説明

グラフェンまたは薄膜グラファイトの製造方法

【課題】大面積で、電気伝導性・透明性等の品質に優れたグラフェンまたは薄膜グラファイトを簡易に製造する方法を提供する。
【解決手段】グラファイト結晶、またはグラファイト結晶から作製されたグラファイト層間化合物を、水および/または有機溶媒中で攪拌し、グラファイト結晶またはグラファイト層間化合物から、グラファイト層を剥離する工程を含む事を特徴とする。前記グラファイト結晶のX線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲にあることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は様々な電子デバイスや透明導電層体に好適に適用できる、高品質のグラフェン、または薄膜状グラファイト、および高分子とグラフェン、または高分子と薄膜状グラファイト複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2005年に1層のグラファイト(グラフェン)の物性が測定され、グラフェン中では伝導電子は金属薄膜(量子井戸)に見られるような二次元的挙動とは異なる挙動、すなわち量子力学(量子電気力学)的な効果を示す事が報告され、その特異な電子物性が注目されている(特許文献1、2、非特許文献1、2)。この特異な挙動は全く新しい超高速エレクトロニクスデバイスや新しいスピントロニクスの出現を予感させるものであり、このような背景からグラフェンの製造方法やグラフェンを使用した新たな電子デバイスの提案がされつつある。
【0003】
このようなグラフェンの製造方法として、劈開法と膨張法が知られている。
(方法1:劈開法)
基礎的な物性測定やデバイス作製に使用されるグラフェンは一般に以下のようにして作製されている。具体的には、HOPGなどの高配向グラファイトの薄片を原料に、スコッチテープの粘着力を利用して劈開を繰り返した後、塩酸−過酸化水素水で洗浄したSiO2付シリコンウェハーに劈開面を押しつけ転写する。転写された薄膜の中から、単層、二層
等のグラフェンを、光学顕微鏡、AFM、SEM等を用いて選択し、必要に応じてリソグラフィー等で加工した後、トランジスタ特性等を評価するものである。しかし、劈開法では、粘着テープを用いて剥離するため、局所的な部分で、品質の優れたグラフェンまたは薄膜グラファイトを得る事ができるが、大面積へ適用すると、大部分でグラフェン構造の破壊が起こり、電気伝導性に劣り、また、プロセスとしても工業的な方法ではなかった。
(方法2:膨張法)
グラファイトの層間には、いろいろな元素や分子を挿入(インターカレーションと呼ばれる)できる事は古くから知られており、この挿入された化合物はグラファイト層間化合物と呼ばれている(非特許文献3)。ガスケットやパッキン等に使われているグラファイトシートの原料には、このグラファイト層間化合物を利用した膨張黒鉛が用いられている。この膨張黒鉛は以下のようにして作製される。まず、フレーク状の天然グラファイトに硫酸をインターカレーションしてグラファイト層間化合物とする。ついで、そのグラファイト層間化合物を高温で急速加熱して層間を広げて薄膜化した後、水で硫酸を洗浄することによって作製されるものである(図1)。しかし、膨張法では、加熱による急激な体積膨張を起こさせるので、得られたグラフェンまたは薄膜グラファイトは非常にダメージを受け、電気伝導性に劣り、また、図1に示すような多層で連なったままの状態であるため、透明性にも劣るものであった。
【0004】
このような問題点から、従来のグラフェンおよび薄膜グラファイトでは、電子デバイス(基板への形成・トランジスタ・半導体)や導電体(透明導電体・帯電防止膜)に使用する事ができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−294110
【特許文献2】特開2008−69015
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.S.Novoselov, et al.,Nature 438,197(2005)
【非特許文献2】Y.Zhang, et al.,Nature 438, 201(2005)
【非特許文献3】高橋洋一、阿久沢昇、炭素、111、171(1982)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電気伝導性・透明性等の品質に優れ、大面積で、確実に層数が1枚であるグラフェンやグラファイト層数が制御された薄膜グラファイトを、大量かつ効率良く作製することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来技術における上記課題を解決するために、種々の検討をおこなった結果、大面積で、電気伝導性・透明性等の品質に優れ、層数が制御されたグラフェンまたは薄膜グラファイトを、極めて簡単な方法で多量に作製できる方法を見出し、本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲にあるグラファイト結晶を、水および/または有機溶媒中で攪拌し、前記グラファイト結晶の表面からグラファイト層を剥離する工程を含む事を特徴とするグラフェンの製造方法に関する(請求項1)、X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲にあるグラファイト結晶を、濃硫酸および/または過マンガン酸塩を含む溶液中で攪拌し、前記グラファイト結晶からグラファイト層を剥離する工程を含む事を特徴とするグラフェンの製造方法に関する(請求項2)、
X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲にあるグラファイト結晶を含む溶液で攪拌し、前記グラファイト結晶の表面からグラファイト層を剥離する工程を含む事を特徴とするグラフェンの製造方法に関する(請求項3)、
X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲であるグラファイト結晶から作製されたグラファイト層間化合物を、水および/または有機溶媒中に浸漬し、前記層間化合物からグラフェン層を剥離する工程を含む事を特徴とするグラフェンの製造方法に関する(請求項4)、
X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲であるグラファイト結晶から作製された第一ステージのグラファイト層間化合物を、水および/または有機溶媒中に浸漬し、前記層間化合物からグラフェン層を剥離する工程を含む事を特徴とするグラフェンの製造方法に関する(請求項5)、
層間化合物がアルカリ金属−グラファイト層間化合物である、請求項1〜5のいずれかに記載のグラフェンの製造方法に関する(請求項6)、
層間化合物が酸−グラファイト層間化合物である、請求項1〜4のいずれかに記載のグラフェンの製造方法に関する(請求項7)、
前記グラファイト結晶が、レーザーラマンスペクトルにおける1360cm-1のバンドの強度(I1360)と1580cm-1のバンドの強度(I1580)に対する相対強度R(=I1360/I1580)値が0.2以下であるグラファイト結晶である事を特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のグラフェンの製造方法に関する(請求項8)、
前記グラファイト結晶が、面方向の電気伝導度が10000S/cm以上であるグラファイト結晶である事を特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載のグラフェンの製造方法に関する(請求項9)、
前記グラファイト結晶が、高配向性グラファイト、ポリイミドをグラファイト化して得られるグラファイト、天然グラファイト結晶のいずれかであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載のグラフェンの製造方法に関する(請求項10)、
前記グラファイト結晶が、ポリイミドをグラファイト化して得られるグラファイトであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のグラフェンの製造方法に関する(請求項11)、
