説明

ゴム/ゴム接着複合体の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、少なくとも2種類以上のゴム組成物からなるゴム材料を重ね合わせて接着したゴム/ゴム接着複合体の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、タイヤ、コンベヤベルト、ホース、ライニング製品等のゴム/ゴム接着複合体からなる各種ゴム製品は、2種類以上の未加硫ゴム組成物をそれぞれ適宜成形し、得られたゴム材料を重ね合わせて加硫することにより製造されている。しかし、互いに重ね合わせたゴム材料を構成するゴム組成物が相違すると、良好な相溶性が得られなかったり、加硫速度や架橋状態が相違する、所謂共加硫性が失われたり、また、加硫温度条件が近似するゴム組成物からなるゴム材料同士でないと強固に接着したゴム/ゴム接着複合体を製造することができなかった。
【0003】また、ゴム材料の少なくとも一方が加硫されていると、接着が非常に困難になるため、接着剤等を使用しているが十分な接着性は得られず、むしろ接着剤が硬くなるため、ゴム/ゴム接着複合体の柔軟性が低下するという問題があった。さらにこの接着剤は、ゴム/ゴム接着複合体に対し、接着以外の効果、例えば補強効果、耐ガス透過性、耐水性、寸法安定性等の性能を付与するものではなかった。
【0004】本発明者は、このようなゴム/ゴム接着複合体の諸問題について研究を重ねた結果、超高分子量ポリエチレンシート(以下超高分子量PEシートと称する)がゴム材料に対して優れた接着性を有し、所謂フィルム接着剤として有用であることを見出した。しかしながら、この超高分子量PEシートを未加硫のゴム材料の間に挟んで加熱し融着一体化すると、ゴム材料中の配合薬品が超高分子量PEシート中を拡散して、一方のゴム材料から他方のゴム材料に移行し、ゴム材料の加硫特性を変化させるため、ゴム/ゴム間の接着性並びに加硫ゴム物性の良好なゴム/ゴム接着複合体が得られない場合があった。また、この場合も加硫特性や加硫温度条件が近似するゴム材料同士でないと接着させることができなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、超高分子量PEシートの利用により加硫特性や加硫温度条件が相違する2種類以上のゴム組成物からなるゴム材料同士を強固に接着可能であり、しかも柔軟性を損なうことなく、強度、耐久性を向上し、優れた耐ガス透過性、耐水性、寸法安定性等の性能を付与することができるゴム/ゴム接着複合体の製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、超高分子量PEシートへのゴム配合薬品の拡散に起因するゴム/ゴム間の接着性が低下するという問題を解消したゴム/ゴム接着複合体の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】このような目的を達成する本発明は、臨界表面張力γc (以下γc と略す)が25〜35ミリニュートン/メートル(以下、mN/mで表示する)の原料ゴムを含有する2種類以上のゴム組成物を成形し、得られたゴム材料に削り出し方式により作製した超高分子量PEシートを重ね合わて加熱又は加硫し、前記ゴム材料に前記超高分子量ポリエチレンシートが融着一体化した積層体を作製した後、該積層体の超高分子量ポリエチレンシート面同士を重ね合わせて再加熱融着することを特徴とする。
【0007】このように本発明は、特定のγc を有する原料ゴムを含有するゴム組成物を使用することにより、このゴム組成物からなるゴム材料の超高分子量PEシートに対する接着性を向上することができる。また、予め各々のゴム材料に、それぞれの加硫条件に合わせて前記超高分子量PEシートを加硫接着させた積層体を得、これらを互いに超高分子量PEシート同士を重ね合わせて融着一体化するので、相溶性や共加硫性等の加硫特性や加硫温度条件を異にするゴム材料同士でも複合体にすることができる。また、加硫中の配合薬品が超高分子量PEシートを拡散移行することがないので、良好なゴム/ゴム間の接着性を確保し、その所定の物性を発揮させることができる。しかも超高分子量PEシートの優れた物性により、ゴム/ゴム接着複合体の柔軟性を損なうことなく補強し、耐久性を向上し、耐ガス透過性、耐水性、寸法安定性等の性能を付与することができる。
【0008】本発明において、削り出し方式により作製した超高分子量PEシートとは、超高分子量のポリエチレン粉末を加熱加圧シンタリングして円柱状の成形物を作製し、この成形物をその周方向に薄肉に削ってシート状又はフィルム状に切り出したものをいう。また、臨界表面張力γc とは、昭和53年8月20日(第3刷)丸善株式会社発行「化学便覧」基礎編II、第618頁に記載されているように、固体面上で液体炭化水素その他の有機液体化合物の同族列が示す接触角をθ、その液体の表面張力をγとすると、cos θとγとの関係は同族体の種類に関せず大体一本の直線となる。このとき、θ=0、すなわちcos θ=1に相当するγc の値をいうと定義されている。本発明に定義する原料ゴムの臨界表面張力γc は、上記固体の代わりに、原料ゴムを熱プレスにより平坦にしたゴムサンプルを使用して同様に測定した値をいう。
