説明

ゴルフボール

【課題】 環境に優しい水性塗料から得られる塗膜であって、耐衝撃性及び耐磨耗性に優れる塗膜を有するゴルフボールを提供する。
【解決手段】 本発明のゴルフボールは、ゴルフボール本体と、前記ゴルフボール本体を被覆する塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜は、水性塗料から得られる塗膜であって、破断伸度が80%以上であり、最大応力が170kgf/cm2(16.7MPa)以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールに関するものであり、より詳細には、塗膜を有するゴルフボールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボール本体表面には、通常、塗膜が設けられている。ゴルフボールの塗膜は、ゴルフボール本体が、太陽光線や風雨にさらされて劣化するのを保護するとともに、ゴルフボール本体に光沢などを付与して外観を向上するために設けられている。例えば、特許文献1には、ウレタンポリオールとジイソシアネート化合物とからなる溶剤系の塗料からなる塗膜を有するゴルフボールが開示されている。
【特許文献1】特開平11−146930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ゴルフボールの塗膜には、耐衝撃性や耐摩耗性などが要求されている。特に、ゴルフボールを打撃する際には、ゴルフボール本体が変形するので、ゴルフボール本体を被覆する塗膜がこのような変形に追随できない場合には、塗膜が剥離する傾向がある(耐衝撃性)。また、ゴルフボールは、打撃時におけるクラブとの摩擦や、着地時におけるバンカーの砂やラフなどの地面との摩擦などを受けるため、塗膜には高度の耐摩耗性が求められている。
【0004】
ところで近年、環境保全の問題から溶剤系塗料の使用量を低減することが期待されており、ゴルフボールに使用される塗料も溶剤系塗料から水性塗料へ代替していくことが検討されている。しかしながら、水性塗料から得られる塗膜を有するゴルフボールは、従来の溶剤系塗料から得られる塗膜を有するゴルフボールに比べて、耐衝撃性や耐磨耗性が低いという問題がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、環境に優しい水性塗料から得られる塗膜であって、耐衝撃性及び耐磨耗性に優れる塗膜を有するゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することのできた本発明のゴルフボールは、ゴルフボール本体と、前記ゴルフボール本体を被覆する塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜は、水性塗料から得られる塗膜であって、その破断伸度が80%以上であり、最大応力が170kgf/cm2 (16.7MPa)以上であることを特徴とする。ゴルフボール本体を被覆する塗膜の破断伸度を80%以上としておくことによって、打撃時におけるゴルフボールの変形に塗膜が追随して、衝撃に対する密着性(耐衝撃性)を改良でき、さらに、塗膜の最大応力を170kgf/cm2以上とすれば、塗膜の耐磨耗性を向上できる。
【0007】
また、前記水性塗料として、二液硬化型水性塗料を使用すれば、二液硬化型水性塗料の主剤若しくは硬化剤の一部が、硬化反応の際にゴルフボールカバーの基材表面と反応するものと考えられ、得られる塗膜の密着性が一層向上する。前記二液硬化型水性塗料として、例えば、水性ポリオールと水性ポリイソシアネートとを含有する二液硬化型水性ウレタン系塗料を使用することが好ましい。塗膜の樹脂成分として、二液硬化型ウレタン系樹脂を採用すれば、耐摩耗性が一層向上するとともに、ウレタン骨格は、ゴルフボール本体の表面部分を構成するカバー材料などとの化学的な親和性が高く、密着性も優れるからである。また、前記水性ポリオールとして、水性ポリエステルポリオール:水性アクリルポリオール=4:1〜10:1(質量比)である水性ポリオールを使用することも好ましい態様である。ウレタン/アクリル複合化塗膜が得られ、耐候性が一層向上するからである。前記水性ポリイソシアネートとしては、例えば、水性ヘキサメチレンジイソシアネートを使用することが好ましい。
【0008】
前記ゴルフボール本体を、ウレタンカバーを有するゴルフボール本体とすれば、例えば、塗膜として、水性ポリオールと水性ポリイソシアネートとを含有する二液硬化型水性ウレタン系塗料を硬化させてなるものを使用することによって、塗膜とゴルフボール本体との密着性が一層向上する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゴルフボールを製造する際に、揮発性の有機溶剤量を低減することができる。また、得られるゴルフボールの塗膜は、耐衝撃性および耐磨耗性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のゴルフボールは、ゴルフボール本体と、前記ゴルフボール本体を被覆する塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜は、水性塗料から得られる塗膜であって、その破断伸度が80%以上であり、最大応力が170kgf/cm2(16.7MPa)以上であることを特徴とする。