説明

サーボプレス

【課題】サーボプレスの大容量化要請に応える。
【解決手段】複数台(2台)のスライド駆動機構20A、20Bを配置するとともに一方ギア23Aと他方ギア23Bとの噛合わせにより隣り合うスライド駆動機構20A、20Bを同期駆動可能に形成し、スライドモーション情報Jmに基づく回転方向切換指令に基づき一方サーボモータ31Aの発生トルクTma(Tga)と他方サーボモータの発生トルクTmb(Tgb)との大小関係を切換可能に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボモータを回転制御しつつスライド駆動機構を駆動してスライドを昇降可能に形成されたサーボプレスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来サーボプレス10Pを示す図7において、サーボモータ31のモータ軸32に連結されたモータギア33は、メインギア23と噛合う。このメインギア23はクランク軸24と同心で回転可能である。クランク軸24の一部に形成された偏心部26にはコンロッド27の上端部が回動可能に連結され、その下端部はスライド11に回動可能に連結されている。
【0003】
かくして、サーボモータ31を回転制御しつつスライド駆動機構20(24、26、27…クランク機構)を駆動すれば、スライド11を軸線(Z)方向に昇降運動させることができる。スライド11の最上位が上死点で、最下位が下死点である。
【0004】
このサーボプレス10Pは、連続運転される旧来プレス(同期モータ、クラッチ・ブレーキ、フライホイールを有する。)に比較して運転態様の選択自由性が広い。例えば、生産性を重視する場合には速度制御系を優先し、製品精度を重視する場合には位置制御系を優先した運転ができる。また、理論的に加圧力が無限大になってしまう下死点の直前においてサーボモータ31の回転方向を反転させることができる(特許文献1を参照)。つまり、スライド11を下死点通過させないことで、プレス加工中の加圧力制御が可能になる。さらには、途中でスライド11を一時停止(特許文献2を参照)させて干渉防止しあるいはモーション調整ができる。
【特許文献1】特開2003−181698号公報
【特許文献2】特開2005−21934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような優位性を有することから普及拡大が目覚しいが、さらなる大容量化要請には十二分に応えられてはいない。一つの要因は、サーボモータの入手困難性にある。一方向に連続回転するだけの上記の同期モータの場合とは大いに異なる。すなわち、サーボプレスに採用できるサーボモータ31には当然に優れたサーボ特性が求められるが、その特性を備える大容量サーボモータの開発が技術的かつ経済的に難しいからである。
【0006】
本発明の目的は、大容量化要請に応えられるサーボプレスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、複数のサーボモータを採用して容量不足を解消するとともに複数性によるバラツキに関しては機械的に完全同期駆動可能とし、併せて複数同期駆動により想定される騒音問題を一挙に解消できる構成である。
【0008】
すなわち、請求項1の発明に係るサーボプレスは、サーボモータを回転制御しつつスライド駆動機構を駆動してスライドをスライドモーション情報に基づき昇降可能に形成されたサーボプレスにおいて、前記スライド駆動機構を複数台配置するとともに一方スライド駆動機構側の一方サーボモータで回転される一方ギアと他方スライド駆動機構側の他方サーボモータで回転される他方ギアとを噛合わせることにより隣り合う両側のスライド駆動機構を同期駆動可能に形成し、前記スライドモーション情報に基づく回転方向切換指令が一方ギアを正方向に回転すべき旨の指令である場合は一方サーボモータの発生トルクを他方サーボモータの発生トルクに比較して大きい状態に切換可能でかつ一方ギアを逆方向に回転すべき旨の指令である場合には一方サーボモータの発生トルクを他方サーボモータの発生トルクに比較して小さい状態に切換可能に形成した、ことを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、スライド駆動機構は偶数台とされかつ隣り合う一方ギアと他方ギアとが直接噛合わされているサーボプレスであり、請求項3の発明は一方ギアおよび他方ギアは最終段のギアとされているサーボプレスである。また、請求項4の発明は、複数台の一方サーボモータで1台の一方ギアを回転させかつ複数台の他方サーボモータで1台の他方ギアを回転されるサーボプレスである。
