説明

グルタチオン高生産パン酵母の造成方法

【課題】新規なグルタチオン高生産パン酵母の造成方法、及び、当該方法により得られたパン酵母を用いたグルタチオン高含有乾燥酵母粉末及びその製造方法、及び、当該方法により得られた乾燥酵母粉末を用いたパン等の食品の製造方法を提供する。
【解決手段】パン酵母サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)及び/又は変異処理した当該パン酵母から一次としてカドミウム耐性株、二次としてシクロヘキシミド耐性株をスクリーニングして得られた、グルタチオン高生産パン酵母。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタチオン高生産パン酵母の造成方法等に関する。詳細には、グルタチオンを高生産するパン酵母の造成方法、及び、当該方法により得られたパン酵母を用いたグルタチオン高含有乾燥酵母粉末の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタチオン(以下、GSHという)はグルタミン酸、グリシン、システインからなるトリペプチドあり、生体内に広く分布する物質である。そして、その機能としては、抗酸化機能、美白効果、肝機能維持等が知られている。近年では、米粉パンの製パン性を高めるという報告などもされている。
【0003】
このような背景、及び、昨今の消費者の健康志向から、機能性素材のひとつとしてGSHを多く含有し食品として使用できる素材が求められている。そして、酵母を用いて、GSHを高発現させる試みやGSH高生産酵母を取得する試みが多く行われ、GSH高含有イーストパウダー等が開発されている。
【0004】
例えば、酵母のGSH発現を高める方法として、培地にアミノ酸を添加する方法(特許文献1)、亜鉛イオンを制限する方法(特許文献2)、通常よりも低い培養温度で培養する方法(特許文献3)など培養条件を工夫するものが開示されている。また、突然変異剤処理により、エチオニン・亜硫酸塩耐性株(特許文献4)、ポリエン系抗生物質耐性株(特許文献5)などからGSH高生産株を取得したことも報告されている。
【0005】
しかし、これらの多くはキャンディダ・ユティリス(Candida utilis)であり、食品への利用頻度・利用適性が高く且つ長年の食習慣があり安全性が担保されているパン酵母(Saccharomyces cerevisiae)での開発例は少ない。特許文献2はパン酵母の例ではあるが、GSH生産量が充分とは言えない。このような背景の中、簡便で且つ効率的なGSH高生産パン酵母の培養方法や造成方法の更なる開発が望まれていた。
【0006】
つまり、より簡便且つ効果的な(実用的な)GSHを高生産するパン酵母造成方法、当該方法により得られたパン酵母を用いたGSH高含有乾燥酵母粉末の製造技術等の開発が当業界において強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭53−094089号公報
【特許文献2】特開平01−141591号公報
【特許文献3】特開昭60−156379号公報
【特許文献4】特開昭59−151894号公報
【特許文献5】特開2003−284547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新規なグルタチオン高生産パン酵母の造成方法、及び、当該方法により得られたパン酵母を用いたグルタチオン高含有乾燥酵母粉末及びその製造方法、及び、当該方法により得られた乾燥酵母粉末を用いたパン等の食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行い、パン酵母サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)及び/又は変異処理した当該パン酵母から複数種の薬剤の耐性株を複数回のスクリーニング操作を行うことによりGSHを高生産する菌株を簡便に取得できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)パン酵母及び/又は変異処理したパン酵母の中から、一次スクリーニングとしてカドミウム耐性株を選択して取得し、更に、二次スクリーニングとしてシクロヘキシミド耐性株を選択して取得すること、を特徴とするグルタチオン高生産パン酵母の造成方法。
(2)パン酵母及び/又は変異処理したパン酵母の中から、一次スクリーニングとしてカドミウム耐性株を選択して取得し、更に、二次スクリーニングとしてシクロヘキシミド耐性株を選択して取得し、三次スクリーニングとしてチオレドキシン高含有株を選択して取得したものを親株とすること、を特徴とする(1)に記載の方法。
(3)(1)又は(2)に記載の方法によって得られたグルタチオン高生産パン酵母の1倍体を取得し、これら(例えば、異なる親株由来の1倍体どうし)を交雑して2倍体を造成すること、を特徴とするグルタチオン高生産パン酵母の造成方法。
