説明

クランクピンの研削方法及び研削盤

【課題】従来のC−X制御によるクランクピンの研削方法では対応できない種々の改善要望を的確に対処できるクランクピンの研削方法を提供する。
【解決手段】クランクジャーナルと、該クランクジャーナルに対して偏心したクランクピンPとを有するクランクシャフトCSの前記クランクピンPの外周面を、前記クランクジャーナルの軸心(ジャーナル中心JO)を回転中心として前記クランクシャフトCSを回転させると共に、前記クランクシャフトCSの回転位相角度に応じ、回転する砥石車Tを前記クランクシャフトCSの径方向に移動させて研削加工するクランクピンPの研削方法であって、前記クランクシャフトCSが1回転する間に該クランクシャフトCSの回転速度を変更して研削加工を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクピンの研削方法に関するものであり、詳しくは、クランクジャーナルと、該クランクジャーナルに対して偏心したクランクピンとを有するクランクシャフトの前記クランクピンの外周面を、前記クランクジャーナルの軸心を回転中心としてクランクシャフトを回転させると共に、砥石車をクランクシャフトの回転位相角度に応じてクランクシャフトの径方向に移動させて研削加工するクランクピンの研削方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クランクシャフトは、クランクジャーナルと、このクランクジャーナルに対して偏心するクランクピンとを有するものであり、上記クランクピンの外周面を研削加工する方法として、クランクシャフトを、クランクジャーナルの軸心を回転中心として回転させ、クランクピンに対向する砥石車を、クランクシャフトの回転位相角度に応じてクランクシャフトの径方向に移動させることで研削加工を行う方法がある。ここで、「クランクシャフトの回転位相角度」とは、クランクシャフトが1回転する間のクランクシャフトの姿勢を角度にて示すものであり、具体的に、クランクシャフトの回転中心、すなわち「クランクジャーナルの軸心」に対するクランクピンの位置を、クランクシャフトの回転角度によって示すものである。
【0003】
このようなクランクピンの研削方法は、NC円筒研削盤等の数値制御装置を具備する研削盤にて、ワークの回転軸をC軸とし、ワークに対する砥石車のワークの径方向の移動軸をX軸としたC軸及びX軸の制御、所謂「C−X制御」によって実現されている。そして、従来のC−X制御によるクランクピンの研削方法では、C軸を一定の回転数となるように制御して、すなわち、クランクシャフトを一定の回転速度で回転させて、クランクピンの外周面の研削加工を行っていた。
【0004】
【特許文献1】特開2001−260022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図1に示すように、クランクジャーナルの軸心(以下、「ジャーナル中心JO」という)を回転中心としてクランクシャフトCSを回転させると(矢印C)、クランクピンPは、自転しつつジャーナル中心JO周りを公転する所謂「遊星運動」をする(1点鎖線A)。よって、クランクシャフトCSを一定の回転速度で回転させたとしても、クランクピンPと砥石車Tとが接触する研削作用部分KSにおいて、砥石車Tの外周面とクランクピンPの外周面との相対速度は、クランクシャフトCSの回転位相角度に応じて変化する。このため、クランクシャフトCSを1回転させる間に、研削作用部分KSにおいて、研削速度が多様に変化することになる。そして、切削速度が変化することから、必然的に、研削能率や砥粒負荷も変化することになる。ここで、研削速度とは、ワークに対する砥石の速度であり、研削能率とは、単位時間当たりの研削容積で示される指数であり、砥粒負荷とは、砥粒の最大切り込み深さで示される指数である。
【0006】
また、研削作用部分KSは、クランクシャフトCSの回転中心であるジャーナル中心JOに対して旋回するように位置を変える。具体的に、研削作用部分KSは、クランクシャフトCSが1回転する間に、略楕円の軌跡を描いて移動する(1点差線B)。このため、上述した研削速度、研削能率、及び、砥粒負荷は、より多様に変化する。しかも、研削作用部分KSがクランクピンPの軸心POに対して上下に移動するため、研削作用部分KSへのクーラントの入り方も多様に変化し、クーラントによる冷却効果や潤滑効果も多様に変化する。
