説明

コヒーレントOTDR装置

【課題】
光周波数シフタによるプローブ光の損失を抑えて、コヒーレントOTDR装置のS/Nを改善する。
【解決手段】
プローブ光源から出射されたプローブ光Ppを2つの光路に分波する光分波器4と、光分波器で分岐された一方のプローブ光をパルス化するとともにプローブ光とは光周波数が異なるダミー光Pdを重畳して一定パワーのCW試験信号光Ptを光ファイバ線路に出射するCW信号発生部5と、光分波器で分波された他方のプローブ光を周波数シフトしてローカル光Plを出射する光周波数シフタ7と、ローカル光と光ファイバ線路からの戻り光Prを合波する第1の光合波器10と、第1の光合波器により合波された合波光を受光して戻り光とローカル光とでヘテロダイン検波を行うヘテロダイン検波部11と備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレントOTDR装置に係り、特に、光ファイバアンプを含んだ光通信システムの線路特性評価および破断点検出を行うコヒーレントOTDR(Optical Time Domain Reflectometry)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コヒーレントOTDR装置は、光ファイバ線路の間に光ファイバアンプが多段に配置された長距離系の光通信システムに接続し、コヒーレント光であるプローブ光パルスを光ファイバ線路に入射し、光ファイバ線路からの戻り光とプローブ光パルスの光周波数からΔfだけ離れたローカル光とを合波して光ヘテロダイン検波を行い、光ファイバ線路の損失と破断点位置を測定する装置である。
【0003】
しかしながら、パルス周期Tに比べてパルス幅Wが比較的小さいプローブ光パルスを光ファイバアンプに入射すると、図6で示すような光サージ現象が発生し、光ファイバ線路を構成する光学素子や受光器が破壊されてしまう。
これは、光信号が入射されない時間が長く光ファイバアンプが高いエネルギー準位に励起された状態で光パルス信号が入射されると、急激なレーザ遷移が生じて光パルス信号の先端部分が急激に増幅されるためである。
【0004】
この光サージ現象を防止するために、従来のコヒーレントOTDR装置では、プローブ光パルスにプローブ光パルスとは光周波数の異なるダミー光を重畳して一定パワーのCW試験信号光として光ファイバ線路に出射して、光ファイバ線路上の光ファイバアンプに過度のレーザ遷移状態が生じないようにしている。
【0005】
図4に、光サージ現象の防止機能を備えた従来方式のコヒーレントOTDR装置の概略構成を示す。
なお、光通信システム200は、コヒーレントOTDR装置の評価対象であって、光ファイバアンプから構成される中継器200dが多段に縦続接続された上り回線200aと下り回線200bから構成され、回線間にはループバックパス200cが設けられている。また、それぞれの回線には、WDM送信機200e、WDM受信機200fが接続されており、異なる複数の波長を持つ通信光がWDM送信機200eから出力されてWDM受信機200fに向かって伝送される。
【0006】
プローブ光源102から出射されたプローブ光Pp(光周波数fp)は光分波器104で分岐され、その一方のプローブ光Ppが、例えば、音響光学変調器(AOM:Acousto―Optic Modulator)等の周波数シフタ109によって光周波数fp+Δfへ周波数シフトされ、CW信号生成部105に入射される。
ダミー光源103からは、光周波数fp+Δfとは異なる光周波数fdのダミー光Pdが出射され、CW信号生成部105に入射される。
CW信号生成部105は、プローブ光Ppとダミー光Pdを重畳して、図5(b)に示す一定パワーのCW試験信号光Ptを光通信システム200の上り回線200aに出射する。具体的には、CW信号生成部105は、光スイッチ106と光スイッチの切替動作を制御する切替制御部107から構成されており、光スイッチ106は、切替制御部107の指示に従って、プローブ光Pp(fp+Δf)とダミー光Pd(fd)とを交互に切り替えて、プローブ光Pp(fp+Δf)を測定条件に適合したパルス幅Wと周期Tのパルス光にパルス化するとともに、プローブ光Pp(fp+Δf)の無信号区間にダミー光を重畳して、図5(b)に示す一定パワーのCW試験信号光Ptを形成する。
なお、CW試験信号光Ptのパワーが一定になるように、出力制御部108に指示により、プローブ光源102とダミー光源103の出力が制御される。
