説明

ゴルフボール用材料及びゴルフボール

【課題】ウエット条件でのスピン量が増加し、アプローチショットで良好に止まるゴルフボール用材料及びこれを用いたゴルフボールを提供する。
【解決手段】アクリル系エラストマーで、かつ動的粘弾性装置を用いて、下記測定条件で測定した剪断損失弾性率G1”(Pa)及びG2”(Pa)が下記式(1)を満足するゴルフボール用材料に関する。
G1”/G2”>1.65 (1)
G1”測定条件:剪断モード、加振周波数10Hz、温度−30℃、ひずみ0.05%
G2”測定条件:剪断モード、加振周波数10Hz、温度0℃、ひずみ0.05%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボール用材料及びこれを用いたゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールの構造として、ゴルフボール本体からなるワンピースゴルフボール、コアとカバーとを有するツーピースゴルフボール、センター及び該センターを被覆する一層の中間層からなるコアと該コアを被覆するカバーとを有するスリーピースゴルフボール、センター及び該センターを被覆する少なくとも二以上の中間層からなるコアと該コアを被覆するカバーとを有するマルチピースゴルフボール、などが提案されている。
【0003】
このようなゴルフボールを構成する材料として、アイオノマー樹脂やポリウレタンが使用され、カバー用材料などに汎用されている。なかでも、ポリウレタンを用いたカバーは、アイオノマー樹脂を用いたものに比べて、打球感やスピン性能が向上することが知られているため、このような性能が要求されるゴルフボールに広く使用されている。
【0004】
しかし、2010年から、プロゴルフの世界で、アイアン、ウェッジなどのロフト角が25°以上のクラブの溝について規制が始まり、この規制により、ウェッジやショートアイアンなどでのアプローチショットのスピン量が減少するため、グリーン上でゴルフボールが止まりにくくなっている。特に、ウエット条件では、クラブフェース上でゴルフボールが滑りやすくなるため、スピンをかけることがより難しくなるという問題が生じている。
【0005】
この問題に対して、柔らかいカバー用材料を採用して、アプローチショットのスピン量を高めることが提案され、例えば、特許文献1には、主成分として熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含有し、ショアD硬度で54以下のカバーを有するゴルフボールが開示されている。また、特許文献2には、カバーがアイオノマー樹脂と熱可塑性エラストマーと粘着付与剤の混合物から構成され、ショアD硬度が40以上65以下であるソリッドゴルフボールが開示されている。
【0006】
しかしながら、ゴルフクラブの溝規制に伴って、ウエット条件でも充分なスピン量が得られ、アプローチショットで良く止まるゴルフボールに対する要求がますます高まっており、更なる性能向上が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−034740号公報
【特許文献2】特開2001−95948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決し、ウエット条件でのスピン量が増加し、アプローチショットで良好に止まるゴルフボール用材料及びこれを用いたゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特開2011−125438号公報の図1に示したH12MDI−PTMG系ポリウレタンエラストマーをカバーに用いたゴルフボールの剪断損失弾性率(測定条件:剪断モード、加振周波数:10Hz、温度:0℃)とアプローチショットのスピン量との相関関係を示したグラフで開示しているとおり、これらの間に相関があり、剪断損失弾性率G”が小さくなるとアプローチショットのスピン量が増大する傾向がある点を見出している。
そして、この点について更に検討したところ、剪断損失弾性率G1”(測定条件:剪断モード、加振周波数:10Hz、温度:−30℃、ひずみ:0.05%)/剪断損失弾性率G2”(測定条件:剪断モード、加振周波数:10Hz、温度:0℃、ひずみ:0.05%)>1.65の関係を満たすアクリル系エラストマーを使用することで、アプローチショットのウエットスピン量が増大することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、アクリル系エラストマーで、かつ動的粘弾性装置を用いて、下記測定条件で測定した剪断損失弾性率G1”(Pa)及びG2”(Pa)が下記式(1)を満足するゴルフボール用材料に関する。
G1”/G2”>1.65 (1)
G1”測定条件:剪断モード、加振周波数10Hz、温度−30℃、ひずみ0.05%
G2”測定条件:剪断モード、加振周波数10Hz、温度0℃、ひずみ0.05%
【0011】
前記アクリル系エラストマーは、アクリル酸エステル系重合体からなる重合体ブロック(I)と、メタクリル酸エステル系重合体からなる重合体ブロック(II)とを、分子内にそれぞれ少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体であることが好ましい。
【0012】
前記アクリル系エラストマーは、式:(II)−(I)−(II)又は式:(I)−(II)−(I)で表されるトリブロック構造[但し、式中、(I)はアクリル酸エステル系重合体からなる重合体ブロック、(II)はメタクリル酸エステル系重合体からなる重合体ブロックを示し、−は各重合体ブロックの結合手を示す。]を、分子内に少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体であることが好ましい。
【0013】
前記アクリル系エラストマーは、式:(II)−(I)−(II)で表されるトリブロック構造[但し、式中、(I)はアクリル酸エステル系重合体からなる重合体ブロック、(II)はメタクリル酸エステル系重合体からなる重合体ブロックを示し、−は各重合体ブロックの結合手を示す。]を、分子内に少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体であることが好ましい。
【0014】
前記アクリル系エラストマーにおいて、前記重合体ブロック(I)がアクリル酸n−ブチル系重合体、前記重合体ブロック(II)がメタクリル酸メチル系重合体からなることが好ましい。
【0015】
前記ゴルフボール用材料は、スラブ硬度が、ショアD硬度で19〜61であることが好ましい。
前記ゴルフボール用材料は、カバー用材料として使用されることが好ましい。
【0016】
本発明はまた、前記ゴルフボール用材料から形成された構成部材を有するゴルフボールに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、剪断損失弾性率G1”/G2”>1.65の関係を満たすアクリル系エラストマーからなるゴルフボール用材料であるので、ウエットスピン量を高めることができる。従って、ウエット条件下でも高スピン量が得られるため、アプローチショットで良く止まるゴルフボールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】アプローチスピン量(WET)とスラブ硬度(ショアD)を示すグラフ
