説明

クランクケース圧縮式2サイクル内燃機関

【目的】 掃気通路からシリンダ室に対するガスの充填効率を向上させることができると共に該ガスによる排気口からの燃焼ガスの押出しも十分に行えるクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関を提供する。
【構成】 シリンダブロック3に、クランク室6とシリンダ室1とを連通させる掃気通路9と、クランク室6に給気を行う給気口と、シリンダ室1からの排気を行う排気口10とを設ける。シリンダ室1に開口する掃気通路9の上部開口部12側で掃気通路9内に、この掃気通路9内を上下方向に複数の分割掃気通路部9a,9bに分割する整流板14を設ける。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、クランクケース圧縮式2サイクル内燃機関に関し、特にその掃気通路の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のこの種のクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関は、図6に示すように、シリンダ室1内にピストン2が昇降自在に配置されているシリンダブロック3と、ピストン2の昇降運動が連接棒4を介して伝えられて回転力に変換するクランク5のクランクアーム5a及びクランクピン5bをクランク室6内に収容しているクランクケース7とを有する。クランク5のクランク軸5cは、軸受8で回転自在に支持されてクランクケース7の外に導出されている。
【0003】シリンダブロック3には、クランク室6とシリンダ室1とを連通させる掃気通路9と、クランク室6に給気を行う給気口(この図6では、図示せず)と、シリンダ室1からの排気を行う排気口10と、シリンダ室1の上部で点火を行う点火栓11が設けられている。
【0004】このような従来のクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関の動作を、図6と図7を参照して説明する。
【0005】ピストン2の上昇行程でクランクケース7内に給気口より吸入された混合気は、ピストン2の下降行程で該クランクケース7内で圧縮され、ピストン2の下降につれてその側壁によって塞がれていた掃気通路9の上部開口部12が開き始めるとシリンダ室1内に圧送され、該シリンダ室1内の燃焼ガスを排気口10から押出しながら該シリンダ室1内に充填される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来のクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関では、次のような問題点がある。
【0007】(a)掃気通路9の上部開口部12がピストン2の下降により開き、混合気がシリンダ室1内に圧送される際、掃気通路9に沿って流れる該混合気は図7に示す流線の如くピストン2の側壁により一部が塞ぎ止められるため、該混合気の流れに乱れが生じ、該混合気の充填効率の低下を招くと共に該混合気により排気口10から押出すべき燃焼ガスの押出しも不十分になる。
【0008】(B)また、従来の構造では、図7に示すように掃気通路9の上部開口部12をピストン2の側壁で一部塞いでいるときには、該混合気の流れが上向きになるので、掃気通路9の上部開口部12をピストン2の側壁で塞いでいない完全開放状態の混合気の流れに比べて、図8に実線で示す流線のように排気口10に至る流路長が短いため、該混合気自体の排気口10からの吹抜けも多く、出力の低下を招くとともに、該混合気の流れが図7の流線の如くピストン頭部2aに沿って流れず、ピストン2の冷却が不十分となるため稀薄燃焼が不可能であり、燃費の悪化及び排気ガス中の環境汚染物質の排出の増加もまねいていた。
【0009】本発明の目的は、掃気通路からシリンダ室に対するガスの充填効率を向上させることができると共に該ガスによる排気口からの燃焼ガスの押出しも十分に行えるクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関を提供することにある。
【0010】本発明の他の目的は、出力向上,燃費の改善及び排気ガス中の環境汚染物質の削減を図ることができるクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、シリンダ室内にピストンが昇降自在に配置されているシリンダブロックと、ピストンの昇降運動が連接棒を介して伝えられて回転力に変換するクランクのクランクアーム及びクランクピンをクランク室内に収容しているクランクケースとを備え、シリンダブロックにはクランク室とシリンダ室とを連通させる掃気通路と、シリンダ室からの排気を行う排気口とが設けられているクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関を改良の対象としている。
【0012】本発明に係るクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関は、シリンダ室に開口する掃気通路の少なくとも上部開口部側で該掃気通路内に該掃気通路内を上下方向に複数の分割掃気通路部に分割する整流板が設けられていることを特徴とする。
【0013】この場合、整流板はシリンダブロックのシリンダ内壁より後退して設けられていることが好ましい。
【0014】本発明では、掃気通路からシリンダ室に供給されるガスとしては、混合気の場合と、空気の場合とがある。掃気通路からシリンダ室に供給されるガスが空気の場合には、燃料はシリンダ室内に直接噴霧されることになる。
【0015】
【作用】このようにシリンダ室に開口する掃気通路の少なくとも上部開口部側で該掃気通路内に該掃気通路内を上下方向に複数の分割掃気通路部に分割する整流板を設けると、ピストンの下降行程では該ピストンの側壁で塞がれていた各分割掃気通路部がピストンの下降につれて上側の分割掃気通路部から順次シリンダ室に開放されるようになる。