ゴルフボール本体を被覆する塗膜の破断伸度を80%以上としておけば、打撃時におけるゴルフボールの変形に塗膜が追随することができ、打撃に対する塗膜密着性(耐衝撃性)を改良することができる。また、前記塗膜の破断伸度は、85%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。破断伸度の上限は、特に限定されないが、400%程度、より好ましくは350%程度である。破断伸度が400%を超えると塗膜が柔らかくなりすぎて、耐擦過傷性が低下する場合があるからである。
【0011】
また本発明では、塗膜の最大応力を170kgf/cm2(16.7MPa)以上とすることによって、塗膜の耐擦過傷性が向上する。前記塗膜の最大応力は、180kgf/cm2 (17.6MPa)以上であることが好ましく、より好ましくは184kgf/cm2 (18.0MPa)以上である。前記塗膜の最大応力の上限は、特に限定されないが、400kgf/cm2(39.2MPa)程度、より好ましくは350kgf/cm2(34.3MPa)程度である。
【0012】
前記塗膜の最大応力および破断伸度とは、JIS−K7161に準じて、水性塗料から得られる塗膜を、10〜200mm/分、より好ましくは50mm/分の引張速度で、引張試験により測定した際に得られる応力−ひずみ曲線における最大応力と塗膜が破断する際の伸度である。最大応力は、上記応力−ひずみ曲線における最大応力であれば良く、例えば、応力−ひずみ曲線の降伏点における応力が最大のときには降伏応力であり、塗膜が破断する際の応力が最大のときには破断時の応力である。
【0013】
本発明における塗膜は、水性塗料から得られる塗膜、より好ましくは二液硬化型水性塗料から得られる塗膜であって、上記物性を満足するものであれば、特に限定されない。また本発明において「水性」という場合には、「水溶性」と「水分散性」のいずれの場合も含まれる。本発明における塗膜の樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース系樹脂などを挙げることができ、後述するような水性ポリオールと水性ポリイソシアネートとを含有する二液硬化型水性ウレタン系塗料を硬化させてなるものを使用することも好ましい態様である。塗膜の樹脂成分として、二液硬化型ウレタン樹脂を採用すれば、耐摩耗性、耐久性が一層向上するとともに、ウレタン骨格は、ゴルフボール本体の表面部分を構成するカバー材料などとの化学的な親和性が高く、密着性に優れるからである。
【0014】
以下、本発明で好適に使用する水性ポリオールと水性ポリイソシアネートとを含有する二液硬化型水性ウレタン系塗料について説明する。前記二液硬化型水性ウレタン系塗料で使用する水性ポリオールとしては、水性であって、ヒドロキシル基を複数有するものであれば特に限定されず、例えば、水性ポリエステルポリオール;水性ポリエーテルポリオール;水性ウレタンポリオール;水性アクリルポリオール;水性アルキド樹脂;ポリビニールアルコール;及び、ヒドロキシエチルセルロール、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体;などが挙げられ、単独、若しくは、2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも水性ポリエステルポリオール、若しくは、水性ポリエステルポリオールと水性アクリルポリオールとを使用することが極めて好ましい。水性ポリエステルポリオールを使用することによって、得られるウレタン系塗膜の耐衝撃性が良好になる。また、水性アクリルポリオールを併用することによって、得られる塗膜の耐候性を向上できるからである。特に、水性ポリオールとして、水性ポリエステルポリオール:水性アクリルポリオール=4:1〜10:1(質量比)とすることが好ましい態様であり、得られる塗膜が、機械的物性(最大応力、破断伸度)と耐候性とを両立できる。
【0015】
前記水性ポリエステルポリオールは、上述したように、水溶性ポリエステルポリオールまたは水分散性ポリエステルポリオールのいずれであってもよく、例えば、カルボキシル基を有するポリエステルポリオールやスルホン基を有するポリエステルポリオールなどが挙げられる。前記水性ポリエステルポリオールとして特に好ましいのは、カルボキシル基を有する水性ポリエステルポリオールであり、かかるカルボキシル基を塩基で中和して水性化することができる。
【0016】
前記カルボキシル基を有する水性ポリエステルポリオールは、ポリエステルポリオールを合成する公知の方法により合成することができ、例えば、(低分子量の)ポリオールと多塩基酸とを重縮合させて得ることができる。
【0017】
