説明

クレーン装置、コンテナヤード、および給電方法

【課題】低いコストで効果的に高調波対策を行う。
【解決手段】三相全波整流器21で、地上電源設備から供給された三相交流電力11Aを全波整流し、得られた直流電力12Aを共通母線Bへ供給し、Δ−Y結線方式の三相変圧器2で、三相交流電力11Aに対して電圧位相がπ/6だけずれた三相交流電力11Bを出力し、三相全波整流器22で、三相変圧器2から出力された三相交流電力11Bを全波整流し、得られた直流電力12Bを共通母線Bへ供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーンに沿って延設した給電線を介して給電された電力により、コンテナの荷役を行うクレーン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クレーン装置を用いて、船舶やトレーラーに対するコンテナの積み降ろしなどの荷役を行うコンテナヤードには、地上の電力設備から、レーンに沿って延設した給電線を介してクレーン装置へ給電する、いわゆる電動化方式のコンテナヤードがある(例えば、特許文献1など参照)。
【0003】
図11は、一般的なコンテナヤードの構成例を示す平面図である。
コンテナヤード100は、港の埠頭7Aに面して設けられており、埠頭7Aに配置されたコンテナクレーン7Cにより、船舶7Bに対するコンテナ9の積み降ろしが行われる。
また、これらコンテナヤード100は、その配置位置や使用目的に応じて、埠頭7Aに沿って複数の荷役領域、すなわちバース70に分割されている。
【0004】
各バース70には、コンテナ9の載置場所として、コンテナ9の長手方向に沿って伸延する平面視長方形状のエリアからなるレーン72が複数設けられており、レーン72内を当該レーン72の長手方向Xにクレーン装置10が走行することにより、レーン72内に載置されているコンテナ9が効率よく仕分けされる。なお、図11では、コンテナ9が岸壁と平行する方向に載置されている例が示されているが、これに限定されるものではなく、岸壁と直交する方向に載置されているケースもある。
【0005】
各レーン72には、クレーン装置10に対して電力を供給する三相変圧器7が設けられており、レーン72に沿って延設されている給電線8を介して、三相変圧器7から電力がクレーン装置10へ供給される。給電線8は、支柱に架設されたトロリー線(バスバー)からなり、クレーン装置10に搭載する集電装置を給電線8と電気的に接触させることにより、クレーン装置10が三相変圧器7から電力を集電するものとなっている。また、バース70ごとに、商用電源を受電変圧する受電設備71が設けられており、受電設備71で得られた動作電源が、当該バース70内の各三相変圧器7へ供給される。
【0006】
なお、給電線8は、トロリー線に限定されるものではなく、一般的なケーブルリールやケーブルリールキャリアを用いてもよい。また、図9では、隣接する2つのレーン72の隣接端に給電線8が隣り合わせに延設されている例が示されているが、これに限定されるものではなく、レーン72ごとに、同一端に給電線8が個別に延設されているケースもある。
【0007】
コンテナヤード100には、道路L側にゲートGが設けられており、トレーラー75はこのゲートGを通過してコンテナ9の搬入・搬出を行う。
レーン72には、トレーラー75の通路が設けられており、この通路に停車したトレーラー75に対して、クレーン装置10によるコンテナ9の積み降ろしが行われる。
クレーン装置10は、レーン72ごとに対応付けて配置してもよいが、他のレーン72へ移動させることにより効率よく荷役を行うことができる。このような場合、レーン72の端部に隣接して設けられているターンレーン74において、長手方向Xと直交する直角方向Yへクレーン装置10を直角走行させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−023817号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「高調波抑制対策技術指針」(電気技術指針 高調波編)、JEAG 9702-1995、社団法人日本電気協会、電気技術基準調査委員会、平成7年12月25日第3刷発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような電動化方式のコンテナヤードでは、各クレーン装置10にインバータを搭載し、三相変圧器7から給電線8を介して供給された電力を、三相全波整流器で交直流変換して得られた直流電力から、さらにインバータで直交流変換して交流電動機からなる巻上電動機や走行電動機を駆動し、あるいは、この直流電力をさらに電圧変換して得られた駆動用直流電力で直流電動機からなる巻上電動機や走行電動機を駆動するものとなっている。
