説明

ゲル状組成物

【課題】高強度かつ高透明度なゲルを得ることができるゲル状組成物を提供する。
【解決手段】下記の(A)〜(C)成分を含有し、(A)成分のセルロース繊維の含有割合がゲル状組成物全体の0.3〜3.0重量%の範囲であるゲル状組成物である。
(A)最大繊維径が1000nm以下で、数平均繊維径が2〜100nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、I型結晶構造を有するとともに、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、上記カルボキシル基量が0.6〜2.2mmol/gの範囲である、セルロース繊維。
(B)ポリビニルピロリドン。
(C)水。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維と、ポリビニルピロリドンとを用いて得られるゲル状組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、セルロース繊維を用いてなるゲル状組成物としては、例えばナノサイズに微粒子化したセルロースを用いた組成物(特許文献1)や、化学処理によりセルロースを一部変性することにより得られるセルロースナノファイバーを用いた組成物(特許文献2)等が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第99/28350号公報
【特許文献2】特開2008−1728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献に記載のセルロース繊維を用いてなるゲル状組成物にあっては、強固なゲルを得るためには、セルロース繊維の含有量を増加させる必要があり、そうすると、セルロース繊維の含有量の増加に伴って、ゲルの透明度が低下したり、他の添加物の添加量が減少する等の難点があった。このように、ゲルの高強度化と、高透明度とは、相反する物性であり、従来のセルロース繊維を用いてなるゲル状組成物では、ゲルの高強度化と、高透明度とを両立することが困難であった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、高強度かつ高透明度なゲルを得ることができるゲル状組成物の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明のゲル状組成物は、下記の(A)〜(C)成分を含有し、(A)成分のセルロース繊維の含有割合がゲル状組成物全体の0.3〜3.0重量%の範囲であるという構成をとる。
(A)最大繊維径が1000nm以下で、数平均繊維径が2〜100nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、I型結晶構造を有するとともに、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、上記カルボキシル基量が0.6〜2.2mmol/gの範囲である、セルロース繊維。
(B)ポリビニルピロリドン。
(C)水。
【0007】
本出願人は、ゲル状組成物に用いるセルロース繊維について、鋭意研究を重ね、特定のセルロース繊維を用いたゲル状組成物や化粧料組成物について、既に特許出願を行っている(特願2008−197847号、特願2008−197848号)。本出願人は、高強度かつ高透明度なゲルを得るため、上記ゲル状組成物を改良すべく鋭意研究を重ねた。そして、上記特定のセルロース繊維に、ゲル化剤を配合することを想起し、好ましいゲル化剤について実験を重ねる過程で、ポリビニルピロリドン(PVP)を用いると、所期の目的が達成できることを見いだし、本発明に到達した。この理由については、以下のように考えられる。すなわち、ゲル化剤のなかでも、特にポリビニルピロリドンは、特定のセルロース繊維との分散性に優れるため、特定のセルロース繊維と、ポリビニルピロリドンとの相乗効果により、ゲル強度が向上すると考えられる。従来、セルロース繊維の単独使用の場合は、ゲル強度を向上させるために、セルロース繊維自身の使用量を増量する必要があり、そのため、ゲルの透明度が低下するという問題があった。本発明によると、特定のセルロース繊維と、ポリビニルピロリドンとの相乗効果により、セルロース繊維単独使用の場合に比べて、セルロース繊維自身の使用量を減量することができるため、ゲルの透明性を損なうこともなく、光透過率が向上し、高強度かつ高透明度なゲルを得ることができるようになるものと考えられる。
【0008】
