説明

コンクリートダムの施工方法

【課題】工期短縮が可能なコンクリートダムの施工方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ST02でコンクリートを盛り上げることでコンクリート層を形成し、ST03でRCD施工を行い、ST07でレイタンスを除去する。すなわち、本発明は面研削を廃止し、代わりにレイタンス除去で済ませるようにした。面研削を廃止すると、重機を載せる必要が無くなり、コンクリートの強度向上を待つ必要が無くなる。
【効果】24時間経過後に当該コンクリート層の上に新たなコンクリート層を打設することができるようになった。本発明によれば、従来の1層3日を1層1日に変更することができ、工期を大幅に短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリートダム工事の工期短縮技術に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国における発電は、水力発電、火力発電及び原子力発電を基本の3本柱とし、中でも水力発電は最も歴史がある。このダムの建設技術は改良に改良が重ねられ、近年はRCD(Roller Compacted Concrete for Dam)法が広く採用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−69980公報(段落番号[0003])
【0003】
特許文献1の段落番号[0003]には「一方、前記RCD工法では、スライド式型枠をコンクリートダムの堤体構築予定箇所の上流側と下流側の両側に設置し、該型枠間を所定区域ごとに分割するように横継ぎ目地を設置し、該区域において超硬練りコンクリートをブルドーザーにより一層25cmで3〜4層敷き均した後、この3〜4層をまとめて振動ローラーにより締め固めて75〜100cm程度の厚さのコンクリート層を形成する。そして、打設後のコンクリート表面は高圧ジェット水などの手段によりレイタンスを除去すると共にモルタルの敷き均しを行なってから、次層のコンクリートを敷き均すものである。」の記載がある。
【0004】
特許文献1で紹介されたRCD工法を、より一般的な形態で以下に説明する。
図9は従来のコンクリートダムの断面図であり、コンクリートダム100は上程狭い台形形状の断面を呈する。
【0005】
図10は従来のコンクリートダムの正面図であり、コンクリートダム100は谷に設ける。すなわち、左の岩盤101と底の岩盤102と右の岩盤103とに掛け渡すため、上程広い台形形状を呈する。
特許文献1で、「75cm〜100cm程度の厚さのコンクリート層」と説明されたように、図中のhが75cm〜100cmであり、この高さのコンクリート層を下から上へ順に積層させることで、コンクリート打設を行う。このhは重機が昇り降りすることができる程度の高さに設定される。
【0006】
図11は従来のコンクリート層の模式図であり、高さhのコンクリート層は、m−1、m−2及びm−3の3つのブロックに区分して施工する。すなわち、m−1ブロック105→m−2ブロック106→m−3ブロック107の順で施工した後に、m−1ブロック105の上にn−1ブロック108を打設し、m−2ブロック106の上にn−2ブロック109を打設する。このように1層を3つのブロックに分けて順に施工する工法が従来実施されてきた。この理由は後述する。
【0007】
図12は図11の12−12線断面図であり、m−3ブロック107を例にとると、m−3ブロック107は、型枠112を用いて盛り上げたコンクリート121と、型枠113を用いて盛り上げたコンクリート122と、これらのコンクリート121、122の間に打設した、RCD工法による超硬練りコンクリート123とからなる。
なお、コンクリート打設に備えて、型枠112、113の上部を引張り金具114、115で固定する。これらの引張り金具114、115は予め下のコンクリート層111にアンカー部分116、117を埋設しておく。
【0008】
図13は図12の13矢視図であり、この図で従来のコンクリート打設の説明を行う。
(a)では、既にm−2ブロック106が施工済みであり、このm−2ブロック106に接続するようにして、適当な量のコンクリート121−1及び122−1を、型枠112、113に沿って図面表(おもて)側へ盛り上げる。
次に(b)において、コンクリート121−1及び122−1の間に、超硬練りコンクリート123−1をダンプカーで搬入して敷き詰め、ローラで固める。超硬練りコンクリート123−1をダンプカーで搬入して敷き詰め、ローラで固める施工を、RCD施工と呼ぶ。
