説明

ゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブ

【課題】飛距離の向上および安定化が可能となるゴルフクラブヘッドおよび該ゴルフクラブヘッドを備えたゴルフクラブを提供する。
【解決手段】ゴルフクラブヘッド1は、打球面を有し前方側に位置するフェース部2と、フェース部2よりも後方側に位置するバック部5と、フェース部2とバック部5とを接続するソール部3およびクラウン部4とを備える。そして、ソール部3においてフェース部2側に位置するフェース側部分3aの質量を、ソール部3においてバック部5側に位置するバック側部分3bの質量よりも大きくし、かつフェース部2からバック部5に向かう前後方向のゴルフクラブヘッド1の最大幅を、ゴルフクラブヘッド1の上下方向の最大高さよりも大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブに関し、特に、重心深度は浅くしながらフェース上下方向の慣性モーメントは大きくしたゴルフクラブヘッドおよび該ゴルフクラブヘッドを備えたゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アイアンタイプのゴルフクラブ(以下「アイアンクラブ」ともいう)は、フェアウェイウッドに比べてクラブ長さが短いため、ボールの打点は安定する。また、アイアンクラブのヘッド(以下「アイアンヘッド」ともいう)のヘッド幅は、ウッドタイプのゴルフクラブ(以下「ウッドクラブ」ともいう)のヘッド(以下「ウッドヘッド」ともいう)のヘッド幅よりも小さいので、アイアンヘッドでは、フェースからヘッド重心までの距離である重心深度も自然と小さくなる。それに伴って、ヘッド重心からフェース面(打球面)に向けて引いた法線とフェース面との交点であるスイートスポットの位置も、アイアンヘッドの方がウッドヘッドよりも自然と低くなり、地上に置いたボールをスイートスポットあるいはその近傍で打球できる確率も高くなる。
【0003】
しかしながら、アイアンヘッドは、ヘッド幅が小さいが故にフェース上下方向の慣性モーメントが小さくなり、ボール打球点の少しのバラツキでもバックスピン量、飛出し角に影響を及ぼし、ひいては飛距離の低下やバラツキを伴うという欠点がある。
【0004】
加えて、アイアンクラブの場合、クラブ長さが短いため、クラブと地面とのなす角度が大きくなる。また、スイング中の回転半径も小さいことから、打球前後のヘッドと地面との距離は、円弧と平面との関係の如く一定ではない。その状況下で地上にあるボールを打球することから、アイアンクラブでは、打球前後に地面と接触、更に地中にヘッドが潜るという状況が生じ易い。その際のヘッドに対する地面の抵抗を軽減し、地中からヘッドが抜け出し易くするためにも、アイアンヘッドのヘッド幅を広げることは不適切であるとされてきた。
【0005】
その一方、フェアウェイウッド等ウッドクラブは、アイアンクラブに比べてクラブ長さが長くコントロールし難いため、アイアンクラブと比較すると、ボールの打点は不安定である。また、ウッドヘッドのヘッド幅は、アイアンヘッドのヘッド幅よりも広いので、ウッドヘッドでは、フェースからヘッドの重心までの距離である重心深度も自然と大きくなる。それに伴って、ヘッドの重心からフェース面に向けて引いた法線とフェース面との交点、いわゆるスイートスポットの位置も自ずと高くなり、地上のボールを打球する際、スイートスポットより下の位置で打球する頻度が増えることとなる。その結果、不要なバックスピン量の増加や、ボールの飛出し角の低下等が生じ、いわゆる吹き上がりの弾道となり易く、やはり本来の飛距離が得られ難くなる。
【0006】
しかしながら、ウッドヘッドの場合、ヘッド幅が大きいが故にフェース上下方向の慣性モーメントが大きくなり、ボール打球点の不安定さをカバーすることができる。加えてウッドクラブは長いクラブであるので、クラブと地面とのなす角度が比較的小さく、スイング中の回転半径も大きいことから、打球前後のヘッドと地面との距離は、直線と平面との関係に近い。この状況下で地上にあるボールを打球すると、打球前後に地面に接触したとしても、ヘッドが地中に潜るという状況は少ない。それ故に、ヘッド幅を広くすることが可能であった。
【0007】
上記のように、アイアンクラブとウッドクラブのいずれも、飛距離の点で固有の欠点を有していることから、近年、両者の中間の位置付けのゴルフクラブである、ユーティリティ・ハイブリッドタイプのゴルフクラブ(以下「ユーティリティクラブ」ともいう)が提案されている。
【0008】
上記ユーティリティクラブは、アイアンクラブとウッドクラブの中間の特性を有するゴルフクラブであり、そのクラブ長さはアイアンクラブと同等か、もしくはフェアウェイウッドとアイアンクラブとの中間であり、ヘッド幅に関しても両者の中間に位置する。
