説明

クリップ装置

【課題】シースと操作ワイヤとの経路長の差異が生じてもクリップの開閉を適切に制御することができるクリップ装置を提供する。
【解決手段】クリップ20の基端部210は、腕部より近位側に設けられ連結部30と連結している。締付部30は、本体に外装され、本体に対して遠位側に移動されることにより、腕部を締め付けて閉じることが可能である。クリップは、締付部が腕部を解除可能に締め付けることにより腕部が可逆的に閉じる第1状態と、腕部が第1状態よりも締付部24に対して遠位側に移動することにより腕部が開く第2状態とに遷移する。シース420は締付部の後退を規制する。基端部210または連結部は、互いに連結したときに連結部が基端部に対して相対的に進退するためのマージンを有している。操作ワイヤ440が進退移動をするときに、連結部が基端部に対して遊動することによりクリップが第1状態から第2状態に遷移することが抑制されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内視鏡技術の発達に伴い、内視鏡による体腔内の観察とともに、患部に医療処置を行う医療用器具が多く提案されている。
【0003】
特許文献1(特開2006−198388号公報)には、以下のような結紮装置が記載されている。この結紮装置は、体腔内に導入されるシースと、クリップと、操作ワイヤと、を備えている。クリップは、体腔内の生体組織を結紮するクリップ爪と、押さえ部材とを有している。また、結紮装置のシース内には、クリップに接続された操作ワイヤが、進退可能に設けられている。クリップは、シース内に収容されており、その状態で体腔内に導入される。患部を処置するとき、クリップ爪をシースの先端から突き出し、押さえ部材をシースの先端に保持する。これにより、押さえ部材の移動を阻止することにより、クリップ爪の開閉動作を安定的に操作できるとされている。
【0004】
また、特許文献2(特開平06−254101号公報)には、以下のようなクリップ装置が記載されている。このクリップ装置は、導入管と、クリップと、駆動部材と、クリップ締付用リングと、を備えている。クリップは、挟持部を離間させる方向に腕部を拡開する開拡習性を有している。クリップ締付用リングは、駆動部の先端に着脱可能に装着されており、クリップの腕部に被嵌して、クリップの挟持部を閉成する。これにより、クリップが外力によって外れにくいとされている。
【0005】
また、特許文献3(特許4700608号公報)には、以下のようなクリップユニットが開示されている。このクリップ装置は、ワイヤと、矢尻フック部と、押エ管と、クリップと、を備えている。ワイヤの先端には、略円錐形状の矢尻フック部が設けられている。連結部材の基端部は、矢尻フック部の先端の外周面に密着する形状に形成されている。連結部材は、押エ管に挿入され、クリップのループ部と係合する。この連結部を手元に引っ張ることにより、クリップは、押エ管によって閉じた状態となるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−198388号公報
【特許文献2】特開平06−254101号公報
【特許文献3】特許4700608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献に記載の技術は、いずれも操作ワイヤ等をクリップの基端部と緩みなく連動させることにより、クリップの開閉を制御している。しかし、本発明者は、上記のような医療用器具を体腔内に導入したとき、以下のような問題が生じることを見出した。内視鏡とともに、シースおよび操作ワイヤが体腔内で湾曲した場合、シースと操作ワイヤの経路長に差異が生じて、クリップ等の医療処置具がシースに対して相対的に前進または後退移動してしまうという問題(以下、「経路長の問題」)が生じる。
【0008】
たとえば、医療用器具がクリップ装置であるとき、クリップが閉じている状態で、内視鏡のチャネルに挿通される。ここで、上記したような経路長の問題が生じ、クリップが不測に前進した場合、クリップが開いた状態となり、内視鏡のチャネル等を傷つけてしまう可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、
自己拡開性を有するクリップと、長尺のシースと、前記シースの内部を進退移動可能に挿通された操作ワイヤと、前記操作ワイヤの遠位側に設けられ前記クリップと連結する連結部と、を備え、
前記クリップは、
自己拡開力により開く腕部と、前記腕部より近位側に設けられ前記連結部と連結する基端部と、を有する本体と、
前記本体に外装され、当該本体に対して遠位側に移動されることにより、前記腕部を締め付けて閉じることが可能な締付部と、を備え、かつ、
前記締付部が前記腕部を解除可能に締め付けることにより前記腕部が可逆的に閉じる第1状態と、前記腕部が前記第1状態よりも前記締付部に対して遠位側に移動することにより前記腕部が開く第2状態と、に遷移し、
前記シースは、前記締付部の後退を規制し、
前記クリップの前記基端部または前記連結部は、互いに連結したときに前記連結部が前記基端部に対して相対的に進退するためのマージンを有し、
前記操作ワイヤが前記進退移動をするときに前記連結部が前記マージンによって前記基端部に対して遊動することにより、前記クリップが前記第1状態から前記第2状態に遷移することが抑制されていることを特徴とするクリップ装置が提供される。
【0010】
本発明によれば、クリップの基端部または連結部は、互いに連結したときに連結部が基端部に対して相対的に進退するためのマージンを有している。操作ワイヤが進退移動をするときに、連結部は上記したマージンによって基端部に対して遊動することにより、クリップの腕部が可逆的に閉じる第1状態から腕部が開く第2状態に遷移することが抑制されている。これにより、クリップ装置を内視鏡のチャネル内に挿通するとき、シースと操作ワイヤの経路長の差異によって、クリップが不測に第2状態となることを抑制することができる。したがって、シースと操作ワイヤとの経路長の差異が生じても、クリップの開閉を適切に制御することができるクリップ装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シースと操作ワイヤとの経路長の差異が生じても、クリップの開閉を適切に制御することができるクリップ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態に係るクリップ装置の構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係るクリップ装置の先端部を示す平断面図(a)、側断面図(b)である。
【図3】図2のクリップの拡大図である。
【図4】第1の実施形態に係るクリップ装置の先端部を示す平断面図(a)、側断面図(b)である。
【図5】第1の実施形態に係るクリップ装置の先端部を示す平断面図(a)、側断面図(b)である。
【図6】第1の実施形態に係る比較例の模式図である。
【図7】第1の実施形態における連結部の機能を説明するための模式図である。
【図8】第2の実施形態に係るクリップ装置の先端部を示す断面図である。
