説明

クチナシ赤色素およびその製造方法

【課題】赤味が強く鮮やかな色調の飲食品を製造できる新規なクチナシ赤色素を提供すること、さらにそのようなクチナシ赤色素をより高収率で製造する方法を提供すること。
【解決手段】イリドイド配糖体中イリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有する物質(例えば、ゲニポシド酸など)、全窒素量当りのアミノ基量が30〜60の範囲に含まれるタンパク質加水分解物(例えば、全窒素量当りのアミノ基量が40.7の市販の小麦タンパク質加水分解物など)および有機酸(例えば、クエン酸など)を含有する水溶液を調製し、該水溶液にβ−グルコシダーゼを添加して酵素的加水分解反応する。これにより、分子量44万以上の成分の含有量が50%以上である新規なクチナシ赤色素が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クチナシ赤色素およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クチナシ赤色素は、中性域(pH6.0以上8.0以下)で赤色を呈し、熱や光に対して比較的安定であることから、中性域の液性を有する食品に対する赤色系着色料として主に利用されている。一般にクチナシ赤色素は、クチナシ果実抽出物等に含まれるイリドイド配糖体のエステル加水分解物をβ−グルコシダーゼにより酵素処理することにより製造される。
【0003】
クチナシ赤色素の製造方法としては、イリドイド化合物中イリドイド骨格の4位に−COOH基を持つ物質、または−COOCH基を持つ物質からエステルの加水分解により得た物質、あるいはそれらを含有する物質と一級アミノ基含有物質とを酸性条件下で作用せしめて反応させることを特徴とする赤色系色素組成物の製造方法(特許文献1参照)、イリドイド化合物中イリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有する物質(A)を、物質(A)に対して2モル当量以上のクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、アジピン酸、フマル酸、アスコルビン酸及びエリソルビン酸からなる群から選ばれる有機酸及び物質(A)に対して0.7モル当量以上のアルギニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸又はこれらの塩をpH3〜6の範囲で反応させることを特徴とする明色化した赤色色素の製造方法(特許文献2参照)、イリドイド化合物中イリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有する物質および第一級アミノ基含有物質とを五炭糖の存在下、酸性条件下で反応させることを特徴とするクチナシ赤色系色素の製造方法(特許文献3参照)などが知られている。また、実験室的製法として、イリドイド配糖体のエステル加水分解物のアグリコンとα−アラニンをクエン酸の存在下かつアルゴンガス雰囲気下で作用させる方法(非特許文献1参照)などが知られている。
【0004】
しかし、近年、クチナシ赤色素のユーザーのニーズが多様化しており、より赤味が強く鮮やかな色調の飲食品を製造できるクチナシ赤色素が求められている。さらに、従来の製造方法では、色素の収率が十分に高いものであるとは必ずしも言えないため、クチナシ赤色素をより高収率で製造する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭55−5778号公報
【特許文献2】特許第2802451号公報
【特許文献3】特許第2873518号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Moritome N,外3名,「Formation of Red Pigment Produced from Geniposidic Acid and Amino Compound」,Journal of Food Science and Technology,2002,vol.39,no.4,p.345−352
