説明

コンクリート構造体の処理方法

【課題】打設後のコンクリート構造体から早期に主としてアルカリ物質を除去し、コンクリートの枯らし期間を大幅に短縮することができる、コンクリート構造体の処理方法を提供する。
【解決手段】コンクリート構造体の処理方法は、打設後のコンクリート構造体の表面を少なくとも微細な気泡を含む処理水で濡らした後乾燥させる湿潤−乾燥処理を1サイクルとして、このサイクルを所定期間にわたって繰り返すことによって、該コンクリート構造体中のアルカリ成分を早期に除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造体の処理方法に関し、特に、打設後のコンクリート構造体から早期にアルカリ物質を除去することができる処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新設の美術館や博物館、公文書館における特有の問題として、躯体コンクリートから発生するアルカリ物質の問題がある。このアルカリ物質は、絵画や紙を含む美術品、公文書などを変質ないしは劣化させる。
【0003】
また、半導体産業においては、LSIの集積度の向上に伴い、生産施設のクリーンルームにおける清浄度をより高くする要求があり、塵埃の他に化学物質の発生の抑制並びに除去技術の確立が急務とされている。特に、アルカリ物質は回路基板に悪影響を与えるため、その確実な除去が要求される。このようなアルカリ物質の主要な発生源のひとつとして、大容量を占める躯体コンクリートが考えられる。
【0004】
躯体コンクリートから発生するアルカリ物質に起因する問題について、美術館や博物館などのように、例えばアンモニア量が所定値(20〜30ppb)より少ないことが要求されるような建造物にあっては、建造物の竣工後、約1年間にわたって放置し、長期間のいわゆる「コンクリートの枯らし期間」をおき、その間に機械的な換気や除湿、化学物質を吸着させるためのガス吸着フィルターを有する高価な空気清浄装置などを使用して、アルカリ物質などの有害物質を除去していた。このような従来の方法では、建造物の竣工後に長期間の放置期間(コンクリートの枯らし期間)を要し、建造物の利用が遅れるという問題を有している。
【0005】
また、特開2000−8614公報には、コンクリート構造体から発生するアルカリ物質を除去するために、コンクリート構造体の表面を水で湿潤し、乾燥させるという方法が提案されているが、さらなる湿潤−乾燥期間の短縮が望まれている。
【特許文献1】特開2000−8614
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、打設後のコンクリート構造体から早期に主としてアルカリ物質を除去し、コンクリートの枯らし期間を大幅に短縮することができる、コンクリート構造体の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るコンクリート構造体の処理方法は、
打設後のコンクリート構造体の処理方法であって、該コンクリート構造体の表面を少なくとも微細な気泡を含む処理水で濡らした後乾燥させる湿潤−乾燥処理を1サイクルとして、このサイクルを所定期間にわたって繰り返すことによって、該コンクリート構造体中のアルカリ成分を早期に除去することができる。
【0008】
本発明に係るコンクリート構造体の処理方法において、
前記サイクルは、1日当たり、平均で1〜3回行われることが好ましい。
【0009】
本発明に係るコンクリート構造体の処理方法において、
前記所定期間は、7〜14日であることが好ましい。
【0010】
本発明に係るコンクリート構造体の処理方法において、
前記所定期間は、前記コンクリート構造体のコンクリート強度が約80%発現するまでの期間であることが好ましい。
【0011】
本発明に係るコンクリート構造体の処理方法において、
前記コンクリート構造体の表面は、散水によって湿潤することができる。
【0012】
本発明に係るコンクリート構造体の処理方法において、
床を構成するコンクリート構造体は、その上に処理水をためることにより湿潤されることができる。
【0013】
本発明に係るコンクリート構造体の処理方法において、
所定期間の湿潤−乾燥工程が終了した後に、さらに、換気および除湿処理が行われることができる。
【0014】
本発明に係るコンクリート構造体の処理方法において、
前記コンクリート構造体の表面を前記処理水で濡らす工程が終了した後に、該処理水を回収し、前記アルカリ成分の除去処理を行うことができる。
【0015】
本発明に係るコンクリート構造体の処理方法において、
前記除去処理は、活性炭、ゼオライト、イオン交換樹脂によって行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明が適用されたコンクリート構造体の処理方法の好適な実施の形態について述べる。