【0010】
また、請求項5の発明は、サーボモータの発生トルクは、トルク指令値とゲインで決まりまたはトルク指令値とバイアス値との合計で決まるサーボプレスで、さらに請求項6の発明は、スライドモーション情報に基づく回転方向切換指令を入力として各サーボモータの発生トルクが自動的に調整されるサーボプレスである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、複数サーボモータの台数に比例的な大容量化を容易に達成できるとともに、実績のあるサーボモータを採用できるので円滑かつ安定した運転を担保できかつコスト低減ができる。しかも、複数点支持方式であるからスライド姿勢を安定保持できる。
【0012】
請求項2の発明によれば、隣り合うスライド駆動機構が対称運動されるから、ダイナミックバランスを向上できる。また、請求項3の発明によれば、回転運動を直線運動に変換するための最終段の回転運動体(ギア)同士を噛合わせているので、スライドの複数部位の同期駆動を正確に行なえかつスライド姿勢を一段と安定保持できる。
【0013】
請求項4の発明によれば、各ギアのそれぞれを当該各複数台のサーボモータで回転する構造であるから、1台のサーボモータの最大的容量以上のプレス大容量化を一段と容易に促進できる。
【0014】
請求項5の発明によれば、入力されるトルク指令値に対するゲインまたは(/および)バイアス値を設定変更すればよいので、モータ発生トルクの調整切換えが簡単に行なえる。また、請求項6の発明によれば、スライドモーション情報に基づく回転方向切換指令を入力として各サーボモータの発生トルクが自動的に大小調整切換えできるので、所定のタイミングでかつ一段と迅速で確実な切換を行なえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
本サーボプレス10は、図1〜図4に示す如く、複数台(2台)のスライド駆動機構20A、20Bを配置するとともに一方ギア23Aと他方ギア23Bとの噛合わせにより隣り合うスライド駆動機構20A、20Bを同期駆動可能に形成し、スライドモーション情報Jmに基づく回転方向切換指令に基づき一方サーボモータ31Aの発生トルクTma(Tga)と他方サーボモータ31Bの発生トルクTmb(Tgb)との大小関係を切換可能に形成されている。
【0017】
確認的に、このサーボプレス10は、サーボモータ31を回転制御しつつスライド駆動機構20を駆動してスライド11をスライドモーション情報Jmに基づき昇降可能に形成されている。
【0018】
図1において、サーボプレス10は、1つのスライド11を複数(2)台のスライド駆動機構20A、20Bで昇降する構造である。スライド11は、スライドギブ12にガイドされ下方のボルスタ17に離隔接近される。スライド11の下面に上型が、ボルスタ17の上面に下型がセットされている。
【0019】
スライド駆動機構20は、この実施の形態では、従来例(図7)の場合と同様なクランク機構(クランク軸24、偏心部26、コンロッド27)から構成されている。但し、図1では擬似的に簡易表現してある。なお、スライド駆動機構は、これに限定されない。例えば、リンク機構や直動ネジ構造である。
【0020】
1対のスライド駆動機構20A、20Bは、図1に示す軸線Zを中心として左右方向に対称かつ隣り合うように配置され、両者20A、20B(メインギア23A、23B)は噛合わされている。この実施の形態では、各メインギア(23A、23B)のピッチ円直径および歯数は同一とされている。つまり、モジュールが同一である。
【0021】
かかるメインギア23A、23Bは、両者20A、20Bを同期駆動させるために機械的に噛合わされるので、サーボモータ31の回転運動をスライド11の直線運動に変換する機構(20等)中の最終段のギアとされる。
【0022】
以下の説明では、図1に示す軸線Zを中心としてその左(一方)側に配置された構成要素には符号(A)を付して現し、右(他方)側に配置された構成要素には符号(B)を付して現す。そして、左側のメインギア23を一方ギア23A、右側のメインギア23を他方ギア23Bと定義する。
【0023】
なお、一方ギア23A、他方ギア23Bは、上記した最終段のギアである限りにおいてメインギアと呼称されるギアに限定されない。
【0024】