【0009】
そのため、アイアンクラブよりスイングスピードが上がることによる飛距離の増加を期待でき、またヘッド幅がアイアンクラブより大きいためフェース上下方向の慣性モーメントも増大し、打点のバラツキによる飛距離のバラツキや低下をも軽減することができる。さらに、フェアウェイウッドより打点の安定性の向上も期待できる。
【0010】
なお、上記ユーティリティクラブに関しては、たとえば特開2001−293110号公報、特開2001−340501号公報、特開2003−47678号公報等に記載されている。
【特許文献1】特開2001−293110号公報
【特許文献2】特開2001−340501号公報
【特許文献3】特開2003−47678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
クラブ長さとスイング形態の関係に鑑み、従来のユーティリティクラブのヘッド幅は、フェアウェイウッドとアイアンクラブの中間に設定されている。そのため、従来のユーティリティクラブのヘッド幅はフェアウェイウッドのヘッド幅より小さくなり、それに伴いユーティリティクラブのヘッドのフェース上下方向の慣性モーメントもフェアウェイウッドのヘッドのフェース上下方向の慣性モーメントより小さくなる。その結果、従来のユーティリティクラブは、フェアウェイウッドと比較すると、上下の打点のバラツキに対しては弱く、やはり飛距離の低下やバラツキを生じる。
【0012】
他方、アイアンクラブと比較すると、従来のユーティリティクラブのヘッド幅がアイアンヘッドのヘッド幅よりも大きいのでユーティリティクラブの重心深度がアイアンクラブの重心深度より大きくなり、それに伴いユーティリティクラブのスイートスポットの位置が高くなる。その結果、アイアンクラブと比較すると、従来のユーティリティクラブで地上にあるボールを打球する際に、スイートスポットで打球することが困難となり、オフセンター打撃の確率が増大し、結果的に飛距離のバラツキや低下を生じさせる。
【0013】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、飛距離の向上および安定化が可能となるゴルフクラブヘッドおよび該ゴルフクラブヘッドを備えたゴルフクラブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るゴルフクラブヘッドは、打球面を有し前方側に位置するフェース部と、フェース部よりも後方側に位置するバック部と、フェース部とバック部とを接続するソール部およびクラウン部とを備える。そして、1つの局面では、ソール部においてフェース部側に位置するフェース側部分の質量を、ソール部においてバック部側に位置するバック側部分の質量よりも大きくし、かつフェース部からバック部に向かう前後方向のゴルフクラブヘッドの最大幅を、ゴルフクラブヘッドの上下方向の最大高さよりも大きくする。ここで、上記フェース側部分は、ソール部底面の前方側端部と後方側端部を結ぶ直線の中点を通りトゥ部からヒール部に向かうトゥ・ヒール方向に延びるソール部底面の中心線よりもフェース部側に位置する部分であり、バック側部分は、上記中心線よりもバック部側に位置する部分である。
【0015】
上記フェース側部分の質量をバック側部分の質量よりも大きくする手法としては、フェース側部分に錘部材を装着する等様々な手法が考えられるが、たとえば上記フェース側部分の最大厚みをバック側部分の最大厚みよりも大きくすることで、フェース側部分の質量をバック側部分の質量よりも大きくすることが考えられる。また、フェース側部分の厚みを全体的にバック側部分の厚みより大きくしてもよい。
【0016】
上記バック側部分がフェース側部分よりもクラウン部側に近づくようにバック側部分の底面をフェース側部分の底面よりも高い位置に配置してもよい。たとえば、バック側部分の底面全面を、フェース側部分の底面よりも高い位置に配置することが考えられる。
【0017】
上記フェース側部分を、ゴルフクラブヘッドのトゥ部からヒール部に向かって延びる帯状部分で構成し、上記バック側部分とフェース側部分との間に、トゥ部からヒール部に向かって延びかつクラウン部側に立上がる傾斜部を設け、バック側部分を、該傾斜部の上端部からバック部に達するように延在させ、フェース側部分と傾斜部とバック側部分とで、ソール部の底面に段差部を形成するようにしてもよい。また、上記ゴルフクラブヘッドの前後方向におけるバック側部分の最大幅を、前後方向におけるフェース側部分の最大幅より大きくしてもよい。
【0018】
本発明のゴルフクラブヘッドは、金属製中空外殻構造を有し、地面に置いたボールを打球するユーティリティタイプのゴルフクラブのヘッドに有用である。