請求項1〜11のいずれかに記載のグラフェンの製造方法であって、グラフェンを含む溶液を濃縮する工程を含むことを特徴とするグラフェンの製造方法に関する(請求項12)、
請求項1〜11のいずれかに記載のグラフェンの製造方法であって、グラフェンを含む溶液から有機溶媒をもちいてグラフェンを抽出する工程を含むことを特徴とするグラフェンの製造方法に関する(請求項13)、
請求項1〜13のいずれかに記載のグラフェンの製造方法で製造されたグラフェンを含む溶液を基板上に塗布、乾燥する工程を含む、グラフェンを含む膜の製造方法に関する(請求項14)、
請求項1〜13のいずれかに記載のグラフェンの製造方法で製造されたグラフェンを含む溶液に高分子を溶解する工程を含む、高分子とグラフェンとを含む膜の製造方法に関する(請求項15)、
請求項1〜13のいずれかに記載のグラフェンの製造方法で製造されたグラフェンを含む溶液に高分子を溶解する工程と、得られた溶液を基板上に塗布、乾燥する工程を含む、高分子とグラフェンとを含む膜の製造方法に関する(請求項16)、前記基板が、アミンを含む化合物で表面処理した基板である事を特徴とする請求項14又は請求項16のいずれかに記載の高分子とグラフェンとを含む膜の製造方法に関する(請求項17)、
X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲にあるグラファイト結晶を、水および/または有機溶媒中で攪拌し、前記グラファイト結晶の表面からグラファイト層を剥離する工程を含む事を特徴とする薄膜グラファイトの製造方法に関する(請求項18)、X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲にあるグラファイト結晶を、濃硫酸および/または過マンガン酸塩を含む溶液中で攪拌し、前記グラファイト結晶からグラファイト層を剥離する工程を含む事を特徴とする薄膜グラファイトの製造方法に関する(請求項19)、
X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲にあるグラファイト結晶、を含む溶液で攪拌し、前記グラファイト結晶の表面からグラファイト層を剥離する工程を含む事を特徴とする薄膜グラファイトの製造方法に関する(請求項20)、
X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲であるグラファイト結晶から作製されたグラファイト層間化合物を、水および/または有機溶媒中に浸漬し、前記層間化合物からグラフェン層を剥離する工程を含む事を特徴とする薄膜グラファイトの製造方法に関する(請求項21)、
X線測定によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲であるグラファイト結晶から作製された第ニステージ以上のグラファイト層間化合物を、水および/または有機溶媒中に浸漬し、前記層間化合物からグラファイト層を剥離する工程を含む事を特徴とする薄膜グラファイトの製造方法に関する(請求項22)、
層間化合物がアルカリ金属−グラファイト層間化合物である請求項18〜22のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法に関する(請求項23)、
層間化合物が酸−グラファイト層間化合物である請求項18〜22のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法に関する(請求項24)、
前記グラファイト結晶が、レーザーラマンスペクトルにおける1360cm-1のバンドの強度(I1360)と1580cm-1のバンドの強度(I1580)に対する相対強度R(=I1360/I1580)値が0.2以下であるグラファイト結晶である事を特徴とする、請求項18〜24のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法に関する(請求項25)、
前記グラファイト結晶が、面方向の電気伝導度が10000S/cm以上であるグラファイト結晶である事を特徴とする、請求項18〜25のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法に関する(請求項26)、
前記グラファイト結晶が、高配向性グラファイト、ポリイミドをグラファイト化して得られるグラファイト、天然グラファイト結晶のいずれかであることを特徴とする、請求項18〜26のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法に関する(請求項27)、
前記グラファイト結晶が、ポリイミドをグラファイト化して得られるグラファイトであることを特徴とする、請求項18〜27のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法に関する(請求項28)、
請求項18〜27のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法であって、薄膜グラファイトを含む溶液を濃縮する工程を含むことを特徴とする薄膜グラファイトの製造方法に関する(請求項29)、
請求項18〜29のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法であって、薄膜グラファイトを含む溶液から有機溶媒をもちいて薄膜グラファイトを抽出する工程を含むことを特徴とする薄膜グラファイトの製造方法に関する(請求項30)、
請求項18〜30のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法で製造された薄膜グラファイトを含む溶液を基板上に塗布、乾燥する工程を含む、薄膜グラファイトを含む膜の製造方法に関する(請求項31)、
請求項18〜30のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法で製造された薄膜グラファイトを含む溶液に高分子を溶解する工程を含む、高分子と薄膜グラファイトとを含む膜の製造方法に関する(請求項32)、
請求項18〜30のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法で製造された薄膜グラファイトを含む溶液に高分子を溶解する工程と、得られた溶液を基板上に塗布、乾燥する工程を含む、高分子と薄膜グラファイトとを含む膜の製造方法に関する(請求項33)、前記基板が、アミンを含む化合物で表面処理した基板である事を特徴とする請求項31又は請求項33のいずれかに記載のグラフェンおよび/または薄膜グラファイトを含む膜の製造方法に関する(請求項34)、
厚み700nmにおいて、吸光度が0.1以下、表面抵抗値が108Ω/□以下であることを特徴とする請求項14〜17、請求項31〜34のいずれかに記載の膜の製造方法に関する(請求項35)、
ものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半導体デバイス(基板への形成・トランジスタ)や導電体(透明導電体)等の様々な電子デバイスに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】膨張法によって得られた薄膜グラファイト
【図2】本発明の方法で製造したグラフェンおよび薄膜グラファイトからなる試料のTEM写真
【図3】層間化合物の積層配列を表す
【図4】パイレックス(登録商標)ガラス製2バルブ法セル
【図5】実施例11で得られたの光学顕微鏡写真
【図6】実施例11で得られた試料の電子顕微鏡写真
【図7】実施例11で得られた試料のラマンスペクトル
【図8】実施例12で得られた試料の光学顕微鏡写真
【図9】実施例12で得られた試料の電子顕微鏡写真
【図10】実施例12で得られた試料のラマンスペクトル
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第一は、グラファイト結晶を、水および/または有機溶媒中で攪拌し、前記グラファイト結晶の表面からグラファイト層を剥離する工程を含む事を特徴とする、グラフェンまたは薄膜グラファイトの製造方法に関する。
