説明

コラーゲンゲルおよびその製造方法

【課題】本発明は、ゲル状態において高い引張強度および高い弾力性を併せ持つコラーゲン材、およびその製造方法等を提供することを目的とする。
【解決手段】三次元網目構造を形成している架橋コラーゲン線維を含有するコラーゲン材であって、
ゲル状態において、25℃、および1rad/sの条件下の動的粘弾性測定により測定したときの、貯蔵弾性率が2,000Pa以上であり、かつ損失弾性率が100Pa以上である
コラーゲン材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲンゲルおよびその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
動物組織に存在するI型コラーゲン等のコラーゲンは、分子の自己集合による線維(繊維と表記される場合もある。)形成能を持つタンパク質である。産業的に、動物組織から可溶化および抽出された可溶化コラーゲンが製造され、様々な分野で利用されている。しばしば利用される酵素可溶化I型コラーゲンは、酸性pH域(pH2〜3)では水に溶解して、透明で粘稠なコラーゲン含有水溶液を与える。この溶液のpHを中性域(pH6〜8)に調整すると、コラーゲンが線維化して白色半透明のコラーゲンゲルが形成される。
ところで、組織工学に基づく再生医療では、細胞、増殖因子、および足場材料(scaffold)が重要な要素である。
コラーゲンゲルは、ヒトを含む各種動物の細胞の接着性に優れ、生体吸収性と生体適合性が高く、かつ、免疫原性は比較的低いので、ゲルのまま、もしくは多孔質体(スポンジ)に加工して、足場材料として広く用いられている。足場材料としてのコラーゲンゲルの欠点は、機械的強度、伸展性、弾力性、および引張強度などが不十分であることなどである。この欠点のため、コラーゲンゲルは注意深く取り扱う必要があり、また、人工血管のように、高い引張強度および高い弾力性が必要とされる用途に用いることはできない。それ故、その用途は限定されている。前記の力学的特性の改良を目的として、化学的方法や物理的方法による架橋が行われており、例えば、特許文献1では、架橋剤によって架橋されたコラーゲン線維からなるコラーゲンを熱処理することにより、優れた伸縮性および機械強度をあわせ持つコラーゲン成形体を得ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−334625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、高い引張強度および高い弾力性を併せ持つコラーゲンゲルの調製は、まだ成功していない。したがって、本発明は、ゲル状態において高い引張強度および高い弾力性を併せ持つコラーゲン材、およびその製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、コラーゲンゲルから水を取り除いてコラーゲンスポンジにし、これにコラーゲン含有水溶液を浸潤させ、前記コラーゲンスポンジに浸潤したコラーゲン含有水溶液中のコラーゲンを線維化(ゲル化)し、および架橋することにより、かさ密度が高く、高い引張強度および高い弾力性を併せ持つコラーゲンゲルを調製できることを見出し、更なる研究の結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の項に記載の態様の発明を提供する。
[項1]
三次元網目構造を形成している架橋コラーゲン線維を含有するコラーゲン材であって、
ゲル状態において、25℃、および1rad/sの条件下の動的粘弾性測定により測定したときの、貯蔵弾性率が2,000Pa以上であり、かつ損失弾性率が100Pa以上である
コラーゲン材。
[項2]
前記貯蔵弾性率が2,000〜50,000Paの範囲内であり、かつ前記損失弾性率が100〜4,000Paの範囲内である
前記項1に記載のコラーゲン材。
[項3]
前記貯蔵弾性率が10,000〜50,000Paの範囲内であり、かつ前記損失弾性率が500〜4,000Paの範囲内である
前記項2に記載のコラーゲン材。
[項4]
かさ密度が0.12〜0.20g/mlの範囲内である
前記項1〜3のいずれかに記載のコラーゲン材。
[項5]
更に水を含有し、コラーゲンゲルである前記項1〜4に記載のコラーゲン材。
[項6]
コラーゲンスポンジである前記項1〜4に記載のコラーゲン材。
[項7]
以下の工程:
工程1)三次元網目構造を形成している架橋コラーゲン線維、および水を含有するコラーゲンゲルを用意すること、
工程2)前記コラーゲンゲルから水を取り除いてコラーゲンスポンジにすること、
工程3)前記コラーゲンスポンジに、コラーゲン含有水溶液を浸潤させ、および当該コラーゲン含有水溶液中のコラーゲンを線維化すること、および
工程4)前記線維化したコラーゲンを架橋すること
を含み、
工程2)〜4)を含むセットは1回以上実施される
コラーゲン材の製造方法。
[項8]
前記工程1)のコラーゲンゲルが、ゲル化後に加熱処理されている前記項7に記載の製造方法。
[項9]
前記工程4)の架橋が、架橋剤を用いて実施される前記項7または8に記載の製造方法。
[項10]
前記項7〜9のいずれかに記載の製造方法によって製造されるコラーゲン材。
[項11]
前記項1〜6、または10に記載のコラーゲン材、および