【0009】以下、本発明の構成についてより詳しく説明する。先ず、未加硫ゴム組成物を調製する。この未加硫ゴム組成物中に含有される原料ゴムは、臨界表面張力γc が25〜35mN/mの範囲内であることが必要である。この原料ゴムの臨界表面張力γc が上記範囲外のときは、超高分子量PEシートに対する接着性の良好なゴム材料が得られない。
【0010】上記範囲の臨界表面張力γc を有する原料ゴムとしては、米国マーセル・デッカー社(Marcel Dekker, Inc., New York and Basel)1988年発行の“ハンドブック・オブ・エラストマーズ ニューデベロップメント・アンド・テクノロジー”(Handbook of Elastomers New Developmentand Technology):エーケー,ボーミック 及び エッチエル,ステファンズ(A, K, Bhowmik and H, L, Stephens)著、第8章第253頁の表1に記載されているように、イソブチレン−イソプレン共重合体ゴム(IIR,γc =27mN/m)、エチレン−プロピレンジエン三元共重合体ゴム(EPDM,γc =28mN/m)、天然ゴム(NR,γc =31mN/m)、ポリブタジエンゴム(BR,γc =32mN/m)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR,γc =33mN/m)等がある。
【0011】これらの原料ゴムに、硫黄等の加硫剤、カーボンブラック等の補強剤、加硫促進剤、充填剤、軟化剤等の各種の配合薬品を配合することにより、所定の組成を有するゴム組成物を調製する。得られたゴム組成物は適宜成形して、シート状、板状、ブロック状、管状等の任意の形状を有するゴム材料にする。この場合、ゴム材料中にはスチールコード等の金属コード、ナイロン、ポリエステル及びアラミド等の有機繊維コード等の補強材を埋設することができる。
【0012】次いで上記ゴム材料と超高分子量PEシートとを重ね合わせて加熱し、ゴム材料を加硫すると共に超高分子量PEシートを融着して積層体を形成する。上記ゴム材料は、未加硫のものに限られるものではなく、加硫済みのものであってもよい。しかしながら、加硫済みの場合は、臨界表面張力γc が27〜32mN/mの原料ゴムを含有するゴム組成物から形成したものを使用する必要がある。ゴム材料は加硫により架橋されると、臨界表面張力γc が増大し、超高分子量PEシートの臨界表面張力γc との差が大きくなり、接着性が低下するからである。
【0013】また、超高分子量PEシートとしては、前述した削り出し方式により作製したものを使用する。この削り出し方式により作製した超高分子量PEシートは、高結晶性であり、屈曲し易く柔軟で、しかも引張強度、引張弾性率、寸法安定性等に優れている。また、その臨界表面張力γc は、上述した原料ゴムに近似する29mN/mであり、ゴム材料に対する親和性に優れ、融着により強固に接着する。この超高分子量PEシートは、望ましくは分子量が少なくとも100万のポリエチレンからなり、厚さが10〜200μmの範囲のものよい。
【0014】このようにして得られた積層体は、その超高分子量PEシート面同士を重ね合わせて加熱し、融着一体化することにより、ゴム/ゴム接着複合体を製造することができる。この場合の加熱温度は、超高分子量PEシートの融点(125℃)以上であればよいが、その上限は300℃以下にすることが望ましい。加熱の上限を300℃以下にすることにより超高分子量PEシートの劣化を抑制することができる。
【0015】
【実施例】下記の本発明方法(1)及び(2)と比較方法とによりそれぞれゴム/ゴム接着複合体を製造した。
本発明方法(1):表1に示す4種類のゴム組成物I,II,III 及びIVを調製した。これらのうち、ゴム組成物II及びIII を用いて、それぞれ150mm×50mm×2.5mmの大きさの未加硫ゴムシートを成形した。これらの未加硫ゴムシートの片面に、それぞれ分子量約500万のポリエチレンからなる厚さ50μmの超高分子量PEシートを重ね合わせて、20kg/cm2 の加圧下に150℃で30分間加熱し、ゴムシートを加硫すると共に超高分子量PEシートを融着一体化したシート状積層体を製作した。
【0016】これら2種類のシート状積層体の超高分子量PEシート面同士を重ね合わせて20kg/cm2 の加圧下に160℃に加熱融着してゴム/ゴム接着複合体を製造した。
