説明

コンパクトなファインダー

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はファインダーに関するものであり、更に詳しくはレンズシャッターカメラ等のコンパクトカメラに用いるコンパクトなファインダーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、コンパクトカメラ等においても撮影レンズのズーム化が進み、それに伴いズームファインダーの性能も向上してきている。一方、ファインダーは実像式と虚像式とに大別されるが、撮影レンズの高倍率化に対応するため、実像式ファインダーが採用されることが多い。これは、高変倍比の虚像式ファインダーではどうしてもファインダー光学系の前玉径が大きくなってしまうためである。
【0003】実像式ファインダーには、対物レンズによる倒立像を正立像に直すための反転光学系が必要とされる。この反転光学系としては、プリズム,ミラーを組み合わせたもの,リレー光学系等を用いることができ、カメラの形態に応じて使い分けされているが、コンパクトさの点から一般にポロプリズムが多く用いられている。
【0004】しかしながら、カメラボディを更に小型化・薄型化させる要望は高まってきており、それに伴ってファインダー系にも更なる小型化が要求されてきている。
【0005】上記反転光学系を小型化すれば、ファインダーを小型化することが可能である。例えば、ポロプリズムの大きさは対物レンズ系による像の大きさと射出面有効径で決定されるので、像の大きさを小さくするか、射出面有効径を小さくすればよいことになる。
【0006】像の大きさは、ファインダーで見えなければならない範囲、即ち撮影レンズの画角と、ファインダー対物レンズの焦点距離とによって決められる。前者は、撮影レンズのスペックで決まるので、結局プリズムを小さくするには、ファインダー対物レンズの焦点距離を小さくすることで対応するのが一つの方法となる。
【0007】次に射出面有効径の大きさについて考える。図7に示すように、ポロプリズム(PM)から出た光線は、接眼レンズ(LE)を通り、使用者の瞳(E)に入射する。接眼レンズ(LE)の面頂点から瞳(E)までの距離(いわゆるアイレリーフ(ER))をあまりに短くすると、同時に全視野が見渡せなくなるので好ましくない。逆にアイレリーフ(ER)を長くしようとすると、ファインダー倍率(fo/fe:fo,feはそれぞれ対物レンズ,接眼レンズの焦点距離)が小さくなってしまう。しかしながら、ファインダー倍率があまりに小さいと被写体像(IO)が小さくなるので、観察しづらい。従って、接眼レンズ(LE)の焦点距離を長くする、つまり接眼レンズ(LE)通過後の光束が瞳(E)に対して張る角度(θLE)を所定以上小さくすることもできない。アイレリーフ(ER)と瞳(E)に対して張る角度(θLE)に下限があるということは接眼レンズ有効径(RLE)に下限があるということである。これは、プリズム射出面にも当てはまる。従って、像(IO)を小さくしても射出面有効径が上記下限に依存している限り、プリズム(PM)の小型化を十分に達成することはできない。
【0008】また、像(IO)の大きさと射出面有効径、つまりプリズム(PM)への入口と出口の大きさが違ってくると、プリズム(PM)中の光線がファインダー系光軸(AX)に対し大きな傾きを持つことになってしまう。次に、プリズム(PM)中の光線とファインダー系光軸(AX)との関連について考える。
【0009】図8は、ポロプリズムI型から成る反転光学系と接眼レンズ系とで構成されたファインダーの一部を示す斜視図である。ここでは左右を反転させるためのプリズム(PM)及び接眼レンズ(LE)を示し、上下を反転させるためのプリズム及び対物レンズについては、以下に説明する左右方向の反転の場合と同様の原理に基づくので、省略する。また、対物レンズによる像は、プリズム入射面(SI)の面頂点に位置しているとする。
【0010】また、図9は、図8の光学系展開図であり、軸外の光束を併せて示している。この光束は対物レンズ系(図示せず)に入射し、収束され、上下方向反転用のプリズムを通過した後、像面上に結像し、発散しながら左右方向反転プリズム(PM)を通って、接眼レンズ(LE)で略平行光束にされて瞳(E)に入射している。尚、同図中の(PR)は光束の主光線、(UR)は光束の最も上端を通る光線、(LR)は最も下端を通る光線を示している。
【0011】図9中、第1反射面(R1)及び第2反射面(R2)への入射角に関し、以下の式が成立する。但し、同図中、反時計回りを正とする。
