説明

コロイド銀の調製方法

【課題】安全性が高く、かつ、長期間にわたる安定性を保持することのできるコロイド銀を、簡易な操作によって調製する方法を提供する。
【解決手段】タンパク質1重量部と水溶性銀化合物0.015〜0.05重量部とを水中で混合した後、pHを8〜11に調整することにより、還元剤を使用することなくコロイド銀を調製することができ、また、得られたコロイド銀は、保護剤を使用しなくても長期間にわたる安定性が保持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コロイド銀の調製方法に関する。さらに詳しくは、写真感光材料や殺菌剤などに利用され得る、安定なコロイド銀の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀は優れた抗菌力を有し、古くから各種用途における抗菌剤として使用されている。近年、銀粒子の大きさを最大限小さくするナノ技術を導入することによって、抗菌・殺菌・脱臭・電磁波遮断などの新しい特性が得られ、さらに使用用途が拡大してきている。
【0003】
コロイド銀は、水やその他の溶媒中にコロイド状に銀が分散されて安定状態を保持しているものである。化学大辞典(非特許文献1)の「コロイド銀」の項には、硝酸銀水溶液にデキストリンと水酸化ナトリウムを加えて放置すると、黄色の安定なコロイド銀が得られることが記載されている。
【0004】
コロイド銀などの金属コロイドの調製方法は、物理的方法と化学的方法に大別される。粒子径の揃った微粒子を得るためには化学的方法によるのが好ましいとされ、化学的方法を用いる金属コロイドの調製方法には、真空中ないしガス中で行なう乾式法と、溶媒中で行なう湿式法があるが、装置が単純で操作が容易な湿式法が一般的に用いられている。
【0005】
湿式法による金属コロイドの調製では、通常、金属塩を還元して原子価零の金属を得る還元法が用いられる。還元法は、他の方法に比べて粒径が小さく、また粒径分布も狭い均質な金属コロイド粒子が得られる。例えば、特開昭52−92508号公報(特許文献1)には、フィルター層およびハレーション防止層のための銀分散体を、主にゼラチンのような結合剤の存在下で硝酸銀をヒドロキノンまたはタンニンのようなフェノールで還元することによって調製することが記載されている。
【0006】
しかしながら、一般に金属コロイド溶液は長時間安定ではなく、機能性材料として使用するにあたってはその安定性の改善が必要とされる。そこで、金属コロイド溶を安定化させる保護剤として、界面活性剤や高分子化合物などが用いられており、この観点より、特開平11−290674号公報(特許文献2)には、N−ビニルカルボン酸アミドを少なくとも一つの重合成分として含有する重合体を含んだ安定な金属コロイド溶液が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開昭52−92508号公報
【特許文献2】特開平11−290674号公報
【非特許文献1】化学大辞典編集委員会著、「化学大辞典」、共立出版株式会社、1971年2月5日縮刷版第11刷発行、p.738
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、安全性が高く、かつ、長期間にわたる安定性を保持することのできるコロイド銀を、簡易な操作によって調製する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、タンパク質1重量部と水溶性銀化合物0.015〜0.05重量部とを水中で混合した後、pHを8〜11に調整することによって、還元剤を使用することなくコロイド銀が調製できることを見出した。さらに、得られたコロイド銀は、保護剤を使用しなくても長期間にわたる安定性が保持でき、電解質による影響性が低いことを確認し、この発明を完成するに到った。
【0010】
かくしてこの発明によれば、タンパク質1重量部と水溶性銀化合物0.015〜0.05重量部とを水中で混合した後、pHを8〜11に調整することを特徴とするコロイド銀の調製方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
この発明の方法によれば、簡易な操作で、還元剤を使用することなくコロイド銀が調製できる。また、得られたコロイド銀は、保護剤を使用しなくても長期間にわたる安定性が保持できることから、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明の方法では、タンパク質1重量部と水溶性銀化合物0.015〜0.05重量部とを水中で混合した後、pHを8〜11に調整することによりコロイド銀を調製する。タンパク質1重量部に対し水溶性銀化合物が0.015重量部未満であると、未反応のタンパク質により長期保管時に腐敗が起こりやすくなることから好ましくなく、また、0.05重量%を超えると、未反応の銀イオンにより水酸化銀、酸化銀の凝集物が副生成物として得られることから好ましくない。