【図2】剪断損失弾性率G1”/G2”とスラブ硬度(ショアD)を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のゴルフボール用材料は、動的粘弾性装置を用いて、下記測定条件で測定した剪断損失弾性率G1”(Pa)及びG2”(Pa)が下記式(1)を満足するアクリル系エラストマーである。
G1”/G2”>1.65 (1)
G1”測定条件:剪断モード、加振周波数10Hz、温度−30℃、ひずみ0.05%
G2”測定条件:剪断モード、加振周波数10Hz、温度0℃、ひずみ0.05%
【0020】
本発明者は、アプローチショットのスピン発生メカニズムを以下のように考えて、動的粘弾性装置を用いた剪断損失弾性率G1”〜G2”の測定条件を定めた。
アプローチショットに用いるショートアイアンやウェッジのクラブフェースには、幅約0.8mm、深さ約0.4mmの溝が複数設けられるとともに、この溝の間のフェース面上にも数μmオーダーの微小な凹凸が存在する。剪断損失弾性率G1”の測定条件は、ゴルフボールが、クラブフェース面上の数μmオーダーの凹凸を乗り越えながらフェース面を滑って、更に、フェースに設けられた溝に引っかかってスピンが発生するメカニズムに着目している。すなわち、スピン量は、フェース面上の数μmオーダーの凹凸とフェースの溝の両方の影響を受ける。剪断損失弾性率G1”は、ゴルフボールが、数μmオーダーの凹凸を乗り越えるときに発生するスピンの影響をより詳細に考慮したものである。ゴルフボールが、数μmオーダーの凹凸を乗り越えるときには、カバーの変形が比較的小さいことから、測定ひずみを0.05%に設定した。また、加振周波数:10Hz、温度:−30℃の測定条件を採用しているのは、以下の理由に基づく。クラブフェース面上の数μmオーダーの凹凸を乗り越える際の変形の周波数は、10Hzのオーダーであり、一般的なポリウレタンエラストマーの時間換算則から、温度:室温、加振周波数:10Hzの測定条件で測定する動的粘弾性は、温度:−30℃、加振周波数:10Hzの測定条件で測定する動的粘弾性に相当する。
【0021】
一方、剪断損失弾性率G2”の測定条件は、フェース面上の数μmオーダーの微小な凹凸によってスピンが発生するメカニズムに着目している。剪断損失弾性率G2”の測定では、ゴルフボールがこの数μmオーダーの凹凸を乗り越える際のカバーの変形が比較的小さいことから、測定ひずみを0.05%としている。また、加振周波数:10Hz、温度:0℃の測定条件を採用しているのは、以下の理由に基づく。ゴルフボールをクラブで打撃する際のゴルフボールとクラブとの接触時間は、数100μ秒であり、これを一回の打撃変形と考えると、数1000Hzの周波数の変形に対応する。一般的なポリウレタンエラストマーの時間換算則から、温度:室温、加振周波数:数1000Hzの測定条件で測定する動的粘弾性は、温度:0℃、加振周波数:10Hzの測定条件で測定する動的粘弾性に相当する。
【0022】
上記式(1)において、G1”/G2”>1.65であれば、アプローチショットのウエットスピン量が増加する。この観点から、G1”/G2”は、1.74以上が好ましい。一方、上限は特に限定されないが、成型性の観点から、G1”/G2”は、15以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0023】
上記式(1)を満たすアクリル系エラストマーは、アクリル系エラストマーを構成する成分、各成分の組成比、エラストマーの構造や分子量などを適宜調整することにより得られ、具体的には、後述のアクリル系エラストマーなどが挙げられる。
【0024】
本発明における上記式(1)を満たすアクリル系エラストマーとしては、例えば、アクリル酸エステル系重合体からなる重合体ブロック(I)と、メタクリル酸エステル系重合体からなる重合体ブロック(II)とを有するアクリル系ブロック共重合体が挙げられる。
【0025】
重合体ブロック(I)を構成するアクリル酸エステル系重合体は、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体であり、該アクリル酸エステル系重合体の構成単位の60モル%以上、特に80モル%以上がアクリル酸エステル単位からなることが好ましい。なお、アクリル酸エステル系重合体を構成するアクリル酸エステルの種類にもよるが、重合体ブロック(I)を構成するアクリル酸エステル系重合体は、球状(スフィアー)から柱状(シリンダー)のミクロ構造を有していることが好ましい。
【0026】
アクリル酸エステル系重合体を構成するアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリルなどが挙げられる。なお、アクリル酸エステル系重合体は、これらのアクリル酸エステルの1種で構成されたものでも、2種以上から構成されたものでもよい。
【0027】
なかでも、重合体ブロック(I)を構成するアクリル酸エステル系重合体は、得られるゴルフボールのウエットスピン量が大きくなる点から、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル及びアクリル酸2−メトキシエチルからなる群より選択される少なくとも1種のアクリル酸エステルに由来する構成単位を主体とする重合体が好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル及びアクリル酸ドデシルからなる群より選択される少なくとも1種のアクリル酸エステルに由来する構成単位を主体とする重合体がより好ましく、アクリル酸n−ブチルに由来する構成単位を主体とする重合体が特に好ましい。
【0028】
また、アクリル酸エステル系重合体を構成するアクリル酸エステルとしては、アクリル酸の炭素数2以上のアルキルエステル、すなわちエステルを形成しているアルキル基の炭素数が2以上であるアクリル酸アルキルエステルが好ましく、該炭素数は3以上がより好ましい。一方、該炭素数は10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましい。これにより、ウエットスピン量が大きいゴルフボールが得られる。
【0029】
上記重合体ブロック(II)を構成するメタクリル酸エステル系重合体は、メタクリル酸エステル単位を主体とする重合体であって、該メタクリル酸エステル系重合体の構成単位の60モル%以上、特に80モル%以上がメタクリル酸エステル単位からなることが好ましい。なお、重合体ブロック(II)を構成するメタクリル酸エステル系重合体は、立体規則性のミクロ構造又は非立体規則性のミクロ構造のいずれであってもよいが、シンジオタクティシティが80%以下、特に60〜75%であることが好ましい。
【0030】
メタクリル酸エステル系重合体を構成するメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−メトキシエチルなどが挙げられる。なお、メタクリル酸エステル系重合体は、これらのメタクリル酸エステルの1種で構成されたものでも、2種以上から構成されたものでもよい。