前記コラーゲン材の少なくとも一部の表面の上に配置された生体細胞
を含む人工組織。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコラーゲン材は、水を含有して、ゲルの状態にあるとき、すなわち、コラーゲンゲルであるときに、高い引張強度および高い弾力性を併せ持つ。従って、本発明のコラーゲン材は、ゲル状態での取り扱いが容易であり、組織工学の足場材料として好適に使用される。更に、また人工血管、人工心臓弁、人工靭帯、人工腱、人工骨、人口軟骨、のように、高い引張強度および高い弾力性を必要とする用途にも使用することができる。
従って、本発明のコラーゲン材を用いれば、人工組織を容易に製造することができる。こうして得られる本発明の人工組織もまた高い引張強度および高い弾力性を併せ持つので、再生医療において取り扱いが容易である。
また、本発明のコラーゲン材の製造方法によれば、高い引張強度および高い弾力性を併せ持つコラーゲンゲルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】架橋コラーゲン線維の三次元網目構造を示す写真(参考例3)
【図2】架橋コラーゲン線維の三次元網目構造を示す写真(参考例4)
【図3】架橋コラーゲン線維の三次元網目構造を示す写真(実施例5)
【図4】架橋コラーゲン線維の三次元網目構造を示す写真(実施例6)
【図5】架橋コラーゲン線維の三次元網目構造を示す写真(実施例7)
【図6】架橋コラーゲン線維の三次元網目構造を示す写真(実施例8)
【図7】架橋コラーゲン線維の三次元網目構造を示す写真(実施例9)
【図8】架橋コラーゲン線維の三次元網目構造を示す写真(実施例10)
【図9】架橋コラーゲン線維の三次元網目構造を示す写真(実施例11)
【図10】架橋コラーゲン線維の三次元網目構造を示す写真(実施例12)
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.コラーゲン材
本発明のコラーゲン材は、三次元網目構造を形成している架橋コラーゲン線維を含有する。
本明細書中、当該“三次元網目構造を形成している架橋コラーゲン線維”を、単に“架橋コラーゲン線維”と称する場合がある。
【0010】
架橋コラーゲン線維は、本発明のコラーゲン材の骨組みを構成する。
この線維、および三次元網目構造は、コラーゲン線維が太く、かつ孔が大きい場合は、走査型電子顕微鏡によって、例えば、倍率5000倍で、容易に観察することができる。コラーゲン線維が極めて密である場合、三次元網目構造は観察しにくくなる傾向があるが、例えば、試料の表面観察の為の前処理である金属被覆の条件を変更したり、試料を薄片、または小片にすることにより、もしくは、より高い分解能を持つ透過型電子顕微鏡(TEM: transmission electronmicroscope)や原子間力顕微鏡(AFM: atomic force microscope)などを用いることで、三次元網目構造の観察を改善しうる。
【0011】
本発明で用いられる、架橋コラーゲン線維におけるコラーゲンの型は、線維形成能を有するものであれば特に限定されないが、好ましくは、例えば、I型コラーゲン、II型コラーゲン、およびIII型コラーゲンが挙げられる。なかでも、入手の容易性の観点からは、I型コラーゲンがより好ましい。本発明で用いられるコラーゲンは、1つの型のコラーゲンであってもよく、2以上の型のコラーゲンの混合物であってもよい。
本発明で用いられるコラーゲンは、好ましくは、可溶化コラーゲンである。可溶化コラーゲンとしては、例えば、酸可溶化コラーゲン、アルカリ可溶化コラーゲン、中性塩可溶化コラーゲン、および酵素可溶化コラーゲンが挙げられる。なかでも、好ましくは、例えば、酸可溶化コラーゲン、および酵素可溶化コラーゲンが挙げられ、より好ましくは、例えば、酵素可溶化コラーゲンが挙げられる。
本発明で用いられるコラーゲンとしては、抗原性の低さ、および水溶性の高さの観点から、酵素処理されたコラーゲンであるアテロコラーゲンが好ましい。
本発明で用いられるコラーゲンは、任意の動物に由来し得る。このような動物としては、ウマ、ウシ、ブタ、およびヒト等の哺乳動物;ならびに魚が挙げられる。本発明で用いられるコラーゲンとしては、熱変性温度の高さの観点から、哺乳動物に由来するコラーゲンが好ましい。なかでも、入手の容易性の観点から、ブタに由来するコラーゲンなどが好ましい。
【0012】
本発明で用いられる架橋コラーゲン線維において、コラーゲンは架橋されている。この架橋の構造は、後記で説明する架橋方法に応じて定まる。後記で説明するように、本発明のコラーゲン材は、合計2回以上の架橋の工程を含む方法により製造することができ、各架橋では、同一または異なる架橋方法を採用してもよい。従って、架橋の構造もまた、1種類または2種類以上であり得る。
コラーゲン線維中のコラーゲン分子の全てが架橋されている必要は無いが、架橋されているコラーゲン分子の割合、および架橋度が高いほど、引張強度および弾力性がより高くなり得る。
【0013】
前記架橋は、物理的架橋方法、または化学的架橋方法などの架橋方法によって形成され得る。
前記物理的架橋方法としては、例えば、紫外線架橋法、γ線架橋法、および脱水熱架橋法等が挙げられる。
前記化学的架橋方法は、例えば、架橋剤を用いる架橋方法である。
