説明

コア特性を改善した誘導性の構成エレメント

【課題】コア特性を改善した誘導性の構成エレメントを提供する。
【解決手段】コイル5と、磁性材料を異にする複数のコア領域1、2からなるコアとを有する誘導性の構成エレメントである。前記複数のコア領域1、2は異なる磁気特性を有し、中央巻芯となるコア領域2と外側のコア領域1からなる。前記中央巻芯2は磁性材料からなる複数の板状体の積層体として形成される。前記板状体の間には透磁性を示さない可撓性材料3が配置される。前記材料3は前記板状体の絶縁被覆となっている。前記複数の板状体は前記外側コア領域1とともにボルト締結される。前記ボルトの押付け力により、前記複数の板状体および前記外側コア領域との間のエアギャップの調整を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル(巻線、巻成体)とコアとを有する誘導性の構成エレメント(誘導素子)に関する。
【背景技術】
【0002】
電気回路や電子回路では、チョークコイル、トランス、中継コイルなどの誘導性の構成エレメントが広く普及している。誘導性の構成エレメントの電気特性は、その構造と、コイルおよびコアの特性とにより左右される。例えばコイルおよび/または透磁率の適切な選定もしくは適合化を通じて、所望の誘導特性を達成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
透磁率は、エアギャップを大きくとることにより低減することができる。しかし、それによりエアギャップからの漏洩磁束が増大し、さらにそれに随伴して損失も増大してしまう。このため特に磁気コアの特性を改善することが、何にもまして求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の企図するところは、コイルと、含有される複数の磁性材料を異にする複数のコア領域からなるコアとを有する誘導性の構成エレメントを提供することである。この誘導性の構成エレメントには、「コイル」という用語で表現される、コアに巻き付けられる一つの単層または多層のコイルとならび、複数の単層または多層のコイルも含まれている。
【0005】
異なる磁性材料は、それぞれの異なる磁気特性を有することが好ましい。この「異なる磁性材料」という表現は、少なくとも二種類の磁性材料がこれに包摂されるか、または、磁性材料のパラメータをところどころ異にするが物理化学的な組成は同じである材料がこれに包摂されると解釈されるものである。これらのパラメータは、例えばそれぞれの領域の動作条件に関して最適化されたものであるとよい。
【0006】
そのような磁気コアは、基本的にどのようなコア形状を有していてもよく、例えばC型、U型、E型、P型、X型と称されるコア形状、リングコア(トロイダルコア)、ならびにその他のコア形状、またはそれらから導出されたコア形状を有しているとよい。しかしながら本発明は、一つのセンターポール(中央支柱)もしくは一つの中央巻芯を有するコア形状において導入されると非常に有利である。このコア形状との関係で「その他のコア領域」とは、それぞれの側壁部(Shank)およびこれらの側壁部を中央巻芯に接続するそれぞれのヨーク領域であると解釈されるものである。このコアアッセンブリは、典型的には、いずれも複数の側壁部、複数のヨーク部、および一つの中央巻芯からなる、二つのコア半部により形成される。あるいはその代わりにコアは、一つの中央巻芯と複数の外側の別体のコア部分とからなっていてもかまわない。コアの分割については、それ以外の方式も考えられる。
【0007】
この誘導性の構成エレメントのコアにおいては、中央巻芯自体に複数の異なる材料が含有される、または中央巻芯にコアのその他の領域とは別の磁性材料が一種類含有される、またはコアが、この二通りのオプションを組み合わせたものから構成されている。
【0008】
その際には好ましい実施形態の一例において、これらの異なる材料が成層されて、それぞれの層が交互に順番に例えばセンターポールの軸方向に沿って相前後に並べて配置されるようにするとよい。これらの層は板状、例えばディスク状のものであるとよく、また透磁率が高い層と透磁率が小さいまたはゼロの層とが交互に含まれているとよい。別の好ましい実施形態には、その他の各コア領域の磁性材料とは異なるいずれか一種類の磁性材料からなる中央巻芯が含まれている。さらにもう一つの好ましい実施形態には、上述の二通りの実施形態を組み合わせたものが含まれている。そこでは中央巻芯とその他の各コア領域との機械的な接続が、接着またはボルト締結のいずれかにより行われるようになっている。ボルト締結の場合は、中央巻芯に一つの中央孔を設け、この中央孔に、一本のプラスチックボルトが差し込まれて、ばらばらにならないようにコアを保持するようになっていることが好ましい。あるいはその代わりにそれぞれの部材が係止や挟持により接続されるようにしてもよい。ボルト締結は特に二つのコア半部が互いに対向する位置に置かれる場合に好適であるが、なぜならばその場合は一本のプラスチックボルトにより両方のコア半部がばらばらにならないように同時に保持されることになるからである。