【図9】第3の実施形態に係るクリップ装置の先端部を示す断面図である。
【図10】第4の実施形態に係るクリップ装置の先端部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1〜図6を用いて、第1の実施形態に係るクリップ装置10について説明する。このクリップ装置10は、自己拡開性を有するクリップ20と、長尺のシース420と、シース420の内部を進退可能に挿通された操作ワイヤ440と、操作ワイヤ440の遠位側に設けられクリップ20と連結する連結部30と、を備えている。クリップ20は、本体22と、締付部24と、を備えている。本体22は、自己拡開力により開く腕部260と、腕部260より近位側に設けられ連結部30と連結する基端部210と、を有している。締付部24は、本体22に外装され、当該本体22に対して遠位側に移動されることにより、腕部260を締め付けて閉じることが可能である。また、クリップ20は、締付部24が腕部260を解除可能に締め付けることにより腕部260が可逆的に閉じる第1状態と、腕部260が第1状態よりも締付部24に対して遠位側に移動することにより腕部260が開く第2状態と、に遷移する。シース420は、締付部24の後退を規制する。さらに、クリップ20の基端部210または連結部30は、互いに連結したときに連結部30が基端部210に対して相対的に進退するためのマージンを有している。操作ワイヤ440が進退移動をするときに、連結部30は上記したマージンによって基端部210に対して遊動することにより、クリップ20が第1状態から第2状態に遷移することが抑制されている。以下、詳細を説明する。
【0015】
以下の説明において、「遠位側」とは、特に断りのない限り、クリップ装置10のうち、ユーザーが操作する側から遠い側をいう。具体的には、「遠位側」とは、クリップ20の先端部がある側をいう。また、「近位側」とは、特に断りのない限り、クリップ装置10のうち、ユーザーが操作する側に近い側をいう。具体的には、「近位側」とは、操作部50の指かけリング580の基端部がある側をいう。
【0016】
はじめに、図1を用い、クリップ装置10の全体像から説明する。図1は、第1の実施形態に係るクリップ装置10の構成を示す図である。本発明における「クリップ装置10」とは、たとえば、内視鏡(不図示)のチャネル(不図示)内に挿通させて、チャネルの先端部からクリップ20を突出させることにより、体腔内の生体組織を結紮するための長尺の医療用器具のことである。
【0017】
図1(a)のように、クリップ装置10は、たとえば、クリップ20、長尺のシース420、操作ワイヤ440および操作部50を備えている。
【0018】
クリップ20は、クリップ装置10の遠位側に設けられている。ここでいう「クリップ20」とは、生体組織を結紮するものである。この結紮により、止血処置、縫縮およびマーキングなどの処置をすることができる。また、縫縮としては、EMR(内視鏡的粘膜切除術)あるいはESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)後の粘膜欠損部の縫縮や、穿孔閉鎖などが挙げられる。また、マーキングとは、クリップ20を様々な目印として用いることをいう。具体的には、クリップ20は、たとえば、少なくとも2本以上の腕部が閉じることにより生体組織を結紮するものである。または、クリップ20は、たとえば、輪状の腕部が閉じることにより結紮するものであってもよい。このクリップ20については、詳細を後述する。
【0019】
シース420は、長尺で可撓性の管状部材である。シース420は、金属ワイヤを長尺に巻回したコイル層(不図示)からなる。コイル層の内周面には、フッ素系ポリマーからなる内層(不図示)が設けられていてもよい。
【0020】
シース420の内径は、少なくとも操作ワイヤ440を摺動可能な大きさである。シース420の内径は、クリップ20が収容可能な大きさであってもよい。具体的には、シース420の内径は、たとえば、100μm以上2.4mm以下である。また、シース420の厚さは、たとえば、100μm以上350μm以下である。これにより、シース420の屈曲性をよくすることができる。
【0021】
操作ワイヤ440は、シース420の内部を進退可能に挿通されている。操作ワイヤ440は、操作部50の駆動部540を操作することにより、シース420の延伸方向に進退する。操作ワイヤ440は、たとえば、剛性の強い金属材料により形成されている。具体的には、操作ワイヤ440の金属材料は、たとえば、ステンレス鋼、耐腐食性被覆された鋼鉄線、チタンまたはチタン合金などである。このように操作ワイヤ440が剛性の強い材料で形成されていることにより、駆動部540を牽引して、操作ワイヤ440に引張り応力が印加されても、操作ワイヤ440が破断することがない。
【0022】
操作ワイヤ440の遠位側には、連結部30が設けられている。連結部30は、クリップ20の基端部210と連結している。また、連結部30は、当該基端部210と分離可能である。連結部30については、詳細を後述する。
【0023】
操作部50は、シース420の近位側に設けられている。操作部50は、操作本体部520と、駆動部540と、指かけリング580と、を備えている。操作本体部520の近位側には、指かけリング580が設けられている。ユーザーは、指かけリング580に指をかけて固定するとともに、操作本体部520全体を軸周りに回転させる。これにより、操作ワイヤ440およびクリップ20を回転させることができる。
【0024】
駆動部540は、操作本体部520に設けられている。駆動部540は、操作ワイヤ440の基端部と連結している。駆動部540は、操作部50側で、クリップ20の操作を行うために設けられている。ここでいう「操作」とは、操作ワイヤ440を進退移動させることにより、クリップ20を閉じた状態(後述する第1状態もしくは第3状態)または開いた状態(第2状態)のいずれかに遷移させることをいう。具体的には、駆動部540は、たとえば、ホイール式、レバー式、またはスライド式などである。ここでいう「ホイール式」とは、周囲に操作ワイヤ440を巻回した円盤状のホイールを回転させることにより、操作ワイヤ440を進退させる方法である。また、ここでいう「レバー式」とは、一端が操作ワイヤ440に接続したレバーを前後させることにより、操作ワイヤ440を進退させる方法である。また、ここでいう「スライド式」とは、操作ワイヤ440に接続したスライダなどを、操作ワイヤ440の挿通方向に進退させる方法である。以下では、駆動部540が管状のスライド式である場合を説明する。
【0025】
駆動部540は、たとえば、操作本体部520に外嵌されている。駆動部540は、操作本体部520の長手方向に対して、遠位側または近位側の方向に摺動する。操作本体部520の内部には、操作ワイヤ440が挿通している。駆動部540は、操作本体部520の内部で、操作ワイヤ440の基端部と連結している。ユーザーは、この駆動部540を前後にスライドさせることにより、操作ワイヤ440の先端部を進退移動させることができる。
【0026】