なお、本発明において、ゲルが「透明」であるとは、無色透明、有色透明の双方を意味する。ゲル状組成物中のセルロース繊維(A成分)およびポリビニルピロリドン(B成分)の含有量が少なく、水(C成分)の含有量が多いときは、得られるゲルは無色透明となる。一方、ゲル状組成物中のポリビニルピロリドン(B成分)の含有量が多くなると、得られるゲルは、ポリビニルピロリドン(B成分)の淡黄色に起因して有色透明となる。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明のゲル状組成物は、最大繊維径が1000nm以下で、数平均繊維径が2〜100nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、I型結晶構造を有するとともに、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、上記カルボキシル基量が0.6〜2.2mmol/gの範囲である、微細なセルロース繊維(A成分)と、ゲル化剤であるポリビニルピロリドン(B成分)と、水(C成分)とを含有し、上記微細なセルロース繊維(A成分)の含有割合が、ゲル状組成物全体の0.3〜3.0重量%の範囲に調整されている。本発明のゲル状組成物は、特定のセルロース繊維(A成分)と、ポリビニルピロリドン(B成分)との相乗効果により、セルロース繊維(A成分)単独使用の場合に比べて、セルロース繊維(A成分)自身の使用量を減量することができるため、ゲルの透明性を損なうこともなく、光透過率が向上し、高強度かつ高透明度なゲルを得ることができる。また、本願発明のゲル状組成物は、保形性能、分散安定性、耐塩性にも優れている。
【0010】
また、上記特定のセルロース繊維(A成分)が、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化されたものであると、共酸化剤の使用量および酸化時間を調整することにより、上記酸化され変性された官能基量(カルボキシル基量)を特定の範囲に調整することが容易となり、ゲル状組成物としてより良好な結果を得ることができるようになる。
【0011】
さらに、上記ポリビニルピロリドン(B成分)のK値が20以上で、ポリビニルピロリドン(B成分)の含有割合がゲル状組成物全体の2.0〜20重量%の範囲であると、得られるゲルの強度および透明度がさらに良好となる。
【0012】
そして、ゲル状組成物を用いて得られるゲルの強度が15g/cm2 以上であり、かつ660nmにおける光透過率が85%T以上であると、より高強度かつ高透明度なゲルとなり、例えば、化粧品基材や、芳香剤のようなトイレタリー用品基材等の用途により好適に使用することができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。
【0014】
本発明のゲル状組成物は、特定のセルロース繊維(A成分)と、ポリビニルピロリドン(B成分)と、水(C成分)とを用いて得ることができる。
【0015】
ここで、本発明においては、上記特定のセルロース繊維(A成分)の含有割合が、ゲル状組成物全体の0.3〜3.0重量%の範囲であることが最大の特徴であり、好ましくは0.5〜2.0重量%の範囲である。すなわち、上記A成分の含有割合が上記範囲内であると、高強度かつ高透明度なゲルを得ることができるようになる。これに対し、上記A成分の含有割合が少なすぎると、ゲル状とならず、流動性を示し、逆に上記A成分の含有割合が多すぎると、非常に高粘度で分散工程において微細化処理が不可能となり、マクロ的に均質なゲル状組成物を得ることができず、また、得られたとしても、ゲルの透明度が著しく低下するからである。
【0016】
上記特定のセルロース繊維(A成分)としては、最大繊維径が1000nm以下で、数平均繊維径が2〜100nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、I型結晶構造を有するとともに、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、上記カルボキシル基量が0.6〜2.2mmol/gの範囲である、微細なセルロース繊維(A成分)が用いられる。この微細なセルロース繊維(A成分)は、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料を表面酸化し、微細化した繊維である。すなわち、天然セルロースの生合成の過程においては、ほぼ例外なくミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーがまず形成され、これらが多束化して高次な固体構造を構成するが、上記ミクロフィブリル間の強い凝集力の原動となっている表面間の水素結合を弱めるために、その水酸基の一部が酸化され、アルデヒド基およびカルボキシル基に変換されているものである。
【0017】
ここで、上記特定のセルロース繊維(A成分)を構成するセルロースがI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークを持つことから同定することができる。