【0031】
なかでも、重合体ブロック(II)を構成するメタクリル酸エステル系重合体は、得られるゴルフボールのウエットスピン量が大きくなる点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル及びメタクリル酸イソボルニルからなる群より選択される少なくとも1種のメタクリル酸エステルに由来する構成単位を主体とする重合体が好ましく、メタクリル酸メチルに由来する構成単位を主体とする重合体が特に好ましい。
【0032】
また、メタクリル酸エステル系重合体を構成するメタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸の炭素数10以下のアルキルエステル、すなわちエステルを形成しているアルキル基の炭素数が10以下であるメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、該炭素数は5以下以上がより好ましく、3以下が更に好ましい。これにより、ウエットスピン量が大きいゴルフボールが得られる。
【0033】
アクリル系ブロック共重合体において、重合体ブロック(I)を構成するアクリル酸エステル系重合体及び重合体ブロック(II)を構成するメタクリル酸エステル系重合体は、前述のアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルに由来する構成単位の他に、各重合体ブロックの特性を損なわない範囲(一般に重合体ブロックを構成する全構成単位に対して40モル%以下の割合)で、他のモノマーに由来する構成単位を有していてもよい。
【0034】
アクリル酸エステル系重合体、メタクリル酸エステル系重合体を構成できる他のモノマーは特には限定されないが、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−オクテンなどのオレフィン;1,3−ブタジエン、イソプレン、ミルセンなどの共役ジエン化合物;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル;ビニルピリジン;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル;ビニルケトン;塩化ビニル、塩化ビニリデン、弗化ビニリデンなどのハロゲン含有モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミドの不飽和アミドなどを挙げることができる。他のモノマーは、1種でも、2種以上でもよい。
【0035】
本発明におけるアクリル系ブロック共重合体としては、式:(I)−(II)で表されるジブロック構造、式:(II)−(I)−(II)や式:(I)−(II)−(I)で表されるトリブロック構造[但し、式中、(I)はアクリル酸エステル系重合体からなる重合体ブロック、(II)はメタクリル酸エステル系重合体からなる重合体ブロックを示し、−は各重合体ブロックの結合手を示す。]を、分子内に少なくとも1つ有するものが挙げられる。なかでも、式:(II)−(I)−(II)、式:(I)−(II)−(I)で表されるトリブロック共重合体が好ましく、式:(II)−(I)−(II)で表されるトリブロック共重合体((II)−(I)−(II)で表されるトリブロック構造からなる共重合体)がより好ましい。
【0036】
アクリル系ブロック共重合体の具体例としては、[ポリアクリル酸n−ブチル]−[ポリメタクリル酸メチル]、[ポリアクリル酸2−エチルヘキシル]−[ポリメタクリル酸メチル]などのジブロック共重合体;[ポリアクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸n−ブチル]−[ポリメタクリル酸メチル]、[ポリアクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸2−エチルヘキシル]−[ポリメタクリル酸メチル]、[ポリメタクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸エチル]−[ポリメタクリル酸メチル]、[ポリメタクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸n−ブチル]−[ポリメタクリル酸メチル]、[ポリメタクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸2−エチルヘキシル]−[ポリメタクリル酸メチル]などのトリブロック共重合体を挙げることができる。なかでも、ゴルフボールのウエットスピン量が大きいという点から、[ポリメタクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸n−ブチル]−[ポリメタクリル酸メチル]、[ポリメタクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸2−エチルヘキシル]−[ポリメタクリル酸メチル]で表されるトリブロック共重合体が好ましく、[ポリメタクリル酸メチル]−[ポリアクリル酸n−ブチル]−[ポリメタクリル酸メチル]で表されるトリブロック共重合体が特に好ましい。
【0037】
アクリル系ブロック共重合体における重合体ブロック(I)及び重合体ブロック(II)の含有割合は特に制限されないが、ゴルフボールのウエットスピン量が大きいという点から、アクリル系ブロック共重合体の全質量に対して、重合体ブロック(I)の含有割合[2個以上の重合体ブロック(I)を有する場合はその合計含有割合]は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、また、該含有割合は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。一方、重合体ブロック(II)の含有割合[2個以上の重合体ブロック(II)を有する場合はその合計含有割合]は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、また、該含有割合は、好ましくは75質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0038】
アクリル系ブロック共重合体における各重合体ブロックの分子量及びアクリル系ブロック共重合体全体の分子量は特に制限されないが、ゴルフボールのウエットスピン量が大きいという点から、重合体ブロック(I)の重量平均分子量は、好ましくは2000以上、より好ましくは10000以上であり、また、該重量平均分子量は、好ましくは400000以下、より好ましくは300000以下である。一方、重合体ブロック(II)の重量平均分子量は、好ましくは1000以上、より好ましくは3000以上であり、また、該重合平均分子量は、好ましくは400000以下、より好ましくは100000以下である。更に、アクリル系ブロック共重合体全体の重量平均分子量は、好ましくは5000以上、より好ましくは20000以上であり、また、該全体の重量平均分量は、好ましくは500000以下、より好ましくは300000以下である。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により測定される。