さらに、駆動部540は、たとえば、操作本体部520の長手方向の前後に鍔部(符号不図示)を有していてもよい。これにより、ユーザーは、鍔部に指をかけて、駆動部540を容易に操作することができる。
【0027】
操作本体部520には、スリット状の開口560が設けられている。開口560は、操作本体部520の長手方向に平行に設けられている。また、開口560は、たとえば、操作本体部520のうち、一方の側面から他方の側面に向けて貫通して設けられている。先述の操作ワイヤ440と連結している係止部(不図示)は、この開口560の内部を当該開口560の長手方向に摺動する。これにより、駆動部540は、操作ワイヤ440を進退移動させることができる。
【0028】
次に、図1(b)および図1(c)を用い、連結部30付近の構成について説明する。図1(b)および図1(c)は、図1(a)のA部の拡大図である。また、図1(b)および図1(c)は、連結部30が、クリップ20の基端部210と連結している部分を示している。そのうち、クリップ20の腕部260等は省略している。また、図1(b)は平断面図であり、図1(c)は側断面図である。なお、図1(b)および図1(c)は、クリップ20の腕部260が可逆的に閉じている状態(後述する第1状態)を示している。
【0029】
図1(b)のように、連結部30は、操作ワイヤ440の遠位側に設けられている。また、連結部30は、クリップ20と操作ワイヤ440とを相互に連結している。なお、連結部30は、クリップ20との連結を解除することが可能である。これにより、クリップ20を分離させ、クリップ20を体腔内に留置することができる。
【0030】
ここで、クリップ20の基端部210または連結部30は、互いに連結したときに連結部30が基端部210に対して相対的に進退するためのマージンを有している。ここでいう「マージン」とは、連結部30が基端部210に対して相対的に進退することを許容する空間的な範囲のことをいう。言い換えれば、クリップ20の基端部210または連結部30は、互いに連結したときに連結部30が基端部210に対して遊着されている。ここでいう「遊着」とは、遊び(すなわちマージン)を持たせて付けられていることをいう。第1の実施形態では、基端部210および連結部30の双方が「マージン」を有しており、連結部30が基端部210に対して相対的に遊動することができる。なお、ここでいう「遊動」とは、上記した「マージン」の範囲内において動くことをいう。
【0031】
図1(b)のように、第1の実施形態では、連結部30は、掛止部340と、当接部320と、を備えている。掛止部340は、基端部210を掛止することによりクリップ20を近位側に牽引する。連結部30の掛止部340は、対向する一対の先端突出片(符号不図示)を備えている。少なくとも一方の先端突出片は、たとえば、当接部320から遠位側に延出する板状部材の先端に設けられ、突起状に形成されている。他方の先端突出片は、突起状でも平板状でもどちらでもよい。ここでは、一対の先端突出片は、たとえば、凸部が互いに対向するように、対称に設けられている。このような一対の先端突出片は、弾性的に径方向に開閉することにより、基端部210と連結する。また、クリップ20を不可逆に閉じた状態(後述する第3状態)とした後に、連結部30はクリップ20から分離することができる。
【0032】
また、掛止部340は、たとえば、当該板状部材を屈曲させることによって形成されている。または、掛止部340は、金型で成形されていてもよい。
【0033】
当接部320は、掛止部340より近位側に設けられ、操作ワイヤ440の遠位側と連結している。また、当接部320は、基端部210に当接することによりクリップ20を遠位側に押し出す。
【0034】
また、掛止部340および当接部320は、操作ワイヤ440の挿通方向に互いに離間している。言い換えれば、掛止部340と当接部320との間に、操作ワイヤ440の挿通方向に上述のマージンが設けられている。掛止部340によってクリップ20を近位側に牽引するとき、当接部320はクリップ20の基端部210から近位側に離れている。一方、当接部320によってクリップ20を遠位側に前進させるとき、掛止部340は、クリップ20の基端部210のうち、近位側の端部よりも遠位側に離れている。これにより、連結部30が基端部210に対して相対的に進退することができる。したがって、不測に操作ワイヤ440がシース420に対して相対的に進退移動をしたとき、この掛止部340と当接部320とが離間した距離によって、操作ワイヤ440がシースに対して相対的に変位することを許容することができる。この経路長の問題が発生した場合における連結部30の機能については、詳細を後述する。
【0035】
また、図1(c)のように、本体22の基端部210は、クリップ20の腕部260が可逆的に閉じている状態(第1状態)のときに掛止部340が基端部210に対して相対的に進退するための空隙212を有している。当該空隙212は、少なくとも連結部30の掛止部340が掛止可能な大きさで設けられている。言い換えれば、空隙212の高さは、掛止部340の高さよりも大きい。これにより、掛止部340がこの空隙212に入り込むことによって、連結部30は、本体22の基端部210を掛止することができる。
【0036】
空隙212のうち、操作ワイヤ440の挿通方向の長さは、掛止部340と当接部320とが離間した距離よりも長い。これにより、掛止部340と当接部320とが離間した距離が、実際に連結部30が基端部210に対して相対的に進退することができる「マージン」となる。連結部30がクリップ20を前進させるとき、連結部30がマージンの分だけ前進したのちに連結部30の当接部320が基端部210に当接することができる。このとき、連結部30の掛止部340は、クリップ20に接触することがなく、当該クリップ20を前進させる力を与えることがない。一方、連結部30がクリップ20を後退させるとき、連結部30がマージンの分だけ後退したのちに連結部30の掛止部340が基端部210を掛止することができる。このように、連結部30は、当該連結部30が基端部210と連結した状態で、操作ワイヤ440の挿通方向にクリップ20に対して相対的に移動することができる。
【0037】
次に、図2〜図5を用い、クリップ20の具体的な動作について説明する。図2、図4および図5は、第1の実施形態に係るクリップ装置10の先端部を示す平断面図(a)、側断面図(b)である。また、図3は、図2のクリップ20の拡大図である。
【0038】
まず、図2を用い、クリップ20の構成について説明する。なお、図2は、クリップ20のうち、腕部260が可逆的に閉じている状態(後述する第1状態)を示している。
【0039】
図2(a)および(b)のように、クリップ20は、腕部260を有する本体22と、締付部24と、を備えている。上述のように、クリップ20は、体腔内の生体組織を結紮する。また、クリップ20は、連結部30から分離され、体腔内で結紮した状態で、体腔内に留置される。留置されたクリップ20は、患部の回復とともに体外へ排泄される。
【0040】