【0019】
本発明に係るゴルフクラブヘッドは、他の局面では、ソール部においてフェース部側に位置するフェース側部分の質量を、ソール部においてバック部側に位置するバック側部分の質量よりも大きくしてゴルフクラブヘッドの重心位置をフェース部側に近づけるようにし、かつゴルフクラブヘッドのフェース部の上下方向の慣性モーメントを1000g・cm以上3000g・cm以下とする。
【0020】
本発明に係るゴルフクラブは、上記のようなゴルフクラブヘッドを備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明の1つの局面のゴルフクラブヘッドでは、ソール部においてフェース部側に位置するフェース側部分の質量を、ソール部においてバック部側に位置するバック側部分の質量よりも大きくしているので、ゴルフクラブヘッドの重心位置をフェース部側にシフトさせることができ、ゴルフクラブヘッドの重心深度を浅くすることができる。それにより、スイートスポットの位置を低くすることができ、スイートスポットあるいはその近傍で打球できる確率を高めることができる。その結果、ゴルフクラブヘッドの上下方向の打点位置のバラツキを低減することができる。その上、フェース部からバック部に向かう前後方向のゴルフクラブヘッドの最大幅を、ゴルフクラブヘッドの上下方向の最大高さより大きくしているので、ゴルフクラブヘッドのフェース上下方向の慣性モーメントを大きくすることもできる。それにより、打球後のボールの安定した飛出しを実現することができる。以上より、飛距離の向上および安定化が可能となる。
【0022】
本発明の他の局面のゴルフクラブヘッドの場合も、フェース側部分の質量をバック側部分の質量よりも大きくし、かつゴルフクラブヘッドのフェース部の上下方向の慣性モーメントを1000g・cm以上3000g・cm以下と大きくしているので、1つの局面の場合と同様に、飛距離の向上および安定化が可能となる。
【0023】
本発明のゴルフクラブは、上記のようなゴルフクラブヘッドを備えているので、飛距離の向上および安定化が可能なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図1〜図7を用いて説明する。本実施の形態のゴルフクラブは、後述するゴルフクラブヘッドと、シャフトと、グリップとを備える。なお、シャフトおよびグリップとしては周知のものを採用可能である。また、本実施の形態のゴルフクラブは、地面に置いたボールを打球するユーティリティタイプのゴルフクラブとして有用である。このユーティリティクラブのクラブ長さは、たとえば39〜41インチ(約991mm〜約1041mm)程度である。
【0025】
図1は、本実施の形態におけるゴルフクラブヘッド1の正面図であり、図2は、本実施の形態におけるゴルフクラブヘッド1の平面図であり、図3は、本実施の形態におけるゴルフクラブヘッド1をソール部側から見た斜視図である。
【0026】
図1に示すように、本実施の形態におけるゴルフクラブヘッド1は、金属製中空外殻構造のヘッド本体を備える。該ヘッド本体の材料としては、チタンやチタン合金をはじめとする様々な金属材料を使用可能である。なお、ゴルフクラブヘッド1の内部空間には、典型的には物質を充填しないが、上記内部空間に発泡材等の物質を充填することも考えられる。また、複数のパーツを組合せてヘッド本体を作製してもよく、金属部材と非金属部材のような異種材料の部材を組合せてヘッド本体を作製することも可能である。
【0027】
ヘッド本体は、打球面を有し前方側に位置するフェース部2と、フェース部よりも後方側に位置するバック部5と、フェース部2とバック部5とを接続するソール部3およびクラウン部4と、バック部5以外の部分でソール部3とクラウン部4とを接続するサイド部とを備える。
【0028】
本実施の形態のゴルフクラブヘッド1では、ソール部3を3つの領域に分割している。具体的には、ソール部3を、フェース部2側に位置するフェース側部分3aと、バック部5側に位置するバック側部分3bと、これらの間の境界領域に分割している。そして、フェース側部分3aの質量を、バック側部分3bの質量よりも大きくする。それにより、フェース部2側に多くの質量を配置することができ、ゴルフクラブヘッド1の重心の位置をフェース部2側に近づけることができる。その結果、ゴルフクラブヘッド1の重心深度(スイートスポットからゴルフクラブヘッドの重心位置までの深さの距離(mm))を浅くすることができ、ゴルフクラブヘッド1の重心からフェース部2の打球面に向けて引いた法線と打球面との交点であるスイートスポット6の位置(スイートスポット高さ:ソールのレベルラインからスイートスポット6までの距離)を低くすることができる。このためスイートスポット6あるいはその近傍で打球できる確率を高めることができ、フェース部2の上下方向の打点位置のバラツキを低減することができる。つまり、飛距離の向上および安定化が可能となる。
