コンデンサ及びパルス成形回路
【課題】寄生インダクタンスを低減し、パルス成形回路で優れた立ち上がり特性のパルスを得ることができるコンデンサ及びパルス成形回路を提供する。
【解決手段】外側が絶縁体で被覆されるコンデンサ本体12と、コンデンサ本体12の一の面から突出して設けられる一方の接続端子13と、コンデンサ本体12の他の面から突出して設けられる他方の接続端子14と、コンデンサ本体12を収容し、一方の接続端子13の周囲に開口151を有すると共に、コンデンサ本体12の開口151以外の領域を被覆する金属ケース15とを備え、他方の接続端子14を金属ケース15に電気的に接続するコンデンサ10、及びこのコンデンサ10を複数接続して構成されるパルス成形回路20。
【解決手段】外側が絶縁体で被覆されるコンデンサ本体12と、コンデンサ本体12の一の面から突出して設けられる一方の接続端子13と、コンデンサ本体12の他の面から突出して設けられる他方の接続端子14と、コンデンサ本体12を収容し、一方の接続端子13の周囲に開口151を有すると共に、コンデンサ本体12の開口151以外の領域を被覆する金属ケース15とを備え、他方の接続端子14を金属ケース15に電気的に接続するコンデンサ10、及びこのコンデンサ10を複数接続して構成されるパルス成形回路20。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば加速器に用いられるパルス成形回路を構成するコンデンサ及びパルス成形回路に関する。
【背景技術】
【0002】
電子、陽子等を加速して、原子核、素粒子等の研究に用いる加速器は、加速用のマイクロ波源に非常に大きな出力を必要とするために、所要電力、耐圧等によってはパルス運転される。このマイクロ波源であるパルス電源には、尖頭電力が200MW(パルス幅、数μs)を越えるものもあり、特にパルスの立ち上がり時間が高速であり、パルスの頂が平坦で変動の少ないことが求められるが、大出力でこのような条件を満たすパルス電源を得ることは非常に難しい。
【0003】
一般的に、大出力のパルスを送出するパルス電源には、低電力のパルスを順次増幅して高電力パルスを出力する増幅方式のパルス電源と、適当なパルス成形回路(PFN)に電気エネルギーを蓄えておき、大容量のスイッチ素子で放電させて高電力のパルスを出力するPFN方式のパルス電源とがある。増幅方式は、パルス特性の良い出力を得ることが容易であるものの、大出力の場合には大型、複雑となり非常に高価になることから、小型、簡単で安価なPFN方式が主として用いられている。PFN方式のパルス電源は、例えば図9に示すように、直流電源91と、直流電源91に接続された充電回路92と、充電回路92に直列配置で接続されるパルス成形回路93及び負荷94と、パルス成形回路93及び負荷94に並列に接続されるスイッチング素子95とから構成される。
【0004】
このPFN方式のパルス電源に用いるパルス成形回路93には、負荷に等しい特性インピーダンスを有する高周波用同軸ケーブル等の伝送線路を用いる方式と、コイル、コンデンサを用いる集中定数回路方式とがある。
【0005】
伝送線路方式のパルス成形回路93には、例えば図10に示すように、パルス成形回路93として高周波同軸ケーブル等である長さLの伝送線路931が用いられる。この伝送線路方式では、電磁波が伝送線路931を往復する時間によってパルス幅が決まり、5μsのパルス幅を得るには、伝送線路931にRG/8U同軸ケーブル(波長短縮率0.67)を用いると500mという長いケーブルが必要になる。また、使用するケーブルの損失と周波数特性により、パルスの頂の平坦度及び立ち下がり特性が劣化する。更に、実用的には、同軸ケーブルの耐電圧、インピーダンス選択の自由度、容積、重量、価格等の制約があるため、大出力用としてはあまり用いられない。
【0006】
集中定数回路方式のパルス成形回路93には、例えば図11に示すように、パルス成形回路93としてコイル932及びコンデンサ933を複数段であるn段接続した構成が用いられる。この構成は遅延回路として知られており、nの値を無限大にすると同軸ケーブルと等価な分布定数回路となる。この方式に於けるパルス成形回路93の特性インピーダンスはZ0=(L/C)1/2、そのパルス幅はτ=2n(LC)1/2 となる(L:コイルのインダクタンス、C:コンデンサの容量)。そして、パルスの立ち上がり特性は、パルス成形回路93の初段のコイル932のインダクタンス、コンデンサ933の容量及び負荷94の値によって決まる。この集中定数回路方式のパルス成形回路93は、設計の自由度が高いので広く使用されている。尚、特許文献1には、加速器のパルス電源に用いる集中定数回路方式のパルス成形回路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−200002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、原子核物理学、素粒子物理学の根源的な問題に迫るために、日本に於ける大強度陽子加速器施設(J−PARC)、米国のフェルミ国立加速器研究所(FNAL)、スイスのヨーロッパ共同原子核研究機構(CERN)において、大規模な加速器施設の建設が進められており、日本、米国、欧州で研究競争が展開されている。そして、これらの大規模な加速器では、より強度のビームを研究者に供給することを可能にする高度な条件を有する大電力高速パルスの生成が求められている。例えばJ−PARCの50GeV主リングシンクロトロン(MR)では、尖頭電力245MW(35kV/7kA)、パルス幅4.3μs、立ち上がり時間1μs以下、パルス平坦度1%以下(平坦部4.3μs以上)の大電力高速パルスの生成が求められている。
【0009】
斯様な大電力高速パルスを集中定数回路方式のパルス成形回路で生成することは、使用可能なコイル、コンデンサの選択に自由度が少ないことに加え、コンデンサの構造等に基因する寄生インダクタンスによりパルスの立ち上がり特性に劣化が生ずるため、非常に難しくなっている。
【0010】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、寄生インダクタンスを低減し、パルス成形回路で優れた立ち上がり特性のパルスを得ることができるコンデンサ及びパルス成形回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のコンデンサは、外側が絶縁体で被覆されるコンデンサ本体と、前記コンデンサ本体の一の面から突出して設けられる一方の接続端子と、前記コンデンサ本体の他の面から突出して設けられる他方の接続端子と、前記コンデンサ本体を収容し、前記一方の接続端子の周囲に開口を有すると共に、前記コンデンサ本体の前記開口以外の領域を被覆する金属ケースとを備え、前記他方の接続端子を前記金属ケースに電気的に接続することを特徴とする。