このような三相全波整流器では、交直流変換の際、商用電力の基本波より周波数の高い高調波が発生することが知られている。したがって、クレーン装置10から給電線8および三相変圧器7を介して商用電力系統へ、このような高調波が高いレベルで漏洩した場合、商用電力系統の電力を利用している他の電気機器に対して悪影響を及ぼす可能性がある。
【0011】
このため、コンテナヤードでは、三相変圧器7やその上位の受電設備に、商用電力系統へ漏洩する高調波を抑制するPWMコンバータや高周波フィルタを設けるなど、高調波対策が必要となる。しかしながら、このような高調波抑制設備は、非常に高価な製品が多く、またコンテナヤードなどの大電力対応のものはさらに高価となるため、初期投資が大きな負担となるという問題点があった。
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、低いコストで効果的に高調波対策を行うことができるクレーン装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために、本発明にかかるクレーン装置は、地上電源設備から供給された第1の三相交流電力を全波整流し、得られた直流電力を共通母線へ供給する第1の三相全波整流器と、第1の三相交流電力に対して電圧位相がπ/6だけずれた第2の三相交流電力を出力する三相変圧器と、三相変圧器から出力された第2の三相交流電力を全波整流し、得られた直流電力を共通母線へ供給する第2の三相全波整流器と、第1および第2の三相全波整流器から共通母線へ供給された直流電力を交流電力に変換して、コンテナの巻上下を行う電動機を駆動するインバータとを備えている。
【0013】
この際、三相変圧器として、Δ−Y結線方式またはY−Δ結線方式の三相変圧器を用いてもよい。
【0014】
また、本発明にかかるコンテナヤードは、コンテナの載置場所に延設されて、コンテナの荷役を行うクレーン装置へ動作電力を給電する給電線と、給電線ごとに設けられて、上位電源設備から供給された電源電力を変圧し、得られた動作電力を当該給電線へ供給する複数の三相変圧器とを備え、三相変圧器のうち、対をなす2つの三相変圧器の一方は、電源電力と同相の電圧位相からなる第1の三相交流電力を動作電力として出力する第1の三相変圧器からなり、対をなす2つの三相変圧器の他方は、電源電力に対して電圧位相がπ/6だけずれた第2の三相交流電力を動作電力として出力する第2の三相変圧器からなる。
【0015】
この際、第1の三相変圧器として、Δ−Δ結線方式またはY−Y結線方式の三相変圧器を用い、第2の三相変圧器として、Δ−Y結線方式またはY−Δ結線方式の三相変圧器を用いてもよい。
【0016】
また、本発明にかかる給電方法は、共通母線へ供給された直流電力を、インバータで交流電力に変換して電動機を駆動することにより、コンテナの巻上げ下げを行うクレーン装置で用いられる給電方法であって、第1の三相全波整流器が、地上電源設備から供給された第1の三相交流電力を全波整流し、得られた直流電力を共通母線へ供給するステップと、三相変圧器が、第1の三相交流電力に対して電圧位相がπ/6だけずれた第2の三相交流電力を出力するステップと、第2の三相全波整流器が、三相変圧器から出力された第2の三相交流電力を全波整流し、得られた直流電力を共通母線へ供給するステップとを備えている。
【0017】
この際、三相変圧器として、Δ−Y結線方式またはY−Δ結線方式の三相変圧器を用いてもよい。
【0018】
また、本発明にかかる他の給電方法は、コンテナの載置場所に延設されて、コンテナの荷役を行うクレーン装置へ動作電力を給電する給電線と、給電線ごとに設けられて、上位電源設備から供給された電源電力を変圧し、得られた動作電力を当該給電線へ供給する複数の三相変圧器とを備えるコンテナヤードで用いられる給電方式であって、三相変圧器のうち、対をなす2つの三相変圧器の一方が、電源電力と同相の電圧位相からなる第1の三相交流電力を動作電力として出力するステップと、対をなす2つの三相変圧器の他方が、電源電力に対して電圧位相がπ/6だけずれた第2の三相交流電力を動作電力として出力するステップとを備えている。
【0019】
この際、第1の三相変圧器として、Δ−Δ結線方式またはY−Y結線方式の三相変圧器を用い、第2の三相変圧器として、Δ−Y結線方式またはY−Δ結線方式の三相変圧器を用いるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、三相変圧器の一次側において、三相全波整流器での全波整流に応じて発生する基本波の5次高調波および7次高調波が、互いの位相が逆位相となるため、互いに打ち消し合うことになる。したがって、結果として、地上設備の三相変圧器側、すなわち商用電力系統へ漏洩する高調波が抑制されることになる。