【0017】
本発明のコンクリート構造体の処理方法は、(a)湿潤−乾燥処理、(b)換気,除湿処理を有することができる。以下、各工程について述べる。
【0018】
(a)湿潤−乾燥処理
コンクリートを打設し、型枠を解体した後、コンクリート構造体の壁面、例えば柱、壁、床および天井などに、処理水で濡らした後乾燥させる湿潤−乾燥処理を1サイクルとして行い、これを所定期間にわたって行う。この湿潤−乾燥処理のサイクルは、1日当たり平均1〜3回、好ましくは2〜3回の頻度で行われることが望ましい。また、この所定期間は、構造体(部屋)の大きさなどによって必ずしも限定されないが、好ましくはコンクリート強度が80%程度発現するまでの期間、例えば型枠解体後から7〜14日間、好ましくは10〜12日間にわたって行われることが望ましい。
【0019】
本実施形態における処理水としては、少なくとも微細な気泡(以下、「微細気泡」という)を含む水を用いることができる。微細気泡を圧壊させることにより生じるフリーラジカルによって、コンクリート構造体に含まれるアルカリ成分が効果的に分解される。また、処理水に微細気泡を含まない場合に比べ、コンクリート構造体に散水する水量を減らすことができる。
【0020】
ここで、微細気泡とは、1〜100μm以下の気泡径をもつ気泡であり、マイクロバブルやナノバブルと呼ばれている微細な気泡を含むことができる。微細気泡は、刺激された気泡が急激に縮小することで形成され、この作用は気泡の断熱圧縮、表面電荷の過剰な濃縮等を伴う。
【0021】
また、通常の気泡は液体中を上昇して液体表面ではじけるのに対して、微細気泡は水中で消滅するという特徴がある。したがって微細気泡は、通常の気泡に比べ液体中に長時間とどまって気泡状態を維持し、コンクリート構造体内部まで十分に浸透することができる。
【0022】
微細気泡の圧壊とは、微細な気泡が縮小して消滅することであり、断熱圧縮や濃縮した表面電荷により生じたエネルギーが発散されることでフリーラジカルが発生する。発生したフリーラジカルは、コンクリート構造体に含まれるアルカリ成分を効果的に分解することができる。
【0023】
さらに、微細気泡は以下の特徴を有することができる。
【0024】
直径100μmの微細気泡では、表面張力によって気液界面の圧力差が約30気圧になる。このような微細気泡がはじけると、ジェット流が発生し物体の洗浄や、高圧による汚れを分解する化学反応の促進という効果が期待できる。
【0025】
また、微細気泡が有する静電分極効果によって、界面活性剤と同様な効果である汚れの分離や殺菌効果等が期待できる。
【0026】
さらに、微細気泡は、表面活性が高いという特徴を有するため、汚れ成分を気泡表面に吸着させることができ、また、通常の気泡に比べ表面積が大きいため、汚れ成分の浄化速度の促進が期待できる。したがって、微細気泡を含む水でコンクリート構造体表面を濡らすことで、洗浄、殺菌を効果的に行うことができる。
【0027】
本実施形態における微細気泡は、物理的に形成することができる。微細気泡発生装置は、以下の装置に限定されるものではないが、例えば本実施形態における微細気泡を形成させる装置として、(株)シーズジャパン製の超微細気泡発生装置NS−400およびNS−200を用いた。なお、特開2003−265938号公報、特開2006−142300号公報、特開2005−245817号公報、特開2006−326565号公報等にあげられた微細気泡発生装置を用いることもできる。
【0028】
以下、上記公開公報に開示された技術について説明する。
【0029】
特開2003−265938号公報に記載された微細気泡発生装置について、以下に述べる(段落0008〜0020、図1〜6参照)。当該微細気泡発生装置において、まず貯溜槽からくみ上げられた水が、加圧された空気と混合される(段落0009、図1)。空気と混合された水は、空気と水の攪拌,混合が行われる経路が設けられた気体溶解装置を通過させることによって、空気が微細な気泡となり水に含まれる(段落0010〜0013、図1〜3)。その後、微細気泡を含む水は、メッシュ状の複数の通水孔を有する吐出ノズルを通過させることで、さらに微細化される(段落0014〜0017、図1、図4〜6)。吐出ノズルから前記貯溜槽に吐出された微細気泡を含む水は、該貯溜槽の側壁に衝突することで、さらに微細化され、10μm以下の気泡を得ることができる(0018、図1、図6)。
【0030】
特開2006−142300号公報に記載された旋回式微細気泡発生装置について、以下に述べる(段落0021〜0023、図1参照)。当該旋回式微細気泡発生装置において、まず液体を、気体と液体を旋回し混合する気液旋回部に導入して、均等な液圧で旋回させ、旋回流を発生させる(段落0021〜0022、図1)。旋回流を発生させた液体は、中心部が遠心力によって負圧となり、負圧空洞部分が形成される(段落0022、図1)。前記負圧空洞部分に送り込まれた気体は、旋回流のせん断力によって細分化され、前記液体と混合されることで、微細気泡を得ることができる(段落0023、図1)。
