説明

コラーゲン合成促進剤およびコラーゲン代謝賦活剤

【構成】グリシン、プロリン、アラニンの3種のアミノ酸を含有することを特徴とするコラーゲン合成促進剤,グリシン、プロリン、アラニンの3種のアミノ酸、およびコラーゲン合成促進物質を含有することを特徴とするコラーゲン合成促進剤,コラーゲン合成促進物質がアスコルビン酸またはその誘導体である前記のコラーゲン合成促進剤,グリシン、プロリン、アラニンのモル含有率が3:2:1である前記のコラーゲン合成促進剤,前記のコラーゲン合成促進剤とコラゲナーゼ産生促進剤を含有することを特徴とするコラーゲン代謝賦活剤。
【効果】線維芽細胞に作用して、アスコルビン酸誘導体等のコラーゲン合成促進物質のコラーゲン蛋白合成能を高めることができる。また、本発明のコラーゲン代謝賦活剤は、コラーゲンの合成と分解の両方を促進することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は医薬,化粧品等に適用可能であり、また生化学の実験用試薬としても有用なコラーゲン合成促進剤およびコラーゲン代謝賦活剤に関する。
【0002】
【従来の技術】通常の蛋白質の代謝回転(新陳代謝)に比べ、コラーゲンの代謝回転速度は非常に遅く、生理的条件に於いても、老化に伴ってコラーゲンの代謝回転速度がさらに低下していくことが知られている。コラーゲンの代謝回転速度はコラーゲンの分解速度と合成速度により決まるが、この様な老化に伴う代謝回転速度の低下はコラーゲンの架橋構造(老化架橋)の増加につながり、例えば、皮膚の硬化やしわの形成に関わっている。難分解・難抽出性の固いコラーゲンが増加することにより、細胞の足場として増殖・分化・移動に関与するコラーゲンの機能が損なわれ、細胞活性の低下を来し、さらにコラーゲンの代謝回転速度が低下するという悪循環に陥ると考えられている(現代化学、12月号、36頁、1990年参照)。
【0003】この様な老化に伴うコラーゲン代謝回転速度の低下を食い止めるためには、コラーゲン代謝の鍵となる酵素コラゲナーゼの活性を賦活し分解を促すとともに、コラーゲンの合成速度を高めてやることにより、新しいコラーゲンを供給する必要がある。
【0004】細胞のコラーゲン合成能を賦活するものとして、アスコルビン酸誘導体,エストラジオール,テストステロン等が知られている。これらはコラーゲン遺伝子を刺激するあるいは、蛋白合成後の律速過程を解除することによりコラーゲンの合成速度を上昇させるものである。
【0005】しかし、前記のコラーゲン合成促進剤を用いても、実際には、コラーゲン合成量は不十分であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】従って本発明の目的とするところは、コラーゲン蛋白の合成を円滑に促すコラーゲン合成促進剤を提供するにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上述の目的は、グリシン、プロリン、アラニンの3種のアミノ酸を含有することを特徴とするコラーゲン合成促進剤,グリシン、プロリン、アラニンの3種のアミノ酸、およびコラーゲン合成促進物質を含有することを特徴とするコラーゲン合成促進剤,コラーゲン合成促進物質がアスコルビン酸またはその誘導体である前記のコラーゲン合成促進剤,グリシン、プロリン、アラニンのモル含有率が3:2:1である前記のコラーゲン合成促進剤,前記のコラーゲン合成促進剤とコラゲナーゼ産生促進剤を含有することを特徴とするコラーゲン代謝賦活剤により達成される。
【0008】本発明に用いられるグリシン、プロリン、アラニンの各アミノ酸モル比はアラニン1に対し、グリシンとプロリンは各々0.1〜10の範囲で可能であるが、好ましくはコラーゲンのアミノ酸構成比に近く、合成促進の作用が最も強い3:2:1(グリシン:プロリン:アラニン)であることが望ましい(試験例2参照)。
【0009】これらのアミノ酸でコラーゲン合成促進剤を調製し、コラーゲン合成促進物質を添加した細胞系に、補助剤として添加使用することができるが、予めコラーゲン合成促進物質とともにコラーゲン合成促進剤として調製して用いても良い。
【0010】本発明に用いられるコラーゲン合成促進物質としては、コラーゲン合成促進物質として一般に知られているものを用いることができるが、老化予防化粧品として皮膚に適用するときは、皮膚線維芽細胞の存在する真皮層(結合組織)への作用が大きいので、アスコルビン酸およびその誘導体,エストロジェン,テストステロンなどの様な低分子物質が望ましい。
