説明

コーティング種子及びその製造方法

【課題】種子表面にコーティング剤が被覆形成されているコーティング種子において、機械播種に好適な表面硬度を有し、かつ、播種後水分によって良好な崩壊性を有するコーティング種子を提供すること。
【解決手段】コーティング材として、特定の粒度を有するベントナイトを用い、種子表面に0.1mm〜5mmのコーティング層を形成する。具体的には、1μm以上10μmの粒径の分布が20%〜30%、10μm以上50μm未満の粒径分布が60〜70%、50μm以上100μm未満の分布が0%〜20%であることを特徴とするコーティング種子を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、播種作業を省力化でき、かつ発芽種子の植生定着率向上に資するコーティング種子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業や造園業、雑草地の植生転換等、植物種子を利用する産業分野において、種子の播種作業を省力化でき、少ない労働力で効率的な作業を可能とするコーティング種子がますます重要となってきている。
このようなコーティング種子として、従来から植物種子を芯材とし、その表面にコーティング材が被覆されたものが知られており、そのようなコーティング種子は、虫や鳥などによる食害を大きく軽減できるのみならず、気候変動や一時的な薬剤散布による薬害から植物種子を保護でき、発芽率が向上することが知られている。
【0003】
植物種子を被覆するためのコーティング材料としては、従来から様々なものが知られており、例えばシリカ、タルク、カオリナイト、珪藻土、炭酸カルシウム、鉄粉などに代表される無機化合物粉末等が挙げられる。
これらの無機化合物は、通常、デンプン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの水溶性結合材、さらに水と混合されたコーティング材組成物として植物種子表面に付着し、コーティング層が形成される。また、種子に付着した病害菌による被害を防止する目的で、別途、殺菌剤等をコーティング材に添加することも知られている。
【0004】
下記特許文献1乃至5に、従来のコーティング種子及びそれらの製造方法が開示されている。これらはいずれも種子を芯材として、その表面に様々なコーティング材を被覆するものである。
【0005】
従来のコーティング種子はコーティング材が種子の周囲に付着されていることにより、播種しやすい重量に造粒されているが、そのように種子芯材の周囲にコーティング材が付着されコーティング層が形成された種子は、発芽性能およびその後の発芽植物の定着性に問題を有する場合があった。
この発芽性能を劣化させる要因としては、コーティング層が形成されたコーティング種子に求められる播種時に必要な硬度及び播種後のコーティング材の崩壊性が適切でないことが挙げられる。
【0006】
すなわち、従来のコーティング材では、種子の硬度不足が生じ、播種機械を使用した場合に、コーティング種子が破砕されてしまう場合が多く、あるいは、硬度が高すぎて発芽率が不良になってしまうものもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−192011号公報
【特許文献2】特開平05−015208号公報
【特許文献3】特開平11−004606号公報
【特許文献4】特開2005−097309号公報
【特許文献5】特開2005−192458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は機械播種性に優れ、かつ、発芽性能および発芽後の植生定着性に優れたコーティング種子及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討した結果、植物種子を被覆するコーティング材として粘土鉱物であるベントナイトを主成分として選定し、特定の厚さにコーティングして得られるコーティング種子の表面硬度および崩壊性に鑑み、最適な粒径分布の範囲を特定し、好ましくはベントナイトを主成分としたコーティング材に植物生長調整剤を含有させることにより、発芽性能および発芽後の植生定着性に優れるコーティング種子が得られることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、以下に表されるものである。
【0011】
第1の発明は、植物種子を芯材とし、該種子の周囲にベントナイトを主成分としたコーティング材からなる0.1mm〜5mmの厚さのコーティング層が形成されてなることを特徴とするコーティング種子であり、そのようなコーティング層にて被覆されていることにより播種時の種子表面硬度を確保できるとともに、播種後には水分と接触することによって適度な崩壊性が得られ、対象植物種子の発芽が良好になされる。
【0012】
第2の発明は、前記コーティング層中に、植物生長調整剤成分が含まれていることを特徴とする第1の発明に記載のコーティング種子である。
【0013】
第3の発明は、傾斜回転型パンを用い、傾斜した加工面に芯材となる植物種子を投入し、次いでベントナイトを主成分とするコーティング材を投入し、該対象種子表面に、コーティング層を形成する操作を複数回繰り返し、造粒する工程を包含することを特徴とするコーティング種子の製造方法である。
【0014】
第4の発明は、前記コーティング材が粒状を呈しており、その粒径分布が、1μm〜100μmの範囲内であることを特徴とする第3の発明に記載のコーティング種子の製造方法である。
【0015】
第5の発明は、前記コーティング材の粒径分布が、
粒径1μm以上10μm未満の分布率20〜30%、
粒径10μm以上50μm未満の分布率60〜70%、
粒径50μm以上100μm未満の分布率0〜20%、
であることを特徴とする第3又は第4の発明に記載のコーティング種子の製造方法である。
【0016】
すなわち、コーティング材の主成分であるベントナイトの粒径分布が特定のものに選択されることにより、得られるコーティング種子が、機械播種に必要な表面硬度を確保できるとともに、播種後に水分と接触することにより適度な崩壊性が得られ、対象植物の発芽が良好になされることを見出した。
【0017】
また、前記ベントナイトを主成分とするコーティング材に植物生長調整剤を含有させ、播種後に水分と接触することによりコーティング材から植物生長調整剤成分が溶出し、これが対象植物種子に到達することにより、発芽性能および発芽後の植生定着性が良好になることを見出した。
【発明の効果】
【0018】
本発明のコーティング種子は、コーティング材として粘土鉱物であるベントナイトを主成分として選定し、またコーティング種子表面硬度および崩壊性を最適化するための粒径範囲を特定することにより、機械播種性に優れ、かつ、発芽性能および発芽後の植生定着性に優れる。
また、ベントナイトの粒径を1μm以上10μm未満が20〜30%、10μm以上50μm未満が60〜70%、50μm以上100μm未満が0〜20%であることにより、さらにコーティング硬度および播種後の崩壊性を最適化でき、発芽性能が良好になる。