また、この実施の形態では、一方ギア23Aと他方ギア23Bとは、図1に示すようにアイドルギアを介することなく直接に噛合わされている。したがって、図4に示すごとく、一方ギア23Aの回転方向と他方ギア23Bの回転方向とは逆になる。なお、ギア23に関して、左回りを正方向としかつ左回りを逆方向として説明する。
【0025】
すなわち、一方スライド駆動機構20Aと他方スライド駆動機構20Bとを、図1に示す軸線Zを中心として左右対称に運動させることができる。例えば、コンロッド27A、27Bの姿勢は、軸線Zを中心とする対称(面対称)として時々刻々に変化する。つまり、動的バランスを向上でき、スライド11の水平姿勢を正確に維持できる。よって、製品精度を上げられ、振動や騒音の少ない安定運転ができ、機器寿命も延びる。
【0026】
この左右対称運動の観点からして、スライド駆動機構20の設置台数は複数でかつ偶数であることが好ましい。詳細は第2の実施の形態で説明する。
【0027】
図1、図2において、一方ギア23Aは、一方サーボモータ31A(モータ軸32A)で回転されるモータギア33Aを介して回転駆動される。他方ギア23Bも、他方サーボモータ31B(モータ軸32B)で回転されるモータギア33Bを介して回転駆動される。減速機等を付設する場合もある。
【0028】
サーボモータ31A、31Bは、AC(交流)サーボモータからなり、可逆回転(正方向回転,逆方向回転)駆動制御可能である。サーボモータ31(31A、31B)の各相U,V,Wのモータ駆動電流に対応する各相電流信号Ui,Vi,Wiは、図2に示す電流検出部73によって検出される。なお、サーボモータ31A、31Bの種類や型式は限定されないものとする。
【0029】
サーボモータ31(31A、31B)には、エンコーダ35(35A、35B)が連結されている。このエンコーダ35は、光電式でサーボモータ31の回転角度相当信号θ(PT)を出力する。図2の速度検出器36は、この回転角度相当信号θからフィードバック用速度信号FSを生成する。この実施形態では、回転角度相当信号θ(パルス信号)をスライド11の上下方向位置PT(パルス信号)に変換してフィードバック用位置信号FPTを出力する信号変換器(図示省略)を含むものとされている。なお、エンコーダ35A,35Bはクランク軸24A、24B側に設けるようにしても実施することができる。
【0030】
図2において、スライド駆動制御装置としては、2台のスライド駆動機構20(20A、20B)に共通の駆動制御指令部50と、スライド駆動機構20ごとに設けられた1対の位置速度制御部60およびモータ駆動制御部70とから形成されている。これら(50,60,70)と接続されかつ具体的プレス全体運転のために必要なプレス運転駆動制御部については、図示省略した。
【0031】
駆動制御指令部50は、モーション設定器51,スライドモーション情報選択器52およびモーション指令部53を含み、位置速度制御部60にスライドモーション(モーションパターン)情報Jmに基づくスライド位置信号(モーション指令信号)PTsを出力する。
【0032】
スライドモーション情報選択器52を用いて設定記憶された複数のモーションパターン(経過時間t−スライド位置PT乃至クランク角度θ)の中から希望のモーションパターン(t−PTカーブ)を選択する。選択されたモーションパターン(t−PTカーブ)は、設定モータ回転速度(乃至SPM…スライド速度)[いわゆるスライドストローク数(SPM)]とともにモーション指令部53に出力される。このモーション指令部53は、位置パルスの払出し方式構造で、選択されたモーションパターン(t−PTカーブ)に則り位置指令パルスPTsを出力する。
【0033】
位置速度制御部60(60A、60B)は、位置比較器61,位置制御部62,速度比較器63,速度制御部64を含み、電流制御部71に電流指令信号(Si)を出力可能に形成されている。
【0034】
位置比較器61は、スライド位置信号(目標値信号)PTsとエンコーダ35で検出された実際のスライド位置信号FPT(フィードバック信号)とを比較して、位置偏差信号△PTを生成出力する。位置制御部62は、位置偏差信号△PTを累積しかつ位置ループゲインを乗じて速度信号Spを生成出力する。速度比較器63は、この速度信号Spと速度信号(速度フィードバック信号)FSとを比較して、速度偏差信号△Sを生成出力する。
【0035】
速度制御部64は、入力された速度偏差信号△Sに速度ループゲインを乗じて求めた電流指令信号Siを電流制御部71に生成出力する。この電流指令信号Siは、実質的にはトルク指令信号(St)である。
【0036】
モータ駆動制御部70は、電流制御部71とPWM制御部(ドライブ部)72とから構成されている。