【0007】
このように、従来のC−X制御によるクランクピンPの研削方法では、クランクシャフトCSが1回転する間において、上述のような研削加工の種々の条件(以下、単に「研削条件」という)が多様に変化することになる。しかも、クランクシャフトCSの回転に伴って砥石車TがX軸方向に往復動するため(矢印X)、C軸に対するX軸の追従遅れが生じたり、研削抵抗の変化により、クランクシャフトCSの回転速度や砥石車Tの回転速度に乱れが生じたりする等、研削盤の機械的特性に起因して研削条件が変化することもある。
【0008】
そして、クランクシャフトCSが1回転する間において研削条件が多様に変化すると、クランクピンPの外周面全体において、研削加工面の均一な表面粗さを得ることができなくなる。よって、従来の研削方法では、クランクピンPの外周面全体において表面粗さの均一化を図ろうとする改善要望に対応することができなかった。
【0009】
また、クランクピンPの外周面全体において、表面粗さが最も粗い部位を最低値として、要求される表面粗さを確保しなければならないため、クランクシャフトCSの回転速度を速めることにより加工時間の短縮化を図ろうとしても、限界があり、さらなる加工時間の短縮を図ろうとする改善要望にも対応することができなかった。しかも、研削条件が最も劣悪な状態においても研削焼けが生じないようにしなければならないため、このことからも、クランクシャフトCSの回転速度を速めることにより加工時間の短縮化を図ろうとしても、限界があり、さらなる加工時間の短縮を図ろうとする改善要望に対応することができなかった。
【0010】
一方、砥石の寿命は、最も劣悪な研削条件に準じて決定される。ここで、クランクシャフトCSの回転速度を遅くすることで、研削条件の向上を図ることが単に想到できるが、このようにすると、加工時間が大幅に増加してしまうといった問題を生じる。よって、従来の研削方法では、加工時間を大幅に増加させることなく、砥石寿命の向上を図ろうとする改善要望に対応することができなかった。
【0011】
本発明は、上記実状を鑑みてなされたものであり、従来のC−X制御によるクランクピンの研削方法では対応できない種々の改善要望を的確に対処できるクランクピンの研削方法の提供を課題とする。また、上述した種々の改善要望に的確に対処した研削加工を行うことのできる研削盤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明の採った主要な手段は、研削方法として、
「クランクジャーナルと、該クランクジャーナルに対して偏心したクランクピンとを有するクランクシャフトの前記クランクピンの外周面を、前記クランクジャーナルの軸心を回転中心として前記クランクシャフトを回転させると共に、前記クランクシャフトの回転位相角度に応じ、回転する砥石車を前記クランクシャフトの径方向に移動させて研削加工するクランクピンの研削方法であって、
前記クランクシャフトが1回転する間に該クランクシャフトの回転速度を変化させて研削加工を行うことを特徴とするクランクピンの研削方法」
である。
【0013】
上記構成の研削方法では、クランクシャフトを1回転させる間に、クランクシャフトの回転速度、所謂「回転数(rpm)」を一定とせず、変化させるため、クランクシャフトが1回転する間において、研削加工に際しての研削条件を任意に変更することが可能となる。
【0014】
例えば、研削作用部分において、砥石車の外周面とクランクピンの外周面との相対速度が一定となるように、クランクシャフトが1回転する間にクランクシャフトの回転速度を変化させることで、研削速度が一定の研削加工を実現することが可能となる。そして、これにより、クランクピンの外周面全体における表面粗さの均一化を図ることが可能となる。
【0015】
また、クランクシャフトの適宜の回転位相角度において、部分的に回転速度を速めたり遅くしたりすることで、研削条件を多様に変化させることが可能となる。そして、これにより、加工時間のさらなる短縮化を図ったり、1回転するクランクシャフトの全体の回転速度を遅くすることなく、砥石寿命の向上を図ったりすることが可能となる。