上り回線200aの反射戻り光Prは、ループバックパス200cを介して下り回線側200bからコヒーレントOTDR装置側へ出射され、プローブ光Ppを分岐して得たローカル光Pl(fp)と光合波器110で合波される。合波光は、ヘテロダイン検波部111でヘテロダイン検波される。具体的には、ヘテロダイン検波部111は、受光部112、バンドパスフィルタ113及び検波器114から構成され、合波光を受光して受光部112から出力されたビート信号Pbをバンドパスフィルタ113に通した後、ヘテロダイン検波部111で搬送周波数Δfの振幅変調波を取り出し、表示制御部115に入力される。
表示制御部115では、ヘテロダイン検波した信号を処理して、上り回線200aの損失分布と破断点を算出し、表示部116の算出結果を表示する。
【特許文献1】特許3327416号公報
【特許文献2】特許3596972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したしながら、従来のコヒーレントOTDR装置において以下のような解決すべき課題があった。
【0008】
コヒーレントOTDR装置のS/Nを改善するためには、反射戻り光Prとローカル光Plとの合波によって発生するビート信号Pbの強度に対するショット雑音の強度の比を大きくする必要がある。
ショット雑音は半導体受光素子においては光電流に比例した雑音電力であり、ショット雑音電力Nsは、次式(1)で与えられる。
Ns=2e(Ip+Id)BR (1)
ここで、eは電子の電荷(1.6×10-19 c)、Ipは光電流、Idは暗電流、Bは帯域幅、Rは負荷抵抗である。
また、合波光の光電力Abは、次式(2)で与えられる。
Ab=Al+Ar+2√Al√Arcos(2πΔft+φ) (2)
ここで、Alはローカル光Plの光電力、Arは反射戻り光Prの光電力、Δfはローカル光Plと反射戻り光Prの周波数差、φはローカル光Plと反射戻り光Prの位相差であり、(2)式の右辺第3項がビート信号Pbの振幅変調成分に相当する。
【0009】
反射戻り光Prはローカル光Plに比べて極めて微弱であるから、合波光の光電力Abは、(2)式第一項のローカル光Plの光電力Alが支配的となる。そして、ショット雑音は光電流に比例し、光電流は光電力に比例するので、コヒーレントOTDR装置においてショット雑音を低減しS/Nを改善するためには、光周波数シフタをローカル光側に配置し、プローブ光側の損失を抑えて高出力にする方が効果的である。
【0010】
上述した従来のコヒーレントOTDR装置は、挿入損失が比較的大きな光周波数シフタでプローブ光を波長シフトしているため、プローブ光パルスのレベル(光電力)の低下させ、相対的にローカル光のレベル(光電力)を上げることになるため、強いては、S/Nの劣化を招くという問題があった。
例えば、代表的な光周波数シフタとして使用される音響光学変調器(AOM:Acousto―Optic Modulator)の回折効率は、長距離系の光通信システムで利用される1500nm〜1600nm帯のレーザ波長で約50%である。この周波数シフタでのプローブ光の損失を補うために、プローブ光源の出力を上げたり、あるいは、後段のプリアンプである光ファイバアンプのゲインを上げることにより対処できるが、いずれの方法も電力を余計に消費することになる。
【0011】
本発明は、上記問題を解決して、光周波数シフタによるプローブ光の損失を抑えて、S/Nを改善することができるコヒーレントOTDR装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1のコヒーレントOTDR装置は、
コヒーレント光パルスを光通信システムの光ファイバ線路に出射し、該光ファイバ線路からの戻り光を光ヘテロダイン検波して前記光ファイバ線路の特性評価を行うコヒーレントOTDR装置において、
プローブ光(Pp)を出射するプローブ光源(2)と、
該プローブ光とは光周波数が異なるダミー光(Pd)を出射するダミー光源(3)と、
該プローブ光源から出射されたプローブ光を2つの光路に分波する光分波器(4)と、
該光分波器で分岐された一方のプローブ光、及び前記ダミー光源から出射されたダミー光を、それぞれパルスに変換するとともに、これらのパルスを交互に前記光ファイバ線路に出射するCW試験信号光(Pt)を形成するCW信号発生部(5、21)と、
前記CW試験信号光のそれぞれのパルスが一定のパワーになるように前記プローブ光源及びダミー光源の出力を制御する出力制御部(6)と、