θPR1=45°+φθUR1=45°+φ+αθLR1=45°+φ−αθPR2=45°−φθUR2=45°−φ−αθLR2=45°−φ+αここで、φPR:主光線と光軸のなす角+α:PRとURとのなす角−α:PRとLRとのなす角θPR1:PRの第1反射面の入射角θUR1:URの第1反射面の入射角θLR1:LRの第1反射面の入射角θPR2:PRの第2反射面の入射角θUR2:URの第2反射面の入射角θLR2:LRの第2反射面の入射角である。尚、αはアイリングの設定値であり、接眼レンズの焦点距離にほぼ依存する。
【0012】一方、ポロプリズムの反射面を形成する方法としては、全反射を利用する方法と、蒸着膜を利用する方法とがあるが、コストや像の明るさの点で全反射の方が有利である。
【0013】全反射を起こすためには、入射角θが次式を満足しなければならない。
θ>arc sin(1/n)ここで、n:プリズムを構成する媒質の屈折率である。
【0014】前述した光束に対して考えると、例えば(UR)に関しては、第1反射面(R1)に対してはφが大きいと、(θUR1)が大きくなり全反射に対して有利だが、第2反射面(R2)に対してはφが大きいと、(θUR2)が小さくなり全反射に対して不利となる。(LR)に関しても同様で、φが大きい方が第1反射面(R1)に対しては有利だが、第2反射面(R2)に対しては不利となる。
【0015】以上より、φはなるべく0に近い、即ち主光線が光軸に対して平行に近い方が、全反射を起こしやすいことがわかる。全反射が起こりやすいということは、プリズム材料の自由度が増えるということ、つまり、より低屈折率でもよいというメリットがある。また、プリズムの面の傾きの精度等がゆるやかでよいというメリットもある。
【0016】前述のように、プリズムの入口と出口の大きさが違ってくると、主光線の光軸(AX)に対する傾きが大きくなり(つまり、φが大きくなる)ため、全反射が起こりにくい。その結果、ファインダーのコンパクト化が困難になる。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明では上記問題点を解決するとともに反転光学系(例えばポロプリズム)を小型化することによって、コンパクトなファインダーを提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明のファインダーでは、物体側より順に、正のパワーを有する対物レンズ系,該対物レンズ系によって形成される物体の倒立像を正立像にするための反転光学系及び正のパワーを有する接眼レンズ系から成るファインダーにおいて、前記反転光学系の前記接眼レンズ系に対向している面が瞳側に凹の射出面であることを特徴としている。
【0019】前記反転光学系としては、例えばポロプリズムを用いることができる。
【0020】
【作用】上記のように、本発明ではファインダーのコンパクト化を図るべく、ポロプリズム等の反転光学系の出口の面(射出面)を凹面としている。
【0021】図6は、従来通りに反転光学系の射出面を平面としたもの(a)と、本発明のように反転光学系の射出面を凹面としたもの(b)とを比較したものである。本発明では射出面が凹面になっているため、プリズムから射出する光線は発散されることになる。従って、プリズムを通過する軸外光束の主光線が光軸と略平行であっても、プリズム射出後の軸外光束は所期の位置で接眼レンズに入射することになる。従来通りの光学系において、軸外光束の接眼レンズ入射位置を本発明の光学系と同様にしようとすると、プリズム内の軸外光束主光線には、光軸に対してかなりの角度をもたせるとともに、プリズム射出面を大きくしなければならない。前述したように、プリズム内において、軸外光束の主光線が光軸に対してかなりの角度を有している場合には、反射面での全反射が起こりにくくなるとともに、射出面が大きくなる分だけプリズムの有効径を大きくしなければならない。
【0022】本発明では、射出面の凹面の曲率を変えることにより、軸外光束の主光線が光軸に対してなす角度をコントロールできるため、凹面の曲率を適切に調整することにより、主光線を光軸と略平行にすることができるのである。それによって、反射面での全反射が起こりやすくなるとともに、プリズムの射出面の大きさを入射面のそれと同じにすることができるので、プリズムの有効径はその分だけ小さくなる。更に、プリズム射出光束の発散度を強くして接眼レンズの焦点距離を短くすることも可能なため、プリズム射出面と接眼レンズ間の間隔を短くできるとともに、その分だけファインダー倍率を高くすることができる。別の言い方をすると、瞳側から見て接眼レンズと凹面とがテレフォトタイプの光学系を構成するため、ファインダーの全長を短くできるのである。尚、曲率を調整することが可能な面の数が増えるので、光学設計の自由度も増えることになる。また、本発明はポロプリズムにだけ限定されるものではなく、ダハプリズム等にも応用可能である。