【0031】
特開2005−245817号公報に記載された微小気泡発生装置について、以下に述べる(段落0020〜0037、図5〜7参照)。第1の微小気泡発生装置において、まず水溶液と気体を混合して発生させた微小気泡を含む水溶液が、陽極および陰極を含む容器へ送られる(段落0021、図5)。微小気泡を含む水溶液は、放電発生装置による水中放電に伴う物理的刺激によって、さらに縮小されナノレベルの気泡を得ることができる(段落0024〜0025、図5)。また、第2の微小気泡発生装置において、まず水溶液と気体を混合して発生させた微小気泡を含む水溶液は、超音波発生装置を含む容器に送られる(段落0028、図6)。微小気泡を含む水溶液は、超音波の照射によって、ナノレベルの気泡が得ることができる(段落0030、図6)。次に、第3の微小気泡発生装置において、まず水溶液と気体を混合して発生させた微小気泡を含む水溶液が、水溶液を循環させるための循環ポンプを有する容器へ送られる(段落0032、図7)。微小気泡を含む水溶液は、前記循環ポンプが有する多数の孔を持つオリフィスを通過させることで圧縮,膨張,渦流が生じる。水溶液に含まれる微小気泡は、圧縮,膨張,渦流によって縮小され、ナノレベルの気泡を得ることができる(段落0032〜段落0034、図7)。
【0032】
特開2006−326565号公報に記載された泡包含流動体生成装置について、以下に述べる(段落0024〜0054、図1〜3参照)。当該泡包含流動体生成装置において、まず水と気体を混合させることで発生した泡を含む水を、細い通孔を備えた導管を多数束ねて形成される泡破砕管に通し大まかに破砕させる(段落0027〜0032、段落0054、図1〜3)。大まかに破砕された泡を含む水は、ステンレス製の細長い紐状材料を不規則に折り曲げて形成される泡破砕帯紐体によって満たされた空間を通り抜けることで、不規則に加速,減速されたり、エッジ部で裁断されたりすることで、泡がさらに細かく破砕される(段落0033〜0038、図1〜2、図4)。次に、細かく破砕された泡を含む水は、泡を細分化する手段で知られているオリフィスを通すこと加速,減速されることによって、泡がさらに微細化され、マイクロメートル(μm)単位で計測される泡を含む水を得ることができる(段落0045〜0050、図1〜2)。
【0033】
コンクリート構造体の表面を濡らす方法としては、壁、柱および天井については散水によるのが望ましい。散水によって、処理水に含まれた微細気泡の圧壊が促進されるため、効果的にアルカリ成分を分解することができる。床については、水深が1〜2cm程度の処理水を張っておくことが望ましい。コンクリート構造体の表面を乾燥させる方法としては、自然乾燥、または加熱装置を用いて、温度30〜40℃、相対湿度40〜50%の室内環境において行うことが望ましい。また、散水時に圧壊せずに残っていた微細気泡が、乾燥によって圧壊することで、さらに効果的にアルカリ物質を分解することができる。
【0034】
本発明のサイクルの湿潤−乾燥処理は、散水などによってコンクリート構造体の表面を濡らした後、自然乾燥あるいは強制乾燥によって表面が乾燥するまで放置することによって行われる。コンクリート構造体の表面の乾燥状態は、目視による観察で行うことができる。
【0035】
コンクリート構造体の表面を処理水で濡らす工程が終了した後に、処理水を回収し、処理水中のアルカリ成分の除去処理を行うことができる。処理水中に含まれるアルカリ成分の除去処理は、例えば活性炭、ゼオライト、イオン交換樹脂等によって行うことができる。また、アルカリ成分や界面活性剤の除去処理が行われた後の水は、再び処理水として調整し、再利用することができる。また、本実施形態における微細気泡は物理的な方法によって形成される。したがって、界面活性剤等を加えることで微細気泡を形成した場合に比べ、散水後の排水処理および排水の再利用が容易に行うことができ、環境への負荷を低減することができる。
【0036】
なお、本発明における湿潤−乾燥処理は、一般的にコンクリート養生で行われる湿潤養生とは、以下の点で異なる。
【0037】
(1)1日当たり平均1〜3回の頻度で、所定期間にわたって湿潤−乾燥処理を行うこと。
【0038】
(2)床面に深さ1〜2cm程度の水をはり、所定材令まで保持すること。
【0039】
(3)場合によっては、加熱装置を用いて室内を加温すること。
【0040】
(b)換気,除湿処理