【0018】
上記特定のセルロース繊維(A成分)は、最大繊維径が1000nm以下、かつ数平均繊維径が2〜100nmであり、分散安定性の点から、好ましくは最大繊維径が500nm以下、かつ数平均繊維径が3〜80nmである。すなわち、最大繊維径が1000nmを超えるか、もしくは数平均繊維径が100nmを超えるセルロース繊維を用いると、セルロース繊維が沈降し流動性を保持したままで、ゲル状とはならないからである。
【0019】
上記特定のセルロース繊維(A成分)の数平均繊維径・最大繊維径は、例えば、つぎのようにして測定することができる。すなわち、セルロース繊維に水を加え、セルロースの固形分を1重量%とする。これを、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、回転速度15,000rpm以上の能力を有するブレンダー等を用いて分散させた後、水を加えて希釈し、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、これを透過型電子顕微鏡(TEM)等により観察し、得られた画像からセルロース繊維の数平均繊維径、最大繊維径を測定・算出することができる。
【0020】
また、上記特定のセルロース繊維(A成分)は、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基量が0.6〜2.2mmol/gであり、保形性能、分散安定性の点から、好ましくは0.6〜2.0mmol/gの範囲である。すなわち、上記カルボキシル基量が少なすぎると、セルロース繊維(A成分)の分散安定性に乏しく、沈降を生じ、逆に上記カルボキシル基量が高すぎると、水溶性が強くなり、化粧用基材等に使用した場合べたついた使用感を与えるからである。
【0021】
また、上記特定のセルロース繊維(A成分)は、アルデヒド基量が0.03〜0.3mmol/gの範囲が好ましく、特に好ましくは0.10〜0.25mmol/gの範囲である。
【0022】
ここで、上記カルボキシル基量、アルデヒド基量の測定は、以下のような電位差滴定により行うことができる。
【0023】
〔カルボキシル基量の測定〕
乾燥させたセルロース繊維を水に分散させ、0.01Nの塩化ナトリウム水溶液を加えて、充分に撹拌してセルロース繊維を分散させる。つぎに、0.1Nの塩酸溶液をpH2.5〜3.0になるまで加え、0.04Nの水酸化ナトリウム水溶液を毎分0.1mlの速度で滴下し、得られたpH曲線から過剰の塩酸の中和点と、このセルロース繊維由来のカルボキシル基の中和点との差から、カルボキシル基量を算出することができる。
【0024】
〔アルデヒド基量の測定〕
セルロース繊維(試料)を水に分散させ、酢酸酸性下で亜塩素酸ナトリウムを用いてアルデヒド基を全てカルボキシル基まで酸化させた試料のカルボキシル基量を測定し、酸化前のカルボキシル基量の差から、アルデヒド基量を算出することができる。
【0025】
なお、上記カルボキシル基量,アルデヒド基量の調整は、後述するように、セルロース繊維の酸化工程で用いる共酸化剤の添加量や反応時間を制御することにより行うことができる。
【0026】
本発明において、上記特定のセルロース繊維(A成分)のセルロースに、アルデヒド基あるいはカルボキシル基が導入されていることは、つぎのようにして確認することができる。すなわち、セルロース繊維(A成分)を水に分散させ、0.1Nの塩酸溶液をpH2.5〜3.0になるまで加えた後、濾過と水洗を繰り返して、水分を完全に除去したサンプルにおいて、全反射式赤外分光スペクトル(ATR)解析により、カルボニル基に起因する吸収(1608cm-1付近)および酸型のカルボキシル基(COOH)に起因する吸収(1730cm-1付近)が存在することにより確認することができる。
【0027】
つぎに、本発明のゲル状組成物には、上記特定のセルロース繊維(A成分)とともにポリビニルピロリドン(B成分)が用いられる。
【0028】
上記ポリビニルピロリドン(B成分)としては、例えば、K値が20以上のものが好ましく、特に好ましくは50〜90の範囲である。すなわち、上記ポリビニルピロリドン(B成分)のK値が小さすぎると、上記特定のセルロース繊維(A成分)との充分な相乗効果が得られず、高強度かつ高透明度のゲルを調製することが困難となる傾向がみられるからである。
【0029】
なお、上記K値(粘性特性値)は、ポリビニルピロリドン(B成分)の分子量の尺度として用いられる数値であり、毛細管粘度計により測定される25℃での相対粘度値をいう。K値が大きいほど、ポリビニルピロリドン(B成分)の分子量が高いことを表す。
【0030】
