説明

ゴルフクラブシャフト

【課題】周方向の均一性に優れたシャフトの提供。
【解決手段】複数のプリプレグシートa1〜a8を用いて製造されているゴルフクラブシャフトである。上記複数のプリプレグシートa1〜a8が、シャフト軸方向の全体に配置される全長シートa2〜a7と、シャフト軸方向において部分的に配置される部分シートa1、a8とを含んでいる。全ての上記全長シートa2〜a7において、プライ数が実質的に整数とされている。上記全長シートa2〜a7は、4枚以上のバイアスシートa2〜a5を含んでいる。上記バイアスシートa2〜a5の周方向巻回開始位置が、4箇所以上に分散している。好ましくは、上記全長シートa2〜a7の周方向巻回開始位置は、5箇所以上に分散している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブシャフトとして、いわゆるカーボンシャフトが知られている。このカーボンシャフトの製造方法として、シートワインディング製法が知られている。このシートワインディング製法では、プリプレグ(プリプレグシート)をマンドレルに巻回することにより、積層構造が得られる。
【0003】
このシャフトでは、材料誤差、巻き付け作業の誤差等に起因して、バラツキが生じうる。特に、周方向におけるバラツキが生じうる。特に、周方向におけるフレックス(曲げ剛性)のバラツキが生じうる。このバラツキが存在する場合、ヘッドに対するシャフトの周方向相対位置(以下、シャフトポジションともいう)によってフレックスが変化してしまう。このバラツキは、種々の問題を生じうる。
【0004】
周方向の均一性を高める技術が開示されている。特許第2705047号公報は、シートの両端部を重ねることなく突き合わせ、この突き合わせ部分を周方向に略均等に分散させたシャフトを開示する。特許第3315338号公報は、目開き部に、隣接する層の重合部を位置させた管状体を開示する。特許第4510260号公報に記載の発明は、プリプレグ(P1)の巻き始め端縁に、プリプレグ(P2)の巻き終わり端縁を突き合わせること等を規定している。
【0005】
特開2009−254401公報は、第1アングル層と第2アングル層とを設けたシャフトを開示する。第2アングル層における繊維の配向角度は、シャフトの長手方向に対して60°から75°である。この発明の目的は、従来シャフトの特性及び外径を維持したまま、捻れ強度を向上させることにある。
【0006】
一方、ヘッドとシャフトとが着脱可能とされたゴルフクラブが開発されている。
【0007】
この種のゴルフクラブの典型例では、シャフトの先端部にスリーブが接着されている。このスリーブは、ヘッドの回転防止部と係合し、且つ、ネジによって抜け止めされている。このゴルフクラブでは、シャフトをスリーブに対して傾斜させることができる。この傾斜は、ロフト角、ライ角及びフック角の調整を可能とする。即ち、シャフトポジションを変えることで、ロフト角、ライ角及びフック角が調整されうる。
【0008】
この種のゴルフクラブにおいては、シャフトの上記バラツキが特に問題となる。即ち、シャフトポジションによってフレックスが変化するのは、好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2705047号公報
【特許文献2】特許第3315338号公報
【特許文献3】特許第4510260号公報
【特許文献4】特開2009−254401公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ヘッドとシャフトとが着脱可能とされたゴルフクラブの登場に伴い、周方向の均一性はより一層重要となっている。
【0011】
本発明の目的は、周方向の均一性に優れたゴルフクラブシャフトの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るゴルフクラブシャフトは、複数のプリプレグシートを用いて製造されている。上記複数のプリプレグシートは、シャフト軸方向の全体に配置される全長シートと、シャフト軸方向において部分的に配置される部分シートとを含む。全ての上記全長シートにおいて、プライ数が実質的に整数とされている。上記全長シートは、4枚以上のバイアスシートを含む。上記バイアスシートの周方向巻回開始位置は、4箇所以上に分散している。
【0013】
好ましくは、上記全長シートの周方向巻回開始位置は、5箇所以上に分散している。
【0014】
上記部分シートは、シャフト軸方向長さが300mm以上である長部分シートとを含んでいてもよい。この場合、好ましくは、全ての上記長部分シートにおいて、プライ数が実質的に整数とされている。
【0015】
好ましくは、上記バイアスシートが、2枚のベースシートと、2枚の調整シートとを有している。ただし、上記2枚のベースシートの絶対繊維角度θbは40°以上50°以下であり、上記2枚の調整シートの絶対繊維角度θtは15°以上75°以下であって且つ上記角度θbとは相違している。
【0016】
第1の上記ベースシートの周方向巻回開始位置がPaとされ、第2の上記ベースシートの周方向巻回開始位置がPbとされ、第1の上記調整シートの周方向巻回開始位置がPcとされ、第2の上記調整シートの周方向巻回開始位置がPdとされるとき、好ましくは、位置Pa、Pb、Pc及びPdのぞれぞれが、次の4つの周方向位置P1、P2、P3及びP4のいずれかに一対一で対応している。
・周方向位置P1:0度
・周方向位置P2:75度以上105度以下
・周方向位置P3:165度以上195度以下
・周方向位置P4:255度以上285度以下
【0017】
好ましくは、上記シャフトは、4枚のシートを貼り合わせて得られる一つの合体シートを用いて作製されている。この4枚のシートは、2枚の上記ベースシート及び2枚の上記調整シートである。
【0018】
好ましくは、上記絶対繊維角度θtは上記絶対繊維角度θbよりも小さい。
【0019】
他の態様に係るゴルフクラブシャフトは、複数のプリプレグシートを用いて製造されている。上記複数のプリプレグシートは、シャフト軸方向方向の全体に配置される全長シートと、シャフト軸方向において部分的に配置される部分シートとを含む。上記全長シートは、複数のバイアスシートを含む。上記バイアスシートは、2枚のベースシートと、2枚の調整シートとを有している。上記2枚のベースシートの絶対繊維角度θbは40°以上50°以下である。上記2枚の調整シートの絶対繊維角度θtは、15°以上75°以下であって且つ上記絶対繊維角度θbとは相違している。第1の上記ベースシートの周方向巻回開始位置がPaとされ、第2の上記ベースシートの周方向巻回開始位置がPbとされ、第1の上記調整シートの周方向巻回開始位置がPcとされ、第2の上記調整シートの周方向巻回開始位置がPdとされるとき、位置Pa、Pb、Pc及びPdのぞれぞれが、次の4つの周方向位置P1、P2、P3及びP4のいずれかに一対一で対応している。
・周方向位置P1:0度
・周方向位置P2:75度以上105度以下
・周方向位置P3:165度以上195度以下
・周方向位置P4:255度以上285度以下
【発明の効果】
【0020】