【0009】
特にトランスやチョークコイルにおいては、エアギャップが重要な機能要素の一つとなるが、というのもこのエアギャップにより、コアの磁束密度がかなり低下する上に、例えば磁気特性に一種の線形化がもたらされ、その結果、電界強度が強くなってからでないと、コア材料には磁気飽和状態が生じないからである。ストレージコイル(ストレージチョーク)のエアギャップには、磁気エネルギーの主要部分が蓄えられるが、その結果、誘導率の低下などの様々な短所や、過大な力を来すことになる。中央巻芯を有するコアの場合は、エアギャップが類型的には両方のコア半部の中央巻芯の間に配置されている。ここに提案される誘導性の構成エレメントにより、このエアギャップを中央巻芯の全体に、ほぼその全長に渡りくまなく分散させることが可能となる。中央巻芯の複数部分の表面に分散されるこのエアギャップは、例えばフェライト材料からなる、それとは別の材料からなる板状体により互いに分離されている複数の板状体によって、形成されたものであるとよい。
【0010】
この誘導性の構成エレメントにより、磁気コアの不利な特性を改善することができる。その例として挙げられるのは、特に漏洩磁束の低減であり、また損失の低減である。それにより、損失に起因する温度上昇を阻止するとともに、冷却系統にかかるコストを低減することができる。それと同時に、誘導性の構成エレメントの効率を改善することが可能となる。
【0011】
誘導性の構成エレメント用のコアの構造と製造方法について、あくまでも一つの実例として中央巻芯を有する磁気コアの構造を例にとり解説する。このコアのための異なる磁性材料として検討の対象となるのは、特に鉄粉材料、またはフェライト材料、すなわち有利なことにも飽和磁束密度が高い強磁性材料である。これらの材料はいずれも、それ自体としては公知である短所と長所を併せ持つ。鉄粉コアは、脆性であるという短所を有する一方で、例えば鉄粉コアにより1テスラ(1T)から1.5Tまでの高い飽和磁束密度Bsを達成可能であるという長所を有している。非磁性層または弱磁性層により引き続いて互いから切り離された状態で存在している個々の粉末粒子は、それ自体で既にエアギャップの分散をもたらしているが、それによりさらに磁気飽和誘導の改善とならび、磁気飽和状態の穏やかな到来がもたらされることになる。これに対して標準的なフェライト材料の飽和磁束密度Bsは約0.4Tであり、またその磁気飽和挙動も急勾配となっている。
【0012】
例えば磁気コアの中央巻芯に複数の異なる磁性材料を使用することにより、コアの磁気特性の最適化をはかることができる。例えばコアがどのような構造であるかにより、結果として生じる飽和磁束密度は、フェライト材料の飽和磁束密度から、粉末材料、例えば鉄粉材料の飽和磁束密度までの範囲内に位置することになる。これは、コアの飽和磁束密度が0.4Tから1.5Tまでの範囲内に位置することを意味している。
【0013】
中央巻芯用の透磁率が僅かである、例えば透磁率が10から50までの鉄粉などの材料を、その他の各領域用の透磁率が例えば1000から3000までのフェライト材料と組み合わせることにより、エアギャップの全長、すなわちそれぞれのエアギャップの合計長さを短縮した場合と同様に、フェライト材料だけからなるコアと比較して、合計透磁率を低減することが可能となる。Ie,totを磁気回路の合計実効長、Iをi個目の領域の磁気長、μをi個目の領域の透磁率とすると、この合計透磁率μtotは次式で与えられる。
【0014】
【数1】

【0015】
中央巻芯のところの各エアギャップの全長が短縮されることにより、それぞれの部分エアギャップの長さも短縮されることになるが、それにより漏洩磁束が低減され、その結果として生じる損失も低減されることになる。
【0016】
