説明

コールドスプレー用ノズル、及びコールドスプレー装置

【課題】被膜Cの形成処理の能率を向上させると共に、被膜Cの品質を高いベルで向上させること。
【解決手段】装置筐体3の側面には、作動ガスの流れを絞る第1ノズル構成体33は、内管35と外管37の二重構造により構成され、内管35の内側に第1インナーガス流路39が形成され、内管35の外周面と外管37の内周面の間に環状の第1アウターガス流路41が形成され、外管37の先端に作動ガスを膨張させて噴射する第2ノズル構成体43が同心状に一体に設けられ、第2ノズル構成体43の内側に第2ガス流路45が形成され、内管35の先端に複数の内突起47及び複数の外突起49が周方向に間隔を置いて形成されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動ガスに同伴した材料粉末を固相状態のままで被処理物の表面に衝突させて被膜を形成するコールドスプレー装置に用いられるコールドスプレー用ノズル等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、材料粉末を固相状態のままで被処理物の表面に衝突させて緻密な組織でかつ密着強度の高い被膜を形成するコールドスプレーの技術が注目されており、コールドスプレー装置、特に、コールドスプレー用ノズルについて種々の開発がなされている。そして、一般的なコールドスプレー用ノズルの構成等について図5(a)を参照して説明する。
【0003】
図5(a)に示すように、一般的なコールドスプレー用ノズル101は、窒素等の作動ガスの流れを絞る第1ノズル構成体(ノズル絞り部)103を備えており、この第1ノズル構成体103の内部には、材料粉末を同伴した作動ガスを流通させるための第1ガス流路105が形成されている。また、第1ノズル構成体103の先端には、作動ガスを膨張させて噴射する第2ノズル構成体(ノズル膨張部)107が同心状に一体に設けられており、この第2ノズル構成体107の内部には、作動ガスを流通させるための第2ガス流路109が形成されており、この第2ガス流路109は、第1ガス流路105に連通してある。
【0004】
従って、材料粉末の融点よりも低い温度の高圧の作動ガスに材料粉末を同伴させて、高圧の作動ガスが第1ガス流路105内に供給されると、第1ノズル構成体103により作動ガスの流れが絞られ、作動ガスが超音速まで加速され、第1ガス流路105内から第2ガス流路内へ超音速流として流入する。続いて、第2ノズル構成体107により超音速流の作動ガスが膨張して、第2ノズル構成体107内から被処理物Wの表面に向かって噴射される。これにより、作動ガスに同伴した材料粉末を固相状態のままで被処理物Wの表面に衝突させて被膜Cを形成することができる。
【0005】
なお、本発明に関連する先行技術として特許文献1から特許文献3に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−80323号公報
【特許文献2】特開2009−131834号公報
【特許文献3】特開2008−253889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、被膜Cの形成処理中に、第2ガス流路109の内壁面、特に、第2ガス流路109の内壁面の入口付近には材料粉末が付着し易く、材料粉末の付着が進行すると、コールドスプレー用ノズル101の閉塞を招くことになる。このような場合には、被膜Cの形成処理を一旦中断して、コールドスプレー用ノズル101の交換を行わなければならず、被膜Cの形成処理が煩雑化するという問題がある。
【0008】