周方向の均一性に優れたゴルフクラブシャフトが得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の第一実施形態に係るシャフトを備えたゴルフクラブを示す。
【図2】図2は、第一実施形態に係るシャフトの展開図である。
【図3】図3は、第一実施形態に係るシャフトの展開図であり、合体シートが作製された状態を示す。
【図4】図4は、第一実施形態における、各シートの周方向巻回開始位置を示す図である。
【図5】図5は、第一実施形態における、バイアス層の積層構成を示す概念図である。
【図6】図6は、第二実施形態において用いられた合体シートを示す図である。
【図7】図7は、第二実施形態における、バイアス層の積層構成を示す概念図である。
【図8】図8(a)は、順式フレックスの測定方法を示す図である。図8(b)は、逆式フレックスの測定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0023】
なお本願では、「層」という文言と、「シート」という文言とが用いられる。「層」は、巻回された後における称呼であり、これに対して「シート」は、巻回される前における称呼である。「層」は、「シート」が巻回されることによって形成される。即ち、巻回された「シート」が、「層」を形成する。
【0024】
また、本願では、層とシートとで同じ符号が用いられる。例えば、シートa1によって形成された層は、層a1とされる。
【0025】
特に説明しない限り、本願において、「内側」とは、シャフト半径方向における内側を意味し、「外側」とは、シャフト半径方向における外側を意味する。特に説明しない限り、本願において、「半径方向」とは、シャフト半径方向を意味し、「軸方向」とは、シャフト軸方向を意味する。
【0026】
図1は、本発明の第一実施形態に係るゴルフクラブシャフト6を備えたゴルフクラブ2の全体図である。ゴルフクラブ2は、ヘッド4と、シャフト6と、グリップ8とを備えている。シャフト6の先端部に、ヘッド4が設けられている。シャフト6の後端部に、グリップ8が設けられている。なおヘッド4及びグリップ8は限定されない。ヘッド4として、ウッド型ゴルフクラブヘッド、アイアン型ゴルフクラブヘッド、パターヘッド等が例示される。
【0027】
シャフト6は、繊維強化樹脂層の積層体からなる。シャフト6は、管状体である。シャフト6は中空構造を有する。図1が示すように、シャフト6は、チップTpとバットBtとを有する。クラブ2において、チップTpは、ヘッド4の内部に位置する。クラブ2において、バットBtは、グリップ8の内部に位置する。
【0028】
シャフト6は、いわゆるカーボンシャフトである。好ましくは、シャフト6は、プリプレグシートを硬化させてなる。このプリプレグシートでは、繊維は実質的に一方向に配向している。このように繊維が実質的に一方向に配向したプリプレグは、UDプリプレグとも称される。「UD」とは、ユニディレクションの略である。UDプリプレグ以外のプリプレグが用いられても良い。例えば、プリプレグシートに含まれる繊維が編まれていてもよい。
【0029】
プリプレグシートは、繊維と樹脂とを有している。この樹脂は、マトリクス樹脂とも称される。典型的には、この繊維は炭素繊維である。典型的には、このマトリクス樹脂は、熱硬化性樹脂である。好ましいマトリクス樹脂は、エポキシ樹脂である。
【0030】
シャフト6は、いわゆるシートワインディング製法により製造されている。プリプレグにおいて、マトリクス樹脂は、半硬化状態にある。シャフト6は、プリプレグシートが巻回され且つ硬化されてなる。この硬化とは、半硬化状態のマトリクス樹脂を硬化させることである。この硬化は、加熱により達成される。硬化工程においては、加熱がなされる。この加熱により、プリプレグシートのマトリクス樹脂が硬化する。
【0031】
図2は、シャフト6を構成するプリプレグシートの展開図(シート構成図)である。シャフト6は、複数枚のシートにより構成されている。図2の実施形態では、シャフト6は、a1からa8までの8枚のシートにより構成されている。本願において、図2で示される展開図は、シャフトを構成するシートを、シャフトの半径方向内側から順に示している。展開図において上側に位置しているシートから順に巻回される。本願の展開図において、図面の左右方向は、軸方向に一致する。本願の展開図において、図面の右側は、シャフトのチップTp側である。本願の展開図において、図面の左側は、シャフトのバットBt側である。
【0032】
本願の展開図は、各シートの巻き付け順序のみならず、各シートの軸方向における配置をも示している。例えば図2において、シートa1の一端はチップTpに位置している。
【0033】
シャフト6は、ストレート層とバイアス層とを有する。本願の展開図において、繊維の配向角度(繊維角度Af)が記載されている。この配向角度は、軸方向に対する角度である。軸方向は、シャフト長手方向に等しい。「0°」と記載されているシートが、ストレート層を構成している。ストレート層用のシートは、本願においてストレートシートとも称される。
【0034】
ストレート層は、繊維の配向がシャフトの長手方向(軸方向)に対して実質的に0°とされた層である。巻き付けの際の誤差等に起因して、通常、繊維の配向は軸方向に対して完全に平行とはならない。ストレート層において、シャフト軸線に対する絶対繊維角度θは、10°以下である。絶対繊維角度θとは、シャフト軸線と繊維方向との成す角度の絶対値である。即ち、絶対繊維角度θが10°以下とは、繊維方向と軸方向とのなす角度Af(繊維角度Af)が、−10度以上+10度以下であることを意味する。
【0035】
図2の実施形態において、ストレートシートは、シートa1、シートa6、シートa7及びシートa8である。ストレート層は、シャフトの曲げ剛性及び曲げ強度との相関が高い。
【0036】
バイアス層は、繊維の配向が軸方向に対して実質的に傾斜した層である。本願において、バイアス層用のシートは、単にバイアスシートとも称される。
【0037】
バイアス層は、繊維の配向が互いに逆方向に傾斜した2つの層の組み合わせである。即ちバイアスシートは、繊維の配向が互いに逆方向に傾斜した2枚のシートの組み合わせである。好ましくは、バイアスシートは、上記角度Afが−75°以上−15°以下のシートと、上記角度Afが15°以上75°以下のシートとの組み合わせである。
【0038】
シャフト6において、バイアスシートは、シートa2、シートa3、シートa4及びシートa5である。図2には、シート毎に、上記角度Afが記載されている。角度Afにおけるプラス(+)及びマイナス(−)は、互いに貼り合わされるバイアスシートの繊維が互いに逆方向に傾斜していることを示している。
【0039】
なお、図2の実施形態では、シートa2が−45度であり且つシートa3が+45度であるが、逆にシートa2が+45度であり且つシートa3が−45度であってもよいことは当然である。同様に、図2の実施形態では、シートa4が−30度であり且つシートa5が+30度であるが、逆にシートa4が+30度であり且つシートa5が−30度であってもよいことは当然である。