前記ポリエステルポリオールを水性化するためのカルボキシル基は、ポリオール成分または多塩基酸成分のいずれからも導入することができる。ポリエステルポリオールにカルボキシル基を導入するポリオール成分としては、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジヒドロキシプロピオン酸、ジヒドロキシコハク酸などが挙げられる。カルボキシル基を導入するポリオール以外のポリオール成分としては、ポリエステルポリオールの合成に公知のポリオールを挙げることができ、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ビスフェノールA等のジオールや、トリメチロールプロパン、グリセリンなどのトリオール等を挙げることができ、単独、或いは、2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0018】
また、ポリエステルポリオールにカルボキシル基を導入できる多塩基酸成分としては、例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等を挙げることができる。前記カルボキシル基を導入する多塩基酸以外の多塩基酸としては、ポリエステルポリオールの合成に用いられる公知の多塩基酸成分を挙げることができ、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸などの二塩基酸が挙げられる。前記多塩基酸は、単独で、或いは、2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0019】
前記水性ポリエーテルとしては、例えば、ポリエチレングリコールを挙げることができる。
【0020】
前記水性ウレタンポリオールとしては、分子鎖中にウレタン結合を有し、ヒドロキシル基を複数有するものであれば特に限定されず、例えば、上述した水性ポリエステルポリオールおよび/または水性ポリエーテルポリオールとポリイソシアネートとをポリオール成分のヒドロキシル基がポリイソシアネートのイソシアネート基に対して過剰になるように反応させることにより得られる。
【0021】
前記水性アクリルポリオールとしては、例えば、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどを共重合した水性アクリルポリオールを挙げることができる。前記ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルなどを挙げることができる。また、アクリルポリオールに共重合される他のモノマー成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチルなど公知のエチレン性不飽和単量体を挙げることができる。
【0022】
アクリルポリオールを水性化する方法は、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などのカルボキシル基を有するエチレン性不飽和カルボン酸を共重合して、かかるカルボキシル基を塩基で中和して水性化する方法、上記ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを含有するエチレン性不飽和単量体を乳化剤の存在下で乳化重合する方法などが挙げられる。
【0023】
本発明において、水性ポリオールの水酸基価(mgKOH/g)は、25以上、好ましくは30以上であって、100未満、より好ましくは95以下であることが好ましい。水性ポリオールの水酸基価が25未満では、塗膜とゴルフボール本体との密着性が低下する場合があるからである。また、前記水酸基価が100以上では、水性ポリイソシアネートとの反応に時間がかかるので、生産性が低下する場合があるからである。前記水酸基価は、JIS−K1557に準じて、例えば、電位差滴定法により測定することができる。
【0024】
前記水性ポリオールの重量平均分子量は、4,000以上、より好ましくは5,000以上、さらに好ましくは6,000以上であって、20,000以下、より好ましくは17,000以下、さらに好ましくは15,000以下であることが望ましい。前記重量平均分子量が4,000未満では、乾燥に時間がかかり生産性が低下し、20,000超では、相対的に水酸基価が低下して、ゴルフボール本体との密着性が低下するからである。水性ポリオールの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定することができる。
【0025】
水性ポリオールの水性化は、特に限定されないが、例えば、カルボキシル基含有ポリオールの場合は、かかるカルボキシル基を塩基などで中和することにより水性化することができる。カルボキシル基を中和する塩基としては、アンモニア、メチルアミン、エチルアミンなどの1級アミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミンなどの2級アミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミンなどの3級アミン、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物を使用することができる。また、分子内にポリエチレンオキサイド鎖を有する水性ポリエーテルポリオール、ポリビニールアルコール、セルロース誘導体などの場合は、単に水と混合して、撹拌することにより水性化することができる。また、必要に応じて加熱しながら溶解してもよい。