【0013】
本発明の第二は、グラファイト結晶から作製されたグラファイト層間化合物を、水および/または有機溶媒中に浸漬し、前記層間化合物からグラフェン層を剥離する工程を含む事を特徴とするグラフェンの製造方法に関する。
【0014】
本発明の第三は、得られたグラフェンまたは薄膜グラファイトを含む溶液を基板上に塗布、乾燥する工程を含む、グラフェンまたは薄膜グラファイトを含む膜の製造方法に関する。
【0015】
なお、本願ではグラフェンや薄膜グラファイトを載せる基板としてガラス基板、透明プラスチック基板、シリコン基板など多様な基板を用いる事が出来る。
(本発明の第一の方法:グラファイト結晶の液中剥離法)
本発明の第一の方法は、水および/または有機溶媒などの溶媒中にグラファイト結晶を浸漬し、これを自然放置するかあるいは穏やかに攪拌する方法である。
【0016】
本方法の第一の特徴は、グラファイト層の剥離のために、溶媒を用いる点であり、このことにより、グラファイト剥離の際に、グラファイト層にほとんどダメージ(損傷)を与える事無く、グラファイト結晶から、グラフェンまたは薄膜グラファイトを剥離することができる。
【0017】
本方法の第二の特徴は、グラフェンあるいは薄層グラファイト作製のための出発物質として高品質・高配向性のグラファイトを用いる事である。本発明のグラファイト結晶は、X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層間距離が0.3354〜0.35nmの範囲であるグラファイト結晶であると好ましい。このような高品質グラファイトを用いる事と本発明の液中剥離法を組みあわせる事で優れた特性のグラフェンまたは薄膜グラファイトを作製する事が出来る。
【0018】
本発明において、X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層間距離とは、X線回折装置((株)リガク製・RINT3000)を用いて、試料を空気中(X線:CuKα線、ターゲット:Cu、スキャン範囲:2θ=2〜70°)で測定した値である。なお、平均層間距離は、2dsinθ=λのBraggの式により算出した。(本発明の第二の方法:グラファイト結晶の濃硫酸および/または過マンガン酸塩を含む溶液中での剥離法)
本発明の第二の方法は、濃硫酸および/または過マンガン酸塩を含む溶媒中にグラファイト結晶を浸漬し、これを自然放置するかあるいは穏やかに攪拌する方法である。
【0019】
本方法の第一の特徴は、グラファイト層の剥離のために、濃硫酸および/または過マンガン酸塩を含む溶液を用いる点にあり、グラファイト剥離の際に、酸化しながら、グラファイト結晶からグラフェンおよび/または薄膜グラファイトを剥離することができ、グラフェンや薄膜グラファイトが酸化状態で存在することでグラフェン又は薄膜グラファイトの凝集が少ない均一な溶液を作製することができる。本願では酸化状態で存在するグラフェンを酸化グラフェン、酸化状態で存在する薄膜グラファイトを酸化薄膜グラファイトと呼ぶこととする。一般にグラフェンは溶液中では相互作用により凝集し、均一に基板上に塗布しにくい傾向にある。そこでグラフェンや薄膜グラファイトを酸化状態にすることで、溶液中で均一分散し、均一な薄膜状態を得やすくすることができる。
【0020】
本方法の第二の特徴は、グラフェンあるいは薄膜グラファイト作製のための出発物質として高品質・高配向性のグラファイトを用いる事である。本発明のグラファイト結晶は、X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層間距離が0.3354〜0.35nmの範囲であるグラファイト結晶であると好ましい。このような高品質グラファイトを用いる事と本発明の液中剥離法、溶液基板塗布と還元処理を組みあわせる事で優れた特性のグラフェンおよび/または薄膜グラファイトを作製する事が出来る。
本発明において、X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層間距離とは、X線回折装置((株)リガク製・RINT3000)を用いて、試料を空気中(X線:CuKα線、ターゲット:Cu、スキャン範囲:2θ=2〜70°)で測定した値である。なお、平均層間距離は、2dsinθ=λのBraggの式により算出した。
【0021】
(本発明の第三の方法:グラファイト層間化合物の液中剥離法)
本発明の第三の方法は、水および/または有機溶媒などの溶媒中にグラファイト層間化合物を浸漬し、これを自然放置するかあるいは穏やかに攪拌する方法である。
【0022】
本方法の第一の特徴は、グラファイト層間化合物と溶媒を組み合わせる点であり、この事により、グラファイト剥離の際に、グラファイト層にほとんどダメージ(損傷)を与える事無く、グラファイト層間化合物から、グラフェンまたは薄膜グラファイトを剥離することができる。溶媒を用いるために、膨張法(グラファイト層間化合物を加熱して層間剥離を起こさせてグラフェンまたは薄膜グラファイトを作製する方法)に比べて、ダメージの少ない、グラフェンあるいは薄膜グラファイトを作製する事が可能になり、本発明の目的とする電子デバイスに使用するには最適である。
【0023】
本方法の第二の特徴は、グラフェンあるいは薄層グラファイト作製のための出発物質として高品質・高配向性のグラファイトを用いたグラファイト層間化合物を用いる事である。本発明のグラファイト結晶は、X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.34nmの範囲であるグラファイト結晶であると好ましい。このようなグラファイト結晶から作製されたグラファイト層間化合物を用いると、水および/または有機溶媒中に浸漬し、前記層間化合物から、グラファイト層が1〜10層で、効果的に層数が制御された高品質のグラフェンまたは薄片グラファイトの製造することが可能になる。
【0024】
本方法の第三の特徴は、本発明の第一の方法では、薄膜グラファイトの層数を制御する事は難しいが、本発明の第三の方法では、あらかじめグラファイト層間化合物のステージ数を制御する事により希望する層数の薄膜グラファイトを得る事が可能になる。
【0025】
(層数の制御)
本発明の第二の方法において、グラファイト層間化合物が第一ステージである事を特徴とするグラフェンの製造方法である。この方法では、まず、第一ステージのグラファイト層間化合物を水および/または有機溶媒中に浸漬し、そのまま放置するか、あるいは穏やかに溶媒を攪拌する事で層間化合物表面からグラフェン層を剥離する。この方法で得られる生成物はほぼグラフェン(グラファイト一層)であり、電子デバイスとして特に有効なグラフェンを得る事が出来る。
【0026】
本発明の第二の方法において、グラファイト層間化合物が第二ステージ以上である事を特徴とする薄膜グラファイトの製造方法である。この方法の特徴は、例えば、第二ステージの層間化合物を用いれば二層からなるグラファイト薄片を得る事が出来、第三ステージの層間化合物を用いれば三層からなるグラファイト薄片を得る事が出来るという点である。この方法では、例えば、まず第ニステージのグラファイト層間化合物を水または有機溶媒中に浸漬し、そのまま放置するか、あるいは穏やかに溶媒を攪拌する事で層間化合物表面からグラフェン層を剥離する。この方法で得られる生成物は、ほぼグラファイトニ層からなる薄膜グラファイトである。電子デバイスとして特に有効な薄膜グラファイトを得る事が出来る。
【0027】
(グラファイト層間化合物)
本発明のグラファイト層間化合物とは、グラファイトはその層間にいろいろな元素や分子を挿入(インターカレーションと呼ばれる)された化合物のことを意味する。層間化合物にはステージ数と呼ばれる分類方法があり、1層ごとに元素や分子挿入された第一ステージ、2層ごとに挿入された第二ステージ、同様に第三ステージ、第四ステージなどいろいろなステージの層間化合物が知られている。
【0028】