【0040】
ストレート層及びバイアス層以外に、フープ層が設けられてもよい。このフープ層では、上記絶対繊維角度θが実質的に90°とされる。ただし、巻き付けの際の誤差等に起因して、この角度θは完全に90°とはならない。好ましくは、このフープ層における上記絶対繊維角度θは80°以上であり、より好ましくは85°以上である。図2の実施形態では、フープ層は設けられていない。
【0041】
図2には、各シートのプライ数が付記されている。この図2において、シートの右側には、チップTpにおけるプライ数が記載されている。シートの左側には、バットBtにおけるプライ数が記載されている。
【0042】
シートa2のプライ数は2である。即ち、層a2は、軸方向のあらゆる位置において、2周している。シートa3のプライ数は2である。即ち、層a3は、軸方向のあらゆる位置において、2周している。シートa4のプライ数は1である。即ち、層a4は、軸方向のあらゆる位置において、1周している。シートa5のプライ数は1である。即ち、層a5は、軸方向のあらゆる位置において、1周している。シートa6のプライ数は2である。即ち、層a6は、軸方向のあらゆる位置において、2周している。シートa7のプライ数は2である。即ち、層a7は、軸方向のあらゆる位置において、2周している。
【0043】
図示しないが、使用される前のプリプレグシートは、カバーシートにより挟まれている。通常、カバーシートは、離型紙及び樹脂フィルムである。即ち、使用される前のプリプレグシートは、離型紙と樹脂フィルムとで挟まれている。プリプレグシートの一方の面には離型紙が貼られており、プリプレグシートの他方の面には樹脂フィルムが貼られている。以下において、離型紙が貼り付けられている面が「離型紙側の面」とも称され、樹脂フィルムが貼り付けられている面が「フィルム側の面」とも称される。
【0044】
通常、プリプレグシートを巻回するには、先に樹脂フィルムが剥がされる。樹脂フィルムが剥がされることにより、フィルム側の面が露出する。この露出面は、タック性(粘着性)を有する。このタック性は、マトリクス樹脂に起因する。即ち、このマトリクス樹脂が半硬化状態であるため、粘着性が発現する。次に、この露出したフィルム側の面の縁部(巻回開始端部ともいう)を、巻回対象物に貼り付ける。マトリクス樹脂の粘着性により、この巻回開始端部の貼り付けが円滑になされうる。巻回対象物とは、マンドレル、又はマンドレルに他のプリプレグシートが巻き付けられてなる巻回物である。次に、離型紙が剥がされる。次に、巻回対象物が回転されて、プリプレグシートが巻回対象物に巻き付けられる。このように、先に樹脂フィルムが剥がされ、巻回開始端部が巻回対象物に貼り付けられた後に、離型紙が剥がされる。この手順により、シートの皺や巻き付け不良が抑制される。なぜなら、離型紙が貼り付けられたシートは、離型紙に支持されているため、皺となりにくいからである。離型紙は、樹脂フィルムと比較して、曲げ剛性が高い。
【0045】
図2の実施形態では、合体シートが用いられる。合体シートは、複数のシートを貼り合わせることによって形成される。
【0046】
図2の実施形態では、二つの合体シートが形成される。図3は、これら二つの合体シートが形成された後のシート構成を示す。
【0047】
図3が示すように、シートa2とシートa3とが貼り合わせられて、合体シートa23が形成される。合体シートa23において、シートa2の巻回開始端t2と、シートa3の巻回開始端t3とは、半周分ズレている。即ち、巻回後のシャフト断面において、端t2の周方向位置と、端t3の周方向位置とは、180°相違する。
【0048】
図3が示すように、シートa4とシートa5とが貼り合わせられて、合体シートa45が形成される。合体シートa45において、シートa4の巻回開始端t4と、シートa5の巻回開始端t5とは、半周分ズレている。即ち、巻回後のシャフト断面において、端t4の周方向位置と、端t5の周方向位置とは、180°相違する。
【0049】
本願では、繊維の配向角度に基づいて、シート及び層が分類される。加えて、本願では、軸方向の長さによって、シート及び層が分類される。
【0050】
本願において、軸方向の全体に配置される層が、全長層と称される。本願において、軸方向の全体に配置されるシートが、全長シートと称される。
【0051】
一方、本願において、軸方向において部分的に配置される層が、部分層と称される。本願において、軸方向において部分的に配置されるシートが、部分シートと称される。
【0052】
これらの称呼は、組み合わせられうる。例えば、シャフト全長に亘るバイアス層は、全長バイアス層と称される。同様に、全長バイアスシート、全長ストレート層、全長ストレートシート、部分バイアス層、部分バイアスシート、部分ストレート層、部分ストレートシート等の称呼が用いられる。
【0053】
シャフト6において、全長シートは、シートa2、a3、a4、a5、a6及びa7である。シートa2、a3、a4及びa5は、全長バイアスシートである。シートa6及びシートa7は、全長ストレートシートである。一方、部分シートは、シートa1及びシートa8である。シートa1及びシートa8は、部分ストレートシートである。
【0054】
次に、このシャフト6の製造工程の概略が説明される。
【0055】
[シャフト製造工程の概略]
【0056】
(1)裁断工程
裁断工程では、プリプレグシートが所望の形状に裁断される。この工程により、図2に示された各シートが切り出される。
【0057】
なお、裁断は、裁断機によりなされてもよいし、手作業でなされてもよい。手作業の場合、例えば、カッターナイフが用いられる。
【0058】
(2)貼り合わせ工程
貼り合わせ工程では、複数のシートが貼り合わされて、前述した合体シートが作製される。
【0059】
貼り合わせ工程では、加熱又はプレスが用いられてもよい。より好ましくは、加熱とプレスとが併用される。後述する巻回工程において、合体シートの巻き付け作業中に、シートのズレが生じうる。このズレは、巻き付け精度を低下させる。加熱及びプレスは、シート間の接着力を向上させる。加熱及びプレスは、巻回工程におけるシート間のズレを抑制する。
【0060】
シート同士の接着力を高める観点から、貼り合わせ工程における加熱温度は、30℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましい。この加熱温度が高すぎる場合、マトリクス樹脂の硬化が進行し、シートの粘着性が低下することがある。この粘着性の低下は、合体シートと巻回対象物との接着性を低下させる。この接着性の低下は、皺の発生を許容することがあり、巻き付け位置のズレを生じさせうる。この観点から、貼り合わせ工程における加熱温度は、60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がより好ましい。
【0061】
シート同士の接着力を高める観点から、貼り合わせ工程における加熱時間は、20秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましい。シートの粘着性の観点から、貼り合わせ工程における加熱時間は、300秒以下が好ましい。