【0016】
上記手段において、
「前記クランクシャフトの回転方向と前記砥石車の回転方向とは夫々同一方向であり、
前記クランクピンが、前記クランクジャーナルの軸心に対して、前記砥石車側に位置する場合には前記クランクシャフトの回転速度を遅め、前記砥石車側とは反対側に位置する場合には前記クランクシャフトの回転速度を速める
ことを特徴とするクランクピンの研削方法」
としてもよい。
【0017】
上記構成では、クランクシャフトの回転方向と砥石車の回転方向とが夫々同一方向であることから、研削作用部分においては、砥石車の周面の移動方向に対してクランクピンの外周面の移動方向が相対することになり、研削態様は、所謂「アップカット研削」の態様となる。ところで、クランクシャフトの回転に応じて、研削作用部分が、クランクシャフトの回転中であるクランクジャーナルの軸心と、砥石車の回転中心とを結ぶ軸線に対して上下動することから、クランクシャフトが一定の回転速度で回転すると、アップカット研削が行われる研削作用部分にて、上述の上下動の分だけ、クランクピンの外周面と砥石車の外周面との相対速度が変動する。具体的には、クランクピンが、クランクジャーナルの軸心に対して砥石車側に位置する場合には、上記相対速度が速くなり、逆に、砥石車側とは反対側に位置する場合には、上記相対速度が遅くなる。そして、上記相対速度が速くなると、研削条件は悪くなり、上記相対速度が遅くなると、研削条件は良くなる。
【0018】
よって、上記の如く構成することで、クランクシャフトを一定の回転速度で回転させるに比して、研削条件が悪くなりがちな位置のクランクピンにおいて、研削条件の低下を抑えることができ、研削条件が過剰に良くなりがちな位置のクランクピンにおいて、研削条件の無用な向上を抑えることができ、好適な態様となる。
【0019】
また、研削盤としては、
「クランクジャーナルと、該クランクジャーナルに対して偏心したクランクピンとを有するクランクシャフトの前記クランクピンの外周面を、前記クランクジャーナルの軸心を回転中心として、前記クランクシャフトを回転させると共に、前記クランクシャフトの回転位相角度に応じ、回転する砥石車を前記クランクシャフトの径方向に移動させて研削加工する研削盤であって、
前記クランクシャフトが1回転する間に該クランクシャフトの回転速度を変化させて研削加工を行うことを特徴とする研削盤」
である。
【0020】
上記構成の研削盤は、上述した研削方法を実現するものである。従って、上記構成の研削盤によれば、上述したような種々の改善要望に的確に対処した研削加工を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
このように、本発明に係るクランクピンの研削方法によれば、従来のC−X制御によるクランクピンの研削方法では対応できない種々の改善要望に、的確に対処することができる。また、本発明に係る研削盤によれば、上述したような種々の改善要望に的確に対処した研削加工を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明に係るクランクピンの研削方法の実施形態について、詳細に説明する。なお、以下の各例では、クランクシャフトの回転方向を、砥石車の回転方向と同一方向として、所謂「アップカット研削」を行う態様を示す。
【0023】
図1に示した通り、C−X制御によるクランクピンPの研削方法では、クランクシャフトCSのジャーナル中心JO周りにて、クランクピンPが、自転すると共に公転する遊星運動を行う。よって、クランクシャフトCSが1回転する間にて、クランクシャフトCSの回転速度、すなわち「回転数(rpm)」を、以下のように、種々の態様で変化させることで、様々な改善要望に対処することができる。なお、以下では、クランクシャフトCSの回転速度を「回転数」と称して説明する。
【0024】
<例1>