【0021】
このため、コンテナヤードにおいて、三相変圧器やその上位の受電設備に、商用電力系統へ漏洩する高調波を抑制するPWMコンバータや高周波フィルタなどの、非常に高価な設備を設ける場合と比較して、三相変圧器をクレーン装置に追加するだけで、高調波対策を行うことができる。また、このような三相変圧器は、一般的なものでよく、また1つのクレーン装置で使用する電力を賄う容量を持つ、比較的小規模のもので十分であるため、低いコストで効果的に高調波対策を行うことができる。これにより、コンテナヤードの初期投資を大幅に軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施の形態にかかるクレーン装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施の形態にかかるクレーン装置の電力系統を示すブロック図である。
【図3】第1の実施の形態にかかるクレーン装置の電力系統を示す回路図である。
【図4】Δ−Y結線方式変圧器における電圧位相を示す説明図である。
【図5】第2の実施の形態にかかるクレーン装置の電力系統を示すブロック図である。
【図6】第2の実施の形態にかかるクレーン装置の電力系統を示す回路図である。
【図7】Y−Δ結線方式変圧器における電圧位相を示す説明図である。
【図8】第3の実施の形態にかかるコンテナヤードの給電構成を示すブロック図である。
【図9】第3の実施の形態にかかる他のコンテナヤードの給電構成を示すブロック図である。
【図10】第3の実施の形態にかかる他のコンテナヤードの給電構成を示すブロック図である。
【図11】一般的なコンテナヤードの構成例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかるクレーン装置10について説明する。図1は、第1の実施の形態にかかるクレーン装置の構成を示すブロック図である。
【0024】
このクレーン装置10は、コンテナヤードのレーンに沿って延設した給電線8を介して給電された変圧器(電源装置)7からの電力により、各種電動機を駆動してコンテナなどの荷物の積み降ろしや、コンテナヤード内での走行などの各種クレーン動作を行うクレーン装置である。
【0025】
クレーン装置10には、主な構成として、接続装置1、三相変圧器2、三相全波整流器(第1の三相全波整流器)21、三相全波整流器(第2の三相全波整流器)22、主巻電動機30、走行電動機31,32、横行電動機33、インバータ(INV)41,42,43,44、コントローラ5、および共通母線Bが設けられている。
【0026】
接続装置1は、クレーン装置10の外側に取り付けられて、給電線8と電気的に接続することにより、三相変圧器7からの三相交流電力を受電する機能を有している。
三相変圧器2は、Δ−Y結線方式またはY−Δ結線方式の三相変圧器からなり、接続装置1で受電された三相交流電力(第1の三相交流電力)11Aを、当該三相交流電力11Aに対してπ/6だけ電圧位相のずれた三相交流電力(第2の三相交流電力)11Bを出力する機能を有している。
【0027】
三相全波整流器21は、ダイオードなどの半導体整流素子からなり、接続装置1からの三相交流電力11Aを直流電力12Aに変換して共通母線Bへ出力する機能を有している。
三相全波整流器22は、ダイオードなどの半導体整流素子からなり、三相変圧器2からの三相交流電力11Bを直流電力12Bに変換して共通母線Bへ出力する機能を有している。
【0028】
主巻電動機30は、コンテナの昇降を行うための交流電動機である。
走行電動機31,32は、レーンの延設方向に沿ってクレーン装置10を走行させるための交流電動機である。この走行電動機31,32は、異なるレーンへレーン替えする際に、レーンの延設方向と交差する方向に、クレーン装置10を直角走行させる場合にも用いられる。
横行電動機33は、クレーン装置10の上部に設けられたトロリーを、レーンの延設方向と交差する方向に横行させるための交流電動機である。
【0029】
インバータ41は、三相全波整流器21,22から共通母線Bへ出力された直流電力を交流電力に変換した後、電磁接触器MCを介して主巻電動機30または走行電動機31へ供給するDC/AC変換器である。
インバータ42は、三相全波整流器21,22から共通母線Bへ出力された直流電力を交流電力に変換した後、電磁接触器MCを介して主巻電動機30または走行電動機32へ供給するDC/AC変換器である。