【0023】
【実施例】以下、本発明に係るファインダーの実施例を示す。但し、各実施例において、ri(i=1,2,3,...)は物体側から数えてi番目の面の曲率半径、di(i=1,2,3,...)は物体側から数えてi番目の軸上面間隔を示し、Ni(i=1,2,3,...),νi(i=1,2,3,...)は物体側から数えてi番目のレンズのd線に対する屈折率,アッベ数を示す。尚、後述する図2及び図4中に表されている像面(I)及び瞳面(E)については、以下のレンズデータ中では省略する。
【0024】尚、実施例中、曲率半径に*印を付した面は非球面で構成された面であることを示し、非球面の面形状を表わす後記数1の式で定義するものとする。
【0025】数1の式中、Y:光軸に垂直な方向の距離X:距離Yでの光軸に平行な方向における非球面頂点からの変位C0:非球面頂点における曲率(=1/r,但し、r:曲率半径)ε:2次曲面パラメータAi:i次の非球面係数である。
【0026】<実施例> [曲率半径] [軸上面間隔] [屈折率] [アッベ数]r1 30.000 d1 19.000 N1 1.58300 ν1 30.36r2 40.000 d2 4.322r3* 20.000 d3 5.000 N2 1.49140 ν2 57.82r4 -13.291 d4 20.000
【0027】[非球面係数]r3 :ε=-0.11000×102A4=0.10000×10-4A6=-0.60000×10-6
【0028】<参考例> [曲率半径] [軸上面間隔] [屈折率] [アッベ数]r1 30.000 d1 19.000 N1 1.58300 ν1 30.36r2 ∞ d2 5.787r3* 20.000 d3 5.000 N2 1.49140 ν2 57.82r4 -18.151 d4 20.000
【0029】[非球面係数]r3 :ε=0.60000A4=-0.77000×10-4
【0030】図1は、上記本実施例を示す斜視図である。本実施例は物体側から順に対物レンズ(LO),対物側プリズム(PMO)及び接眼側プリズム(PME)から成るポロプリズムII型並びに接眼レンズ(LE)から構成されているが、上記レンズデータ及び図2の断面図においては対物レンズ(LO)及び対物側プリズム(PMO)を省略してある。図2に示す本実施例と同様に、図4は参考例の像面(I)以降のレンズ構成、即ち接眼側プリズム(PME)及び接眼レンズ(LE)のレンズ構成を断面的に示している。
【0031】図2に示すように、本実施例は像面(I)以降物体側より順に、物体側に凸であって瞳側に凹の接眼側ポロプリズム(PME)より成る反転光学系及び両凸の正の単レンズ(LE)より成る接眼レンズ系とから構成されている。尚、接眼レンズ系を構成する両凸の正の単レンズ(LE)の物体側の面は非球面である。
【0032】また、本実施例では、接眼レンズ系の焦点距離を20mmとし、撮影距離が無限のときのファインダー像の視度を−1として設計してある。また、対物レンズ(LO)については10〜20mmのズーム式(ファインダー倍率Γ=0.5〜1.0)で、主レンズ焦点距離が35〜70mm、フィルムサイズが35mm判、ファインダー視野率が85%としている。従って、像面(I)の大きさは、5.83mm(短辺)×8.74mm(長辺)となる。尚、図4の参考例についても同様である。
【0033】図4の参考例は、像面(I)以降物体側より順に、物体側に凸であって瞳側に平面の接眼側ポロプリズム(PME)より成る反転光学系及び両凸の正の単レンズ(LE)より成る接眼レンズ系とから構成されている。尚、接眼レンズ系を構成する両凸の正の単レンズ(LE)の物体側の面は非球面である。
【0034】上記本実施例との比較のために設計された図4の参考例では、本実施例とほぼ同様の収差が生じるようにしてある。また、上記実施例及び参考例は共にアイレリーフが20mm、アイリング径が5mmとなるように設計してある。例えば、フィルム長辺に相当する画角では、光線が光軸となす角度は次のようになる。即ち、本実施例ではUR=4.359°,PR=-0.009°,LR=-4.566°となっており、UR,LR共きれいに振り分けられているのに対し、従来例ではUR=5.013°,PR=0.752°,LR=-3.723°となっており、全反射を起こさせるためにはプリズム材料に高屈折率材料を用いなければならないことがわかる。