クリップ20の本体22は、たとえば、耐食性のある金属により形成されている。具体的には、クリップ20は、ステンレス鋼、チタンまたはチタン合金などにより形成されている。
【0041】
図2(b)のように、腕部260は、クリップ20の遠位側に設けられている。クリップ20の腕部260は、第1状態のときにシース420の遠位側から突出している。腕部260は、他の状態のときもシース420の遠位側から突出していてもよい。このようにクリップ20の腕部260がシース420の遠位側から突出していることにより、少なくとも腕部260の外径を内視鏡のチャネルに挿通可能な範囲で大きくすることができる。しかし、このようにクリップ20の腕部260がシース420の遠位側から突出している場合、操作ワイヤ440がシース420に対して不測に前進したとき、内視鏡のチャネル等を傷つけてしまう可能性がある。本実施形態によれば、特にクリップ20の腕部260がシース420の遠位側から突出している場合であっても、上記したマージンを設けることにより、「経路長の問題」が発生することを抑制することができる。さらに、クリップ20の腕部260がシース420の遠位側から突出していることにより、腕部260の大きさによらず、シース420の径を細くすることができる。「経路長の問題」はシース420の内径と操作ワイヤ440との外径との差を一因として発生する。上記のように、シース420の径を細くすることにより、「経路長の問題」が発生することを抑制することができる。
【0042】
腕部260は、自己拡開力により開くように形成されている。ここでいう「自己拡開力」とは、閉じようとする外力に対して反発し、自ら開こうとする力のことをいう。第1の実施形態では、たとえば、クリップ20は、互いに対称な一対の腕部260を有している。腕部260は、自己拡開力により、近位側から遠位側に向けて、互いに開く。また、腕部260が輪を形成しているバスケット型であってもよい。この場合、腕部260は、自己拡開力により輪の中心が拡開する。
【0043】
本体22は、たとえば、一対の腕部260が形成された一枚の板状部材を中央で曲げることにより形成されている。すなわち、一対の腕部260は、クリップ20の基端部210で繋がっている。
【0044】
このように形成された本体22は、近位側から順に、基端部210、板バネ部220および締付受け部26を備えている。基端部210は、板状部材を円弧状に折り曲げられた内部に、上述した空隙212を有している。上述のように、当該空隙212は、少なくとも連結部30の掛止部340が掛止可能な大きさで設けられている。これにより、基端部210は、連結部30と連結することができる。
【0045】
板バネ部220は、基端部210より遠位側に設けられ、その近位側から遠位側に向かって、クリップ20の軸心に対して外側に広がるように湾曲した形状に形成されている。これにより、板バネ部220は、弾性力を生じさせる。この板バネ部220の弾性力により、クリップ20は、腕部260の先端部262どうしを近づける方向に作用する外力に対して、上記した「自己拡開力」を生じさせる。締付受け部26は、板バネ部220の遠位側に設けられ、締付部24により締め付けられる。この締付受け部26については、詳細を後述する。
【0046】
また、腕部260の先端部262は、近位側から遠位側に向けて、鋭利になるように形成されている。一対の腕部260が閉じるとき、先端部262は互いに噛合して、生体組織を結紮する。
【0047】
締付部24は、本体22に外装して設けられている。本実施形態では、締付部24は、たとえば、筒状であり、その内部に本体22が挿通されている。締付部24のうち、遠位側の内面には、凸部280が設けられている。これにより、締付部24の凸部280は、後述するクリップ20の締付受け部26のうち、凹部244と嵌合することができる。また、締付部24は、クリップ20の本体22に外装された状態で体腔内に留置される。そのため、締付部24は、クリップ20の本体22と同様に耐食性のある金属により形成されていることが好ましい。
【0048】
また、シース420は、締付部24の後退を規制する。ここでいう「締付部24の後退を規制する」とは、シース420のいずれかの位置において締付部24が係止されることにより、締付部24が近位側に後退することが抑制されることをいう。たとえば、締付部24は、操作ワイヤ440が近位側に後退するとき、シース420の先端部に係止される。第1の実施形態では、締付部24は、操作ワイヤ440が近位側に後退するとき、たとえば、シース420の先端部に係合された縮径チューブ360によって係止される。また、このとき、締付部24は、本体22に対して相対的に遠位側に移動される。これにより、締付部24は、一対の腕部260を締め付けて閉じることができる。また、シース420の先端部には、筒状の先端リング380が固定されている。先端リング380は、その内側で縮径チューブ360と係合し、縮径チューブ360を固定している。縮径チューブ360は、両端が開口した筒状形状に形成されている。縮径チューブ360の遠位側の開口は、開口内に締付部24が入り込むことができない寸法で形成されている。縮径チューブ360の外側には、先端リング380が係合している。
【0049】
締付受け部26は、本体22の遠位側に設けられている。第1の実施形態では、締付受け部26の外周形状は、たとえば、他方の腕部260に対して逆向きの凸曲面を形成している。
【0050】
締付受け部26は、上述のように、締付部24により締め付けられる。また、締付受け部26は、第1区間230と、第2区間242と、凹部244を近位側から遠位側へ向けてこの順で有している。締付受け部26のうち、第1区間230は、近位側から遠位側へ向けて、互いの腕部260に対して離間している。本実施形態において、第1区間230の凸曲面は、たとえば、近位側から遠位側へ向けて拡径している。言い換えれば、円錐を中心軸と平行に分割した側面のうち、円錐の底面側を第1区間230の遠位側とした形状となっている。
【0051】
また、第1区間230の遠位側には、第2区間242が設けられている。締付受け部26のうち、第2区間242は、腕部260が閉じた状態で固定され、かつ、腕部260の自己拡開力によって締付部24が第1区間230に移動しないように形成されている。本実施形態において、腕部260が閉じており、かつ、締付部24が締付受け部26の第2区間242にあるとき、たとえば、締付受け部26のうち、第2区間242の外径は、締付部24の内径以上の大きさである。これにより、腕部260の自己拡開力によって、締付部24が第2区間242から第1区間230に移動しないようにすることができる。
【0052】
さらに、第2区間242の遠位側には、凹部244が設けられている。この締付受け部26の凹部244は、上記した締付部24の凸部280と嵌合する。これにより、腕部260を不可逆に締め付けることができる。
【0053】
図2(a)は、駆動部540が近位側に牽引された状態を示している。連結部30の掛止部340は、本体22の基端部210と係合し、クリップ20を近位側に牽引している。これにより、締付部24は、締付受け部26の第1区間230に位置している。また、締付部24の遠位側は、第2区間242の近位側と接している。