これらの層間化合物のステージ数は挿入される元素や分子の種類、および合成条件によって変る。例えばK、Rb、Cs、Li、Ba、Sr、Eu,Ybなどのアルカリ金属類では最高、第一ステージの層間化合物まで合成する事ができる。一方、アルカリ金属でも高品質グラファイト結晶を用いた場合、Naでは第八ステージまでの層間化合物しかできない。さらに、同じKを用いた場合、その処理温度条件によって第四ステージから第一ステージまでの4種類の層間化合物を合成する事ができる。以上の例は主にアルカリ金属(ドナー)を用いた層間化合物合成の例であるが、おなじくアルカリ金属−有機分子、アルカリ金属−アミンなどの3元系化合物もしられている。
【0029】
グラファイト層間化合物の特徴は、カリウム原子層をグラファイト層と交互に積層させるだけでなく、炭素層N枚ごとにカリウムを1層挿入し、超格子型の積層構造を作る事が出来る点にある。これをステージ構造と言い、合成された物を第Nステージと呼ぶ。C8Kは第1ステージに対応し、カリウムは層間で炭素8個当たり1個の割合で最密六方格子の層を形成している。第二ステージ以上の化合物はC12nK(n=2,3,4・・・)で表される。これらの積層配列を図3に示す。
【0030】
さらに、リン酸、硫酸、硝酸などの酸類(アクセプタ)、Br、IClなどのハロゲン化物(アクセプタ)、MgCl、FeCl3、NiCl、AlCl3などの金属塩化物(アクセプタ)などの層間化合物も知られている。
【0031】
本発明の第三の方法に用いられるグラファイト層間化合物の挿入物質(インターカラント)は基本的にアルカリ金属類でも良く、アルカリ金属−有機分子、アルカリ金属−アミンなどの3元系化合物もよく、酸類でもよく、金属塩化物であっても良い。まず、これらの第一ステージの層間化合物を水、あるいは有機溶媒中に浸漬しそのまま放置する。溶媒は徐々に層間に進入してインターカラントを溶かし出し、グラファイト結晶の表面からグラフェンが剥離、溶媒中に溶け出して浮遊する。この時剥離の効率を上げるため溶液をゆるやかに攪拌する事は有効である。一定時間経過後、上澄み溶液を回収必要に応じて濃縮し、基板上に塗布して試料とする。
【0032】
アルカリ金属層間化合物は、例えば以下の様な等圧気相反応法によって作製する事ができる。層間化合物の生成のためのアルカリ金属の蒸気圧のしきい値は極めて低く、しかもアルカリ金属の蒸気圧が低温でもかなり高いために、比較的低い温度で炭化物を形成する事無く層間化合物を合成する事ができる。具体的には、パイレックス(登録商標)ガラスの一端を封じグラファイト試料およびKをガラス管の別々の場所にセットし真空排気後封管する。2組の電気炉を用いてグラファイト部分の温度(Tg)とK部分の温度(TK)がTg>TKとなる様に温度をコントロールし、気相でグラファイトにKを接触・反応させる。例えばTKの温度を250℃とした時、Tgの温度を300℃とする事で第一ステージの層間化合物が、Tgの温度を400℃とする事で第二ステージの層間化合物が、Tgを500℃とする事で第三ステージの層間化合物を得る事が出来る。
【0033】
アルカリ金属層間化合物合成として混合法を用いる事が出来る。これはグラファイトと反応物質を直接混合し、液相で反応させて層間化合物を得る方法である。例えばグラファイト結晶と化学量論のKをヘリウム雰囲気下、フラスコ中で100℃に加熱してKを溶解させた後、攪拌して反応させる事で層間化合物の合成ができる。
【0034】
グラファイトとハロゲンの層間化合物は液相または気相で反応させる方法で作製する事が出来る。例えば、グラファイトを液相臭素中に浸漬するかあるいは臭素蒸気に接触させると容易に層間化合物が生成する。最も多くの臭素を含有した場合に第二ステージの層間化合物となる。
【0035】
グラファイトと酸の層間化合物は、液相または気相で酸とグラファイトを接触させる事により作製する事ができる。酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸、ホウフッ酸、リン酸、過塩素酸などのプロトン酸が一般的である。
硝酸の場合にはグラファイト結晶と硝酸を直接反応させれば良く、硫酸の場合には硝酸が添加された濃硫酸中にグラファイト結晶を浸漬すれば良い。この方法により第5〜第1ステージまでの層間化合物が合成出来る。
【0036】
グラファイトと金属ハロゲン化物層間化合物も、液相または気相で金属ハロゲン化物とグラファイトを接触させる事により作製する事ができる。金属ハロゲン化物としてはAsF5、SbF6、FeCl3、FeCl2、CuCl2、AlCl3、NiCl2などを例示する事が出来る。グラファイト−金属ハロゲン化物層間化合物のステージ数は、反応温度により制御する事が出来る。例えばFeCl3の層間化合物を図1に示した2バルブ法で作製する場合、グラファイトの温度を300℃、FeCl3の温度を300℃とし、24時間反応させることで第一ステージの層間化合物が、グラファイトの温度を340℃、FeCl3の温度を290℃として18時間反応させることで第二ステージの層間化合物が、グラファイトの温度を350℃、FeCl3の温度を260℃とする事で第三ステージの層間化合物が、グラファイトの温度を350℃、FeCl3の温度を250℃とする事で第四ステージの層間化合物が生成する。
【0037】
なお、層間化合物の中でいわゆる共有結合性の化合物を形成する層間化合物は本発明の目的に適さない。共有結合型層間化合物ではグラファイトの持つ芳香族平面性が失われ炭素平面は折れ曲がり絶縁体となる。この様な共有結合型化合物を形成するものとして黒鉛酸(濃硫酸、濃硝酸、塩素酸カリウムからなる)層間化合物、フッ素化グラファイトが知られている。
【0038】
(グラファイト層間化合物を用いたグラフェンまたは薄膜グラファイトの作製)
以下、上記層間化合物を用いたグラフェンまたは薄膜グラファイトの作製方法について記載する。まず、上記の方法で作製された層間化合物は水または有機溶媒中に浸漬し、水または有機溶媒が徐々に層間に浸入してグラファイト層が剥離するようにする。グラファイト−アルカリ金属層間化合物の場合には水中に浸漬すると反応が激しく進み過ぎる場合があり、有機溶媒中での処理の方が望ましい事が多い。酸、ハロゲン、金属ハロゲン化物の場合には水または有機溶媒のいずれも良好に使用できる事が多く、特に水を用いる事は有効である。グラファイト層の剥離を促進するために溶媒を穏やかに攪拌する事は好ましい。また必要に応じて溶媒を加熱する事も有効である。この様な処理を行なう事により、グラファイト層間化合物は見かけ上小さくなるかあるいは消失し、ちょうど溶媒に溶解したのと同様になる。例えば得られた溶液の溶媒が水である場合、これをエーテルなどの溶媒を用いて水中に含まれるグラフェンまたは薄膜グラファイトを抽出する事ができる。この様な抽出工程によって、出発原料として層間化合物を用いた場合に溶液中に含まれる酸や塩基などの不純物を取り除く事ができる。
【0039】
第一ステージの層間化合物を用いてこの様な溶媒中での処理を行なえばグラフェン(一層のグラファイト)を得る事ができる。また、第二ステージの層間化合物を用いた場合には2層からなるグラファイト薄片(薄膜)が、同様に第三ステージの層間化合物からは3層からなるグラファイト薄片(薄膜)が、第四ステージの層間化合物からは4層からなるグラファイト薄片(薄膜)が得られる。この方法の優れた点は層数の制御された薄膜グラファイトが得られる事であり、単にグラファイト結晶を溶媒中で攪拌した場合にはいろいろな層数のグラファイト薄片が得られるのに対する利点である。
【0040】
(グラファイト結晶)
本発明では、グラフェンまたは薄膜グラファイトを作製するための出発物質として高品質のグラファイト結晶を用いるとよい。グラファイト結晶の品質評価方法としては、X線回折、レーザーラマン、電気伝導度等が知られている。その内、X線回折法は最も簡便にグラファイト結晶の品質評価に用いられる方法である。
【0041】
本発明のグラファイト結晶の、X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層間距離が0.3354〜0.35nmの範囲であると好ましく、0.3354〜0.34nmの範囲である事はより好ましい。単結晶グラファイトの層間距離は0.3354nmであり、この値に近いほど良質のグラファイトであると考えられる。この平均層間距離内のグラファイト結晶を用いる事と、本発明のグラファイト結晶の液中剥離法またはグラファイト層間化合物の液中剥離法を組みあわせる事で優れた特性を有しグラフェンまたは層数の制御された薄膜グラファイトを作製する事が出来る。