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、赤味が強く鮮やかな色調の飲食品を製造できる新規なクチナシ赤色素を提供すること、さらにそのようなクチナシ赤色素をより高収率で製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、イリドイド配糖体中イリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有する物質を特定の性質を有するタンパク質加水分解物の存在下でβ−グルコシダーゼ処理を行うことによって、得られるクチナシ赤色素の色価が十分に高まることを見いだした。さらに、このようにして得られたクチナシ赤色素は、分子量に着目すれば従来の製造方法では得られない新規なものであり、かつ従来のクチナシ赤色素よりも色調的に鮮やかであることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1)分子量44万以上の成分の含有量が50%以上であることを特徴とするクチナシ赤色素、
(2)イリドイド配糖体中イリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有する物質をタンパク質加水分解物の存在下でβ−グルコシダーゼ処理する工程を含むクチナシ赤色素の製造方法であって、該タンパク質加水分解物が下記式(1)を満たすクチナシ赤色素の製造方法、
からなっている。
【0009】
【数1】

【0010】
なお、上記式中、A、Nは、それぞれアミノ基量(μmol/mg)、全窒素量(%)を示す。
【発明の効果】
【0011】
本発明のクチナシ赤色素により飲食品を着色すると、従来のクチナシ赤色素により着色する場合に比べて、赤味が強く、鮮やかな色調の飲食品が得られる。
本発明のクチナシ赤色素の製造方法は従来の製造方法に比べ収率が向上したものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のクチナシ赤色素は、分子量44万以上の成分の含有量が50%以上である。
【0013】
ここで、「分子量44万以上の成分の含有量」は、下記の方法により測定される。
【0014】
[分子量44万以上の成分の含有量の測定法]
1)色価100に換算して約0.2gの試料を精密に量り、これに水を加えて正確に10mLとする。
2)その液を0.45μmのメンブレンフィルターでろ過した液を試験溶液とする。
3)試験溶液20μLをHPLC(高速液体クロマトグラフィー)に注入して、エンパワークロマトグラフィーマネージャーにより「全成分のピークの合計面積」および「保持時間17.7分よりも早く溶出した成分のピークの合計面積」を測定し、下記(2)式により分子量44万以上の成分の含有量を算出する。なお、前記保持時間は、分子量44万のタンパク質であるFerritin(GEヘルスケア・ジャパン社製)に基づいて決定した。
【0015】
【数2】

【0016】
上記HPLCの分析システムおよび分析条件を以下に示す。
【0017】
<HPLC分析システム>
2695セパレーションモジュール(日本ウォーターズ社製)
2996フォトダイオードアレイ検出器(日本ウォーターズ社製)
エンパワークロマトグラフィーマネージャー(日本ウォーターズ社製)
<HPLC分析条件>
カラム:YMC pack Diol−300(内径4.6mm、長さ300mm)(ワイエムシィ社製)
移動相:0.2M NaCl含有 0.1M K2HPO4−0.1M KH2PO4緩衝液(pH7.0)
流速:0.5mL/min
検出:530nm
カラム温度:30℃
【0018】
本発明のクチナシ赤色素の製造に用いられるイリドイド配糖体中イリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有する物質(以下、「物質A」ともいう)は、下記(3)式で表される化合物である。
【0019】
【化1】

【0020】
物質Aとしては、ゲニポシド酸が好ましく用いられる。ゲニポシド酸は、通常、アカネ科クチナシ(Gardenia augusta MERRIL var. grandiflora HORT.,Gardenia jasminoides ELLIS)の果実から抽出したゲニポシドを加水分解することにより調製される。
【0021】
上記クチナシの果実からゲニポシドを抽出する方法に制限はなく、例えば、クチナシの乾燥果実を粉砕し、水、アルコールまたはそれらの混合液を用いて抽出するなどの公知の方法が用いられる。抽出条件は、例えば水・アルコール混合液(1:1)を用いる場合、室温(約0〜30℃)〜50℃で約1〜18時間が好ましく、約30〜40℃で約2〜4時間がより好ましい。乾燥果実の粉砕物からのゲニポシドの抽出率をより高めるため、抽出操作は通常複数回繰り返される。ゲニポシドを含む抽出液は自体公知の方法により濃縮され、通常、濃縮液として冷蔵或いは冷凍保存される。