【0026】
前記水性ポリオールの水性液の濃度は、20質量%以上、より好ましくは25質量%以上であって、65質量%以下、より好ましくは60質量%以下であることが好ましい。20質量%未満であると、水性ポリオールと硬化剤のポリイソシアネートとの硬化反応が遅くなるからである。また、65質量%超であると、粘度が高くなって、塗工性が低下するからである。
【0027】
本発明では、前記二液硬化型水性ウレタン系塗料の上記水性ポリオールを硬化する硬化剤として、水性のポリイソシアネートを使用することも好ましい態様である。水性のポリイソシアネートを使用することにより、水性ポリオールとの硬化反応を均一に行うことができるからである。
【0028】
前記水性ポリイソシアネートとは、ポリイソシアネートを水性化(水溶性若しくは水分散性にした)した変性体であれば特に限定されず、例えば、ポリオキシアルキレンエーテルアルコールで変性した水性ポリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0029】
前記水性ポリイソシアネートのイソシアネート成分としては、例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネートと2,6−トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3'−ビトリレン−4,4'−ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)等の芳香族ポリイソシアネート;4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環式ポリイソシアネート又は脂肪族ポリイソシアネート等のうちの1種または2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち、耐候性を向上するという観点から、非黄変性のポリイソシアネート(TMXDI、XDI、HDI、H6XDI、IPDI、H12MDIなど)が好ましく、さらに好ましくは水性ヘキサメチレンジイソシアネートである。前記水性ポリイソシアネートの具体例としては、例えば、大日本インキ化学工業社製CR−60N、日本ポリウレタン社製コロネートC3062、C3053、住友バイエルウレタン社製バイヒジュール3100、神東塗料社製I−3などを挙げることができる。
【0030】
前記水性ポリオールと水性ポリイソシアネートとの配合比率は、特に限定されないが、NCO/OH(モル比)が1.2以上、より好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.5以上であって、2.0以下、より好ましくは1.8以下であることが望ましい。NCO/OH(モル比)が1.2未満であると、硬化反応が不十分となってタック感が残り、塗膜にほこりや汚れが付着しやすくなる。一方、NCO/OH(モル比)が2.0超であると、残存しているイソシアネート基が水分と反応しCO2を発生するので、塗膜中に気泡が生じやすくなるからである。
【0031】
前記二液硬化型水性ウレタン系塗料は、前記水性ポリオールと水性ポリイソシアネートなどに加えて、有機溶剤を含有しても良い。前記有機溶剤は、例えば、水性ポリオールと水性ポリイソシアネートの相互の分散性を高めて、硬化反応を促進するからである。前記有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、メトキシブチルアセテートなどの有機溶剤を挙げることができる。また前記有機溶剤として、いわゆる造膜助剤を使用することも好ましい態様である。造膜助剤は、塗膜の造膜性を高めて、塗膜物性を向上することができるからである。また、造膜助剤は揮発性が低いため、揮発性有機溶剤の使用量の低減にも繋がる。
【0032】
前記造膜助剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコール2−エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコール系のエーテル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコール系のエステル系溶剤などを挙げることができる。これらの有機溶剤若しくは造膜助剤は、単独であるいは、2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0033】
前記有機溶剤の含有量は、二液硬化型水性塗料中、5質量%以上、より好ましくは12質量%以上、さらに好ましくは14質量%以上であって、20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは16質量%以下使用することが望ましい。20質量%超になると、塗料コストを高めるだけでなく、揮発性有機溶剤を低減するという目的にそぐわなくなる。また、5質量%未満になると、塗膜の造膜性が低下したり、水性ポリオールと水性ポリイソシアネートとの相互分散性が低下する場合がある。