【0039】
本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体の製法は特に限定されず、公知の方法に準じた製法で製造でき、例えば、各重合体ブロックを構成するモノマーをリビング重合する方法が一般に使用される。そのようなリビング重合法としては、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤としアルカリ金属又はアルカリ土類金属の無機塩の存在下でアニオン重合する方法、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤とし有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法、有機希土類金属錯体を重合開始剤として重合する方法、α−ハロゲン化エステル化合物を開始剤として銅化合物の存在下ラジカル重合する方法などを挙げることができる。また、多価ラジカル重合開始剤や多価ラジカル連鎖移動剤を用いて、各重合体ブロックを構成するモノマーを重合させて、本発明で用いるアクリル系ブロック共重合体を含有する混合物を製造する方法を採用してもよい。
【0040】
前記アクリル系エラストマーの市販品としては、クラレ(株)から市販されている商品名「クラリティ(「LA4285」、「LA2250」など)」などが挙げられる。前記アクリル系エラストマーは、単独あるいは2種以上を混合して使用できる。
【0041】
本発明のゴルフボール用材料は、本発明の効果を損なわない範囲で、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、アイオノマー樹脂、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性スチレンエラストマーなどを含有してもよい。更に、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料などの顔料成分、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの比重調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料又は蛍光増白剤などを含有してもよい。
【0042】
前記白色顔料(例えば、酸化チタン)の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、該含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。0.5質量部以上とすることによって、隠蔽性を付与することができる。また、10質量部を超えると、耐久性が低下する場合がある。
【0043】
本発明のゴルフボール用材料のスラブ硬度は、ショアD硬度で19以上が好ましく、21以上がより好ましい。該スラブ硬度(ショアD硬度)は、61以下が好ましく、57以下がより好ましい。硬度が低すぎると、材料がブロッキングを起こしやすくなる。また、硬度が高すぎると、アプローチショットのスピン量が低下しすぎる場合がある。
【0044】
本発明のゴルフボール用材料は、ゴルフボールを構成する任意の部材に適用可能であるが、カバー用材料として特に好適である。従って、本発明のゴルフボール用材料を用いたゴルフボールとしては、コアとカバーとを有するゴルフボールであって、カバーが本発明のゴルフボール用材料から形成されているものが好ましい。このような本発明のゴルフボールとしては、例えば、単層コアと、前記コアを被覆するように配設されたカバーとを有するツーピースゴルフボール;センターと前記センターを被覆するように配設された単層の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するように配設されたカバーとを有するスリーピースゴルフボール;又は、センターと前記センターを被覆するように配設された二以上の中間層とからなるコアと、前記コアを被覆するように配設されたカバーを有するマルチピースゴルフボールを挙げることができる。
【0045】
本発明のゴルフボールのカバーは、前記ゴルフボール用材料(以下、「カバー用材料」とも称する)を用いて成形することにより作製できる。カバーを成形する方法としては、例えば、カバー用材料から中空のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する方法(好ましくは、カバー用材料から中空のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)、カバー用材料をコア上に直接射出成形する方法を挙げることができる。
【0046】
ハーフシェルの成形は、圧縮成形法又は射出成形法のいずれの方法によっても行うことができるが、圧縮成形法が好適である。カバー用材料を圧縮成形してハーフシェルに成形する条件としては、例えば、1〜20MPaの圧力で、カバー用材料の流動開始温度に対して、−20〜70℃の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みをもつハーフシェルを成形できる。ハーフシェルを用いてカバーを成形する方法としては、例えば、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法を挙げることができる。ハーフシェルを圧縮成形してカバーに成形する条件としては、例えば、0.5〜25MPaの成形圧力で、カバー用材料の流動開始温度に対して、−20〜70℃の成形温度を挙げることができる。上記成形条件とすることによって、均一な厚みを有するゴルフボールカバーを成形できる。
【0047】
本発明では、カバー用材料をコア上に直接射出成形してカバーを成形することもできる。この場合、カバー成形用上下金型としては、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねているものを使用することが好ましい。射出成形によるカバーの成形は、上記ホールドピンを突き出し、コアを投入してホールドさせた後、カバー用材料を注入して、冷却することによりカバーを成形することができ、例えば、9〜15MPaの圧力で型締めした金型内に、150〜250℃に加熱したカバー用材料を0.5〜5秒で注入し、10〜60秒間冷却して型開きすることにより行う。
【0048】
また、カバーを成形する際には、通常、表面にディンプルと呼ばれるくぼみが形成される。カバーに形成されるディンプルの総数は、200〜500個が好ましい。200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0049】
カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、塗膜やマークを形成することもできる。前記塗膜の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは5μm以上、より好ましくは7μm以上であり、該膜厚は、好ましくは25μm以下、より好ましくは18μm以下である。5μm未満になると継続的な使用により塗膜が摩耗消失しやすくなり、25μmを超えるとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下する傾向がある。
【0050】
本発明において、ゴルフボールのカバーの厚みは、2mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましく、1mm以下が更に好ましい。2mm以下とすることによって、コアの外径を大きくできるため、反発性能を向上させることができる。カバーの厚みの下限は、特に限定されるものではないが、例えば、0.3mmが好ましく、0.4mmがより好ましく、0.5mmが更に好ましい。0.3mm未満では、カバーの成形が困難になるおそれがある。
【0051】
次に、本発明のゴルフボールに用いられるコアについて説明する。前記コアの構造としては、例えば、単層コア、センターと前記センターを被覆する1以上の中間層を有するコアを挙げることができる。センターと前記センターを被覆する1以上の中間層を有するコアとしては、例えば、センターと前記センターを被覆する単層の中間層とからなるコア、センターと前記センターを被覆する複数もしくは複層の中間層とからなるコアなどがある。また、コアの形状としては、球状であることが好ましい。コアの形状が球状でない場合には、カバーの厚みが不均一になる。その結果、部分的にカバー性能が低下する場合があるからである。一方、センターの形状としては、球状が一般的であるが、球状センターの表面を分割するように突条が設けられていても良く、例えば、球状センターの表面を均等に分割するように突条が設けられていても良い。前記突条を設ける態様としては、例えば、球状センターの表面にセンターと一体的に突条を設ける態様、あるいは、球状センターの表面に突条の中間層を設ける態様などを挙げることができる。
【0052】
前記突条は、例えば、球状センターを地球とみなした場合に、赤道と球状センター表面を均等に分割する任意の子午線とに沿って設けられることが好ましい。例えば、球状センター表面を8分割する場合には、赤道と、任意の子午線(経度0度)、及び、斯かる経度0度の子午線を基準として、東経90度、西経90度、東経(西経)180度の子午線に沿って設けるようにすれば良い。突条を設ける場合には、突条によって仕切られる凹部を、複数の中間層、あるいは、それぞれの凹部を被覆するような単層の中間層によって充填するようにして、コアの形状を球状とするようにすることが好ましい。前記突条の断面形状は、特に限定されることなく、例えば、円弧状、あるいは、略円弧状(例えば、互いに交差あるいは直交する部分において切欠部を設けた形状)などを挙げることができる。
【0053】
本発明のゴルフボールのコア又はセンターは、例えば、基材ゴム、架橋開始剤、共架橋剤、及び必要に応じて充填剤を含むゴム組成物(以下、単に「コア用ゴム組成物」と称する場合がある)を加熱プレスして成形することにより得られる。
【0054】
前記基材ゴムとしては、天然ゴム又は合成ゴムを使用することができ、例えば、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などを使用できる。これらの中でも、特に、反発に有利なシス結合が40質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上のハイシスポリブタジエンを用いることが好ましい。
【0055】
前記架橋開始剤は、基材ゴム成分を架橋するために配合されるものである。前記架橋開始剤としては、有機過酸化物が好適である。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。架橋開始剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であり、該配合量は、3質量部以下が好ましく、より好ましくは2質量部以下である。0.2質量部未満では、コアが柔らかくなりすぎて、反発性が低下する傾向があり、3質量部を超えると、適切な硬さにするために、共架橋剤の使用量を増加する必要があり、反発性が不足気味になる。
【0056】
前記共架橋剤としては、基材ゴム分子鎖にグラフト重合することによって、ゴム分子を架橋する作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸又はその金属塩を使用することができ、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、又は、これらの金属塩を挙げることができる。前記金属塩を構成する金属としては、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムを挙げることができ、反発性が高くなるということから、亜鉛を使用することが好ましい。
【0057】
共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上であり、また、該使用量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。10質量部未満では、適当な硬さとするために有機過酸化物の量を増加しなければならず、反発性が低下する傾向がある。一方、50質量部を超えると、コアが硬くなりすぎて、打球感が低下する虞がある。
【0058】
コア用ゴム組成物に含有される充填剤は、主として最終製品として得られるゴルフボールの比重を1.0〜1.5の範囲に調整するための比重調整剤として配合されるものであり、必要に応じて配合すれば良い。前記充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。前記充填剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3質量部以上であり、また、該配合量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは35質量部以下である。2質量部未満では、重量調整が難しくなり、50質量部を超えるとゴム成分の重量分率が小さくなり反発性が低下する傾向がある。
【0059】
前記コア用ゴム組成物には、基材ゴム、架橋開始剤、共架橋剤及び充填剤に加えて、更に、有機硫黄化合物、老化防止剤、しゃく解剤などを適宜配合することができる。
【0060】