【0029】
なお、打球面のロフト角(打球面とソール底面とのなす角度を90度から引いた角度:オリジナルロフト)としては、たとえば9度〜29度の範囲内の角度を選択することが考えられるが、19度〜22度程度とすればよい。このロフト角によってもスイートスポット6の位置は変化するので、適切なロフト角を選択すべきである。
【0030】
上述のようにフェース側部分3aの質量をバック側部分3bの質量よりも大きくする手法としては、フェース側部分3aに錘部材を装着したり、フェース側部分3aをバック側部分3bよりも比重の大きな材料で構成したり、フェース側部分3aの厚みをバック側部分3bの厚みよりも大きくする等様々な手法が考えられる。
【0031】
図4に、図1に示すゴルフクラブヘッド1の断面図を示す。図4に示すように、本実施の形態では、フェース側部分3aの厚みt1をバック側部分3bの厚みt2よりも大きくしている。たとえば、フェース側部分3aの厚みt1を3〜4mm程度とし、バック側部分3bの厚みt2を0.8mm程度とすることが考えられる。なお、バック側部分3bの厚みt2は、クラウン部4やサイド部の厚みと同等の厚みとすればよい。
【0032】
図4の例では、フェース側部分3aの厚みt1を全体的にバック側部分3bの厚みt2よりも大きくしているが、局所的に厚み関係が逆転してもよい。また、フェース側部分3aの最大厚みをバック側部分3bの最大厚みより大きくした場合も、フェース側部分3aの質量をバック側部分3bの質量より大きくすることができる。
【0033】
図1および図4に示すように、本実施の形態のゴルフクラブヘッド1は、ソール部3の底面に段差部を有する。図1および図4の例では、バック側部分3bをフェース側部分3aよりもクラウン部4側(上側)に配置し、バック側部分3bの底面をフェース側部分3aの底面よりも高い位置に配置している。具体的には、バック側部分3bの底面をフェース側部分3aの底面よりも5mm程度以上高い位置に配置している。その結果、ソール部3の底面に比較的大きな段差部が設けられることとなる。このようにバック側部分3bをクラウン部4側に配置することにより、打球時に、バック側部分3bが地面と接触するのを抑制することができる。それにより、打球時のソール部3と地面の接触状況をアイアンクラブのそれに近くすることができ、振り抜けし易いことからゴルファーにとって操作性が良好となり、かつ安定した打球の出るゴルフクラブとすることができる。
【0034】
なお、図1および図4の例では、バック側部分3bの底面全面を、フェース側部分3aの底面よりも高い位置に配置している。また、バック側部分3bにも段差部を設け、バック側部分3bにおけるバック部5近傍に位置する後端部領域を、該後端部領域とフェース側部分3aとの間に位置する前方側領域よりもクラウン部4側に配置している。これ以外にも様々な段差形状をソール部3の底面に形成することが考えられる。また、図1および図4の例では、ソール部3の底面に2つの段差部を形成しているが、3つ以上の段差部を形成してもよい。また、段差部を形成する各領域の形状も任意に選択可能である。
【0035】
図4に示すように、本実施の形態のゴルフクラブヘッド1では、フェース部2からバック部5に向かう前後方向のゴルフクラブヘッド1の最大幅Wを、ゴルフクラブヘッド1の上下方向の最大高さHよりも大きくしている。それにより、ゴルフクラブヘッド1のフェース上下方向の慣性モーメント(ゴルフクラブヘッドのトゥ・ヒール方向軸を軸としたクラウン・ソール方向の重心回りの慣性モーメント:図7参照)を大きくすることができる。具体的には、たとえばゴルフクラブヘッド1のフェース部2の上下方向の慣性モーメントを1000g・cm以上3000g・cm以下程度と大きくすることができる。それにより、スイートスポット6から外れた位置での打撃であるオフセット打撃時においても、安定したボールの飛出しを実現することができる。このことも、飛距離の低下やバラツキの低減に寄与し、飛距離の安定化を図ることができる。
【0036】
以上より、本実施の形態のゴルフクラブヘッド1によれば、飛距離の向上および安定化を図ることができる。
【0037】
ここで、本願発明者等が、上記の効果を確認すべく下記のような分析を行なったので、その結果について下記の表1〜10を用いて説明する。
【0038】