また、上記ポリビニルピロリドン(B成分)の含有割合は、ゲル状組成物全体の2.0〜20重量%の範囲が好ましく、特に好ましくは2.0〜10重量%の範囲である。すなわち、上記B成分の含有割合が少なすぎると、上記特定のセルロース繊維(A成分)との充分な相乗効果が得られず、高強度かつ高透明度のゲルの調製が困難となる傾向がみられ、逆に上記B成分の含有割合が多すぎると、べたついた使用感を与える傾向が見られるからである。
【0031】
本発明のゲル状組成物には、上記特定のセルロース繊維(A成分)およびポリビニルピロリドン(B成分)に加えて、水(C成分)が用いられる。本発明のゲル状組成物においては、セルロース繊維(A成分)およびポリビニルピロリドン(B成分)の含有量を除いた残量が、水(C成分)の含有量となる。
【0032】
本発明のゲル状組成物に使用されるセルロース繊維(A成分)は、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、まず、針葉樹パルプ等の天然セルロースを、水に分散させてスラリー状としたものに、臭化ナトリウム、N−オキシル化合物(例えば、N−オキシラジカル触媒)を加え、充分撹拌して分散・溶解させる。つぎに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の共酸化剤を加え、pH10.5を保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながらpH変化が見られなくなるまで反応を行なう。上記反応により得られたスラリーを水洗、濾過し、未反応原料、触媒等を除去して精製することにより、繊維表面が酸化された特定のセルロース繊維(A成分)の水分散体を得ることができる。
【0033】
上記N−オキシル化合物としては、例えば2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)、4−アセトアミド−TEMPOのようなN−オキシラジカル触媒等があげられる。上記N−オキシル化合物の添加量は、通常、0.1〜4mmol/l、好ましくは0.2〜2mmol/lの範囲である。
【0034】
また、上記共酸化剤としては、例えば、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、過有機酸等があげられる。これらは単独でもしくは二種類以上併せて用いられる。なかでも、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。そして、上記次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属の存在下で反応を進めることが、反応速度の点において好ましい。上記臭化アルカリ金属の添加量は、上記N−オキシル化合物に対して約1〜40倍モル量、好ましくは約10〜20倍モル量である。
【0035】
本発明のゲル状組成物は、上記のようにして得られたセルロース繊維(A成分)の水分散体に、ポリビニルピロリドン(B成分)を配合し、混合処理することにより調製することができる。上記混合処理には、例えば、真空ホモミキサー、ディスパー、プロペラミキサー、ニーダー等の各種混練機、各種粉砕機、ブレンダー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ペブルミル、ビーズミル粉砕機、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー等を用いることができる。これらのなかでも、超高圧ホモジナイザー等の分散力の大きい混合装置を用いると、透明度の高いゲルが得られる傾向にあるため好ましい。なお、上記セルロース繊維(A成分)およびポリビニルピロリドン(B成分)の含有割合、混合時の分散化処理条件を変更することにより、所望の性状のゲル状組成物を調製することができる。
【0036】
このようにして得られる本発明のゲル状組成物を用いてなるゲルは、ゲル強度が10g/cm2 以上が好ましく、特に好ましくは15g/cm2 以上であり、かつ660nmにおける光透過率が70%T以上が好ましく、特に好ましくは85%T以上である。
【0037】
上記ゲル強度は、例えば、レオメーター(山電社製、クリープメータRE−3305)により測定することができる。すなわち、100mlビーカーにゲル状組成物を70g入れ、24時間以上放置したものを試料として用い、1mm/秒の速度で直径30mmの円柱形プランジャーにより圧力を加え、ゲルの歪率50%のときの応力を測定し、これをゲル強度として規定する。
【0038】
また、上記ゲルの光透過率は、例えば、可視紫外分光光度計(日立テクノロジーズ社製、U−1800形レシオビーム分光光度計)により測定することができる。すわなち、調製したゲル状組成物を光路長1cmの石英セルに充填し、波長660nmの可視光を入射した時の入射光の強さ(対照試料を水とした時の対照セルを通過した光の強さ:Io )と、透過光の強さ(試料セルを通過した光の強さ:It )との比(It /Io )の百分率(%)で規定する。
