説明

サンゴ付着基盤の切り出し方法及びサンゴの吊り上げ方法

【課題】 サンゴを傷つけることなく安全に、かつ、簡単にサンゴを移設する方法、及び、そのための切り出し方法、吊り上げ方法、それらの方法に使用する器具等を提供することを目的とする。
【解決手段】 サンゴ付着基盤1の表面において、移設しようとするサンゴ2のみを取り囲むように想定カットライン4を画定し、この想定カットライン4の頂点T或いは各辺の任意の位置から付着基盤1の内方へ向かって複数の孔7をあけ、いくつかの孔7の中に拡開手段を差し込み、孔7の内径を拡げる方向へ圧力をかけて、所望の方向へ亀裂を生じさせることによって、付着基盤1の本体からサンゴ2の着生部分3のみを切り離し、切り離したサンゴ2及びその着生部分3を吊り上げることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底にて生息するサンゴを他の場所へ移設乃至は移動させる必要がある場合等において、対象となるサンゴを生息地盤から切り出す方法、及び、サンゴを損傷させることなく安全に、かつ、簡単に吊り上げ、移動、移設する方法、及び、そのための器具等に関する。
【背景技術】
【0002】
海底にて生息するサンゴを他の場所へ移設するための方法として、まず、ワイヤソー等を用いてサンゴ付着基盤を根元から切断し、切り離されたサンゴ付着基盤をワイヤで吊り上げ、移動用架台に載せて新たな設置場所へと運搬する、という方法が考案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の方法による場合、切り離されたサンゴ付着基盤をワイヤで吊り上げる際に、ワイヤによって付着したサンゴを傷つけてしまうことがある。また、サンゴ付着基盤が非常に大きい等の理由から、サンゴ付着基盤を根元から切断することが困難である場合や、切断が可能であったとしても、吊金具を切断面に挿入することができないような場合には、上記のような従来方法は実施することができない。
【0004】
更に、移設しようとするサンゴの群体が、サンゴ付着基盤の大きさに対して非常に小さいような場合においても、サンゴ付着基盤全体を根元から切断して運搬するとなると、労力、時間、費用の面で非常にロスが大きく、効率が悪いという問題がある。
【0005】
本発明は、このような従来技術の課題を解決すべくなされたものであって、低コストで実施でき、サンゴを傷つけることなく安全に、かつ、簡単にサンゴを移設する方法、及び、そのためのサンゴ付着基盤の切り出し方法、サンゴの吊り上げ方法、それらの方法に使用する器具等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るサンゴ付着基盤の切り出し方法は、まず、移設しようとするサンゴが着生しているサンゴ付着基盤の表面において、移設しようとするサンゴのみを取り囲むように想定カットラインを画定し、この想定カットラインの頂点、或いは、想定カットラインを構成する各辺の任意の位置からサンゴ付着基盤の内方へ向かって複数の孔をあけ、これらの孔のすべて、或いは、いくつかの孔の中に、拡開手段(静的油圧破砕機、楔等)を差し込み、孔の内径を拡げる方向へ圧力をかけて、所望の方向へ亀裂を生じさせることによって、サンゴ付着基盤の本体からサンゴの着生部分のみを切り離し、切り離したサンゴ及びその着生部分を吊り上げることを特徴としている。
【0007】
この方法を実施する場合、水平な仮想三角形或いは仮想四角形のいずれかを垂直下方向に投影した場合において、サンゴ付着基盤の表面において現れるべき線図を、想定カットラインとすることが好ましい。
【0008】
尚、ここに言う「サンゴ付着基盤」とは、移設の対象となるサンゴ(生育しているサンゴ)が付着した石、岩、岩盤、コンクリートブロック、又は、コンクリート構造物の一部などのほか、移設対象となる生育中のサンゴが付着した他のサンゴの塊、及び、移設対象となる生育中の造礁サンゴの塊(例えば、ハマサンゴ等)そのものなどを意味する。
【0009】