【0016】このため上方の分割掃気通路部がシリンダ室に開放されると、クランク室内の圧縮ガスはその開放された分割掃気通路部を経てシリンダ室内に圧送され、これにより該シリンダ室内の燃焼ガスを押出しながら該シリンダ室内に充填され始める。
【0017】ピストンが下降を続け、ピストン頭部が整流板付近に到達すると、ガスは上方の分割掃気通路部と整流板によって整流化され、ピストン頭部に沿いながらシリンダ室内に充填され。
【0018】更にピストンが下降してピストン頭部が該整流板の下方の分割掃気通路部に通じる開口部の位置に到達すると、該下方の分割掃気通路部からもシリンダ室内にガスの充填が始まる。このときのガスの流れは、上方の分割掃気通路部を流れる整流化されたガスにより方向付けされてシリンダ室内に充填される。
【0019】このため、ピストン側壁により塞ぎ止められるガスの影響を、掃気通路内を上下に分割する整流板で阻止することができ、且つガスの整流を良好に行えて、該ガスのシリンダ室に対する充填効率を向上させることができると共に該ガスにより排気口から押出すべき燃焼ガスの押出しも十分に行うことができる。
【0020】また、掃気行程におけるガスの流れを整流板により上下に区画して良好に整流できることにより、該ガスの排気口からの吹抜けを低減することができて、該ガスのシリンダ室に対する充填効率が向上して内燃機関の出力の向上を図ることができる。
【0021】かつまた、シリンダ室に吹き込まれるガスの流れの整流により稀薄燃焼下におけるピストンの高温化を抑制し、燃料消費量を削減することにより、排気ガス中の環境汚染物質の排出を少なくすることができる。
【0022】更に、整流板がシリンダブロックのシリンダ内壁より後退して設けられていると、該整流板がピストンに接触せず、このため該整流板の肉厚が薄くても、ピストンの昇降により損傷されるのを回避することができ、該整流板の信頼性を向上させることができる。
【0023】
【実施例】以下、本発明の実施例を図1〜図5を参照して詳細に説明する。なお、前述した図6〜図8と対応する部分には、同一符号を付けて示している。
【0024】本実施例のクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関においては、前述した従来例と同様に、シリンダ室1内にピストン2が昇降自在に配置されているシリンダブロック3と、ピストン2の昇降運動が連接棒4を介して伝えられて回転力に変換するクランク5のクランクアーム5a及びクランクピン5bをクランク室6内に収容しているクランクケース7とを有する。クランク5のクランク軸5cは、軸受8で回転自在に支持されてクランクケース7の外に導出されている。
【0025】シリンダブロック3には、クランク室6とシリンダ室1とを連通させる掃気通路9と、クランク室6に混合気の供給を行う給気口13と、シリンダ室1から燃焼ガスの排気を行う排気口10と、シリンダ室1の上部で点火を行う点火栓11が設けられている。
【0026】特に、本実施例のクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関においては、シリンダ室1に開口する掃気通路9の上部開口部12側で該掃気通路9内に該掃気通路9内を上下方向に複数の分割掃気通路部9a,9bに分割する整流板14が設けられている。即ち、本実施例では、整流板14により掃気通路9内が、水平方向の分割でなく、上下方向の分割により、上下方向に並ぶ分割掃気通路部9a,9bに分割されている点に特徴がある。本実施例の場合、該整流板14はシリンダブロック3と一体成形で設けられている。なお、該整流板14の端部は、シリンダブロック3とは別体に形成して後から組み付けることも可能である。該整流板14はシリンダブロック3のシリンダ内壁15の内表面に一致した位置か、或いは図示のように該シリンダ内壁15より後退して設けられる。
【0027】このようにシリンダ室1に開口する掃気通路9の上部開口部12側で該掃気通路9内に該掃気通路9内を上下方向に複数の分割掃気通路部9a,9bに分割する整流板14を設けると、ピストン2の下降行程では該ピストン2の側壁で塞がれていた各分割掃気通路部9a,9bがピストン2の下降につれて上側の分割掃気通路部9aから順次シリンダ室1に開放されるようになる。
【0028】このため上方の分割掃気通路部9aがシリンダ室1に開放されると、クランク室6内で圧縮されている混合気は、その開放された分割掃気通路部9aを経てシリンダ室1内に圧送され、これにより該シリンダ室1内の燃焼ガスを押出しながら該シリンダ室1内に充填され始める。
【0029】ピストン2が下降を続け、図3に示すようにピストン頭部2aが整流板14の付近に到達すると、混合気は上方の分割掃気通路部9aと整流板14によって整流化され、ピストン頭部2aに沿いながらシリンダ室1内に充填される。従って、ピストン頭部2aは混合気により冷却される。
【0030】更にピストン2が下降して、図4に示すようにピストン頭部2aが該整流板14の下方の分割掃気通路部9bに通じる開口部12bの位置に到達すると、該下方の分割掃気通路部12bからもシリンダ室1内に混合気の充填が始まる。このときの混合気の流れは、上方の分割掃気通路部12aを流れる整流化された混合気により方向付けされてシリンダ室1内に充填される。この状態でも、ピストン頭部2aは混合気により冷却される。
【0031】このため、ピストン2の側壁により塞ぎ止められる混合気の影響を、掃気通路9内を上下に分割する整流板14で阻止することができ、且つ混合気の整流を良好に行えて、該混合気のシリンダ室1に対する充填効率を向上させることができると共に該混合気により排気口10から押出すべき燃焼ガスの押出しも十分に行うことができる。
【0032】また、掃気行程における混合気の流れを整流板14により上下に区画して良好に整流できると、開口部12a,12bからシリンダ室1内に吹き出される混合気が従来のように上向きにならず、図5に示す流線のように、従来より長いパスで流れて排出口10から排出されるので、該混合気の排気口10からの吹抜けを低減することができて、該混合気のシリンダ室1に対する充填効率が向上して内燃機関の出力の向上を図ることができる。