本発明方法(2):表1に示すゴム組成物I及びIVを用いて、それぞれ150mm×50mm×2.5mmの大きさの未加硫ゴムシートを成形した。これらの未加硫ゴムシートの片面に、それぞれ分子量約500万のポリエチレンからなる厚さ50μmの超高分子量PEシートを重ね合わせて、20kg/cm2 の加圧下において、ゴム組成物Iは150℃で30分間、ゴム組成物IVは190℃で20分間それぞれ加熱し、ゴムシートを加硫すると共に超高分子量PEシートを融着一体化したシート状積層体を製作した。
【0017】これら2種類のシート状積層体の超高分子量PEシート面同士を重ね合わせて20kg/cm2 の加圧下に150℃に加熱融着してゴム/ゴム接着複合体を製造した。
比較方法:本発明方法(1)において、2種類のゴムシート間に50μmの厚さの超高分子量PEシートをそれぞれ1枚,2枚及び5枚挟んで積層し、1回の加硫で接着させた以外は、本発明方法と同様に加圧下に加熱してゴム/ゴム接着複合体を製造した。
【0018】


表1中の数値は重量部を示す。また、樹脂はフェノール樹脂系架橋剤である。
【0019】また、老化防止剤は、N−フェニル−N’−イソプロピル−P−フェニレンジアミン、加硫促進剤Aは、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、加硫促進剤Bは、テトラメチルチウラムジスルフィド、加硫促進剤Cは、2−メルカプトベンゾチアゾールである。上述の本発明方法(1)、(2)及び比較方法により得たゴム/ゴム接着複合体について、次の接着評価方法により接着性を評価した。
接着性の評価方法:ゴム/ゴム接着複合体の接着性は、接着力の大きさで評価するのは正確ではない。そこで、幅20mmのサンプルを作製して剥離テストを行い、界面剥離が起こった場合にはたとえ接着力が高くても不良(×)と評価した。他方、界面剥離を起さなかった場合は、ゴム/ゴム接着複合体の接着界面を中心にして約0.5mmの厚さのシートをカミソリにて切り出し、その薄片をトルエン中に浸漬し、膨潤させた後、トルエン中浸漬したままシートの接着界面付近に張力を加えても界面剥離が起らなかった場合を接着性良好(○)と評価した。
【0020】その結果、本発明方法(1)と(2)により得られたゴム/ゴム接着複合体の接着性はいずれも○であった。但し、ゴム組成物IVの場合は、150℃,30分の加硫接着条件では加硫が十分に進行しないため、一度にゴム/ゴム接着複合体を作製することができない。これに対し比較方法により得られたゴム/ゴム接着複合体は、超高分子量PEシートを1枚挟んで積層したものと2枚挟んで積層したものは、いずれも×であった。また、超高分子量PEシートを5枚挟んで積層したものは○であったが、剛くて柔軟性が損なわれていた。
【0021】
【発明の効果】以上説明したように本発明方法によれば、25〜35mN/mの臨界表面張力γc を有する原料ゴムを含有するゴム組成物を使用することにより、ゴム材料の超高分子量PEシートに対する接着性を高めることができる。また、超高分子量PEシートを予めゴム材料と融着一体化して積層体にしたから、加硫特性や加硫条件を異にするゴム材料同士でもゴム/ゴム接着複合体にすることができる。また、予め超高分子量PEシートを融着した積層体を使用するので、配合薬品の拡散に起因するゴム材料を構成するゴム組成物の加硫特性の変化の問題がないから、ゴム/ゴム間接着に優れたゴム/ゴム接着複合体を容易に製造することができる。しかも超高分子量PEシートの優れた多くの特性によりゴム/ゴム接着複合体の柔軟性を損なうことなく、強度、耐久性を向上し、耐ガス透過性、耐水性、寸法安定性等の性能を付与することができる。
【0022】したがって、本発明方法により得られるゴム/ゴム接着複合体は、タイヤ、コンベヤベルト、ホース、ライニング製品等の多くの分野で極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 臨界表面張力γc が25〜35ミリニュートン/メートルの原料ゴムを含有する2種類以上のゴム組成物からなるゴム材料を接着するに当たり、前記各ゴム材料にそれぞれ削り出し方式により作製した超高分子量ポリエチレンシートを予め加熱又は加硫により接着させた積層体にし、次いで該積層体の超高分子量ポリエチレンシート面同士を重ね合わせて加熱融着するゴム/ゴム接着複合体の製造方法。

【特許番号】第2627833号
【登録日】平成9年(1997)4月18日
【発行日】平成9年(1997)7月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−143382
【出願日】平成3年(1991)6月14日
【公開番号】特開平4−366616
【公開日】平成4年(1992)12月18日
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【参考文献】
【文献】特開 昭60−82330(JP,A)
【文献】特開 平2−258325(JP,A)
【文献】特開 昭60−165227(JP,A)
【文献】特開 平4−364946(JP,A)