【0037】
電流制御部71は、各相電流制御部(図示省略)からなり、例えばU相電流制御部は電流指令信号(トルク信号St相当)SiとU相信号Upとを乗算してU相目標電流信号Usiを生成し、引続きU相目標電流信号Usiと実際のU相電流信号Uiとを比較して電流偏差信号(U相電流偏差信号)Siuを生成出力する。他のV,W相電流制御部でも、V,W相電流偏差信号Siv,Siwが生成出力される。
【0038】
この電流制御部71に入力される相信号Up,Vp,Wpは、相信号生成部76で生成される。相モータ電流検出器73は、各相電流(値)信号Ui,Vi,Wiを検出して電流制御部71へフィードバックする。
【0039】
PWM制御部(ドライブ部)72は、いずれも図示しないパルス幅変調回路とアイソレーション回路とドライバーとから成る。すなわち、電流制御部71から出力される各相の電流偏差信号Siu,Siv,SiwからPWM変調され、PWM信号Spwmが生成される。
【0040】
PWM信号Spwmのパルス信号幅(Wp)は、点弧信号(+U点弧信号あるいは−U点弧信号)の時間幅Wpで決まるが、高負荷(例えばSiuが大電流)の場合は長く、低負荷の場合は短い。
【0041】
ドライブ部(72)は、各相用の各1対のトランジスタ,ダイオードを含むスイッチング回路からなり、各PWM信号Spwm(例えば、+U,−U)でスイッチング(ON/OFF)制御され、各相モータ駆動電流U,V,Wを出力することができる。
【0042】
ここにおいて、図2の各速度制御部64と当該各電流制御部71との間に各ゲイン調整器65(65A、65B)と各比較器67(67A、67B)とを設けかつ各比較器67(67A、67B)に共通のバイアス設定器66を接続するとともに、共通のトルク切換指令部55を設け、スライドモーション情報Jmに基づき一方サーボモータ31Aの発生トルクTmaと他方サーボモータ31Bの発生トルクTmbとの大小関係を自動的に切換可能に形成してある。
【0043】
トルク切換指令部55は、スライドモーション情報Jmおよびスライド位置信号θ(PT)に基づき、ゲイン調整信号Sgn(Sgna、Sgnb)およびトルク切換指令信号Bchgを生成出力可能に形成されている。なお、ゲイン調整信号Sgn(Sgna、Sgnb)およびトルク切換指令信号Bchgの何れか一方でも上記発生トルクの大小関係切換を実施することはできる。
【0044】
この実施の形態では、ゲイン調整を主としてバイアス調整を副としているので、図2において、バイアス調整信号Sb(Sba、Sbb)については2点鎖線で示してある。
【0045】
詳しくは、トルク切換指令部55は、スライドモーション情報(モーションパターン)Jmを読込み(図3のST11)、スライド位置[信号θ(PT)]を検出(ST12)し、これら情報を基にスライド11の移動方向切換え要求、つまりサーボモータ31(結果的にはギア23)の回転方向切換え要求があるか否かを判別する(ST13)。
【0046】
回転方向切換要求(回転方向切換指令)がある場合(ST13でYES)は、引続き、一方ギア23Aを正方向(左回り)に回転すべき旨の指令であるのか、逆方向(右回り)に回転すべき旨の指令であるのかを判別する(ST14)。
【0047】
一方ギア23Aを正方向(左回り)に回転すべき旨の指令である場合(ST14でNO)、つまり図4(B)の逆方向回転(右回り…現在状態)から図4(A)の正方向回転(左回り…未来状態)に切換える旨の指令である場合には、一方サーボモータ31Aの発生トルクTmaを他方サーボモータ31Bの発生トルクTmbに比較して大きい状態に切換えるためのゲイン調整信号Sgn(Sgna>Sgnb)を出力する。
【0048】
なお、サーボモータ31の発生トルクTmを比較的に大きい(小さい)状態にするとは、合目的的には、当該ギア23の駆動トルクTgを比較的に大きい(小さい)状態にすることを意味する。具体的応用例については、第3の実施の形態において説明する。
【0049】
ゲイン調整信号Sgn(Sgna>Sgnb)が出力されると、ゲイン調整器65は、速度制御部64から入力される電流指令信号Siに対するゲインを調整する。ゲイン調整後の電流指令信号(トルク指令信号)Sigのレベルは、ゲイン調整器65A側が大きく、ゲイン調整器65B側が小さくなる。つまり、一方サーボモータ31Aの発生トルクTma(一方ギア23Aの駆動トルクTga)を大きく[図4(B)の細線→図4(A)の太線]、他方サーボモータ31Bの発生トルクTmb(他方ギア23Bの駆動トルクTga)を小さく[図4(B)の太線→図4(A)の細線]することができる(ST17、ST18)。