コアの磁気特性の最適化によってもさらに、コアの寸法を小型化して、特に中央巻芯およびその周囲に巻き付けられるコイルの断面積または直径を低減することができるが、それによりコイルの体積をさらに低減することが可能となる。またそれによってもさらに、誘導性の構成エレメント全体の寸法を小型化し、ひいては誘導性の構成エレメントの製造コストも同様に低減することが可能となる。飽和磁束密度が高い材料を一種類だけ使用した場合は、中央巻芯の作用面積を低減すると飽和磁束密度が増大するが、これは、例えば1.5Tの材料を使用したときには、0.4Tの材料を使用したときに対して0.4T/1.5Tとなる。また中央巻芯の直径の低減に伴い、素子の外径も低減されるが、それにより一段と小型の、材料を節減した、またそれに伴いより低コストであるハウジングを使用することが許容されることになる。
【0017】
コイルの実効長は、コイルの個数とそれぞれのコイルの長さとから求められる。このため中央巻芯をより一層スリムにすることによって実現可能となるコイル内径の小径化を行う場合は、コイル線材の全長が短縮されることになる。これによってもさらに、コイル用に使用される例えば銅などの材料の低減がもたらされるために、資源を大切にする誘導性の構成エレメントの製造と使用が保証されることになる。したがって磁気コアにかかるコストの低減だけではなく、コイルにかかるコストの低減もまた、誘導性の構成エレメントにかかるコストの低減と合わせ、様々な長所の達成に寄与することになる。他方ではコイル線材の全長短縮により、コイル内の損失が低減されて誘導性の構成エレメントの効率が向上するために、誘導性の構成エレメントの電気特性も改善されることになる。
【0018】
この誘導性の構成エレメントにおいては、中央巻芯が強磁性粉末材料を使用して成形され、コアの残りの各部がフェライト材料から成形されるようにすると有利である。そのようにして得られる中央巻芯は高い飽和磁束密度を有するために、コアの飽和挙動が全体として最適化されて、中央巻芯を貫く磁束を、隣接しているフェライト材料からなるコアの各部に最適な形で分散できるようになる。中央巻芯から隣接する各コア部分へと磁束が最適な形で移行することができるように、例えば中央巻芯の小径の中央部分を、中央巻芯の脚部領域のところでは隣接するフェライト材料へと移行するために拡幅することによって、中央巻芯の形状の適合化が行われるようになっている。この移行部の直径および厚さは、両方の強磁性材料の磁気飽和の限界値に応じて決定される。
【0019】
中央巻芯とその他の隣接する各コア部分との間のそのような移行部は、中央巻芯の中央部分の材料、すなわち例えば粉末材料と同じ材料からなることが好ましい。この移行部は、これが一種のフランジのように作用するとともに、コイルの側部をこれにより案内することができるという長所を有している。それによりこの移行部は、コイル支持体のフランジの機能に類似の機能を果たすことになる。このフランジ状の移行部の外径は、コイルと同じであるとよい。したがって、例えばF型またはX型のコアなどの標準的なコア形状である場合は、別体のコイル支持体が不要となる。しかし、いずれにせよ端面側にフランジ機能を持たせたそのような中央巻芯の場合は、中央巻芯およびフランジをコイルに対して電気絶縁することが不可欠となる。そのために、中央巻芯およびフランジが絶縁材料の薄膜で被覆されるか、またはコイル巻線自体が絶縁されるようになっている。中央巻芯の各要素の表面に施されるこの絶縁被覆材料は、透磁性を全く有しないか、または有するにしてもごく僅かにしか過ぎず、この絶縁により、中央巻芯の両端面に沿って部分エアギャップが形成されることになる。中央巻芯の被覆の膜厚は、例えば通常の膜厚である0.2mmであるとよい。この被覆により、中央巻芯とその他の各コア部分との間にエアギャップが形成されるようにしている。
【0020】
中央巻芯が材料を異にする複数の板状体から形成されている実施形態においては、例えば強磁性粉末を使用した板状の磁気材料が使用され、この材料からなるそれぞれの板状体の間に、透磁率がゼロまたは僅かな材料からなる別のディスクが配置されるようになっている。そのような透磁率がゼロまたは僅かな材料からなる板状体を間に挟むことによって、それ以外にも、センターポールもしくは中央巻芯と外側の各コア領域との間の高低差を適宜調整することができる。そのように分散して配置される中央巻芯の透磁率がゼロまたは僅かな板状の材料は、さらにもう一つの機能として、エアギャップの分散をもたらすようになっている。ほかにも合計透磁率を低減し、エアギャップの全長を短縮して、磁束の最適化をはかることが可能となる。
【0021】