【実施例】
【0039】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
まず、実施例および比較例に先立ち、セルロース繊維およびセルロース微粒子を、つぎのようにして作製した。
【0041】
〔セルロース繊維T1(実施例用)の作製〕
針葉樹パルプ20g(乾燥重量)に水1500ml、臭化ナトリウム2.5g、TEMPO(N−オキシル化合物)0.25gを加え、充分撹拌して分散させた後、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を、1.0gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウム量が6.0mmol/gとなるように加え、pHを10.5に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながらpH変化が見られなくなるまで反応させた(反応時間:120分)。反応終了後、0.1N塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、繊維表面が酸化されたセルロース繊維T1を得た。
【0042】
〔セルロース繊維T2,T3(実施例用)、セルロース繊維H1,H2(比較例用)の作製〕
添加する次亜塩素酸ナトリウム水溶液の量および反応時間を、下記の表1に示すように変更する以外は、セルロース繊維T1の作製に準じて、各セルロース繊維を作製した。
【0043】
【表1】

【0044】
〔セルロース微粒子H3(比較例用)の作製〕
特開2000−26229号公報に記載の実施例1に準じて、低結晶性セルロース微粒子を作製した。すなわち、平均重合度(DP)760の木材パルプを、−5℃で60重量%硫酸水溶液にセルロース濃度が4重量%になるように溶解してセルロースドープを得た。このセルロースドープを重量で2.5倍量の水中(5℃)に撹拌しながら注ぎ、セルロースをフロック状に凝集させ懸濁液を得た。この懸濁液を80℃の温度に達してから10分間加水分解し、つぎに洗液のpHが4以上になるまで充分に水洗と減圧脱水とを繰り返し、セルロース濃度6重量%のペースト状のセルロース微粒子の半透明白色ペースト状物を得た。さらに、このペーストを水でセルロース濃度5重量%に希釈し、ブレンダーで15000rpm以上の回転速度にて5分間混合し、低結晶性セルロース微粒子H3を含有する半透明白色ペースト状物を得た。
【0045】
このようにして得られたセルロース繊維T1〜T3(実施例用)、セルロース繊維H1,H2(比較例用)を用い、下記の基準に従って各項目の測定を行った。これらの結果を、上記の表1に併せて示した。
【0046】
〔最大繊維径、数平均繊維径〕
各セルロース繊維に水を加え、セルロースの固形分を1重量%とした。これを、超高圧ホモジナイザー(みずほ工業社製、MicrofluidizerM−110EH)を用いて分散させた後、水を加えて希釈し、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、これを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、得られた画像から、各セルロース繊維の数平均繊維径、最大繊維径を測定した。なお、本方法で測定される最大繊維径、数平均繊維径は、後述の実施例で得られる、本発明のゲル状組成物中のセルロース繊維の最大繊維径、数平均繊維径と一致することを確認している。
【0047】
〔カルボキシル基量の測定〕
セルロース繊維表面のカルボキシル基の定量は、電位差滴定により行った。すなわち、乾燥させた各セルロース繊維0.3gを水55mlに分散させ、0.01Nの塩化ナトリウム水溶液5mlを加えて、充分に撹拌してセルロース繊維を分散させた。つぎに、0.1Nの塩酸溶液をpH2.5〜3.0になるまで加え、0.04Nの水酸化ナトリウム水溶液を毎分0.1mlの速度で滴下し、得られたpH曲線から過剰の塩酸の中和点と、このセルロース繊維由来のカルボキシル基の中和点との差から、カルボキシル基量を算出した。
【0048】
〔アルデヒド基量の測定〕
セルロース繊維(試料)表面のアルデヒド基の定量は、以下に示す方法により行った。すなわち、試料を水に分散させ、酢酸酸性下で亜塩素酸ナトリウムを用いてアルデヒド基を全てカルボキシル基まで酸化させた試料のカルボキシル基量を測定し、酸化前のカルボキシル基量の差から、アルデヒド基量を算出した。
【0049】
〔セルロースI型結晶構造、カルボキシル基、アルデヒド基の確認〕