また、第2ガス流路109の横断面において外周部の方が中央部よりも膨張が激しく、図5(b)に示すように、第2ガス流路109の出口側(出口側の横断面)において外周部の方が中央部よりも速くなるような不均一な速度分布Dを持つ傾向にある。そのため、第2ガス流路109の出口側の速度分布Dの不均一な度合いが大きくなると、被膜Cの膜厚のばらつき、被膜Cの密着強度のばらつき等が生じて、被膜Cの品質を高いレベルで向上させることが困難であるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成のコールドスプレー用ノズル等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の特徴は、材料粉末の融点よりも低い温度の作動ガスを超音速流として被処理物の表面に向かって噴射することにより、前記作動ガスに同伴した前記材料粉末を固相状態のままで前記被処理物の表面に衝突させて被膜を形成するコールドスプレー装置に用いられるコールドスプレー用ノズルにおいて、内管と外管の二重構造により構成され、前記内管の内側に前記材料粉末を同伴した前記作動ガスを流通させるための第1インナーガス流路が形成され、前記内管の外周面と前記外管の内周面の間に前記作動ガスのみを流通させるための環状の第1アウターガス流路が形成され、前記作動ガスの流れを絞る第1ノズル構成体(ノズル絞り部)と、前記外管の先端に同心状に設けられ、内側に前記第1インナーガス流路及び前記第1アウターガス流路に連通しかつ前記作動ガスを流通させるための第2ガス流路が形成され、前記作動ガスを膨張させて噴射する第2ノズル構成体(ノズル膨張部)と、を備え、前記内管の先端に突起が形成されていることを要旨とする。
【0011】
第1の特徴によると、前記材料粉末の融点よりも低い温度の高圧の前記作動ガスに前記材料粉末を同伴させて、高圧の前記作動ガスが前記第1インナーガス流路内に供給されると共に、前記材料粉末の融点よりも低い温度の高圧の前記作動ガスが前記第1アウターガス流路内に供給される。すると、前記第1ノズル構成体により前記作動ガスの流れが絞られて、前記作動ガスが超音速まで加速され、前記第1インナーガス流路内から超音速の一次流れ(一次超音速流)として、前記第1アウターガス流路内から環状の超音速の二次流れ(二次超音速流)として前記第2ガス流路内にそれぞれ流入する。続いて、前記第2ノズル構成体により超音速の前記一次流の前記作動ガス及び前記超音速の二次流れの前記作動ガスがそれぞれ膨張(膨張・加速)して、前記第2ノズル構成体の先端から前記被処理物の表面に向かって噴射される。これにより、前記作動ガスに同伴した前記材料粉末を固相状態のままで前記被処理物の表面に衝突させて前記被膜を形成することができる。
【0012】
ここで、前記第2ガス流路内において、前記超音速の二次流れが前記超音速の一次流れを囲むようになっており、前記超音速の一次流れと前記超音速の二次流れの境界部によって、出口付近に前記第2ノズル構成体の軸心(前記コールドスプレー用ノズルの軸心)に平行な平行部を有しかつ前記作動ガスを前記超音速の一次流れとして噴出可能な空力的ノズルを区画形成することができる。また、前記内管の先端に前記突起が形成されることにより、前記超音速の一次流れと前記超音速の二次流れとの間の剪断層内に3次元的な乱れとしての縦渦が生成されて、前記剪断層内に生成される2次元的な渦(2次元大規模渦)の成長を抑止(抑制)できるため、前記超音速の一次流れと前記超音速の二次流れの混合を十分に抑制して、前記空力的ノズルの形状を安定的に維持することができる。これにより、前記第2ガス流路の内壁面に前記材料粉末が付着し難くなって、前記コールドスプレー用ノズルの閉塞を回避することができると共に、前記第2ガス流路の出口側(出口側の横断面)における前記超音速の一次流れの速度分布を均一な速度分布に近づけることができる。
【0013】
特に、前記第1インナーガス流路内に供給される前記作動ガスの温度に比べて、前記第1アウターガス流路内に供給される前記作動ガスの温度を十分に低く設定しておくことにより、前記超音速の二次流れの前記作動ガスによって前記第2ガス流路の内壁面全体を冷却(フィルム冷却)することができる。これにより、前記第2ガス流路の内壁面に前記材料粉末がより付着し難くなって、前記被膜の形成処理中における前記コールドスプレー用ノズルの閉塞を十分かつ確実に回避することができる。
【0014】
更に、前記第1インナーガス流路内及び前記第1アウターガス流路内にそれぞれ供給される作動ガスの供給流量の割合を調節することにより、前記超音速の一次流れと前記超音速の二次流れの前記境界部の位置を前記第2ノズル構成体の軸心に対して接近離隔させることができる。これにより、前記超音速の一次流れの膨張比を作動ガスの圧力に応じた膨張比に設定することができる。