(b)を繰り返すことで、(c)に示すm−3ブロック107ができあがる。
【0009】
図14はコンクリートの強度を示すグラフであり、温度25℃の条件で乾燥(養生)を実施すると、コンクリートは時間と共に強度が高まる。図12に示すアンカー部分116、117に求められる強度は35kg/cmである。ただし、この強度を得るには打設後25時間、すなわち1日以内では所望の強度は得られない。
【0010】
図15は従来のコンクリートダムの施工フロー図である。ST×××はステップ番号を示す。
ST101:m−1ブロックにおいて、型枠を立設する。
ST102:コンクリートを盛り上げることでコンクリート層を形成する。
ST103:RCD施工を行う。
ST104:乾燥に入る。
【0011】
ST105:コンクリートの上面を、研削する。この研削は重機に設けた回転ブラシで実施する。重い重機を載せるには、約2日の養生(乾燥)が必要である。
すなわち、コンクリート打設から約2日経過したら、上面を研削して、n−1ブロック(図11符号108参照)のコンクリート打設に備える。
ST101〜ST105で、3日を費やす。
【0012】
ST106:ST104で乾燥が始まる頃に型枠を移動し、m−2ブロックに立設する。
ST107:m−2ブロックにコンクリートを盛り上げて、コンクリート層を形成する。
ST108:RCD施工を行う。
ST109:乾燥に入る。型枠を移動し、m−3ブロックに立設する。
型枠の移動、立設は1日に1回実施する。
【0013】
m−1ブロックの施工から3日経過後に、n−1ブロックを施工するが、m−1ブロックのコンクリートは十分に強度が出ていて、m−1ブロックに埋設した引張り金具のアンカー部分(図12、符号116、117参照)が抜ける心配はない。
【0014】
また、ST105で面研削が実施してあるので、m−1ブロックにn−1ブロックのコンクリートが良好に接続する。ST105の面研削は研削機で行い研削施工には時間が掛かるが、m−3ブロックのコンクリート打設に平行して行うことができるため、作業遅延の要因にはならない。
【0015】
すなわち、従来は、引張り金具に対するコンクリート強度の確保並びに面研削作業のためのコンクリート強度を確保する必要から、1層を3ブロックに区分し、1ブロックを1日で施工し、1層を3日で施工する必要があった。
しかし、もっと工期が短縮できるコンクリートダムの施工方法が、より望ましいことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、工期短縮が可能なコンクリートダムの施工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に係る発明は、型枠を立設し、この型枠に沿ってコンクリートを盛り上げてコンクリート層を形成し、このコンクリート層に沿って超硬練りコンクリートを打設し、前記コンクリート層を乾燥させている途中に前記型枠を移動し、次のコンクリート打設を行うことで、下から上へ面状若しくは層状にコンクリート層を形成するコンクリートダムの施工法において、前記型枠を支えるアンカー部分は、24kg/cmのコンクリート強度で設計するとともに、コンクリート打設後24時間を経過する前にコンクリート層上に溜まったレイタンスを除去することを、条件として、1面若しくは1層当たり24時間で、施工することを特徴とする。
【0018】
請求項2に係る発明は、型枠を立設し、この型枠に沿ってコンクリートを盛り上げてコンクリート層を形成し、このコンクリート層に沿って超硬練りコンクリートを打設し、前記コンクリート層を乾燥させている途中に前記型枠を移動し、次のコンクリート打設を行うことで、下から上へ面状若しくは層状にコンクリート層を形成するコンクリートダムの施工法において、前記型枠は、プレキャスト型枠を採用するとともに、コンクリート打設後24時間を経過する前にコンクリート層上に溜まったレイタンスを除去することを、条件として、1面若しくは1層当たり24時間で、施工することを特徴とする。
【0019】
本発明において、コンクリート層は通常の比率でセメントを配合したコンクリートで形成した層を指し、超硬練りコンクリート層はRCD工法に用いるものであって、セメントの配合割合を通常の比率より大幅に減少させたコンクリートで形成した層を指す。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明では、アンカー部分を大型にするなどして、24kg/cmのコンクリート強度で引張り金具が使えるようにした。加えて、面研削を廃止し、代わりにレイタンス除去で済ませるようにした。面研削を廃止すると、重機を載せる必要が無くなり、コンクリートの強度向上を待つ必要が無くなる。