前記構成によれば、接続端子間を高周波電流が流れた場合に、高周波電流で誘導された磁束が金属ケースで遮蔽され、金属ケースの内面に渦電流が発生し、誘導された磁束が渦電流でシールドされて磁気エネルギーの蓄積される空間が狭くなり、エネルギーが上昇せずに固有のインピーダンスを小さくすることができる。即ち、等価的に寄生インダクタンスの発生を抑制し、寄生インダクタンスを低減することができる。そして、このコンデンサをパルス成形回路に用いた場合には、寄生インダクタンスの抑制により、パルス成形回路で優れた立ち上がり特性のパルスを得ることができ、例えば大電力高速パルスを生成するパルス電源に使用することができる。また、寄生インダクタンスの低減により、パルス平坦度を向上することができる。
【0012】
本発明のコンデンサは、前記金属ケースと前記コンデンサ本体とを近接して設けることを特徴とする。前記近接して設ける場合には、金属ケースとコンデンサ本体の絶縁体とを密接して設ける場合と、金属ケースとコンデンサ本体の絶縁体とが部分的に離れている場合と、金属ケースとコンデンサ本体の絶縁体とが全体的に離れている場合を含み、部分的又は全体的に離れている場合の金属ケースとコンデンサ本体の絶縁体との離間距離は金属ケースの内寸の公差とコンデンサ本体の外寸の公差との和であり、例えば4mm以下である場合を意味する。
前記構成によれば、金属ケースとコンデンサ本体との間に隙間が開いて隙間が大きくなると、その隙間に電荷が集中して金属ケースとコンデンサ本体との間で放電が生ずる可能性が高くなるが、金属ケースとコンデンサ本体とを近接して設けることにより、放電の発生を確実に防止することができる。
【0013】
本発明のコンデンサは、前記金属ケースと前記コンデンサ本体との間に絶縁材を充填することを特徴とする。
前記構成によれば、金属ケースとコンデンサ本体との間に隙間が開いて隙間が大きくなると、その隙間に電荷が集中して金属ケースとコンデンサ本体との間で放電が生ずる可能性が高くなるが、金属ケースとコンデンサ本体との間に絶縁材を充填することにより、放電の発生を確実に防止することができる。
【0014】
本発明のコンデンサは、前記金属ケースの前記開口の周縁をコロナリングで被覆することを特徴とする。
前記構成によれば、一方の接続端子と開口の周縁である金属ケースの端面との間に放電が生ずることを防止することができる。
【0015】
本発明のパルス成形回路は、本発明のコンデンサを複数接続して構成されることを特徴とする。
前記構成によれば、優れた立ち上がり特性のパルスを生成する集中定数回路方式のパルス成形回路を得ることができ、大電力高速パルスを生成するパルス電源を容易且つ安価に構成することができる。
【0016】
本発明のパルス成形回路は、前記一方の接続端子とコイルとを設置位置において空間距離及び円面距離から可能な範囲で幅の広い接続板、例えば幅10mm以上の接続板を介して接続することを特徴とする。
前記構成によれば、接続板が長い場合にも接続板で生ずる寄生インダクタンスを抑制することができ、パルス成形回路のパルスの立ち上がり特性を一層向上することができると共に、抵抗を減少してパルスの大電流をスムーズに流すことができる。
【0017】
本発明のパルス成形回路は、複数の前記コンデンサの前記金属ケースを、前記開口側で電気的に相互接続することを特徴とする。
前記構成によれば、一方の接続端子から流される高周波電流のリターン回路を金属ケースの内面のみに形成し、高周波電流で誘導された磁気エネルギーをコンデンサの内部に閉じ込めることが可能となり、寄生インダクタンスの更なる低減や浮遊容量の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のコンデンサ或いはパルス成形回路は、寄生インダクタンスを低減することができ、パルス成形回路で優れた立ち上がり特性のパルスを得ることができる。また、寄生インダクタンスの低減により、パルス平坦度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は本発明による実施形態のコンデンサの平面図、(b)はその一部断面説明図、(c)はその底面図。
【図2】実施形態のコンデンサにおける高周波電流Iと磁束φと渦電流Eとの関係を説明する説明図。
【図3】実施形態のコンデンサを接続して構成するパルス成形回路の一部を示す説明図。
【図4】図3のパルス成形回路におけるコンデンサの連結板による接続を説明する斜視説明図。
【図5】(a)は実施形態のコンデンサによるパルス成形回路のリターン回路の説明図、(b)は比較例のリターン回路の説明図。
【図6】本発明によるパルス成形回路の立ち上がり特性と従来例のパルス成形回路の立ち上がり特性を示す図。
【図7】変形例のコンデンサを接続して構成するパルス成形回路の一部を示す説明図。
【図8】(a)は本発明による変形例のパルス成形回路の等価回路図、(b)は従来例のパルス成形回路の等価回路図。
【図9】従来のPFN方式のパルス電源の回路説明図。
【図10】従来のPFN方式による伝送線路方式のパルス電源の回路説明図。
【図11】従来のPFN方式による集中定数回路方式のパルス電源の回路説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔実施形態のコンデンサ及びパルス成形回路〕
本発明による実施形態のコンデンサ及びパルス成形回路について図面を参照して説明する。図1は実施形態のコンデンサの図、図2は実施形態のコンデンサにおける高周波電流Iと磁束φと渦電流Eとの関係を説明する説明図、図3は実施形態のコンデンサを接続して構成するパルス成形回路の一部を示す説明図。図4は図3のパルス成形回路におけるコンデンサの連結板による接続を説明する斜視説明図である。
【0021】
本実施形態のコンデンサ10は、図1に示すように、絶縁体で外側が被覆されているコンデンサ本体12と、コンデンサ本体12の一の面から突出して設けられる一方の接続端子13と、コンデンサ本体12の他の面から突出して設けられる他方の接続端子14と、コンデンサ本体12を収容する導電性の金属ケース15とを備える。
【0022】
