向を向いて形成されており、この貫通長孔6f内には、スライド板18の右側部が挿入配置されている。また、貫通長孔6fの上下には、貫通長孔6fの前後方向略全長に亘って係止溝部6g,6gが形成されており、スライド板18の右側部の上下には、これら係止溝部6g,6g内に挿入配置される係止片18bが突設されている。このため、スライド板18は貫通長孔6f内で左右方向に脱落することなく前後方向に摺動するようになっている。
【0037】
キャビネット本体2の側板2aの内側面には、平面視L字形状の阻止部材19が取り付けられており、スライド板18の前端部には、収納箱6の外側方に向けて当接部18cが貫通長孔6fを介して突設されている。これら阻止部材19と当接部18cとは、引出1がキャビネット本体2内の収納位置に収納配置されているときには前後方向に離間して配置されている。
【0038】
次に、このように構成された引出1の収納位置から引出位置への引き出しに伴う動作について説明する。先ず、図4及び図5に示すように、引出1が収納位置に収納配置されている状態から、使用者が前板8をキャビネット本体2の背面側に向けて押圧し、係止部25と被係止部26との係止を解除させる。
【0039】
このとき、被係止部26内の図示しないコイルバネが係止部25を収納箱6の前方側に向けて付勢することで、前板8が収納箱6の前方側に向けて揺動される。そして、前板8の収納箱6の前方側への揺動に応じてスライド板15のキャビネット本体2の前方側への移動がなされる(図7参照)。
【0040】
加えて、前板8の重心Gが前板8をカバー体12に枢支している枢軸13よりも収納箱6の前方側まで移動されると、被係止部26の付勢力に加えて前板8の荷重自体を前板8の前方側に揺動させる力として使用することができる。
【0041】
このスライド板15の収納箱6の正面側への移動によって、ラック部15bがピニオンギア17aを図5における側面視反時計回りに回転させる。このピニオンギア17aの図5における側面視反時計回りの回転は、ピニオンギア17a,17bによって増力され、ラック部18aに伝達されるようになっている。このため、スライド板18は、ピニオンギア17bの図5における側面視反時計回りの回転によって中空部14内をキャビネット本体2の背面側に向けて摺動する。
【0042】
図7に示すように、前板8が前方側に所定開度揺動することで、当接部18cが阻止部材19に正面側から当接する。尚、阻止部材19の側板2aの内側面における取り付け位置は、スライド板18が中空部14内を摺動することで当接部18cに当接可能であれば、収納箱6に収納されている収納物5や引出1の使用用途に応じて適宜前後方向に調整可能である。特に、引出1が収納位置に収納配置されている状態で当接部18cと阻止部材19が最初から当接している場合には、前板8が収納箱6の前方側に揺動されると同時に引出1全体が引出位置に向けて引き出される。
【0043】
そして、この当接部18cが阻止部材19に正面側から当接している状態から更に前板8が収納箱6の前方側に向けて揺動することで、スライド板18は、ピニオンギア17a、17bを介して阻止部材19を当接部18cによって収納箱6の背面側に向けて押圧し、収納箱6に前方側に向けての反力を生じさせる。
【0044】
このため、図8に示すように、収納箱6はこの反力によってキャビネット本体2内から押圧されることで、キャビネット本体2内の収納位置から引出位置に向けて引き出され、スライド板18は当接部18cが阻止部材19を押圧する位置を維持した状態で貫通長孔6f内を相対移動する。
【0045】
このとき、収納箱6には、ローラ6cが傾斜部3d内の前上方に転動する抵抗力と、オイルダンパ4のロッド4bが永久磁石4cの金属片11への磁着によって引出1とともに引出位置に向けて引き出される際に筒体4a内で生じる粘性抵抗力と、ロッド4bがキャビネット本体2の正面側に向けて所定量引き出されたことにより抗力として作用する永久磁石4cと金属片11との間に生じている磁力と、を合わせたキャビネット本体2の背面側を向く抗力が生じるが、前板8が揺動することで前板8に生じる力がピニオンギア17bで増強されているため、前板8が軽量または被係止部26の付勢力が弱くとも引出1を引出位置に向けて引き出すことが可能となっている。
【0046】
尚、このピニオンギア17bで増強された力によって永久磁石4cと金属片11との磁着が解除されると、ロッド4bのキャビネット本体2の正面側への引き出しが停止され、ロッド4bの前端部は、キャビネット本体2の正面側への引き出しを停止した位置で待機する。