【0034】
前記有機溶剤若しくは造膜助剤は、水性ポリオールなどを含有する主剤、水性ポリイソシアネートなどを含有する硬化剤のいずれに含有されていてもよい。
【0035】
本発明で好適に使用する二液硬化型水性ウレタン系塗料は、上記基材樹脂成分の他、さらに必要に応じて、顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、ブロッキング防止剤、レベリング剤、スリップ剤など一般にゴルフボール用塗料に含有され得る添加剤を含有していてもよい。
【0036】
本発明では、ゴルフボール本体表面上に、上記二液硬化型水性塗料を塗布し、乾燥及び硬化することにより塗膜を設けることが好ましい。塗料の塗布方法は特に限定されず、二液混合型塗料の塗布方法として公知の方法を採用することができる。例えば、水性ポリオールの水性液などの主剤と水性ポリイソシアネートなどの硬化剤とを混合した後、エアースプレーガン、静電塗装などを使用してゴルフボールに塗布することができる。また、ゴルフボールの表面は、洗浄やサンドブラストなどの表面処理を予め施しておいてもよい。スプレーガンで塗装する場合には、水性ポリオールの水性液などの主剤と水性ポリイソシアネートなどの硬化剤とを少量ずつ混合して使用してもよいし、2液定比率ポンプを使ってスプレーガン直前の塗料輸送経路でスタティックミキサーのようなラインミキサーを通して連続的に二液を定比率で混合してもよいし、混合比制御機構を備えたエアースプレーシステムを用いることもできる。次いで、ゴルフボールの表面に塗布された二液硬化型水性ウレタン系塗料を、例えば、50℃未満の温度で0.5〜2時間乾燥及び硬化すれば、塗膜を形成することができる。
【0037】
乾燥後の塗膜の膜厚は、特に限定されないが5μm以上25μm以下であることが好ましい。膜厚が5μm未満になると継続的な使用により塗膜が磨耗消失しやすくなり、膜厚が25μmを超えるとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下するからである。また前記塗膜は、その膜厚が上記範囲内であれば単層構造、或いは、二層以上の多層構造を有していてもよく、好ましくは単層構造を有する。単層構造であれば、塗装工程を簡略化でき、本発明における塗膜は、単層構造であっても優れた塗膜物性を発現するからである。また、前記塗膜は最外層のクリアーペイント層としてもよく、顔料を含有させたエナメルペイント層とすることもできる。エナメルペイント層とする場合には、さらにクリアーペイント層を設けてもよい。
【0038】
本発明では、ゴルフボール本体の構造は特に限定されず、ワンピースゴルフボール、ツーピースゴルフボール、スリーピースゴルフボール以上のマルチピースゴルフボール、或いは、糸巻きゴルフボールであってもよい。いずれの場合であっても、本発明を好適に適用できるからである。本発明のゴルフボールの製法について、ツーピースゴルフボールの態様を例にとって説明するが、本発明は、かかる製法およびツーピースゴルフボールに限定されるものではない。
【0039】
ツーピースゴルフボールのコアとしては、従来より公知のコアを使用することができ、例えば、基材ゴムとしてのジエン系ゴム、共架橋剤、及び架橋開始剤を含むゴム組成物を加熱プレスして成形したものであることが好ましい。前記ジエン系ゴムとしては、特に、反発に有利なシス結合が40%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上のハイシスポリブタジエンを用いることが好ましい。前記共架橋剤は、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸又はその金属塩、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸の金属塩が用いられ、金属としては、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムが好ましく用いられ、より好ましくは亜鉛が用いられる。このような共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部あたり20〜50質量部が好ましい。また、架橋開始剤としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物が挙げられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。有機過酸化物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、1.5質量部以下が好ましく、より好ましくは1.0質量部以下である。前記コア用ゴム組成物には、基材ゴム、共架橋剤、及び架橋開始剤に加えて、さらに、酸化亜鉛や硫酸バリウム等の比重調整剤、老化防止剤、色粉等を適宜配合することができる。前記コア用ゴム組成物の加熱プレス成型条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、130〜200℃で10〜60分間加熱するか、あるいは130〜150℃で20〜40分間加熱した後、160〜180℃で5〜15分間と2段階加熱することが好ましい。