コンデンサ本体12は、例えば略直方体形であり、外側を全体に亘ってプラスチック等の絶縁体で被覆されている。コンデンサ本体12の一方の接続端子13と他方の接続端子14は、略直方体形の一の面とこれと反対側の他の面からそれぞれ突出して設けられ、相対する面にそれぞれ設けられている。コンデンサ本体12、一方の接続端子13及び他方の接続端子14で構成される部分には、例えば市販の高電圧コンデンサ(ジェネラルアトミックス社 ダブルエンド プラスチックケース高電圧コンデンサ)等を用いることが可能である。
【0023】
金属ケース15は、例えば2〜3mm程度の厚さの銅板等で形成される略直方体形である。金属ケース15には、収容されるコンデンサ本体12の一方の接続端子13の周囲に、絶縁距離を確保するための開口151が形成されている。また、金属ケース15は、開口151以外の領域ではコンデンサ本体12を被覆しており、他方の接続端子14は、ボルト16で金属ケース12の前記他の面側の内面に固定され、金属ケース12に電気的に接続されている。
【0024】
金属ケース15とコンデンサ本体12の外側の絶縁体とは近接して設けられている。この近接して設ける場合は、金属ケース15とコンデンサ本体12の絶縁体とを密接して設ける場合と、金属ケース15とコンデンサ本体12の絶縁体とが部分的に離れている場合と、金属ケース15とコンデンサ本体12の絶縁体とが全体的に離れている場合を包含し、部分的又は全体的に離れている場合の金属ケースとコンデンサ本体の絶縁体との離間距離は金属ケースの内寸の公差とコンデンサ本体の外寸の公差との和であり、例えば4mm以下である場合を意味する。
【0025】
コンデンサ10には、一方の接続端子13と他方の接続端子14間に高周波電流が流された場合、図2に示すように、高周波電流Iによって誘導された磁束φが金属ケース15で遮蔽され、金属ケース15の表面内に渦電流Eが発生する。この渦電流Eは誘導された磁束φをシールドするので、磁気エネルギーの蓄積される空間が狭くなり、エネルギーの上昇を抑制し、固有のインピーダンスを小さくすることができる。そして、等価的に寄生インダクタンスの発生を抑制し、低減することが可能である。
【0026】
コンデンサ10により集中定数回路方式のパルス成形回路20を構成する場合には、図3及び図4に示すように、コンデンサ10を複数接続して構成し、例えば図3に示すように、コンデンサ10の一方の接続端子13と銅パイプ等の導電性の螺旋状に巻かれたコイル21とを、接続板221、222とコイル取付部材231、232を介して複数段接続し、パルス成形回路20を構成する。特に言及しない部分については通常の集中定数回路方式のパルス成形回路の構成を用いることが可能である。
【0027】
図示上側のコイル取付部材231は、先端にフック部2311を有する板状であり、フック部2311を図示左側のコイル21の上端に引っ掛け、半田付け等によりコイル21に取り付けられている。接続板221は、正面視略Z字形であり、図示上側の屈曲部をコイル取付部材231にボルト締め等で固定されている。接続板222は正面視略逆Ω字形であり、図示左端の屈曲部を接続板221の図示下側の屈曲部にボルト締め等で固定されていると共に、その中央部がボルト締め等で一方の接続端子13に固定されて接続されている。フック取付部材232は、先端にフック部2321を有する板状であり、フック部2321を図示右側のコイル21の下端に引っ掛け、半田付け等によりコイル21に取付けられていると共に、接続板222の図示右側の屈曲部にボルト締め等で固定されている。尚、本発明における接続板の構成は適宜であり、1つの接続板及びコイル21とで一方の接続端子13・13間を接続する構成、或いはコイル取付部材231、232を設けずに接続板の端部にコイル21の端部を挿入可能な例えばフック部2311、2321のような挿入係合部を設けて接続板で接続する構成等とすることが可能である。
【0028】
一方の接続端子13とコイル21とを接続板221、222を用いずに直接接続すること、あるいは一方の接続端子13とコイル21とを接続する接続板221、222は、寄生インダクタンスの低減を図るために極力短くすることが好ましいが、コンデンサ10とコイル21との配置等により長くなる場合には、接続板221、222の板幅を空間距離及び沿面距離を充分配慮のうえ、可能な範囲で広くし、寄生インダクタンスの抑制を図ると共に、抵抗を少なくしてパルス大電流をスムーズに流すことができるようにすることが好ましい。この接続板221、222等の一方の接続端子13とコイル21とを接続する接続板は、パルス成形回路20に設置可能な範囲でできるだけ幅広にすると好適であり、例えば幅10mm以上の接続板とするとよい。
【0029】
板幅の広い接続板221、222の接続では一方の接続端子13とコイル21とを電気的に直接接続するのに近い効果を得ることができ、例えば図8(b)の二点鎖線で示す部分に生ずる寄生インダクタンス図8(a)のように無くすことができ、一方の接続端子13とコイル21とを接続板221、222等の接続部材で接続する場合に接続部材に生ずる寄生インダクタンスを無くし、パルス成形回路20のパルスの立ち上がり特性を一層向上することができる。
【0030】
パルス成形回路20における複数のコンデンサ10の金属ケース15は、その開口151側で電気的に相互接続し、本例では一のコンデンサ10の金属ケース15の開口151の周囲面と、その隣りに位置する他のコンデンサ10の金属ケース15の開口151の周囲面との上に、導電性の連結板24を配置して架設することにより、一のコンデンサ10の金属ケース15と他のコンデンサ10の金属ケース15とを電気的に相互接続している。尚、パルス大電流が流れることから、連結板24と金属ケース15及び接地箇所は複数個のボルト等により確実に固定することが好ましい。
【0031】
上記パルス成形回路20の構成により、コンデンサ10の金属ケース15のどの位置を接地しても連結板24の部分が接地電位となり、一方の接続端子13よりコンデンサ10に流入する高周波電流Iのリターン回路は、図5(a)に示すように、コンデンサ10の金属ケース15の内面のみに最短距離で形成され、一方の接続端子13からコンデンサ10に流入する高周波電流Iに誘導された磁気エネルギーはコンデンサ10の内部に閉じ込められる。
【0032】