また、本発明に係るサンゴの吊り上げ方法は、サンゴ付着基盤の本体から切り離したサンゴ及びその着生部分を、略垂直状態の本体と、この本体の下端から略水平方向へ突出させた足部と、本体の上端から略水平方向へ突出させた腕部と、によって構成されるハンガーを用いて行うことを特徴とし、更に、サンゴ付着基盤の本体とサンゴの着生部分との隙間に、足部を差し込み、当該足部の上にサンゴ及びその着生部分を保持させた状態で、前記腕部に掛けた索具(ワイヤー、チェーン等)を引き上げることによってハンガーを吊り上げることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るサンゴ付着基盤の切り出し方法によれば、移設対象となるサンゴを傷つけることなく、安全に吊り上げ、運搬することができる。また、サンゴ付着基盤を根元から切断することが困難である場合であっても、問題なく移設作業を実施することができる。
【0011】
更に、移設しようとするサンゴの群体が、サンゴ付着基盤の大きさに対して非常に小さいような場合、従来方法と比べて、労力、時間、費用を大いに節減することができ、極めて効率よく移設作業を行うことができ、また、移設対象となるサンゴのみを適宜選択して移設することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面に沿って、本発明「サンゴ付着基盤の切り出し方法」の実施形態について説明する。図1は、サンゴ付着基盤1と、その上に着生しているサンゴ2(2a〜2c)の例を示す図である。本実施形態の方法によって図1に示すサンゴ2(2a〜2c)を移設しようとする場合、付着基盤1の全体を根元から切断するのではなく、図2に示すように、付着基盤1の本体から、サンゴ2a〜2cの着生部分3a〜3c(付着基盤1に対してサンゴ2の根元が付着している部分、及び、サンゴ2の外縁の周囲一定範囲の部分)のみを切り出して、移設先へ運搬する。
【0013】
ここで、付着基盤1の本体から、移設対象となるサンゴ2の着生部分3のみを切り出す方法について説明する。まず、図3に示すように、付着基盤1の表面上において想定カットライン4(4a〜4c)を画定する。具体的には、水平な仮想三角形5或いは仮想四角形6のいずれかを垂直下方向に投影した場合において、付着基盤1の表面において現れるべき線図を、想定カットライン4とする。
【0014】
尚、投影する仮想図形を「三角形」とするか、「四角形」とするかは、付着基盤1上におけるサンゴ2の着生位置、その他の条件に応じて適宜決定する。例えば、付着基盤1の表面の一部に、移設対象となるサンゴ2の根元部分Bよりも十分に(10cm以上)低い部分が、当該サンゴ2の周囲一定範囲内に存在しているような場合(図3に示すサンゴ2a,2cのように、サンゴ2が付着基盤1の周縁に近い位置に着生している場合や、付着基盤1の傾斜面に着生している場合等)には、投影すべき仮想図形として「三角形」を選択した方が良い場合が多く、図3に示すサンゴ2bのように、比較的平坦な部分に着生しているサンゴ2を移設しようとする場合には、投影すべき仮想図形として「四角形」を選択した方が良い場合が多い。
【0015】
また、投影する仮想図形の大きさについても、移設対象となるサンゴ2の大きさに応じて適宜決定する。具体的には、移設対象となるサンゴ2の外縁を、少なくとも5cm以上の余裕をもって取り囲むことができるような大きさとする。
【0016】
また、仮想図形として「三角形」を選択する場合には、投影する仮想三角形の向きを調整して、想定カットライン4の三つの頂点T1〜T3のうち、二つの頂点T1,T2が、ほぼ同じ高さ位置であって、サンゴ2の根元部分Bよりも十分に低い位置となるようにする。
【0017】
尚、想定カットライン4a〜4cを画定する作業としては、必ずしも塗料等を用いて付着基盤1の表面に線画を描く必要はなく、例えば、作業者において確認可能な最低限の印付け等(想定カットライン4a〜4cの頂点や、各辺の中間点などの重要な部分がわかるように、付着基盤1の表面に傷を付ける等)を行えば十分である。
【0018】
想定カットライン4が画定したら、想定カットライン4の頂点T、或いは、各辺の任意の位置から付着基盤1の内方へ向かって、所望の深さの孔をあける。図4は、想定カットライン4の平面形状が三角形である場合において形成すべき孔の一例を示す図であり、図5は、想定カットライン4の平面形状が四角形である場合における孔の形成方法の説明図である。