【0030】
インバータ43は、三相全波整流器21,22から共通母線Bへ出力された直流電力を交流電力に変換した後、横行電動機33へ供給するDC/AC変換器である。なお、横行電動機33については、2機(2WD)や4機(4WD)の場合があり、これに合わせてインバータ43の搭載数も増減する。
インバータ44は、三相全波整流器21,22から共通母線Bへ出力された直流電力を交流電力に変換して照明装置、空調装置、あるいはコントローラ5などの制御装置を含む各種補機設備の電源として供給するDC/AC変換器である。
【0031】
蓄電装置45は、キャパシタやリチウムイオン電池からなり、共通母線B上の直流電力の一部を蓄電し、コンテナ巻上時などの大電力消費時や、レーン替え時などの給電線8から接続装置1が離脱して地上給電が停止した際に、蓄電した直流電力を共通母線Bへ供給する機能を有している。なお、必要に応じて、共通母線Bと蓄電装置45との間に、チョッパ(昇圧装置)を設置して、電流制御を行うようにしてもよい。
【0032】
コントローラ5は、CPUなどのマイクロプロセッサとその周辺回路を有し、マイクロプロセッサまたは周辺回路に設けられたメモリからプログラムを読み込んで実行することにより、プログラムと上記ハードウェアとを協働させて、クレーン装置10全体を制御するための各種機能を有している。
【0033】
コントローラ5の主な機能としては、操作レバーや操作スイッチを介して検出した操作者の指令入力5Aに基づいて、各種のコマンド5Bをやり取りすることによりインバータ41〜44や電磁接触器MCを制御して、コンテナの昇降、架台の走行、横行などの運転を制御するクレーン運転機能がある。
【0034】
[第1の実施の形態の動作]
次に、図2−図4を参照して、本実施の形態にかかるクレーン装置10の動作について説明する。図2は、第1の実施の形態にかかるクレーン装置の電力系統を示すブロック図である。図3は、第1の実施の形態にかかるクレーン装置の電力系統を示す回路図である。図4は、Δ−Y結線方式変圧器における電圧位相を示す説明図である。
【0035】
本実施の形態にかかるクレーン装置10では、図2および図3に示すように、地上設備である三相変圧器7から給電線8を介して供給された三相交流電力が、三相変圧器2と三相全波整流器21へ分配される。
図3の例では、三相変圧器7としてΔ−Δ結線方式の三相変圧器が用いられており、三相変圧器2としてΔ−Y結線方式の三相変圧器が用いられている。また、三相全波整流器21,22は、整流素子としてダイオードを用いた三相全波整流ブリッジ回路から構成されている。
【0036】
三相全波整流器21の正側出力端子+は、三相全波整流器22の正側出力端子+と接続された後、直流リアクタンスLを介して、平滑コンデンサCの正側端子と接続されている。
また、三相全波整流器21の負側出力端子−は、三相全波整流器22の負側出力端子−と接続された後、平滑コンデンサCの負側端子と接続されている。これら平滑コンデンサCの正側端子と負側端子に、共通母線Bの正側配線B+および負側配線B−が接続されている。
【0037】
三相交流を変圧する三相変圧器には、一次側および二次側の巻線に関するΔ(デルタ)結線およびY(スター)結線の2種類の結線方式の組合せ、すなわちΔ−Δ、Δ−Y、Y−Δ、およびY−Yの4種類の結線方式が存在する。
【0038】
Δ結線は、三相各相を相電圧が加わる向きに接続し閉回路とする結線であり、3つの巻線の端部がリング状に直列接続され、これら3つの接続点に三相各相がそれぞれ接続される。
Y結線は、三相各相をその一端の中性点で接続する結線であり、3つの巻線の一方が中性点に共通接続され、3つの巻線の他端に三相各相がそれぞれ接続される。
【0039】
これら4種類の三相変圧器のうち、Δ−Δ結線方式およびY−Y結線方式については、一次側および二次側で結線方式が同じであることから、一次側および二次側で電圧位相にずれは生じない。一方、Δ−Y結線方式は、図4に示すように、一次側に比較して、二次側の電圧位相がπ/6だけ進みを生じる。
【0040】
通常、三相交流を三相全波整流器で全波整流した場合、得られる直流電圧波形に基本波の1/6周期のリップルが発生し、三相全波整流器に入力される交流電流波形には、5次高調波および7次高調波を主として、これ以上の高次高調波がそれぞれ発生する。これら交流電流波形上の高調波は、一般に、次数が高くなるにつれてそのレベルが小さくなる傾向を有している。具体的には、基本波に対する各高調波成分の含有率は、5次高調波が17.5%、7次高調波が11.0%、11次高調波が4.5%、13次高調波が3.0%となる。したがって、比較的レベルの大きい5次高調波および7次高調波を低減することが、効果的な高調波対策となる。