【0050】
かくして、正方向回転中でかつ噛合状態(太線丸印を付してある。)にある一方ギヤ23Aの歯(歯面23A1)を、逆方向回転中の他方ギヤ23Bの歯(歯面23B1)に常時押圧(接触)させることができる。つまり、連続運転中や加減速時における両歯面23A1、23B1の当接離反の繰り返しに起因する騒音や振動の発生を防止することができる。
【0051】
因みに、電流(トルク)指令信号Si(St)は、速度制御部64において速度偏差信号△Sに速度ループゲインを乗じ生成される。したがって、サーボモータ31の発生トルクTm(ギア23の駆動トルクTg)を大きく(小さく)するという表現を、サーボモータ31の回転速度(ギア23の回転速度)を大きく(小さく)するという表現に代えることもでき得る。つまり、実質的に同じである限りにおいて、後者表現をする場合でも本発明は適応される。発明目的を達成できるからである。
【0052】
一方ギア23Aを逆方向(右回り)に回転すべき旨の指令である場合(ST14でYES)、つまり正方向回転から逆方向回転に切換える場合には、一方サーボモータ31Aの発生トルクTmaを他方サーボモータ31Bの発生トルクTmbに比較して小さい状態に切換えるためのゲイン調整信号Sgn(Sgna<Sgnb)を出力する。
【0053】
今度は、ゲイン調整後の電流指令信号(トルク指令信号)Sigのレベルは、ゲイン調整器65A側が小さく、ゲイン調整器65B側が大きくなる。つまり、一方サーボモータ31Aの発生トルクTma(一方ギア23Aの駆動トルクTga)を小さく[図4(A)の太線→図4(B)の細線]、他方サーボモータ31Bの発生トルクTmb(他方ギア23Bの駆動トルクTga)を大きく[図4(A)の細線→図4(B)の太線]することができる(ST15、ST16)。この場合にも、騒音や振動の発生を防止することができる。
【0054】
なお、ゲイン調整信号Sgnは、双方調整方式(Sgna<Sgnb、またはSgna<Sgnb)として説明したが、片側調整方式としても実施することができる。片側調整方式とは、片側のゲインを大きく(または、小さく)し、他の片側は通常ゲインで一定(固定化)にしておく方法である。
【0055】
また、トルク切換指令部55からバイアス指定信号Bchgを出力し、バイアス設定器66に予め設定されているバイアス信号(Sba、Sbb)を当該各比較器67A,67Bに入力して、電流指令信号Si(または、ゲイン調整後の電流指令信号Sig)を増減幅して、一方サーボモータ31Aの発生トルクTmaを他方サーボモータ31Bの発生トルクTmbに比較して大きい(小さい)状態に切換えることもできる。このバイアス調整と上記したゲイン調整との組み合わせで実施する場合は、電気的・機械的な条件に対する適応性を一段と拡大できる。
【0056】
なお、バイアス値の合計が零(0)になるように設定するのが好ましい。2つのバイアス信号(Sba、Sbb)の場合は、例えば(+Sba)と(−Sbb)とすればよい。つまり、バイアス設定器66には、1つのバイアス値(|Sba|=|Sbb|)を設定しておけばよいので、取り扱いが簡単である。
【0057】
かかる実施の形態に係るサーボプレス10の動作を説明する。
【0058】
図1において、一方ギヤ23Aを正方向(左回り)に回転させてスライド11を下降[図4(A)を参照]させ、スライド11が下死点に至る直前に逆方向(右回り)に回転切換えしてスライド11を上昇[図4(B)を参照]させ、スライド位置が図1に示す初期位置に到達したら再び一方ギヤ23Aを正方向(左回り)に回転させる。以下これら工程を繰り返すために必要なスライドモーション情報Jmが選択された場合を考える。
【0059】
モーション指令部53は、選択されたスライドモーション(パターン)情報Jmに従い生成した信号PTsを各スライド駆動機構20A,20B用の位置速度制御部60A、60Bに出力する。位置速度制御部60A(60B)は、エンコーダ35A(35B)からの信号(FPT,θ)を利用して電流指令信号Sig(またはSib)をモータ駆動制御部70A(70B)に出力する。モータ駆動制御部70A(70B)は、一方(他方)サーボモータ31A(31B)を回転駆動する。
【0060】