これに対して、一と他のコンデンサ10・10を上記実施形態と異なる箇所、例えば図5(b)に示すように金属ケース15・15を他方の接続端子14側の面で連結板24により連結すると、一方の接続端子13よりコンデンサ10に流入する高周波電流Iのリターン回路は、コンデンサ10の金属ケース15の内面だけでなく外面にも形成される。この場合、一方の接続端子13よりコンデンサ10に流入する高周波電流Iに誘導された磁気エネルギーは、コンデンサ10の内部のみに閉じ込められず、コンデンサ10の外部にも広がって寄生インダクタンス及び浮遊容量が増加する。尚、パルス成形回路20における複数のコンデンサ10の金属ケース15は、上記の如く、金属ケース15の開口151側で電気的に相互接続すると好適であるが、それ以外の箇所で接続する構成も本発明は包含するものである。
【0033】
本実施形態のコンデンサ10及びパルス成形回路20は、コンデンサ10をパルス成形回路20に用いた場合に、寄生インダクタンスを低減して寄生インダクタンスに流れる電流を抑制し、優れた立ち上がり特性のパルスを得ることができ、例えば大電力高速パルスを生成するパルス電源に使用することができる。また、寄生インダクタンスの低減により、パルスの脈動を下げ、尖頭電力に対するバラツキの程度であるパルス平坦度を向上することができる。また、金属ケース15とコンデンサ本体12との近接して設けることにより、コンデンサ本体12と金属ケース15との間の隙間を無くし、コンデンサ本体12と金属ケース15との間で放電が生ずることを確実に防止できる。複数のコンデンサ10の金属ケース15を開口151側で電気的に相互接続することにより、磁気エネルギーをコンデンサ10の内部に閉じ込め、寄生インダクタンスの更なる低減や浮遊容量の低減を図ることができる。
【0034】
〔実施例〕
上記実施形態のコンデンサ10によるパルス成形回路20(図中のA参照)と、金属ケース15等を有せずにコンデンサ本体及びその一方と他方の接続端子とから構成される通常の高電圧コンデンサによるパルス成形回路(図中のB参照)との比較実験結果を図6に示す。各パルス成形回路は、コンデンサ20pF、コイル500nH、段数30段としている。図6より明らかなように、各々の立ち上がり時間は、Aの場合は0.7μs、Bの場合は0.8μsであり、コンデンサ10及びパルス成形回路20の効果が実証されている。
【0035】
〔実施形態の変形例等〕
本明細書開示の発明には、各発明や実施形態等の構成の他に、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものも含まれる。
【0036】
例えば上記実施形態では、金属ケース15とコンデンサ本体12とを近接して設ける構成としたが、これに代えて、金属ケース15とコンデンサ本体12の絶縁体との間に絶縁材を充填して設ける構成とすることも可能である。充填する絶縁材としては、隙間に注入して充填しやすい流動性を有するものとすると好適であり、更にはコンデンサ本体12の外側の絶縁体の材質とほぼ同等の誘電率を有する絶縁材とすることが好ましい。より好適には、コンデンサ本体12の絶縁体の材質と同じ誘電率を有する絶縁材を充填するとよい。この構成により、金属ケース15とコンデンサ本体12との間の隙間を無くし、隙間での放電の発生を確実に防止することができる。
【0037】
また、図7に示す変形例の如く、金属ケース15の開口151の周縁をコロナリング17で被覆する構成とすると好適である。図7の例では、断面略L字形のコロナリング17が連結板24の上側に配置され、その本体171で開口151の周縁近傍における金属ケース15の開口151側の面及びこれと積層する連結板24の開口151側の面を被覆し、その先端の折曲部172で開口151の周縁と連結板24の一方の接続端子13側を被覆し、ボルト締め等で金属ケース15の開口151の周囲の面に固定されている。この構成により、一方の接続端子13と開口151の周縁である金属ケース15の端面あるいは連結板24との間に放電が生ずることを防止できる。
【0038】
また、パルス成形回路20にコイル21の内部に出し入れ可能に導体を設け、コイルのインダクタンスを可変できるようにし、パルスの頂の平坦度を調整して高められるようにしてもよい。
【0039】
また、本発明のコンデンサ或いはパルス成形回路は、例えば加速器についてパルス変調器(モジュレータ)、キッカー電源等のパルス電源で使用できると共に、大電力パルスレーダ装置等でも使用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、例えば加速器のパルス電源に使用するパルス成形回路等として利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
10…コンデンサ 12…コンデンサ本体 13…一方の接続端子 14…他方の接続端子 15…金属ケース 151…開口 16…ボルト 17…コロナリング 171…本体 172…折曲部 20…パルス成形回路 21…コイル 221、222…接続板 231、232…コイル取付部材 2311、2321…フック部 24…連結板 91…直流電源 92…充電回路 93…パルス成形回路 931…伝送線路 932…コイル 933…コンデンサ 94…負荷 95…スイッチング素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば加速器に用いられるパルス成形回路を構成するコンデンサ及びパルス成形回路に関する。
【背景技術】
【0002】
電子、陽子等を加速して、原子核、素粒子等の研究に用いる加速器は、加速用のマイクロ波源に非常に大きな出力を必要とするために、所要電力、耐圧等によってはパルス運転される。このマイクロ波源であるパルス電源には、尖頭電力が200MW(パルス幅、数μs)を越えるものもあり、特にパルスの立ち上がり時間が高速であり、パルスの頂が平坦で変動の少ないことが求められるが、大出力でこのような条件を満たすパルス電源を得ることは非常に難しい。
【0003】
一般的に、大出力のパルスを送出するパルス電源には、低電力のパルスを順次増幅して高電力パルスを出力する増幅方式のパルス電源と、適当なパルス成形回路(PFN)に電気エネルギーを蓄えておき、大容量のスイッチ素子で放電させて高電力のパルスを出力するPFN方式のパルス電源とがある。増幅方式は、パルス特性の良い出力を得ることが容易であるものの、大出力の場合には大型、複雑となり非常に高価になることから、小型、簡単で安価なPFN方式が主として用いられている。PFN方式のパルス電源は、例えば図9に示すように、直流電源91と、直流電源91に接続された充電回路92と、充電回路92に直列配置で接続されるパルス成形回路93及び負荷94と、パルス成形回路93及び負荷94に並列に接続されるスイッチング素子95とから構成される。