架橋方法としては、架橋剤を用いる架橋方法が好ましい。
当該架橋剤としては、例えば、アルデヒド系架橋剤(例、グルタルアルデヒド)、エポキシ系架橋剤(例、ポリ(エチレングリコールジグリシジルエーテル(PGDE)、カルボジイミド系架橋剤(例、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC))、およびイソシアネート系架橋剤(例、ヘキサメチレンジイソシアネート)等が挙げられる。なかでも、安全性の高さ、および着色の少なさの観点から、EDCが好ましい。
【0014】
本発明のコラーゲン材は、本発明の効果が得られる限り、架橋コラーゲン線維以外の成分を含有してもよい。
【0015】
本発明のコラーゲン材は、分散媒として水を含有するときにゲル状態になる。本発明のコラーゲン材は、このゲル状態において、25℃、および1rad/sの条件下の動的粘弾性測定により測定したときの、貯蔵弾性率が2,000Pa以上であり、かつ損失弾性率が100Pa以上である。
これにより、本発明のコラーゲン材は、ゲル状態において、高い引張強度および高い弾力性を併せ持つ。
この観点からは、前記貯蔵弾性率が2,000〜50,000Paの範囲内であり、かつ前記損失弾性率が100〜4,000Paの範囲内であることが好ましく、前記貯蔵弾性率が10,000〜50,000Paの範囲内であり、かつ前記損失弾性率が500〜4,000Paの範囲内であることがより好ましい。
【0016】
動的粘弾性測定は、市販の動的粘弾性測定装置を用いて行えばよい。この測定値は、しばしば円盤の角速度(回転の周波数)にも依存する。これは、角速度が速いと、ゲルの変形が円盤の回転に追随できなくなるである。このため、温度を一定にし、周波数を変動させて測定を行い、周波数による数値変動が少ない周波数での数値を採用する。具体的には、25℃で、周波数0.1〜100rad/sの範囲で測定を行い、1rad/sでの損失弾性率および貯蔵弾性率を求める。
【0017】
本発明のコラーゲン材は、好ましくは、かさ密度が0.12〜0.20g/mlの範囲内である。
これにより、本発明のコラーゲン材は、高い引張強度および高い弾力性を併せ持つ。
前述の損失弾性率および貯蔵弾性率は、かさ密度のみで決まるものではないが、かさ密度は、損失弾性率および貯蔵弾性率に密接に関係すると考えられる。
かさ密度は、乾燥した本発明のコラーゲン材の試料の重量および体積を測定し、後記の数式で算出することによって得られる。体積はコラーゲン材の試料の外寸を測定することによって算出することができる。重量および体積の測定に供するコラーゲン材の試料は、過剰量の蒸留水で12時間膨潤させ、水を取り除くことを4回繰り返した後、凍結乾燥にすることによって調製する。これによって、コラーゲン材が含有する可能性がある無機塩等が除去される。
【0018】
(数式)
かさ密度(g/ml)=重量(g)/体積(ml)
【0019】
本発明のコラーゲン材は、その目的に応じて、シート、巻回体(ロール)、および積層体などの任意の形状であることができる。
【0020】
2.コラーゲンゲル
本発明のコラーゲン材は、コラーゲンゲルであることができる。
当該コラーゲンゲルは、三次元網目構造を形成している架橋コラーゲン線維に加えて、水を含有する。前述の架橋コラーゲン線維以外の成分は、この水に溶解または分散していてもよい。
本発明のコラーゲンゲルにおける水の含有量は、通常、12%(w/w)〜20%(w/w)の範囲内である。当該水は、本発明のコラーゲンゲルの分散媒であり、通常、本発明のコラーゲンゲルからコラーゲンを除いた残りの大部分(例、90%(w/w)以上、95%(w/w)以上、98%(w/w)以上、99%(w/w)以上)または全部を占める。すなわち、本発明のコラーゲンゲルは、ハイドロゲルである。
【0021】
当業者が容易に理解できるように、当該コラーゲンゲルは、前記「1.コラーゲン材」で説明したゲル状態のコラーゲン材と同じである。
【0022】
3.コラーゲンスポンジ
本発明のコラーゲン材は、コラーゲンスポンジであることができる。
当該コラーゲンスポンジは、ゲルとは異なり、分散媒である水が実質的に存在しないか、極めて少なく、このため、三次元網目構造内に空隙が存在する形態を有する。すなわちコラーゲンスポンジはキセロゲルであり、多孔質体である。
本発明のコラーゲン材は、力学的強度に優れ、取り扱いが容易である。
当該コラーゲンスポンジは、本発明のコラーゲンゲルから凍結乾燥等の方法により水を取り除くことによって得られ、また、前記の空隙(または、孔)に水性液(例、水)を浸潤させることによって、再び、本発明のコラーゲンゲルになる。
【0023】
4.コラーゲンゲルの製造方法
本発明のコラーゲンゲルは、例えば、
以下の工程:
工程1)三次元網目構造を形成している架橋コラーゲン線維、および水を含有するコラーゲンゲルを用意すること、
工程2)前記コラーゲンゲルから水を取り除いてコラーゲンスポンジにすること、
工程3)前記コラーゲンスポンジに、コラーゲン含有水溶液を浸潤させ、および当該コラーゲン含有水溶液中のコラーゲンを線維化すること、および
工程4)前記線維化したコラーゲンを架橋すること
を含み、
工程2)〜4)を含むセットは1回以上実施される
製造方法によって製造することができる。
【0024】
当該製造方法は、所望により、更なる工程を含んでもよい。
