説明

シアン含有水の処理方法及び処理装置

【課題】安全性の高い薬剤を用いて、煩雑な薬注管理や高価な設備を必要とすることなく、シアン含有水中の遊離シアンのみならず難分解性のシアノ錯体をも効率的に酸化分解除去する。
【解決手段】シアン含有水に、過酢酸及び/又は過酢酸塩を添加する。好ましくはシアン含有水に含まれる金属成分を固液分離した後、過酢酸及び/又は過酢酸塩を添加する。シアン含有水に過酢酸及び/又は過酢酸塩を添加することにより、他の薬剤を併用することなく、シアン含有水中の全シアン成分を効率的に酸化分解除去できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン含有水の処理方法及び処理装置に関するものであり、詳しくは、シアン含有水中の遊離シアンのみならず、各種のシアノ錯体をも効率的に酸化分解することができるシアン含有水の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
銑鉄製造に用いられる高炉から排出されるガス(高炉ガス)は、多量の粉塵と炉内での反応により生じた各種反応ガスを含むことから、湿式集塵器を通して除塵した後、有用なガスをガスホルダーに回収して再利用する方式が一般に採用されている。
【0003】
湿式集塵器で除塵に用いられた水、すなわち高炉集塵水には、鉄鉱石、コークス及び石灰石などの製銑原料に由来する微粉(ダスト)やカルシウム、鉄、亜鉛及びマグネシウムなどの塩類が溶解・懸濁している。
【0004】
高炉集塵水に含まれる溶解・懸濁物のうち、水に溶解しないダストについては、凝集剤添加により凝集処理され、シックナーなどの沈殿槽で沈殿除去されることが多い。また、水に溶解している塩類については、高炉集塵水のpHをアルカリ性に調整して水酸化物として析出させ、ダストと共に凝集沈殿処理されることがある。通常、このような凝集沈殿処理水は、その一部又は全部がガス洗浄水として湿式集塵器に循環されるが、高炉集塵水中には、休風時および炉内温度が大きく変化する際等に、ガス中にシアンが発生してこれが水中に取り込まれ、シアン含有水となる。
【0005】
一方、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場、金属表面処理工場等からも、シアンを含有する廃水が排出されるため、これを処理する必要がある。
【0006】
シアン含有廃水の処理方法としては、従来、次のような方法があるが、いずれも以下のような欠点がある。
【0007】
(1) ホルムアルデヒド法:ホルムアルデヒドと亜硫酸水素ナトリウムを添加してシアンを加水分解する方法(例えば特許文献1)。
ホルムアルデヒドは発がん性物質であるため、ホルムアルデヒドを用いる処理は好ましくない。しかも、ホルムアルデヒドを用いた場合、遊離シアン(シアン化物イオン)の加水分解にはある程度の効果がみられるものの、シアノ錯体を加水分解することはできないものと考えられている。更に、JIS K0102に記載されるように、全シアンの分析において、負の誤差を与える場合があり、シアンの分解効果について不明な部分もある。
【0008】
(2) アルカリ塩素法:シアンにアルカリ及び遊離塩素を反応させることにより酸化分解する方法。
この方法は、遊離シアン主体の廃水の処理には有効であるが、鉄シアノ錯体のような難分解性のシアノ錯体については処理することができない。また、2段階に分けてpHと酸化還元電位を設定値に調整する必要があり、水質管理、薬注管理が煩雑である。
(3) 紺青法:Fe、Ni、Co等の安定なシアノ錯体と鉄塩との反応により難溶性の塩を生成させる方法。
この方法は遊離シアンについては処理することができず、また、pH調整が必要で薬注管理が煩雑な上に、シアン含有汚泥が発生するため、沈殿分離のためのスペースと費用を要する。
【0009】
(4) 上記アルカリ塩素法と紺青法との組み合わせ。
殆どのシアン化合物に有効であるが、pH、酸化還元電位の調整など薬注設備費が嵩み、また、水質管理、薬注管理が煩雑である上に、シアン含有汚泥が発生するため、沈殿分離のためのスペースと費用を要する。