【0042】
さらに、本発明のグラファイト結晶の、ラマンスペクトルにおいて1360cm-1のバンドの強度(I1360)の1580cm-1のバンドの強度(I1580)に対する相対強度R(R=I1360/I1580)が0.2以下であるグラファイト結晶が好ましく、0.1以下である事はより好ましく、0.05以下である事は最も好ましい。1360cm-1のバンドはグラファイト結晶の構造の乱れに起因するものであり、1580cm-1のバンドはグラファイトのE2gモードに起因する。従ってR値が小さいほど優れたグラファイト結晶である事を示している。本発明の方法と組みあわせる事で優れた特性を有しグラフェンまたは薄膜グラファイトを作製する事が出来る。
【0043】
本発明のグラファイト結晶の、電気伝導度(グラファイトab面方向の電気伝導度)は、10000S/cm以上である事が好ましく、14000S/cm以上である事はより好ましい。本発明の方法と組みあわせる事で優れた特性を有しグラフェンまたは薄膜グラファイトを作製する事が出来る。
【0044】
上記の様な条件を満たせば、用いるグラファイトの原料には特に制限はないが、本発明の目的に良好に用いられるグラファイトとしては、ガス状炭素源の積層のよって得られる高配向性グラファイト(例えば、Union Carbide社・HOPG○R)、ポリイミドなどの高分子をグラファイト化して用いられるグラファイト(例えば、(株)カネカ製・グラファイトシート)、溶融金属溶媒から析出させるリン片状グラファイト、あるいは結晶性に優れた天然グラファイト結晶、天然リン片状結晶などを例示する事ができる。
【0045】
(溶媒)
本発明の溶媒としては、第一に水を挙げる事が出来るが、水以外の溶媒としては特に制限はないが、有機溶媒としてメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、などのアルコール系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒、炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、等を用いる事ができる。水を溶媒として用いる場合、水のpHを酸性やアルカリ性にしておく事は有効である。例えば、酸−グラファイト層間化合物を原料として用いる場合アルカリ性の水中で処理する事は好ましい。同様に溶媒中に各種の界面活性剤を加え溶媒中に溶出したグラフェンまたは薄膜グラファイトの二次凝集を防止する事も好ましい。
【0046】
攪拌終了後、溶液を整置し、溶液の上澄みを回収する。上澄み液は見かけ上ほとんど透明であるが、その液中にはグラフェンまたは薄膜グラファイトが含まれている。さらに新たに溶媒を加え同様の攪拌処理を実施、上澄み液回収、と言うプロセスを繰り返す。回収した上澄み液は必要に応じて濃縮し、デバイス作製のための原料とする。濃縮によって含まれるグラフェンまたは薄膜グラファイトの量が増加すると溶液はやや黒ずんでくる事がある。
【0047】
また、酸化剤を用いて酸化し、その後、アミンで還元する方法も好ましい。具体的には、まず、グラファイトを、濃硫酸中過マンガン酸カリウムを用いて酸化する。酸化後は、塩酸や純水で洗浄し、乾燥した酸化グラファイトを純水中に懸濁させる。この懸濁液を超音波洗浄機にかけて層間剥離し、超音波洗浄機にかけた水溶液を遠心分離器にかけ、上澄みだけを抽出する。上澄みを基板に塗布後、アミンやヒドラジンを用いて還元する方法、アミンやヒドラジン等の還元剤が塗布された基板に、上澄み液を塗布して還元する方法があげられる。導電性に優れたグラフェンまたは薄膜グラファイトを得るためには、この方法が好ましい。
【0048】
(浸漬・攪拌方法)
本発明の方法では、まず上記のグラファイト結晶および/またはグラファイト層間化合物を水および/または有機溶媒中に浸漬し、この溶媒を穏やかに攪拌する。この時原料グラファイト結晶は、収量を増やすために、予め出来るだけ薄く劈開しておくことが好ましい。攪拌は比較的穏やかに長時間行なうが、攪拌条件は攪拌羽根、攪拌子の種類によるので一概には規定できない。一方、攪拌は1時間以上、より好ましくは3時間以上である事が好ましい。本発明の手法の特徴はグラファイト層剥離のために溶媒を用いる点であり、溶媒を用いる事で剥離の際にグラファイト層が受けるダメージ(損傷)を小さく出来ると言う点である。攪拌を行なう事で表面から徐々にグラファイト層が剥離し溶液中に浮遊する。溶液中に浮遊した薄膜グラファイトは溶液中に存在する事で攪拌による用いるダメージを殆ど受けない。これが、溶媒を用いる最大の利点であり、グラファイトをそのまま粉砕するか、あるいはなんらかの粉体(例えば食塩など)と一緒に粉砕する方法に比べて著しく損傷の少ない高品質のグラフェンまたは薄膜グラファイトを製造する事が可能な理由である。本発明の目的とする電子デバイスに使用する事は本方法が好ましい。
【0049】
(回収)
本発明の第一の方法は、上記グラファイト結晶を、水および/または有機溶媒中で攪拌し、溶媒中に剥離、浮遊するグラフェンまたは薄膜グラファイトを回収することである。
【0050】
(本発明のグラフェンまたは薄膜グラフェンの特徴)
また、この本発明の方法の優れた点は従来の膨張法に比べて、グラファイトの層構造が破壊されていない、電気伝導性・透明性に優れ、大面積のグラフェンまたは薄膜グラファイトを非常に簡易な方法で、大量かつ効率よく作製する事が出来、この方法で得られた試料は、各種電子デバイス用材料として好ましく用いる事が出来る。
【0051】
(グラフェンまたは薄膜グラファイトの利用方法)
グラフェンまたは薄膜グラファイトは、導電体(透明導電体・帯電防止膜)や電子デバイス(基板への形成・トランジスタ・半導体)等の各種デバイス用機能膜として用いる事ができる。
【0052】
本発明の方法で作製されたグラフェンまたは薄膜グラファイトを、導電体として用いるには上記グラフェンまたは薄膜グラファイトが分散した溶媒を適当な基板上にキャスト、乾燥すれば良い。基板としてはガラス基板、透明プラスチック基板、シリコン基板など多様な基板を用いる事が出来る。適当な基板にキャストした場合には反応後、必要に応じ水洗などの処理を行なう。また膜の形成後基板を適当な温度でアニールする事により、より強靭な透明導電膜を形成する事が出来る。また、厚い導電層膜を形成するには分散溶液を必要に応じて濃縮してもよく、上記キャスト作業を繰り返しおこなっても良い。また、グラフェンまたは薄膜グラファイトの分散溶液はカーボンナノチューブの分散溶液よりははるかに二次凝集し難いが、必要に応じて遠心分離により上澄み液を利用しても良く、界面活性剤などの分散剤を用いて凝集を防止する事も有効である。
【0053】
一方、本発明の方法で作製されたグラフェンまたは薄膜グラファイトを、電子デバイスに用いるには、例えば、上記方法で得られた分散溶媒をシリコン基板上に塗布し、塗布後溶媒を乾燥・除去し該シリコン基板上にグラフェンまたは薄膜グラファイトの層を形成する。形成された試料層には必要に応じてリソグラフィーなどの手法で電極を取り付け、また余分な試料層はエッチングにより除去する。 基板は、アミンを含む化合物(例えば、アミノシラン)で処理すると良い。アミンを含む化合物で処理することで、基板にグラフェンおよび/または薄膜グラファイトを塗布した後、電気伝導性、透明性に優れたグラフェンおよび/または薄膜グラファイトの膜を得ることが出来る。
【0054】
グラフェンは高い電荷担体の移動度をもっており(約200,000cm2/V・S)、電子導波管(電極)としての高い可能性をもっている。これに対して2層、3層、4層、5層などの2層以上の薄膜グラファイトの移動度は、グラフェンより劣るものの半導体としてのバンドギャップを持ち、FETなどの半導体デバイスとしての可能性を有している。またこれらのグラフェンまたは薄膜グラファイト薄膜では常温でスピンが保持されたまま電子が移動し、スピントロニクスデバイスとしての可能性も持っている。
【0055】
(高分子との複合)