【0041】
ここで、図2および図3に示すように、三相全波整流器21の一次側と二次側に対して、三相変圧器2と三相全波整流器22の直列回路を並列的に接続した場合、三相全波整流器21へ入力される三相交流電力11Aに対して、基本波のπ/6の位相差を持つ交流電力11Bが三相全波整流器22へ入力されることになる。
【0042】
このため、例えば非特許文献1の88頁−91頁「(2)キャンセル効果」欄や同じく108頁−120頁「3.2.1多パルス化」欄に記載されているように、三相変圧器2からの5次高調波および7次高調波と、三相全波整流器21からの5次高調波および7次高調波とは、互いに逆位相となるため、三相変圧器2の一次側で互いに打ち消し合って、そのレベルが低減する。これにより、結果として、三相変圧器7側、すなわち商用電力系統へ漏洩する高調波が抑制されることになる。
【0043】
[第1の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、三相全波整流器21で、地上電源設備から供給された三相交流電力11Aを全波整流し、得られた直流電力12Aを共通母線Bへ供給し、Δ−Y結線方式の三相変圧器2で、三相交流電力11Aに対して電圧位相がπ/6だけずれた三相交流電力11Bを出力し、三相全波整流器22で、三相変圧器2から出力された三相交流電力11Bを全波整流し、得られた直流電力12Bを共通母線Bへ供給するようにしたものである。
【0044】
これにより、三相変圧器2の一次側において、三相全波整流器での全波整流に応じて発生する基本波の5次高調波および7次高調波が、互いの位相が逆位相となるため、互いに打ち消し合うことになる。したがって、結果として、地上設備の三相変圧器7側、すなわち商用電力系統へ漏洩する高調波が抑制されることになる。
【0045】
このため、コンテナヤードにおいて、三相変圧器7やその上位の受電設備に、商用電力系統へ漏洩する高調波を抑制するPWMコンバータや高周波フィルタなどの、非常に高価な設備を設ける場合と比較して、三相変圧器2をクレーン装置10に追加するだけで、高調波対策を行うことができる。また、このような三相変圧器は、一般的なものでよく、また1つのクレーン装置で使用する電力を賄う容量を持つ、比較的小規模のもので十分であるため、低いコストで効果的に高調波対策を行うことができる。これにより、コンテナヤードの初期投資を大幅に軽減することが可能となる。
【0046】
また、本実施の形態によれば、三相全波整流器21,22の出力が、並列的に共通母線Bへ供給されるため、三相全波整流器21,22に流れる電流の大きさがほぼ等しくなる。したがって、三相全波整流器21,22で派生する高調波のレベルもほぼ等しくなるため、極めて効果的に高調波を低減することができる。
【0047】
また、本実施の形態では、三相全波整流器21,22について高調波対策を行う場合、一方の三相全波整流器21に対しては、給電線8からの電源電力と電圧位相が同相の交流電力を供給する場合、地上の給電線8と比較してクレーン装置10内では電力供給用の線路長が短く、当該交流電力の供給への影響が少ないことに着目し、給電線8からの電源電力をそのまま三相全波整流器21へ供給するようにしたので、Δ−Δ結線方式やY−Y結線方式からなる同相の三相変圧器を省くことができ、クレーン装置10の回路規模を削減することができる。
【0048】
なお、本実施の形態では、地上設備である三相変圧器7として、Δ−Δ結線方式の三相変圧器を用いた場合を例として説明したが、これに限定されるものではなく、Δ−Y、Y−Δ、Y−Yなど、他の結線方式の三相変圧器を用いてもよい。三相変圧器7の結線方式と、三相変圧器2の結線方式との間で、特別な関係はない。
【0049】
また、本実施の形態では、クレーン装置10において、共通母線B上の直流電力をインバータ41〜43で変換して得られた交流電力で、交流電動機からなる電動機30〜33をそれぞれ駆動する場合を例として説明したが、これに限定されるものではない。共通母線B上の直流電力をインバータ41〜43で変換して得られた直流電力で、直流電動機からなる電動機30〜33を駆動する場合にも、前述と同様にして本実施の形態を適用でき、同様の作用効果を得ることができる。
【0050】
[第2の実施の形態]
次に、図5−図7を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかるクレーン装置10について説明する。図5は、第2の実施の形態にかかるクレーン装置の電力系統を示すブロック図である。図6は、第2の実施の形態にかかるクレーン装置の電力系統を示す回路図である。図7は、Y−Δ結線方式変圧器における電圧位相を示す説明図である。