上述した所定期間の湿潤−乾燥処理が終了した後は、所定期間にわたって換気および除湿処理が行われる。換気、除湿処理を行うことよって、アンモニア等のアルカリ物質を室内から強制的に排気することができる。この換気,除湿処理は、防爆型(例えばプラスチック製)送風器および除湿乾燥機を用いて行うことができる。この換気,除湿処理は、コンクリート構造体(部屋)の大きさなどによって異なるが、例えば40〜50日間にわたって行われることが望ましい。
【0041】
本発明によれば、湿潤−乾燥処理を所定期間にわたって繰り返すことによって、打設後のコンクリートからアルカリ物質、例えばアンモニア、カルシウム化合物、カリウム化合物、アミン類などを短期間に多量に除去することができ、その結果、コンクリートの枯らし期間を大幅に短縮することができる。コンクリートの枯らし期間の短縮の程度は、コンクリート構造体(部屋)の大きさなどによって異なるが、例えば従来の放置によるコンクリート枯らし期間に比べて、約1/10〜1/15に短縮することができ、また水のみを散水する方法に比べて、約1/3〜1/4に短縮することができる。
【0042】
本発明によれば、上述したようにコンクリートの枯らし期間を大幅に短縮することができ、早期に建造物を利用することができる。そして、このコンクリート枯らし期間において、アルカリ物質などの特定の物質を吸着するための高価なフィルターを有する空気清浄装置などを必要とせず、アルカリ物質の除去を低コストで行うことができる。
【0043】
本発明が適用されたコンクリート構造体の処理方法によれば、微細気泡を含む処理水を用いることによって、コンクリート構造体からアルカリ物質を短期間に除去することができる。すなわち、本発明によれば、微細気泡を含んだ処理水を用いることで、微細気泡を含まない場合に比べて、湿潤−乾燥サイクルを少なくすることができ、湿潤−乾燥サイクルを一定期間おこなう所定期間を短くすることで、コンクリートの枯らし期間を大幅に短縮することができる。
【0044】
本発明の処理方法は、アルカリ物質が室内に存在しないか、あるいはその量が少ないことが要求されるコンクリート構造体、例えば美術館、博物館、公文書館などの特殊な展示室や半導体製造に用いられるクリーンルームなどの構築に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
打設後のコンクリート構造体の処理方法であって、該コンクリート構造体の表面を少なくとも微細な気泡を含む処理水で濡らした後乾燥させる湿潤−乾燥処理を1サイクルとして、このサイクルを所定期間にわたって繰り返すことによって、該コンクリート構造体中のアルカリ成分を早期に除去することを特徴とするコンクリート構造体の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記サイクルは、1日当たり、平均で1〜3回行われることを特徴とするコンクリート構造体の処理方法。
【請求項3】
請求項1ないし2のいずれかにおいて、
前記所定期間は、7〜14日であることを特徴とするコンクリート構造体の処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし2のいずれかにおいて、
前記所定期間は、前記コンクリート構造体のコンクリート強度が約80%発現するまでの期間であることを特徴とするコンクリート構造体の処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記コンクリート構造体の表面は、散水によって湿潤されることを特徴とするコンクリート構造体の処理方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
床を構成するコンクリート構造体は、その上に処理水をためることにより湿潤されることを特徴とするコンクリート構造体の処理方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
所定期間の湿潤−乾燥工程が終了した後に、さらに、換気および除湿処理が行われることを特徴とするコンクリート構造体の処理方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記コンクリート構造体の表面を前記処理水で濡らす工程が終了した後に、該処理水を回収し、前記アルカリ成分の除去処理が行われることを特徴とするコンクリート構造体の処理方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかにおいて、
前記除去処理は、活性炭、ゼオライト、イオン交換樹脂によって行われることを特徴とするコンクリート構造体の処理方法。

【公開番号】特開2010−95880(P2010−95880A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266182(P2008−266182)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【Fターム(参考)】