【0047】
そして、スライド板15が溝部6dの前端部に当接することによって前板8の前方側への揺動が終了し、収納箱6はキャビネット本体2内から前方側に距離L1だけ引き出された引出位置に配置される。
【0048】
尚、前板8の前方側への揺動が終了した後は、引出1を引出位置から更に使用者が把手7を把持して引き出すことによって、前板8の揺動を維持したまま引出1を全開量引き出すことができる。
【0049】
更に尚、引出1を引出位置から収納位置に収納配置させる場合は、使用者が前板8を背面側に向けて押し込むことで、前板8を、前板8の重心Gが前板8をカバー体12に枢支している枢軸13よりも収納箱6の背面側に配置されるまでキャビネット本体2の背面側に向けて揺動させるとともに、ローラ6cがガイドレール3の傾斜部3d内を転動するまで収納箱6をガイドレール3に沿って案内させる。このとき、使用者が前板8をキャビネット本体2の背面側に向けて押圧することで係止部25と被係止部26とを再び係止させ、収納箱6の正面側を前板8によって閉塞する。
【0050】
ローラ6cがガイドレール3の傾斜部3d内を転動するまで収納箱6を押し込んだ後は、ローラ6cが傾斜部3dを後下方に向って下っていくとともに、金属片11と永久磁石4cとが再び磁力により磁着される。このため、収納箱6は、傾斜部3d内をローラ6cが下ることで自動的に収納位置に向けて移動を開始するとともに、オイルダンパ4の筒体4a内にロッド4bが挿入されることで生じる粘性抵抗によって収納箱6の収納位置に向けての加速が抑えられ、最終的に引出1を静かに収納位置に収納配置することができる。
【0051】
以上、本実施例におけるキャビネットにあっては、前板8に係止部25を設けるとともに、キャビネット本体2または収納箱6のいずれか一方に、前板8が収納箱6の正面側を閉塞する際に係止部25と係止する被係止部26を設け、収納箱6には、係止部25と被係止部26との係止が解除されることで前記前板が前記収納箱の前方側に所定開度揺動され、該前板の所定開度の揺動に応じて引出1を一定量引出位置に向けて引き出す連動手段が設けられているので、係止部25と被係止部26との係止が解除され前板8が引出1の前方側に揺動すると、使用者が引出1に対して引出位置に向けて力を加えずとも、連動手段により引出1を収納位置から引出位置に向けて自動的に引き出すことができる。
【0052】
また、前板8を引出1の前方側に向けて付勢する被係止部26を備えるので、前板8の揺動を被係止部26の付勢力によって行うことができるので、引出1を引出位置に向けてより確実に引き出すことができる。
【0053】
また、連動手段は、引出位置に向けて移動可能なスライド板15及びステー16と、スライド板15及びステー16にかかる力をキャビネット本体2の背面側に向けて転換するピニオンギア17a,17bと、ピニオンギア17a,17bからの力の伝達によってキャビネット本体2の背面側に向けて移動可能なスライド板18と、から構成され、キャビネット本体2には、スライド板18のキャビネット本体2の背面側への移動を阻止する阻止部材19が設けられているので、前板8の引出1の前方側への揺動を、スライド板18のキャビネット本体2の背面側への移動に転換し、スライド板18が阻止部材19を押圧する力によって引出1を引出位置に向けて引き出すことができるので、前板8の収納箱6の前方側への揺動と引出1の引出位置に向けての引き出しとを阻止部材19の設置位置により調整することができる。
【0054】
また、ピニオンギア17a,17bは、スライド板15及びステー16にかかる力を増力させて前記第2リンク部材に伝達するので、ピニオンギア17a,17bからスライド板18に出力する力を増大させることができるので、前板8が引出1の前方側に向けて揺動する際に前板8にかかる力が小さくとも引出1を引出位置に向けて引き出すことができる。
【実施例2】
【0055】
次に、実施例2に係るキャビネットにつき、図9を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成を省略する。以下、図9(a)及び図9(b)の紙面左側をキャビネットの正面側(前方側)として説明する。
【0056】