図4(A)を参照し、この際の一方サーボモータ31A(モータギア33A)は右回り回転で、一方ギア23Aは左回り(正方向)回転である。一方サーボモータ31A(一方ギア23A)の発生トルクTma(Tga)は太線で示すように比較的に大きい。対する他方サーボモータ31B(モータギア33B)は左回り回転で、他方ギア23Bは右回り(逆方向)回転である。他方サーボモータ31B(他方ギア23B)の発生トルクTmb(Tgb)は細線で示すように比較的に小さい。図3のST17、ST18に対応する。
【0061】
かくして、各サーボモータ31(モータギア33)は同一仕様でかつ同一の指令値(スライド位置信号PTs)を目標とし、同一仕様の駆動制御機器等(60、70、35等)で回転制御されるとともに、図4に示すように対応する最終段の同一仕様のギア(23A、23B)同士が噛合っているので、隣り合うスライド駆動機構20A、20Bを同期駆動することができる。スライド11の水平姿勢を正確に担保しつつ所定の速度で下降することができる。
【0062】
この際、一方ギア23Aの駆動トルクTga(モータ発生トルクTmaに対応する。)が他方ギア23Bの駆動トルクTgb(モータ発生トルクTmbに対応する。)よりも大きい状態であるから、同一速度で回転しつつ一方ギア23A(歯面23A1)が他方ギア23B(歯面23B1)を押圧して常時接触状態とする。両歯面23A1,23B1の接触離反や衝突が生じないので騒音がなく、スライド11の正確な位置移動を行なえる。
【0063】
さて、演算素子、メモリ等を含むトルク切換指令部55は、スライドモーション情報Jmの一部(必要部分)を読込み(図3のST11)、スライド位置[θ(PT)]を検出する(ST12)。この実施の形態では、一方エンコーダ35Aの信号θ(PT)を利用して検出しているが、両者35A、35Bの両信号を利用(例えば、平均化)して検出するようにしてもよい。
【0064】
次に、トルク切換指令部55は、回転方向切換要求があるか否かを判別する(ST13)。この実施の形態ではスライド11の下降中は切換要求がない(ST13でNO)が、下死点手前になると回転方向切換要求有りと判別する(ST13でYES)。現在状態が正方向回転であるから未来状態は逆方向回転への切換えと判別(ST14でYES)する。
【0065】
引続き、トルク切換指令部55は、ゲイン調整信号Sgn(Sgna、Sgnb)を生成出力する(ST15、ST16)。ゲイン調整器65Aにはゲイン下げ信号(Sgna)、ゲイン調整器65Bにはゲイン上げ信号(Sgnb)が入力される。
【0066】
各ゲイン調整器65への出力タイミングは切換要求有無判別時ではない。この実施形態では、モーション指令部53の指令に基づく下降中において、スライド移動方向反転位置に向けてスライド速度(サーボモータ回転速度)が減速され、スライド11が所定の反転位置(下死点の直前位置)で一時停止され、その後に上昇に向けて加速され始める一連の工程に着目し、一時停止さている期間中にゲイン調整信号Sgn(Sgna、Sgnb)を出力するように形成してある。
【0067】
したがって、スライド11が上昇する際は、図4(B)に示すように、他方ギア23Bの駆動トルクTgbが一方ギア23Aの駆動トルクTgaよりも大きい状態となっているので、同一速度で回転しつつ他方ギア23B(歯面23B1)が一方ギア23A(歯面23A1)を押圧して常時接触状態とする。このスライド上昇中の場合も、両歯面23A1,23B1の接触離反や衝突が生じない。
【0068】
スライド11が図1に示す初期位置に戻ると、トルク切換指令部55は、図4(B)の状態から図4(A)の状態になるように切換える(ST13でYES、ST14でNO、ST17、ST18)。以下、上記の各切換動作を繰り返す。
【0069】
しかして、この実施の形態によれば、隣り合う一方スライド駆動機構側の一方ギア23Aと他方スライド駆動機構側の他方ギア23Bとを噛合わせて両スライド駆動機構20A、20Bを同期駆動可能に形成し、一方ギアの正方向回転中は一方サーボモータ31Aの発生トルクTma(Tga)を他方サーボモータ31Bの発生トルクTmb(Tgb)に比較して大きい状態に切換可能でかつ一方ギア23Aの逆方向回転中は一方サーボモータ31Aの発生トルクを他方サーボモータ31Bの発生トルクに比較して小さい状態に切換調整可能に形成されているので、サーボモータ31の台数に比例的な大容量化を容易に達成できるとともに、実績のあるサーボモータ31を採用できるので円滑かつ安定した運転を担保できかつコスト低減ができる。しかも、複数点支持方式であるからスライド11の姿勢を安定保持できる。
【0070】
従来例(図7)の場合に比較すれば、サーボモータ31の台数(2台)に比例的な容量2倍化を容易に達成することができる。
【0071】