前記有機硫黄化合物としては、ジフェニルジスルフィド類を好適に使用することができる。前記ジフェニルジスルフィド類としては、例えば、ジフェニルジスルフィド;ビス(4−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(4−フルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ヨードフェニル)ジスルフィド,ビス(4−シアノフェニル)ジスルフィドなどのモノ置換体;ビス(2,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−クロロ−5−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−5−ブロモフェニル)ジスルフィドなどのジ置換体;ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−4−クロロ−6−ブロモフェニル)ジスルフィドなどのトリ置換体;ビス(2,3,5,6−テトラクロロフェニル)ジスルフィドなどのテトラ置換体;ビス(2,3,4,5,6−ペンタクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)ジスルフィドなどのペンタ置換体などが挙げられる。これらのジフェニルジスルフィド類はゴム加硫体の加硫状態に何らかの影響を与えて、反発性を高めることができる。これらの中でも、特に高反発性のゴルフボールが得られるという点から、ジフェニルジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィドを用いることが好ましい。前記有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、また、該配合量は、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下である。
【0061】
前記老化防止剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下であることが好ましい。また、しゃく解剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、5質量部以下であることが好ましい。
【0062】
前記コア用ゴム組成物の加熱プレス成形条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、130〜200℃で10〜60分間加熱するか、あるいは130〜150℃で20〜40分間加熱した後、160〜180℃で5〜15分間の2段階で加熱することが好ましい。
【0063】
本発明のゴルフボールに使用するコアの直径は、38mm以上が好ましく、39.0mm以上がより好ましく、40.8mm以上が更に好ましい。該直径は、42.2mm以下が好ましく、42mm以下がより好ましく、41.8mm以下が更に好ましい。上記下限に満たない場合には、カバーが厚くなり過ぎて反発性が低下し、一方、上記上限を超える場合には、カバーの厚さが薄くなりすぎるため、カバーの成形が困難になる傾向がある。
【0064】
前記コアは、直径38mm〜42.2mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮変形量(圧縮方向にコアが縮む量)が、2.40mm以上が好ましく、2.50mm以上がより好ましく、2.60mm以上が更に好ましい。該圧縮変形量は、3.20mm以下が好ましく、3.10mm以下がより好ましい。2.40mm未満では打球感が硬くて悪くなり、3.20mmを超えると、反発性が低下する場合がある。
【0065】
前記コアとして、その中心と表面で硬度差を有するものを使用することも好ましい態様であり、JIS−C硬度による表面硬度と中心硬度との差は、10以上が好ましく、12以上がより好ましい。また、該表面硬度と中心硬度との差は、40以下が好ましく、35以下がより好ましく、30以下が更に好ましい。40より大きいと、耐久性が低下し、10より小さいと、打球感が硬くて衝撃が大きくなる場合がある。前記コアの表面硬度は、JIS−C硬度で、好ましくは65以上、より好ましくは70以上、更に好ましくは72以上であり、該表面硬度(JIS−C硬度)は、好ましくは100以下である。65より小さいと、柔らかくなり過ぎて反発性が低下し、飛距離が低下する傾向がある。一方、100より大きいと、硬くなり過ぎて打球感が悪くなる場合がある。前記コアの中心硬度は、JIS−C硬度で、好ましくは45以上、より好ましくは50以上であり、該中心硬度は、好ましくは70以下、より好ましくは65以下である。45より小さいと、柔らかくなり過ぎて耐久性が低下する虞があり、70より大きいと、硬くなり過ぎて打球感が悪くなる場合がある。前記コアの硬度差は、センターよりも硬度が高い中間層を設けること、或いは、センターの加熱成形条件を適宜選択することによって設けることができる。本発明において、コアの中心硬度とは、コアを2等分に切断して、その切断面の中心点についてスプリング式硬度計JIS−C型で測定した硬度を意味する。
コアの表面硬度とは、得られた球状コアの表面においてスプリング式硬度計JIS−C型で測定した硬度を意味する。また、コアが多層構造である場合は、コアの表面硬度とは、コアの最外層の表面の硬度を意味する。
【0066】
本発明のゴルフボールのコアの構造が、センターと前記センターを被覆する一以上の中間層とからなるコアの場合、前記センターの材料としては、前記コア用ゴム組成物を用いることができる。前記センターの直径は、好ましくは30mm以上、より好ましくは32mm以上であり、また、該直径は、好ましくは41mm以下、より好ましくは40.5mm以下である。30mmよりも小さいと、中間層又はカバーを所望の厚さより厚くする必要があり、その結果反発性が低下する場合がある。一方、41mmを超える場合は、中間層又はカバーを所望の厚さより薄くする必要があり、中間層またはカバー層の機能が十分発揮されない傾向がある。
【0067】
前記中間層の材料としては、例えば、ゴム組成物の硬化物、アイオノマー樹脂、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)(例えば、「ペバックス2533」)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、BASFジャパン社から商品名「エラストラン(登録商標)(例えば、「エラストランNY97A」)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリスチレンエラストマーなどが挙げられる。前記中間層の材料は、単独又は複数を混合して使用することができる。
【0068】
前記アイオノマー樹脂としては、特にエチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したアイオノマー樹脂、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、又は、これらの混合物を挙げることができる。
【0069】