図9(a)及び図9(b)に示すように、本実施例における伝達部は、一端が前板8の背面の右端部に左右方向を向く枢軸によって揺動可能に枢支されている本発明における第1リンク部材を構成する第1アーム20と、一端が第1アーム20の他端に左右方向を向く枢軸21によって揺動可能に枢支され、中間部よりも他端側で左右方向を向く枢軸23によって側板6aに前後方向に揺動自在に枢支される本発明における第2リンク部材を構成する第2アーム22と、で構成されており、第2アーム22の他端部には、収納箱6の外側方に向けて貫通長孔6fを介して当接ピン24が突設されている。また、阻止部材19は、引出1がキャビネット本体2内の収納位置に収納配置されているときから、当接ピン24に当接するように配置されている。
【0057】
貫通長孔6fは、当接ピン24が前板8が正面側に揺動されることによって円弧軌道を描いて前後方向に移動するため、前板8の揺動時に当接ピン24に当接しないよう、上下幅寸法が実施例1よりも上下方向に長寸に形成されている。
【0058】
更に、第2アーム22における第1アーム20が枢支される一端側には、第2アーム22の長手方向に沿って複数の枢支孔22aが形成されている。これら枢支孔22aには、第1アーム20と第2アーム22とを枢支するための枢軸21を挿通可能となっている。このため、第2アーム22における枢軸21から枢軸23までの距離R1は、枢軸21をいずれかの枢支孔22aに挿通させることによって、枢軸23から当接ピン24までの距離R2よりも長寸を維持する範囲で変更することができるようになっている。
【0059】
このように構成された引出1を収納位置から引出位置に向けて引き出すには、図9(a)及び図9(b)に示すように、まず、使用者が前板8をキャビネット本体2の背面側に向けて押圧し、係止部25と被係止部26との係止を解除することで前板8を正面側に揺動させる。この前板8の正面側への揺動によって、第1アーム20の他端が第2アーム22の一端側を枢軸23を揺動中心として正面側に揺動させようとし、第2アーム22の他端側は、当接ピン24を阻止部材19に当接させながらキャビネット本体2の背面側に揺動しようとする。
【0060】
このとき、第2アーム22における枢軸21から枢軸23までの距離R1は、枢軸23から当接ピン24までの距離R2よりも長寸となっているので、当接ピン24は、梃子の原理により使用者が前板8を正面側に揺動する力よりも大きな力で阻止部材19をキャビネット本体2の背面側に向けて押圧する。このため、収納箱6は、オイルダンパ4からの粘性抵抗に抗して、当接ピン24が阻止部材19から受ける正面側を向く反力によってキャビネット本体2の正面側に距離L1だけ引き出される。
【0061】
尚、本実施例では第2アーム22における枢軸21の位置を変更することによって当接ピン24が阻止部材19を押圧する力を調整したが、第2アーム22における枢軸21から枢軸23までの距離R1が枢軸23から当接ピン24までの距離R2よりも長寸を維持する範囲で、第2アーム22における枢軸23の位置を当接ピン24と枢軸21との間で適宜変更し、当接ピン24が阻止部材19を押圧する力を調整するようにしてもよい。
【実施例3】
【0062】
次に、実施例3に係るキャビネットにつき、図10を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成を省略する。以下、図10の紙面左側をキャビネットの正面側(前方側)として説明する。
【0063】
図10に示すように、本実施例における側板6aの中空部14における上端後部には、本発明における検知手段としてのリミットスイッチ27が配置されている。このリミットスイッチ27は、前板8が収納箱6の正面側を閉塞している状態において、使用者によってキャビネット本体2の背面側に向けて押圧される前板8と連動して中空部14内を摺動するスライド板15の後端部からのみ押圧されるようになっており、他の中空部14内に配置された部材及び中空部14の外部からは押圧不可能となっている。
【0064】
また、前板8と前板8をカバー部材12に枢支する枢軸13との間には、本発明における付勢手段としてのサーボモータ28が接続されており、これらリミットスイッチ27とサーボモータ28とは、図示しない制御回路を介して接続されている。
【0065】
このように構成された引出1は、使用者が前板8をキャビネット本体2の背面側に向けて押圧することで、係止部25と被係止部26との係止が解除されると、同時に、図示しない制御回路が、リミットスイッチ27がスライド板15によって押圧されたことに基づいて係止部25と被係止部26との係止が解除されたことを検知する。
【0066】
そして、図示しない制御回路は、このリミットスイッチ27の押圧を検知することを条件にサーボモータ28を所定量正転駆動させ、前板8を収納箱6の前方側に向けて付勢し、引出1を前板8の自重と被係止部26からの付勢力とサーボモータ28の所定回転数又は所定時間の正転駆動によって引出位置に向けて引き出す。