(4)変異処理が、EMS処理及び/又はUV処理であること、を特徴とする(1)〜(3)のいずれか1つに記載の方法。
(5)グルタチオンが乾燥酵母粉末あたり4重量%以上(例えば、4〜5重量%)含有するグルタチオン高生産パン酵母を造成すること、を特徴とする(1)〜(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6)(1)〜(5)のいずれか1つに記載の方法により造成したグルタチオン高生産パン酵母。
(7)グルタチオン高生産パン酵母である、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)HGY9株(NITE AP−1081)。
(8)(6)又は(7)に記載のグルタチオン高生産パン酵母をグリシン、システイン塩酸塩及びグルタミン酸を含有する培地(例えば、各アミノ酸を0.7〜0.8重量%含有する培地)で培養したものを用いて製造すること、を特徴とするグルタチオンを4重量%以上(例えば、4〜5重量%)含有する乾燥酵母粉末の製造方法。
(9)(6)又は(7)に記載のグルタチオン高生産パン酵母を用いて製造してなること、を特徴とするグルタチオンを4重量%以上含有する乾燥酵母粉末。
(10)(9)に記載の乾燥酵母粉末((8)に記載の製造方法により得られた乾燥酵母粉末)をパン生地に添加して製造すること、を特徴とするパンの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、薬剤耐性株の複数回スクリーニング、あるいはそれらの1倍体の交雑等を行うだけで簡便且つ効率的にGSH高生産パン酵母を取得することができる。そして、当該方法により得られたパン酵母を用いてグリシン、システイン塩酸塩及びグルタミン酸を含有する培地で培養するだけで、簡便且つ効率的にGSHを4重量%以上含有する乾燥酵母粉末を製造でき、当該乾燥酵母粉末は製パン性向上目的等でパン製造などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の方法で得られたGSH高生産酵母の乾燥菌体あたりのGSH含量を示すグラフである。なお、OYC−102は親株であり、丸印は交雑のための1倍体取得の候補株を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明では、GSH高生産パン酵母造成の親株として、市販のパン酵母を含むあらゆる公知のパン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を使用することができる。また、その形態も、生酵母、乾燥酵母など酵母が死滅していない状態であれば特に限定されない。
【0014】
そして、これをそのまま薬剤耐性株スクリーニングの親株として用いても良いが、これを突然変異処理したものを親株として用いても良い。突然変異処理は、物理的方法及び化学的方法のいずれもが使用可能である。物理的方法としては、一定時間の紫外線照射処理(UV処理)、放射線(例えばγ線)照射などがあり、化学的方法としては、例えば、亜硝酸、ナイトロジェンマスタード、アクリジン系色素、エチルメタンスルホン酸(EMS)、N−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)などの変異剤の溶液に菌体を一定時間懸濁させる処理方法などがあるが、EMS処理又はUV処理が特に好ましい。これらの方法は、適宜組み合わせて行うこともできる。また、突然変異処理した親株と変異処理を行っていないそのままの親株(自然株)を混合して用いることもできる。
【0015】
なお、本発明においては、特定の遺伝子の付加・欠損等をさせた遺伝子組換え体パン酵母は親株として使用しない。よって、本発明では、遺伝子組換え体でない、つまり野生株が偶発的に変異した変異株又は上記突然変異処理により出現した変異株からGSH高生産パン酵母を取得することができ、食品に用いても安全性は問題ない。
【0016】
次に、スクリーニングは、一次スクリーニングにカドミウム耐性株の選抜、二次スクリーニングにシクロヘキシミド耐性株の選抜を行う。この順番でスクリーニングを行うことにより、GSH合成系酵素遺伝子の発現を活性化する転写因子Yap1が活性化した菌株を取得することが可能となると推定され、効率良くGSHを高含有する菌株を取得することができる。したがって、このスクリーニング順を逆にしたり、2薬剤のスクリーニングを同時に行う(同じ培地で行う)ことは好ましくない。スクリーニングの際の培地へのカドミウム添加量は、塩化カドミウム濃度として100〜1000μMなどが例示され、シクロヘキシミド添加量としては3〜10μg/mlなどが例示される。
【0017】