【0015】
本発明の第2の特徴は、材料粉末の融点よりも低い温度の作動ガスを超音速流として被処理物の表面に向かって噴射することにより、前記作動ガスに同伴した前記材料粉末を固相状態のままで前記被処理物の表面に衝突させて被膜を形成するコールドスプレー装置において、第1の特徴からなるコールドスプレー用ノズルを用いたことを要旨とする。
【0016】
第2の特徴によると、第1の特徴による作用と同様の作用を奏する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、記第2ガス流路の内壁面に前記材料粉末がより付着し難くなって、前記コールドスプレー用ノズルの閉塞を十分かつ確実に回避きるため、前記被膜の形成処理中に、前記コールドスプレー用ノズルの交換を極力なくして、前記被膜の形成処理の能率を向上させることができる。
【0018】
また、前記第2ガス流路の出口側における前記超音速の一次流れの速度分布を均一な速度分布に近づけることができるため、前記被膜の膜厚のばらつき、前記被膜の密着強度のばらつき等をなくして、前記被膜の品質を高いベルで向上させることができる。
【0019】
更に、前記超音速の一次流れの膨張比を作動ガスの圧力に応じた膨張比に設定できるため、前記作動ガスの圧力を変更した場合でも、前記第2ガス流路内において前記超音速の一次流れの作動ガスを適正膨張させて、前記被膜の品質を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るコールドスプレー用ノズルの断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係るコールドスプレー装置の模式的な図である。
【図3】図3(a)は、本発明の実施形態に係るコールドスプレー用ノズルにおける内管の先端側の拡大断面図、図3(b)は、図3(a)における矢視部Bの拡大図である。
【図4】図4(a)(b)(c)は、本発明の実施形態に係るコールドスプレー用ノズルにおける別態様の内管の先端側の拡大断面図である。
【図5】図5(a)は、一般的なコールドスプレー用ノズルの断面図、図5(b)は、第2流路の出口側の速度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について図1から図4を参照して説明する。
【0022】
図2に示すように、本発明の実施形態に係るコールドスプレー装置1は、材料粉末の融点よりも低い温度の作動ガスを超音速流F1,F2として被処理物Wの表面に向かって噴射することにより、作動ガスに同伴した材料粉末を固相状態のままで被処理物Wの表面に衝突させて被膜Cを形成する装置である。ここで、材料粉末には、本発明の実施形態にあっては、銅アルミ,チタン,銀,ニッケル,亜鉛,錫,モリブデン、鉄,タルタン,ニオブ,シリコン,クロム等の金属の粉末、チタン合金,ニッケルクロム合金,ステンレス鋼,アルミニウム合金,銅合金等の合金の粉末、アルミナ等のセラミックスの粉末等が用いられ、作動ガスには、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが用いられる。
【0023】
コールドスプレー装置1は、装置筐体3と、この装置筐体3の側面に着脱可能に設けられたコールドスプレー用ノズル5と、装置筐体3の内部に設けられかつコールドスプレー用ノズル5に作動ガスを供給するガス供給ユニット7とを備えている。そして、ガス供給ユニット7の具体的な構成は、次のようになる。
【0024】
装置筐体3内には、例えば40気圧以上の高圧の窒素等の作動ガスを貯留するガス供給源としてのガスボンベ9が設けられている。また、ガスボンベ9には、高圧の作動ガスを流通させるためのメイン配管11の一端が接続されており、このメイン配管11の途中には、高圧の作動ガスを流通させるための分岐配管13の一端が分岐接続されている。更に、ガスボンベ9には、材料粉末を同伴した高圧の作動ガスを流通させるためのサブ配管15の一端が接続されており、このサブ配管15の途中には、材料粉末を供給する粉末供給源として粉末供給器17が配設されている。
【0025】