【0004】
このPFN方式のパルス電源に用いるパルス成形回路93には、負荷に等しい特性インピーダンスを有する高周波用同軸ケーブル等の伝送線路を用いる方式と、コイル、コンデンサを用いる集中定数回路方式とがある。
【0005】
伝送線路方式のパルス成形回路93には、例えば図10に示すように、パルス成形回路93として高周波同軸ケーブル等である長さLの伝送線路931が用いられる。この伝送線路方式では、電磁波が伝送線路931を往復する時間によってパルス幅が決まり、5μsのパルス幅を得るには、伝送線路931にRG/8U同軸ケーブル(波長短縮率0.67)を用いると500mという長いケーブルが必要になる。また、使用するケーブルの損失と周波数特性により、パルスの頂の平坦度及び立ち下がり特性が劣化する。更に、実用的には、同軸ケーブルの耐電圧、インピーダンス選択の自由度、容積、重量、価格等の制約があるため、大出力用としてはあまり用いられない。
【0006】
集中定数回路方式のパルス成形回路93には、例えば図11に示すように、パルス成形回路93としてコイル932及びコンデンサ933を複数段であるn段接続した構成が用いられる。この構成は遅延回路として知られており、nの値を無限大にすると同軸ケーブルと等価な分布定数回路となる。この方式に於けるパルス成形回路93の特性インピーダンスはZ0=(L/C)1/2、そのパルス幅はτ=2n(LC)1/2 となる(L:コイルのインダクタンス、C:コンデンサの容量)。そして、パルスの立ち上がり特性は、パルス成形回路93の初段のコイル932のインダクタンス、コンデンサ933の容量及び負荷94の値によって決まる。この集中定数回路方式のパルス成形回路93は、設計の自由度が高いので広く使用されている。尚、特許文献1には、加速器のパルス電源に用いる集中定数回路方式のパルス成形回路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−200002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、原子核物理学、素粒子物理学の根源的な問題に迫るために、日本に於ける大強度陽子加速器施設(J−PARC)、米国のフェルミ国立加速器研究所(FNAL)、スイスのヨーロッパ共同原子核研究機構(CERN)において、大規模な加速器施設の建設が進められており、日本、米国、欧州で研究競争が展開されている。そして、これらの大規模な加速器では、より強度のビームを研究者に供給することを可能にする高度な条件を有する大電力高速パルスの生成が求められている。例えばJ−PARCの50GeV主リングシンクロトロン(MR)では、尖頭電力245MW(35kV/7kA)、パルス幅4.3μs、立ち上がり時間1μs以下、パルス平坦度1%以下(平坦部4.3μs以上)の大電力高速パルスの生成が求められている。
【0009】
斯様な大電力高速パルスを集中定数回路方式のパルス成形回路で生成することは、使用可能なコイル、コンデンサの選択に自由度が少ないことに加え、コンデンサの構造等に基因する寄生インダクタンスによりパルスの立ち上がり特性に劣化が生ずるため、非常に難しくなっている。
【0010】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、寄生インダクタンスを低減し、パルス成形回路で優れた立ち上がり特性のパルスを得ることができるコンデンサ及びパルス成形回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のコンデンサは、外側が絶縁体で被覆されるコンデンサ本体と、前記コンデンサ本体の一の面から突出して設けられる一方の接続端子と、前記コンデンサ本体の他の面から突出して設けられる他方の接続端子と、前記コンデンサ本体を収容し、前記一方の接続端子の周囲に開口を有すると共に、前記コンデンサ本体の前記開口以外の領域を被覆する金属ケースとを備え、前記他方の接続端子を前記金属ケースに電気的に接続することを特徴とする。
前記構成によれば、接続端子間を高周波電流が流れた場合に、高周波電流で誘導された磁束が金属ケースで遮蔽され、金属ケースの内面に渦電流が発生し、誘導された磁束が渦電流でシールドされて磁気エネルギーの蓄積される空間が狭くなり、エネルギーが上昇せずに固有のインピーダンスを小さくすることができる。即ち、等価的に寄生インダクタンスの発生を抑制し、寄生インダクタンスを低減することができる。そして、このコンデンサをパルス成形回路に用いた場合には、寄生インダクタンスの抑制により、パルス成形回路で優れた立ち上がり特性のパルスを得ることができ、例えば大電力高速パルスを生成するパルス電源に使用することができる。また、寄生インダクタンスの低減により、パルス平坦度を向上することができる。
【0012】
本発明のコンデンサは、前記金属ケースと前記コンデンサ本体とを近接して設けることを特徴とする。前記近接して設ける場合には、金属ケースとコンデンサ本体の絶縁体とを密接して設ける場合と、金属ケースとコンデンサ本体の絶縁体とが部分的に離れている場合と、金属ケースとコンデンサ本体の絶縁体とが全体的に離れている場合を含み、部分的又は全体的に離れている場合の金属ケースとコンデンサ本体の絶縁体との離間距離は金属ケースの内寸の公差とコンデンサ本体の外寸の公差との和であり、例えば4mm以下である場合を意味する。
前記構成によれば、金属ケースとコンデンサ本体との間に隙間が開いて隙間が大きくなると、その隙間に電荷が集中して金属ケースとコンデンサ本体との間で放電が生ずる可能性が高くなるが、金属ケースとコンデンサ本体とを近接して設けることにより、放電の発生を確実に防止することができる。
【0013】
本発明のコンデンサは、前記金属ケースと前記コンデンサ本体との間に絶縁材を充填することを特徴とする。
前記構成によれば、金属ケースとコンデンサ本体との間に隙間が開いて隙間が大きくなると、その隙間に電荷が集中して金属ケースとコンデンサ本体との間で放電が生ずる可能性が高くなるが、金属ケースとコンデンサ本体との間に絶縁材を充填することにより、放電の発生を確実に防止することができる。
【0014】
本発明のコンデンサは、前記金属ケースの前記開口の周縁をコロナリングで被覆することを特徴とする。
前記構成によれば、一方の接続端子と開口の周縁である金属ケースの端面との間に放電が生ずることを防止することができる。