【0062】
シート同士の接着力を高める観点から、貼り合わせ工程におけるプレスの圧力は、300g/cm以上が好ましく、350g/cm以上がより好ましい。プレスの圧力が過大である場合、プリプレグが押し潰される場合がある。この場合、プリプレグの厚みが設計値よりも薄くなる。プリプレグの厚み精度の観点から、貼り合わせ工程におけるプレスの圧力は、600g/cm以下が好ましく、500g/cm以下がより好ましい。
【0063】
シート同士の接着力を高める観点から、貼り合わせ工程におけるプレスの時間は、20秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましい。プリプレグの厚み精度の観点から、貼り合わせ工程におけるプレスの時間は、300秒以下が好ましい。
【0064】
(3)巻回工程
巻回工程では、マンドレルが用意される。典型的なマンドレルは、金属製である。このマンドレルに、離型剤が塗布される。更に、このマンドレルに、粘着性を有する樹脂が塗布される。この樹脂は、タッキングレジンとも称される。このマンドレルに、裁断されたシートが巻回される。このタッキングレジンにより、シートの巻回開始端部をマンドレルに貼り付けることが容易とされている。
【0065】
貼り合せられたシートに関しては、合体シートの状態で巻回される。即ち、図3の状態とされた各シートが、巻回される。
【0066】
この巻回工程により、巻回体が得られる。この巻回体は、マンドレルの外側にプリプレグシートが巻き付けられてなる。巻回は、例えば、平面上で巻回対象物を転がすことによりなされる。この巻回は、手作業によりなされてもよいし、機械によりなされてもよい。この機械は、ローリングマシンと称される。
【0067】
(4)テープラッピング工程
テープラッピング工程では、上記巻回体の外周面にテープが巻き付けられる。このテープは、ラッピングテープとも称される。このラッピングテープは、張力を付与されつつ巻き付けられる。このラッピングテープにより、巻回体に圧力が加えられる。この圧力はボイドを低減させる。
【0068】
(5)硬化工程
硬化工程では、テープラッピングがなされた後の巻回体が加熱される。この加熱により、マトリクス樹脂が硬化する。この硬化の課程で、マトリクス樹脂が一時的に流動化する。このマトリクス樹脂の流動化により、シート間又はシート内の空気が排出されうる。ラッピングテープの圧力(締め付け力)により、この空気の排出が促進されている。この硬化により、硬化積層体が得られる。
【0069】
(6)マンドレルの引き抜き工程及びラッピングテープの除去工程
硬化工程の後、マンドレルの引き抜き工程とラッピングテープの除去工程とがなされる。両者の順序は限定されないが、ラッピングテープの除去工程の能率を向上させる観点から、マンドレルの引き抜き工程の後にラッピングテープの除去工程がなされるのが好ましい。
【0070】
(7)両端カット工程
この工程では、硬化積層体の両端部がカットされる。このカットにより、チップTpの端面及びバットBtの端面が平坦とされる。
【0071】
(8)研磨工程
この工程では、硬化積層体の表面が研磨される。硬化積層体の表面には、ラッピングテープの跡として残された螺旋状の凹凸が存在する。研磨により、このラッピングテープの跡としての凹凸が消滅し、表面が平滑とされる。
【0072】
(9)塗装工程
研磨工程後の硬化積層体に塗装が施される。
【0073】
図4は、各シートの周方向巻回開始位置を示している。図4は、シャフトのバットBt側から見た図である。本願において、周方向巻回開始位置は、単に、巻回開始位置とも称される。この巻回開始位置は、前述された巻回開始端の位置である。4枚のバイアスシートの巻回開始位置は、相違している。よって、バイアスシートの巻回開始位置は、4箇所に分散している。図4が示すように、4枚のバイアスシートの巻回開始位置s2,s3、s4及びs5は、90°おきに配置されている。ただし、±15°の誤差は許容されうる。
【0074】
図5は、バイアス層の構成を示す模式的な断面図である。それぞれの層は、1本の線によって簡略的に表現されている。図5は、シャフトのバットBt側から見た図である。図3に示すように、先ず合体シートa23が巻回され、つづいて、合体シートa45が巻回される。また、合体シートa45の巻回開始位置は、合体シートa23の巻回開始位置に対して、90°相違している。結果として、図5で示される積層が得られる。符号s2で示されるのは、シートa2の巻回開始位置である。符号s3で示されるのは、シートa3の巻回開始位置である。符号s4で示されるのは、シートa4の巻回開始位置である。符号s5で示されるのは、シートa5の巻回開始位置である。
【0075】
図4及び図5が示すように、巻回開始位置s2が0°であるとすると、巻回開始位置s3は180°(±15°)であり、巻回開始位置s4は90°(±15°)であり、巻回開始位置s5は270°(±15°)である。巻回開始位置が周方向に分散しているので、シャフト6は、周方向におけるフレックスの均一性に優れる。
【0076】
なお、これらの角度は、シャフトのバットBt側から見たときの周方向の角度と定義されうる。また、図4が示すように、これらの角度は、シャフトのバットBt側から見たときの、右周り(時計回り)の角度と定義されうる。
【0077】
図5で示される積層構成を実現するため、本実施形態では、180°(±15°)に相当する幅でシートa2とシートa3とを貼り合わせて合体シートa23が作製され、180°(±15°)に相当する幅でシートa4とシートa5とを貼り合わせて合体シートa45が作製された。更に、合体シートa23の巻回開始位置と、合体シートa45の巻回開始位置との相違は、90°(±15°)とされた。
【0078】
上記実施形態では、全ての全長シート(a2、a3、a4、a5、a6及びa7)において、プライ数が実質的に整数とされている。よって、積層の均一性が向上し、周方向におけるフレックスの均一性が高まる。
【0079】
なお、「プライ数が実質的に整数」(整数プライ)とは、プライ数が(X−0.02)以上(X+0.10)以下であることを意味する。但し、Xは1以上の整数である。例えば、プライ数が1である場合、「実質的に整数」とは、0.98以上1.10以下であることを意味する。例えば、プライ数が2である場合、「実質的に整数」とは、プライ数が1.98以上2.10以下であることを意味する。シャフト強度の観点から、「プライ数が実質的に整数」とは、以下の(1a)を意味するのが好ましく、(1b)を意味するのがより好ましく、(1c)を意味するのが更に好ましい。
(1a)プライ数が(X−0.01)以上(X+0.10)以下
(1b)プライ数が(X−0.00)以上(X+0.10)以下
(1c)プライ数が(X−0.00)以上(X+0.05)以下
(1d)プライ数が(X−0.00)より大きく(X+0.05)以下
【0080】