【0021】
この結果、24時間経過後に当該コンクリート層の上に新たなコンクリート層を打設することができるようになった。
本発明によれば、従来の1層3日を1層1日に変更することができ、工期を大幅に短縮することができる。
【0022】
請求項2に係る発明では、型枠としてプレキャスト型枠を採用した。プレキャスト型枠を採用することで、型枠の移動が不要となり、引張り金具が不要となるため、工期の短縮がより容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は本発明に係るコンクリートダムの正面図であり、コンクリートダム10は谷に設ける。すなわち、左の岩盤11と底の岩盤12と右の岩盤13とに掛け渡すため、上程広い台形形状を呈する。
【0024】
図2は本発明に係るコンクリート層の模式図であり、高さHのコンクリート層で構成するMブロック15の上に、想像線で示すNブロック16を施工することを示す。すなわち、本発明によれば、1層のコンクリート層は一度で施工することが可能となる。
【0025】
図3は図2の3−3線断面図であり、Mブロック15は、型枠18を用いて盛り上げたコンクリート層19と、型枠21を用いて盛り上げたコンクリート層22と、これらのコンクリート層19、22の間に打設した、RCD工法による超硬練りコンクリート層23とからなる。
【0026】
なお、コンクリート打設に備えて、型枠18、21の上部を引張り金具24、25で固定する。これらの引張り金具24、25は予め下のコンクリート層26にアンカー部分27、28を埋設しておく。
アンカー部分27、28には、各々に円板若しくは角板からなる増強部29、29を設けておく。
【0027】
図4は図3の4矢視図であり、この図でコンクリート打設の説明を行う。
(a)において、適当な量のコンクリート層19−1及び22−1を、型枠18、21に沿って図面表(おもて)側へ盛り上げる。
次に(b)において、コンクリート層19−1及び22−1の間に、超硬練りコンクリート層23−1をダンプカーで搬入して敷き詰め、ローラで固める。超硬練りコンクリート層23−1をダンプカーで搬入して敷き詰め、ローラで固める施工を、RCD施工と呼ぶ。
(b)を繰り返すことで、(c)に示すMブロック15ができあがる。
【0028】
図5はコンクリートの強度を示すグラフであり、温度25℃の条件乾燥(養生)を実施すると、コンクリートは時間と共に強度が高まる。図3に示すアンカー部分27、28に求められる強度は、増強部29の存在により、24kg/cmで十分となる。そして、この強度は16時間で得ることができる。
【0029】
図6は本発明に係るコンクリートダムの施工フロー図である。ST××はステップ番号を示す。
ST01:Mブロックのために、型枠を立設する。
ST02:型枠に沿ってコンクリートを盛り上げることで、コンクリート層を形成する。
ST03:RCD施工を行う。
ST04:乾燥に入る。
【0030】
ST05:打設後16時間が経過するまで待つ。
ST06:コンクリート打設から16時間経過したら、型枠を移動する。
ST07:コンクリートが固まったコンクリート層の上には、15〜16時間でレイタンスが浮き上がる。このレイタンスを水ジェットで吹き飛ばすことで除去する。この除去作業は僅かな時間で終えることができる。また、RCD施工によるコンクリート層の上面は、ローラ掛けにより固まっているので、ゴミの除去のみを行う。
以上のST01〜ST07は1日で終えることができる。
【0031】
ST08:ST06で型枠を上へ移動する。具体的には、Nブロックに型枠を立設する。
ST09:型枠に沿ってコンクリートを盛り上げることで、コンクリート層を形成する。
ST10:RCD施工を行う。
ST11:乾燥に入る。以降、説明を省略する。
【0032】
次に、型枠にプレキャスト型枠を採用した例を説明する。
図7は図3の別実施例図であり、予め、高さが100cmで、L字断面又はコ字断面のプレキャスト型枠31、32を準備する。
そして、下のコンクリート層33に埋設してあるプレキャスト型枠34に、プレキャスト型枠31をボルト35で固定する。同時に、下のコンクリート層33に埋設してあるプレキャスト型枠36に、プレキャスト型枠32をボルト37で固定する。
【0033】