【0015】
本発明のパルス成形回路は、本発明のコンデンサを複数接続して構成されることを特徴とする。
前記構成によれば、優れた立ち上がり特性のパルスを生成する集中定数回路方式のパルス成形回路を得ることができ、大電力高速パルスを生成するパルス電源を容易且つ安価に構成することができる。
【0016】
本発明のパルス成形回路は、前記一方の接続端子とコイルとを設置位置において空間距離及び円面距離から可能な範囲で幅の広い接続板、例えば幅10mm以上の接続板を介して接続することを特徴とする。
前記構成によれば、接続板が長い場合にも接続板で生ずる寄生インダクタンスを抑制することができ、パルス成形回路のパルスの立ち上がり特性を一層向上することができると共に、抵抗を減少してパルスの大電流をスムーズに流すことができる。
【0017】
本発明のパルス成形回路は、複数の前記コンデンサの前記金属ケースを、前記開口側で電気的に相互接続することを特徴とする。
前記構成によれば、一方の接続端子から流される高周波電流のリターン回路を金属ケースの内面のみに形成し、高周波電流で誘導された磁気エネルギーをコンデンサの内部に閉じ込めることが可能となり、寄生インダクタンスの更なる低減や浮遊容量の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のコンデンサ或いはパルス成形回路は、寄生インダクタンスを低減することができ、パルス成形回路で優れた立ち上がり特性のパルスを得ることができる。また、寄生インダクタンスの低減により、パルス平坦度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は本発明による実施形態のコンデンサの平面図、(b)はその一部断面説明図、(c)はその底面図。
【図2】実施形態のコンデンサにおける高周波電流Iと磁束φと渦電流Eとの関係を説明する説明図。
【図3】実施形態のコンデンサを接続して構成するパルス成形回路の一部を示す説明図。
【図4】図3のパルス成形回路におけるコンデンサの連結板による接続を説明する斜視説明図。
【図5】(a)は実施形態のコンデンサによるパルス成形回路のリターン回路の説明図、(b)は比較例のリターン回路の説明図。
【図6】本発明によるパルス成形回路の立ち上がり特性と従来例のパルス成形回路の立ち上がり特性を示す図。
【図7】変形例のコンデンサを接続して構成するパルス成形回路の一部を示す説明図。
【図8】(a)は本発明による変形例のパルス成形回路の等価回路図、(b)は従来例のパルス成形回路の等価回路図。
【図9】従来のPFN方式のパルス電源の回路説明図。
【図10】従来のPFN方式による伝送線路方式のパルス電源の回路説明図。
【図11】従来のPFN方式による集中定数回路方式のパルス電源の回路説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔実施形態のコンデンサ及びパルス成形回路〕
本発明による実施形態のコンデンサ及びパルス成形回路について図面を参照して説明する。図1は実施形態のコンデンサの図、図2は実施形態のコンデンサにおける高周波電流Iと磁束φと渦電流Eとの関係を説明する説明図、図3は実施形態のコンデンサを接続して構成するパルス成形回路の一部を示す説明図。図4は図3のパルス成形回路におけるコンデンサの連結板による接続を説明する斜視説明図である。
【0021】
本実施形態のコンデンサ10は、図1に示すように、絶縁体で外側が被覆されているコンデンサ本体12と、コンデンサ本体12の一の面から突出して設けられる一方の接続端子13と、コンデンサ本体12の他の面から突出して設けられる他方の接続端子14と、コンデンサ本体12を収容する導電性の金属ケース15とを備える。
【0022】
コンデンサ本体12は、例えば略直方体形であり、外側を全体に亘ってプラスチック等の絶縁体で被覆されている。コンデンサ本体12の一方の接続端子13と他方の接続端子14は、略直方体形の一の面とこれと反対側の他の面からそれぞれ突出して設けられ、相対する面にそれぞれ設けられている。コンデンサ本体12、一方の接続端子13及び他方の接続端子14で構成される部分には、例えば市販の高電圧コンデンサ(ジェネラルアトミックス社 ダブルエンド プラスチックケース高電圧コンデンサ)等を用いることが可能である。
【0023】
金属ケース15は、例えば2〜3mm程度の厚さの銅板等で形成される略直方体形である。金属ケース15には、収容されるコンデンサ本体12の一方の接続端子13の周囲に、絶縁距離を確保するための開口151が形成されている。また、金属ケース15は、開口151以外の領域ではコンデンサ本体12を被覆しており、他方の接続端子14は、ボルト16で金属ケース12の前記他の面側の内面に固定され、金属ケース12に電気的に接続されている。
【0024】
金属ケース15とコンデンサ本体12の外側の絶縁体とは近接して設けられている。この近接して設ける場合は、金属ケース15とコンデンサ本体12の絶縁体とを密接して設ける場合と、金属ケース15とコンデンサ本体12の絶縁体とが部分的に離れている場合と、金属ケース15とコンデンサ本体12の絶縁体とが全体的に離れている場合を包含し、部分的又は全体的に離れている場合の金属ケースとコンデンサ本体の絶縁体との離間距離は金属ケースの内寸の公差とコンデンサ本体の外寸の公差との和であり、例えば4mm以下である場合を意味する。
【0025】
コンデンサ10には、一方の接続端子13と他方の接続端子14間に高周波電流が流された場合、図2に示すように、高周波電流Iによって誘導された磁束φが金属ケース15で遮蔽され、金属ケース15の表面内に渦電流Eが発生する。この渦電流Eは誘導された磁束φをシールドするので、磁気エネルギーの蓄積される空間が狭くなり、エネルギーの上昇を抑制し、固有のインピーダンスを小さくすることができる。そして、等価的に寄生インダクタンスの発生を抑制し、低減することが可能である。
【0026】
コンデンサ10により集中定数回路方式のパルス成形回路20を構成する場合には、図3及び図4に示すように、コンデンサ10を複数接続して構成し、例えば図3に示すように、コンデンサ10の一方の接続端子13と銅パイプ等の導電性の螺旋状に巻かれたコイル21とを、接続板221、222とコイル取付部材231、232を介して複数段接続し、パルス成形回路20を構成する。特に言及しない部分については通常の集中定数回路方式のパルス成形回路の構成を用いることが可能である。