前記アイオノマー樹脂の具体例を商品名で例示すると、三井デュポンポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(Himilan)(登録商標)(例えば、ハイミラン1555(Na)、ハイミラン1557(Zn)、ハイミラン1605(Na)、ハイミラン1706(Zn)、ハイミラン1707(Na)、ハイミランAM3711(Mg)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、ハイミラン1856(Na)、ハイミラン1855(Zn)など)」が挙げられる。更にデュポン社から市販されているアイオノマー樹脂としては、「サーリン(Surlyn)(登録商標)(例えば、サーリン8945(Na)、サーリン9945(Zn)、サーリン8140(Na)、サーリン8150(Na)、サーリン9120(Zn)、サーリン9150(Zn)、サーリン6910(Mg)、サーリン6120(Mg)、サーリン7930(Li)、サーリン7940(Li)、サーリンAD8546(Li)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、サーリン8120(Na)、サーリン8320(Na)、サーリン9320(Zn)、サーリン6320(Mg)など)」が挙げられる。またエクソンモービル化学(株)から市販されているアイオノマー樹脂としては、「アイオテック(Iotek)(登録商標)(例えば、アイオテック8000(Na)、アイオテック8030(Na)、アイオテック7010(Zn)、アイオテック7030(Zn)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、アイオテック7510(Zn)、アイオテック7520(Zn)など)」が挙げられる。なお、前記アイオノマー樹脂の商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Li、Mgなどは、これらの中和金属イオンの金属種を示している。
【0070】
前記中間層には、更に、硫酸バリウム、タングステンなどの比重調整剤、老化防止剤、顔料などが配合されていてもよい。
【0071】
ゴム組成物を主成分(50質量%以上)とする中間層用組成物を使用する場合には、中間層の厚みは、好ましくは1.2mm以上、より好ましくは1.8mm以上、更に好ましくは2.4mm以上であり、また、該厚みは、好ましくは6.0mm以下、より好ましくは5.2mm以下、更に好ましくは4.4mm以下である。
【0072】
また、樹脂を主成分(50質量%以上)とする中間層用組成物を使用する場合には、中間層の厚みは、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.4mm以上、更に好ましくは0.5mm以上であり、また、該厚みは、好ましくは2.5mm以下、より好ましくは2.4mm以下、更に好ましくは2.3mm以下である。2.5mmを超えると、得られるゴルフボールの反発性能が低下するおそれがある。また、0.3mm未満では、ドライバーショット時の過剰なスピン量を抑えることができなくなるおそれがある。
【0073】
中間層を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、中間層用組成物を予めハーフシェルに形成し、それを2枚用いてセンターを包み、加圧成形する方法、又は、前記中間層用組成物を直接センター上に射出成形してコアを包み込む方法などを採用できる。
【0074】
本発明のゴルフボールの中間層の硬度は、ショアD硬度で40以上が好ましく、45以上がより好ましく、50以上が更に好ましい。また、該硬度(ショアD硬度)は、80以下が好ましく、70以下がより好ましく、65以下が更に好ましい。40以上とすることによって、コアの外剛内柔度合いを大きくすることに寄与するため、高打出角、低スピンとなり高飛距離化が達成される。一方、80以下とすることによって優れた打球感が得られると共に、スピン性能を向上させ、コントロール性を向上させることができる。ここで、中間層の硬度は、中間層用組成物をシート状に成形して測定したスラブ硬度であり、後述する測定方法により測定する。また、前記中間層の硬度は、上述した樹脂成分又はゴム組成物の組合せ、添加剤の含有量などを適宜選択することによって、調整することができる。
【0075】
本発明のゴルフボールが、糸巻きゴルフボールの場合、コアとして糸巻きコアを用いれば良い。斯かる場合、糸巻きコアとしては、例えば、上述したコア用ゴム組成物を硬化させてなるセンターとそのセンターの周囲に糸ゴムを延伸状態で巻き付けることによって形成した糸ゴム層とから成るものを使用すればよい。また、前記センター上に巻き付ける糸ゴムは、糸巻きゴルフボールの糸巻き層に従来から使用されているものと同様のものを使用することができ、例えば、天然ゴム又は天然ゴムと合成ポリイソプレンに硫黄、加硫助剤、加硫促進剤、老化防止剤などを配合したゴム組成物を加硫することによって得られたものを用いてもよい。糸ゴムはセンター上に約10倍に引き伸ばして巻きつけて糸巻きコアを作製する。
【実施例】
【0076】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0077】
[評価方法]
(1)剪断損失弾性率G1”〜G2”
カバー用材料の剪断損失弾性率G1”〜G2”を以下の条件で測定した。
装置:TAインスツルメント社製レオメータARES
測定サンプル:カバー用材料を用いてプレス成形により、厚み2mmのシートを作製し、このシートから、幅10mm、クランプ間距離10mmになるように試料片を切り出した。
測定モード:捻り(剪断)
測定温度:0℃、−30℃
加振周波数:10Hz
測定ひずみ:0.05%
なお、カバー用材料の剪断損失弾性率は、樹脂成分100質量部に対して、酸化チタン4質量部を配合したものの剪断損失弾性率である。
【0078】
(2)アプローチショットのスピン量(ドライ、ウエット、スピン保持率)
ゴルフラボラトリー社製スイングロボットに、アプローチウェッジ(SRIスポーツ社製、SRIXON I−302(溝規制対応)、シャフトS)を取り付け、ヘッドスピード21m/秒でゴルフボールを打撃し、打撃されたゴルフボールを連続写真撮影することによってスピン量(rpm)を測定した。測定は、各ゴルフボールについて10回ずつ行い、その平均値をスピン量とした。ドライスピン量は、クラブフェースとゴルフボールが乾いた状態で試験を行ったときのスピン量であり、ウエットスピン量は、クラブフェースとゴルフボールを水で濡らした状態で試験を行ったときのスピン量である。スピン保持率は、下記式により算出した。
スピン保持率(%)=100×ウエットスピン量/ドライスピン量
【0079】
(3)スラブ硬度(ショアD硬度)
中間層用組成物、又はカバー用材料を用いて、熱プレス成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。このシートを、測定基板などの影響が出ないように、3枚以上重ねた状態で、ASTM−D2240に規定するスプリング式硬度計ショアD型を備えた高分子計器社製自動ゴム硬度計P1型を用いて測定した。
なお、カバー用材料のスラブ硬度は、樹脂成分100質量部に対して、酸化チタン4質量部を配合したもののスラブ硬度である。
【0080】
(4)コア硬度(JIS−C硬度)
スプリング式硬度計JIS−C型を備えた高分子計器社製自動ゴム硬度計P1型を用いて、コアの表面部において測定したJIS−C硬度をコア表面硬度とした。また、コアを半球状に切断し、切断面の中心において測定したJIS−C硬度をコア中心硬度とした。
【0081】
(5)コア圧縮変形量(mm)
コアに初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮方向の変形量(圧縮方向に球形体が縮む量)を測定した。