【0033】かつまた、シリンダ室1に吹き込まれる混合気の流れの整流により稀薄燃焼下におけるピストン2の高温化を抑制し、燃料消費量を削減することにより、排気ガス中の環境汚染物質の排出を少なくすることができる。
【0034】本実施例のように、整流板14がシリンダブロック3のシリンダ内壁15より後退して設けられていると、該整流板14がピストン2に接触せず、このため該整流板14の肉厚が薄くても、ピストン2の昇降により損傷されるのを回避することができ、該整流板14の信頼性を向上させることができる。
【0035】上記実施例では、掃気通路9より混合気を供給する例について説明したが、該掃気通路9からは混合気の代りに空気を供給する場合もある。該掃気通路9からシリンダ室1に空気を供給する場合には、燃料はシリンダ室1内に直接噴霧することになる。
【0036】また、給気口13はシリンダブロック3に限らず、リードバルブを介してクランクケース7に設ける場合もある。
【0037】更に、整流板14は上記のように掃気通路9内の出口側に限らず、全長にわたって設けることもできる。
【0038】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係るクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関によれば、下記のような優れた効果を得ることができる。
【0039】本発明では、シリンダ室に開口する掃気通路の少なくとも上部開口部側で該掃気通路内に該掃気通路内を上下方向に複数の分割掃気通路部に分割する整流板を設けたので、ピストン側壁により塞ぎ止められるガスの影響を、掃気通路内を上下に分割する整流板で阻止することができ、且つガスの整流を良好に行えて、該ガスのシリンダ室に対する充填効率を向上させることができると共に該ガスにより排気口から押出すべき燃焼ガスの押出しも十分に行うことができる。
【0040】また、本発明によれば、掃気行程におけるガスの流れを整流板により上下に区画して良好に整流できるので、該ガスの排気口からの吹抜けを低減することができて、該ガスのシリンダ室に対する充填効率が向上して内燃機関の出力の向上を図ることができる。
【0041】かつまた、本発明によれば、シリンダ室に吹き込まれるガスの流れの整流により、稀薄燃焼下におけるピストンの高温化を抑制し、燃料消費量を削減することにより、排気ガス中の環境汚染物質の排出を少なくすることができる。
【0042】更に、整流板をシリンダブロックのシリンダ内壁より後退して設けることにより、該整流板がピストンに接触せず、このため該整流板の肉厚が薄くても、ピストンの昇降により損傷されるのを回避することができ、該整流板の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関の一実施例の縦断面図である。
【図2】図1のX−X線断面図である。
【図3】図1に示すクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関でピストンの頭部が整流板の位置まで下降した状態での混合気の流れを示す説明図である。
【図4】図1に示すクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関でピストンの頭部が整流板の位置より下降した状態での混合気の流れを示す説明図である。
【図5】本実施例でシリンダ室に吹き込まれたガスの流路を示す説明図である。
【図6】従来のクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関の縦断面図である。
【図7】従来のクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関でピストンの頭部が掃気通路の上部開口部を下降している状態での混合気の流れを示す説明図である。
【図8】従来のクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関でシリンダ室に吹き込まれたガスの流路を示す説明図である。
【符号の説明】
1 シリンダ室
2 ピストン
3 シリンダブロック
4 連接棒
5 クランク
5a クランクアーム
5b クランクピン
5c クランク軸
6 クランク室
7 クランクケース
8 軸受
9 掃気通路
9a,9b 分割掃気通路部
10 排気口
11 点火栓
12 上部開口部
12a,12b 分割上部開口部
13 給気口
14 整流板
15 シリンダ内壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】 シリンダ室内にピストンが昇降自在に配置されているシリンダブロックと、前記ピストンの昇降運動が連接棒を介して伝えられて回転力に変換するクランクのクランクアーム及びクランクピンをクランク室内に収容しているクランクケースとを備え、前記シリンダブロックには前記クランク室と前記シリンダ室とを連通させる掃気通路と、前記シリンダ室からの排気を行う排気口とが設けられているクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関において、前記シリンダ室に開口する前記掃気通路の少なくとも上部開口部側で該掃気通路内に該掃気通路内を上下方向に複数の分割掃気通路部に分割する整流板が設けられていることを特徴とするクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関。
【請求項2】 前記整流板は前記シリンダブロックのシリンダ内壁より後退して設けられていることを特徴とする請求項1に記載のクランクケース圧縮式2サイクル内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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