【0051】
第1の実施の形態では、三相変圧器2として、Δ−Y結線方式の三相変圧器を用いた場合を例として説明した。本実施の形態では、三相変圧器2として、Y−Δ結線方式の三相変圧器を用いた場合について説明する。
【0052】
本実施の形態にかかるクレーン装置10では、図5および図6に示すように、地上設備である三相変圧器7から給電線8を介して供給された三相交流電力が、三相変圧器2と三相全波整流器21へ分配される。
図6の例では、三相変圧器7としてΔ−Δ結線方式の三相変圧器が用いられており、三相変圧器2としてY−Δ結線方式の三相変圧器が用いられている。また、三相全波整流器21,22は、整流素子としてダイオードを用いた三相全波整流ブリッジ回路から構成されている。
【0053】
三相全波整流器21の正側出力端子+は、三相全波整流器22の正側出力端子+と接続された後、直流リアクタンスLを介して、平滑コンデンサCの正側端子と接続されている。
また、三相全波整流器21の負側出力端子−は、三相全波整流器22の負側出力端子−と接続された後、平滑コンデンサCの負側端子と接続されている。これら平滑コンデンサCの正側端子と負側端子に、共通母線Bの正側配線B+および負側配線B−が接続されている。
【0054】
Y−Δ結線方式は、図7に示すように、一次側に比較して、二次側の電圧位相がπ/6だけ遅れを生じる。これにより、図5および図6に示すように、三相全波整流器21の一次側と二次側に対して、三相変圧器2と三相全波整流器22の直列回路を並列的に接続した場合、三相全波整流器21へ入力される三相交流電力11Aに対して、基本波のπ/6の位相差を持つ交流電力11Bが三相全波整流器22へ入力されることになる。
【0055】
このため、第1の実施の形態と同様の原理により、三相変圧器2からの5次高調波および7次高調波と、三相全波整流器21からの5次高調波および7次高調波とは、互いに逆位相となるため、三相変圧器2の一次側で互いに打ち消し合って、そのレベルが低減する。これにより、結果として、三相変圧器7側、すなわち商用電力系統へ漏洩する高調波が抑制されることになる。
【0056】
[第2の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、第1の実施の形態のうち、三相変圧器2としてY−Δ結線方式の三相変圧器を用いるようにしたので、三相変圧器2の一次側において、三相全波整流器21,22での全波整流に応じて発生する基本波の5次高調波および7次高調波が、互いの位相が逆位相となるため、互いに打ち消し合うことになる。したがって、結果として、三相変圧器7側、すなわち商用電力系統へ漏洩する高調波が抑制されることになり、第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0057】
[第3の実施の形態]
次に、図8を参照して、本発明の第3の実施の形態にかかるコンテナヤードについて説明する。図8は、第3の実施の形態にかかるコンテナヤードの給電構成を示すブロック図である。
【0058】
第1および第2の実施の形態では、クレーン装置10内に電圧位相をずらす三相変圧器を設けて、三相変圧器7側への高調波の漏洩を抑制する場合について説明した。本実施の形態では、コンテナヤード100に設置されている地上設備である三相変圧器7で、電圧位相をずらすことにより高調波対策を行う場合について説明する。
【0059】
図8の場合、隣接するレーン72のそれぞれに設けられている2つの三相変圧器7が対をなしており、それぞれ給電線8Bを介して受電設備71に接続されている。また、受電設備71には、給電線8Aを介して商用電力が変電所から供給されている。
【0060】
本実施の形態において、対をなすこれら2つの三相変圧器7の一方は、受電設備71からの電源電力と同相の電圧位相からなる第1の三相交流電力を生成し、動作電力として給電線8へ出力する、例えばΔ−Δ結線方式またはY−Y結線方式の第1の三相変圧器からなる。
また、対をなす2つの三相変圧器7の他方は、受電設備71からの電源電力に対して電圧位相がπ/6だけずれた第2の三相交流電力を生成し、動作電力として給電線8へ出力する、例えばΔ−Y結線方式またはY−Δ結線方式の第2の三相変圧器からなる。
【0061】
これにより、第1の実施の形態と同様の原理により、一方の三相変圧器7の給電線8に接続されたクレーン装置10から発生した5次高調波および7次高調波と、他方の三相変圧器7の給電線8に接続されたクレーン装置10から発生した5次高調波および7次高調波とは、これら三相変圧器7の一次側の給電線8Bで互いに打ち消し合って、そのレベルが低減する。これにより、結果として、受電設備71側、すなわち商用電力系統へ漏洩する高調波が抑制されることになる。