【0082】
[ゴルフボールの作製]
(1)センターの作製
表1に示す配合のセンター用ゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で170℃で15分間加熱プレスすることにより球状のセンター(直径38.5mm)を得た。
【0083】
【表1】

ポリブタジエンゴム:JSR(株)製、「BR730(ハイシスポリブタジエン)」
アクリル酸亜鉛:日本蒸留製、「ZNDA−90S」
酸化亜鉛:東邦亜鉛製、「銀嶺R」
ジフェニルジスルフィド:住友精化製
ジクミルパーオキサイド:日油製、「パークミル(登録商標)D」
【0084】
(2)コアの作製
次に、表2に示した配合の中間層材料を、二軸混練型押出機により押し出して、ペレット状の中間層用組成物を調製した。押出は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35で行った。配合物は、押出機のダイの位置で150〜230℃に加熱された。得られた中間層用組成物を上述のようにして得られたセンター上に射出成形して、センターと前記センターを被覆する中間層を有するコア(直径41.7mm)を作製した。
【0085】
【表2】

ハイミラン1605:三井デュポンポリケミカル社製のナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
ハイミランAM7329:三井デュポンポリケミカル社製の亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
【0086】
(3)ハーフシェルの成形
表3に示した配合のカバー用材料を、酸化チタンとともにドライブレンドし、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状のカバー用材料を得た。押出は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35で行った。配合物は、押出機のダイの位置で150〜230℃に加熱された。ハーフシェルの圧縮成形は、得られたペレット状のカバー用材料をハーフシェル成形用金型の下型の凹部ごとに1つずつ投入し、加圧してハーフシェルを成形した。圧縮成形は、成形温度170℃、成形時間5分、成形圧力2.94MPaの条件で行った。
【0087】
(4)カバーの成形
(2)で得られたコアを(3)で得られた2枚のハーフシェルで同心円状に被覆して、圧縮成形によりカバーを成形した。圧縮成形は、成形温度145℃、成形時間2分、成形圧力9.8MPaの条件で行った。
【0088】
得られたゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、クリアーペイントを塗布し、40℃のオーブンで塗料を乾燥させ、直径42.7mm、質量45.3gのゴルフボールを得た。得られたゴルフボールのウエットスピン性能について評価した結果を併せて表3に示した。
【0089】
【表3】

【0090】
表3で使用した材料は、以下の通りである。なお、アクリル系エラストマー中のポリメタクリル酸メチル含有量を表4に示した。
サンプル品、クラリティLA4285、クラリティLA4285/LA2250、及びクラリティLA2250:クラレ社製 [ポリメタクリル酸メチルブロック1]−[ポリアクリル酸n−ブチルブロック]−[ポリメタクリル酸メチルブロック2]で表されるトリブロック共重合体
エラストランNY85A:BASF社製 ポリウレタン
エラストランNY80A:BASF社製 ポリウレタン
エラストランNY97A:BASF社製 ポリウレタン
【0091】
【表4】

【0092】
カバー硬度が同程度であるゴルフボールで比較した場合、上記式(1)を満たすゴルフボールは満たさないゴルフボールよりもウエットスピン量、スピン保持率が大きくなっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、ウエット条件下でのスピン量が大きく、アプローチショットで良く止まるゴルフボールが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系エラストマーで、かつ
動的粘弾性装置を用いて、下記測定条件で測定した剪断損失弾性率G1”(Pa)及びG2”(Pa)が下記式(1)を満足するゴルフボール用材料。
G1”/G2”>1.65 (1)
G1”測定条件:剪断モード、加振周波数10Hz、温度−30℃、ひずみ0.05%
G2”測定条件:剪断モード、加振周波数10Hz、温度0℃、ひずみ0.05%
【請求項2】
前記アクリル系エラストマーが、アクリル酸エステル系重合体からなる重合体ブロック(I)と、メタクリル酸エステル系重合体からなる重合体ブロック(II)とを、分子内にそれぞれ少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体である請求項1記載のゴルフボール用材料。
【請求項3】
前記アクリル系エラストマーが、式:(II)−(I)−(II)又は式:(I)−(II)−(I)で表されるトリブロック構造[但し、式中、(I)はアクリル酸エステル系重合体からなる重合体ブロック、(II)はメタクリル酸エステル系重合体からなる重合体ブロックを示し、−は各重合体ブロックの結合手を示す。]を、分子内に少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体である請求項1記載のゴルフボール用材料。
【請求項4】
前記アクリル系エラストマーが、式:(II)−(I)−(II)で表されるトリブロック構造[但し、式中、(I)はアクリル酸エステル系重合体からなる重合体ブロック、(II)はメタクリル酸エステル系重合体からなる重合体ブロックを示し、−は各重合体ブロックの結合手を示す。]を、分子内に少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体である請求項2記載のゴルフボール用材料。
【請求項5】
前記重合体ブロック(I)がアクリル酸n−ブチル系重合体、前記重合体ブロック(II)がメタクリル酸メチル系重合体からなる請求項2〜4のいずれかに記載のゴルフボール用材料。
【請求項6】
スラブ硬度が、ショアD硬度で19〜61である請求項1〜5のいずれかに記載のゴルフボール用材料。
【請求項7】
カバー用材料である請求項1〜6のいずれかに記載のゴルフボール用材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のゴルフボール用材料から形成された構成部材を有するゴルフボール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−39287(P2013−39287A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179082(P2011−179082)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(504017809)ダンロップスポーツ株式会社 (701)