プライ数が(X−0.00)以上である場合、周回不足に起因する隙間が生じにくいので、強度上有利である。一方、プライ数が(X−0.00)以上である場合、巻回開始端と巻回終了端との重複部が生じやすい。この重複部は、周方向の均一性を悪化させうる。しかし、巻回開始位置を周方向に分散させることで、この重複部がある場合であっても、周方向の均一性が向上しうる。よって本発明は、上記(1c)及び(1d)の場合に、特に有効である。
【0081】
本発明の有効性を高める観点から、全長シートにおいて整数プライが満たされている範囲(軸方向における範囲)は、シャフト全長の85%以上であるのが好ましく、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、特に好ましくは100%である。一方、部分シートにおいては、応力集中を緩和する観点からは、非整数プライの部分を設けるのが好ましい。よって、曲げ応力の緩和と周方向の均一性とを両立する観点から、部分シート(三角形のシートを除く)においては、整数プライが満たされている範囲は、当該部分シートのシート全長の85%以上100%未満であるのが好ましい。上記三角形のシートは、典型的には、シャフトの先端径を調整する目的で、シャフトの先端部に配置される。
【0082】
また、全長シートにおける整数プライは、シャフトの露出部E1の全体において満たされているのが好ましい。露出部E1とは、シャフト以外の部材(グリップ、フェラル、ヘッド等)に覆われていない部分を意味する(図1参照)。この露出部E1は、スイング中におけるシャフトの挙動(撓み、捻れ等)への関与が大きい。よって、この露出部E1の全体において、全長シートの整数プライが満たされている場合、周方向におけるフレックスの均一性が効果的に達成される。
【0083】
前述したように、シャフト6では、6枚の全長シート(シートa2からa7)が用いられている。このシャフト6では、全長シートの巻回開始位置が、5箇所以上に分散されている。具体的には、全長シートの巻回開始位置が、6箇所に分散されている。このような巻回開始位置の分散は、周方向におけるフレックスの均一性を向上させる。
【0084】
図4が示すように、全ての全長シート(a2からa7)において、巻回開始位置は異なっている。全ての全長シートにおいて、巻回開始位置は45°(±15°)以上相違している。巻き付けの誤差を考慮したとしても、全ての全長シートにおいて、巻回開始位置は40°(±15°)以上相違している。このような巻回開始位置の分散は、周方向におけるフレックスの均一性を向上させる。
【0085】
前述したように、シャフト6では、8枚のシートが用いられている。図4が示すように、全てのシート(a1からa8)において、巻回開始位置は異なっている。全てのシートにおいて、巻回開始位置は45°以上相違している。巻き付けの誤差を考慮したとしても、全てのシートにおいて、巻回開始位置は40°以上相違している。このような巻回開始位置の分散は、周方向におけるフレックスの均一性を向上させる。
【0086】
図4が示すように、シャフト6の巻回開始位置は、8箇所とされている。巻回開始位置を過度に分散すると、巻回工程の作業負担が増加する。作業性の観点から、巻回開始位置は、8箇所以下であるのが好ましい。
【0087】
本願では、上記部分シートが、300mm未満の短部分シートと、300mm以上の長部分シートとに分類される。これらの長さは、軸方向の長さである。好ましくは、全ての全長シートに加えて、全ての上記長部分シートにおいて、プライ数が実質的に整数とされる。この場合、周方向におけるフレックスの均一性が更に向上しうる。
【0088】
図2の実施形態において、バイアスシートは、ベースシートa2、a3と、調整シートa4、a5とを有している。ベースシートは、絶対繊維角度θbが40°以上50°以下であるシートである。調整シートの絶対繊維角度θtは、15°以上75°以下であって且つ上記絶対繊維角度θbとは相違している。
【0089】
ベースシート(ベースバイアスシート)によって形成された層は、ベース層(ベースバイアス層)である。調整シート(調整バイアスシート)によって形成された層は、調整層(調整バイアス層)である。
【0090】
ベースシートは、繊維の傾斜角度Afが互いに逆とされた2枚のシートa2、a3の組み合わせである。例えば、第1のベースシートa2の角度Afが−50°以上−40°以下であるとき、第2のベースシートa3の角度Afが40°以上50°以下である。
【0091】
調整シートは、繊維の傾斜角度Afが互いに逆とされた2枚のシートa4、a5の組み合わせである。例えば、第1の調整シートa4の角度Afが−75°以上−50°未満であるとき、第2の調整シートa5の角度Afは50°より大きく75°以下である。また、例えば、第1の調整シートa4の角度Afが−40°より大きく−15°以下であるとき、第2の調整シートa5の角度Afが15°以上40°未満である。
【0092】
本願では、第1のベースシートa2の巻回開始位置がPaとされ、第2のベースシートa3の巻回開始位置がPbとされ、第1の調整シートa4の巻回開始位置がPcとされ、第2の調整シートa5の巻回開始位置がPdとされる。シャフト6では、位置Pa、Pb、Pc及びPdのぞれぞれが、次の4つの周方向位置P1、P2、P3及びP4のいずれかに一対一で対応している。
・周方向位置P1:0度
・周方向位置P2:75度以上105度以下(90°±15°)
・周方向位置P3:165度以上195度以下(180°±15°)
・周方向位置P4:255度以上285度以下(270°±15°)
【0093】
図4の実施形態において、一対一の対応関係は、次のように表現される。
(Pa,P1)、(Pc,P2)、(Pb,P3)、(Pd,P4)
この対応関係は、一例にすぎない。あらゆる組み合わせが可能である。
【0094】
より好ましくは、位置Paが位置P1に対応するとき、位置Pbは位置P3に対応し、位置Pcは位置P2又は位置P4の一方に対応し、位置Pdは位置P2又は位置P4の他方に対応する。この配置は、ベースシートと調整シートとを周方向に交互に配置しうるため、周方向の均一性を向上させる。
【0095】
調整シート(調整層)a4、a5において、上記角度θtは、調整されうる。この角度調整により、バイアス層のプライ数を実質的に整数としながら、シャフトスペックが微調整されうる。微調整可能なシャフトスペックとして、シャフトトルク、フレックス、シャフト重量、曲げ強度及び捻れ強度が例示される。
【0096】
バイアスシートのプライ数が実質的に整数とされる場合、プライ数を微調整することができない。よってこの場合、プライ数に依存したシャフトスペックの微調整はできない。しかし、調整シートを設けることにより、実質的に整数のプライ数を維持しつつ、シャフトスペックの微調整が可能となる。
【0097】
図6は、第二実施形態に係るシャフトにおける合体シートを示す図である。この第二実施形態は、4枚のバイアスシートを用いて、1つの合体シートW1が作成される。
【0098】
合体シートW1は、2枚のベースシートa2、a3と、2枚の調整シートa4,a5とが貼り合わされている。即ち、合体シートW1は、4枚のシートを貼り合わされることで形成されている。この貼り合わせにおいて、シート端のズレ幅D1は、0.25プライに相当する幅である。このズレ幅D1は、周方向における90°に相当するが、±15°の誤差は許容される。ズレ幅D1は、各シートの巻回開始位置に基づいて調整される。