【0040】
上記のようにして得られたコア上にはカバーを被覆して、ゴルフボール本体を作製する。前記カバー材料としては、例えば、アイオノマー樹脂やウレタン樹脂などの熱可塑性樹脂、二液硬化型ウレタン樹脂、バラタまたは硬質ゴムなどを挙げることができる。カバー材料として、熱可塑性ウレタン樹脂や二液硬化型のウレタン樹脂などを採用すれば、塗膜を構成する二液硬化型水性ウレタン樹脂との密着性が一層高くなる。また、カバーを被覆してゴルフボール本体を作製する際には、通常、表面にディンプルと呼ばれるくぼみが形成される。さらに、ゴルフボール本体表面は、必要に応じて、マークや塗膜との密着性を向上するために、サンドブラスト処理のような研磨処理がなされてもよい。
【0041】
上記製法では、ツーピースゴルフボールの態様を例にとって説明したが、例えば、糸巻きゴルフボールの場合には、糸巻きコアを使用すればよく、スリーピース以上のマルチピースゴルフボールの場合には、コアとカバーとの間に少なくとも1層以上の中間層を設けることができる。前記糸巻きコアは、センターとそのセンターの周囲に糸ゴムを延伸状態で巻き付けることによって形成した糸ゴム層とから成り、従来より公知のものを使用することができる。センターとしては液系(リキッドセンター)またはゴム系(ソリッドセンター)のいずれを用いてもよい。また、上記センター上に巻き付ける糸ゴムは、糸巻きゴルフボールの糸巻き層に従来から使用されているものと同様のものを使用することができ、例えば、天然ゴムまたは天然ゴムと合成ポリイソプレンに硫黄、加硫助剤、加硫促進剤、老化防止剤等を配合したゴム組成物を加硫することによって得られたものを用いてもよい。糸ゴムはセンター上に約10倍に引き伸ばして巻きつけて糸巻きコアを作製する。
【0042】
また、スリーピース以上のマルチピースゴルフボールの中間層としては、例えば、ポリウレタン樹脂、アイオノマー樹脂、ナイロン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂;ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー等の熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。ここで、アイオノマー樹脂としては、例えば、エチレンとα,β−不飽和カルボン酸との共重合体中のカルボキシル基の少なくとも1部を金属イオンで中和したもの、またはエチレンとα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したものが挙げられる。前記中間層には、さらに、硫酸バリウム、タングステン等の比重調整剤、老化防止剤、顔料などが配合されていてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0044】
[評価方法]
(1)水性塗料から得られる塗膜物性の測定
主剤及び硬化剤を配合した二液硬化型水性塗料を40℃で4時間乾燥及び硬化をさせて塗膜を作製した。JIS−K7161に準じて、この塗膜をダンベル形状に打ち抜いて試験片を作製し、島津製作所社製引張試験測定装置を用いて、塗膜の物性を測定した。尚、前記水性塗料が、必要に応じて粘性調整剤などの添加剤を含有する場合には、斯かる添加剤を含有する塗膜の物性を測定する。
試験片の膜厚:0.05mm
引張速度:50mm/分
【0045】
(2)塗膜の耐衝撃性(衝撃に対する塗膜密着性)
ツルーテンパー社製のスイングロボットに5番アイアンを装着し、ヘッドスピード34m/sで塗装後のゴルフボールを150回繰返し打撃した後、塗膜層の剥離状態を観察し、下記の評価基準に基づいて評価した。
評価基準
◎:塗膜の剥離がなかった。
○:塗膜の剥離面積が全塗膜面積の5%以下
△:塗膜の剥離面積が全塗膜面積の5%超20%以下
×:塗膜の剥離面積が全塗膜面積の20%超
【0046】
(3)塗膜の耐摩耗性(磨耗に対する塗膜密着性)
内表面をブラシで覆ったポテトピラー内に各塗装ゴルフボールを入れ、1時間ブラッシング処理し、塗膜層の剥離状態を観察し、以下の評価基準に基づき評価した。
◎:塗膜の剥離がなかった。
○:塗膜の剥離面積が全塗膜面積の5%以下
△:塗膜の剥離面積が全塗膜面積の5%超20%以下
×:塗膜の剥離面積が全塗膜面積の20%超
【0047】
[ツーピースゴルフボールの作成]
(1)コアの作製
表1に示す配合のコア用ゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で160℃で13分間加熱プレスすることにより直径39.3mmの球状コアを得た。
【0048】
【表1】

ポリブタジエンゴム:JSR(株)製のBR11
【0049】
(2)カバー組成物の調製