前記溶液にさらに高分子を溶解し、これを基板上にキャストや塗布した後乾燥する事で、高分子とグラフェン、あるいは高分子と薄膜グラファイトの複合膜を形成する事が出来る。このような複合膜は電気伝導性の機能膜として、あるいは高分子類の選択で透明導電性膜とする事ができる。これらの機能膜は帯電防止膜、あるいはタッチパネル用透明導電層膜用などの用途に広く用いられる。高分子としては溶媒に溶解する物であれば特に制限はないが、その例としてポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ポリスチレン、ナイロン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂を挙げる事ができる。またポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)に代表されるポリチオフェンおよびその誘導体、ポリピロールおよびその誘導体、ポリアニリンおよびその誘導体などの導電性高分子を用いる事もできる。
【0056】
以下にこの様なグラフェンまたは薄膜グラファイトの製造方法についての実施例を述べる。
【実施例】
【0057】
以下に示す実施例に徴して、本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は例示的なのものであり、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0058】
高品質グラファイト(ユニオンカーバイド社製・HOPG○R・ZYAグレード・8×8×2mm3・X線回折から算出された平均層間距離は0.336nm・レーザーラマンによる相対強度R(=I1360/I1580)値が0.1以下・電気伝導度18000S/cm)を約0.2mmの厚さに劈開し、10個のグラファイト結晶を得た。ついで、この結晶をアセトンに浸漬し、粉砕機を用いて回転数5000rpmで40分間攪拌処理した。処理後、溶媒を整置、一時間後に上澄み液をデカントした。沈殿したグラファイトにさらにアセトンを加え一時間処理、同様に上澄み液をデカントした。これを5度繰り返し、集めたアセトン溶液500mlが50mlになる様に濃縮した。得られた液はやや薄い黒色を呈していたが全体としてはほぼ透明であった。
【0059】
このアセトン溶液をガラス基板上にキャスト後、乾燥し、吸光度を測定した。得られた膜の700nmにおける吸光度は0.03であった。また、ガラス基板上に予め金電極をスパッタして作製した電極上にも塗布し伝導度を測定した。得られた膜の表面抵抗値は約106Ω/□であった。
【実施例2】
【0060】
グラファイトシート(カネカ製・25μmグラファイトシート・ポリイミドフィルムを2800度以上に熱処理して作製・X線回折から算出された平均層間距離は0.337nm・レーザーラマンによる相対強度R(=I1360/I1580)値が0.1以下・電気伝導度14000S/cm)を5×5mmに切断し20枚のグラファイト結晶を得た。ついで、この結晶をメタノールに浸漬し、粉砕機を用いて回転数5000rpmで40分間攪拌処理した。処理後、溶媒を静置、一時間後に上澄み液をデカントした。沈殿したグラファイトにさらにアセトンを加え一時間処理、同様に上澄み液をデカントした。これを5度繰り返し、集めたメタノール溶液500ccを全体が1/10になる様に濃縮した。得られた液はやや薄い黒色を呈していたが全体としてはほぼ透明であった。
【0061】
実施例1と同様に評価を実施し、得られた膜の700nmにおける吸光度は0.03、表面抵抗値は106Ω/□であった。
【実施例3】
【0062】
グラファイト層間化合物(伊藤黒鉛工業製・品名9510045・第一ステージ硫酸グラファイト層間化合物、原料はリン片状グラファイト)5gを500ccの水中で2000rpmの攪拌速度で24時間攪拌した。攪拌後液を24時間静置し、透明な上澄み液400ccをスポイトで取り分けた。上澄み液を100ccになるまで濃縮し、次に100ccのエチルエーテルで抽出した。
【0063】
実施例1と同様に評価を実施し、得られた膜の700nmにおける吸光度は0.03、表面抵抗値は約106Ω/□であった。
【0064】
さらに、この膜を、電子顕微鏡で観察した。得られた電子顕微鏡写真を図2に示す。図2には極めて薄いグラファイトが重なった様子が示されており、この方法でグラファイト薄膜が得られる事が分かった。ここに示された薄膜状グラファイトが、一層のグラファイト層からなるグラフェンであるかどうかは検証されていない。しかし、複数枚のグラファイト薄膜の重なった場合にはお互いの薄膜の干渉によりモアレパターンが観察されるが、図2にはその様なモアレパターンは全く観察されない事から、グラフェンの重なったものである可能性が高いと言える。
【実施例4】
【0065】
パイレックス(登録商標)ガラス製2バルブ法セル(詳細は図4及び非特許文献3参照)の一方に、高品質グラファイト(ユニオンカーバイド社製・HOPG○R・ZYAグレード・8×8×2mm3)を置き、一端を封じた。もう一方のバルブにカリウムを封入し、真空排気後封じた。次に、カリウムのバルブを250℃とし、一方グラファイトのバルブを300℃として反応させた。グラファイト試料は徐々に金色に変化し、約48時間でほぼ均一な第一ステージのグラファイト層間化合物を得る事ができた。
【0066】
得られた第一ステージのグラファイト層間化合物をアセトンに浸漬し穏やかに攪拌した、数時間の攪拌で表面からグラフェン層が剥がれる事により層間化合物は見かけ上溶媒に溶解したのと同様に小さくなり、やがて完全に消失しほぼ透明な溶液となった。
【0067】
得られたアセトン溶液をガラス基板上にキャストし、溶媒蒸発後弱酸性の水で洗浄し、乾燥後、ほとんど透明な膜を得た。得られた膜の700nmにおける吸光度は0.04、表面抵抗値は約106Ω/□であった。
【実施例5】
【0068】
グラファイトのバルブを、300℃ではなく、400℃として反応させた以外は、実施例4と同様に実施し、グラファイト試料は徐々に青色に変化、し約48時間でほぼ均一な第ニステージのグラファイト層間化合物を得る事ができた。
【0069】
得られた第ニステージのグラファイト層間化合物をエタノールに浸漬し穏やかに攪拌した、2時間の攪拌で表面からグラフェン層が剥がれる事により層間化合物は見かけ上溶媒に溶解したのと同様に小さくなり、やがて完全に消失しほぼ透明な溶液となった。
【0070】
得られたエタノール溶液をガラス基板上にキャストし、溶媒蒸発後弱酸性の水で洗浄し、乾燥後、ほとんど透明な膜を得た。得られた膜の700nmにおける吸光度は0.05、表面抵抗値は約106Ω/□であった。
【実施例6】
【0071】
グラファイトのバルブを、300℃ではなく、480℃として反応させた以外は、実施例4と同様に実施し、グラファイト試料は徐々に変化し、48時間反応させほぼ均一な第三ステージのグラファイト層間化合物を得る事ができた。
【0072】
得られた第三ステージのグラファイト層間化合物をエタノールに浸漬し穏やかに攪拌した、数時間の攪拌で表面からグラフェン層が剥がれる事により層間化合物は見かけ上溶媒に溶解したのと同様に小さくなり、やがて完全に消失しほぼ透明な溶液となった。
【0073】
得られたエタノール溶液をガラス基板上にキャストし、溶媒蒸発後弱酸性の水で洗浄し、乾燥後、ほとんど透明な膜を得た。得られた膜の700nmにおける吸光度は0.06、表面抵抗値は約106Ω/□であった。
【実施例7】
【0074】
高品質グラファイトの代わりに、グラファイトシート(カネカ製・25μmグラファイトシート・ポリイミドフィルムを2800度以上に熱処理して作製)を用いた以外は、実施例4と同じ方法で第一ステージの層間化合物を合成した。
【0075】
得られた膜の700nmにおける吸光度は0.03、表面抵抗値は約105Ω/□であった。
【実施例8】
【0076】
グラファイトシート(カネカ製・25μmグラファイトシート・ポリイミドフィルムを2800度以上に熱処理して作製)を少量の硝酸を加えた濃硫酸に浸漬し層間化合物を合成した。生成物は主に第一および第二ステージの層間化合物からなっていた。得られた層間化合物を水に浸漬し、穏やかに攪拌することで水に溶解させた。水溶液をエーテル抽出してグラフェンおよびグラファイト薄膜をエーテル層に移した。さらにエーテル溶媒にメタノールを加えエーテル溶媒のほとんどを揮発させた。その後、グラフェンおよびグラファイト薄膜のメタノール溶液にポリビニルブチラール樹脂を加えて溶解させた。このようにして得られた溶液をガラス上に塗布し透明皮膜を形成した。得られた高分子と、グラフェンおよびグラファイトを含む薄膜の吸光度は0.04,表面抵抗は107Ω/□であった。