【0054】
図2(b)で示されているように、クリップ20の腕部260は可逆的に閉じている状態である。この状態において、腕部260の先端部262は噛合して、生体組織を結紮することができる。ただし、締付部24が第1区間230を締め付けている状態では、上述のように、完全に固定されていない。すなわち、駆動部540を遠位側に移動させることにより、再度、開いた状態に戻ることができる。このように、締付部24が腕部260を解除可能に締め付けることにより、腕部260が可逆的に結紮されている状態を、「第1状態」と呼ぶ。実際の医療処置行為を行っている際には、最適な結紮状態が確認できるまで、クリップ20の「第1状態」と、後述する腕部260が開いた「第2状態」とを繰り返す。
【0055】
図3(a)は、図2の状態のクリップ20の拡大図である。図3(a)のように、締付部24は、本体22のうち、締付受け部26の第1区間230に位置している。締付部24の凸部280は、第1区間230の表面に接している。
【0056】
ここで、クリップ20は、本体22と締付部24と接するとき、本体22と締付部24との間に摩擦力が生じるように形成されている。ここでいう「摩擦力」とは、本体22と締付部24と接している部分に作用し、両者が相対的に移動しにくいように作用する力のことである。また、当該「摩擦力」は、金属の素地どうしが接触することによる摩擦力よりも大きい。当該摩擦力により、クリップ20の腕部260が開いた「第2状態」に遷移することが抑制される。
【0057】
締付受け部26の第1区間230は、締付部24と接して、この摩擦力を生じさせる。また、当該「摩擦力」は、腕部260の自己拡開力を垂直抗力として、当該自己拡開力に比例する。一方で、クリップ20の第1区間230は傾斜している。このため、腕部260の自己拡開力により、クリップ20を前進させる力が発生する。このため、「摩擦力」は、クリップ20が自己拡開力により前進しようとする力よりも大きいことが好ましい。これにより、不測にクリップ20が自己拡開力により開いていくことを抑制することができる。
【0058】
図3(b)は、図3(a)のB部の拡大図である。図3(b)のように、たとえば、本体22または締付部24の少なくとも一方に、凹凸が形成されている。これにより、上記した摩擦力を発生させることができる。ここでは、たとえば、締付受け部26のうち、第1区間230の表面に、凹凸が形成されている。これにより、締付受け部26の第1区間230は、締付部24と接するとき、摩擦力を生じさせることができる。たとえば、クリップ20のうち、締付受け部26の第1区間230の部分に、梨地加工された凹凸を有する金型を用いて成形することにより、上記した締付受け部26を形成することができる。
なお、締付受け部26に形成された凹凸は、階段状であってもよい。また、締付部24または締付受け部26のうち、いずれか一方の表面が、摩擦係数が高い材料により形成されていてもよい。
【0059】
なお、この摩擦力は、ユーザーが与える外力よりも十分に小さい。これにより、ユーザーが駆動部540を前進させる力によって、クリップ20を容易に開いた状態にさせることができる。
【0060】
さらに、締付受け部26は、第1区間230と第2区間242との境界に、段差部232を有している。段差部232は、第1区間230側よりも第2区間242側の方が、互いの腕部260に対して離間するように設けられている。シース420および操作ワイヤ440の湾曲によっては、操作ワイヤ440がシース420に対して近位側に後退する場合が考えられる。そのような場合、クリップ20が近位側に引き込まれた場合であっても、締付部24に一定以上の前進する力が印加されなければ、締付部24は第2区間242に外嵌されないようにすることができる。すなわち、不測にクリップ20が不可逆に閉じた状態(後述する第3状態)となることを抑制することができる。また、この段差部232があることにより、ユーザーが駆動部540を操作する感触で、締付受け部26が第1区間230にあるのか第2区間242にあるのかを判別することができる。
【0061】
図4は、駆動部540を第1状態の位置から遠位側に前進させた状態を示している。図4(a)のように、連結部30は、クリップの基端部210に当接しており、クリップ20を遠位側に押し出している。締付部24が第1状態よりも本体22に対して近位側に移動している。すなわち、締付部24が締付受け部26の第1区間230よりも近位側に位置している。
【0062】
図4(b)のように、締付部24が第1状態よりも本体22に対して近位側に移動することにより、クリップ20の腕部260は、自己拡開力により開いた状態となっている。このように、クリップ20が開いた状態を「第2状態」と呼ぶ。
【0063】
図5は、駆動部540を第1状態の位置からさらに近位側に後退させた状態を示している。図5(a)のように、締付部24が第1状態よりも本体22に対して遠位側に移動している。すなわち、これにより、締付部24の凸部280は、締付受け部26の凹部244に嵌合している。
【0064】
図5(b)のように、締付部24が第1状態よりも本体22に対して遠位側に移動することにより、クリップ20の腕部260は不可逆に閉じている状態となっている。上述のように、締付部24の凸部280は、締付受け部26の凹部244に嵌合しているため、締付部24は、この状態で固定され、解除されることがない。したがって、クリップ20は、たとえば、生体組織を結紮した状態で維持される。このように、不可逆に結紮されている状態を、以下では「第3状態」と呼ぶ。
【0065】
実際に、ユーザーが医療行為を行う際には、まず、第1状態のクリップ装置10を内視鏡のチャネルに挿通させる。次いで、内視鏡で患部を観察しながら、クリップ20を第1状態と第2状態とを繰り返して遷移させることにより、結紮する位置などを最適化する。その最適化後、駆動部540をさらに近位側に牽引することにより、クリップ20を第1状態から第3状態に遷移させる。これにより、生体組織を不可逆に結紮することができる。クリップ20を第3状態とした後に、駆動部540を近位側にさらに牽引することにより、連結部30をクリップ20から分離させる。
【0066】
次に、図6および図7を用い、本実施形態の連結部30の機能について説明する。図6は、第1の実施形態に係る比較例の模式図である。また、図7は、第1の実施形態における連結部30の機能を説明するための模式図である。なお、図6において、各々の形状は簡略化している。また、図6における点線は、シース420の軸中心を示している。
【0067】
図6は、連結部30が常にクリップ20に対して連動する場合の比較例を示している。他の構成は、第1の実施形態と同様である。図6(a)は、シース420および操作ワイヤ440がともに屈曲せずに、クリップ20が可逆的に閉じた第1状態である場合を示している。たとえば、クリップ装置10を内視鏡のチャネルへ挿通するときなど、内視鏡のチャネル等を傷つけることがないように、クリップ20は第1状態を維持していることが好ましい。
【0068】