砥石車TとクランクピンPとの接触部分である研削作用部分KSにおいて、砥石車Tの外周面とクランクピンPの外周面との相対速度が一定となるように、或いは、クランクシャフトCSを一定の回転数で回転させる場合に比して、砥石車Tの外周面とクランクピンPの外周面との相対速度の変化が少なくなるように、換言すれば、一定の相対速度に近づけるように、クランクシャフトCSの回転位相角度に応じて、クランクシャフトCSの回転数に変化を与える。
【0025】
例えば、「クランクピンPの径寸法」、「ジャーナル中心JOとクランクピンPの軸心POとの距離」、すなわち「クランクピンPの偏心量」、「砥石車Tの径寸法」といったクランクシャフトCSや砥石車Tの形態にて特定される固定値から、研削作用部分KSにおいて、砥石車Tの外周面とクランクピンPの外周面との相対速度が一定となるように、回転位相角度に応じたクランクシャフトCSの回転数を算出して、これに基づいて、クランクシャフトCSを回転させる。これにより、研削作用部分KSにおいて、研削速度を一定に保つことができる。
【0026】
また、研削作用部分KSが、ジャーナル中心JOに対して上下動せず、ジャーナル中心JOと砥石車Tの回転中心とを結ぶ軸線上を移動すると仮定すれば、砥石車Tの径寸法を考慮しない簡略な概念にて、回転位相角度に応じたクランクシャフトCSの回転数を算出して回転させることで、クランクシャフトCSを一定の回転数で回転させる場合に比して、研削速度の変動が低くなるように抑えることができる。
【0027】
なお、このような態様では、クランクシャフトCSが1回転する間において、クランクシャフトCSの回転位相角度の変化に伴って、クランクシャフトCSの回転数が随時、変化することになる。また、クランクピンPが、クランクジャーナルJの軸心JOに対して砥石車T側に位置する場合には、クランクシャフトCSの回転速度が遅くなり、砥石車T側とは反対側に位置する場合には、クランクシャフトCSの回転速度が速くなるように、変化することになる。
【0028】
上記の通り、クランクシャフトCSの回転数に変化を与えることで、研削速度を一定化したり、一定に近づけることで、クランクピンPの外周面全体において、表面粗さの均一化を良好に図ることができる。
【0029】
<例2>
クランクシャフトCSが1回転する間において、研削作用部分KSがジャーナル中心JOに対して上下動することから、砥石車Tに対するクランクピンPの姿勢が変化する。よって、研削能率や砥粒負荷は、研削速度の変化に伴うばかりでなく、クランクピンPの姿勢の変化にも伴って変化する。よって、これを加味して、「クランクピンPの径寸法」、「クランクピンPの偏心量」、「砥石車Tの径寸法」等の固定値や、「研削取り代」といった加工内容による固定値等を用いて算出した理論値や、適宜の固定値を省略して算出した概算値等により、クランクシャフトCSの回転位相角度に応じて、研削能率や砥粒負荷等の適宜の指数が一定となるように、1回転する間のクランクシャフトCSの回転数に変化を与える。
【0030】
このようにクランクシャフトCSの回転数に変化を与えることで、研削条件を、より的確に一定化することができ、クランクピンPの外周面全体において、表面粗さをより一層、均一化することができる。
【0031】
<例3>
クランクシャフトCSを一定の回転数にて回転させる態様では、クランクピンPの外周面全体において、要求される値よりも高い表面粗さとなった過剰品質の部位が存在したり、また、例えば、さらに研削速度を速めても研削焼けが生じない部位、すなわち、研削条件に余力のある部位が生じたりする。よって、このような部位の回転位相角度を、上述の種々の固定値に基づいて算出した理論値や、実際に加工を行った上での実測値として割り出し、この回転位相角度において、クランクシャフトCSの回転数が部分的に速くなるように、回転数に変化を与える。
【0032】
これにより、加工時間のさらなる短縮化を図ることができる。
【0033】
<例4>
クランクピンPの外周面に研削加工を行う場合、最低でも要求される値を満たす表面粗さを確保でき、しかも、研削焼けを生じないように研削加工を行わなければならないことから、クランクシャフトCSを一定の回転数にて回転させる態様では、回転数を速めることに限界が生じる。
【0034】