【0035】プリズム射出面における有効径は、光軸からの距離で、本実施例では4.39mm(短辺側),5.94mm(長辺側)、参考例では4.56mm(短辺側),6.13mm(長辺側)である。短辺側で0.17mm、長辺側で0.19mmの小型化がなされている。これによれば、ポロプリズム全体でみると、高さ方向で0.72mm(=0.17×2+0.19×2)、幅方向で0.76mm(0.19×4)の小型化が図れる。
【0036】プリズム射出面頂点から接眼レンズ物体側面頂点までの間隔も実施例で4.322mm、参考例で5.787mmとなり、約1.5mm近い小型化がなされている。
【0037】また、図3及び図5は、図2の実施例及び図4の参考例にそれぞれ対応するd線に対する収差を示す収差図である。また、破線(DM)と実線(DS)はメリディオナル面とサジタル面での非点収差をそれぞれ表わしている。
【0038】
【数1】


【0039】
【発明の効果】以上説明した通り本発明のファインダーによれば、物体側より順に、正のパワーを有する対物レンズ系,該対物レンズ系によって形成される物体の倒立像を正立像にするための反転光学系(例えばポロプリズム)及び正のパワーを有する接眼レンズ系から成るファインダーにおいて、前記反転光学系の前記接眼レンズ系に対向している面が瞳側に凹の射出面となっているので、反転光学系の有効径を小さくすることが可能になるため、反転光学系をコンパクトにすることができると共に、反転光学系の接眼レンズ側の面と接眼レンズの反転光学系側の面との間隔を短くすることができる。また、反転光学系内を通る光線を光軸と略平行にすることができるので、反転光学系の各反射面において全反射が有利になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す斜視図。
【図2】本発明の実施例の反転光学系及び接眼レンズ系のレンズ構成を断面的に示す図。
【図3】本発明の実施例の反転光学系及び接眼レンズ系の収差図。
【図4】本発明の参考例の反転光学系及び接眼レンズ系のレンズ構成を断面的に示す図。
【図5】本発明の参考例の反転光学系及び接眼レンズ系の収差図。
【図6】従来通りに反転光学系の射出面を平面としたもの(a)と、本発明のように反転光学系の射出面を凹面としたもの(b)とを比較説明するための図。
【図7】実像式ファインダーにおけるアイレリーフ及び瞳に張る角と接眼レンズ有効径との関係を説明するための図。
【図8】ポロプリズムI型から成る反転光学系と接眼レンズ系とで構成されたファインダーの一部を示す斜視図。
【図9】ポロプリズムI型から成る反転光学系と接眼レンズ系とで構成されたファインダーの一部を示す展開図。
【符号の説明】
(SI) …プリズム入射面
(SO) …プリズム射出面
(R1) …第1反射面
(R2) …第2反射面
(I) …像面
(PM) …ポロプリズム
(PMO) …対物側(ポロ)プリズム
(PME) …接眼側(ポロ)プリズム
(LO) …対物レンズ
(LE) …接眼レンズ
(E) …瞳
(IO) …像
(ER) …アイレリーフ
(RLE) …接眼レンズ有効径
(θLE) …瞳に張る角

【特許請求の範囲】
【請求項1】物体側より順に、正のパワーを有する対物レンズ系,該対物レンズ系によって形成される物体の倒立像を正立像にするための反転光学系及び正のパワーを有する接眼レンズ系から成るファインダーにおいて、前記反転光学系の前記接眼レンズ系に対向している面が瞳側に凹の射出面であることを特徴とするファインダー。
【請求項2】前記反転光学系がポロプリズムから成ることを特徴とする請求項1に記載のファインダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【特許番号】特許第3067260号(P3067260)
【登録日】平成12年5月19日(2000.5.19)
【発行日】平成12年7月17日(2000.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−119438
【出願日】平成3年4月22日(1991.4.22)
【公開番号】特開平4−322237
【公開日】平成4年11月12日(1992.11.12)
【審査請求日】平成10年3月2日(1998.3.2)
【出願人】(000006079)ミノルタ株式会社 (155)