【0010】
(5) 全シアン法(還元銅塩法):還元剤の存在下に銅塩を添加して、各種シアン化合物との難溶性塩を析出させて沈殿分離する方法(例えば特許文献2)。
この方法は、全てのシアン化合物の処理に有効であるが、薬注管理に手間を要し、薬注設備費が嵩み、また、シアン含有汚泥が発生するため、沈殿分離のためのスペースと費用を要する。
【0011】
(6) アルカリ紺青法:2価銅イオンとフェロシアンとの反応により難溶性塩を生成させる方法。この際に、第一鉄塩で溶存酸素を分解してフェリシアンへの酸化を防止する。
この方法は、殆どのシアン化合物に有効であるが、薬注管理が煩雑であり、薬注設備費が嵩む上に、シアン含有汚泥が発生するため、沈殿分離のためのスペースと費用を要する。
【0012】
(7) 熱加水分解法:圧力容器で加熱保持することによりシアン化合物をアンモニアとギ酸塩に加水分解する方法。
この方法は殆どのシアン化合物に有効であるが、加熱加圧設備費用が高くつき、また第1種圧力容器の適用を受けるため、実用上制約も大きい。
【0013】
なお、過酢酸及び過酢酸塩は、COD含有廃水等の酸化処理剤として知られている(例えば特許文献3)。また、シアン化合物含有廃水を、活性炭、鉄塩及び過酸化水素を用いて処理するに当たり、過酸化水素に、他の酸化剤として過酢酸や過酢酸塩を併用し得ることが記載されたものもある(特許文献4。ただし、この特許文献4では、これらの他の酸化剤を併用せず過酸化水素単独で用いることが好ましいとされている。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−26496号公報
【特許文献2】特公平2−48315号公報
【特許文献3】特開2008−194609号公報
【特許文献4】特開2004−74087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来、シアン含有廃水の処理方法としては、多種多様な方法が提案されているが、いずれも、ホルムアルデヒドのように有害物質を必要とする;複数の薬剤タンクや混合タンク、注入設備等を必要とし、薬注設備費や処理設備費が高くつく;pH調整等、薬注管理や水質管理に煩雑な手間を必要とする;全シアン成分(全てのシアン化合物、即ち、遊離シアンであるシアン化物イオンとシアノ錯体の双方)を分解除去する技術がない;全シアン成分を処理できる技術では、シアン含有汚泥が発生するため、沈殿分離のための設備に広いスペースと、そのための莫大な費用と手間が必要となる;といった問題がある。
【0016】
なお、過酢酸や過酢酸塩は、廃水の酸化処理剤として公知であり、シアン化合物の酸化分解の酸化助剤として用い得ることも知られているが、過酢酸或いは過酢酸塩単独でシアン含有水中の全シアン成分の酸化分解に適用することは行なわれていない。
即ち、従来、過酢酸或いは過酢酸塩のみで、他の薬剤を併用することなく、遊離シアンのみならず、シアノ錯体をも酸化分解するという認識は全く存在しない。
【0017】
本発明は上記従来の問題点を解決し、シアン含有水中の全シアン成分を、
・ 有害な物質を必要とすることなく、安全性の高い薬剤を用いて、
・ pH調整等、煩雑な水質管理を必要とすることなく、
・ 煩雑な薬注管理や高価な薬注設備を必要とすることなく、
・ 遊離シアンのみならず難分解性のシアノ錯体をも酸化分解することにより、
シアン含有汚泥を発生させず、従ってシアン含有汚泥の沈殿分離のための設備と費用
を必要とすることなく、
効率的に処理する方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、シアン含有水の全シアン成分を過酢酸及び/又は過酢酸塩のみで、他の薬剤を併用することなく効率的に酸化分解して除去することができることを見出した。
【0019】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0020】