これに対して、クランクシャフトCSを一定の回転数にて回転させる態様でのクランクシャフトCSの回転数よりも、クランクシャフトCSの全体の回転数を速めると共に、最も表面粗さの粗い部位や研削焼けが生じ易い部位等、適宜の部位の回転位相角度を、上述の種々の固定値に基づいて算出した理論値や、実際に加工を行った上での実測値として割り出し、この回転位相角度において、クランクシャフトCSの回転数が部分的に遅くなるように、回転数に変化を与える。
【0035】
これにより、十分な加工品質を確保した上で、加工時間全体の短縮化を図ることができる。
【0036】
<例5>
実際の研削加工では、クランクシャフトCSが1回転する間に、クーラントの入り方のバラツキ、X軸の追従遅れ、C軸や砥石車Tの回転の乱れ等、個々の研削盤の機械的特性によって研削条件が多様に変化することから、表面粗さが粗くなる傾向にある部位や、研削焼けを生じ易い傾向にある部位等、種々の部位が存在する。
【0037】
そこで、実際の研削加工を行った上で、加工済みのワークについて、表面粗さ、表面硬度、真円度等、適宜の検査項目を検査することで、研削速度を速めても不具合が生じ難い部位を特定し、当該部位において研削速度が速くなるように、クランクシャフトCSの適宜の回転位相角度において、部分的に、回転数に変化を与える。
【0038】
これによっても、十分な加工品質を確保した上で、加工時間全体の短縮化を図ることができる。
【0039】
<例6>
一般的に、研削条件が劣悪な程、砥石の寿命は、短くなると考えられる。よって、研削作用部分KSが、例えば、研削速度が速くなる部位、研削能率が高くなる部位、砥粒負荷が高くなる部位、クーラントが入り難い部位、研削焼けが生じ易い部位、砥石の砥粒がワークに食付き始める角度である砥粒の切込角度が大きくなる部位等、研削条件が劣悪となる部位となるクランクシャフトCSの回転位相角度において、クランクシャフトCSの回転数が遅くなるように、部分的に、クランクシャフトCSの回転数に変化を与える。すなわち、研削条件が劣悪となるクランクシャフトCSの回転位相角度において、研削速度を遅くすることで、劣悪な研削条件を改善できるようにする。
【0040】
これにより、クランクシャフトCSを1回転させる間の全体において回転数を遅くすることなく、換言すれば、加工時間を大幅に増加させることなく、砥石の寿命を延命化することができ、砥石寿命の向上を図ることができる。
【0041】
ところで、研削加工としては、最終的な製品の研削加工面を得るための仕上研削や、仕上研削を行う前段階の研削加工である粗研削等、種々の研削加工がある。クランクピンPの一連の研削加工として、このような種々の研削加工を行う場合には、研削加工の種類に応じて、クランクシャフトCSの回転数に異なる態様の変化を与えてもよい。
【0042】
例えば、上記仕上研削は、表面粗さや真円度等の高度な加工精度が要求されるのに対して、上記粗研削では、さほど高度な加工精度が要求されない。よって、粗研削においては、加工時間の短縮を優先項目とし、研削焼け等の不具合が生じない程度に、粗研削の加工時間が短縮できるように、クランクシャフトCSの回転数に変化を与える一方で、仕上研削では、クランクピンPの外周面全体が均一な表面粗さで、高精度な真円度となるように、クランクシャフトCSの回転数に変化を与えるようにしてもよい。
【0043】
なお、上述の各例のように、部分的に回転数を速めたり、遅めたりする場合には、最も高速或いは最も低速の回転数となる回転位相角度に対して、前後の適宜の角度範囲内において、徐々に回転数を変化させることとするのが好適である。クランクシャフトCSに回転数の急激な変動が生じると、取り代を完全に除去できず、研削残しが生じる部分が発生したり、研削加工面に傷を生じたりする等、予期せぬ不具合が生じる虞があるからである。
【0044】
以上、本発明に係るクランクピンPの研削方法を例示したが、この研削方法は、数値制御装置を具備する研削盤によって好適に実現できるものであり、この研削方法を実現するための研削盤の例を、次に説明する。
【0045】
図2に、研削盤10の一例を示す。この研削盤10は、NC制御装置やCNC制御装置等の制御装置50を具備するものであり、より具体的には、ワークの円筒状の加工対象面に対して良好に研削加工を施すことのできる円筒研削盤である。