中央巻芯が、いずれも磁性材料を含有した一塊の材料から成形加工されている二つの部材からなる場合は、二つのコア半部を組み付けて構成されるコア完成品が、中央巻芯の両部材の中心側の部分間の絶縁距離(クリアランス)の二倍、および、中央巻芯の外側の部分と隣接する各コア部分との間のそれぞれの距離(クリアランス)を、エアギャップとして有することになる。そのような配列により、エアギャップが一つだけしかない配列に対して、漏洩磁束がさらに低減されることになる。しかし漏洩磁束の低減は、ほかにも損失が低減されることを意味している。透磁率がさらに低下されている別の実施例においては、中央巻芯が二つの同一部材または対称な部材から成っており、両部材間に透磁性を示さない材料または僅かな透磁率を示す材料からなる一つの板状体が配置されている。この板状体により、例えば中央巻芯と外側の各領域間のはめ合い精度に関する差を補うことができる。さらにもう一つの観点として、この板状体により、エアギャップ全体が三つの部分に分割される、具体的には中央巻芯の両端部とその他のコア領域間の二つのエアギャップならびに中央巻芯の両部材間の一つのエアギャップに分割されるが、それにより漏洩磁束が低減されることになる。
【0022】
複数のエアギャップと、透磁率が僅かな材料からなる、例えば鉄粉からなる中央巻芯を備えることにより、または、中央巻芯として複数のフェライト領域を複数の鉄粉領域と組み合わせることにより、漏洩磁束または損失が低減される。中央巻芯に複数のエアギャップが備えられることにより、漏洩磁束とならび、冷却系統に要する工数やコストも低減されて、構成エレメントの効率が向上する。
【0023】
中央巻芯に含有される材料、例えば強磁性粉末とは異なる材料、例えばフェライト材料が、外側のコア部分に含有されるように、磁気コアを構成することによって、コアの合計透磁率の最適化をはかることができる。これが可能となる背景には、強磁性粉末、例えば鉄粉の透磁率が10から50の間であるのに対して、フェライト材料の透磁率は1000から3000までの範囲にあるという事情がある。したがってコアに、例えばその中央巻芯に、別の材料を使用することによって、磁気コア配列の合計透磁率を純フェライトコアに対して低減することが可能となる。同時にそのような配列により、有効となるエアギャップ全体を分散させることができるために、漏洩磁束を低減して、これに起因する損失を低減することが可能となる。
【0024】
ほかにもここに提案されるような磁気コアを有する誘導性の構成エレメントは、コア配列全体の温度挙動を改善可能であるという長所を有している。例えばフェライト材料は、損失ピークを処々に随伴した温度依存性を有している。ここに提案されるコア配列では、フェライト材料の製造時の、例えばプレス加工または焼結工程の様々なバリエーションの可能性を通じても、また別の強磁性材料、例えば粉末材料と組み合わせることによっても、その温度依存性を全体的に改善することができる。透磁率は、温度に依存し得る。フェライト材料は、例えば製造プロセスを変更することにより出現する位置をずらすことができる二つのピークを有しているとよい。この最適化は、中央巻芯に的を絞ったものであっても、その他のコア領域に的を絞ったものであってもよく、また最適化の設定目標、例えば飽和磁束密度、損失、または透磁率の目標は、コア領域ごとに異なっていてもかまわない。最適化により、合計透磁率、エアギャップのサイズ、および漏洩磁束を低減することができる。同一材料だけからなるコアでは、そのような最適化は不可能である。
【0025】
中央巻芯は、様々な実施態様で構成されたものでよく、例えば材料を異にする複数の板状体または/および材料が外側のコア部分とは異なる材料に統一されている複数の板状体が中央巻芯に含まれているとよい。それ以外にもさらに中央巻芯は、両側の端面に一体式に成形加工されたフランジ状の部分を有しているとよい。共通の軸線に沿って前後に並べて心出しして配置される中央巻芯の個々の部材は、互いに接着されるとよい。しかしながら中央巻芯の個々の部材に中央孔を一つずつ設けて、相応に一直線上に並んだ一つの孔に一本のボルトを差し込むことにより、外側のコア部分に個々の部材を締結できるようにすると有利である。そのようなボルトの一例は、特に絶縁材料製となっているが、それにより誘導性の構成エレメントの磁気回路の合計透磁率をさらに最適化することができる。これは、例えばボルトからこの中央孔に加えられる押付け力の調整を通じて、中央巻芯および外側の各コア領域のそれぞれ異なるコア要素に加えられる押圧力が調整されることによって、実現されるようになっている。ボルトから加えられる押圧力が変更されることにより、残されているエアギャップに変化がもたらされる。特に中央巻芯に、ほかにも透磁率がゼロまたは僅かな複数の板状体が備えられる場合は、その材料として、機械的な可撓性を示すものが選択されるとよい。材料として検討されるのは特にプラスチックおよびシリコンであるが、それによりボルトから加えられる押圧力により、まるでばねのような弾性機能がもたらされることになる。ボルトから各コア部分に加えられる押圧力は、例えばトルクレンチを使用して調整できるようになっている。