【0011】本発明に用いられるコラゲナーゼ産生促進剤としては、絹ペプチド(特願平3−59752号)、セリン,N−メチルセリン(特開平4−1130号)、硫酸塩,アンモニウム塩,硝酸塩(特願平4−355652号),エタノールアミン誘導体(特開平3−294222号)、ペントキシフィリンなどが挙げられる。これらのコラゲナーゼ産生促進剤とコラーゲン合成促進剤を含有するコラーゲン代謝賦活剤は、コラーゲンの合成と分解の両方を促進することができる。
【0012】本発明のコラーゲン合成促進剤およびコラーゲン代謝賦活剤を、その使用目的に応じて、通常用いられる公知の成分に配合することによって、液剤、固形剤、半固形剤等の各種剤形に調製することが可能で、好ましい組成物として軟膏、ゲル、クリーム、スプレー剤、貼付剤、ローション、粉末、顆粒剤、錠剤等が挙げられる。
【0013】その例として、本発明のコラーゲン合成促進剤を、ワセリン等の炭化水素、ステアリルアルコール等の高級アルコール、ミリスチン酸イソプロピル等の高級脂肪酸低級アルキルエステル、ラノリン等の動物性油脂、グリセリン等の多価アルコール、グリセリン脂肪酸エステル、モノステアリン酸ポリエチレングリコール等の界面活性剤、無機塩、蝋、樹脂、水および要すればパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル等の防腐剤に混合することによって、化粧品や医薬品を製造することができる。
【0014】その際のコラーゲン合成促進剤の含有量は剤形により異なるが、適用する組成物全量を基準として好ましくは0. 001〜2重量%(アミノ酸固形物として)、更に好ましくは0. 011〜1重量%である。また、アスコルビン酸誘導体等のコラーゲン合成促進物質の含有量は、0.01〜10重量%が好ましく、更に好ましくは0.1〜3重量%である。ただし、入浴剤のように使用時に希釈されるものはさらに添加量を増やすことができる。また、予めコラーゲン合成促進物質を含む細胞系に補助剤として用いる際には、105 コ/mlの細胞系の場合、例えばアミノ酸として30mM含有するコラーゲン合成促進剤溶液を、0.5〜2.0容量%程度添加すれば良い。
【0015】
【発明の効果】本発明のコラーゲン合成促進剤は、線維芽細胞に作用して、アスコルビン酸誘導体等のコラーゲン合成促進物質のコラーゲン蛋白合成能を高めることができる。また、本発明のコラーゲン代謝賦活剤は、コラーゲンの合成と分解の両方を促進することができる。
【0016】
【実施例】以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、それに先立って、本発明のコラーゲン合成促進能の試験方法を記載する。
【0017】(コラーゲン合成促進能測定試験法)正常ヒト線維芽細胞株〔白人女性の皮膚より採取されたCCD45SK(ATCCCRL 1506) 〕の細胞密度を10容量%ウシ胎仔血清(以下FBSと略記)を含むMEM培地にて1x105 個/mlに調整し、24穴プレートにそれぞれ0. 4mlずつ播種(4x104 個/穴)して、5%炭酸ガス、飽和水蒸気下、37℃で培養した。
【0018】尚、MEM培地は、大日本製薬社製最少必須培地10−101に、0. 12重量%炭酸水素ナトリウムを添加して調製した。
【0019】24時間後培養液を吸引除去し、終濃度0. 6容量%FBSを添加したMEM培地で細胞を2回洗浄した後、400μlの、終濃度500μg/mlのアスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウムと0. 6容量%FBSを添加したMEM培地で置換した。
【0020】コラーゲン合成促進剤溶液をポアーサイズが0. 2μmのニトロセルロース膜(アドバンテック東洋製、DISMIC-25 )で濾過滅菌後、各ウェルに終濃度0.5〜2容量%となるよう添加した。
【0021】24時間同様の条件で培養した後、β−アミノプロピオニトリルを終濃度50μg/ml、トリチウム−L−プロリンを最終1μCi/ml添加して、さらに24時間培養した(培養検液)。
【0022】コラーゲン産生量の定量:コラーゲンの産生量は上記の培養検液より、ペプシンに耐性かつ食塩濃度依存的溶解度によって分画されたコラーゲン画分に取り込まれた放射活性で測定した。ペプシン処理及び食塩濃度によるコラーゲンの分画法は、Websterらの方法(Analytical Biochemistry ,220頁,1979年参照)に準じた。
【0023】実施例1〜3グリシン、プロリン、アラニンの3アミノ酸を表1記載の様に混ぜ合わせ、モル比として1:1:1(実施例1)、1:2:3(実施例2)、3:2:1(実施例3)のコラーゲン合成促進剤を得た。
【0024】
【表1】