このような工程としては、例えば、
工程1)の後の加熱(工程1’))、
工程1)の後の洗浄(工程1’’))、および
工程2)〜4)を含むセットの後の加熱(工程5))
が挙げられる。
【0025】
4.1.工程1)
工程1)のコラーゲンゲルは、コラーゲン含有水溶液をゲル化し、かつ当該水溶液中のコラーゲンを架橋することによって得られる。
【0026】
具体的には、例えば、
(a)コラーゲン含有水溶液をゲル化すると同時に架橋剤によりコラーゲンを架橋する方法、
(b)コラーゲン含有水溶液をゲル化した後に、架橋剤によりコラーゲンを架橋する方法、
(c)コラーゲン含有水溶液にγ線を照射することにより、ゲル化および架橋を同時に行う方法、または
(d)コラーゲン含有水溶液をゲル化した後にγ線照射によりコラーゲンを架橋する方法など
の方法によって工程1)のコラーゲンゲルを調製することができる。
なかでも、後記で説明する加熱処理と組み合わせることによって、特に、高い引張強度および高い弾力性を有するコラーゲンゲルが得られることから、(b)の方法でコラーゲンゲルを調製することが好ましい。
以下、主にこの(b)の方法に沿って、工程1)のコラーゲンゲルの調製方法を更に詳細に説明する。
【0027】
コラーゲンゲルを調製する操作は、特に記載の無い限り、コラーゲンの変性温度を大きく超えない温度で実施される。
【0028】
コラーゲン含有水溶液は、前記のような可溶化コラーゲンが水性溶液中に溶解している溶液である。コラーゲン含有水溶液としては、後記で工程3)について説明するコラーゲン含有水溶液と同様のコラーゲン含有水溶液を用いればよい。
【0029】
コラーゲンをゲル化する方法、すなわち、コラーゲン含有水溶液中のコラーゲンを線維化する方法としては、可溶化コラーゲンの種類に応じて公知の方法を選択すればよい。例えば、ペプシン可溶化I型コラーゲンの場合、コラーゲン含有水溶液のpHを中性域(pH6〜8)に調整すればよい。pHの調整は、例えば、コラーゲン含有水溶液に、濃PBS(リン酸緩衝生理食塩水)液(例えば、10倍希釈時にpHが6〜8になるように調製したPBS液)を添加および混合することによって実施することができる。
【0030】
コラーゲンスポンジ溶液が浸み込んだスポンジを静置し、ゲル化を進行させる。
このゲル化の温度は、通常、室温からコラーゲン変性温度までの範囲内の温度であり、好ましくは、約20℃〜37℃である。
なお、本明細書中、特に記載の無い限り、室温とは、約10℃〜約30℃の範囲内の温度を意味する。
このゲル化の時間は、通常約1〜約18時間である。
【0031】
コラーゲン含有水溶液をゲル化した後に、架橋剤によりコラーゲンを架橋するには、コラーゲン含有水溶液をゲル化して得たコラーゲンゲルを、架橋剤を含有す水溶液に浸漬すればよい。浸漬時間は、通常、通常約8〜約18時間である。
【0032】
コラーゲンの架橋に用いられる架橋剤としては、例えば、アルデヒド系架橋剤(例、グルタルアルデヒド)、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤(例、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC))、およびイソシアネート系架橋剤等が挙げられる。なかでも、安全性の高さ、および着色の少なさの観点から、EDCが好ましい。
【0033】
当該架橋剤は、得られるコラーゲンゲルの引張強度の高さ、および弾力性の高さの観点から、形成後のコラーゲンゲルにおける終濃度が約20mM〜約200mMの範囲内になる量で用いることが好ましく、約40mM〜約150mMの範囲内になる量で用いることがより好ましい。
【0034】
一方、(a)の方法のように、コラーゲン含有水溶液をゲル化すると同時に架橋するには、コラーゲン含有水溶液に、架橋剤を含有する濃PBS液(例えば、10倍希釈時にpHが6〜8になるように調製したPBS液)を添加および混合すればよい。
【0035】
4.2.工程1’)
工程1)の後、かつ工程2)の前に、所望により、工程1)で用意したコラーゲンゲルを加熱処理してもよい。
当該加熱処理によって、ゲルが収縮し、高い引張強度および高い弾力性を有するコラーゲンゲルが得られる。上述のように、前記の(b)の方法で調製したコラーゲンゲルにおいて、この効果が特に高い。
加熱処理は、例えば、コラーゲンゲルを蒸留水等に浸漬した状態で行うことができる。
当該加熱処理の温度は、好ましくは約60℃〜約90℃の範囲内であり、より好ましくは約70℃〜約90℃の範囲内である。
当該加熱処理の時間は、通常、約20分間〜約60分間の範囲内(例、約30分間)である。
【0036】
4.3.工程1’’)
工程1の後(または、所望による工程1’)の後)、かつ工程2の前に、不要な物質(例、PBS中の塩類、および架橋試薬)を取り除くために、コラーゲンゲルを洗浄してもよい。洗浄は、例えば、コラーゲンゲルを蒸留水に約6時間〜約18時間浸漬し、不要な物質が溶解している水を取り除くことで実施できる。この洗浄は2回以上繰り返してもよい。
【0037】
4.4.工程2)
工程2)では、工程1)で用意したコラーゲンゲルから水を取り除いて、コラーゲンスポンジを得る。
コラーゲンゲルから水を取り除くには、例えば、コラーゲンゲルを凍結乾燥すればよい。