【0022】
この濃縮液は、通常、黄色素成分であるクロシンその他のゲニポシド以外の成分を除去するため、吸着樹脂処理される。吸着樹脂処理は、例えば、下記の方法により行われる。
【0023】
初めに、上記濃縮液を適当な濃度に希釈し、吸着樹脂を充填したカラムに希釈液を供給する。吸着樹脂としては、アンバーライトXAD−4、アンバーライトXAD−7(製品名;オルガノ社製)、ダイヤイオンHP−20、HP−21、HP−40(製品名;三菱化学社製)等の多孔性樹脂が挙げられ、アンバーライトXAD−7が好ましく用いられる。
【0024】
次に、水または低濃度のアルコール(例えば、エタノール等)と水の混合液をカラムに通液し、その非吸着及び溶出画分を回収することにより、ゲニポシドを含む画分が得られる。この画分は自体公知の方法により濃縮され、通常、濃縮液として冷蔵或いは冷凍保存される。
【0025】
ゲニポシドの加水分解は、定法に従って行われてよく、通常、酸、アルカリまたは適当な加水分解酵素を用いて行われる。ここで酸としては、例えば塩酸、硫酸およびリン酸などが挙げられる。アルカリとしては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムなどが挙げられる。また加水分解酵素としては、エステラーゼなどが挙げられる。
【0026】
工業的には、ゲニポシドの加水分解は通常アルカリを用いて行われる。一例を示すと、前記ゲニポシドを含む画分の濃縮液に過剰量の水酸化ナトリウム水溶液を加え、好ましくは攪拌下、室温(約0〜30℃)〜70℃で約1〜24時間、好ましくは約40〜60℃で約3〜5時間反応する。
【0027】
アルカリによる加水分解終了後、反応液に塩酸、硫酸またはリン酸などの無機酸もしくはクエン酸などの有機酸の水溶液を適量加え、液性をpH約7.0以下、好ましくはpH約4.0以下にすることによりゲニポシド酸を含むゲニポシド酸液が調製される。
【0028】
ゲニポシド酸液のゲニポシド酸含有量(質量%)は、以下の方法により測定される。
【0029】
[ゲニポシド酸含有量の測定方法]
1)試料約0.1gを精密に量り、水を加えて溶かし、更に水を加えて正確に100mlとする。必要により、濃度が10〜40μg/mlとなるように水で正確に希釈する。
2)ゲニポシド酸標準品(和光純薬工業社製)5mgを精密に量り、水を加えて正確に50mlとする。更に、水を用いて正確に2.5倍希釈(40μg/ml)、5倍希釈(20μg/ml)及び10倍希釈(10μg/ml)する。
3)1)の液及び2)の希釈液を0.45μmのメンブレンフィルターでろ過した液を試験溶液とする。
4)試験溶液10μlをHPLC(高速液体クロマトグラフィー)に注入して、エンパワークロマトグラフィーマネージャーにより保持時間5分付近のピーク(ゲニポシド酸のもの)の面積を測定する。
5)ゲニポシド酸標準品の各希釈液の面積から検量線を作成し、この検量線を用いて、試料中のゲニポシド酸濃度を算出し、該濃度をゲニポシド酸含有量(質量%)に換算する。
HPLC分析システムおよび分析条件を以下に示す。
【0030】
<HPLC分析システム>
2695セパレーションモジュール(日本ウォーターズ社製)
2996フォトダイオードアレイ検出器(日本ウォーターズ社製)
エンパワークロマトグラフィーマネージャー(日本ウォーターズ社製)
<HPLC分析条件>
カラム:YMC−Pack C8(内径4.6mm;長さ150mm;YMC社製)
移動相:10mMリン酸緩衝液(pH3.0)−メタノール(5:1)
流速:1ml/min
検出:238nm
カラム温度:30℃
【0031】
本発明に用いられるタンパク質加水分解物は、例えば大豆や小麦などの植物由来のタンパク質、カゼインやゼラチンなどの動物由来のタンパク質または酵母などの微生物に由来するタンパク質の加水分解物であって、下記式(4)を満たすものである。
【0032】
【数3】

【0033】
なお、上記式(4)中、A、Nは、それぞれアミノ基量(μmol/mg)、全窒素量(%)を示す。また、上記式(4)により算出される値を、以下「全窒素量当りのアミノ基量」という。全窒素量当りのアミノ基量が30未満のタンパク質加水分解物は、該加水分解物を用いて製造されるクチナシ赤色素の色価が十分に高くならないため好ましくなく、全窒素量当りのアミノ基量が60を超えるタンパク質加水分解物は、その製造の際に精製度を極めて高くする必要があり、実質的に製造・入手が不可能なため好ましくない。