【0099】
図7は、第二実施形態におけるバイアス層の積層構成を示す概念図である。図7は、シャフトのバットBt側から見た図である。上記合体シートW1を巻回すると、図7の積層構成が得られる。この図7の積層構成は、図5の積層構成と相違する。周方向の配置においては、図5と図7とは実質的に等価である。しかし、半径方向の配置において、図5と図7とは相違している。図7の構成は、図5の構成と比較して、半径方向の配置が相違する。例えば、図7の構成では、4つの巻回開始位置s2、s3、s4及びs5が、いずれも最も内側に位置している。図7の構成では、4つのバイアス層の間で、半径方向位置の相違が少ない。よって、図7の構成は、シャフトとしての均一性が更に高められている。
【0100】
合体シートW1を用いることにより、4枚のバイアスシートを同時に巻回することができる。よって、巻回工程が効率化される。
【0101】
図6の実施形態において、貼り合わせの順序は、シートa2、シートa4、シートa3、シートa5である。即ち、ベースシートと調整シートとが交互に貼り合わされている。この交互の貼り合わせにより、次の(X)、(Y)及び(Z)が達成されうる。
(X)2枚のベースシート間における巻回開始位置の相違を、180°に設定する。
(Y)2枚の調整シート間における巻回開始位置の相違を、180°に設定する。
(Z)4枚のバイアスシートを、周方向の4箇所に均等に配置する。
よって、この交互の貼り合わせは、周方向の均一性の増大に寄与する。
【0102】
合体シートW1において、シートa2とシートa4とは、同じ方向に傾斜している。更に、合体シートW1において、シートa3とシートa5とは、同じ方向に傾斜している。ベースシートと調整シートとが交互に貼り合わさせることで、同じ方向に傾斜したバイアス層同士を接触させやすい。同じ方向に傾斜したバイアス層同士では、層間接着強度が向上しやすい。
【0103】
調整シートの絶対繊維角度θtは、ベースシートの絶対繊維角度θbとは相違している。この相違により、シャフトスペックの微調整が可能とされる。
【0104】
より好ましくは、絶対繊維角度θtは、絶対繊維角度θbよりも小さい。この場合、調整シートがシャフト曲げ剛性の向上に効果的に寄与する。よって、軽量で且つ曲げ剛性の高いシャフトが達成されうる。
【0105】
他の好ましい態様では、調整シートの絶対繊維角度θtは、次のいずれかである。
(a)15°以上40°未満
(b)50°より大きく75°以下
この場合、絶対繊維角度θbとの差異が拡大され、シャフトスペックの調整範囲が拡大しうる。軽量で且つ曲げ剛性の高いシャフトを得る観点からは、調整シートの絶対繊維角度θtは、15°以上40°未満であるのが好ましい。
【0106】
ベースバイアス層及び調整バイアス層の配置は限定されない。上記実施形態の如く、ベースバイアス層が調整バイアス層の内側であってもよい。また、調整バイアス層がベースバイアス層の内側であってもよい。更に、図7に示す如く、調整バイアス層とベースバイアス層とが交互に配置されてもよい。
【0107】
半径方向位置は、バイアス層の性能に影響しうる。シャフトスペックの均一性の観点から、ベースバイアス層の半径方向位置と、調整バイアス層の半径方向位置とは、近いのが好ましい。この観点から、ベースバイアス層と調整バイアス層とは、互いに接触しているのが好ましい。
【0108】
調整バイアス層及びベースバイアス層において、炭素繊維の弾性率は限定されない。捻り破壊強度を高める観点から、調整バイアス層の炭素繊維の弾性率は、ベースバイアス層の炭素繊維の弾性率よりも小さいのが好ましい。
【0109】
周方向における均一性を高める観点から、バイアスシートの巻回開始位置は分散されるのが好ましい。バイアスシートの巻回開始位置は、4箇所以上に分散されるのが好ましい。バイアスシートの巻回開始位置がM箇所であるとき、これらM箇所は、周方向に均等に分散しているのが好ましい。ただし、この均等な分散には、±15°の誤差が許容される。また、Mは4以上の整数である。裁断工程及び巻回工程の作業効率を高める観点から、上記Mは8以下が好ましい。
【0110】
周方向における均一性を高める観点から、全シートに関して、巻回開始位置は分散されるのが好ましい。全シートにおける巻回開始位置は、4箇所以上に分散されるのが好ましく、5箇所以上に分散されるのがより好ましく、6箇所以上に分散されるのが更に好ましい。図2の実施形態では、全シートにおける巻回開始位置は8である(図4参照)。
【0111】
プリプレグシートのマトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂の他、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等も用いられ得る。シャフト強度の観点から、マトリクス樹脂は、エポキシ樹脂が好ましい。
【実施例】
【0112】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0113】
[実施例1]
上記第一実施形態(シャフト6)と同じ積層構成を有するシャフトが作製された。裁断工程により、図2で示されるシートを得た。貼り合わせは、図3で示される通りとされた。即ち、ベースシートa2とベースシートa3とを、周方向に180°(±15°)ずれるように貼り合わせて、合体シートa23を得た。また、調整シートa4と調整シートa5とを、周方向に180°(±15°)ずれるように貼り合わせて、合体シートa45を得た。巻回工程では、合体シートa23の巻回開始位置と、合体シートa45の巻回開始位置とを、90°相違させた。これらの結果、図5に示すようなバイアス層の構成が得られた。8枚のシートの巻回開始位置は、図4の通り、8箇所に分散された。巻回工程の後、前述したようなテープラッピング工程、硬化工程、マンドレルの引き抜き工程、ラッピングテープの除去工程、両端カット工程及び研磨を行い、実施例1に係るシャフトを得た。 実施例1のシャフトの積層構成と、使用されたプリプレグの商品名とが、下記の表1に示される。なお、全てのプリプレグは、三菱レイヨン社製である。このシャフトの評価結果が下記の表3に示される。
【0114】
[実施例2]
貼り合わせは、図6に示される通りとされた。即ち、図4枚のバイアスシートa2、a3、a4及びa5が貼り合わせられて、一つの合体シートを得た。この合体シートを巻回して、図7に示される積層構成を得た。巻回開始位置は、45°おきに、8箇所に分散された。各シートの巻回開始位置は図4と実質的に等価とされた。その他は実施例1と同様にして、実施例2のシャフトを得た。実施例2のシャフトの積層構成と、使用されたプリプレグの商品名とが、下記の表1に示される。このシャフトの評価結果が下記の表3に示される。
【0115】
[実施例3]
調整シートの繊維角度Afが±30°から±25°に変更された他は実施例1と同様にして、実施例3のシャフトを得た。実施例3のシャフトの積層構成と、使用されたプリプレグの商品名とが、下記の表1に示される。このシャフトの評価結果が下記の表3に示される。