メイン配管11における分岐部(分岐配管13への分岐部)よりも一端側(供給方向上流側)には、メイン配管11の開口度(開口面積)を調節可能なバルブ19が配設されている。また、メイン配管11における分岐部よりも他端側(供給方向下流側)には、メイン配管11の開口度を調節可能なバルブ21が配設されている。更に、分岐配管13の途中には、分岐配管13の開口度を調節するバルブ23が配設されており、サブ配管15の途中には、サブ配管15の開口度を調節するバルブ25が配設されている。
【0026】
メイン配管11における分岐部とバルブ19との間には、作動ガスを材料粉末の融点よりも低い所定の低温度(例えば400度)まで加熱する抵抗加熱式のヒータ27が配設されており、メイン配管11における分岐部とバルブ21との間には、作動ガスを材料粉末の融点よりも低い所定の高温度(例えば800度)まで加熱する抵抗加熱式のヒータ29が配設されている。また、サブ配管15の途中には、作動ガスを所定の高温度まで加熱する抵抗加熱式のヒータ31が配設されている。
【0027】
続いて、本発明の実施形態の要部であるコールドスプレー用ノズル5の具体的な構成について説明する。
【0028】
図1及び図2に示すように、装置筐体3の側面には、作動ガスの流れを絞る第1ノズル構成体(ノズル絞り部)33が着脱可能に設けられており、この第1ノズル構成体33は、内管35と外管37の二重構造により構成されている。また、内管35の内側には、材料粉末を同伴した作動ガスを流通させるための第1インナーガス流路39が形成されており、この第1インナーガス流路39の先端側は、先端方向に向かって縮径してある。更に、第1インナーガス流路39は、メイン配管11の他端及びサブ配管15の他端に接続されており、第1インナーガス流路39内には、所定の高温度に加熱されかつ材料粉末を同伴した作動ガスが供給されるようになっている。
【0029】
内管35の外周面と外管37の内周面の間には、作動ガスのみを流通させるための環状の第1アウターガス流路41が形成されており、第1アウターガス流路41の先端側は、先端方向に向かって縮径してある。また、第1アウターガス流路41は、分岐配管13の他端に接続されており、第1アウターガス流路41内には、所定の低温度に加熱された作動ガスが供給されるようになっている。
【0030】
外管37の先端には、作動ガスを膨張させて噴射する第2ノズル構成体(ノズル膨張部)43が同心状に一体に設けられており、この第2ノズル構成体43の内側には、作動ガスを流通させるための第2ガス流路45が形成されている。また、第2ガス流路45は、第1インナーガス流路39及び第1アウターガス流路41に連通しており、第2ガス流路45内には、第1インナーガス流路39内から超音速の一次流れ(一次超音速流)F1として、第1アウターガス流路41内から環状の超音速の二次流れ(二次超音速流)F2として作動ガスがそれぞれ流入するようになっている。
【0031】
図3(a)(b)に示すように、内管35の先端には、径方向内側へ突出した複数の内突起47が周方向に間隔を置いて形成されており、各内突起47の高さは、超音速の一次流れF1の境界層F1aの厚さよりも小さく設定されている。また、内管35の先端には、径方向外側へ突出した複数の外突起49が周方向に間隔を置いて形成されており、各内突起47の高さは、超音速の二次流れF2の境界層F2aの厚さよりも小さく設定されている。なお、内管35の先端に複数の内突起47及び複数の外突起49が形成される代わりに、図4(a)(b)に示すように、複数の内突起47のみ又は複数の外突起49のみが形成されるようにしたり、図4(c)に示すように、内管35の先端に内管35の軸方向へ突出した複数の軸突起51が形成されるようにしても構わない。
【0032】
続いて、本発明の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0033】