【0062】
また、このような対をなす2つの三相変圧器7は、2つのレーン72に設けられたものに限定されるものではない。図9は、第3の実施の形態にかかる他のコンテナヤードの給電構成を示すブロック図である。
ここでは、1つのレーン72を分割して設けた2つのブロック72A,72Bごとに、三相変圧器7が設けられている。この構成によれば、レーン72の中央から給電線8へ動作電力を給電できるので、三相変圧器7からクレーン装置10までの給電線8の距離を平均的に短縮できるため、給電線8での電力損失を抑制できる。
【0063】
このような構成では、ブロック72A,72Bごとに設けた三相変圧器7が対をなすものとみなすことができる。このため、例えばブロック72Aの三相変圧器7を、受電設備71からの電源電力と同相の電圧位相からなる第1の三相交流電力を生成し、動作電力として給電線8へ出力する、例えばΔ−Δ結線方式またはY−Y結線方式の第1の三相変圧器とする。また、ブロック72Bの三相変圧器7を、受電設備71からの電源電力に対して電圧位相がπ/6だけずれた第2の三相交流電力を生成し、動作電力として給電線8へ出力する、例えばΔ−Y結線方式またはY−Δ結線方式の第2の三相変圧器とする。
【0064】
これにより、第1の実施の形態と同様の原理により、一方の三相変圧器7の給電線8に接続されたクレーン装置10から発生した5次高調波および7次高調波と、他方の三相変圧器7の給電線8に接続されたクレーン装置10から発生した5次高調波および7次高調波とは、これら三相変圧器7の一次側の給電線8Bで互いに打ち消し合って、そのレベルが低減する。これにより、結果として、受電設備71側、すなわち商用電力系統へ漏洩する高調波が抑制されることになる。
【0065】
また、レーン72に設けられた三相変圧器7に限定されるものではない。図10は、第3の実施の形態にかかる他のコンテナヤードの給電構成を示すブロック図である。
ここでは、コンテナヤード100を分割して設けた2つのバース70ごとに、受電設備71が設けられている。これら受電設備71には、変電設備71Aから給電線8Aを介して高圧給電される電源電力を降圧するための三相変圧器が内蔵されている。
【0066】
このため、一方の受電設備71の三相変圧器を、変電設備71Aからの電源電力と同相の電圧位相からなる第1の三相交流電力を生成し、動作電力として給電線8Bへ出力する、例えばΔ−Δ結線方式またはY−Y結線方式の第1の三相変圧器とする。また、他方の受電設備71の三相変圧器を、変電設備71Aからの電源電力に対して電圧位相がπ/6だけずれた第2の三相交流電力を生成し、動作電力として給電線8Bへ出力する、例えばΔ−Y結線方式またはY−Δ結線方式の第2の三相変圧器とする。
【0067】
これにより、第1の実施の形態と同様の原理により、一方の受電設備71の給電線8Bに接続されたクレーン装置10から発生した5次高調波および7次高調波と、他方の受電設備71の給電線8Bに接続されたクレーン装置10から発生した5次高調波および7次高調波とは、これら受電設備71の一次側の給電線8Aで互いに打ち消し合って、そのレベルが低減する。これにより、結果として、変電設備71A側、すなわち商用電力系統へ漏洩する高調波が抑制されることになる。
【0068】
[第3の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態では、コンテナヤード100内の給電線ごとに設けられて、上位電源設備から供給された電源電力を変圧し、得られた動作電力を当該給電線へ供給する三相変圧器7のうち、対をなす2つの三相変圧器7の一方で、電源電力と同相の電圧位相からなる第1の三相交流電力を動作電力として出力し、対をなす2つの三相変圧器7の他方で、電源電力に対して電圧位相がπ/6だけずれた第2の三相交流電力を動作電力として出力するようにしたものである。
【0069】
これにより、第1の実施の形態と同様の原理により、一方の三相変圧器7の給電線8に接続されたクレーン装置10から発生した5次高調波および7次高調波と、他方の三相変圧器7の給電線8に接続されたクレーン装置10から発生した5次高調波および7次高調波とが、これら三相変圧器7の一次側の給電線8Bで互いに打ち消し合って、そのレベルが低減する。これにより、結果として、商用電力系統へ漏洩する高調波が抑制されることになる。
【0070】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0071】
