説明

コークス炉炉頂用耐火物の製造方法

【課題】高価な撥水処理剤を使用することなく、短時間の工程で製造することができ、かつ撥水性、耐用性に優れるコークス炉炉頂用耐火物を得ることができる、コークス炉炉頂用耐火物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のコークス炉炉頂用耐火物の製造方法は、シリコーン樹脂を有機溶剤で希釈しシリコーン成分が0.01〜10%である撥水処理剤を調整する工程、気孔率が5〜40%である耐火物の表面に前記撥水処理剤を塗布する工程、前記撥水処理剤を塗布した耐火物を乾燥させる工程とからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコークス炉の炉頂に使用される耐火物の製造方法であって、特にペービングタイルと呼ばれるタイル状耐火物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コークス炉炉頂の耐火物ライニングは、コンクリートのように施工部位に直接キャスタブル耐火物を流し込み施工する方法や、予めキャスタブル耐火物をプレキャストして大きな板状のタイルとして成形体を形成し、これを施工する方法などが一般的である。
【0003】
また、ペービングタイルとしてキャスタブル耐火物のプレキャスト体を用いたり、プレキャスト体に釉薬を塗布した後加熱して表面をガラス化させ透水性を防止したものなどが使用されている。ペービングタイル用キャスタブル耐火物としては、温度変化による割れを抑制した低熱膨張性のものが用いられており、一般的にAl−SiO質やコージエライト質などが使用されている。
【0004】
一方、耐火物への水や湿分の浸透防止技術として例えば特許文献1では、タンディッシュ堰れんがの表面に防水膜を形成し、その上に塩基性の被覆材層を形成することにより、被覆材の水分が堰れんがに侵入するのを防止し、堰れんがが予熱中に爆裂することを防止する技術が開示され、特許文献2では、遊離CaOを含有する不焼成耐火物の結合剤にシリコーン系撥水剤を添加して、CaOの消化を防止する技術が開示されている。
【0005】
特許文献3では、一般式(1)RSiX4−n(但し、式中Rは炭素数1〜18の有機基、Xは炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシル基及びカルボキシル基を示す。nは1〜3の整数を示す。)で表されるオルガノアルコキシシラン(a)、及び/又は成分(a)の部分加水分解・縮合物類(b)を50重量%以上含有する撥水処理液を、キャスタブル耐火物のプレキャスト体の表面に塗布し、浸透させた後、硬化させてなることを特徴とするコークス炉炉頂タイルについて開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−126393号公報
【特許文献2】特開平7−097253号公報
【特許文献3】特開2001−192649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、雨水の浸透を防止するために、プレキャスト体の表面に釉薬を塗布した後、加熱して表面にガラス化した皮膜を形成させて透水性を防止したものにあっては、釉薬を塗布した後、釉薬が溶融してガラス化する温度以上、例えば1200℃程度に加熱する必要があり、製造コストが高くなるという問題があった。また、ガラス皮膜は衝撃で剥離や亀裂を生じるため、雨水のような液体が侵入することを完全に防止することが困難であった。
【0008】
特許文献1が開示する技術は、耐火物の消化を抑制するために樹脂で処理するものであるが、常温での水分あるいは湿分の影響を回避するものであり、直接雨水のような水に曝される状況では使用できない。
【0009】
特許文献2が開示する技術は、坏土中への水分を抑制するために不定形耐火物中に結合材として非水系フェノール樹脂及びシリコーン系撥水剤を添加するものであり、耐火物表面に十分な撥水性が必要となるコークス炉の炉頂用耐火物には適用できない。
【0010】
また特許文献3が開示する技術では、300℃程度の温度までの十分な水の浸透防止効果が得られるが、撥水処理液中にオルガノアルコキシシラン及び/又は部分加水分解・縮合物類を多く含有するため粘性が高く、塗布時に塗膜状になるため均一な塗布が難しく、さらに特殊な撥水処理液であるためコストが高いという問題がある。また、プレキャスト体の片表面に撥水処液を塗布した後に自然放置し、さらに150℃で1日間加熱し撥水処理剤を硬化させなければならず、製造日数がかかるという問題がある。
【0011】