【0046】
研削盤10は、基台を構成するベッド20と、このベッド20に、Z軸方向に移動自在に搭載されたZ軸台40と、ベッド20に、X軸方向に移動自在に搭載されたX軸台30とを備えている。ここで、Z軸台40は、Z軸駆動装置41によってZ軸方向に移動駆動するものであり、X軸台30は、X軸駆動装置31によってX軸方向に移動駆動するものである。また、Z軸駆動装置41及びX軸駆動装置31は、サーボモータ等の適宜の動力源と、この動力源によって作動する送りねじ機構等の適宜の機構とを用いて構成されている。
【0047】
ところで、本例の研削盤10においてZ軸台40は、ワークであるクランクシャフトCS、より具体的には、クランクジャーナルJと、クランクジャーナルJに対して偏心したクランクピンPとを有するクランクシャフトCSを支持するものであり、所謂「ワークテーブル」を構成するものとなっている。そして、Z軸台40には、主軸台42と心押し台43とが搭載されており、クランクシャフトCSは、主軸台42と心押し台43とで、その両端のクランクジャーナルJ部分が挟持されるようにして、Z軸台40に回転自在に支持される。また、主軸台42には、主軸駆動装置(図示省略)が内蔵されており、クランクシャフトCSは、この主軸駆動装置によって、クランクジャーナルJの軸心を回転中心として、回転駆動される。
【0048】
一方、X軸台30は、砥石車Tが装着される砥石軸と、この砥石軸を回転自在に支承する軸受と、ベルト等の駆動伝達機構を介して前記砥石軸を回転させる砥石駆動装置32とを具備するものであり、上記各構成全体で、所謂「砥石台」を構成するものである。
【0049】
また、上述したZ軸駆動装置41、X軸駆動装置31、砥石駆動装置32、主軸駆動装置の夫々は、コンピュータを用いて構成された制御装置50に接続されており、この制御装置50によって駆動が制御されるものとなっている。
【0050】
ここで、図示は省略するが、制御装置50は、Z軸駆動装置41を制御するZ軸制御部、X軸駆動装置31を制御するX軸制御部、砥石駆動装置32を制御する砥石回転制御部、主軸駆動装置を制御するC軸制御部といった各種の制御部を機能的構成として具備するものである。そして、上記のZ軸制御部、X軸制御部及び砥石回転制御部については、従来公知のものと同様に構成されているのに対して、C軸制御部については、従来にはない特別な機能を具備するものとして構成されている。これを、以下に、詳細に説明する。
【0051】
C軸制御部は、制御装置50に入力された数値(以下、「入力値」という)に基づいて演算を行う演算手段を備えている。ここで、入力値としては、種々の入力値を設定することができ、C軸制御部では、入力値に応じて種々の演算を行い、回転位相角度に応じた回転数にてクランクシャフトCSを回転させるように、主軸駆動装置を制御する。
【0052】
例えば、研削条件を一定とした研削加工、或いは、一定に近づけた研削加工を行うために、クランクシャフトCSの回転数を変化させたい場合には、「研削速度」、「研削能率」、「砥粒負荷」等の研削条件を決定するための数値を入力値とすればよい。
【0053】
C軸制御部では、上記入力値を用いて、予め記憶された演算式により、研削条件が一定となるように、或いは、一定に近づくように、クランクシャフトCSの回転位相角度に応じた回転数を理論値として演算し、この演算結果に基づき、主軸駆動装置の回転を制御する。
【0054】
なお、C軸制御部で演算を行う演算式では、上記入力値の他に、「クランクピンPの径寸法」、「クランクピンPの偏心量」、「砥石車Tの径寸法」、「研削取り代」等、クランクシャフトCSや砥石車Tの形態に関する固定値や、研削内容に関する固定値等、種々の固定値のうち、演算式に応じた適宜の固定値が用いられることになる。この固定値については、入力値を入力する前の段階にて、予め、制御装置50に入力しておけばよい。
【0055】
また、研削加工時間の短縮化や砥石寿命の向上等、所望の改善要望に対処するために、クランクシャフトCSの回転数を、任意の回転位相角度にて変更したい場合には、回転数を変更すべき回転位相角度の角度を指定する値や、変更する回転数の値等を、入力値とすればよい。
【0056】