【0116】
[実施例4]
調整シートのプリプレグが「MRX350C−75R」から「MR350C−100S」に変更された。また、調整シートの繊維角度Afが±30°から±25°に変更された。その他は実施例1と同様にして、実施例4のシャフトを得た。実施例4のシャフトの積層構成と、使用されたプリプレグの商品名とが、下記の表1に示される。このシャフトの評価結果が下記の表3に示される。
【0117】
[比較例1]
バイアスシートは、2枚のみとされた。バイアスシートの繊維角度Afは、±45°とされた。バイアスシートの巻回開始位置は、0°及び180°とされた。バイアスシート以外のシートは、実施例1と同じとされた。即ち、図2に示すシートa1、シートa6、シートa7及びシートa8が用いられた。シートa1の巻回開始位置は、0°とされた。シートa6の巻回開始位置は、0°とされた。シートa7の巻回開始位置は、90°とされた。シートa8の巻回開始位置は、270°とされた。その他は実施例1と同様にして、比較例1のシャフトを得た。比較例1のシャフトの積層構成と、使用されたプリプレグの商品名とが、下記の表2に示される。このシャフトの評価結果が下記の表3に示される。
【0118】
[比較例2]
バイアスシートのプリプレグが、「HRX350C−130S」から「HRX350C−110S」に変更された。また、全長ストレートシート(シートa6、a7)のプリプレグが、繊維目付量の多い品種に変更された。その他は比較例1と同様にして、比較例2のシャフトを得た。比較例2のシャフトの積層構成と、使用されたプリプレグの商品名とが、下記の表2に示される。このシャフトの評価結果が下記の表3に示される。
【0119】
[比較例3]
裁断工程により、図2で示されるシートを得た。即ち、用いられたシートは、実施例1と同じとされた。貼り合わせは、図3で示される通りとされた。即ち、貼り合わせも、実施例1と同じとされた。巻回工程では、合体シートa23の巻回開始位置と、合体シートa45の巻回開始位置とが、同じとされた。これらの結果、シートa2及びシートa4の巻回開始位置が0°とされ、シートa3及びシートa5の巻回開始位置が180°とされた。バイアスシートa2からa5を除き、各シートの巻回開始位置は、図4に示される通りとされた。8枚のシートの巻回開始位置は、4箇所に分散された。その他は実施例1と同様にして、比較例3のシャフトを得た。比較例3のシャフトの積層構成と、使用されたプリプレグの商品名とが、下記の表2に示される。このシャフトの評価結果が下記の表3に示される。
【0120】
[評価方法]
【0121】
[順式フレックスの測定]
図8(a)は、順式フレックスの測定方法を説明するための図である。図8(a)が示すように、バットBtから75mmの位置に、第一支持点32を設定した。更に、バットBtから215mmの位置に、第二支持点36を設定した。第一支持点32には、シャフト20をを上方から支持する支持体34を設けた。第二支持点36には、シャフト20を下方から支持する支持体38を設けた。荷重のない状態において、シャフト20のシャフト軸線は略水平とされた。バットBtから1039mmである荷重点m1に、2.7kgの荷重を鉛直下向きに作用させた。荷重のない状態から、荷重をかけた状態までの荷重点m1の移動距離(mm)が、順式フレックスとされた。この移動距離は、鉛直方向に沿った移動距離である。
【0122】
なお、支持体34の、シャフトと当接する部分(以下、当接部分という)の断面形状は、次の通りである。軸方向に対して平行な断面において、支持体34の当接部分の断面形状は、凸状の丸みを有する。この丸みの曲率半径は、15mmである。軸方向に対して垂直な断面において、支持体34の当接部分の断面形状は、凹状の丸みを有する。この凹状の丸みの曲率半径は、40mmである。軸方向に対して垂直な断面において、支持体34の当接部分の水平方向長さ(図8における奥行き方向長さ)は、15mmである。支持体38の当接部分の断面形状は、支持体34のそれと同一である。荷重点m1において2.7kgの荷重を与える荷重圧子(図示省略)の当接部分の断面形状は、軸方向に対して平行な断面において、凸状の丸みを有する。この丸みの曲率半径は、10mmである。荷重点m1において2.7kgの荷重を与える荷重圧子(図示省略)の当接部分の断面形状は、軸方向に対して垂直な断面において、直線である。この直線の長さは、18mmである。このようにして、順式フレックスが測定された。
【0123】
[順式フレックスのフレックス差]
順式フレックスを4方向(0°、45°、90°及び135°)において測定した。得られたデータの最大値と最小値との差が、フレックス差である。このフレックス差が小さいほど、周方向における順式フレックスの均一性が高い。このフレックス差が、下記の表3に示される。
【0124】
[逆式フレックスの測定]
逆式フレックスの測定方法が、図8(b)で示される。第一支持点32がチップTpから12mm隔てた点とされ、第二支持点36がチップTpから152mm隔てた点とされ、荷重点m2がチップTpから932mm隔てた点とされ、荷重が1.3kgとされた以外は順式フレックスと同様にして、逆式フレックスが測定された。
【0125】
[逆式フレックスのフレックス差]
逆式フレックスを4方向(0°、45°、90°及び135°)において測定した。得られたデータの最大値と最小値との差が、フレックス差である。このフレックス差が小さいほど、周方向における逆式フレックスの均一性が高い。このフレックス差が、下記の表3に示される。
【0126】
[シャフトトルク]
シャフトの後端部をバット治具により回転不能に固定するとともに、シャフトの先端部をチップ治具で把持し、チップTpから40mmの位置に13.9kgf・cmのトルクTrを作用させた。このトルク作用位置でのシャフトの捻れ角(度)が、シャフトトルクとされた。なお、トルクTrを負荷する際のチップ治具の回転速度は130゜/分以下とし、バット治具とチップ治具との間の軸方向長さは825mmとされた。チップ治具又はバット治具の把持によってシャフトが変形する場合、シャフトの内部に芯材などを入れて測定を行う。この測定値が下記の表3に示される。シャフトトルクが小さいほど、シャフトの捻り剛性が高い。
【0127】
[捻り破壊強度]
捻り破壊強度として、SG式ねじり試験が採用された。これは、製品安全協会が定める試験である。この試験では、先ず、シャフトの両端に固定ジグが接着される。次に、バットBt側のジグを固定した状態でチップTp側のジグを回転させることにより、シャフトにトルクが加えられる。シャフトが破損したときのトルク値に捻れ角を乗じた値が、捻り破壊強度である。この結果が、下記の表3に示される。
【0128】
【表1】

【0129】
【表2】

【0130】
【表3】

【0131】