【0027】
図示上側のコイル取付部材231は、先端にフック部2311を有する板状であり、フック部2311を図示左側のコイル21の上端に引っ掛け、半田付け等によりコイル21に取り付けられている。接続板221は、正面視略Z字形であり、図示上側の屈曲部をコイル取付部材231にボルト締め等で固定されている。接続板222は正面視略逆Ω字形であり、図示左端の屈曲部を接続板221の図示下側の屈曲部にボルト締め等で固定されていると共に、その中央部がボルト締め等で一方の接続端子13に固定されて接続されている。フック取付部材232は、先端にフック部2321を有する板状であり、フック部2321を図示右側のコイル21の下端に引っ掛け、半田付け等によりコイル21に取付けられていると共に、接続板222の図示右側の屈曲部にボルト締め等で固定されている。尚、本発明における接続板の構成は適宜であり、1つの接続板及びコイル21とで一方の接続端子13・13間を接続する構成、或いはコイル取付部材231、232を設けずに接続板の端部にコイル21の端部を挿入可能な例えばフック部2311、2321のような挿入係合部を設けて接続板で接続する構成等とすることが可能である。
【0028】
一方の接続端子13とコイル21とを接続板221、222を用いずに直接接続すること、あるいは一方の接続端子13とコイル21とを接続する接続板221、222は、寄生インダクタンスの低減を図るために極力短くすることが好ましいが、コンデンサ10とコイル21との配置等により長くなる場合には、接続板221、222の板幅を空間距離及び沿面距離を充分配慮のうえ、可能な範囲で広くし、寄生インダクタンスの抑制を図ると共に、抵抗を少なくしてパルス大電流をスムーズに流すことができるようにすることが好ましい。この接続板221、222等の一方の接続端子13とコイル21とを接続する接続板は、パルス成形回路20に設置可能な範囲でできるだけ幅広にすると好適であり、例えば幅10mm以上の接続板とするとよい。
【0029】
板幅の広い接続板221、222の接続では一方の接続端子13とコイル21とを電気的に直接接続するのに近い効果を得ることができ、例えば図8(b)の二点鎖線で示す部分に生ずる寄生インダクタンス図8(a)のように無くすことができ、一方の接続端子13とコイル21とを接続板221、222等の接続部材で接続する場合に接続部材に生ずる寄生インダクタンスを無くし、パルス成形回路20のパルスの立ち上がり特性を一層向上することができる。
【0030】
パルス成形回路20における複数のコンデンサ10の金属ケース15は、その開口151側で電気的に相互接続し、本例では一のコンデンサ10の金属ケース15の開口151の周囲面と、その隣りに位置する他のコンデンサ10の金属ケース15の開口151の周囲面との上に、導電性の連結板24を配置して架設することにより、一のコンデンサ10の金属ケース15と他のコンデンサ10の金属ケース15とを電気的に相互接続している。尚、パルス大電流が流れることから、連結板24と金属ケース15及び接地箇所は複数個のボルト等により確実に固定することが好ましい。
【0031】
上記パルス成形回路20の構成により、コンデンサ10の金属ケース15のどの位置を接地しても連結板24の部分が接地電位となり、一方の接続端子13よりコンデンサ10に流入する高周波電流Iのリターン回路は、図5(a)に示すように、コンデンサ10の金属ケース15の内面のみに最短距離で形成され、一方の接続端子13からコンデンサ10に流入する高周波電流Iに誘導された磁気エネルギーはコンデンサ10の内部に閉じ込められる。
【0032】
これに対して、一と他のコンデンサ10・10を上記実施形態と異なる箇所、例えば図5(b)に示すように金属ケース15・15を他方の接続端子14側の面で連結板24により連結すると、一方の接続端子13よりコンデンサ10に流入する高周波電流Iのリターン回路は、コンデンサ10の金属ケース15の内面だけでなく外面にも形成される。この場合、一方の接続端子13よりコンデンサ10に流入する高周波電流Iに誘導された磁気エネルギーは、コンデンサ10の内部のみに閉じ込められず、コンデンサ10の外部にも広がって寄生インダクタンス及び浮遊容量が増加する。尚、パルス成形回路20における複数のコンデンサ10の金属ケース15は、上記の如く、金属ケース15の開口151側で電気的に相互接続すると好適であるが、それ以外の箇所で接続する構成も本発明は包含するものである。
【0033】
本実施形態のコンデンサ10及びパルス成形回路20は、コンデンサ10をパルス成形回路20に用いた場合に、寄生インダクタンスを低減して寄生インダクタンスに流れる電流を抑制し、優れた立ち上がり特性のパルスを得ることができ、例えば大電力高速パルスを生成するパルス電源に使用することができる。また、寄生インダクタンスの低減により、パルスの脈動を下げ、尖頭電力に対するバラツキの程度であるパルス平坦度を向上することができる。また、金属ケース15とコンデンサ本体12との近接して設けることにより、コンデンサ本体12と金属ケース15との間の隙間を無くし、コンデンサ本体12と金属ケース15との間で放電が生ずることを確実に防止できる。複数のコンデンサ10の金属ケース15を開口151側で電気的に相互接続することにより、磁気エネルギーをコンデンサ10の内部に閉じ込め、寄生インダクタンスの更なる低減や浮遊容量の低減を図ることができる。
【0034】
〔実施例〕
上記実施形態のコンデンサ10によるパルス成形回路20(図中のA参照)と、金属ケース15等を有せずにコンデンサ本体及びその一方と他方の接続端子とから構成される通常の高電圧コンデンサによるパルス成形回路(図中のB参照)との比較実験結果を図6に示す。各パルス成形回路は、コンデンサ20pF、コイル500nH、段数30段としている。図6より明らかなように、各々の立ち上がり時間は、Aの場合は0.7μs、Bの場合は0.8μsであり、コンデンサ10及びパルス成形回路20の効果が実証されている。
【0035】
〔実施形態の変形例等〕
本明細書開示の発明には、各発明や実施形態等の構成の他に、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものも含まれる。
【0036】