上記各セルロース繊維に水を添加したスラリーの一部を乾燥、圧縮させて、シート状セルロースを作製した。そして、これを広角X線回折像測定した結果、回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークを持つことから、セルロースI型結晶構造を有することが確認された。また、上記各セルロース繊維を水に分散させ、0.1Nの塩酸溶液をpH2.5〜3.0になるまで加えた後、濾過と水洗を繰り返して、水分を完全に除去したサンプルにおいて、全反射式赤外分光スペクトル(ATR)解析した結果、カルボニル基に起因する吸収(1608cm-1付近)および酸型のカルボキシル基(COOH)に起因する吸収(1730cm-1付近)が存在することも確認された。このことから、上記セルロース繊維T1〜T3(実施例用)およびセルロース繊維H1,H2(比較例用)は、I型結晶構造を有するとともに、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が酸化されてなるカルボキシル基およびアルデヒド基も有することも確認された。
【0050】
つぎに、上記セルロース繊維もしくはセルロース微粒子を用いて、以下のようにしてゲル状組成物を調製した。
【0051】
なお、実施例および比較例に先立ち、下記に示すポリビニルピロリドン(B成分)を準備もしくは調製した。
【0052】
〔ポリビニルピロリドン(K値90)〕
第一工業製薬社製、クリージャスK90
〔ポリビニルピロリドン(K値50)〕
第一工業製薬社製、クリージャスK50)
〔ポリビニルピロリドン(K値20)〕
特開2002−155108号公報に記載の方法に準じて、作製した。
〔ポリビニルピロリドン(K値15)〕
特開2002−155108号公報に記載の方法に準じて、作製した。
【0053】
〔実施例1〕
上記セルロース繊維T1(A成分)に、水(C成分)を加えてセルロース固形分4重量%に調製し、高圧分散機(スギノマシン社製、アルティマイザーHJP−25003、操作圧力150MPa)で1回処理して透明なゲル状物を得た。つぎに、このゲル状物に、B成分であるポリビニルピロリドン(K値90)および水(C成分)を加え、セルロース繊維(A成分)の含有量がゲル状組成物全体の0.3重量%、ポリビニルピロリドン(B成分)の含有量がゲル状組成物全体の5.0重量%となるように調製し、ホモミキサー(プライミクス社製、T.Kロボミックス、8,000rpm×1分)を用いて混合し、ゲル状組成物を調製した。
【0054】
〔実施例2〜12、比較例1〜9〕
下記の表2および表3に示すように、セルロース繊維もしくはセルロース微粒子の種類、配合量もしくはポリビニルピロリドンのK値,配合量を変更する以外は、実施例1に準じて、ゲル状組成物を調製した。なお、比較例4〜6は、ポリビニルピロリドンを配合せず、これに代えて水を用いた(水を増量した)。表中のセルロース繊維およびポリビニルピロリドンの含有量は、ゲル状組成物全体中の含有割合(重量%)を示し、セルロース繊維およびポリビニルピロリドンの含有量を除く残量が、水の添加量(重量%)である(以下、同様)。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
このようにして得られた各試料を用い、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。これらの結果を、上記の表2および表3に併せて示した。
【0058】
〔粘度〕
各ゲル状組成物の調製1日後の粘度を、BH型粘度計(80Pa・s未満:ローターNo.4、回転数2.5rpm、3分、25℃、80Pa・s以上:ローターNo.5、回転数2.5rpm、3分、25℃)を用いて測定した。粘度の評価は、40〜55Pa・sのものを○、55Pa・sを超えるものを◎、40Pa・s未満のものを×とした。
【0059】
〔光透過率〕
ゲルの光透過率は、可視紫外分光光度計(日立テクノロジーズ社製、U−1800形レシオビーム分光光度計)を用いて測定した。調製したゲル状組成物を光路長1cmの石英セルに充填し、波長660nmの光透過率を測定した。光透過率の評価は、70%T以上で85%T未満のものを○、85%以上のものを◎、70%T未満のものを×とした。
【0060】
〔ゲル強度〕
ゲル強度は、レオメーター(山電社製、クリープメータRE−3305)により評価した。すなわち、100mlビーカーにゲル状組成物を70g入れ、24時間以上放置したものを試料として用い、1mm/秒の速度で直径30mmの円柱形プランジャーにより圧力を加え、ゲルの歪率50%のときの応力を測定し、これをゲル強度とした。ゲル強度の評価は、10g/cm2 以上で15g/cm2 未満のものを○、15g/cm2 以上のものを◎、10g/cm2 未満のものを×とした。
【0061】