表3のフレックス差が示すように、実施例は、比較例よりも、周方向におけるフレックスの均一性が高い。一方、特に比較例1及び2は、周方向におけるフレックスの均一性が低い。比較例1及び2は、バイアスシートが2枚であるため、フレックス差が大きい。また、比較例3は、バイアスシートが4枚とされているが、巻回開始位置の分散が2箇所に限定されているため、フレックス差が比較的大きい。
【0132】
比較例1は、バイアスシートが2枚のみであるが、シャフトトルクは実施例1から4と同等である。これは、比較例1のバイアスシートに、より繊維目付量の大きい「HRX350C−130S」が用いられているからである。しかし、比較例1の捻り破壊強度は、実施例よりも低い。これは、引張強度が相対的に低い高弾性プリプレグのみでバイアスシートが構成されているためである。
【0133】
実施例2では、4枚のシートが一つに貼り合わせられた合体シートが用いられた。この合体シートにより、図7で示す積層構成が得られた。この積層構成は、図5で示される積層構成と比較して、均一性が更に高い。よって、実施例2は、実施例1と比較して、フレックス差が小さい。
【0134】
実施例3において、繊維角度Afが±25°とされたことにより、シャフトトルクが0.2°大きくされた。このように、実施例3では、バイアス層のプライ数を実質的に整数としながら、シャフトトルクの微調整が達成されている。調整層は、シャフトスペックを微調整する役割を果たしうる。実施例3が示すように、周方向におけるフレックスの均一性と、シャフトスペックの微調整との両立が可能である。
【0135】
実施例1と比較して、実施例4では、調整層の繊維角度Afが±25°に変更され、且つ、バイアス層の目付量(単位面積当たりの重量)が大きくされた。この結果、シャフトトルクを変えることなく、シャフト重量を3g増やすことが出来た。実施例4では、バイアス層のプライ数を実質的に整数としながら、シャフト重量を微調整することができた。実施例4が示すように、周方向におけるフレックスの均一性と、シャフトスペックの微調整との両立が、可能である。
【産業上の利用可能性】
【0136】
以上説明された方法は、ゴルフクラブシャフトに適用されうる。
【符号の説明】
【0137】
2・・・ゴルフクラブ
4・・・ヘッド
6・・・シャフト
8・・・グリップ
a1、a8・・・シート(層)、部分シート(部分層)、部分ストレートシート(部分ストレート層)
a2、a3・・・シート(層)、全長シート(全長層)、全長バイアスシート(全長バイアス層)、ベースシート(ベース層)、ベースバイアスシート(ベースバイアス層)
a4、a5・・・シート(層)、全長シート(全長層)、全長バイアスシート(全長バイアス層)、調整シート(調整層)、調整バイアスシート(調整バイアス層)
a6、a7・・・シート(層)、全長シート(全長層)、全長ストレートシート(全長ストレート層)
20・・・シャフト
Tp・・・シャフトのチップ
Bt・・・シャフトのバット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプリプレグシートを用いて製造されており、
上記複数のプリプレグシートが、シャフト軸方向の全体に配置される全長シートと、シャフト軸方向において部分的に配置される部分シートとを含んでおり、
全ての上記全長シートにおいて、プライ数が実質的に整数とされ、
上記全長シートが、4枚以上のバイアスシートを含み、
上記バイアスシートの周方向巻回開始位置が、4箇所以上に分散しているゴルフクラブシャフト。
【請求項2】
上記全長シートの周方向巻回開始位置が、5箇所以上に分散している請求項1に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項3】
上記部分シートが、シャフト軸方向長さが300mm以上である長部分シートを含み、
全ての上記長部分シートにおいて、プライ数が実質的に整数とされている請求項1又は2に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項4】
上記バイアスシートが、2枚のベースシートと、2枚の調整シートとを有しており、
上記2枚のベースシートの絶対繊維角度θbが40°以上50°以下であり、
上記2枚の調整シートの絶対繊維角度θtが15°以上75°以下であって且つ上記角度θbとは相違しており、
第1の上記ベースシートの周方向巻回開始位置がPaとされ、第2の上記ベースシートの周方向巻回開始位置がPbとされ、第1の上記調整シートの周方向巻回開始位置がPcとされ、第2の上記調整シートの周方向巻回開始位置がPdとされるとき、
位置Pa、Pb、Pc及びPdのぞれぞれが、次の4つの周方向位置P1、P2、P3及びP4のいずれかに一対一で対応している請求項1から3のいずれかに記載のゴルフクラブシャフト。
・周方向位置P1:0度
・周方向位置P2:75度以上105度以下
・周方向位置P3:165度以上195度以下
・周方向位置P4:255度以上285度以下
【請求項5】
4枚のシートを貼り合わせて得られる一つの合体シートを用いて製造されており、
これらの4枚のシートは、2枚の上記ベースシート及び2枚の上記調整シートである請求項4に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項6】
上記絶対繊維角度θtが上記絶対繊維角度θbよりも小さい請求項4又は5に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項7】
複数のプリプレグシートを用いて製造されており、
上記複数のプリプレグシートが、シャフト軸方向方向の全体に配置される全長シートと、シャフト軸方向において部分的に配置される部分シートとを含んでおり、
上記全長シートが、複数のバイアスシートを含み、
上記バイアスシートが、2枚のベースシートと、2枚の調整シートとを有しており、
上記2枚のベースシートの絶対繊維角度θbが40°以上50°以下であり、
上記2枚の調整シートの絶対繊維角度θtが、15°以上75°以下であって且つ上記角度θbとは相違しており、
第1の上記ベースシートの周方向巻回開始位置がPaとされ、第2の上記ベースシートの周方向巻回開始位置がPbとされ、第1の上記調整シートの周方向巻回開始位置がPcとされ、第2の上記調整シートの周方向巻回開始位置がPdとされるとき、
位置Pa、Pb、Pc及びPdのぞれぞれが、次の4つの周方向位置P1、P2、P3及びP4のいずれかに分配されているゴルフクラブシャフト。
・周方向位置P1:0度
・周方向位置P2:75度以上105度以下
・周方向位置P3:165度以上195度以下
・周方向位置P4:255度以上285度以下

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−223268(P2012−223268A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91831(P2011−91831)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(504017809)ダンロップスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】