図6(b)は、比較例において、クリップ装置10を屈曲させた場合の一例を示している。この場合では、シース420は、細かく屈曲している。これに対して、操作ワイヤ440はシース420の軸中心から外れ、最短経路を通っている。このため、シース420と操作ワイヤ440との経路長の差が生じている。操作ワイヤ440の先端部は、シース420の先端部よりも突出してしまっている。
【0069】
このとき、締付部24は、締付受け部26の第1区間230より近位側に移動する。このため、クリップ20は、自己拡開力により開いた第2状態となる。このように、操作ワイヤ440がシース420に対して相対的に前進した場合、ユーザーが意図しないところでクリップ20は第2状態となってしまう。この場合、第2状態となったクリップ20は、内視鏡のチャネル等を傷つけてしまう可能性がある。または、第2状態となったクリップ20は、内視鏡内のチャネルに引っ掛かってしまう可能性がある。
【0070】
図6(c)は、比較例において、クリップ装置10を屈曲させた場合の他の一例を示している。この場合では、シース420は、大きく屈曲している。これに対して、操作ワイヤ440は、シース420の軸中心から外れ、最外経路を通っている。すなわち、シース420の方が、最短経路となっている。このため、操作ワイヤ440の先端部は、シース420の先端部よりも大きく後退してしまっている。
【0071】
この場合、締付部24の凸部280が締付受け部26の凹部244に嵌合してしまう可能性がある。このように、操作ワイヤ440がシース420に対して相対的に後退した場合、ユーザーが意図しないところで、クリップ20が不可逆に閉じた第3状態となってしまう可能性がある。一度、第3状態となってしまったクリップ20は、再使用することができない。このように、シース420と操作ワイヤ440との経路長の問題は、クリップ20の状態などに様々な不具合を生じさせる可能性がある。
【0072】
特に、クリップ20の腕部260がシース420の遠位側から突出しているクリップ装置10の場合、クリップ20の腕部260が内視鏡のチャネルの内壁に直接接する。このため、このようなクリップ装置10の場合、シース420と操作ワイヤ440との経路長の問題が顕著に発生する可能性がある。
【0073】
次に、図7を用い、第1の実施形態の連結部30の機能について説明する。
【0074】
図7(a)は、図6(a)のように、シース420および操作ワイヤ440がともに屈曲されていないとき、第1の実施形態の連結部30の状態を示している。図7(a)のように、クリップ20の基端部210のうち、近位端は、たとえば、連結部30の中央付近に位置していると仮定する。このとき、掛止部340は、基端部210の空隙基端部212bに対して離間した位置に配置されている。また、当接部320の当接面322は、基端部210の近位端に対して離間した位置に配置されている。このため、連結部30は、クリップ20に対して、遠位側に前進させる力、または近位側に後退させる力のいずれも印加していない状態である。ユーザーは、たとえば、連結部30をこの状態に維持して、クリップ装置10を内視鏡のチャネルに挿通する。
【0075】
ここで、図7(a)において、空隙先端部212aから空隙基端部212bまでの間には、基端部210の空隙212が設けられている。上述のように、空隙212のうち、操作ワイヤ440の挿通方向の長さ(空隙先端部212aから空隙基端部212bまでの距離)は、掛止部340と当接部320の当接面322とが離間した距離よりも長い。
【0076】
図7(b)は、図6(b)のように、操作ワイヤ440が最短経路を通っている場合を示している。この場合、操作ワイヤ440は、シース420に対して相対的に前進しようとする。このとき、第1の実施形態の連結部30も基端部210に対して相対的に遠位側に前進する。しかし、連結部30または基端部210は、連結部30が基端部210に対して相対的に進退するためのマージンを有している。すなわち、掛止部340と当接部320とが離間したマージンの分だけ、連結部30は基端部210に対して相対的に前進することができる。これにより、操作ワイヤ440がシース420に対して相対的に前進したとき、連結部30の当接部320がクリップ20の基端部210に当接することがない。すなわち、上記したマージンの分だけ、操作ワイヤ440がシース420に対して相対的に前進することを許容することができる。したがって、クリップ20が不測に第2状態に遷移することを抑制することができる。
【0077】
図7(c)は、図6(c)のように、操作ワイヤ440が最外経路を通っている場合を示している。この場合、操作ワイヤ440は、シース420に対して相対的に後退しようとする。このとき、第1の実施形態の連結部30も基端部210に対して相対的に近位側に後退する。しかし、連結部30または基端部210は、連結部30が基端部210に対して相対的に後退するためのマージンを有している。すなわち、掛止部340と当接部320とが離間したマージンの分だけ、連結部30は基端部210に対して相対的に後退することができる。これにより、操作ワイヤ440がシース420に対して相対的に後退したとき、連結部30の掛止部340がクリップ20の基端部210(空隙基端部212b)を掛止することがない。すなわち、上記したマージンの分だけ、操作ワイヤ440がシース420に対して相対的に後退することを許容することができる。したがって、クリップ20が不測に第3状態に遷移することを抑制することができる。
【0078】
ここで、操作ワイヤ440はシース420よりも固い材料により形成されている。このため、シース420が湾曲した場合は、操作ワイヤ440は最長経路をとる。また、操作ワイヤ440およびシース420の曲率半径に依存して、操作ワイヤ440がシース420に対して相対的に変位する長さが変化する傾向にある。ここでいう「操作ワイヤ440がシース420に対して相対的に変位する長さ」とは、上述のように、操作ワイヤ440がシース420に対して相対的に前進または後退する長さのことをいう。また、内視鏡の剛性はシース420および操作ワイヤ440よりも強いため、操作ワイヤ440およびシース420の曲率半径が最も小さくなるときは、操作ワイヤ440およびシース420が内視鏡の最小曲げ半径まで湾曲したときである。なお、ここでいう「内視鏡の最小曲げ半径」とは、内視鏡を曲げることができる最小の曲率半径のことである。この「内視鏡の最小曲げ半径」は、内視鏡メーカーが保証する最小の曲率半径であってもよい。したがって、上述した連結部30が基端部210に対して相対的に進退するための「マージン」は、操作ワイヤ440およびシース420が挿通する内視鏡の最小曲げ半径まで湾曲したときに操作ワイヤ440がシース420に対して相対的に変位する長さよりも長いことが好ましい。これにより、シース420と操作ワイヤ440の経路長に差異が生じても、クリップ20が不測に第1状態から第2状態または第3状態に遷移することを抑制することができる。
【0079】
次に、第1の実施形態の効果について、説明する。
【0080】
