説明

クランプ装置

本発明は、工具を締め付けるためのクランプ装置に関するものであり、環状空間3に囲まれた収容部2を有している。環状空間3は、チャック本体1の工作物側の端面1a及び収容部2に向かって開放され、カバー5によって閉鎖されている。カバー5の収容部側内壁には環状溝13が形成され、環状溝13内にシール・リング12が挿入されている。液体が環状溝13に供給されることにより、環状溝13に挿入されたシール・リング12が内方に押圧され、カバー5と収容部2に挿入された工具Wとの間の隙間を動的に封止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具を締め付けて固定する(クランプする)ためのクランプ装置に関するものであり、その装置は、締め付けるべき工具のシャフト用の中央収容部及び当該中央収容部を囲む環状空間が形成された本体を備え、当該環状空間は本体の工作物側の端面及び収容部に向かって開放されているものである。
【背景技術】
【0002】
この種のクランプ装置は、たとえば国際公開第00/76703号パンフレットによって知られているように、ドリル用やフライス盤用のシャフトといった工具シャフトを、対応する工作機械の作動スピンドル内に固定するために使用される。これらは、とりわけ小型の工具を締め付けて固定するために使用される。
【0003】
国際公開第00/76703号パンフレットによって知られているクランプ装置によれば、工具は焼きばめによって固定される。そのために通常、装置は、締め付けるべき工具のシャフト用の中央収容部を備えた、金属製の本体からなる。収容部の直径は工具シャフトの直径よりやや小さい寸法とされている。工具を固定するには、本体を、少なくとも収容部の範囲で、工具シャフトが内部に挿入できる程度に収容部が熱膨張するまで加熱する。これに続く冷却の際に、収容部が再度収縮し、工具シャフトは、プレスばめ(押しばめ)又は焼きばめによって収容部内に固定される。
【0004】
あるいは、他のクランプ機構を使用することもできる。たとえば、本出願人のいわゆる「トリボス(商標)・クランプ・チャック」のクランプ機構が挙げられる。これらは独国特許出願公開第19827101号明細書及び独国特許発明第19834739号明細書に記載されている。
【0005】
この種のクランプ装置は、実用において十分に成功を収めている。しかしながら、シャフトが強く締め付けられることにより、使用中にフレキシング効果(Abwalkeffekte)が生じ、全体が硬質合金製である工具のシャフトがついには破損してしまうということが起こりうる。この理由から、国際公開第00/76703号パンフレットでは、収容部の周囲に制振空間を形成することが提案されている。この構造によれば、工具シャフトの締め付けが「より柔軟」になり、強すぎるシャフトの締め付けのゆえに生じて工具の破損をもたらしかねない「カルダン効果(プロペラ・シャフト効果)」(Kardaneffekte)を排除、或いは十分に防止することができる。
【0006】
しかしながら、制振空間内に切りくずなどが蓄積するおそれがあることが、欠点と考えられる。そのような切りくずなどが制振空間内に不均等に蓄積すると、必然的に不平衡を生じ、そのことは、工作機械の回転速度(一部においては極めて高速である)からは不都合である。
【0007】
そのほか、内部冷却剤供給手段を有する工具を使用する場合には、特に、本出願人の「トリボス」技術によって作動するクランプ機構においては、冷却液が、収容部と締め付けられた工具との間に形成された隙間を通じてクランプ装置の工具側の端面に達したり、流出したりするおそれがあることが、欠点と考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の課題は、不平衡な状態を実質的に回避し、そしてさらに冷却液の流出も防止するような、上述のクランプ装置を構成することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、本発明によれば、環状空間の開放端面から当該空間に挿入されて当該空間内に固定された環状カバーにより環状空間の開放端部を閉鎖し、さらに、当該カバーの収容部側の内壁に、シール・リングを配した環状溝を形成することによって解決される。環状溝は、液体供給路に接続されており、当該供給路を通じて液体が環状溝に供給され、環状溝に挿入されたシール・リングを内側に押圧することにより、カバーと収容部に挿入された工具との間に形成された隙間を動的に封止することができる。
【0010】
従って、本発明は、少なくとも部分的に環状空間を閉鎖し、それにより切りくずなどの侵入を防ぐという考え方に基づくものである。
【0011】
上記の目的で環状空間に挿入されるカバーは、少なくとも1個のシール・リング状の封止手段を備え、リングはカバーの環状溝に挿入されており、液体が環状溝に作用すると、リングは、動的に押圧されて、収容部に挿入された工具シャフトの外周と当接することにより、収容部側の環状の隙間を封止することができる。液圧が再度下げられると、シール・リングは弾性復帰力によって元の位置に押し戻される。この構成によれば、運転中、とりわけ内部冷却剤供給手段を備えた工具を使用する際には、クランプ装置の工具側の端面における冷却剤の流出を効果的に防止することができる。シール・リングの内径を工具のシャフト径より大きくできるので、工具は、シール・リングを傷つけることなく収容部に挿入することができる。
【0012】