そして、型枠31に沿ってコンクリート層38を盛り上げるとともに、型枠32に沿ってコンクリート層39を盛り上げる。
【0034】
次にコンクリート層38、39の中間部分にRCD工法による超硬練りコンクリート層41を打設する。
コンクリート層38、39の打設から16時間が経過したら、上を歩くことは差し支えなくなる。そこで、水ジェットで上面に浮き上がったレイタンスを除去する。また、超硬練りコンクリート層41はローラを掛けた後に、ゴミを除去する。
【0035】
図8は図7の施工フロー図である。
ST12:Mブロックにおいて、プレキャスト型枠を立設する。
ST13:プレキャスト型枠に沿ってコンクリートを盛り上げることで、コンクリート層を形成する。
ST14:RCD施工を行う。
ST15:乾燥に入る。
【0036】
ST16:打設後16時間が経過するまで待つ。
ST17:レイタンスを除去する。
以上のST12〜ST17は1日で終えることができる。
【0037】
ST18:ST16に引き続いて、Nブロックのために新たなプレキャスト型枠を立設する。
ST19:プレキャスト型枠に沿ってコンクリートを盛り上げることで、コンクリート層を形成する。
ST20:RCD施工を行う。
ST21:乾燥に入る。以降の説明は省略する。
型枠の移動及び引張り金具が不要であるため、施工が容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、コンクリートダムの施工に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係るコンクリートダムの正面図である。
【図2】本発明に係るコンクリート層の模式図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】図3の4矢視図である。
【図5】コンクリートの強度を示すグラフある。
【図6】本発明に係るコンクリートダムの施工フロー図である。
【図7】図3の別実施例図である。
【図8】図7の施工フロー図である。
【図9】従来のコンクリートダムの断面図である。
【図10】従来のコンクリートダムの正面図である。
【図11】従来のコンクリート層の模式図である。
【図12】図11の12−12線断面図である。
【図13】図12の13矢視図である。
【図14】コンクリートの強度を示すグラフである。
【図15】従来のコンクリートダムの施工フロー図である。
【符号の説明】
【0040】
10…コンクリートダム、18、21…型枠、19、22、38、39…コンクリート層、23、41…RCD工法によるコンクリート層、31、32…プレキャスト型枠。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型枠を立設し、この型枠に沿ってコンクリートを盛り上げてコンクリート層を形成し、このコンクリート層に沿って超硬練りコンクリートを打設し、前記コンクリート層を乾燥させている途中に前記型枠を移動し、次のコンクリート打設を行うことで、下から上へ面状若しくは層状にコンクリート層を形成するコンクリートダムの施工法において、
前記型枠を支えるアンカー部分は、24kg/cmのコンクリート強度で設計するとともに、コンクリート打設後24時間を経過する前にコンクリート層上に溜まったレイタンスを除去することを、条件として、1面若しくは1層当たり24時間で、施工することを特徴とするコンクリートダムの施工方法。
【請求項2】
型枠を立設し、この型枠に沿ってコンクリートを盛り上げてコンクリート層を形成し、このコンクリート層に沿って超硬練りコンクリートを打設し、前記コンクリート層を乾燥させている途中に前記型枠を移動し、次のコンクリート打設を行うことで、下から上へ面状若しくは層状にコンクリート層を形成するコンクリートダムの施工法において、
前記型枠は、プレキャスト型枠を採用するとともに、コンクリート打設後24時間を経過する前にコンクリート層上に溜まったレイタンスを除去することを、条件として、1面若しくは1層当たり24時間で、施工することを特徴とするコンクリートダムの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−81961(P2008−81961A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260976(P2006−260976)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(594135151)財団法人ダム技術センター (12)