【実施例9】
【0077】
グラファイトシート(カネカ製・25μmグラファイトシート・ポリイミドフィルムを2800度以上に熱処理して作製)を5×5mmに切断し20枚のグラファイト結晶を得た。ついで、この結晶を濃硫酸中、過マンガン酸カリウムを用いて酸化した。反応物を5%塩酸と純水で洗浄した。乾燥した酸化グラファイトを純水中に懸濁させ、超音波洗浄機にかけて層間剥離した。超音波洗浄機にかけた水溶液を遠心分離器にかけ、上澄みだけを抽出した。
【0078】
上澄み液をガラス基板上にキャストし、薄い黄色の膜を得た。得られた膜をヒドラジン還元した。得られた膜の700nmにおける吸光度は0.04、表面抵抗値は106Ω/□であった。
【実施例10】
【0079】
グラファイトシート(カネカ製・25μmグラファイトシート・ポリイミドフィルムを2800度以上に熱処理して作製)を5×5mmに切断し20枚のグラファイト結晶を得た。ついで、この結晶を濃硫酸中、過マンガン酸カリウムを用いて酸化した。反応物を5%塩酸と純水で洗浄した。乾燥した酸化グラファイトを純水中に懸濁させ、超音波洗浄機にかけて層間剥離した。超音波洗浄機にかけた水溶液を遠心分離器にかけ、上澄みだけを抽出した。
【0080】
上澄み液をアミンを含む化合物で表面処理したガラス基板上にキャストし、薄い透明の膜を得た。得られた膜の700nmにおける吸光度は0.04、表面抵抗値は7×10Ω/□であった。実施例9に比べて、表面抵抗値の低い膜が得られた。これは、基板に、アミンを含む化合物で処理した基板を用いたためである。
【実施例11】
【0081】
鱗片状黒鉛(伊藤黒鉛工業製・Z+80)と硝酸ナトリウムを氷冷した濃硫酸に入れる。 そこに過マンガン酸カリウムを加え、2時間攪拌した。その後5日間室温で攪拌し、反応溶液を5%硫酸に加え、35%過酸化水素水を加えて反応を停止した。その溶液を1000rpmで遠心分離し、上澄みを廃棄した。3%希硫酸と希薄過酸化水素水を加え、沈殿を再分散後、10000rpmで遠心分離し上澄みを廃棄する。この操作を15回繰り返した。遠心管に純水を加え、沈殿を再分散し、10000rpmで遠心分離し、上澄みを廃棄した。この操作を2回繰り返した後、さらに純水を加えて再分散させ、1日放置後、沈殿を除去した。沈殿を除いた溶液を10000rpmで遠心分離し上澄みを廃棄した。純水を加えて沈殿を再分散させてから10000rpmで遠心分離し、上澄みを廃棄した。この操作を20回繰り返した。最後に純水を加えて攪拌し、酸化グラフェン分散水溶液を得た。
【0082】
これをシリコン基板上に滴下、乾燥後、光学顕微鏡観察をした。図5に観察像を示す。グラファイトシートが原料のものは極めて薄い酸化グラフェンおよびそれが凝集した様子が観察でき、この方法で酸化グラフェン薄膜が得られる事が分かった。
【0083】
次に電子顕微鏡観察をした。図6に観察像を示す。極めて薄い酸化グラフェンが観測された。さらに、ヒドラジンで還元処理後のラマン測定を測定した。図7にラマンスペクトルを示す。2650cm−1付近に、グラフェンのスペクトルが観測された。
【0084】
さらに、酸化グラフェン分散水溶液を、アミンを含む化合物で表面処理したガラス基板上にキャストし、ヒドラジンで還元処理をおこない、透明のグラフェン膜を得た。得られた膜の700nmにおける吸光度は0.04、表面抵抗値は10Ω/□であった。
【実施例12】
【0085】
ボールミルで破砕したグラファイトシート(カネカ製・25μmグラファイトシート・ポリイミドフィルムを2800度以上に熱処理して作製)と硝酸ナトリウムを氷冷した濃硫酸に入れる。 そこに過マンガン酸カリウムを加え、2時間攪拌した。その後5日間室温で攪拌し、反応溶液を5%硫酸に加え、35%過酸化水素水を加えて反応を停止した。その溶液を1000rpmで遠心分離し、上澄みを廃棄した。3%希硫酸と希薄過酸化水素水を加え、沈殿を再分散後、10000rpmで遠心分離し上澄みを廃棄する。この操作を15回繰り返した。遠心管に純水を加え、沈殿を再分散し、10000rpmで遠心分離し、上澄みを廃棄した。この操作を2回繰り返した後、さらに純水を加えて再分散させ、1日放置後、沈殿を除去した。沈殿を除いた溶液を10000rpmで遠心分離し上澄みを廃棄した。純水を加えて沈殿を再分散させてから10000rpmで遠心分離し、上澄みを廃棄した。この操作を20回繰り返した。最後に純水を加えて攪拌し、酸化グラフェン分散水溶液を得た。
【0086】
これをシリコン基板上に滴下、乾燥後、光学顕微鏡観察をした。図8に観察像を示す。グラファイトシートが原料のものは極めて薄い酸化グラフェンおよびそれが凝集した様子が観察でき、この方法で酸化グラフェン薄膜が得られる事が分かった。実施例11よりも結晶性に優れた酸化グラフェン薄膜を得ることが出来た。
【0087】
次に電子顕微鏡観察をした。図9に観察像を示す。極めて薄い酸化グラフェンが観測された。さらに、ヒドラジンで還元処理後のラマン測定を測定した。実施例10よりもクリアな画像が得られ、品質に優れている事がわかる。図10にラマンスペクトルを示す。2650cm−1付近に、グラフェンのスペクトルが観測された。実施例11よりも対称性に優れ、層数が少ないことがわかる。
【0088】
さらに、酸化グラフェン分散水溶液を、アミンを含む化合物で表面処理したガラス基板上にキャストし、ヒドラジンで還元処理をおこない、透明のグラフェン膜を得た。得られた膜の700nmにおける吸光度は0.04、表面抵抗値は5×10Ω/□であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲にあるグラファイト結晶を、水および/または有機溶媒中で攪拌し、前記グラファイト結晶の表面からグラファイト層を剥離する工程を含む事を特徴とするグラフェンの製造方法。
【請求項2】
X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲にあるグラファイト結晶を、濃硫酸および/または過マンガン酸塩を含む溶液中で攪拌し、前記グラファイト結晶からグラファイト層を剥離する工程を含む事を特徴とするグラフェンの製造方法。
【請求項3】
X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲にあるグラファイト結晶を含む溶液で攪拌し、前記グラファイト結晶の表面からグラファイト層を剥離する工程を含む事を特徴とするグラフェンの製造方法。
【請求項4】
X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲であるグラファイト結晶から作製されたグラファイト層間化合物を、水および/または有機溶媒中に浸漬し、前記層間化合物からグラフェン層を剥離する工程を含む事を特徴とするグラフェンの製造方法。
【請求項5】
X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲であるグラファイト結晶から作製された第一ステージのグラファイト層間化合物を、水および/または有機溶媒中に浸漬し、前記層間化合物からグラフェン層を剥離する工程を含む事を特徴とするグラフェンの製造方法。
【請求項6】
層間化合物がアルカリ金属−グラファイト層間化合物である、請求項1〜5のいずれかに記載のグラフェンの製造方法。
【請求項7】
層間化合物が酸−グラファイト層間化合物である、請求項1〜4のいずれかに記載のグラフェンの製造方法。
【請求項8】
前記グラファイト結晶が、レーザーラマンスペクトルにおける1360cm-1のバンドの強度(I1360)と1580cm-1のバンドの強度(I1580)に対する相対強度R(=I1360/I1580)値が0.2以下であるグラファイト結晶である事を特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のグラフェンの製造方法。
【請求項9】