ここに、例えば、下死点直前でスライド11(サーボモータ31)の移動方向(回転方向)を反転させる先提案サーボプレス(特許文献1を参照)の大容量・大型化を容易に促進できかつ騒音の少ない安定運転を担保できる。つまり、本発明を導入させることで従来プレス(図7)の一層の普及拡大を図れる。
【0072】
また、回転運動を直線運動に変換するための最終段の回転運動体(一方ギア23A、他方ギア23B)同士を噛合わせるので、スライド11の複数部位の同期駆動を正確に行なえかつスライド姿勢を一段と安定保持できる。
【0073】
また、入力されるトルク指令値(SiまたはSig)に対するゲインまたはバイアス値を設定変更するだけで、サーボモータ31の発生トルクTmの調整変更切換を簡単に行なえる。
【0074】
さらに、スライドモーション情報Jmに基づく回転方向切換指令を入力として各サーボモータ31の回転方向および発生トルクTmが自動的に切換可能に形成されているので、所定のタイミングでかつ一段と迅速で確実な切換を行なえる。
【0075】
(第2の実施形態)
この第2の実施形態は、図5に示される。基本的構成は、第1の実施形態(図1)における複数(2)台のスライド駆動機構20を含む構造を2組設けかつ各組[(20A,20B)、(20C,20D)]を隣接させた構成である。
【0076】
図5において、左から1組目のスライド駆動機構(20A、20B)の一方ギア23Aと他方ギア23Bとを噛合わせ、2組目のスライド駆動機構(20C、20D)の一方ギア23Cと他方ギア23Dとを噛合わせ、さらにギア23Bとギア23Cとを噛合わせてある。
【0077】
すなわち、偶数(4台)のスライド駆動機構20A〜20Dを設けるとともに各組を構成する2台のスライド駆動機構(20A、20B)、(20C、20D)を対称配置し、さらに各組を対称配置した構成である。いずれも同一(共通)のスライド11を昇降させる。また、隣り合う各ギア23の噛合わせは、いずれも直接噛合わせである。
【0078】
一方ギア23Aが正方向(左回り)回転の場合、他方ギア23Bは逆方向(右回り)回転で、3番目のギア23Cが正方向(左回り)回転で、第4番目のギア23Dは逆方向(右回り)回転である。
【0079】
そして、各ギア23の駆動トルクTg(つまり、サーボモータ31の発生トルクTmに対応する。)は、図5で左から右に向かう順番で小さくなるように形成してある。Tga(Tma)>Tgb(Tmb)>Tgc(Tmc)>Tgd(Tmd)である。
【0080】
もとより、一方ギア23Aが逆方向(右回り)回転の場合は、各ギア23B,23C、23Dの回転方向は上記場合とはそれぞれに反対方向に回転するように切換えられる。また、トルクは、Tga(Tma)<Tgb(Tmb)<Tgc(Tmc)<Tgd(Tmd)になるように切換えられる。
【0081】
しかして、この実施の形態によれば、スライド駆動機構20が偶数(4)台とされかつ隣り合う一方ギア23と他方ギア23とは直接噛合わされているので、隣り合うスライド駆動機構(20A、20B)、(20C、20D)を対称運動させられるから、全体としてのダイナミックバランスを向上できる。
【0082】
第1の実施形態の場合に比較して容量2倍化、従来例(図7)の場合に比較して容量4倍化を達成できる。
【0083】
(第3の実施形態)
この第3の実施形態は、図6に示される。基本的構成は、第1の実施形態(図1)の場合と同様であるが、1つのギア23を複数(2)台のサーボモータ31で回転駆動させるものである。
【0084】
図6において、一方ギア23Aは2つの一方モータギア33A1、33A2(図示省略した一方サーボモータ31A1、31A2)で駆動され、他方ギア23Bも2つの他方モータギア33B1、33B2(図示省略した他方サーボモータ31B1、31B2)で駆動される。
【0085】
第2の実施形態の場合と同様に、駆動指令部50は共通であるが、位置速度制御部60、モータ駆動制御部70等はサーボモータ31の台数(4台)分だけ設けてある。
【0086】
ここに、一方ギア23Aと他方ギア23Bは第1の実施形態の場合と同様に直接噛合わされているので、歯面同士の常時接触状態保持を達成するためには、一方ギア23の駆動トルクTgaと他方ギア23Bの駆動トルクTgbの大小関係を第1の実施形態の場合(Tga>Tgb、またはTga<Tgb)と同じ状態としなければならない。
【0087】