混合時の各アミノ酸量をg数で表示
【0025】尚、細胞添加実験においては、実施例1〜3記載のコラーゲン合成促進剤を各々279.29mg、286.31mg、272.29mgとり、それぞれの最終容量が100mlになるように水に溶かして、総アミノ酸濃度が30mMのコラーゲン合成促進剤溶液を作製した。
【0026】(試験例1)実施例1記載のコラーゲン合成促進剤溶液を最終濃度0.5〜1.5容量%で、アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウムを含有する細胞培養系に添加し、前述の試験をおこなった結果を表2に示した。なお、比較例1としてコラーゲン合成促進剤溶液を添加しない(アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウムのみ)群を設けた。
【0027】
【表2】


平均値 ±標準偏差(n=4)
【0028】表2からわかるように実施例1記載のコラーゲン合成促進剤は、用量依存的に強いコラーゲン合成促進活性を示した。
【0029】(試験例2)実施例1〜3記載のコラーゲン合成促進剤を水に溶かして総アミノ酸濃度が30mMのコラーゲン合成促進剤溶液を調製し、最終濃度1容量%で、アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウムを含有する細胞培養系に添加して試験例1と同様の試験をおこなった結果を表3に示した。なお、比較例2としてコラーゲン合成促進剤溶液を添加しない(アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウムのみ)群を設けた。
【0030】
【表3】