凍結乾燥は、市販の装置を用いて実施することができる。凍結乾燥の条件は、コラーゲンゲルの容積、および形状等に応じて、適宜決定すればよい。
【0038】
4.5.工程3)
工程3)では、工程2)で得られたコラーゲンスポンジに、コラーゲン含有水溶液を浸潤させ、および当該コラーゲン含有水溶液中のコラーゲンを線維化する。
ここで、コラーゲン含有水溶液のコラーゲンが線維化してゲル化するとともに、コラーゲンスポンジもまた、コラーゲン含有水溶液の溶媒である水によって膨潤し、多孔質ゲル状態になる。すなわち、凍結乾燥時に多孔質体となった三次元網目構造の空隙に線維化が進行中のコラーゲン含有水溶液を保持するコラーゲンスポンジが、全体的に階層性を持つゲルになる。
【0039】
コラーゲン含有水溶液は、公知の方法で調製することができる。
可溶化コラーゲンを水性溶液中に溶解させる条件は、可溶化コラーゲンの種類に応じて選択すればよい。例えば、ペプシン可溶化I型コラーゲンの場合、酸性条件下(pH2〜3)で水に溶解する。
当該コラーゲン含有水溶液のコラーゲン濃度は、約0.1〜約3.0%(w/v)の範囲であることが好ましい。この濃度が低すぎると、得られるゲルの力学的強度が小さすぎる場合がある。一方、この濃度が高すぎると、当該水溶液の粘度が高すぎて、ゲルの製造が困難になる場合がある。
このようなコラーゲン含有水溶液は、商業的にも入手可能である(例、商品名 コラーゲンBM、新田ゼラチン社)。
コラーゲン含有水溶液は、コラーゲンスポンジに浸潤されるまで、低温で冷却(例、氷冷)しておくことが好ましい。
【0040】
コラーゲンスポンジへのコラーゲン含有水溶液の浸潤は、コラーゲンスポンジを濃PBS液(例えば、10倍希釈時にpHが6〜8になるように調製したPBS液)などで中和した直後のコラーゲン含有水溶液に浸漬することによって行うことができる。これにより、コラーゲン含有水溶液は、コラーゲンスポンジの三次元網目構造の空隙(すなわち、多孔)中に浸潤する。
【0041】
ここで、既にコラーゲン含有水溶液は中和されているので、当該コラーゲン含有水溶液中のコラーゲンの線維化(ゲル化)は既に始まっている。
コラーゲン含有水溶液が浸み込んだスポンジを静置し、この線維化を進行させる。
この線維化の温度は、通常、室温からコラーゲン変性温度までの範囲内の温度であり、好ましくは、約37℃である。
この線維化の時間は、通常約12〜約18時間である。
【0042】
4.6.工程4)
工程4)では、工程3)で線維化したコラーゲンを架橋する。
当該架橋は、物理的架橋方法、または化学的架橋方法などの架橋方法によって形成することができる。
【0043】
前記物理的架橋方法としては、例えば、紫外線架橋法、γ線架橋法、および脱水熱架橋法等が挙げられる。
前記化学的架橋方法は、例えば、架橋剤を用いる架橋方法である。
当該コラーゲンゲルの製造方法は、合計2回以上の架橋の工程を含む場合がある。各架橋では、同一または異なる架橋方法を採用してもよい。
【0044】
架橋方法としては、架橋剤を用いる架橋方法が好ましい。
当該架橋剤としては、例えば、アルデヒド系架橋剤(例、グルタルアルデヒド)、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤(例、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC))、およびイソシアネート系架橋剤等が挙げられる。なかでも、安全性の高さ、および着色の少なさの観点から、EDCが好ましい。
【0045】
架橋剤を用いてコラーゲン含有水溶液中のコラーゲンを架橋するには、コラーゲン含有水溶液をゲル化して得たコラーゲンゲルを、架橋剤を含有する溶液に浸漬すればよい。
当該架橋剤は、得られるコラーゲンゲルの引張強度の高さ、および弾力性の高さの観点から、形成後のコラーゲンゲルにおける終濃度が約20mM〜約200mMの範囲内になる量で用いることが好ましく、約40mM〜約150mMの範囲内になる量で用いることがより好ましい。
浸漬時間は、通常、通常約12〜約18時間である。
【0046】
4.7.工程2)〜4)のセットの繰り返し
工程2)〜4)を含むセット(以下、架橋サイクルと称する場合がある。)は1回以上実施される。
これにより、その実施前のコラーゲンゲルに比べて、より高い線維密度、より高い引張強度、およびより高い弾力性を有するコラーゲンゲルが得られる。
この繰り返し数が多いほど、よりかさ密度が高く、より高い引張強度およびより高い弾力性を有するコラーゲンゲルが得られる。
しかし、架橋サイクルの数が3回以上になると、かさ密度、引張強度および弾力性はほとんど向上しないので、生産効率の高さの観点からは、架橋サイクルの数は、1〜2回が好ましい。
また、架橋サイクルが多いほど、一方、三次元網目構造の階層性が高くなり、かつ線維間の孔が小さくなるので、例えば、細胞の培養担体(足場材料)としての使用における、孔への細胞の入りやすさの観点からは、架橋サイクルの数が多すぎないことが好ましく、具体的には例えば、1回が好ましい。
【0047】
4.8.工程5)
架橋サイクルの後、所望により、得られたコラーゲンゲルを加熱処理してもよい。
加熱処理は、例えば、コラーゲンゲルを蒸留水等に浸漬した状態で行うことができる。
当該加熱処理の温度は、好ましくは約60℃〜約90℃の範囲内であり、より好ましくは約70℃〜約90℃の範囲内である。