【0026】
センターポールにフェライトが含有される、または複数のフェライト板状体が含まれている場合は、損失が最小となる温度が、外側のコア部分のこれとは異なるフェライト材料よりも高温となるように、センターポールが製造されたものであるとよい。したがってこの場合は、中央巻芯の温度が、外側のコア部分の温度より高くなり得る。それにより、中央巻芯については冷却が熱伝導だけにより可能となる一方で、コア配列全体については冷却が対流または強制空冷によっても可能となるために、コア配列の冷却条件に改善がもたらされることになる。他方、中央巻芯のそのようなフェライト板状体は、外側の各コア部分よりも飽和磁束密度Bsが高い材料を使用して製造されたものであってもかまわない。損失を低減する目的での、各コア領域のフェライト材料のそれぞれのコア領域の動作温度に対する適合化は、各領域の焼結工程の圧力、温度、および焼結条件の適合化を通じて行うことができる。コア領域ごとに製造プロセスをそのように変更することは、一体型のコアの場合は不可能である。さらにもう一つのアプローチ手法として、中央巻芯の製造に透磁率が僅かな材料、例えば鉄粉を使用するという方法があるが、それにより直径が低減され、それに伴い実効コイル長、コイル用の材料の体積、そして最後には損失が低減されることになる。異なる材料を、寸法の小型化と導体の長さの短縮と組み合わせて使用することによって、一体型のコアを有する素子と比較して、磁性材料およびコイルに関して損失が最適化され、それにより効率も向上し、コストも低減されることになる。
【0027】
飽和磁束密度に関しては、異なるコア部分に異なる磁性材料を使用することにより最適化を達成することができる。例えば中央巻芯のそれぞれのフェライト板状体は、動作温度に合わせて、飽和磁束密度が高い材料から製造されたものであるとよい。中央巻芯の動作温度は、外側の各コア領域の動作温度よりも高い例えば摂氏100度前後であるが、外側の各コア領域の動作温度は摂氏80度前後である。フェライト材料の場合は、温度が低くなる程、飽和磁束密度が増大する。通常のフェライト材料では、例えば中央巻芯と外側のコア領域間の温度落差で、飽和磁束密度は約20mT増大する。
【0028】
本発明の幾つかの実施例が、図面に示される図により明らかにされている。そこでは同じ機能要素が同じ符号で示されている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】P型コアに複数の板状に形成された中央巻芯と分散されたエアギャップとが備えられたチョークコイルの図である。
【図2】分散されたエアギャップを有する、X型コアと複数の板状に形成された中央巻芯とが備えられたチョークコイルの図である。
【図3】センターポールと端面側に配置されるフランジとが備えられたチョークコイルの図である。
【図4】端面側にフランジを有する、コイル支持体の機能を併せ持つセンターポールが備えられたチョークコイルの図である。
【図5】端面にフランジを有する中央巻芯から外側の各コア領域への移行領域内の磁束密度の状況を示す詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図面には実施形態としてチョークコイルの断面図が示されているが、それにもかかわらず、チョークコイルの代わりにトランスや中継コイルにも、同様の構造を持たせることができるのは、言うまでもない。コア形状についても同様に、様々な形状のものを備えることができるが、例えばP型もしくはX型のコア、またはポット型またはシェル型のコアが備えられるとよい。ここでX型コアとは、中央巻芯に隣接して、少なくとも四つの、それぞれが放射状に分かれて延びているヨーク領域を有しており、各ヨーク領域の端面側に側壁部が一つずつ、中央巻芯と同じ向きに取り付けられているコア形状であると解釈されるものである。P型およびX型のコアは、妨害作用が僅かなコンパクトな形状を有している。
【0031】