例えば、クランクピンPがジャーナル中心JOに対して最も後方に後退した位置(図1における実線にて示した位置)にあるクランクシャフトCSの姿勢等、クランクシャフトCSの適宜の姿勢を、回転位相角度「0」°の基準値とし、回転数を変化させたい回転位相角度を特定できるように「a」°とし、変化させる回転数を特定できるように回転数の値である「b」rpmや、既に設定されている回転数に対する比率である「b」%等として、これらの「a」、「b」を入力値とすればよい。
【0057】
C軸制御部では、上記入力値を用いて、予め記憶された演算式により演算を行い、この演算結果に基づいて主軸駆動装置の回転を制御する。
【0058】
なお、クランクシャフトCSの回転数の変化を徐々に行わせたい場合には、回転数が変化を許容する角度の範囲を、具体的な角度範囲として「a」°を間に含む「c」°〜「d」°としたり、「a」°を基準に±「e」°とする等して、「c」及び「d」や「e」の値等も入力値に含めて演算するようにしてもよい。このような態様においては、予め設定された所定の回転数に対する回転数の変化量が、回転位相角度が「c」°や「a−e」°を超えるに従って徐々に多くなり、「a」°にて最大値に達し、「d」°や「a+e」°に近づくに従って少なくなり、「d」°や「a+e」°を超えると、当初の所定の回転数に戻るように、主軸駆動装置の回転が制御される。よって、クランクシャフトCSの回転数の急激な変動を防止できることが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】C−X制御による研削加工におけるクランクピンの位置変化を示す説明図である。
【図2】本発明に係るクランクピンの研削方法を実現する研削盤の一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0060】
CS クランクシャフト
J クランクジャーナル
P クランクピン
T 砥石車
10 研削盤
20 ベッド
30 X軸台
31 X軸駆動装置
32 砥石駆動装置
40 Z軸台
41 Z軸駆動装置
42 主軸台
43 心押し台
50 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクジャーナルと、該クランクジャーナルに対して偏心したクランクピンとを有するクランクシャフトの前記クランクピンの外周面を、前記クランクジャーナルの軸心を回転中心として前記クランクシャフトを回転させると共に、前記クランクシャフトの回転位相角度に応じ、回転する砥石車を前記クランクシャフトの径方向に移動させて研削加工するクランクピンの研削方法であって、
前記クランクシャフトが1回転する間に該クランクシャフトの回転速度を変化させて研削加工を行うことを特徴とするクランクピンの研削方法。
【請求項2】
前記クランクシャフトの回転方向と前記砥石車の回転方向とは夫々同一方向であり、
前記クランクピンが、前記クランクジャーナルの軸心に対して、前記砥石車側に位置する場合には前記クランクシャフトの回転速度を遅め、前記砥石車側とは反対側に位置する場合には前記クランクシャフトの回転速度を速める
ことを特徴とする請求項1に記載のクランクピンの研削方法。
【請求項3】
クランクジャーナルと、該クランクジャーナルに対して偏心したクランクピンとを有するクランクシャフトの前記クランクピンの外周面を、前記クランクジャーナルの軸心を回転中心として、前記クランクシャフトを回転させると共に、前記クランクシャフトの回転位相角度に応じ、回転する砥石車を前記クランクシャフトの径方向に移動させて研削加工する研削盤であって、
前記クランクシャフトが1回転する間に該クランクシャフトの回転速度を変化させて研削加工を行うことを特徴とする研削盤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−159314(P2006−159314A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350997(P2004−350997)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】