説明

コンクリートのブリーディング量管理方法

【課題】コンクリート打設現場において、精度よく迅速にブリーディング量を把握してその品質を管理できるコンクリートのブリーディング量管理方法を提供する。
【解決手段】JIS A 1123に規定されたコンクリートのブリーディング試験方法により取得した生コンクリートのブリーディング量Bと、生コンクリートCを加圧容器2に収容して、油圧ジャッキ6の油圧により所定圧力でピストン3を介して加圧する加圧試験により取得した生コンクリートCの最終脱水率Dとの関係を予め把握しておき、生コンクリートCを打設施工する際に、打設する生コンクリートCに対して加圧試験を実施して、これにより取得した最終脱水率D1と、予め把握しているブリーディング量Bと最終脱水率Dとの関係に基づいて、その生コンクリートCのブリーディング量B1を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートのブリーディング量管理方法に関し、さらに詳しくは、コンクリート打設現場において、精度よく迅速にコンクリートのブリーディング量を把握してその品質を管理できるコンクリートのブリーディング量管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリートに関しては、粒度、粒径などの品質が安定していて優れた骨材を確保することが難しくなっている。これに伴って、コンクリートのブリーディング量が過大になることが懸念される。また、冬季などの低温時には、コンクリートの凝結時間が長くなることに伴って材料分離する量が多くなるため、ブリーディング量が多くなる傾向がある。ブリーディング量が過大であると、コンクリート構造物の品質に悪影響が生じる。そのため、ブリーディング量を抑えるために、材料の配合について種々の検討がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、材料配合を決定する際の試験練りのコンクリートが、目標とするブリーディング量であったとしても、ブリーディング量は骨材品質の変動や施工時の温度条件などによって変化するため、実際に現場で打設施工するコンクリートのブリーディング量を把握することが重要である。コンクリートのブリーディング量は、一般にJIS A 1123に規定された試験方法によって測定される。ところが、この試験方法では測定結果を得るまでに数時間を要する。そのため、コンクリートを打設する際に、その現場でブリーディング量を十分に把握できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−70439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、コンクリート打設現場において、精度よく迅速にコンクリートのブリーディング量を把握してその品質を管理できるコンクリートのブリーディング量管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のコンクリートのブリーディング量管理方法は、JIS A 1123に規定されたコンクリートのブリーディング試験方法により、生コンクリートのブリーディング量を取得し、生コンクリートを加圧容器に収容して所定圧力で加圧する加圧試験により、生コンクリートの最終脱水率を取得して、前記取得したブリーディング量と最終脱水率との関係を予め把握しておき、生コンクリートを打設施工する際に、打設する生コンクリートに対して前記加圧試験を実施して最終脱水率を取得し、この取得した最終脱水率と、予め把握しているブリーディング量と最終脱水率との関係に基づいて、その生コンクリートのブリーディング量を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、JIS A 1123に規定されたコンクリートのブリーディング試験方法により取得した生コンクリートのブリーディング量と、生コンクリートを加圧容器に収容して所定圧力で加圧する加圧試験により取得した生コンクリートの最終脱水率との関係を予め把握しておき、生コンクリートを打設施工する際に、打設する生コンクリートに対して前記加圧試験を実施する。したがって、コンクリート打設現場では短時間で完了する加圧試験を行なうだけでよい。そして、現場での加圧試験により取得した最終脱水率と、予め把握しているブリーディング量と最終脱水率との関係に基づいて、その生コンクリートのブリーディング量を推定するので、精度よく迅速にコンクリートのブリーディング量を把握でき、その品質を管理することが可能になる。
【0008】
前記加圧試験として、例えば、JSCE−F 502−2010に規定された加圧ブリーディング試験を行なう。これにより、新たな加圧試験方法を検討する必要がなく、従来の知見も利用できる。また、例えば、ブリーディング量の上限値を予め設定しておき、前記推定したブリーディング量が前記上限値を超えているか否かを判断する。これにより、コンクリート構造物の品質を一定水準以上に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明で行なう加圧試験の概要を例示する説明図である。
【図2】ブリーディング率BRと最終脱水率Dとの関係を示すグラフ図である。
【図3】水セメント比とブリーディング率BR、最終脱水率Dとの関係を示すグラフ図である。
【図4】スランプとブリーディング率BR、最終脱水率Dとの関係を示すグラフ図である。
【図5】試料の練り上がりから試験開始までの経過時間と最終脱水率との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のコンクリートのブリーディング量管理方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