これはベントナイトが有する特異的な性質によるものであり、その増粘性及び結着性により植物種子への被覆において少量の水分と混合することにより良好なコーティング表面硬度が得られ、その膨潤性により播種後のコーティング種子が多量の水分と接触することによりコーティング材が崩壊し、植物種子が呼吸および発芽成長することが可能となる。
さらに、前記ベントナイトを主成分とするコーティング材に植物成長調整剤を含有させることにより、播種後に水分と接触することにより被覆材から植物生長調整剤成分が溶出し、これが対象植物種子に到達することにより、発芽性能および発芽後の植生定着性が良好になる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
まず、本発明のコーティング種子について説明する。
本発明のコーティング種子は、植物種子を芯材とし、その周囲に粘土鉱物であるベントナイトを主成分としたコーティング材からなる0.1mm〜5mmの厚さのコーティング層が形成されてなることを特徴とするコーティング種子である。
【0021】
〔植物種子〕
本発明のコーティング種子に用いることができる植物種子としては特に制限されず、下記の野菜種子、芝種子を挙げることができる。
野菜種子・・・ダイコン、ハクサイ、カブ、キャベツなどのアブラナ科、エダマメ、シロクローバ、アカクローバ、ヘアリーベッチ、アルファルファ、クリムソンクローバ、バーズフットトレホイル、レンゲなどのマメ科、キク科、ニンジン、アスパラガス等が挙げられる。
芝種子・・・トールフェスク、チューイングフェスクなどのフェスク類、ペレニアルライグラスなどのライグラス類、バミューダグラス類、センチピートグラス類、ノシバ類、ベントグラス類、ブルーグラス類、その他カーペットグラス、バヒアグラス、ローズグラス、ウウィーピングラブグラス、ダイカンドラ等が挙げられる。
【0022】
〔コーティング材〕
本発明に用いるコーティング材としては、粘土鉱物であるベントナイトを主成分とするものである。
このベントナイトとしては、粒径分布が1μm〜100μmの範囲内であるものが好ましい。
好ましくは、
粒径1μm以上10μm未満の分布率が20%〜30%、
粒径10μm以上50μm未満の分布率が60〜70%、
粒径50μm以上100μm未満の分布率が0〜20%である。
上記粒径分布を有するベントナイトを用いることで、発芽率に優れ、発芽後の植生定着率が良好なコーティング種子が得られる。
【0023】
本発明のコーティング種子は、芯材となる種子の周囲に、上記ベントナイトを主成分とするコーティング材からなる0.1mm〜5mmの厚さの層が形成されていることにより、機械播種時に破壊されない種子表面硬度を有し、播種後には発芽性能及び植生定着性に優れる。
【0024】
〔植物生長調整剤〕
本発明のコーティング種子に用いることができる植物生長調整剤としては、オーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、エチレンなどが挙げられるが、とくにジベレリンを用いることが好ましい。
【0025】
次に、本発明のコーティング種子の製造方法について説明する。
コーティング種子を製造する場合に、傾斜回転型パンを用いて傾斜した加工面を、造粒させる対象植物種子が転がり落ちる動きを利用して、種子表面を濡らした後に/または濡らしながらコーティング材を振り掛ける操作を繰り返し行い、目的とするコーティング層を形成する。
本発明者らは無機および有機の被覆材料を広く検討した結果、ベントナイトを主成分とするコーティング材を選定することにより、機械播種時に破壊されない強度を確保できるとともに、得られたコーティング種子を播種した場合に、徐々に崩壊して発芽性能及び植生定着性に優れることを見出した。
【0026】
コーティング種子を製造する方法は、前記傾斜回転型パンを用いて行うことができ、このとき分散剤やバインダー成分を適宜添加することで効率良く行うことができる。分散剤としては公知のものが使用でき、ジエチレングリコール、トリエタノールアミン、ステアリン酸カルシウムなどを用いることができる。またバインダー成分としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、珪酸ナトリウムなどを用いることができる。
用いるベントナイトは、粒径範囲として篩又は分級機により、1μm以上100μm未満の粒度分布を有するものが好ましい。特に1μm以上10μm未満が20〜30%、10μm以上50μm未満が60〜70%、50μm以上100μm未満が0〜20%とすることにより、さらにコーティング硬度および播種後の崩壊性を最適化でき、発芽性能が良好になる。このとき、1μm以上10μm未満の粒径分布が20%未満では播種後のコーティングの崩壊性に劣ることから発芽性能が劣化し、また30%を超える場合は必要な表面硬度が得られない。また、50μm以上100μm未満の粒子が20%を超える場合でも必要な表面硬度が得られない。
さらにコーティング材料に上記植物生長調整剤を含浸させておくことにより、播種後の発芽性能および発芽後の植生定着性を大きく高めることができる。含浸方法としてはあらかじめベントナイトに含ませておいても良く、コーティング操作の際に添加してもかまわない。
上記の工程にて得られるコーティング層が形成された種子を、乾燥することにより本発明のコーティング種子を得ることができる。
【実施例】
【0027】
実施例1
市販のベントナイト粉末(ホウジュン社製、製品名:富士)を分級機(日清製粉社製、製品名:ターボクラシファイア)により分級し、表1に示す粒径分布を有する粉体を得た。このベントナイト粉末1000gに対し植物生長調整剤としてジベレリン(協和発酵バイオ株式会社製)300ppm溶液50gを配合し、さらにステアリン酸カルシウム粉(品川化工社製)100gを配合し、コーティング材組成物とした。回転パン型コーティングマシーンにより西洋芝トールフェスク種子350gに対し、前記調合コーティング基材を全量被覆し、40℃乾燥雰囲気下で乾燥を行った。コーティング被覆の強度は播種機により播種操作を行い、コーティング種子形態を維持できるか否かについて確認を行った。
崩壊性、発芽試験、植生定着率を調査した結果を表2に示す。
【0028】
実施例2〜5
実施例1と同様に表1に示した粒径分布を有する各ベントナイト粉体を使用し、コーティング工程を実施例1と同様に実施し、各コーティング種子を得た。表2に結果を示す。
【0029】
比較例1
市販のアタパルジャイト粉(FLORIDIN Inc.ミニュジェルAR)を用い、実施例1と同様に分級を行い、表1に示す粒径分布を有する粉体を得た。コーティング材配合、コーティング操作および評価は実施例1と同様に行い、コーティング種子を得た。結果を表2に示す。
【0030】
比較例2
市販の珪石粉(三河珪石社製、ML8号)を用い実施例1と同様に分級操作を行い、表1に示す粒径分布を有する粉体を得た。コーティング基材配合を行った。コーティング操作はバインダーとしてカルボキシメチルセルロース(第一工業薬品社製、セロゲン7A)7%水溶液70gを使用した。評価は実施例1と同様に行い表2に結果を示した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