表2に示した配合の材料を、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状のカバー用組成物を調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で200〜260℃に加熱された。
【0050】
【表2】

【0051】
ハイミラン1605:三井デュポンポリケミカル(株)製のナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ハイミラン1706:三井デュポンポリケミカル(株)製の亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ハイミラン1707:三井デュポンポリケミカル(株)製のナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
エラストランXNY97A:BASFジャパン製H12MDI−PTMG系熱可塑性ポリウレタン
【0052】
(3)ゴルフボール本体の作製
上記で得たカバー用組成物を、前述のようにして得たコア上に直接射出成形することによりカバー層を形成し、直径42.7mmを有するツーピースゴルフボール本体を作製した。カバー成形用上下金型は、半球状キャビティを有し、ディンプル付きで、ディンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねている。上記ホールドピンを突き出し、コアを投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に210℃に加熱した樹脂を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きしてゴルフボールを取り出した。
【0053】
得られたゴルフボールの表面をサンドブラスト処理をして、マーキングを施した後、表3に示した二液硬化型水性ウレタン系塗料をエアガンで塗布し、40℃のオーブンで塗料を乾燥させ、厚み約10μmの塗膜を形成した。形成された塗膜の耐衝撃性及び耐摩耗性について評価した結果を表3に併せて示した。尚、水系塗料中の主剤と硬化剤の配合は、主剤のOHに対して硬化剤のNCOが、NCO/OH=1.5になるようにした。
【0054】
【表3】

【0055】
水性ポリオール1:神東塗料(株)製水性ポリエステルポリオール(OH価:33mgKOH/g)
水性ポリオール2:神東塗料(株)製水性ポリエステルポリオール/水性アクリルポリオール=4/1(質量比、OH価:66mgKOH/g)
水性ポリオール3:神東塗料(株)製水性アクリルポリオール(OH価:50mgKOH/g)
硬化剤:神東塗料(株)製水性ヘキサメチレンジイソシアネート
【0056】
ゴルフボールNo.1は、塗膜の最大応力が135kgf/cm2と低すぎる場合であるが、塗膜の耐摩耗性が低下した。ゴルフボールNo.2からNo.6は、二液硬化型水性塗料から得られる塗膜の物性が、いずれも最大応力170kgf/cm2以上、破断伸度80%以上を満足する場合であるが、耐衝撃性および耐摩耗性のいずれにも優れている。ゴルフボールNo.7は、塗膜の破断伸度が30%と低すぎる場合であるが、塗膜の耐衝撃性が著しく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、環境に優しい水性塗料から得られる塗膜であって、耐衝撃性及び耐摩耗性に優れる塗膜を有するゴルフボールを提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフボール本体と、前記ゴルフボール本体を被覆する塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜は、水性塗料から得られる塗膜であって、破断伸度が80%以上であり、最大応力が170kgf/cm2(16.7MPa)以上であることを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】
前記塗膜は、水性ポリオールと水性ポリイソシアネートとを含有する二液硬化型水性ウレタン系塗料を硬化させてなるものである請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
前記水性ポリオールは、水性ポリエステルポリオール:水性アクリルポリオール=4:1〜10:1(質量比)である請求項2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
前記水性ポリイソシアネートは、水性ヘキサメチレンジイソシアネートである請求項2又は3に記載のゴルフボール。
【請求項5】
前記ゴルフボール本体は、ウレタンカバーを有するゴルフボール本体である請求項1〜4のいずれかに記載のゴルフボール。


【公開番号】特開2006−556(P2006−556A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182841(P2004−182841)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)