まず、配合などの仕様の異なる多数種類の生コンクリートについて、JIS A 1123に規定されたコンクリートのブリーディング試験方法を行なって、それぞれの仕様の生コンクリートのブリーディング量B(ブリーディング率BR)を取得しておく。例えば、水セメント比(W/C)、細骨材率(s/a)、各材料の単位量、混和剤の種類や添加量、スランプなどを異ならせた多数種類の生コンクリートのブリーディング量Bを取得する。
【0012】
ブリーディング量B(cm3/cm2)は、以下の(1)式により算出される。
B=V/A・・・(1)
ここで、Vは最終時まで累計したブリーディングによる水の容積(cm3)、Aはコンクリート上面の面積(cm2)である。
【0013】
ブリーディング量Bは、そのままでもよいが、例えば、ブリーディングBに基づいてブリーディング率BRを算出しておく。ブリーディング率BRは、以下の(2)式により算出される。
BR=(V×ρw/Ws)×100%・・・(2)
ただし、Ws=(W/c)×S×1000である。ここで、ρwは試験温度における水の密度(g/cm3)、Wsは試料中の水の質量(g)、Wはコンクリートの単位水量(kg/m3)、cはコンクリートの単位容積質量(kg/m3)、Sは試料の質量(kg)である。
【0014】
また、上記の仕様の異なるそれぞれの生コンクリートCについて、加圧試験を行なって、生コンクリートCの最終脱水率Dを取得する。この加圧試験は、図1に例示する加圧試験機1を用いて行なう。この実施形態における加圧試験は、JSCE−F 502−2010(2010年制定 コンクリート標準示方書[基準編]土木学会規準および関連基準)に規定された加圧ブリーディング試験に準拠したものである。
【0015】
生コンクリートCの試料が収容された有底円筒状の加圧容器2の上端開口を塞ぐようにピストン3を設置し、加圧容器2を支持台4の上にセットする。支持台4のベースには複数本(例えば4本)の支柱8が立設されていて、それぞれの支柱8の上端部には反力板5が固設されている。反力板5の下面とピストン3の上面との間には油圧ジャッキ6が設けられている。油圧ジャッキ6は油圧ホースを通じて油圧ポンプ7に接続されている。加圧容器2の周壁下端部には排水コックが設けられ、排水コックの排水先にはメスシリンダ9が配置されている。
【0016】
このようにセッティングした後は、油圧ポンプ7のレバーを操作して加圧容器2に収容された生コンクリートCの試料上面の圧力が所定値(例えば3.5N/mm2)になるまで連続的に加圧する。この加圧により生コンクリートC中の水Wが排水コックを通じて排出されるので、その圧力を保持した状態で排水コックを開いて、所定時間ごとにメスシリンダ9で脱水量を測定する。例えば、加圧から10分までの脱水量を測定する。ただし、加圧から3分以上経過し脱水量が3ml/分以下になったら圧力を5.0N/mm2までかけた後、圧力を開放する。したがって、加圧試験は10分程度で完了し、コンクリート打設現場でも容易に行なうことができる。
【0017】
このようにして生コンクリートCを脱水状態にして、その際の最終脱水量を測定する。圧力容器2から取出した生コンクリートCが明らかに未脱水に見える場合や非排水の残留水がある場合には、再度加圧試験を行なう。
【0018】
加圧試験のやり方は、それぞれの仕様の生コンクリートCの最終脱水率Dを短時間で取得できれば特に限定されないが、JSCE−F 502−2010に規定された加圧ブリーディング試験を採用すれば、新たな加圧試験方法を検討する必要がなくなる。また、この試験方法を採用することにより、従来、この加圧ブリーディング試験で取得したデータや知見を利用できるので好適である。
【0019】
最終脱水率Dは、以下の(3)式により算出される。
D=(d/w)×100%・・・(3)
ここで、dは加圧試験により得られた生コンクリートCの最終脱水量、wは試料中の水量である。
試料中の水量wは、以下の(4)式により算出される。
w=1m3当たりのコンクリートの水量×試料の質量/1m3当たりのコンクリートの質量・・・(4)
【0020】
上記のように取得したブリーディング量B、或いは、ブリーディング率BRのデータと最終脱水率Dのデータをグラフにプロットして、両者の関係を予め把握しておく。ブリーディング率BRと最終脱水率Dとの関係(以下、両者の関係)は、図2に例示するように相関関係がある。即ち、本発明者らは、生コンクリートCの仕様によらず、両者の関係が非常に高い相関を有していることを見出し、本発明では、この相関関係を直接的または間接的に利用する。両者の関係は、パーソナルコンピュータ等に記憶しておく。
【0021】
実際にコンクリートを打設する際には、打設現場にて生コンクリートCの受入時に、その生コンクリートCに対して加圧試験を実施する。そして、現場での加圧試験より取得した最終脱水率D1と、予め把握しているブリーディング率BRと最終脱水率Dとの関係に基づいて、その生コンクリートCのブリーディング量B1を推定する。即ち、取得した最終脱水率D1を、両者の関係が記憶されているパーソナルコンピュータに入力する。そして、両者の関係のグラフにおいて、その最終脱水率D1におけるに相当するD値でのブリーディング率BR1を演算し、このBR1値からブリーディング量B1を算出する。
【0022】
両者の関係は、非常に高い相関関係があることが判明しているので、推定したブリーディング量B1は実際のブリーディング量Bに近似していて高精度の推定値となる。したがって、本発明によれば、コンクリート打設現場において、精度よく迅速にコンクリートのブリーディング量Bを把握でき、これに伴って、打設したコンクリートの品質を管理することが可能になる。