タンパク質および水溶性銀化合物は、あらかじめそれぞれを水溶液あるいは水懸濁液としてから混合してもよいが、タンパク質と水溶性銀化合物との混合物の濃度が3〜5重量%になるように水中で混合すると、長期間にわたり安定なコロイド銀が得られる点から好ましい。
【0013】
また、この発明の方法では、タンパク質と水溶性銀化合物とを水中で混合した後、pHを8〜11に調整する。pHが8未満であると水に溶解しない銀とタンパク質の粒が混在することから好ましくない。また、pHが11を超えると、アルカリ性物質が過剰となり、安全性や経済性の点から好ましくない。なお、pHの調整には、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物の水溶性塩などのアルカリ剤を用いることができ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを用いるのが好ましい。
【0014】
この発明の方法で用いるタンパク質は、動物性タンパク質、植物性タンパク質のいずれであってもよいが、乳タンパク質を用いるのが好ましい。また、長期間にわたる安定性が保持できる点から、乳清分離ホエイタンパク質(WPI)を用いるのがさらに好ましい。
【0015】
ホエイタンパク質(WPC)は、元来、シスチンを比較的多量に含有する動物性タンパク質であって、チーズ製造時に副生する乳清(ホエイ)中に多く存在している。乳清分離ホエイタンパク質(WPI)は、ホエイタンパク質(WPC)を分離・精製して得られるタンパク含有量の高い水溶性の動物性タンパク質である。
【0016】
また、この発明の方法で用いる水溶性銀化合物としては、硝酸銀、酢酸銀などを好適に用いることができる。
【0017】
この発明の方法で得られたコロイド銀は、写真感光材料などの光学材料や、安全性の高い抗菌・殺菌剤として、繊維および繊維製品、石鹸や化粧品などのスキンケア製品、壁紙などの建築用材料、家庭用品、さらには工業用冷却水系、製紙工程、木材防腐処理など、各種用途に好適に用いることができる。
【0018】
(実施例)
この発明を調製例および試験例により詳細に説明するが、これら調製例および試験例によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
(調製例)
乳清分離ホエイタンパク質4gをイオン交換水20gに溶解した水溶液と、硝酸銀0.125gをイオン交換水10gに溶解した水溶液をあらかじめ調製した。それぞれの水溶液を撹拌しながら混合し、さらに15分間撹拌して、白色懸濁混合液を得た。この混合液に0.1N水酸化ナトリウム溶液を添加してpHを11に調製し、淡黄色コロイド銀を得た。
【0020】
(試験例1)長期安定性確認試験
調製例で得られたコロイド銀の長期安定性を確認した。すなわち、調製例で得られたコロイド銀を遮光せず室温(25℃)で放置して、経時的に外観(色および濁り)を観察した。その結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
この発明の方法で得られたコロイド銀は、遮光しない状態で長期間にわたる安定性が得られる。
【0023】
(試験例2)電解質による影響性確認試験
調製例で得られたコロイド銀の塩化カリウムによる影響性を評価した。すなわち、調製例で得られたコロイド銀に、塩化カリウムを1mol/L、4mol/Lになるように添加し、スターラーを用いて100rpmで15時間撹拌した。ついで遠心分離(18000rpm×60分)を行なって沈降粒子を除いた後、分光光度計(日立製作所製、「U−3210」)を用いて上澄みの500nmの吸収を測定した。測定結果より、次式にしたがって影響性を求めた。その結果を図1に示す。
【0024】
式:影響性(%)=(A/A)×100
(式中、A=上澄みの吸光度、A=塩化カリウムを添加する前のコロイド銀の吸光度を示す。)
【0025】
この発明の方法で得られたコロイド銀は、電解質による影響性が低いことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、コロイド銀の塩化カリウムによる影響性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質1重量部と水溶性銀化合物0.015〜0.05重量部とを水中で混合した後、pHを8〜11に調整することを特徴とするコロイド銀の調製方法。
【請求項2】
タンパク質が乳タンパク質である請求項1に記載のコロイド銀の調製方法。
【請求項3】
タンパク質が乳清分離タンパク質である請求項1または2に記載のコロイド銀の調製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−119852(P2007−119852A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313595(P2005−313595)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000154727)株式会社片山化学工業研究所 (82)
【Fターム(参考)】