バルブ19,21によってメイン配管11の開口度を調節して、高圧の作動ガスをガスボンベ9からバルブ19、ヒータ27、バルブ21、及びヒータ29を経由(流通)させると共に、バルブ25によってサブ配管15の開口度を調節して、高圧の作動ガスをガスボンベ9からバルブ25、ヒータ31、及び粉末供給器17を経由させることにより、所定の高温度に加熱した高圧の作動ガスに材料粉末を同伴させて、高圧の作動ガスが第1インナーガス流路39内に供給される。また、バルブ19によってメイン配管11の開口度を調節する他に、バルブ23によって分岐配管13の開口度を調節して、高圧の作動ガスをガスボンベ9からバルブ19、ヒータ27、及びバルブ23を経由させることにより、所定の低温度に加熱した高圧の作動ガスが第1アウターガス流路41内に供給される。すると、第1ノズル構成体33により作動ガスの流れが絞られ、作動ガスが超音速まで加速され、第1インナーガス流路39内から超音速の一次流れF1として、第1アウターガス流路41内から環状の超音速の二次流れF2として第2ガス流路45内にそれぞれ流入する。続いて、第2ノズル構成体43により超音速の一次流F1の作動ガス及び超音速の二次流れF2の作動ガスがそれぞれ膨張(膨張・加速)して、第2ノズル構成体43の先端から被処理物Wの表面に向かって噴射される。これにより、作動ガスに同伴した材料粉末を固相状態のままで被処理物Wの表面に衝突させて被膜Cを形成することができる。
【0034】
ここで、第2ガス流路45内において、超音速の二次流れF2が超音速の一次流れF1を囲むようになっており、超音速の一次流れF1と超音速の二次流れF2の境界部によって、出口付近に第2ノズル構成体43の軸心(コールドスプレー用ノズル5の軸心)に平行な平行部53pを有しかつロケットノズルの外形状に近似した形状を呈しかつ作動ガスを超音速の一次流れF1として噴出可能な空力的ノズル53を区画形成(形成)することができる。また、内管35の先端に複数の内突起47及び複数の外突起49が形成されることにより、図3(b)に示すように、超音速の一次流れF1と超音速の二次流れF2との間の剪断層S内に3次元的な乱れとしての縦渦55が生成されて、剪断層S内に生成される2次元的な渦(2次元大規模渦)57の成長を抑止(抑制)できるため(特許第4211298号公報参照)、超音速の一次流れF1と超音速の二次流れF2の混合を十分に抑制して、空力的ノズル53の形状を安定的に維持することができる。これにより、第2ガス流路45の内壁面に材料粉末が付着し難くなって、コールドスプレー用ノズル5の閉塞を回避することができると共に、図1に示すように、第2ガス流路45の出口側(出口側の横断面)における超音速の一次流れF1の速度分布Dを均一な速度分布に近づけることができる。
【0035】
特に、第1インナーガス流路39内に供給される作動ガスの温度に比べて、第1アウターガス流路41内に供給される作動ガスの温度を十分に低く設定してあるため、超音速の二次流れF2の作動ガスによって第2ガス流路45の内壁面全体を冷却(フィルム冷却)することができる。これにより、第2ガス流路45の内壁面に材料粉末がより付着し難くなって、コールドスプレー用ノズル5の閉塞を十分かつ確実に回避することができる。
【0036】
更に、第1インナーガス流路39内及び第1アウターガス流路41内にそれぞれ供給される作動ガスの供給流量の割合を調節することにより、超音速の一次流れF1と超音速の二次流れF2の境界部の位置を第2ノズル構成体43の軸心に対して接近離隔させることができる。これにより、超音速の一次流れF1の膨張比を作動ガスの圧力に応じた膨張比に設定することができる。なお、超音速の一次流れF1の膨張比とは、第2ガス流路45の出口側における超音速の一次流れF1の横断面積Aoに対する第1インナーガス流路39の先端(スロート部)の横断面積Aiの割合(Ao/Ai)のことである。
【0037】
従って、本発明の実施形態によれば、第2ガス流路45の内壁面に材料粉末がより付着し難くなって、コールドスプレー用ノズル5の閉塞を十分かつ確実に回避きるため、被膜Cの形成処理中に、コールドスプレー用ノズル5の交換を極力なくして、被膜Cの形成処理の能率を向上させることができる。
【0038】
また、第2ガス流路45の出口側における超音速の一次流れF1の速度分布Dを均一な速度分布に近づけることができるため、被膜Cの膜厚のばらつき、被膜Cの密着強度のばらつき等をなくして、被膜Cの品質を高いベルで向上させることができる。
【0039】