本発明は、高価な撥水処理剤を使用することなく、短時間の工程で製造することができ、かつ撥水性、耐用性に優れるコークス炉炉頂用耐火物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは高価な撥水処理剤を使用することなく、短時間の工程で製造することができ、かつ撥水性、耐用性に優れるコークス炉炉頂用耐火物を製造する方法を鋭意研究し、本発明に至った。本願発明者らは、耐火物の表面に撥水処理剤を塗布するにあたり、その撥水処理剤の有効成分を適切に調整することにより、長時間の熱処理工程を必要とせずに十分な撥水性を有するコークス炉炉頂用耐火物が製造できることを見出した。また、適切な気孔率の耐火物を使用することにより、より確実に十分な撥水性を得ることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、シリコーン樹脂を有機溶剤で希釈しシリコーン成分が0.01〜10%である撥水処理剤を調整する工程、気孔率が5〜40%である耐火物の表面に前記撥水処理剤を塗布する工程、前記撥水処理剤を塗布した耐火物を乾燥させる工程とからなるコークス炉炉頂用耐火物の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高価な撥水処理剤を使用することなく、短時間の工程で、撥水性および耐用性に優れるコークス炉炉頂用耐火物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の撥水処理剤は、シリコーン樹脂を有機溶剤で希釈してシリコーン成分が0.01〜10%となるように調整する。シリコーン成分が0.01%よりも少ないと十分な撥水性を得ることができず、10%よりも多いと粘性が高くなり均一な塗布が困難になる、塗布後の乾燥に時間がかかるなどの問題がある。有機溶剤は特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテルアルコール及びエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系化合物類などを使用することができる。
【0016】
本発明の耐火物の気孔率は5〜40%である。さらに好ましくは10〜20%である。耐火物の気孔率が5%未満であると、撥水処理剤が内部まで十分に浸透せずに、撥水性が低下する。40%以上では撥水処理剤が耐火物の内部まで浸透するが、耐火物表面の撥水性が低下するとともに、耐火物自体の強度が低下するという問題がある。
【0017】
本発明の耐火物の材質としては、SiO系、SiO−Al系、Al系、ZrO・SiO系、ZrO・SiO・Al系、Cr系、Al・Cr系、Al−MgO系、MgO系、MgO・Cr系、MgO−CaO系、Al−MgO系、MgO−Al系、C系、SiC系、C−SiC系、Al−SiC系、Al−SiC−C系、MgO−C系などの公知の材質を使用することができる。
【0018】
本発明の耐火物は、各種酸化物、炭化物などの公知の原料を使用して、プレス成型、流し込み成形、スタンプ成形し、必要に応じて乾燥、焼成することにより製造することができる。成形の容易さから、キャスタブル耐火物を適度な流動性が得られる水量で混練して、所定の形状の型枠に流し込み、キャスタブルが硬化した後に脱枠する流し込み成形方法が好ましい。
【0019】
本発明の耐火物の表面に撥水処理剤を塗布する方法は、例えばハケ塗り法、ローラー塗り法、エアースプレー法、含浸法、又はカーテンロールコート法などの方法により塗布することができる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例および比較例を提示して、本発明のコークス炉炉頂用耐火物の製造方法を説明する。
【0021】
表1に示す配合割合のキャスタブル粉末に水分を添加してミキサーで混練し、混練物を作製した。前記混練物を40mm×40mm×160mmの型枠に流し込み施工し、1日間自然養生した後に脱枠し、100℃で1日間、さらに200℃で1日間乾燥することにより耐火物1〜3を作製した。耐火物1〜3の気孔率を表1に示す。また、アルミナ質電鋳れんがを40mm×40mm×160mmの形状に加工し、耐火物4、5とした。耐火物4の気孔率は5%、耐火物5の気孔率は3%であった。
【0022】
次に、シリコーン成分10%の市販のシラン系吸水防止剤をトルエンで希釈して各種撥水処理剤を作製した。
【0023】
耐火物1〜5の片表面に撥水処理剤をハケ塗り法により塗布した後、常温で30分乾燥してコークス炉炉頂用耐火物を作製した。作製したコークス炉炉頂用耐火物に使用した耐火物および撥水処理剤のシリコーン成分量を表2、表3に示す。
【0024】
続いて、接触角測定装置を用いてコークス炉炉頂用耐火物の撥水処理剤を塗布した面と水との接触角を測定した。接触角の測定箇所はコークス炉炉頂用耐火物の撥水処理剤を塗布した面に3cm間隔で5箇所とした。接触角が100度以上の場合を○、80度以上100度未満の場合を△、80度未満の場合を×として、表1、表2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
本発明の方法によって作製した実施例1〜6のコークス炉炉頂用耐火物は全ての測定点において接触角が80度以上と、良好な撥水性であった。それに対して、撥水処理剤中のシリコーン成分もしくは使用耐火物の気孔率が本発明の範囲外である比較例1〜4のコークス炉炉頂用耐火物は、測定点の一部もしくは全部の接触角が80度未満となり、均一な撥水性を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係るコークス炉炉頂用耐火物の製造方法は、撥水性および耐用性に優れるコークス炉炉頂用耐火物を安価に製造することができるため有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン樹脂を有機溶剤で希釈しシリコーン成分が0.01〜10%である撥水処理剤を調整する工程、気孔率が5〜40%である耐火物の表面に前記撥水処理剤を塗布する工程、前記撥水処理剤を塗布した耐火物を乾燥させる工程とからなるコークス炉炉頂用耐火物の製造方法。