当該加熱処理の時間は、通常、約20分間〜約60分間の範囲内(例、約30分間)である。
【0048】
このようにして得られたコラーゲンゲルは、所望により、不要な物質(例、PBS中の塩類、および架橋試薬)を取り除くために、洗浄してもよい。洗浄は、例えば、コラーゲンゲルを蒸留水に約6時間〜約18時間浸漬して水中に不要な物質を溶出させ、その後、水を取り除くことによって実施できる。この洗浄は2回以上繰り返してもよい。
【0049】
本発明のコラーゲンゲルは、高い引張強度および高い弾力性を有するので、加工が容易であり、その目的に応じて、シート、巻回体(ロール)、および積層体などの任意の形状に加工することができる。
【0050】
5.コラーゲンスポンジの製造方法
本発明のコラーゲンスポンジは、上述のように、本発明のコラーゲンゲルから凍結乾燥等の方法により水を取り除くことによって得られる。
コラーゲンゲルから水を取り除くには、例えば、コラーゲンゲルを凍結乾燥すればよい。
凍結乾燥は、市販の装置を用いて実施することができる。凍結乾燥の条件は、コラーゲンゲルの容積、および形状等に応じて、適宜決定すればよい。
本発明のコラーゲンスポンジは、力学的強度が高いので、それ自体を切断等により加工して、容易に、その目的に応じた任意の形状にすることができる。また、コラーゲンゲルの状態で前記のように加工してから、凍結乾燥等により水を取り除いて、所望する形状のコラーゲンスポンジを得てもよい。
【0051】
6.適用
本発明のコラーゲン材は、通常のコラーゲンゲル、またはコラーゲンスポンジと同様に使用することができるが、本発明のコラーゲン材はゲル状態において、高い引張強度および高い弾力性を併せ持ち、また、コラーゲンスポンジであるときも力学的強度が高いので、人工皮膚などとしての用途に加えて、人工血管のように、高い引張強度および高い弾力性を必要とする用途にも使用することができる。本発明のコラーゲン材を人工血管の用途に用いるには、例えば、チューブ状に形成した本発明のコラーゲン材の内面の表面を内皮細胞で被覆する。
このように、本発明のコラーゲン材と、当該コラーゲン材の少なくとも一部の表面の上に配置された生体細胞を含む人工組織もまた、本発明の一態様である。このような人工組織は、公知の方法により、本発明のコラーゲン材の表面上に細胞を播布し、培養することによって調製することができる。この場合、コラーゲン材は、細胞増殖の足場、または細胞外マトリクスとして機能する。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明を、参考例、実施例、および試験例によってより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
以下の参考例、実施例、および試験例における略号の意味を以下に記載する。
EDC:1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
【0054】
以下の参考例、実施例、および実施例においては、特に記載の無い限り、次の試薬および器具を使用した。
コラーゲン:0.6%(w/v)、pH3.0、ブタI型コラーゲン溶液(コラーゲンBM、新田ゼラチン(Nitta Gelatin)社)
PBS:8g/l NaCl、0.2g/l KCl、0.2g/l KHPO(無水)、1.15g/l NaPO(無水)を含む10倍濃度の原液(濃PBS液)を作製し、蒸留水にて適宜希釈して生理的条件のpH7.4として実験に用いた。
円盤回転振動型動的粘弾性装置:Physica MCR301、Anton Paar社
凍結乾燥器:FD−1、Eyela社
イオンコーター:IB−3、エイコーエンジニアリング(EIKO Engineering)社
走査型電子顕微鏡:SM−300、Topcon社
【0055】
以下の参考例、実施例、および試験例で共通して実施した操作を以下に説明する。
【0056】
(コラーゲンゲルの加熱処理)
コラーゲンゲルを外径40mm×高さ80mmのガラス製バイアル瓶に入れて蒸留水に浸る状態とし、80℃で30分間加熱処理した。ただし、加熱処理するとゲルが収縮して動的粘弾性測定が困難になるので、動的粘弾性測定用には、下記で説明する量の4倍量を用いて、6−ウェル・プレート(353846、Falcon社)中で、コラーゲンゲルを調製し、100mlのガラス製ビーカー中で加熱処理した。
【0057】
[コラーゲンゲルの調製(参考例1)]
[0.3%(w/v)のI型コラーゲンを含有するPBS(2ml)を調製し、24−ウェル・プレート内で、37℃で一晩放置して十分にゲル化させた後、ウェルから取り出した。この未架橋ゲルを50mMのEDCを含有するPBS(10ml)中に一晩浸漬させて、EDC架橋されたコラーゲンゲルを調製した。
【0058】
[コラーゲンゲルの調製(参考例2)]
参考例1と同じ方法で調製したコラーゲンゲルを、上述の方法で加熱処理して、参考例2のコラーゲンゲルを調製した。
【0059】
[コラーゲンゲルの調製(参考例3)]
50mMのEDCを含有するPBS(10ml)に換えて、125mMのEDCを含有するPBS(10ml)を用いたこと以外は、参考例1と同じ方法で、参考例3のコラーゲンゲルを調製した。
【0060】
[コラーゲンゲルの調製(参考例4)]
参考例3と同じ方法で調製したコラーゲンゲルを、上述の方法で加熱処理して、参考例4のコラーゲンゲルを調製した。