【0034】
上記式(4)を満たすタンパク質加水分解物(即ち、全窒素量当りのアミノ基量が30〜60のタンパク質加水分解物)としては、例えば、プロエキスHVP−G(商品名;播州調味料社製;全窒素量当りのアミノ基量40.7)、プロエキスG2(商品名;播州調味料社製;全窒素量当りのアミノ基量50.7)及びEPS−C(商品名;播州調味料社製;全窒素量当りのアミノ基量31.7)などが商業的に生産・販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0035】
上記アミノ基量(μmol/mg)は、以下の[アミノ基量測定法]に基づき測定される。
【0036】
[アミノ基量測定法]
1)0.1、0.25、0.5、0.75、1.0、1.5μmol/mlのグリシン水溶液を調製する。
2)1.5mg/mlのタンパク質加水分解物水溶液を調製する。
3)1mlのOPA溶液(オルトフタルアルデヒド40mg、0.1M四ほう酸ナトリウム緩衝液(pH9.3)50ml、2−(ジメチルアミノ)エタンチオール塩酸塩100mg)と10μlのグリシン水溶液又はタンパク質加水分解物水溶液を混合し、2分間静置する。
4)OPA溶液を対照として、液層の長さ1cmで340nmにおける吸光度を測定する。
5)グリシン水溶液から得られる検量線を基に、タンパク質加水分解物中のアミノ基をグリシン量に換算し、下記式(5)によりアミノ基量(μmol/mg)を求める。
【0037】
【数4】

【0038】
上記全窒素量(%)は、『第8版 食品添加物公定書』に記載の「窒素定量法(セミミクロケルダール法)」に準じて測定することができる。
【0039】
本発明に用いられるβ−グルコシダーゼとしては、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素であれば特に制限はなく、例えば、Aspergillus niger、Trichoderma reesei、Trichoderma viride、アーモンド等に由来するものが挙げられる。β−グルコシダーゼとしては、スミチームC6000、スミチームAC、スミチームC、スミチームX、スミチームBGT、スミチームBGA(商品名;新日本化学工業社製)、セルロシンAC40、セルロシンT3、セルロシンAL(商品名;エイチビイアイ社製)オノズカ3S、Y−NC(商品名;ヤクルト薬品工業社製)、セルラーゼA「アマノ」3、セルラーゼT「アマノ」4(商品名;天野エンザイム社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0040】
本発明のクチナシ赤色素の製造方法としては、物質Aを、全窒素量当りのアミノ基量が30〜60のタンパク質加水分解物の存在下でβ−グルコシダーゼ処理する工程を含むものであれば特に制限されない。工業的には、物質A、全窒素量当りのアミノ基量が30〜60のタンパク質加水分解物および有機酸(例えば、クエン酸など)を含有する水溶液を調製し、該水溶液にβ−グルコシダーゼを添加して酵素的加水分解反応する方法が好ましく行われる。
【0041】
なお、上記反応は、温度条件が通常約40〜80℃、好ましくは約50〜60℃であり、pH条件が通常pH3〜6、好ましくはpH4〜5であり、反応時間が通常約24〜96時間、好ましくは約48〜72時間の範囲内で行うことができる。
【0042】
また、上記反応におけるpH条件の調整のため、物質A等を含有する水溶液にβ−グルコシダーゼを添加する前に、該水溶液に適量のアルカリ剤(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムなど)を加えることが好ましく行われる。
【0043】
上記反応は、窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス等の不活性ガス下の嫌気条件で行うことが好ましい。嫌気条件は、例えば、物質A等を含有する水溶液にβ−グルコシダーゼを添加する前に、該水溶液に不活性ガスを吹き込むことにより設定することができる。
【0044】
β−グルコシダーゼの添加方法に特に制限はないが、β−グルコシダーゼの水溶液を調製し、該水溶液を添加する方法が好ましい。
【0045】