本願発明者等は、ウッドクラブによるボールの飛距離に影響を与える要素として、「重心深度」と、「フェース部2の上下方向の慣性モーメント(UD MOI:以下「上下慣性モーメント」ともいう)」と、「打点位置(y:フェース面においてボールを打撃する位置:スイートスポット位置を原点0(ゼロ)とし、「−(マイナス)」の記号はスイートスポットより下側であることを意味する)」との3つを選択し、これらの中のどの要素が最も飛距離に影響を与えるものであるかを重回帰分析により分析した。この結果を下記の表1および表2に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
表1に示すように、「打点位置」についての標準偏回帰係数βの値が最も大きいことから、上記3つの要素の中でボールの飛距離に最も影響を与える要素は、「打点位置」であることがわかる。また、表2に示すように、重相関Rの値が約0.87であることから、表1に示すデータの信頼度が高いことがわかる。
【0042】
本願発明者等は、ウッドクラブによりボールを打撃した際のボールの最大高さに影響を与える要素についても同様の分析を行なった。その結果を下記の表3および表4に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
表3に示すように、ボールの最大高さの場合も、「打点位置」についての標準偏回帰係数βの値が最も大きいことから、上記3つの要素の中でボールの最大高さに最も影響を与える要素も「打点位置」であることがわかる。また、表4に示すように、重相関Rの値が約0.98であることから、表3に示すデータの信頼度も高いことがわかる。
【0046】
また、本願発明者等は、ボールの飛距離に対し「重心深度」と「上下慣性モーメント(UD MOI)」とのいずれの影響が大きいかについても検討したので、その結果を下記の表5〜10に示す。
【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【0049】
表5に示すように、「上下慣性モーメント」についての標準偏回帰係数βの値が「重心深度」についての標準偏回帰係数βの値よりも大きいことから、「上下慣性モーメント」の方が「重心深度」よりもボールの飛距離に与える影響が大きいことがわかる。また、表6に示すように、重相関Rの値が約0.79であることから、表5に示すデータの信頼度が高いことがわかる。
【0050】
表5に示す結果は、「上下慣性モーメント」の範囲が100g・cm以上3000g・cm以下とした場合のものであるが、「上下慣性モーメント」の範囲を変化させて同様の分析を行なったので、その結果を表7〜10に示す。
【0051】
【表7】

【0052】
【表8】

【0053】
表7に示すように、「上下慣性モーメント」の範囲が500g・cm以上3000g・cm以下とした場合も、「上下慣性モーメント」についての標準偏回帰係数βの値が「重心深度」についての標準偏回帰係数βの値よりも大きいことから、「上下慣性モーメント」の方が「重心深度」よりもボールの飛距離に与える影響が大きいことがわかる。また、表8に示すように、重相関Rの値が約0.89であることから、表7に示すデータの信頼度が高いことがわかる。
【0054】
【表9】

【0055】
【表10】

【0056】
表9に示すように、「上下慣性モーメント」の範囲が1000g・cm以上3000g・cm以下とした場合も、「上下慣性モーメント」についての標準偏回帰係数βの値が「重心深度」についての標準偏回帰係数βの値よりも大きいことから、「上下慣性モーメント」の方が「重心深度」よりもボールの飛距離に与える影響が大きいことがわかる。また、表10に示すように、重相関Rの値が約0.95であることから、表9に示すデータの信頼度が高いことがわかる。
【0057】
さらに、表5,表7,表9の結果を対比すると、表9の「上下慣性モーメント」についての標準偏回帰係数βの値が最も大きく、また重相関Rの値も最も1に近いことから、表9に示すデータの信頼度が最も高いことがわかる。
【0058】
以上の分析結果から、ボールの飛距離を向上するためには、「打点位置」をスイートスポットに近づけることが最も有効であるが、「上下慣性モーメント」の範囲を1000g・cm以上3000g・cm以下と大きくすることも有効であることがわかる。
【0059】
本実施の形態のゴルフクラブヘッド1によれば、前述のようにフェース部2の上下方向の打点位置のバラツキを低減することができ、また上下慣性モーメントの範囲を1000g・cm以上3000g・cm以下程度と大きくすることができるので、ボールの飛距離の向上および安定化が可能となる。
【0060】