該光分波器で分波された他方のプローブ光を周波数シフト(Δf)してローカル光(Pl)を出射する光周波数シフタ(9)と、
該ローカル光と前記光ファイバ線路からの戻り光(Pr)を合波する第1の光合波器(10)と、
該第1の光合波器により合波された合波光を受光して戻り光とローカル光とでヘテロダイン検波を行うヘテロダイン検波部(11)とから構成されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項2のコヒーレントOTDR装置は、請求項1記載のコヒーレントOTDR装置において、
前記光周波数シフタは、音響光学変調器(AOM:Acousto―Optic Modulator)であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項3のコヒーレントOTDR装置は、請求項1または請求項2のいずれかに記載のコヒーレントOTDR装置において、
前記CW信号発生部は、前記光分岐器で分岐された一方のプローブ光を入射する第1の入力ポート(6a)と前記ダミー光源から出射されたダミー光を入射する第2の入力ポート(6b)とを有し、該入射されたプローブ光とダミー光の光路を交互に切り替えることによって前記CW試験信号光を合成して一の出力ポート(6c)から出射する光スイッチ(6)と、
前記特性評価の評価条件に応じてプローブ光とダミー光の切り替えのタイミングを光スイッチに指示する切替制御部(7)とから構成されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項4のコヒーレントOTDR装置は、請求項1または請求項2のいずれかに記載のコヒーレントOTDR装置において、
前記CW信号発生部は、前記光分波器で分岐された一方のプローブ光の通過を制御する第1の光ゲート(22)と、
前記ダミー光源から出射されたダミー光の通過を制御する第2の光ゲート(23)と、
前記特性評価の評価条件に応じて、該プローブ光とダミー光が交互に出射されるように第1及び第2のゲートのゲートタイミングを制御する切替制御部(24)と、
第1及び第2のゲートから出射されたプローブ光及びダミー光を重畳して前記CW試験信号光を合成して出射する第2の光合波器(25)とから構成されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項5のコヒーレントOTDR装置は、請求項4に記載のコヒーレントOTDR装置において、
前記第1の光ゲート及び第2の光ゲートは半導体光増幅素子から構成されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項6のコヒーレントOTDR装置は、請求項1から請求項5のいずれかに記載のコヒーレントOTDR装置において、
前記プローブ光源は波長可変光源(102)であって、前記光ファイバ線路で運用中の通信信号光の光周波数とは異なる光周波数の前記プローブ光を出射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明のコヒーレントOTDR装置は、ダミー光と重畳するプローブ光パルスを周波数シフトする代わりに、反射戻り光と合波するプローブ光を周波数シフトする構成にしたので、プローブ光とローカル光によって発生するビート信号強度あたりのプローブ光とローカル光のトータルパワーを下げることにより、ショット雑音を小さくすることができ、周波数シフトによるプローブ光パルスのパワーの損失を抑制してコヒーレントOTDR装置のS/Nを改善することができる。
【0019】
また、プローブ光源として波長可変光源を採用したコヒーレントOTDR装置においては、波長シフタの波長依存性の影響を低減して、波長可変に伴うプローブ光のレベル変動を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する
【0021】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態のコヒーレントOTDR装置1の構成を示している。
【0022】
図1のコヒーレントOTDR装置1において、プローブ光源2は、連続光であるプローブ光Pp(光周波数fp)を出射し、ダミー光源3は、プローブ光Pp(光周波数fp)とは異なる光周波数fdの連続光であるダミー光Pdを出射する。