上記反応の行われる溶液100質量%中、物質Aが約1〜20質量%、好ましくは約4〜15質量%、全窒素量当りのアミノ基量が約30〜60のタンパク質加水分解物が約1〜25質量%、好ましくは約4〜15質量%、有機酸が約1〜20質量%、好ましくは約1〜12質量%となるように調整するのが好ましい。β−グルコシダーゼの添加量は、物質A1gに対し、0.0028〜0.07gとすることが好ましい。
【0046】
上記反応により得られる反応液を約70〜100℃、好ましくは約80〜90℃で約0.5〜3時間、好ましくは約1〜2時間加熱して酵素を失活させた後、必要により吸着処理、膜処理、酸沈澱処理などの精製処理をすることにより、本発明に係るクチナシ赤色素が得られる。
【0047】
本発明の製造方法の収率は、製造されたクチナシ赤色素についてゲニポシド酸1g当りのE(1%1cm)を測定することにより評価できる。ゲニポシド酸1g当りのE(1%1cm)は、1gのゲニポシド酸より得られた色素の1%溶液の光路長1cmにおける吸光度を表す。即ち、ゲニポシド酸1g当りのE(1%1cm)は、一定量のゲニポシド酸により得られる色素の色の強さを意味するため、この値が高いほど収率の高いクチナシ赤色素の製造方法であることを示す。ゲニポシド酸1g当りのE(1%1cm)は、以下の方法に基づき測定できる。
【0048】
[ゲニポシド酸1g当りのE(1%1cm)の測定法]
1)測定する吸光度が0.3〜0.7の範囲になるように、試料を精密に量り、酢酸緩衝液(pH4.0)に溶かして正確に100mlとする。
2)酢酸緩衝液を対照とし、液層の長さ1cmで530nm付近の極大吸収部における吸光度Aを測定し、下記式(6)によりE(1%1cm)を求める。
【0049】
【数5】

3)2)で求めたE(1%1cm)と、クチナシ赤色素の製造においてβ−グルコシダーゼの添加による酵素的加水分解反応が全く起こらなかったと仮定した場合に得られる試料のゲニポシド酸含有量(質量%)から、下記式(7)によりゲニポシド酸1g当りのE(1%1cm)を求める。
【0050】
【数6】

【0051】
本発明のクチナシ赤色素は、そのままの状態で色素製剤として提供することもできるし、希釈剤、担体またはその他の添加剤を配合し、製剤化して提供することもできる。製剤の形態としては、液体製剤、粉末製剤、顆粒製剤、錠剤、マイクロカプセル、ソフトカプセル、ハードカプセル、W/O型乳化液などが挙げられる。
【0052】
また、本発明のクチナシ赤色素は、飲食品の着色に用いることができ、例えば、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット、氷菓などの冷菓類、乳飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、スポーツ飲料、粉末飲料、アルコール飲料、コーヒー飲料、茶飲料などの飲料類、プリン、ゼリー、ヨーグルトなどのデザート類、チューインガム、チョコレート、ドロップ、キャンディ、クッキー、せんべい、グミなどの菓子類、ジャム類、スープ類、漬物類、ドレッシング、たれなどの調味料、ハム、ソーセージなどの畜肉加工品、魚肉ソーセージ、かまぼこなどの水産練り製品などの着色に用いることができる。
【0053】
さらに、本発明のクチナシ赤色素を用いて上記飲食品を着色するにあたり、退色や変色の抑制のため、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、ルチン、ケルセチン、ローズマリー抽出物、セージ抽出物、モリン、カフェ酸、クロロゲン酸などの抗酸化剤を添加しても良い。特に、本発明のクチナシ赤色素を用いて魚肉ソーセージを着色する場合には、該魚肉ソーセージにアスコルビン酸またはアスコルビン酸ナトリウムを添加することが好ましい。これにより、魚肉ソーセージの製造時の加熱殺菌による色調変化が顕著に抑制される。
【0054】
また、本発明のクチナシ赤色素は、色調の調整のため他の食用色素と併用することができる。そのような食用色素としては、例えばモナスカス色素などのアザフィロン系色素、赤キャベツ色素や赤ダイコン色素などのアントシアニン系色素、ラック色素やコチニール色素などのアントラキノン系色素、ビートレッド色素などのベタシアニン系色素、トマト色素、パプリカ色素、クチナシ黄色素などのカロチノイド系色素、ベニバナ黄色素やカカオ色素などのフラボノイド色素などが挙げられる。本発明のクチナシ赤色素と他の食用色素とを併用する方法に特に制限はなく、例えば本発明のクチナシ赤色素と他の食用色素とを配合した色素製剤を調製する方法、或いは本発明のクチナシ赤色素を用いて飲食品を着色するにあたり、本発明のクチナシ赤色素と他の食用色素をそれぞれ該飲食品に添加する方法などが挙げられる。