再び図4を参照して、本実施の形態のゴルフクラブヘッド1では、バック側部分3bの前後方向の幅W2を55mm程度とし、フェース側部分3aの前後方向の幅W1を25mm程度として、フェース側部分3aの前後方向の幅W1をバック側部分3bの前後方向の幅W2よりも小さくしている。このようにフェース側部分3aの前後方向の幅W1を小さくすることにより、前述のように打球時のソール部3と地面の接触状況をアイアンクラブのそれに近いものとすることができ、操作性が向上しかつ安定した打球の出るゴルフクラブとすることができる。
【0061】
なお、フェース側部分3aは、ソール部4底面の前方側端部と後方側端部を結ぶ直線の中点を通りゴルフクラブヘッド1のトゥ部8(図2参照)からヒール部9(図3参照)に向かうトゥ・ヒール方向に延びるソール部4底面の中心線よりもフェース部2側に位置する部分の少なくとも一部で構成される。これに対し、バック側部分3bは、上記中心線よりもバック部5側に位置する部分の少なくとも一部で構成される。
【0062】
図3に示すように、フェース側部分3aを、ゴルフクラブヘッド1のトゥ部からヒール部9に向かって延びる帯状部分で構成してもよい。この場合、バック側部分3bとフェース側部分3aとの間に、トゥ部からヒール部9に向かって延びかつクラウン部4側に立上がる傾斜部を設ける。バック側部分3bは、該傾斜部の上端部からバック部5に達するように延在する。そして、上記のフェース側部分3aと傾斜部とバック側部分3bとで、ソール部4の底面に段差部を形成している。
【0063】
図2に示すように、本実施の形態のゴルフクラブヘッド1では、クラウン部4においてバック部5側に位置する部分に、凹部4aを設けている。それにより、ゴルフクラブヘッド1の重心位置を低くすることができ、スイートスポット6の位置をさらに低くすることができる。
【0064】
本実施の形態のゴルフクラブヘッド1のヘッド本体の材質としては、たとえば鋳造成形が可能となる材料であるチタン合金(たとえばαβチタン合金:Ti−6Al−4V等)を挙げることができる。他方、ヘッド本体に金属製パーツを装着する場合には、チタン合金やマグネシウム合金等からなる金属製板材等を使用することができる。また、ヘッド本体に非金属製パーツを装着する場合には、FRP(Fiber Reinforced Plastics)等の非金属製板材等も使用することができる。
【0065】
フェース部2にフェースパーツを装着する場合には、該フェースパーツの材質として、αβチタン合金(Ti−6Al−4V)やβ系チタン合金(Ti−22V−4Al,Ti−15Mo−5Zr−4V−4Al等)を使用することができる。このフェースパーツ20は、溶接等によりヘッド本体に接合すればよい。
【0066】
また、クラウン部4にクラウンパーツを装着する場合には、ヘッド本体を構成する材料よりも低比重の金属材料からなるクラウンパーツを使用することができる。該クラウンパーツは、ヘッド本体に接着等の手法で固着することが考えられる。また、FRP等の非金属材料のクラウンパーツを使用することも考えられる。このようにクラウンパーツを低比重の材料で作製することにより、ゴルフクラブヘッド1の低重心化を更に促進することができる。
【0067】
次に、図5と図6を用いて、上述の実施の形態におけるゴルフクラブヘッド1の形状の変形例について説明する。
【0068】
図5に示すように、クラウン部4の表面(上面)に上述の実施の形態の場合よりも大きな凹部を設けてもよい。それにより、さらにゴルフクラブヘッド1の低重心化を図ることができる。また、図5の例では、バック側部分3bの底面を、該バック側部分3bとフェース側部分3aとの間に位置する傾斜部からバック部5に向かうにつれて徐々に高い位置になるように傾斜させている。これ以外の構成については、図4に示す場合と基本的に同様である。
【0069】
図6に示すように、クラウン部4におけるバック部5側の表面(上面)の傾斜角度を大きくし、バック部5の近傍のゴルフクラブヘッド1の上下方向の厚みを小さくすることも考えられる。これ以外の構成については、図4に示す場合と基本的に同様である。
【0070】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、上述の実施の形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は上述の実施の形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の1つの実施の形態におけるゴルフクラブヘッドの正面図である。
【図2】図1に示すゴルフクラブヘッドの平面図である。
【図3】図1に示すゴルフクラブヘッドをソール部側から見た斜視図である。
【図4】図1に示すゴルフクラブヘッドの断面図である。
【図5】図1〜図4に示すゴルフクラブヘッドの変形例の断面図である。
【図6】図1〜図4に示すゴルフクラブヘッドの他の変形例の断面図である。