平均値 ±標準偏差(n=3)
【0031】表3からわかるように実施例1〜3コラーゲン合成促進剤はどれもアスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウムのコラーゲン合成促進能を増強したが、なかでも実施例3記載のコラーゲン合成促進剤が最も強いコラーゲン合成促進能をもっていた。
【0032】以上の結果から、本発明で用いたコラーゲン合成促進剤が線維芽細胞に働いてコラーゲン合成促進物質であるアスコルビン酸誘導体の効果を増大させることがわかった。
【0033】以下に本発明のコラーゲン合成促進剤またはコラーゲン代謝賦活剤を応用した組成物の処方例を示す。
【0034】処方例1−軟膏実施例3のコラーゲン合成促進剤3mgと下記親水性成分とを、湯浴で80℃に加温して混合し、これを、80℃に加温した下記の親油性成分混合物に攪拌しながら徐々に加えた。次に、ホモジナイザー(TOKUSYUKIKA KOGYO 製)で2分半激しく攪拌(2500rpm) して各成分を充分乳化分散させた後、攪拌しながら徐々に冷却し、100g中に0.003重量%のコラーゲン合成促進剤を含む軟膏を得た。
【0035】
「親水性成分」 (g)
アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩 0.03 パラオキシ安息香酸メチル 0.1 プロピレングリコール 6.7 精製水 44.1
【0036】
「親油性成分」
スクワラン 4.7 白色ワセリン 24.0 ステアリルアルコール 8.7 ミリスチン酸イソプロピル 6.0 モノステアリン酸ポリエチレングリコール(45E.O.)
(商品名NIKKOL MYS-45 、日本サーファクタント工業(株)製) 1.3 ジポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸(2E.O.)
(商品名NIKKOL DDP-2、日本サーファクタント工業(株)製) 2.3 モノステアリン酸グリセリン 2.0 パラオキシ安息香酸ブチル 0.1─────────────────────────────────── 計 100
【0037】処方例2−ローション(コラゲナーゼ産生促進剤の調製)塩化カルシウムの60重量%水溶液400mlに、精錬絹原料56gを加熱溶解した。この際、溶解を容易にするため、エチルアルコール160mlを添加した。次いで、これを24時間透析し濃縮後、18重量%の可溶化フィブロイン水溶液312mlを得た。
【0038】このうち235mlに濃硫酸165mlをゆっくりと加え、60℃で6時間加温した。次いでこれに水を加え総量1.8lとし、室温で一夜放置後氷冷しながら水酸化ナトリウムで中和、濾過することにより絹ペプチド溶液を得た(濃度235重量%)。
【0039】(コラーゲン代謝賦活剤の調製)上記で得た絹ペプチド溶液と本発明のコラーゲン合成促進剤を下表に従って配合しローションを作製した(コラーゲン代謝賦活剤含有ローション)。
【0040】
重量% 実施例3のコラーゲン合成促進剤 1.0 アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩 0.03 コラゲナーゼ産生促進剤(絹ペプチド溶液) 0.1 エタノール 10.0 乳酸 0.3 クエン酸ナトリウム 0.1 グリセリン 2.0 防腐剤、香料および界面活性剤 適量 精製水 残量 ──────────────────────────────── 100重量%
【0041】
処方例3−ローション 重量% 実施例3のコラーゲン合成促進剤 0.001 エタノール 10.0 乳酸 0.3 クエン酸ナトリウム 0.1 グリセリン 2.0 防腐剤、香料および界面活性剤 適量 精製水 残量 ──────────────────────────────── 100重量%
【0042】
処方例4−ローション 重量% 実施例3のコラーゲン合成促進剤 2.0 アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウム塩 0.01 N−メチル−L−セリン 2.0 N−メチルエタノールアミン 3.0 エタノール 10.0 乳酸 0.3 クエン酸ナトリウム 0.1 グリセリン 2.0 防腐剤、香料および界面活性剤 適量 精製水 残量 ──────────────────────────────── 100重量%
【0043】
処方例5−ローション 重量% 実施例1のコラーゲン合成促進剤 0.1 アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩 0.01 エタノール 13.0 乳酸 0.3 クエン酸ナトリウム 0.1 グリセリン 2.0 防腐剤、香料および界面活性剤 適量 精製水 残量 ──────────────────────────────── 100重量%
【0044】
処方例6−ローション 重量% 実施例2のコラーゲン合成促進剤 0.5 アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩 0.1 N−メチル−L−セリン 1.0 N−メチルエタノールアミン 1.0 エタノール 12.0 乳酸 0.3 クエン酸ナトリウム 0.1 グリセリン 2.5 防腐剤、香料および界面活性剤 適量 精製水 残量 ──────────────────────────────── 100重量%
【0045】
処方例7−ローション 重量% 実施例2のコラーゲン合成促進剤 0.001 エタノール 10.0 乳酸 0.3 クエン酸ナトリウム 0.1 アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウム塩 0.1 グリセリン 2.0 防腐剤、香料および界面活性剤 適量 精製水 残量 ──────────────────────────────── 100重量%
【0046】処方例8−入浴剤実施例3のコラーゲン合成促進剤3gと下記成分とを混合し、コラーゲン代謝賦活剤としての入浴剤100gを得た。
【0047】
香料 0.1g 有機色素 10mg 炭酸水素ナトリウム 14.9g 硫酸ナトリウム 50.0g 硫酸アンモニウム 35.0g アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウム塩 0.3g
【0048】尚、この入浴剤は使用時に約3000倍に希釈される。
【0049】処方例9−クリーム下表の成分(C)を約80℃で均一に混合溶解し、約80℃で均一に混合溶解しておいた成分(A)中に加えて乳化したのち、約50℃で均一に混合溶解しておいた成分(B)を添加し、約30℃まで冷却して調製した。
【0050】
(A) 配合量(%)
スクワラン 10.0 オリーブ油 10.0 固形パラフィン 5.0 セタノール 4.0 ソルビタンモノステアレート 2.0 ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(20E.O.) 2.0(B)
実施例3記載のコラーゲン合成促進剤 0.5 アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウム塩 2.0 N−メチル−L−セリン 2.0 精製水 25.5(C)
グリセリン 5.0 メチルパラベン 0.1 精製水 残量

【特許請求の範囲】
【請求項1】 グリシン、プロリン、アラニンの3種のアミノ酸を含有することを特徴とするコラーゲン合成促進剤。
【請求項2】 グリシン、プロリン、アラニンの3種のアミノ酸、およびコラーゲン合成促進物質を含有することを特徴とするコラーゲン合成促進剤。
【請求項3】 コラーゲン合成促進物質がアスコルビン酸またはその誘導体である請求項1または2記載のコラーゲン合成促進剤。
【請求項4】 グリシン、プロリン、アラニンのモル含有率が3:2:1である請求項1〜3いずれかに記載のコラーゲン合成促進剤。
【請求項5】 請求項1〜4いずれかに記載のコラーゲン合成促進剤とコラゲナーゼ産生促進剤を含有することを特徴とするコラーゲン代謝賦活剤。

【公開番号】特開平7−194375
【公開日】平成7年(1995)8月1日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−352654
【出願日】平成5年(1993)12月28日
【出願人】(000000952)鐘紡株式会社 (120)