第1の実施形態によれば、クリップ20の基端部210または連結部30は、互いに連結したときに連結部30が基端部210に対して相対的に進退するためのマージンを有している。操作ワイヤ440がシース420に対して進退移動をするときに、連結部30は上記したマージンによって基端部210に対して遊動することにより、クリップ20の腕部260が可逆的に閉じる第1状態から腕部260が開く第2状態に遷移することを抑制する。これにより、クリップ装置10を内視鏡のチャネル内に挿通するとき、シース420と操作ワイヤ440の経路長の差異によって、クリップ20が不測に第2状態となることを抑制することができる。
【0081】
第1の実施形態では、たとえば、クリップ20の腕部260は、第1状態のときにシース420の遠位側から突出している。このような場合、内視鏡のチャネル内にクリップ装置10が挿通するとき、クリップ20の腕部260は、内視鏡のチャネルの内壁に直接接する。このため、上記した経路長の問題が発生した場合に、クリップ20がシース420に内装されているクリップ装置10に比較して、第1の実施形態のクリップ装置10は内視鏡に不具合を生じさせる可能性がある。したがって、第1の実施形態のクリップ装置10は上記したマージンを有していることにより、確実にクリップ20が不測に内視鏡に対して不具合を生じさせることを抑制することができる。
【0082】
また、第1の実施形態では、たとえば、連結部30の掛止部340および当接部320は、操作ワイヤ440の挿通方向に互いに離間している。さらに、本体22の基端部210は、クリップ20が第1状態のときに掛止部340が基端部210に対して相対的に進退するための空隙212を有している。クリップ装置10がこのような構成であることにより、シース420と操作ワイヤ440との経路長の差異が生じたとき、クリップ20の基端部210または連結部30は、操作ワイヤ440がシース420に対して相対的に変位することを許容して、クリップ20に不要な力を作用させることがない。
【0083】
以上のように、第1の実施形態によれば、シース420と操作ワイヤ440との経路長の差異が生じても、クリップ20の開閉を適切に制御することができるクリップ装置10を提供することができる。
【0084】
(第2の実施形態)
図8は、第2の実施形態に係るクリップ装置10の先端部を示す断面図である。第2の実施形態は、シース420の内部にガイド部460を備えている点を除いて、第1の実施形態と同様である。以下、詳細を説明する。
【0085】
図8(a)のように、シース420の内部には、ガイド部460が設けられている。ガイド部460は、断面視でシース420の軸中心と重なる位置に、操作ワイヤ440を挿通している。これにより、操作ワイヤ440をシース420の軸中心に案内することができる。
【0086】
ガイド部460は、たとえば、連結部30の近位側に設けられている。ここでは、ガイド部460は、連結部30の近位側に接して固定されている。または、ガイド部460は、操作ワイヤ440に固定されていてもよい。これにより、ガイド部460は、クリップ20とともにシース420の内部を挿通する。
【0087】
図8(b)のように、操作ワイヤ440は、ガイド部460の中心に接続されている。また、ガイド部460のうち、少なくとも一方向の直径は、操作ワイヤ440よりも大きい。また、ガイド部460のうち、当該直径は、シース420の内径よりも小さい。これにより、ガイド部460をシース420内に摺動させるとともに、操作ワイヤ440をシース420の軸中心に案内することができる。
【0088】
次に、第2の実施形態の効果について説明する。
【0089】
図6(b)のように、操作ワイヤ440が、シース420に対して相対的に前進する場合、クリップ20が不測に動作状態となる可能性がある。このような現象は、操作ワイヤ440がシース420の中心軸からずれて摺動することに起因している。
【0090】
第2の実施形態によれば、ガイド部460は、断面視でシース420の軸中心と重なる位置に、操作ワイヤ440を挿通している。これにより、操作ワイヤ440をシース420の軸中心に案内することができる。したがって、操作ワイヤ440が、シース420に対して相対的に前進または後退することを抑制することができる。
【0091】
以上、第2の実施形態において、ガイド部460がクリップ20に固定されている場合を説明したが、操作ワイヤ440に対して移動可能に設けられていてもよい。また、ガイド部460は一つだけ設けられている場合を説明したが、ガイド部460は複数であってもよい。
【0092】
(第3の実施形態)
図9は、第3の実施形態に係るクリップ装置10の先端部を示す断面図である。第3の実施形態は、基端部210のみがマージンを有している点を除いて、第1の実施形態と同様である。以下、詳細を説明する。
【0093】
図9のように、連結部30は、たとえば、矢先状に形成されている。連結部30の当接面322は、円錐状に形成されている。これにより、連結部30を基端部210に挿入しやすくすることができる。また、連結部30の掛止部340は、円錐の底面に形成されている。
【0094】
クリップ20の基端部210は、たとえば、円筒状に形成されている。基端部210の内部には、連結部30の先端部が基端部210に対して進退するための空隙212を有している。空隙212の遠位面は、連結部30の当接面322が衝合するように形成されている。一方、空隙212の近位面には、掛止部340よりも小径の穴が設けられている。これにより、空隙212の近位面は掛止部240と掛止している。このように、上記した空隙212は、連結部30が基端部210に対して相対的に進退するためのマージンとなっている。
【0095】
第3の実施形態によれば、基端部210の内部には、連結部30の先端が基端部210に対して進退するためのマージンとして空隙212を有している。このように基端部210のみがマージンを有している場合であっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0096】
(第4の実施形態)
図10は、第4の実施形態に係るクリップ装置10の先端部を示す断面図である。第4の実施形態は、連結部30のみがマージンを有している点を除いて、第1の実施形態と同様である。以下、詳細を説明する。
【0097】
図10(a)(b)のように、連結部30のうち、当接部320は、掛止部340が設けられている板状部材(符号不図示)に対して相対的に、操作ワイヤ440の挿通方向に所定距離だけ移動可能となっている。これにより、掛止部340が基端部210に掛止しているとき、当接部320は基端部210に対して相対的に進退可能である。一方、基端部210の空隙先端部212aと空隙基端部212bとは、掛止部340が掛止するために必要な距離だけ離間している。
【0098】
図10(a)は、連結部30がクリップ20を前進させるときを示している。当接部320は、掛止部340が設けられている板状部材(符号不図示)に対して相対的に前進している。これにより、当接部320の当接面322は、基端部210に当接することができる。
【0099】