更に、超音速の一次流れF1の膨張比を作動ガスの圧力に応じた膨張比に設定できるため、作動ガスの圧力を変更した場合でも、第2ガス流路45内において超音速の一次流れF1の作動ガスを適正膨張させて、被膜Cの品質を維持することができる。
【0040】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、適宜の変更を行うことにより、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【符号の説明】
【0041】
W 被処理物
C 被膜
F1 超音速の一次流
F1a 超音速の一次流の境界層
F2 超音速の二次流
F2a 超音速の二次流の境界層
S 剪断層
1 コールドスプレー装置
3 装置筐体
5 コールドスプレー用ノズル
7 ガス供給ユニット
9 ガスボンベ
11 メイン配管
13 分岐配管
15 サブ配管
17 粉末供給器
19 バルブ
21 バルブ
23 バルブ
25 バルブ
27 ヒータ
29 ヒータ
31 ヒータ
33 第1ノズル構成体
35 内管
37 外管
39 第1インナーガス流路
41 第1アウターガス流路
43 第2ノズル構成体
45 第2ガス流路
47 内突起
49 外突起
51 軸突起
53 空力的ノズル
53p 平行部
55 縦渦
57 2次元的な渦(2次元大規模渦)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料粉末の融点よりも低い温度の作動ガスを超音速流として被処理物の表面に向かって噴射することにより、前記作動ガスに同伴した前記材料粉末を固相状態のままで前記被処理物の表面に衝突させて被膜を形成するコールドスプレー装置に用いられるコールドスプレー用ノズルにおいて、
内管と外管の二重構造により構成され、前記内管の内側に前記材料粉末を同伴した前記作動ガスを流通させるための第1インナーガス流路が形成され、前記内管の外周面と前記外管の内周面の間に前記作動ガスのみを流通させるための環状の第1アウターガス流路が形成され、前記作動ガスの流れを絞る第1ノズル構成体と、
前記外管の先端に同心状に設けられ、内側に前記第1インナーガス流路及び前記第1アウターガス流路に連通しかつ前記作動ガスを流通させるための第2ガス流路が形成され、前記作動ガスを膨張させて噴射する第2ノズル構成体と、を備え、
前記内管の先端に突起が形成されていることを特徴とするコールドスプレー用ノズル。
【請求項2】
前記第1インナーガス流路の少なくとも先端側は、先端方向に向かって縮径してあって、前記第1アウターガス流路の少なくとも先端側は、先端方向に向かって縮径してあること特徴とする請求項1に記載のコールドスプレー用ノズル。
【請求項3】
前記突起が前記内管の径方向内側へ突出していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコールドスプレー用ノズル。
【請求項4】
前記突起が前記内管の径方向外側へ突出していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコールドスプレー用ノズル。
【請求項5】
前記突起が前記内管の軸方向へ突出していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコールドスプレー用ノズル。
【請求項6】
材料粉末の融点よりも低い温度の作動ガスを超音速流として被処理物の表面に向かって噴射することにより、前記作動ガスに同伴した前記材料粉末を固相状態のままで前記被処理物の表面に衝突させて被膜を形成するコールドスプレー装置において、
請求項1から請求項5のうちのいずれかの請求項に記載のコールドスプレー用ノズルを用いたことを特徴とするコールドスプレー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−49025(P2013−49025A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189131(P2011−189131)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】