図1に示すように、P型コアは、互いに対向する位置に置かれる二つのコア部分1aおよび1bから構成されるが、これらのコア部分はフェライト材料からなるとよい。このコアの内側中央には一つの巻芯が配置されているが、この巻芯は異なる材料からなる複数のディスク(板状体)のような形状に構成されている。すなわちこの中央巻芯は、強磁性粉末、または、外側のコア部分1a、1bのフェライト材料とは相違するフェライト材料のいずれかを含有している複数のディスク2を有している。それぞれのディスク2の間には、透磁性を全く示さない、または示してもごく僅かにしか過ぎない材料3が配置されている。あるいはこの材料3の代わりに、これと同じ材料3からなる、可撓性を示すと有利である複数のディスクが配置されるか、またはこの材料3が、それぞれのディスク2の強磁性を示す絶縁被覆となっている。中央巻芯と外側の両コア部分との間にはコイル5が配置される。この誘導性の構成エレメントの配列全体は、一本のボルト4を一つの貫通孔6に差し込んで、外側の両コア部分と中央巻芯とを互いに締結することによって、ばらばらにならないように保持されている。このボルトを押し付けて、外側のコア部分および中央巻芯にボルトから押付け力が加えられるようにすることで、強磁性を示す各ディスクと外側のコア領域との間の、透磁率がゼロまたは僅かな領域に分散されているエアギャップの調整が行われるようにしている。
【0032】
図2にはX型コアを使用したチョークコイル配列が示されている。この配列では、好ましくはフェライト材料からなる二つの外側のコア半部1aおよび1bと、並びに、中央巻芯の強磁性の複数のディスク2とが示されているが、これらのディスク2は、透磁率がゼロまたは僅かな材料3により、あるいはその代わりに一つの絶縁被覆により、互いから切り離されている。この多層構造の中央巻芯と外側の両コア部分1aならびに1bとの間には、チョークコイルの巻線5が配置されている。コアの全部材は、一つの貫通孔6に差し込まれる一本のボルト4により案内されるとともに、ばらばらにならないように保持されているが、このボルト4を利用してマグネットコアの各要素に加えられる押圧力を調整することができる。この実施例においても、三次元空間に分散されたエアギャップがもたらされている。
【0033】
図3には、P型またはX型のコアを有するチョークコイルが示されるが、そこでは外側の両半部1aおよび1bにフェライトが含有されている。中心部の中央巻芯は二つの部材2から成り、それぞれの部材2は外側の両コア領域と対向する端面側にフランジ7を一つずつ有している。この中央巻芯は鉄粉からなるとよい。フランジ7により、一方では中央巻芯から外側の両コア部分に向かって磁束がより良好に分散され、他方ではコイル5が少なくとも部分的に案内されるようになっている。
【0034】
コア1aおよび1bに対するコイル5の絶縁は、特に絶縁コイルとして、または中央巻芯の絶縁被覆として実施されている。後者の場合は、中央巻芯と外側の両コア部分との間の中間領域の中にコイルを直接装着することができる。この場合は中央巻芯の絶縁被覆が、中央巻芯の両半部と両外側のフランジ領域との間の中央領域に沿ってチョークコイルのエアギャップを分散させる役割を同時に担うことになる。それによりチョークコイルの損失条件に改善がもたらされるために、全体としてチョークコイルの構造の小型化と同時に、従来型のチョークコイルに対する諸特性の改善が達成されることになる。別の実施例において、中央巻芯の両部材2間には、(図3には示されていない)可撓性材料からなる、透磁率が僅かまたはゼロである一つのディスクが備えられるとよい。このディスクは、その可撓性のために、ばねとして作用する。このディスクの可撓性を利用することで、中央巻芯の両部材2間の距離をボルトにより変更することができる。
【0035】
図4には、P型またはX型のコア形状を持つ配列が示されているが、これは、中央巻芯の両部材2と外側の両コア部分1aおよび1bとの間の端面に配置されるフランジ状の領域7が、案内用のボルト4が通されている中央孔6から、外側の両コア部分の内周面まで延びている点で、図3に示される配列とは相違している。それにより、このフランジにより形成される領域の内部にコイル5を完全に配置することができるために、コイルのための別体のコイル支持体を不要とすることができる。中央巻芯2の段階的に増大する直径は、磁束を分散させるように作用するほかにも、コイルを保持するための移行領域としても作用する。したがって中央巻芯2の中央部分はそれぞれの段部とともに、コイル5の形状を規定することになる。
【0036】