例えば上記実施形態では、金属ケース15とコンデンサ本体12とを近接して設ける構成としたが、これに代えて、金属ケース15とコンデンサ本体12の絶縁体との間に絶縁材を充填して設ける構成とすることも可能である。充填する絶縁材としては、隙間に注入して充填しやすい流動性を有するものとすると好適であり、更にはコンデンサ本体12の外側の絶縁体の材質とほぼ同等の誘電率を有する絶縁材とすることが好ましい。より好適には、コンデンサ本体12の絶縁体の材質と同じ誘電率を有する絶縁材を充填するとよい。この構成により、金属ケース15とコンデンサ本体12との間の隙間を無くし、隙間での放電の発生を確実に防止することができる。
【0037】
また、図7に示す変形例の如く、金属ケース15の開口151の周縁をコロナリング17で被覆する構成とすると好適である。図7の例では、断面略L字形のコロナリング17が連結板24の上側に配置され、その本体171で開口151の周縁近傍における金属ケース15の開口151側の面及びこれと積層する連結板24の開口151側の面を被覆し、その先端の折曲部172で開口151の周縁と連結板24の一方の接続端子13側を被覆し、ボルト締め等で金属ケース15の開口151の周囲の面に固定されている。この構成により、一方の接続端子13と開口151の周縁である金属ケース15の端面あるいは連結板24との間に放電が生ずることを防止できる。
【0038】
また、パルス成形回路20にコイル21の内部に出し入れ可能に導体を設け、コイルのインダクタンスを可変できるようにし、パルスの頂の平坦度を調整して高められるようにしてもよい。
【0039】
また、本発明のコンデンサ或いはパルス成形回路は、例えば加速器についてパルス変調器(モジュレータ)、キッカー電源等のパルス電源で使用できると共に、大電力パルスレーダ装置等でも使用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、例えば加速器のパルス電源に使用するパルス成形回路等として利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
10…コンデンサ 12…コンデンサ本体 13…一方の接続端子 14…他方の接続端子 15…金属ケース 151…開口 16…ボルト 17…コロナリング 171…本体 172…折曲部 20…パルス成形回路 21…コイル 221、222…接続板 231、232…コイル取付部材 2311、2321…フック部 24…連結板 91…直流電源 92…充電回路 93…パルス成形回路 931…伝送線路 932…コイル 933…コンデンサ 94…負荷 95…スイッチング素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側が絶縁体で被覆されるコンデンサ本体と、
前記コンデンサ本体の一の面から突出して設けられる一方の接続端子と、
前記コンデンサ本体の他の面から突出して設けられる他方の接続端子と、
前記コンデンサ本体を収容し、前記一方の接続端子の周囲に開口を有すると共に、前記コンデンサ本体の前記開口以外の領域を被覆する金属ケースとを備え、
前記他方の接続端子を前記金属ケースに電気的に接続することを特徴とするコンデンサ。
【請求項2】
前記金属ケースと前記コンデンサ本体とを近接して設けることを特徴とする請求項1記載のコンデンサ。
【請求項3】
前記金属ケースと前記コンデンサ本体との間に絶縁材を充填することを特徴とする請求項1記載のコンデンサ。
【請求項4】
前記金属ケースの前記開口の周縁をコロナリングで被覆することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のコンデンサ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載のコンデンサを複数接続して構成されることを特徴とするパルス成形回路。
【請求項6】
前記一方の接続端子とコイルとを設置位置において空間距離及び円面距離から可能な範囲で幅の広い接続板を介して接続することを特徴とする請求項5記載のパルス成形回路。
【請求項7】
複数の前記コンデンサの前記金属ケースを、前記開口側で電気的に相互接続することを特徴とする請求項5又は6記載のパルス成形回路。
【請求項1】
外側が絶縁体で被覆されるコンデンサ本体と、
前記コンデンサ本体の一の面から突出して設けられる一方の接続端子と、
前記コンデンサ本体の他の面から突出して設けられる他方の接続端子と、
前記コンデンサ本体を収容し、前記一方の接続端子の周囲に開口を有すると共に、前記コンデンサ本体の前記開口以外の領域を被覆する金属ケースとを備え、
前記他方の接続端子を前記金属ケースに電気的に接続することを特徴とするコンデンサ。
【請求項2】
前記金属ケースと前記コンデンサ本体とを近接して設けることを特徴とする請求項1記載のコンデンサ。
【請求項3】
前記金属ケースと前記コンデンサ本体との間に絶縁材を充填することを特徴とする請求項1記載のコンデンサ。
【請求項4】
前記金属ケースの前記開口の周縁をコロナリングで被覆することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のコンデンサ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載のコンデンサを複数接続して構成されることを特徴とするパルス成形回路。
【請求項6】
前記一方の接続端子とコイルとを設置位置において空間距離及び円面距離から可能な範囲で幅の広い接続板を介して接続することを特徴とする請求項5記載のパルス成形回路。
【請求項7】
複数の前記コンデンサの前記金属ケースを、前記開口側で電気的に相互接続することを特徴とする請求項5又は6記載のパルス成形回路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−243676(P2011−243676A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112972(P2010−112972)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【出願人】(391020986)日本高周波株式会社 (14)
【出願人】(510135588)日本電磁工業株式會社 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【出願人】(391020986)日本高周波株式会社 (14)
【出願人】(510135588)日本電磁工業株式會社 (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]