光分波器4は、光カプラ等から構成され、プローブ光Ppを受けて2つの光路に分波し、一方をCW信号生成部5の光スイッチ6へ、他方を光周波数シフタ9へ出射する。
【0023】
CW信号生成部5は、プローブ光Pp(fp)とダミー光Pd(fd)を受けて、プローブ光Pdを測定条件に合わせてパルス化するとともにダミー光Pdを重畳して、CW試験信号光Ptを出射するものであり、光スイッチ6と切替制御部7から構成される。
光スイッチ6は、プローブ光源2から出射され光分波器4で分波されたプローブ光Ppとダミー光源から出射されたダミー光Pdをそれぞれ受ける第1の入力ポート6aおよび第2の入力ポート6bと、一つの出力ポート6cとを備えた光スイッチであって、切替制御部7の指示に従ってプローブ光Pp(fp)とダミー光Pd(fd)の光路を切り替えることによって、一の出力ポート6cから図5(a)に示すパワー一定のCW試験信号光Pt(fp、fd)を合成して出射する。
切替制御部7は、光ファイバ回線200aの測定距離や測定分解能等の測定条件に対応した最適なプローブ光パルスのパルス幅Wとパルス周期Tに基づいて、光スイッチ6の光路の切り替えタイミングを制御する。なお、光ファイバ回線の総延長が数千kmになる海底ケーブルシステムを測定対象とする場合、例えば、プローブ光パルスのパルス周期Tは100ms、パルス幅Wは10msが設定される。
なお、CW試験信号光Ptの出力が一定になるように、出力制御部8により、プローブ光源2とダミー光源3の出力が制御されるが、光源と光スイッチ6の間に設けたアッテネータでプローブ光Ppまたはダミー光Pdのレベルを制御する構成にしてもよい。
【0024】
CW信号生成部5から出射されたCW試験信号光Ptは、コヒーレントOTDR装置に内蔵された光ファイバアンプ17で測定条件に応じたレベルまで増幅され、試験対象である光通信システム200の上り回線200aに出射される。
CW試験信号光Ptの入射に伴う上り回線200aからの反射戻り光Pr(fp、fd)は、ループバックパス200cを介して下り回線200bからコヒーレントOTDR装置1側へ出射される。
【0025】
光周波数シフタ9は、光分波器4で2つに分波したプローブ光Pp(fp)のうち、他方のプローブ光を受けて光周波数fp+Δfへ周波数シフトしてローカル光Plを出射するものであり、例えば、音響光学変調器(AOM:Acousto―Optic Modulator)が使用される。
第1の光合波器10は、光カプラ等から構成され、下り回線200bから出射された上り回線200aの反射戻り光Pr(fp、fd)と光周波数シフタ9により周波数シフトされたローカル光Pl(fp+Δf)とを合波する。
合波光は、受光部12、受光部13および検波器14から構成されるヘテロダイン検波部11でヘテロダイン検波される。受光部12は、合波光を受光して反射戻り光Pr(fp、fd)とローカル光Pl(fp+Δf)の差周波数のビート信号(Δf、fd−fp−Δf)を出力し、バンドパスフィルタ13により、プローブ光パルスPpの戻り光に基づく成分のビート信号を取り出し、検波器14でヘテロダイン検波が行われ、表示制御部15に入力される。
表示制御部15では、ヘテロダイン検波した信号を処理して、上り回線200aの損失分布と破断点を算出し、表示部16の算出結果を表示する。
【0026】
以上説明した通り、第1の実施形態に係るコヒーレントOTDR装置は、ダミー光Pdと重畳するプローブ光パルスを周波数シフトする代わりに、反射戻り光Prと合波するプローブ光を周波数シフトする構成にしたので、プローブ光とローカル光によって発生するビート信号強度に対するショット雑音を小さくすることができ、コヒーレントOTDR装置のS/Nを改善することができる。
【0027】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態のコヒーレントOTDR装置20の構成を示しており、第1の実施形態とは、CW信号生成部21の構成が異なる。したがって、第1の実施形態と同じ構成要素については同一の構成番号を付してCW信号生成部21以外の説明は省略する。
【0028】
第2の実施形態のコヒーレントOTDR装置20における、CW信号生成部21は、第1の光ゲート22、第2の光ゲート23、切替制御部24、及び第2の光合波器25から構成される。
【0029】
第1の光ゲート22及び第2の光ゲート23は、例えば、半導体光増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)が用いられ、切替制御部24の指示に従って、第1の光ゲート22はプローブ光Pp(fp)の通過を制御し、第2の光ゲート23はダミー光Pd(fd)の通過を制御する。