【0061】
[コラーゲンゲルの製造(実施例1)]
参考例1と同じ方法で調製したコラーゲンゲル(EDC濃度:50mM)を、蒸留水によって洗浄し、凍結乾燥器で凍結乾燥してスポンジ(多孔質体)にし、その後、再度PBSにより中和した直後の氷冷コラーゲン水溶液中に入れて、4℃において当該溶液をスポンジの孔に十分に浸み込ませた。コラーゲン水溶液が浸み込んだスポンジを37℃で約15時間保温して、ゲル化させた。得られたコラーゲンゲルを、50mMのEDCを含有するPBS中に一晩浸漬して、コラーゲンを架橋した。前記の蒸留水による洗浄から架橋までのセット(以下、このセットを架橋サイクルと称する場合がある。)を更にもう1回繰り返すことで、ゲル形成とそれに続くEDC架橋を合計3回(架橋サイクルを2回)行ったコラーゲンゲルを調製した。
【0062】
[コラーゲンゲルの製造(実施例2)]
架橋サイクルの繰り返しの後で、上述の方法でコラーゲンゲルを加熱処理したこと以外は、実施例1と同じ方法で、実施例2のコラーゲンゲルを調製した。
【0063】
[コラーゲンゲルの製造(実施例3)]
参考例1と同じ方法で調製したコラーゲンゲル(EDC濃度:50mM)に換えて、参考例3と同じ方法で調製したコラーゲンゲル(EDC濃度:125mM)を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で、実施例3のコラーゲンゲルを調製した。
【0064】
[コラーゲンゲルの製造(実施例4)]
架橋サイクルの繰り返しの後で、上述の方法でコラーゲンゲルを加熱処理したこと以外は、実施例3と同じ方法で、実施例4のコラーゲンゲルを調製した。
【0065】
[コラーゲンゲルの製造(実施例5)]
参考例1と同じ方法で調製したコラーゲンゲル(EDC濃度:50mM、非加熱)に換えて、参考例2と同じ方法で調製したコラーゲンゲル(EDC濃度:50mM、加熱処理)を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で、実施例5のコラーゲンゲルを調製した。
【0066】
[コラーゲンゲルの製造(実施例6)]
架橋サイクルの繰り返しの後で、上述の方法でコラーゲンゲルを加熱処理したこと以外は、実施例5と同じ方法で、実施例6のコラーゲンゲルを調製した。
【0067】
[コラーゲンゲルの製造(実施例7)]
参考例1と同じ方法で調製したコラーゲンゲル(EDC濃度:50mM、非加熱)に換えて、参考例4と同じ方法で調製したコラーゲンゲル(EDC濃度:125mM、加熱処理)を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で、実施例7のコラーゲンゲルを調製した。
【0068】
[コラーゲンゲルの製造(実施例8)]
架橋サイクルの繰り返しの後で、上述の方法でコラーゲンゲルを加熱処理したこと以外は、実施例7と同じ方法で、実施例8のコラーゲンゲルを調製した。
【0069】
[コラーゲンゲルの製造(実施例9)]
追加の架橋サイクルを行わないこと以外は、実施例5と同じ方法で、実施例9のコラーゲンゲルを調製した。と称する場合がある。)。すなわち、この実施例のコラーゲンゲルの製造では、ゲル形成とそれに続くEDC架橋を合計2回(架橋サイクルを1回)行っている。
【0070】
[コラーゲンゲルの製造(実施例10)]
架橋サイクルの後で、上述の方法でコラーゲンゲルを加熱処理したこと以外は、実施例9と同じ方法で、実施例10のコラーゲンゲルを調製した。
【0071】
[コラーゲンゲルの製造(実施例11)]
参考例1と同じ方法で調製したコラーゲンゲル(EDC濃度:50mM、非加熱)に換えて、参考例4と同じ方法で調製したコラーゲンゲル(EDC濃度:125mM、加熱処理)を用いたこと以外は、実施例9と同じ方法で、実施例11のコラーゲンゲルを調製した。
【0072】
[コラーゲンゲルの製造(実施例12)]
架橋サイクルの繰り返しの後で、上述の方法でコラーゲンゲルを加熱処理したこと以外は、実施例11と同じ方法で、実施例12のコラーゲンゲルを調製した。
【0073】
[試験例1:コラーゲンゲルの動的粘弾性の測定]
円盤回転振動型の動的粘弾性装置を用いて、コラーゲンゲル試料の動的粘弾性を測定した。動的粘弾性実験データにおいて、貯蔵弾性率(G’)は弾性成分、損失弾性率(G'')は粘性成分を示す。温度25℃で、周波数0.1〜100rad/sの範囲で測定を行った結果、周波数0.1〜10rad/sの範囲では、貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G'')の数値は大きく変動しなかったので、指数でこの範囲の中央である周波数1rad/sでのデータを採用した。各調製条件のゲルを4つずつ測定した(N=4)。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
[試験例2:コラーゲンゲルのかさ密度の測定]
コラーゲンゲル試料を40mlの蒸留水中で48時間膨潤させた。このとき12時間ごとに重量を測定し、水を入れ換えた。この過程で、コラーゲンゲルの調製時に加えたPBS中の塩類、および架橋試薬、ならびに未架橋コラーゲンの一部などは除去されたと推測される。膨潤後のゲルを一晩かけて凍結乾燥し、重量を測定した。乾燥後のコラーゲンゲルの体積を、外寸を測定することによって算出した。これを下記の数式に算入してかさ密度を算出した。結果を表2に示す。