図10(b)は、連結部30がクリップ20を後退させるときを示している。当接部320は、掛止部340が設けられている板状部材(符号不図示)に対して相対的に後退している。これにより、掛止部340は、基端部210に掛止して、クリップ20を牽引することができる。
【0100】
第4の実施形態によれば、連結部30のうち、当接部320が基端部210に対して相対的に進退可能である。このとき、当接部320が基端部210に対して相対的に可動する距離が、連結部30の先端が基端部210に対して進退するためのマージンである。このように連結部30のみがマージンを有している場合であっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0101】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0102】
10 クリップ装置
20 クリップ
22 本体
24 締付部
26 締付受け部
30 連結部
50 操作部
210 基端部
212 空隙
212a 空隙先端部
212b 空隙基端部
220 板バネ部
230 第1区間
232 段差部
242 第2区間
244 凹部
260 腕部
262 先端部
280 凸部
320 当接部
322 当接面
340 掛止部
360 縮径チューブ
380 先端リング
420 シース
440 操作ワイヤ
460 ガイド部
520 操作本体部
540 駆動部
560 開口
580 指かけリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己拡開性を有するクリップと、長尺のシースと、前記シースの内部を進退移動可能に挿通された操作ワイヤと、前記操作ワイヤの遠位側に設けられ前記クリップと連結する連結部と、を備え、
前記クリップは、
自己拡開力により開く腕部と、前記腕部より近位側に設けられ前記連結部と連結する基端部と、を有する本体と、
前記本体に外装され、当該本体に対して遠位側に移動されることにより、前記腕部を締め付けて閉じることが可能な締付部と、を備え、かつ、
前記締付部が前記腕部を解除可能に締め付けることにより前記腕部が可逆的に閉じる第1状態と、前記腕部が前記第1状態よりも前記締付部に対して遠位側に移動することにより前記腕部が開く第2状態と、に遷移し、
前記シースは、前記締付部の後退を規制し、
前記クリップの前記基端部または前記連結部は、互いに連結したときに前記連結部が前記基端部に対して相対的に進退するためのマージンを有し、
前記操作ワイヤが前記進退移動をするときに前記連結部が前記マージンによって前記基端部に対して遊動することにより、前記クリップが前記第1状態から前記第2状態に遷移することが抑制されていることを特徴とするクリップ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のクリップ装置において、
前記腕部は、前記第1状態のときに前記シースの遠位側から突出しているクリップ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のクリップ装置において、
前記連結部は、
前記基端部を掛止することにより前記クリップを近位側に牽引する掛止部と、
前記掛止部より近位側に設けられ、前記操作ワイヤの遠位側と連結し、且つ、前記基端部に当接することにより前記クリップを遠位側に押し出す当接部と、
を備え、
前記掛止部および前記当接部は、前記操作ワイヤの挿通方向に互いに離間しており、
前記基端部は、前記クリップが前記第1状態のときに前記掛止部が前記基端部に対して進退するための空隙を有するクリップ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のクリップ装置において、
前記クリップは、前記締付部が前記第1状態よりも前記本体に対して遠位側に移動することにより、前記腕部が不可逆的に閉じる第3状態にさらに遷移し、
前記連結部の前記掛止部は、対向する一対の先端突出片を備え、
前記連結部は、
一対の前記先端突出片が弾性的に前記シースの径方向に開閉することにより前記基端部と連結し、
前記クリップを前記第3状態とした後に前記クリップから分離可能であるクリップ装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載のクリップ装置において、
前記空隙のうち、前記操作ワイヤの挿通方向の長さは、前記掛止部と前記当接部とが離間した距離よりも長いクリップ装置。
【請求項6】
内視鏡のチャネル内に挿通させる請求項1〜5のいずれか一項に記載のクリップ装置であって、
前記マージンは、前記操作ワイヤおよび前記シースが挿通する前記内視鏡の最小曲げ半径まで湾曲したときに、前記操作ワイヤが前記シースに対して相対的に変位する長さよりも長いクリップ装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のクリップ装置において、
前記クリップは、前記第1状態のときに前記締付部に対して摩擦力が生じるように形成され、
当該摩擦力により、前記クリップは前記第2状態に遷移することを抑制されるクリップ装置。
【請求項8】
請求項7に記載のクリップ装置において、
前記クリップは、
前記締付部により締め付けられる締付受け部をさらに備え、
当該締付受け部は、
近位側から遠位側へ向けて、互いの前記腕部に対して離間している第1区間と、
前記腕部が閉じた状態で固定され、かつ、前記腕部の前記自己拡開力によって前記締付部が前記第1区間に移動しないように形成された第2区間と、
を、近位側から遠位側へ向けてこの順で有し、
前記締付受け部の前記第1区間は、前記締付部と接して、前記摩擦力を生じさせるクリップ装置。
【請求項9】
請求項7に記載のクリップ装置において、
前記第1区間の表面には、凹凸が形成されているクリップ装置。
【請求項10】
請求項7または8に記載のクリップ装置において、
前記締付受け部は、前記第1区間と前記第2区間との境界に、前記第1区間側よりも前記第2区間側の方が、互いの前記腕部に対して離間して設けられた段差部をさらに備えるクリップ装置。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のクリップ装置において、
前記シースの内部に設けられ、少なくとも一方向の直径が前記操作ワイヤより大きく、且つ、前記シースの内径よりも小さく、断面視で前記シースの軸中心と重なる位置に前記操作ワイヤを挿通することにより、前記操作ワイヤを前記シースの軸中心に案内するガイド部をさらに備えるクリップ装置。
【請求項12】
請求項10に記載のクリップ装置において、
前記ガイド部は、前記連結部の近位側に接し、当該連結部とともに前記シースの内部を挿通するクリップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−85860(P2013−85860A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231356(P2011−231356)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】