◎:優、○:良、△:やや不良、×:不良
【0033】
機械播種強度:播種機により播種後、コーティング種子の崩壊状態を観察。
◎…崩壊1%以下、○…崩壊1%〜10%、△…崩壊10%〜50%、
×…崩壊50%以上
崩壊性:培養土表面にコーティング種子を播種及び散水し、3週間経過後の崩壊状態を観察。
◎…崩壊90%以上、○…崩壊60%〜90%、△…崩壊30%〜60%、
×…崩壊30%以下
植生定着性:培養度表面にコーティング種子を1mあたり3000粒播種し、散水等養育しながら60日後の植生の定着状況を植生被覆率で評価。
◎…被覆90%以上、○…被覆60%〜90%、△…被覆30%〜60%、
×…被覆30%以下

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物種子を芯材とし、該種子の周囲にベントナイトを主成分としたコーティング材からなる0.1mm〜5mmの厚さのコーティング層が形成されてなることを特徴とするコーティング種子。
【請求項2】
前記コーティング層中に、植物生長調整剤成分が含まれていることを特徴とする請求項1に記載のコーティング種子。
【請求項3】
傾斜回転型パンを用い、傾斜した加工面に芯材となる植物種子を投入し、次いでベントナイトを主成分とするコーティング材を投入し、該対象種子表面に、コーティング層を形成する操作を複数回繰り返して造粒する工程を包含することを特徴とするコーティング種子の製造方法。
【請求項4】
前記コーティング材が粒状を呈しており、
その粒径分布が、1μm〜100μmの範囲内であることを特徴とする請求項3に記載のコーティング種子の製造方法。
【請求項5】
前記コーティング材の粒径分布が、
粒径1μm以上10μm未満の分布率20%〜30%、
粒径10μm以上50μm未満の分布率60%〜70%、
粒径50μm以上100μm未満の分布率0%〜20%、
であることを特徴とする請求項3又は4に記載のコーティング種子の製造方法。

【公開番号】特開2013−9622(P2013−9622A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143981(P2011−143981)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】