【0055】
本発明のクチナシ赤色素を用いて着色した飲食品は、従来のクチナシ赤色素を用いて着色したものよりも色調的に鮮やかな優れたものである。鮮やかさの度合いは、例えばクチナシ赤色素により着色した飲食品について、常法によりマンセル表色系における彩度(C)を測定することにより確認することができる。
【実施例】
【0056】
以下に本発明を製造例、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
[製造例]ゲニポシド酸液の調製
粉砕したクチナシの乾燥果実1800gに40vol%エタノール・水混合液7200mlを加え、室温で3時間攪拌した後吸引ろ過した。抽出残に40vol%エタノール・水混合液3300mlを加え、室温で30分間攪拌した後吸引ろ過する操作を2回繰り返し、ろ液として計10500mlの抽出液を得た。この抽出液を、ロータリーエバポレーターを用いて60℃、4kPaの条件で濃縮し、ゲニポシドを含む濃縮液約500mlを得た。
得られた濃縮液に水を加えて1000mlとし、アンバーライトXAD−7(製品名;オルガノ社製)3000mlを充填したカラムに流速SV=0.5で通液した。その後、カラムに流速SV=0.5で24000mlの水を通液し、排出液を回収した。回収した液を、ロータリーエバポレーターを用いて、60℃、4kPaの条件で濃縮し、ゲニポシドを47.1%含む濃縮液90gを得た。
得られた濃縮液90gと、水34.8gを混合した後、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を11.8g加え、60℃で3時間加水分解処理した。処理後、50質量%クエン酸水溶液を48.9g加え、ゲニポシド酸含有量が19.25質量%のゲニポシド酸液180gを得た。
【0058】
[実施例1]
製造例で得たゲニポシド酸液6.47g、トウモロコシタンパク質加水分解物(商品名;プロエキスG2;播州調味料社製;全窒素量当りのアミノ基量50.7)0.99gおよびクエン酸1.87gを混合・溶解した後、水酸化ナトリウムでpHを4.5に調整し、さらに水を加え、総量25.13gの水溶液を調整した。得られた水溶液中に窒素ガスを導入し、液中の溶存酸素を低減させた後、60℃に保温した。次いで、この水溶液にβ−グルコシダーゼ(商品名:スミチームC6000;新日本化学社製)の2質量%水溶液0.87gを加え、60℃で酵素的加水分解反応を60時間行った。反応後、得られた反応液を90℃で1時間加熱し、クチナシ赤色素(実施例品1)26gを得た。
【0059】
[実施例2]
製造例で得たゲニポシド酸液6.47g、トウモロコシタンパク質加水分解物(商品名:EPS−C;播州調味料社製;全窒素量当りのアミノ基量31.7)1.58gおよびクエン酸1.87gを混合・溶解した後、水酸化ナトリウムでpHを4.5に調整し、さらに水を加え、総量25.13gの水溶液を調整した。得られた水溶液中に窒素ガスを導入し、液中の溶存酸素を低減させた後、60℃に保温した。次いで、この水溶液にβ−グルコシダーゼ(商品名:スミチームC6000;新日本化学社製)の2質量%水溶液0.87gを加え、60℃で酵素的加水分解反応を60時間行った。反応後、得られた反応液を90℃で1時間加熱し、クチナシ赤色素(実施例品2)26gを得た。
【0060】
[実施例3]
製造例で得たゲニポシド酸液16.84g、小麦タンパク質加水分解物(商品名;プロエキスHVP−G;播州調味料社製;全窒素量当りのアミノ基量40.7)3.19gおよびクエン酸0.49gを混合・溶解した後、水酸化ナトリウムでpHを4.5に調整し、さらに水を加え、総量23.74gの水溶液を調整した。得られた水溶液中に窒素ガスを導入し、液中の溶存酸素を低減させた後、60℃に保温した。次いで、この水溶液にβ−グルコシダーゼ(商品名:スミチームC6000;新日本化学社製)の2質量%水溶液2.26gを加え、60℃で酵素的加水分解反応を60時間行った。反応後、得られた反応液を90℃で1時間加熱し、クチナシ赤色素(実施例品3)26gを得た。
【0061】
[比較例]