【図7】ゴルフクラブヘッドの各慣性モーメントを説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0072】
1 ゴルフクラブヘッド、2 フェース部、3 ソール部、3a フェース側部分、3b バック側部分、4 クラウン部、4a 凹部、5 バック部、6 スイートスポット、7 重心、8 トゥ部、9 ヒール部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
打球面を有し、前方側に位置するフェース部(2)と、
前記フェース部(2)よりも後方側に位置するバック部(5)と、
前記フェース部(2)と前記バック部(5)とを接続するソール部(3)およびクラウン部(4)とを備えたゴルフクラブヘッドであって、
前記ソール部(3)において前記フェース部(2)側に位置するフェース側部分(3a)の質量を、前記ソール部(3)において前記バック部(5)側に位置するバック側部分(3b)の質量よりも大きくし、かつ前記フェース部(2)から前記バック部(5)に向かう前後方向の前記ゴルフクラブヘッドの最大幅(W)を、前記ゴルフクラブヘッドの上下方向の最大高さ(H)よりも大きくした、ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記フェース側部分(3a)の最大厚みを前記バック側部分(3b)の最大厚みよりも大きくすることで、前記フェース側部分(3a)の質量を前記バック側部分(3b)の質量よりも大きくした、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記バック側部分(3b)が前記フェース側部分(3a)よりも前記クラウン部(4)側に近づくように前記バック側部分(3b)の底面を前記フェース側部分(3a)の底面よりも高い位置に配置した、請求項1または請求項2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記フェース側部分(3a)は、前記ゴルフクラブヘッドのトゥ部(8)からヒール部(9)に向かって延びる帯状部分であり、
前記バック側部分(3b)と前記フェース側部分(3a)との間に、前記トゥ部(8)から前記ヒール部(9)に向かって延びかつ前記クラウン部(4)側に立上がる傾斜部を設け、
前記バック側部分(3b)は、前記傾斜部の上端部から前記バック部(5)に達するように延在し、
前記フェース側部分(3a)と前記傾斜部と前記バック側部分(3b)とで、前記ソール部(3)の底面に段差部を形成するようにした、請求項1から請求項3のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記ゴルフクラブヘッドの前後方向における前記バック側部分(3b)の最大幅(W2)を、前記前後方向における前記フェース側部分(3a)の最大幅(W1)よりも大きくした、請求項1から請求項4のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記ゴルフクラブヘッドは、金属製中空外殻構造を有し、地面に置いたボールを打球するユーティリティタイプのゴルフクラブのヘッドである、請求項1から請求項5のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
打球面を有し、前方側に位置するフェース部(2)と、
前記フェース部(2)よりも後方側に位置するバック部(5)と、
前記フェース部(2)と前記バック部(5)とを接続するソール部(3)およびクラウン部(4)とを備えたゴルフクラブヘッドであって、
前記ソール部(3)において前記フェース部(2)側に位置するフェース側部分(3a)の質量を、前記ソール部(3)において前記バック部(5)側に位置するバック側部分(3b)の質量よりも大きくして前記ゴルフクラブヘッドの重心位置を前記フェース部(2)側に近づけるようにし、かつ前記ゴルフクラブヘッドの前記フェース部の上下方向の慣性モーメントを1000g・cm以上3000g・cm以下とした、ゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載のゴルフクラブヘッドを備えた、ゴルフクラブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−240363(P2009−240363A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87437(P2008−87437)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】