上記表2および表3の結果から明らかなように、カルボキシル基量が所定の範囲のセルロース繊維T1〜T3を用い、セルロース繊維の含有量が0.3〜3.0重量%であり、ポリビニルピロリドンを含有する実施例1〜12品は、粘度、ゲル強度が高く、かつ光透過率も高かった。なお、本発明者らは、上記セルロース繊維T1〜T3に代えて、カルボキシル基量が0.6mmol/g(下限)のセルロース繊維、およびカルボキシル基量が2.2mmol/g(上限)のセルロース繊維を用いた場合にも、セルロース繊維T1〜T3を用いた場合と同様の優れた効果が得られることを実験により確認している。
【0062】
これに対して、セルロース繊維T1〜T3およびポリビニルピロリドンを含有するが、セルロース繊維の含有量が上限(3.0重量%)を超える比較例1〜3品は、粘度が高すぎるために均一分散することができず、ゲル状組成物を調製することができなかった。
【0063】
セルロース繊維T1,T2を用いているが、ポリビニルピロリドンを含有しない比較例4,5品は、粘度、光透過率、ゲル強度ともに低かった。カルボキシル基量が所定の範囲のセルロース繊維T3を用いているが、ポリビニルピロリドンを含有しない比較例6品は、光透過率は高かったが、粘度、ゲル強度が低かった。
【0064】
カルボキシル基量が0.6mmol/g未満のセルロース繊維H1を用いた比較例7品は、粘度、光透過率、ゲル強度ともに低かった。カルボキシル基量が2.2mmol/gを超えるセルロース繊維H2を用いた比較例8品は、ゲル状とならず、流動性を示した。セルロース微粒子H3を用いた比較例9品は、ポリビニルピロリドンによりセルロース微粒子が凝集し、光透過率が著しく低下した。
【0065】
〔実施例13〜34、比較例10〕
下記の表4および表5に示すように、ポリビニルピロリドンのK値,配合量を変更する以外は、実施例1に準じて、ゲル状組成物を調製した。なお、比較例10品は、セルロース繊維を配合せず、これに代えて水を用いた(水を増量した)。
【0066】
【表4】

【0067】
【表5】

【0068】
このようにして得られた各試料を用い、上記の基準に従って、各特性の評価を行った。これらの結果を、上記の表4および表5に併せて示した。
【0069】
上記表4および表5の結果から明らかなように、実施例13〜34品は、いずれも粘度、ゲル強度が高く、かつ光透過率も高かった。なかでも、ポリビニルピロリドンのK値が20以上で、ポリビニルピロリドンの含有量が2.0〜20.0重量%である実施例品(実施例15〜18品,22〜25品,29〜32品)は、粘度、ゲル強度、光透過率の点で特に優れていた。
【0070】
これに対して、ポリビニルピロリドンを含有するが、セルロース繊維を含まない比較例10品は、ゲル状とならず、流動性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のゲル状組成物は、天然素材であるセルロース繊維(A成分)と、人体に対して安全なポリビニルピロリドン(B成分)をゲル化剤として使用し、また、高強度かつ高透明度であることから、化粧品基材や、芳香剤のようなトイレタリー用品基材等として広く好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(C)成分を含有し、(A)成分のセルロース繊維の含有割合がゲル状組成物全体の0.3〜3.0重量%の範囲であることを特徴とするゲル状組成物。
(A)最大繊維径が1000nm以下で、数平均繊維径が2〜100nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、I型結晶構造を有するとともに、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、上記カルボキシル基量が0.6〜2.2mmol/gの範囲である、セルロース繊維。
(B)ポリビニルピロリドン。
(C)水。
【請求項2】
上記(A)成分のセルロース繊維が、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化されたものである請求項1記載のゲル状組成物。
【請求項3】
上記(B)成分のK値が20以上で、(B)成分の含有割合がゲル状組成物全体の2.0〜20重量%の範囲であり、上記(A)成分および(B)成分を除いた残りが(C)成分からなる請求項1または2記載のゲル状組成物。
【請求項4】
得られるゲルの強度が15g/cm2 以上であり、かつ660nmにおける光透過率が85%T以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載のゲル状組成物。

【公開番号】特開2011−57746(P2011−57746A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205807(P2009−205807)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】