図5には、中央巻芯2から、この中央巻芯2の端面に配置されているフランジを越えて外側のコア部分へと移り渡る磁束が模式的に示されている。あくまでも模式的に矢印8で示されるように、中央巻芯2の内部では極めて高密度となっている磁束は、フランジ7に移行している領域内で既に分散されて密度が低下しているが、それにより、コアの外側のフェライト部分1の内部に存在する磁束に対する適合化を保証している。別の実施例においては中央巻芯2が鉄粉から成り、コアのその他の部分はフェライト材料から成っている。コアの各部を移り渡る磁束は移行領域で最適化されるが、その際には、鉄粉が使用されるために飽和磁束密度が高くなっている中央巻芯2から、飽和磁束密度が低いフェライト材料に向かって、磁束を分散させることが要求される。移行領域の厚さおよび直径は、中央巻芯2の飽和磁束密度とその他の各コア部分の飽和磁束密度との比から決定される。
【符号の説明】
【0037】
1 コア部分
1a コア部分
1b コア部分
2 中央巻芯
3 材料
4 ボルト
5 コイル
6 孔
7 フランジ
8 矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルとコアを備え、当該コアは複数のコア領域を有し、当該複数のコア領域は異なる磁性材料を含有することを特徴とする誘導性の構成エレメント。
【請求項2】
前記磁性材料が、互いに異なる磁気特性を有することを特徴とする請求項1に記載の誘導性の構成エレメント。
【請求項3】
前記磁性材料が、各種磁気パラメータを異にする同じ材料タイプからなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の誘導性の構成エレメント。
【請求項4】
誘導性の構成エレメントのコアの磁気特性が、前記磁性材料のそれぞれに対して個別に割り当てられているコア磁気特性とは異なることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の誘導性の構成エレメント。
【請求項5】
前記磁性材料が一連の層として形成され、当該一連の層からなる積層体が互いに接着またはボルト締結されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の誘導性の構成エレメント。
【請求項6】
前記磁性材料が一連の層として形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の誘導性の構成エレメント。
【請求項7】
誘導性の構成エレメントのコアが、外側の各コア領域の磁性材料とは異なる磁性材料からなる中央巻芯を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の誘導性の構成エレメント。
【請求項8】
前記中央巻芯に強磁性を示す粉末が含有され、前記外側の各コア領域にフェライトが含有されることを特徴とする請求項7に記載の誘導性の構成エレメント。
【請求項9】
前記中央巻芯が、磁性材料からなる板状体として形成される複数の層を有することを特徴とする請求項7または8に記載の誘導性の構成エレメント。
【請求項10】
前記中央巻芯のそれぞれの板状の磁性材料に絶縁被覆が施されることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の誘導性の構成エレメント。
【請求項11】
高い透磁率を有する材料からなるそれぞれの領域の間に、透磁率が僅かまたはゼロである可撓性材料が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の誘導性の構成エレメント。
【請求項12】
前記中央巻芯が二分割されていることを特徴とする請求項7から請求項11のいずれか1項に記載の誘導性の構成エレメント。
【請求項13】
前記中央巻芯が、透磁率が高い材料からなる二つの部材を有しており、前記両部材間に、透磁率が僅かまたはゼロである可撓性材料からなる板状体が配置されることを特徴とする請求項12に記載の誘導性の構成エレメント。
【請求項14】
前記中央巻芯が、前記外側の各コア領域と対向する端面側に一つのフランジ状の成形部を有することを特徴とする請求項7から請求項13のいずれか1項に記載の誘導性の構成エレメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−124493(P2012−124493A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−269456(P2011−269456)
【出願日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【出願人】(300002160)エプコス アクチエンゲゼルシャフト (318)
【氏名又は名称原語表記】EPCOS  AG
【住所又は居所原語表記】St.−Martin−Strasse 53, D−81669 Muenchen, Germany