【0019】
想定カットライン4の平面形状が三角形である場合、図4に示すように、三つの頂点T1〜T3のうち、頂点T1,T2よりも高い位置となる頂点T3から鉛直下方向へ向かって延在する孔7aを形成し、また、この頂点T3と、これよりも低い位置となる頂点T1,T2とをそれぞれ結ぶラインL1,L2上の点から鉛直下方向へ向かって延在する孔7b,7c,7d,7eを形成する。尚、これらの各孔7a〜7eの内径は4〜6cm程度、隣接間隔は40〜60cm程度に設定されている。
【0020】
更に、孔7a〜7eのほか、頂点T1,T2を通る仮想水平面H1に沿って(例えば、図4に示す矢印V1の方向へ)一つ或いは複数の孔(図示せず)をあけ、また、ラインL1,L2を通る仮想垂直面H2,H3に沿って水平方向へ(例えば、図4に示す矢印V2,V3の方向へ)一つずつ或いは複数個ずつ孔(図示せず)をあける。
【0021】
一方、想定カットライン4の平面形状が四角形である場合、図5に示すように、想定カットライン4bによって囲まれる付着基盤1の天端面Mの中心Cの鉛直下方向であって、所定の深さ(想定カットライン4を構成する四角形の一辺の寸法の約1/2の寸法)の位置にある点を仮想底点Nと定め、四角形の各辺と仮想底点Nとの間の各平面(仮想テーパ面E1〜E4)に沿って、或いは、四角形の各頂点T1〜T4と仮想底点Nとをそれぞれ結ぶ仮想谷線(図5において破線で示す線)に沿って、複数の孔をあける。
【0022】
次に、形成されたすべての孔の中に、或いは、それらのうちのいくつかの孔の中に、静的油圧破砕機の先端部(拡開部)を差し込み、孔の内径を拡げる方向へ圧力をかける。そうすると、図4に示す仮想水平面H1、仮想垂直面H2,H3、或いは、図5に示す仮想テーパ面E1〜E4に沿って亀裂が生じ、図2に示すように、付着基盤1の本体から、サンゴ2の着生部分3のみを切り離すことができる。
【0023】
尚、静的油圧破砕機による割岩作業を行う場合、必ずしも、孔の中に差し込んだ破砕機のすべてについて圧力を同時に供給する必要はなく、例えば、図4に示す例においては、まず、仮想水平面H1に沿って形成した孔の中に差し込んだ破砕機に圧力を供給して水平方向に亀裂を生じさせ、次いで、仮想垂直面H2,H3に沿って形成した孔の中に差し込んだ破砕機に圧力を供給して垂直方向に亀裂を生じさせるようにしてもよい。
【0024】
但し、その反対に、まず垂直方向へ亀裂を生じさせ、次いで水平方向へ亀裂を生じさせた場合、水平方向に差し込んだ破砕機の拡開部に、付着基盤1の本体から分離された着生部分3の重量が作用し、拡開部が挟まれた状態となって、引き抜くことができなくなる可能性があるため、面毎に順次割岩作業を行う場合には、先に水平方向へ亀裂を生じさせ、次いで垂直方向へ亀裂が生じるような順序で行った方が良い。
【0025】
また、割岩作業には、必ずしも静的油圧破砕機を用いなくても良く、形成した孔の中に楔を打ち込んだり、動的な破砕機を用いて割岩作業を行うこともできる。
【0026】
割岩作業によって、付着基盤の本体から切り離したサンゴ及びその着生部分は、図6に示すようなハンガー8を用いて吊り上げて運搬する。このハンガー8は、図示されているように、略垂直状態に保持される矩形枠状の本体8aと、この本体8aの下端から略水平方向へ突出した二つの足部8b,8cと、本体8aの上端から略水平方向へ突出した二つの腕部8d,8eとによって構成されている。
【0027】
足部8b,8cは、平行に保持され、各先端部は先細り形状となっている。また、腕部8d,8eも平行に保持されており、各腕部8d,8eの下面には、索具(ワイヤ等)のずれ止め用凸部9が、それぞれ所定間隔をおいて複数個ずつ形成されている。
【0028】
このハンガー8を用いてサンゴ及びその着生部分を吊り上げようとする場合、まず、海上のクレーンから吊り下げたワイヤの下端を腕部8d,8eに掛けて、海中においてハンガー8を吊り、移設対象となるサンゴの近傍までハンガー8を移動させる。次に、割岩作業によって形成した、付着基盤とサンゴの着生部分との隙間に、足部8b,8cを、先端部から少しずつ差し込んでいく。そして、足部8b,8cを十分に差し込んだら、ワイヤを少しだけ巻き上げ、足部8b,8cの上にサンゴ及びその着生部分を保持させた状態でハンガー8を吊り上げ、移設先まで、そのまま海中を移動させる。