更に、三次スクリーニングとして、対数増殖期及び定常期の両方においてチオレドキシン(TRX)高含有である株をウエスタンブロット法等によって選択して取得し、これを親株として再度カドミウム耐性株、シクロヘキシミド耐性株をスクリーニングすることで、より好適なGSH高生産パン酵母を取得することもできる。選抜基準としては、対数増殖期及び定常期の両方において親株の2倍以上のものを選抜することが例示される。
【0018】
更には、上述の方法で取得したGSH高生産パン酵母の1倍体を取得して、異なる親株由来のものどうし又は同じ親株由来のものどうしを交雑することによって、更に好適なGSH高生産パン酵母を取得することもできる。交雑方法は、接合型の1倍体を用いた接合法が好適であるが、プロトプラスト融合等も可能である。また、マーカー遺伝子を用いて交雑株の選択を更に容易にすることもできる。
【0019】
本発明では、上述のような手法により目的とするGSH高生産パン酵母を簡便且つ効率的に取得することができる。一例として挙げると、市販パン酵母を親株としてGSH高生産パン酵母を取得するのに成功し、HGY9株と命名した。この株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構・特許微生物寄託センター(〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に、2011年(平成23年)3月31日付けでNITE AP−1081として受領された。
【0020】
本発明により取得したサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)HGY9株の主な菌学的性質を例示すると、以下の通りである。
(a)YM液体培地で生育させたときの菌の形態
(1)栄養細胞の大きさ:大きさ4〜14μm、幅3〜7μm
(2)栄養細胞の形状:楕円形
(3)増殖の形式:出芽
(b)胞子形成の有無
胞子形成する
(c)生理学的・化学分類学的性質
(1)最適生育条件(pH):4.5〜6.5
(2)生育の範囲(pH):2.5〜8.0
(3)硝酸塩の資化:なし
(4)脂肪の分解:なし
(5)尿素の分解:なし
(6)カロチノイドの生成:なし
(7)顕著な有機酸の生成:なし
【0021】
さらに、このHGY9株に代表されるような本発明によって取得されるGSH高生産パン酵母を使用して、GSH高含有のイーストパウダー(乾燥酵母粉末)を製造することができる。製造方法としては、アミノ酸としてグリシン、システイン(L−システイン塩酸塩)、グルタミン酸を添加した培地(例えば糖蜜など)で培養し菌体洗浄、殺菌(不活性化)、乾燥粉末化(スプレードライなど)すること等により、例えば、4%以上のGSH含量である(乾燥菌体重量あたり4%以上のGSHを含有する)イーストパウダーを得ることができる。
【0022】
このようにして製造したGSH高含有のイーストパウダーは、各種食品、サプリメント、化粧品等に添加することができ、その機能性、安全性も高い。例えば、パン製造においてパン生地に0.01〜0.05%程度添加することで、生地の伸展性が向上しパン成形をしやすくする(つまり製パン性を向上させる)ことができる。
【0023】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
(GSH高生産パン酵母造成試験I)
市販パン酵母よりGSH高生産パン酵母を造成するため、以下の試験を行った。
【0025】
まず、オリエンタル酵母工業社製品のパン酵母(OYC−102)に紫外線照射を30秒間行った。このUV処理したパン酵母を生理食塩水に懸濁し、YMPD寒天培地(イーストエキス0.3%、マルツエキス0.3%、ペプトン0.5%、グルコース1%、寒天2%)に塗布し、30℃で2〜3日間培養した。さらに、その生育したコロニーを30mLのYPD培地(イーストエキス1%、ペプトン2%、グルコース2%)に植菌し、OD610=1となるまで28℃で振盪培養した。この培養液全量を滅菌水で遠心洗浄し、3mLの滅菌水に懸濁した。
【0026】
一次スクリーニングとして、上記菌体懸濁液100μLを塩化カドミウム(100μM)入りSD培地(グルコース2%、寒天1.5%、イーストナイトロジェンベース(アミノ酸なし)0.67%)に塗布した。同様に、塩化カドミウム200μM、300μM入りSD培地にも塗布した。28℃で1週間培養し、出現した各コロニーをピックアップした。
【0027】
二次スクリーニングとして、一次スクリーニングで得たコロニーを上述と同様の方法で菌体懸濁液を作製し、この菌体懸濁液100μLをシクロヘキシミド4〜6μg/ml入りSD培地に塗布した。そして、28℃で1週間培養し、出現したコロニーをピックアップした。
【0028】
得られた株について、GSH含量を以下の方法で測定した。
まず、YPD培地5mLが入った試験管にスクリーニングで取得した菌株を植菌し、30℃で24時間振盪培養したものを100mLのYMPD培地(イーストエキス0.3%、マルツエキス0.3%、ペプトン0.5%、グルコース3%)が入ったフラスコに全量植菌し、30℃で48時間振盪培養した。