【0023】
例えば、ブリーディング量Bの上限値を予め設定しておき、推定したブリーディング量B1が上限値を超えているか否かを判断する。上限値を超えている場合は、その原因を究明して対策を講じるようにする。これにより、コンクリート構造物の品質を一定水準以上に維持することができる。上限値としては、例えば、日本建築学会JASS 5−2009の水密コンクリートの品質で規定されている0.30cm3/cm2以下にする。
【0024】
現場において加圧試験を行なう頻度は、例えば、打設する生コンクリートに対して50m3〜150m3毎とする。この頻度で加圧試験を実施すれば、打設するコンクリートの量が多くても、精度よくブリーディング量B1を把握できる。
【0025】
また、新たにコンクリートを試験練りする時には、上記したブリーディング試験方法を実施してブリーディング量B1(ブリーディング率BR1)を取得するとともに、上記した加圧試験を実施して最終脱水率D1を取得して、取得したBR1とD1の関係が、予め把握している両者の関係を満たしている(外れていない)ことを確認する。この際に、取得したブリーディング量B1が予め設定した上限値を超えている場合は、配合の見直しを行なう。
【実施例】
【0026】
表1に示すように仕様を異ならせたコンクリート(16種類)について、ブリーディング試験(JIS A 1123)によるブリーディング率BRおよび加圧ブリーディング試験(JSCE−F 502)による最終脱水率Dを取得して両者の関係を把握した。
【0027】
【表1】

【0028】
表1中、s/aは細骨材率(コンクリート中の全骨材量に対する細骨材量の絶対容積比率)であり、Cは普通ポルトランドセメント、Sは山砂(表乾密度2.6)、Gは砕石(表乾密度2.7)、SPは高性能AE減水剤、AdはAE減水剤である。尚、SPおよびAdの単位(C×%)は、コンクリートに対する質量%である。加圧ブリーディング試験の加圧力は3.5N/mm2であり、試験開始時間とは試料の練り上がりから試験開始までの経過時間(分)である。
【0029】
配合A−2とB−2は、混和剤の添加量を変えてスランプを変化させたものである。配合C−2、D−2、E−2は、配合B−2に対してほぼ同じスランプのままで水セメント比(W/C)を下げたり、混和剤に高性能AE減水剤を用いたりした配合である。その他は上記の配合に対して、それぞれ同じ単位セメント量および細骨材率のままで単位水量を10kg/m3増減させた配合である。配合Fは水セメント比40%、スランプフロー40cm程度の中流動コンクリートである。
【0030】
水セメント比とブリーディング率BR、最終脱水率Dとの関係を図3に示す。また、スランプとブリーディング率BR、最終脱水率Dとの関係を図4に示す。図3および図4の結果から、水セメント比、スランプが増大するとブリーディング率BRが増大することが分かる。また、最終脱水率Dについてもブリーディング率BRと同様に増大する傾向を示すことが分かる。しかしながら、水セメント比もスランプも、ブリーディング率BRとの間に非常に高い相関関係は確認できなかった。一方、ブリーディング率BRと最終脱水率Dとの間には、図2に例示したように非常に高い相関関係があることが確認できた。
【0031】
また、表2に示すように4種類の配合について、加圧ブリーディング試験の加圧力や試験開始時間を異ならせて測定を行なった。その結果を図5に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
図5の結果から、試験開始時間までの時間が最終脱水率Dに及ぼす影響は小さく、実施工において受け入れ時の品質管理に要する時間(90分〜120分程度)では許容できる範囲内であることが確認できた。また、加圧力は最終脱水率Dにはほとんど影響しないが、試験時間を1分程度短縮できることが分かった。
【符号の説明】
【0034】
1 加圧試験機
2 加圧容器
3 ピストン
4 支持台
5 反力板
6 油圧ジャッキ
7 油圧ポンプ
8 支柱
9 メスシリンダ
C 生コンクリート
W 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS A 1123に規定されたコンクリートのブリーディング試験方法により、生コンクリートのブリーディング量を取得し、生コンクリートを加圧容器に収容して所定圧力で加圧する加圧試験により、生コンクリートの最終脱水率を取得して、前記取得したブリーディング量と最終脱水率との関係を予め把握しておき、生コンクリートを打設施工する際に、打設する生コンクリートに対して前記加圧試験を実施して最終脱水率を取得し、この取得した最終脱水率と、予め把握しているブリーディング量と最終脱水率との関係に基づいて、その生コンクリートのブリーディング量を推定することを特徴とするコンクリートのブリーディング量管理方法。
【請求項2】
前記加圧試験が、JSCE−F 502−2010に規定された加圧ブリーディング試験である請求項1に記載のコンクリートのブリーディング量管理方法。
【請求項3】
ブリーディング量の上限値を予め設定しておき、前記推定したブリーディング量が前記上限値を超えているか否かを判断する請求項1または2に記載のコンクリートのブリーディング量管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−18158(P2013−18158A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151998(P2011−151998)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【Fターム(参考)】