前記グラファイト結晶が、面方向の電気伝導度が10000S/cm以上であるグラファイト結晶である事を特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載のグラフェンの製造方法。
【請求項10】
前記グラファイト結晶が、高配向性グラファイト、ポリイミドをグラファイト化して得られるグラファイト、天然グラファイト結晶のいずれかであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載のグラフェンの製造方法。
【請求項11】
前記グラファイト結晶が、ポリイミドをグラファイト化して得られるグラファイトであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のグラフェンの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のグラフェンの製造方法であって、グラフェンを含む溶液を濃縮する工程を含むことを特徴とするグラフェンの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載のグラフェンの製造方法であって、グラフェンを含む溶液から有機溶媒をもちいてグラフェンを抽出する工程を含むことを特徴とするグラフェンの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載のグラフェンの製造方法で製造されたグラフェンを含む溶液を基板上に塗布、乾燥する工程を含む、グラフェンを含む膜の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれかに記載のグラフェンの製造方法で製造されたグラフェンを含む溶液に高分子を溶解する工程を含む、高分子とグラフェンとを含む膜の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれかに記載のグラフェンの製造方法で製造されたグラフェンを含む溶液に高分子を溶解する工程と、得られた溶液を基板上に塗布、乾燥する工程を含む、高分子とグラフェンとを含む膜の製造方法。
【請求項17】
前記基板が、アミンを含む化合物で表面処理した基板である事を特徴とする請求項14又は請求項16のいずれかに記載の高分子とグラフェンとを含む膜の製造方法。
【請求項18】
X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲にあるグラファイト結晶を、水および/または有機溶媒中で攪拌し、前記グラファイト結晶の表面からグラファイト層を剥離する工程を含む事を特徴とする薄膜グラファイトの製造方法。
【請求項19】
X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲にあるグラファイト結晶を、濃硫酸および/または過マンガン酸塩を含む溶液中で攪拌し、前記グラファイト結晶からグラファイト層を剥離する工程を含む事を特徴とする薄膜グラファイトの製造方法。
【請求項20】
X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲にあるグラファイト結晶、を含む溶液で攪拌し、前記グラファイト結晶の表面からグラファイト層を剥離する工程を含む事を特徴とする薄膜グラファイトの製造方法。
【請求項21】
X線回折によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲であるグラファイト結晶から作製されたグラファイト層間化合物を、水および/または有機溶媒中に浸漬し、前記層間化合物からグラフェン層を剥離する工程を含む事を特徴とする薄膜グラファイトの製造方法。
【請求項22】
X線測定によって測定された002回折線より算出された平均層面間隔が0.3354〜0.35nmの範囲であるグラファイト結晶から作製された第ニステージ以上のグラファイト層間化合物を、水および/または有機溶媒中に浸漬し、前記層間化合物からグラファイト層を剥離する工程を含む事を特徴とする薄膜グラファイトの製造方法。
【請求項23】
層間化合物がアルカリ金属−グラファイト層間化合物である請求項18〜22のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法。
【請求項24】
層間化合物が酸−グラファイト層間化合物である請求項18〜22のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法。
【請求項25】
前記グラファイト結晶が、レーザーラマンスペクトルにおける1360cm-1のバンドの強度(I1360)と1580cm-1のバンドの強度(I1580)に対する相対強度R(=I1360/I1580)値が0.2以下であるグラファイト結晶である事を特徴とする、請求項18〜24のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法。
【請求項26】
前記グラファイト結晶が、面方向の電気伝導度が10000S/cm以上であるグラファイト結晶である事を特徴とする、請求項18〜25のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法。
【請求項27】
前記グラファイト結晶が、高配向性グラファイト、ポリイミドをグラファイト化して得られるグラファイト、天然グラファイト結晶のいずれかであることを特徴とする、請求項18〜26のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法。
【請求項28】
前記グラファイト結晶が、ポリイミドをグラファイト化して得られるグラファイトであることを特徴とする、請求項18〜27のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法。
【請求項29】
請求項18〜27のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法であって、薄膜グラファイトを含む溶液を濃縮する工程を含むことを特徴とする薄膜グラファイトの製造方法。
【請求項30】
請求項18〜29のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法であって、薄膜グラファイトを含む溶液から有機溶媒をもちいて薄膜グラファイトを抽出する工程を含むことを特徴とする薄膜グラファイトの製造方法。
【請求項31】
請求項18〜30のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法で製造された薄膜グラファイトを含む溶液を基板上に塗布、乾燥する工程を含む、薄膜グラファイトを含む膜の製造方法。
【請求項32】
請求項18〜30のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法で製造された薄膜グラファイトを含む溶液に高分子を溶解する工程を含む、高分子と薄膜グラファイトとを含む膜の製造方法。
【請求項33】
請求項18〜30のいずれかに記載の薄膜グラファイトの製造方法で製造された薄膜グラファイトを含む溶液に高分子を溶解する工程と、得られた溶液を基板上に塗布、乾燥する工程を含む、高分子と薄膜グラファイトとを含む膜の製造方法。
【請求項34】
前記基板が、アミンを含む化合物で表面処理した基板である事を特徴とする請求項31又は請求項33のいずれかに記載のグラフェンおよび/または薄膜グラファイトを含む膜の製造方法。
【請求項35】
厚み700nmにおいて、吸光度が0.1以下、表面抵抗値が108Ω/□以下であることを特徴とする請求項14〜17、請求項31〜34のいずれかに記載の膜の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−32156(P2011−32156A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150005(P2010−150005)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】