【0029】
尚、付着基盤から切り離したサンゴ及びその着生部分の下面側に鎖を巻き、この鎖にフックを掛け、サンゴ及びその着生部分をクレーンで吊り上げ、付着基盤近傍の海底の平坦な部分へ移動し、その後、図6に示すハンガー8を用いて吊り上げ、移設先までサンゴ及びその着生部分を移動させるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】サンゴ付着基盤1と、その上に着生しているサンゴ2(2a〜2c)の例を示す図。
【図2】本発明に係るサンゴの移設方法の説明図であって、付着基盤1からサンゴ2の着生部分3を切り離した状態を示す図。
【図3】本発明に係るサンゴの移設方法の説明図であって、想定カットライン4を画定する際の作業要領の説明図。
【図4】想定カットライン4の平面形状が三角形である場合において形成すべき孔の一例を示す図。
【図5】想定カットライン4の平面形状が四角形である場合における孔の形成方法の説明図。
【図6】本発明に係るサンゴの移設方法において使用するハンガー8の斜視図。
【符号の説明】
【0031】
1:サンゴ付着基盤、
2,2a〜2c:サンゴ、
3,3a〜3c:着生部分、
4,4a〜4c:想定カットライン、
5:仮想三角形、
6:仮想四角形、
7,7a〜7e:孔、
8:ハンガー、
8a:本体、
8b,8c:足部、
8d,8e:腕部、
9:ずれ止め用凸部、
B:根元部分、
C:中心、
E1〜E4:仮想テーパ面、
H1:仮想水平面、
H2,H3:仮想垂直面、
L1,L2:ライン、
M:天端面、
N:仮想底点、
T,T1〜T4:頂点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンゴ付着基盤の表面において、移設しようとするサンゴのみを取り囲むように想定カットラインを画定し、
前記想定カットラインの頂点、或いは、各辺の任意の位置からサンゴ付着基盤の内方へ向かって複数の孔をあけ、
前記孔のすべて、或いは、いくつかの孔の中に拡開手段を差し込み、孔の内径を拡げる方向へ圧力をかけて、所望の方向へ亀裂を生じさせることによって、前記サンゴ付着基盤の本体から、移設しようとするサンゴの着生部分のみを切り離し、
切り離したサンゴ及びその着生部分を吊り上げることを特徴とするサンゴ付着基盤の切り出し方法。
【請求項2】
水平な仮想三角形或いは仮想四角形のいずれかを垂直下方向に投影した場合において、サンゴ付着基盤の表面において現れるべき線図を、想定カットラインとすることを特徴とする、請求項1に記載のサンゴ付着基盤の切り出し方法。
【請求項3】
サンゴ付着基盤の本体から切り離したサンゴ及びその着生部分を、ハンガーを用いて吊り上げる方法であって、
前記ハンガーは、略垂直状態の本体と、この本体の下端から略水平方向へ突出させた足部と、本体の上端から略水平方向へ突出させた腕部と、によって構成され、
サンゴ付着基盤の本体とサンゴの着生部分との隙間に、前記足部を差し込み、当該足部の上にサンゴ及びその着生部分を保持させた状態で、前記腕部に掛けた索具を引き上げることによって前記ハンガーを吊り上げることを特徴とするサンゴの吊り上げ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−158218(P2006−158218A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−349935(P2004−349935)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000229243)株式会社テトラ (12)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【出願人】(594155975)極東建設株式会社 (9)
【Fターム(参考)】