10…クレーン装置、1…接続装置、11A…三相交流電力(第1の三相交流電力)、11B…三相交流電力(第2の三相交流電力)、12A,12B…直流電力、2…三相変圧器、21…三相全波整流器(第1の三相全波整流器)、22…三相全波整流器(第2の三相全波整流器)、30…主巻電動機、31,32…走行電動機、33…横行電動機、41〜44…インバータ(INV)、45…蓄電装置、5…コントローラ、5A…指令入力、5B…コマンド、7…三相変圧器(電源装置)、100…コンテナヤード、70…バース、71…受電設備、72…レーン、72A,72B…ブロック、74…ターンレーン、8,8A,8B…給電線、9…コンテナ、B…共通母線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上電源設備から供給された第1の三相交流電力を全波整流し、得られた直流電力を共通母線へ供給する第1の三相全波整流器と、
前記第1の三相交流電力に対して電圧位相がπ/6だけずれた第2の三相交流電力を出力する三相変圧器と、
前記三相変圧器から出力された前記第2の三相交流電力を全波整流し、得られた直流電力を前記共通母線へ供給する第2の三相全波整流器と、
前記第1および第2の三相全波整流器から前記共通母線へ供給された直流電力に基づき駆動してコンテナの巻上下を行う電動機と
を備えることを特徴とするクレーン装置。
【請求項2】
請求項1に記載のクレーン装置において、
前記三相変圧器は、Δ−Y結線方式またはY−Δ結線方式の三相変圧器からなることを特徴とするクレーン装置。
【請求項3】
コンテナの載置場所に延設されて、前記コンテナの荷役を行うクレーン装置へ動作電力を給電する給電線と、
前記給電線ごとに設けられて、上位電源設備から供給された電源電力を変圧し、得られた動作電力を当該給電線へ供給する複数の三相変圧器と
を備え、
前記三相変圧器のうち、対をなす2つの三相変圧器の一方は、前記電源電力と同相の電圧位相からなる第1の三相交流電力を前記動作電力として出力する第1の三相変圧器からなり、前記対をなす2つの三相変圧器の他方は、前記電源電力に対して電圧位相がπ/6だけずれた第2の三相交流電力を前記動作電力として出力する第2の三相変圧器からなる
ことを特徴とするコンテナヤード。
【請求項4】
請求項3に記載のコンテナヤードにおいて、
前記第1の三相変圧器は、Δ−Δ結線方式またはY−Y結線方式の三相変圧器からなり、前記第2の三相変圧器は、Δ−Y結線方式またはY−Δ結線方式の三相変圧器からなる
ことを特徴とするコンテナヤード。
【請求項5】
共通母線へ供給された直流電力に基づいて電動機を駆動することにより、コンテナの巻上げ下げを行うクレーン装置で用いられる給電方法であって、
第1の三相全波整流器が、地上電源設備から供給された第1の三相交流電力を全波整流し、得られた直流電力を前記共通母線へ供給するステップと、
三相変圧器が、前記第1の三相交流電力に対して電圧位相がπ/6だけずれた第2の三相交流電力を出力するステップと、
第2の三相全波整流器が、前記三相変圧器から出力された前記第2の三相交流電力を全波整流し、得られた直流電力を前記共通母線へ供給するステップと
を備えることを特徴とする給電方法。
【請求項6】
請求項5に記載の給電方法において、
前記三相変圧器は、Δ−Y結線方式またはY−Δ結線方式の三相変圧器からなることを特徴とする給電方法。
【請求項7】
コンテナの載置場所に延設されて、前記コンテナの荷役を行うクレーン装置へ動作電力を給電する給電線と、前記給電線ごとに設けられて、上位電源設備から供給された電源電力を変圧し、得られた動作電力を当該給電線へ供給する複数の三相変圧器とを備えるコンテナヤードで用いられる給電方式であって、
前記三相変圧器のうち、対をなす2つの三相変圧器の一方が、前記電源電力と同相の電圧位相からなる第1の三相交流電力を前記動作電力として出力するステップと、
前記対をなす2つの三相変圧器の他方が、前記電源電力に対して電圧位相がπ/6だけずれた第2の三相交流電力を前記動作電力として出力するステップと
を備えることを特徴とする給電方法。
【請求項8】
請求項7に記載の給電方法において、
前記第1の三相変圧器は、Δ−Δ結線方式またはY−Y結線方式の三相変圧器からなり、前記第2の三相変圧器は、Δ−Y結線方式またはY−Δ結線方式の三相変圧器からなることを特徴とする給電方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−56760(P2013−56760A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197088(P2011−197088)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)