つまり、サーボモータ31の発生トルクTmを大きい(小さい)状態にするとは、当該モータギア33が噛合うギア23の駆動トルクTgを大きい(小さい)状態にすることを意味する。すなわち、複数台のサーボモータ31で1つのギア23を駆動する構造では、サーボモータ31の発生トルクを各サーボモータ31の発生トルクの合計(=ギア23の駆動トルク)をもって評価される。
【0088】
しかして、この実施形態によれば、各ギア23を各複数(2)台のサーボモータ31で回転させる構成であるから、この第3の実施形態と第2の実施の形態とを組み合わせれば、従来プレス(図7)の場合に比較して容量8倍化も簡単に構築することがでる。
【0089】
他方において、各ギヤ23の駆動トルクTgが一定の場合には、各サーボモータ31の容量を小容量に変更きるから、コスト低減化や放熱対策の容易化を図れる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、騒音のない安定したプレス運転ができる大容量のサーボプレスの確立に極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の第1の実施形態を説明するための概略図である。
【図2】同じく、スライド駆動制御装置を説明するためのブロック図である。
【図3】同じく、トルク切換動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】同じく、回転方向切換に対応させたトルク切換動作とギア接触関係を説明するための図である。
【図5】本発明の第2の実施形態を説明するための概略図である。
【図6】本発明の第3の実施形態を説明するための概略図である。
【図7】従来例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0092】
10 サーボプレス
11 スライド
20 スライド駆動機構
23 メインギア(23A 一方ギア、23B 他方ギア)
31 サーボモータ
33 モータギア
35 エンコーダ
50 駆動制御指令部
53 モーション指令部
55 トルク切換指令部
60 位置速度制御部
65 ゲイン調整部
66 バイアス設定部
70 モータ駆動制御部
71 電流制御部
73 電流検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータを回転制御しつつスライド駆動機構を駆動してスライドをスライドモーション情報に基づき昇降可能に形成されたサーボプレスにおいて、
前記スライド駆動機構を複数台配置するとともに一方スライド駆動機構側の一方サーボモータで回転される一方ギアと他方スライド駆動機構側の他方サーボモータで回転される他方ギアとを噛合わせることにより隣り合う両側のスライド駆動機構を同期駆動可能に形成し、
前記スライドモーション情報に基づく回転方向切換指令が一方ギアを正方向に回転すべき旨の指令である場合は一方サーボモータの発生トルクを他方サーボモータの発生トルクに比較して大きい状態に切換可能でかつ一方ギアを逆方向に回転すべき旨の指令である場合には一方サーボモータの発生トルクを他方サーボモータの発生トルクに比較して小さい状態に切換可能に形成した、ことを特徴とするサーボプレス。
【請求項2】
前記スライド駆動機構は偶数台とされかつ隣り合う一方ギアと他方ギアとが直接噛合わされている、請求項1記載のサーボプレス。
【請求項3】
前記一方ギアおよび他方ギアは、当該各サーボモータと当該各スライド駆動機構との間に介在される最終段のギアである、請求項1または2記載のサーボプレス。
【請求項4】
前記一方ギアは複数台の一方サーボモータで回転されかつ前記他方ギアは複数台の他方サーボモータで回転される、請求項1〜3までのいずれか1項に記載されたサーボプレス。
【請求項5】
前記サーボモータの発生トルクは、入力されるトルク指令値とこれに対するゲインでまたはトルク指令値とこれに付加されるバイアス値との合計で決まる、請求項1〜4までのいずれか1項に記載されたサーボプレス。
【請求項6】
前記スライドモーション情報に基づく回転方向切換指令を入力として前記一方サーボモータの発生トルクと前記他方サーボモータの発生トルクとが自動的に調整される、請求項5記載のサーボプレス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−36207(P2010−36207A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200891(P2008−200891)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】