製造例で得たゲニポシド酸液6.47g、トウモロコシタンパク質加水分解物(商品名:CEB−5010;セムピオフーズ社製;全窒素量当りのアミノ基量12.1)4.59gおよびクエン酸1.87gを混合・溶解した後、水酸化ナトリウムでpHを4.5に調整し、さらに水を加え、総量25.13gの水溶液を調整した。得られた水溶液中に窒素ガスを導入し、液中の溶存酸素を低減させた後、60℃に保温した。次いで、この水溶液にβ−グルコシダーゼ(商品名:スミチームC6000;新日本化学社製)の2質量%水溶液0.87gを加え、60℃で酵素的加水分解反応を60時間行った。反応後、得られた反応液を90℃で1時間加熱し、クチナシ赤色素(比較例品)26gを得た。
【0062】
[参考例]
特許第2802451号公報の実施例1記載の方法に準じてクチナシ赤色素を製造した。即ち、製造例で得たゲニポシド酸液5.20g、グルタミン酸0.496g、クエン酸1.51gを混合・溶解した後、水酸化ナトリウムでpHを4.5に調整し、さらに水を加え、総量12.06g(10ml)の水溶液を調整した。得られた水溶液を20ml容試験管に移し、セルラーゼAP−3(天野製薬社製)167mgを溶解し、アルゴンガスを管内に満たした。これを55℃で19時間維持した後、90℃で1時間加熱し、クチナシ赤色素(参考例品)12gを得た。
【0063】
[試験例1]
実施例1〜3、比較例および参考例の製造方法で得られたクチナシ赤色素(実施例品1〜3、比較例品および参考例品)について「分子量44万以上の成分の含有量」を測定した。また、得られたクチナシ赤色素についてゲニポシド酸1g当りのE(1%1cm)を測定することにより、これら製造方法の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1の結果から、分子量に着目すれば、本発明のクチナシ赤色素(実施例品1〜3)は、参考例の方法により得られる公知のクチナシ赤色素とは異なる新規なものであると言える。さらに、本発明のクチナシ赤色素の製造方法は、比較例および参考例の製造方法に比べ収率の高い優れたものであることが明らかである。
【0066】
[試験例2]
実施例1および3の製造方法で得られたクチナシ赤色素(実施例品1および3)並びに市販のクチナシ赤色素(製品名:ガーデニアンレッドG;三井製糖社製;分子量44万以上の成分の含有量39.7%)を用いてそれぞれ着色した魚肉ソーセージを作製し、該魚肉ソーセージの色調および彩度を測定して評価した。
【0067】
(1)魚肉ソーセージの作製
冷凍調理すり身(大冷社製)75g、日食コーンスターチY(日本食品化工社製)10g、菜種サラダ油(岡村製油社製)7.5g、冷水7.5gおよびL−アスコルビン酸ナトリウム(栄研商事社製)0.05gに対して、クチナシ赤色素を加え、ゴムベラで均一になるまで混合した。クチナシ赤色素の添加量は、実施例品1(E(1%1cm)=2.10)が0.184g、実施例品3(E(1%1cm)=5.95)が0.065g、上記市販のクチナシ赤色素(市販品;E(1%1cm)=2.98)が0.13gとした。得られた混合物をポリエチレン製の袋に入れて脱気し、着色すり身約100gを得た。得られた着色すり身を袋から取り出して塩化ビニル製ケーシングに充填したものを115℃、20分間加熱殺菌して、魚肉ソーセージを得た。
(2)色調および彩度の測定
上記(1)により得られた魚肉ソーセージを輪切りにし、その断面の色調(L*a*b*表色系によるL*a*b*値)および彩度(マンセル表色系による彩度(C))を測定した。なお、色調および彩度の測定では、分光式色彩計(型式:SE−2000;日本電色工業社製;測定径:直径10mm)を用いた。結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2の結果から、本発明のクチナシ赤色素(実施例品1および3)により着色した魚肉ソーセージは、市販品のクチナシ赤色素により着色したものに比べてa*値および彩度(C)が大きい。ここで、L*a*b*表色系によるa*値は赤方向の色度を表し、この値が大きいほど赤味が強いことを意味する。したがって、本発明のクチナシ赤色素により着色した魚肉ソーセージは市販品により着色したものに比べて、赤味が強く、鮮やかな色調を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量44万以上の成分の含有量が50%以上であることを特徴とするクチナシ赤色素。
【請求項2】
イリドイド配糖体中イリドイド骨格の4位にカルボキシル基を有する物質をタンパク質加水分解物の存在下でβ−グルコシダーゼ処理する工程を含むクチナシ赤色素の製造方法であって、該タンパク質加水分解物が下記式(1)を満たすクチナシ赤色素の製造方法。
【数1】

〔式中、A、Nは、それぞれアミノ基量(μmol/mg)、全窒素量(%)を示す。〕