【0067】
尚、リミットスイッチ27は、引出1を収納位置に収納配置させる際に、係止部25と被係止部26とを再び係止させると、リミットスイッチ27が係止部25と被係止部26とが係止されたことを検知するので、引出1を収納位置に収納配置させる際に、サーボモータ28の正転駆動によって前板8が収納箱6の前方側に向けて揺動されてしまう動作をすることがない。
【0068】
以上、本実施例におけるキャビネットにあっては、係止部25と被係止部26との係止が解除されたことを検知するリミットスイッチ27を備え、サーボモータ28は、リミットスイッチ27が係止部25と被係止部26との係止が解除されたことを検知することによって前板8を収納箱6の前方側に向けて付勢するので、係止部25と被係止部26との係止が解除されない限りサーボモータ28が作用しないので、前板8が急激に揺動することを防止することができる。
【実施例4】
【0069】
次に、実施例4に係るキャビネットにつき、図11を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する構成を省略する。以下、図11の紙面左側をキャビネットの正面側(前方側)として説明する。
【0070】
図11に示すように、本実施例における係止部25は、前板8背面の上部に取り付けられており、被係止部26は、キャビネット本体2の両側板2a,2a間に架設された梁Bの下面に取り付けられている。
【0071】
この被係止部26内には、図示しないスイッチが内蔵されている。また、梁Bにおける被係支部26の直上方には、本発明における付勢手段としての電動シリンダ29が設けられている。この電動シリンダ29は、前端部に電気駆動によってキャビネット本体2の前方側に向けて突出するプッシュロッド29a備えている。また、被係止部26内のスイッチと電動シリンダ29は、図示しない制御回路を介して接続されている。
【0072】
この図示しない制御回路は、構成使用者が前板8をキャビネット本体2の背面側に向けて押圧することで、係止部25と被係止部26との係止が解除されると、同時に、係止部25と被係止部26との係止が解除されたことを検知し、電動シリンダ29はプッシュロッド29aをキャビネット本体2の前方側に向けて突出させるようになっている。
【0073】
図示しない制御回路によってキャビネット本体2の前方側に向けて突出されたプッシュロッド29aは、前板8を背面から押圧することで、前板8を収納箱6の前方に向けて揺動させる。尚、このとき、プッシュロッド29aが押圧する箇所は、前板8を枢支している枢軸から前板8の前後幅の略全長に亘って離間しているため、小さな圧力で前板8を収納箱6の前方側に向けて揺動させることができる。
【0074】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0075】
例えば、前記実施例では、被係止部26内の図示しないコイルバネによって係止部25を収納箱6の前方側に向けて付勢することで前板8を収納箱6の正面側に向けて揺動させたが、被係止部26内にコイルバネを設けず、枢軸13と前板8との間に前板8を収納箱6の正面側に向けて付勢するコイルバネを設けてもよい。
【0076】
また、前記実施例では、前板8を、前板8の自重と、被係止部26の図示しないコイルバネの付勢力またはサーボモータ28の正転駆動とによって収納箱6の前方側に向けて揺動させたが、引出1が収納位置に収納配置されている際に前板8の重心Gが枢軸13よりも引出1の正面側に配置されている場合には、前板8の自重のみで前板8が収納箱6の前方側に向けて揺動するようにしてもよい。
【0077】
また、前記実施例では、ピニオンギア17aの回転速度をピニオンギア17bで減速することで、前板8が収納箱6の前方側に向けて揺動される際に前板8にかかる力よりも増強された力で当接部18cを阻止部材19を押圧させ、引出1を引出位置に向けて引き出したが、前板8が十分な自重を有している場合は、伝達部を単一のピニオンギアのみで構成し、該ピニオンギアを両ラック部15b,18aに噛み合うように配置し、前板8が収納箱6の前方側に向けて揺動される際に前板8にかかる力をそのままスライド板18に伝達するようにしてもよい。
【0078】