【0029】
上記培養液を定法で2回菌体洗浄し、洗浄培養菌体とした。これを、表1に示したGSH誘導培養条件で培養した。使用する糖は、糖蜜を用いて常に糖濃度が35%となるように希釈して使用した。アミノ酸は、添加量をイオン交換水で溶解し、8時間目に溶解液を添加した。糖蜜及びアミノ酸の添加は、マルチホルダー付きシリンジポンプPHD2000(Harvard Apparatus社製)を用いた。
【0030】
【表1】

【0031】
このGSH誘導培養液を10mL回収し、定法で2回菌体洗浄後に滅菌水で5mLにメスアップした。ここから500μLを1.5mLチューブに取り、85℃で10分間の熱処理を行った。その後、10000rpmで3分間の遠心分離を行い、上清を回収した。これを超純水で適宜希釈し、分光光度計法によりGSH量を測定した。そして、5mLにメスアップした懸濁液の乾燥重量を測定し、乾物あたりのGSH含量を算出した。
この測定の結果、41株のGSH高生産パン酵母を取得できた(図1のOYC造成1〜51)。
【実施例2】
【0032】
(GSH高生産パン酵母造成試験II)
同様に、市販パン酵母よりGSH高生産パン酵母を造成するため、以下の試験を行った。
【0033】
オリエンタル酵母工業社製品のパン酵母(OYC−102、変異処理なし)を、試験管にてYPD培地を用い28℃で96時間振盪培養した。さらに、その培養液の一部を30mLのYPD培地に植菌し、OD610=1となるまで28℃で振盪培養した。この培養液全量を滅菌水で遠心洗浄し、3mLの滅菌水に懸濁した。
【0034】
一次スクリーニングとして、上記懸濁液100μLを塩化カドミウム(100μM)入りSD培地(グルコース2%、寒天1.5%、イーストナイトロジェンベース(アミノ酸なし)0.67%)に塗布した。同様に、塩化カドミウム200μM、300μM入りSD培地にも塗布した。28℃で1週間培養し、出現した各コロニーをピックアップした。
【0035】
二次スクリーニングとして、一次スクリーニングで得たコロニーを上述と同様の方法で懸濁液を作製し、この懸濁液100μLをシクロヘキシミド4〜6μg/ml入りSD培地に塗布した。そして、28℃で1週間培養し、出現したコロニーをピックアップした。
【0036】
三次スクリーニングとして、二次スクリーニングで得たコロニーをYPD培地を用い28℃で振盪培養し、対数増殖期及び定常期のチオレドキシンタンパク(TRX)をウエスタンブロット法で観察し、対数増殖期及び定常期の両方ともチオレドキシン量が親株であるOYC−102の2倍以上の菌株を選抜した。
得られた株について、実施例1と同様の方法でGSH含量を測定し、1株を選抜した(YSM−3、図1)。
【0037】
このYSM−3を親株とし、そのまま(変異処理を行わずに)及びEMS処理(EMSを3%含有する溶液に菌体を懸濁させ、28℃で20分間処理)したものについて実施例1と同様の方法で菌体懸濁液を作製した。そして、一次スクリーニングとして菌体懸濁液100μLを塩化カドミウム(800μM)入りSD培地に塗布して28℃で1週間培養し、出現したコロニーをピックアップした。二次スクリーニングは、実施例1と同様の方法でシクロヘキシミド耐性株を選抜した。
得られた株について実施例1と同様の方法でGSH含量を測定し、23株のGSH高生産パン酵母を取得できた。
【実施例3】
【0038】
(GSH高生産パン酵母造成試験III)
実施例1及び2で得られたGSH高生産パン酵母の1倍体を交雑させてより好適なGSH高生産パン酵母を造成するため、以下の試験を行った。
【0039】
実施例1で得られたGSH高生産パン酵母41株と、実施例2で得られたGSH高生産パン酵母23株からGSH含量が高い株を候補株として数株ずつ選び、さらにその他の適正などを考慮して各1株を選抜し、それぞれの1倍体(接合型)を定法により取得した。これら1倍体を接合法により交雑して、新たなGSH高生産パン酵母を造成し、これをサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)HGY9株とした。
【0040】
このサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)HGY9株について、前培養後、アミノ酸(グリシン・L−システイン塩酸塩・グルタミン酸)を添加した糖蜜で30℃24時間GSH合成培養を行い、菌体洗浄、121℃15分間の殺菌処理を行った後にスプレードライ処理をしてHGY9株のイーストパウダーを製造した。これを、実施例1と同様の方法でGSH含量を測定した結果、4%以上のGSH含量であること(乾燥菌体重量あたり4%以上のGSHを含有すること)が示された。
【実施例4】
【0041】
(パン製造試験)