本発明の一実施形態において、カバーの収容部側内壁に形成された環状溝が、工具を冷却するためにクランプ装置に供給された冷却剤を、液体供給路を通じて供給される構成としてもよい。本実施形態は、内部冷却剤供給手段を備えた工具を使用するためにクランプ装置が設計され、それに対応して内部冷却剤供給管を備えている場合に、特に適している。
【0013】
本発明の他の実施形態によれば、液体供給路が、本体に形成されてカバーの本体側の端面に開口している流路部(本体流路部)と、当該流路部に接続されてカバーに形成された流路部(カバー流路部)とを有するようにされている。後者の流路部(カバー流路部)は、環状空間に開口し、たとえば有底の穴とすることもできる。カバーの収容部側内壁に形成された環状溝に液体を供給するために、複数の液体供給路を備えることもできる。この場合、液体供給路を、カバーの周方向に等間隔で配置するのが効果的である。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、クランプ装置の静剛性には実質的に影響のないように、カバーが形成されかつ環状空間内に固定されている。
【0015】
本発明のさらなる実施形態によれば、カバーは、制振部材として形成され、好ましくは振動自在に環状空間内に懸装されている。たとえば1個又は複数個のOリングによってカバーを振動自在に環状空間内に保持することが可能である。本実施例は、特に、「運転中に最大振動速度を生じる部位である工具クランプ・システムの最外部において制振を行う」、しかも特に、「環状空間内に振動可能に(すなわち、隙間を設けたり弾性緩衝材を備えたりして)取り付けられたカバーにおいて制振を行い、カバーと本体の間の相対運動を可能とする」という考え方に基づく。したがって、本発明によるクランプ装置は、多重質量振動系(Mehrmassenschwinger)を構成し、当該振動系の制振特性は、さまざまに構成されたカバーを使用することにより変えることができ、その結果、幅広い振動数に対して制振が達成され、クランプ装置の固有振動数を調整することができる。制振性能は、当該カバーの長さ (クランプ装置の軸方向の長さ) Lを変えることによって設定できる。
【0016】
長さLを短くすれば制振性能は低くなり、長くすれば制振性能は高くなる。さらに、カバーの物質密度による影響の可能性もある。実験によれば、制振質量が小さくても良好な結果を得ることができた。制振質量が小さいことは、加速及び減速中の慣性力を小さく保持できるので、回転系にとって重要である。
【0017】
カバーを環状空間内に固定するためにOリングを使用する際は、Oリングを収容するための溝をカバーの外壁及び/又は環状空間の内壁に形成すればよい。さらに、脱落防止のために、確実係合(Formschlussverbundungen)及び/又は摩擦係合接続により、カバーを環状空間内に固定することが有効である。
好ましい実施形態によれば、カバーはスナップリングによって環状空間内に固定され、スナップリングは、カバーの外壁及び環状空間の内壁に設けられた、対応する環状溝内に嵌合する。
【0018】
本発明のさらなる有利な実施形態については、従属請求項及び下記の説明を添付図面と関連づけて参照されたい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1に、工具を締め付けるための、本発明によるクランプ装置の一実施形態を示す。クランプ装置は、ここではクランプ・チャックとして具体化したものであるが、たとえば工作機械の作動スピンドルと直接一体化してもよい。クランプ・チャックは、鋼など寸法安定性のある材料で製作された本体1を含み、本体1は、一方の端部に、締め付けされるべき工具(ここではドリル)Wの円柱形のシャフトを収容するための中央収容部2を備えている。他方の端部には、本体1は、それ自体公知の態様で、工作機械の作動スピンドル内へ締め込むためのインターフェース4を有している。
【0020】
本体1内には環状空間3が設けられ、当該空間は、収容部2の前部を囲み、本体の工具側の端面1a及び収容部2に向かって開放されている。環状カバー5が、環状空間3に挿入され、スナップリング6によって軸方向に固定されている。スナップリング6は、カバー5の外壁及び環状空間3の内壁に設けられた対応する環状溝7,8に嵌合している。カバー5の外壁と環状空間3の内壁の間に形成された環状の隙間は、カバー5の外壁に設けられた別の環状溝11に保持されたOリング10によって封止されている。
【0021】
さらに、カバー5の内壁に、環状溝13が形成され、その中にシール・リングが挿入されており、このシール・リングは、具体的にはOリング12である。Oリング12の内径は、収容部2及び嵌め込まれるべき工具シャフトの直径よりやや大きい。しかし、Oリング12は、流体圧の印加によって弾性的に圧縮されるので、締め付けられた工具Wのシャフトに押し付けられ、カバー5の内壁と工具Wの間の隙間を封止することができる。そのために、環状溝13は、3本の冷却剤供給路9によって、中央冷却剤供給路(詳述せず)に接続され、この中央冷却剤供給路によってクランプ装置は、外部の冷却剤供給源と接続され、内部冷却手段を有する工具を使用する際にはクランプ装置に冷却剤を供給することができる。図面から明らかなように、3本の液体供給路9は、等間隔で、すなわち約120度ずつずらして、環状溝13の周りに配され、ほぼ軸方向にクランプ装置の中を延びている。いずれも、カバー5内に形成された流路部9a、及び、それに接続されて本体1内に形成された流路部9bを有する。流路部9aは、カバー5の端部に導入され、環状溝13とその外周部で交わる有底穴として形成され、もう一方の流路部9bは、クランプ装置の中央冷却剤供給路に開口している。