また、前記実施例では、ガイドレール3の後端部に傾斜部3dを形成し、この傾斜部3dでローラ6cを後下方に向けて移動させることで引出1を収納位置に向けて引き込んだが、ガイドレール全体を水平部に形成するとともに、キャビネット本体2と引出1との間に引出1を収納位置に向けて付勢するコイルバネ等の引込手段を設け、この引込手段の付勢力によって引出1を引出位置側から収納位置に向けて引き込むようにしてもよい。
【0079】
また、前記実施例では、前板8の背面における左右側端上部に係止部25を設け、収納箱6の左右側板6a,6aの前端部であるカバー体12の上部に被係止部26を設けたが、係止部を前板8の背面における左右方向の略中央部に設けるとともに、被係止部をキャビネット本体2の両側板2a,2a間に架設された梁Bの左右方向の略中央部に設け、係止部と被係止部の係止が前板8の左右方向の略中央の上部で行われるようにしてもよい。
【0080】
また、前記実施例1、3,4では、伝達部としてピニオンギア17a,17bを用い、前記実施例2では、伝達部として第1アーム20及び第2アーム22を用いたが、伝達部の組合せとしては上記に限らず、例えば、ピニオンギア17aと第2アーム22、第1アーム20とピニオンギア17bのように動作の異なる複数の部材を組み合わせて構成してもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 引出
2 キャビネット本体
6 収納箱
8 前板
15 スライド板(第1リンク部材)
16 ステー(第1リンク部材)
17a,17b ピニオンギア(伝達部)
18 スライド板(第2リンク部材)
19 阻止部材
20 第1アーム(伝達部,第1リンク部材)
21 枢軸
22 第2アーム(伝達部,第2リンク部材)
22a 枢支孔
23 枢軸
24 当接ピン
25 係止部
26 被係止部
27 リミットスイッチ(検知手段)
28 サーボモータ(付勢手段)
29 電動シリンダ(付勢手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方に向けて開口する収納箱と該収納箱の正面側に配置される前板とから構成されるとともに、前方側に向けて開口するキャビネット本体内に収納される収納位置と、前記キャビネット本体外に引き出される引出位置と、の間で移動可能に案内される引出を備え、前記前板を前後方向に揺動可能に該前板の下端部を前記収納箱の正面側に枢支したキャビネットであって、
前記前板に係止部を設けるとともに、前記キャビネット本体または前記収納箱のいずれか一方に、前記前板が前記収納箱の正面側を閉塞する際に前記係止部と係止する被係止部を設け、
前記収納箱には、前記係止部と前記被係止部との係止が解除されることで前記前板が前記収納箱の前方側に所定開度揺動され、該前板の所定開度の揺動に応じて前記引出を一定量前記引出位置に向けて引き出す連動手段が設けられていることを特徴とするキャビネット。
【請求項2】
前記前板を前記収納箱の前方側に向けて付勢する付勢手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のキャビネット。
【請求項3】
前記係止部と前記被係止部との係止が解除されたことを検知する検知手段を備え、前記付勢手段は、前記検知手段が前記係止部と前記被係止部との係止が解除されたことを検知することによって前記前板を前記引出の前方側に向けて付勢することを特徴とする請求項2に記載のキャビネット。
【請求項4】
前記連動手段は、前記引出位置に向けて移動可能な第1リンク部材と、該第1リンク部材にかかる力を前記キャビネット本体の背面側に向けて転換する伝達部と、該伝達部からの力の伝達によって前記キャビネット本体の背面側に向けて移動可能な第2リンク部材と、から構成され、前記キャビネット本体には、前記第2リンク部材の前記キャビネット本体の背面側への移動を阻止する阻止部材が設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のキャビネット。
【請求項5】
前記伝達部は、前記第1リンク部材にかかる力を増力させて前記第2リンク部材に伝達することを特徴とする請求項4に記載のキャビネット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−212273(P2011−212273A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83926(P2010−83926)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002222)サンウエーブ工業株式会社 (196)
【Fターム(参考)】