第2の光合波器25は、第1及び第2の光ゲートから出射されたプローブ光Pp及びダミー光Pdを合波して、図5(a)に示すパワー一定のCW試験信号光Pt(fp、fd)を出射する。
切替制御部24は、光ファイバ回線200aの測定距離や測定分解能等の測定条件に対応した最適なプローブ光パルスのパルス幅Wとパルス周期Tに基づいて、第1の光ゲート及び第2の光ゲートのゲートタイミングを制御する。
【0030】
なお、CW試験信号光Ptの出力を一定にするために、第1の実施形態で説明したプローブ光源2及びダミー光源3の出力を制御する方法やアッテネータによりプローブ光Ppまたはダミー光Pdのレベルを制御する方法以外に、この第2の実施形態では、光ゲート22、23をSOAで構成した場合は、このSOAでプローブ光Ppとダミー光Pdの通過タイミングを制御するとともにプローブ光Ppとダミー光Pdの出力レベルを同時に制御することができる。
【0031】
以上、この第2の実施形態に係るコヒーレントOTDR装置においても、ダミー光と重畳するプローブ光パルスを周波数シフトする代わりに、反射戻り光と合波するプローブ光を周波数シフトする構成にしたので、プローブ光とローカル光によって発生するビート信号強度に対するショット雑音を小さくすることができ、コヒーレントOTDR装置のS/Nを改善することができる。
【0032】
(第3の実施形態)
図3は、本発明の第3の実施形態のコヒーレントOTDR装置30の構成を示している。なお、第1の実施形態と同じ構成要素については同一の構成番号を付して説明を省略する。
【0033】
この第3の実施形態では、プローブ光源31及びダミー光源32は波長可変光源であって、プローブ光Pp及びダミー光Pdの波長(光周波数fp、fd)を測定条件にあわせて任意に可変可能である。
波長制御部33は、外部からの指示に従ってプローブ光源31及びダミー光源32に対しプローブ光Pp及びダミー光Pdの光周波数fp、fdや出力を制御するとともに、音響光学変調器9においてプローブ光Ppの損失が小さくなるように音響光学変調器9の音響光学素子に印加する音響パルスの周期やレベルを調節する。これは、音響光学素子は回折効率及び回折方向の波長依存性を有しているので、プローブ光の波長の可変に合わせて変調効率が最大になるように制御する必要があるからである。
【0034】
この第3の実施形態のコヒーレントOTDR装置30は、プローブ光Pp及びダミー光Pdの光周波数fp、fdを可変にしたので、インラインサービスにおいて、すなわち、光通信システム200の運用中に光ファイバ回線の測定を行う場合に、光通信システムで使用している信号光の波長とプローブ光Pp及びダミー光Pdの波長が重複しないように、プローブ光Pp及びダミー光Pdの波長(光周波数fp、fd)を任意に設定することができる。
【0035】
また、光通信システム200が波長多重方式(WDM:wavelength Division Multiplexing)を採用している場合には、波長多重信号のグリッド波長ごとに光ファイバ線路の評価が必要とされるが、プローブ光を波長可変にすることで任意のグリッド波長における評価ができる。
【0036】
さらに、音響光学素子を用いた光周波数シフタは、音響光学素子内部に発生させた回折格子によって入射光の光周波数をシフトするものであるが、その回折格子の回折効率の波長依存性が大きく、プローブ光の波長を可変すると回折効率の変化に伴いシフト光の出力光パワーも変動するが、ダミー光と重畳するプローブ光パルスを周波数シフトする代わりに反射戻り光と合波するプローブ光を周波数シフトする構成にすることで、プローブ光の波長を可変しても、プローブ光パルスのパワー変動が少なく安定した測定ができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1実施形態の構成を示す図
【図2】本発明の第2実施形態の構成を示す図
【図3】本発明の第3実施形態の構成を示す図
【図4】従来のコヒーレントOTDRの構成を示す図
【図5】本発明と従来方式のCW試験信号光を説明するための模式図
【図6】サージ現象を説明するための模式図
【符号の説明】
【0038】