【0022】
運転の際に工具Wをクランプ装置に固定し、冷却剤をクランプ装置に供給すると、環状溝13内で圧力が上昇し、その結果、Oリング12が、締め付けられている工具シャフトに弾性的に押し付けられ、これによってカバー5と工具Wの間の環状の隙間が封止される。
【0023】
ここで述べたクランプ装置によれば、カバー5は、本体1に対して相対運動可能な制振部材を構成している。したがって、本発明によるクランプ装置1は質量振動系(Massenschwinger)を構成し、その制振特性はさまざまなカバー5を使用することによって変更することができ、その結果、さまざまな振動数に対して制振を行うことができ、クランプ装置の固有振動数を調整することができる。変更できるものの可能性としては、カバー5の長さL、密度、硬さがある。とりわけ、運転中に最大振動速度を生じる部位である工具クランプ・システムの外側部位において、制振が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明によるクランプ装置の一実施形態の部分断面正面図である。
【図2】図1におけるクランプ装置の環状空間を閉鎖するためのカバーの拡大正面図である。
【図3】図2のA−Aに沿って切り取られたカバーを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締め付けるべき工具(W)のシャフト用の中央収容部(2)及び当該中央収容部(2)を囲む環状空間(3)が形成された本体(1)を備え、当該環状空間(3)は本体(1)の工作物側の端面(1a)及び中央収容部(2)に向かって開放されている、工具を締め付けるためのクランプ装置において、
環状空間(3)が、開放端面(1a)から環状空間(3)に挿入されて環状空間(3)内に固定されたカバー(5)によって閉鎖され、
当該カバー(5)の収容部側内壁には、シール・リング(12)を配した環状溝(13)が形成され、当該環状溝(13)は、液体供給路(9a,9b)に接続されており、
当該液体供給路(9a,9b)を通じて液体が環状溝(13)に供給され、環状溝(13)に挿入されたシール・リング(12)を内方に押圧することにより、カバー(5)と収容部(2)に挿入された工具(W)との間に形成された隙間を動的に封止することを特徴とするクランプ装置。
【請求項2】
カバー(5)の収容部側内壁に形成された環状溝(13)は、工具(W)を冷却するためにクランプ装置に供給された冷却液を、液体供給路(9a,9b)を通じて供給されることを特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。
【請求項3】
液体供給路(9a,9b)が、本体(1)に形成されてカバー(5)の本体側の端面に開口している本体流路部(9b)と、当該本体流路部に接続されてカバー(5)に形成されたカバー流路部(9a)とを有することを特徴とする請求項1又は2に記載のクランプ装置。
【請求項4】
カバー(5)の収容部側内壁に形成された環状溝(13)に液体を供給するために、複数の液体供給路(9a,9b)を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のクランプ装置。
【請求項5】
複数の液体供給路(9a,9b)が、カバー(5)の周方向に等間隔で配されていることを特徴とする請求項4に記載のクランプ装置。
【請求項6】
本体(1)の静剛性を実質的に損なわないように、カバー(5)が、形成されかつ環状空間(3)内に固定されていることを特徴とする請求項5に記載のクランプ装置。
【請求項7】
カバー(5)が、制振部材として形成され、振動自在に環状空間(3)内に懸装されていることを特徴とする請求項5又は6に記載のクランプ装置。
【請求項8】
カバー(5)が、少なくとも1個のOリング(10)によって、振動自在に環状空間(3)内に保持されていることを特徴とする請求項7に記載のクランプ装置。
【請求項9】
前記少なくとも1個のOリング(10)を収容するための溝がカバー(5)の外壁及び/又は環状空間(3)の壁面に形成されていることを特徴とする請求項8に記載のクランプ装置。
【請求項10】
カバー(5)が環状空間(3)内にスナップリング(6)によって固定されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のクランプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−513374(P2009−513374A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538370(P2008−538370)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【国際出願番号】PCT/EP2007/003173
【国際公開番号】WO2007/118635
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(506151811)シュンク ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー スパン ウント グライフテクニク (8)
【Fターム(参考)】