実施例3で製造したHGY9株のイーストパウダーを用いて、パン製造時の添加効果を確認するため以下の試験を行った。
【0042】
強力粉200gに塩、砂糖、イーストフード等を適量添加したものに、実施例3で製造したHGY9株のイーストパウダーを対粉0.016%添加した。これに136g加水して混捏しパン生地を作製した後、市販パン酵母を用いて定法により食パンを製造した。対照区として、イーストパウダー無添加のもの(その他の配合はイーストパウダー添加区と同じ)も同様に作製した。
【0043】
結果を表2に示した。対照区(無添加)と比較してイーストパウダー添加区は分割時の生地伸展性が良好であり、また、製品の食感(歯切れ)も良好であった。したがって、パン生地へのイーストパウダー添加により、製パン製向上及び食感改善効果が発揮されることが示された。
【0044】
【表2】

【0045】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0046】
本発明は、新規なグルタチオン高生産パン酵母の造成方法、及び、当該方法により得られたパン酵母を用いたグルタチオン高含有乾燥酵母粉末及びその製造方法、及び、当該方法により得られた乾燥酵母粉末を用いたパンなどの食品の製造方法等を提供することを目的とする。
【0047】
そして、パン酵母サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)及び/又は変異処理した当該パン酵母から一次としてカドミウム耐性株、二次としてシクロヘキシミド耐性株をスクリーニングすることで、グルタチオン高生産パン酵母を造成する。
【0048】
本発明において寄託手続が進められている微生物の受領番号を下記に示す。
(1)サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)HGY9株(NITE AP−1081)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン酵母及び/又は変異処理したパン酵母の中から、一次スクリーニングとしてカドミウム耐性株を選択して取得し、更に、二次スクリーニングとしてシクロヘキシミド耐性株を選択して取得すること、を特徴とするグルタチオン高生産パン酵母の造成方法。
【請求項2】
パン酵母及び/又は変異処理したパン酵母の中から、一次スクリーニングとしてカドミウム耐性株を選択して取得し、更に、二次スクリーニングとしてシクロヘキシミド耐性株を選択して取得し、三次スクリーニングとしてチオレドキシン高含有株を選択して取得したものを親株とすること、を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法によって得られたグルタチオン高生産パン酵母の1倍体を取得し、これらを交雑して2倍体を造成すること、を特徴とするグルタチオン高生産パン酵母の造成方法。
【請求項4】
変異処理が、EMS処理及び/又はUV処理であること、を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
グルタチオンが乾燥酵母粉末あたり4重量%以上含有するグルタチオン高生産パン酵母を造成すること、を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により造成したグルタチオン高生産パン酵母。
【請求項7】
グルタチオン高生産パン酵母である、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)HGY9株(NITE AP−1081)。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のグルタチオン高生産パン酵母をグリシン、システイン塩酸塩及びグルタミン酸を含有する培地で培養したものを用いて製造すること、を特徴とするグルタチオンを4重量%以上含有する乾燥酵母粉末の製造方法。
【請求項9】
請求項6又は7に記載のグルタチオン高生産パン酵母を用いて製造してなること、を特徴とするグルタチオンを4重量%以上含有する乾燥酵母粉末。
【請求項10】
請求項9に記載の乾燥酵母粉末をパン生地に添加して製造すること、を特徴とするパンの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−213361(P2012−213361A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81081(P2011−81081)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 食品開発展 Hi/S−tec Japan 2010,UBMメディア株式会社 主催,平成22年10月13日から15日 開催
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】