1,20,30・・・コヒーレントOTDR装置、2,31・・・プローブ光源、3,32・・・ダミー光源、4・・・光分波器、5,21・・・CW信号生成部、6・・・光スイッチ、7,24・・・切替制御部、8・・・出力制御部、9・・・音響光学変調器、10,25・・・光合波器、11・・・ヘテロダイン検波部、12・・・受光部、13・・・、バンドパスフィルタ、14・・・検波器、15・・・表示制御部、16・・・表示部、200・・・光通信システム、23・・・光ゲート、200a・・・上り回線、200b・・・下り回線、200c・・・ループバックパス、Pp・・・プローブ光、Pd・・・ダミー光、Pl・・・ローカル光、Pt・・・CW試験信号光、Pr・・・戻り光、Pb・・・ビート信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレント光パルスを光通信システムの光ファイバ線路に出射し、該光ファイバ線路からの戻り光を光ヘテロダイン検波して前記光ファイバ線路の特性評価を行うコヒーレントOTDR装置において、
プローブ光(Pp)を出射するプローブ光源(2)と、
該プローブ光とは光周波数が異なるダミー光(Pd)を出射するダミー光源(3)と、
該プローブ光源から出射されたプローブ光を2つの光路に分波する光分波器(4)と、
該光分波器で分岐された一方のプローブ光、及び前記ダミー光源から出射されたダミー光を、それぞれパルスに変換するとともに、これらのパルスを交互に前記光ファイバ線路に出射するCW試験信号光(Pt)を形成するCW信号発生部(5、21)と、
前記CW試験信号光のそれぞれのパルスが一定のパワーになるように前記プローブ光源及びダミー光源の出力を制御する出力制御部(8)と、
該光分波器で分波された他方のプローブ光を周波数シフト(Δf)してローカル光(Pl)を出射する光周波数シフタ(9)と、
該ローカル光と前記光ファイバ線路からの戻り光(Pr)を合波する第1の光合波器(10)と、
該第1の光合波器により合波された合波光を受光して戻り光とローカル光とでヘテロダイン検波を行うヘテロダイン検波部(11)とから構成されることを特徴とするコヒーレントOTDR装置。
【請求項2】
前記光周波数シフタは、音響光学変調器(AOM)であることを特徴とする請求項1に記載のコヒーレントOTDR装置。
【請求項3】
前記CW信号発生部は、前記光分岐器で分岐された一方のプローブ光を入射する第1の入力ポート(6a)と前記ダミー光源から出射されたダミー光を入射する第2の入力ポート(6b)とを有し、該入射されたプローブ光とダミー光の光路を交互に切り替えることによって前記CW試験信号光を合成して一の出力ポート(6c)から出射する光スイッチ(6)と、
前記特性評価の評価条件に応じてプローブ光とダミー光の切り替えのタイミングを光スイッチに指示する切替制御部(7)とから構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコヒーレントOTDR装置。
【請求項4】
前記CW信号発生部は、前記光分波器で分岐された一方のプローブ光の通過を制御する第1の光ゲート(22)と、
前記ダミー光源から出射されたダミー光の通過を制御する第2の光ゲート(23)と、
前記特性評価の評価条件に応じて、該プローブ光とダミー光が交互に出射されるように第1及び第2のゲートのゲートタイミングを制御する切替制御部(24)と、
第1及び第2のゲートから出射されたプローブ光及びダミー光を重畳して前記CW試験信号光を合成して出射する第2の光合波器(25)とから構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコヒーレントOTDR装置。
【請求項5】
前記第1の光ゲート及び第2の光ゲートは半導体光増幅素子から構成されることを特徴とする請求項4に記載のコヒーレントOTDR装置。
【請求項6】
前記プローブ光源は波長可変光源(102)であって、前記光ファイバ線路で運用中の通信信号光の光周波数とは異なる光周波数の前記プローブ光を出射することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載のコヒーレントOTDR装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−257973(P2009−257973A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108352(P2008−108352)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】