【0076】
(数式)
かさ密度(g/ml)=重量(g)/体積(ml)
【0077】
【表2】

【0078】
[試験例3:走査型電子顕微鏡によるゲルの構造観察]
コラーゲンゲル試料をPBSで洗浄し、2.5%のグルタルアルデヒドを含有するPBSで、4℃で3時間固定した。PBSによって4℃において1時間洗浄後、4℃において30、50、70、80、および90%(v/v)エタノールに、この順で、それぞれ20分間浸漬した。次に、室温において100%(v/v)エタノールに60分間浸漬して脱水後、37℃においてt−ブタノール:エタノール混合液(1:1)に20分間浸漬して溶媒置換を行った。さらに、37℃において100%(v/v)t−ブタノールで20分間×2回浸漬し、完全にt−ブタノールに溶媒置換した後、超低温冷凍庫(−80℃)で凍結させ、凍結乾燥器でt−ブタノールを蒸発させた。そして、イオンコーターで試料表面に白金蒸着を行った後、走査型電子顕微鏡(SEM:scanning electronmicroscoope、倍率5000倍)で試料を観察した。
参考例3〜4、および実施例5〜12で得たコラーゲンゲル試料の、走査型電子顕微鏡(SEM)によるゲルの構造の写真をそれぞれ図1〜10に示す。
図1〜2(参考例3〜4)および図3〜6(実施例5〜8)では、架橋コラーゲン線維の三次元網目構造を容易に観察できるが、三次元網目構造の階層性が高く、線維間の孔が小さい場合(図7〜10(実施例9〜12))は、三次元網目構造の観察が困難になる。
【0079】
試験例1〜3の結果から、以下のことが分かる。
架橋サイクルを実施した場合、実施しなかった場合に比べて、貯蔵弾性率、損失弾性率、およびかさ密度が高い。また、走査型電子顕微鏡(SEM)での観察結果からは、架橋サイクルが2回の場合、1回の場合に比べて、かさ密度が高いと推測される。
また、架橋サイクルの前にコラーゲンゲルの加熱処理を実施した場合、実施しなかった場合に比べて、貯蔵弾性率、および損失弾性率が高い傾向がある。
この両方を実施した場合、貯蔵弾性率、および損失弾性率が更に高い傾向がある。
また、架橋剤の濃度が高い(125mM)場合、濃度が低い(50mM)場合よりも、貯蔵弾性率、および損失弾性率が高い傾向がある。
【0080】
各実施例のコラーゲンゲルは、高い引張強度および高い弾力性を有していた傾向がある。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のコラーゲン材は、組織工学の足場材料、および人工組織などに使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元網目構造を形成している架橋コラーゲン線維を含有するコラーゲン材であって、
ゲル状態において、25℃、および1rad/sの条件下の動的粘弾性測定により測定したときの、貯蔵弾性率が2,000Pa以上であり、かつ損失弾性率が100Pa以上である
コラーゲン材。
【請求項2】
前記貯蔵弾性率が2,000〜50,000Paの範囲内であり、かつ前記損失弾性率が100〜4,000Paの範囲内である
請求項1に記載のコラーゲン材。
【請求項3】
前記貯蔵弾性率が10,000〜50,000Paの範囲内であり、かつ前記損失弾性率が500〜4,000Paの範囲内である
請求項2に記載のコラーゲン材。
【請求項4】
かさ密度が0.12〜0.20g/mlの範囲内である
請求項1〜3のいずれかに記載のコラーゲン材。
【請求項5】
更に水を含有し、コラーゲンゲルである請求項1〜4に記載のコラーゲン材。
【請求項6】
コラーゲンスポンジである請求項1〜4に記載のコラーゲン材。
【請求項7】
以下の工程:
工程1)三次元網目構造を形成している架橋コラーゲン線維、および水を含有するコラーゲンゲルを用意すること、
工程2)前記コラーゲンゲルから水を取り除いてコラーゲンスポンジにすること、
工程3)前記コラーゲンスポンジに、コラーゲン含有水溶液を浸潤させ、および当該コラーゲン含有水溶液中のコラーゲンを線維化すること、および
工程4)前記線維化したコラーゲンを架橋すること
を含み、
工程2)〜4)を含むセットは1回以上実施される
コラーゲン材の製造方法。
【請求項8】
前記工程1)のコラーゲンゲルが、ゲル化後に加熱処理されている請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程4)の架橋が、架橋剤を用いて実施される請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載の製造方法によって製造されるコラーゲン材。
【請求項11】
請求項1〜6、または10に記載のコラーゲン材、および
前記コラーゲン材の少なくとも一部の表面の上に配置された生体細胞
を含む人工組織。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−130386(P2012−130386A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282898(P2010−282898)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】