[1] シアン含有水に含まれるシアン成分を酸化分解する方法において、シアン含有水に、過酢酸及び/又は過酢酸塩を添加することを特徴とするシアン含有水のシアン処理方法。
【0021】
[2] [1]において、前記シアン含有水に含まれる金属成分を固液分離した後、過酢酸及び/又は過酢酸塩を添加することを特徴とするシアン含有水のシアン処理方法。
【0022】
[3] [1]又は[2]において、前記過酢酸及び/又は過酢酸塩の添加量が前記シアン含有水中の全シアン成分に対して1〜1000重量倍であることを特徴とするシアン含有水のシアン処理方法。
【0023】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記シアン含有水が高炉集塵水であることを特徴とするシアン含有水のシアン処理方法。
【0024】
[5] シアン含有水に含まれるシアン成分を酸化分解する装置において、シアン含有水に過酢酸及び/又は過酢酸塩を添加する手段を備えることを特徴とするシアン含有水のシアン処理装置。
【0025】
[6] [5]において、前記シアン含有水中の金属成分を除去する固液分離手段と、固液分離手段からの分離水に過酢酸及び/又は過酢酸塩を添加する手段とを備えることを特徴とするシアン含有水のシアン処理装置。
【0026】
[7] [5]又は[6]において、前記シアン含有水が高炉集塵水であることを特徴とするシアン含有水のシアン処理装置。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、シアン含有水に、過酢酸及び/又は過酢酸塩(以下「過酢酸(塩)」と記載する。)を添加するのみで、シアン含有水中の全シアン成分、即ち、遊離シアンとシアノ錯体を効率的に酸化分解して除去することができる。
この方法は、
(1) 有害な物質を必要とすることなく、安全性の高い薬剤を用いて処理することが
できる。
(2) pH調整等、煩雑な水質管理が不要で、過酢酸(塩)の薬剤タンクと、注入設備
のみを設ければよく、煩雑な薬注管理や高価な薬注設備が不要である。
(3) 全シアン成分を酸化分解することができ、シアン含有汚泥の発生がないため、
シアン含有汚泥の沈殿分離のための設備と費用が不要である。
といった優れた効果を奏し、工業的に極めて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のシアン含有水のシアン処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0030】
本発明で処理対象とするシアン含有水としては、高炉集塵水の他、例えば次のようなものが挙げられる。
化学工場排水、石油工場排水、ガス工場排水、都市ガス製造工場排水、金属精錬工場排水、
メッキ工場排水、
クロメート処理などを行う金属表面処理工場排水、
コークス工場排水(コークスガス工場の石炭乾留時のガス液)、
石油・石炭熱分解プロセス排水、
写真工場排水、医薬品工場排水、貴金属鉱業排水
鍍金排水、鍍金用治具洗浄排水、エッチング排水、
鉄鋼排水、
金属表面処理工場排水、アンモニア合成工場排水等。
以下、シアン含有水のうち、高炉集塵水以外の上記のようなシアン含有水を「一般シアン含有排水」と称す場合がある。
【0031】
上記のような一般シアン含有排水中には、通常、遊離シアン、Ni、Ag、Fe、Cu、Zu、Cd等の金属のシアノ錯体が含有されている。
【0032】
これら一般シアン含有排水に対する本発明によるシアン成分の酸化分解処理は、好ましくは、沈殿槽又は凝集沈殿処理槽で固液分離されることによりシアン含有水中の金属成分が除去された分離水に対して施される。
即ち、前述の一般シアン含有排水のうち、メッキ工場排水等のシアン含有水中には、クロム、銅、鉄、ニッケル、亜鉛等の金属成分が含有されているが、これらの金属成分を含むシアン含有水に過酢酸(塩)を添加した場合、一部の金属成分を酸化してしまい、過酢酸(塩)の酸化力が消費され、全シアン成分を効率的に酸化分解することができない可能性がある。
【0033】
一方、高炉集塵水は、製鉄所の高炉ガスの湿式集塵器においてガス洗浄に用いられた高炉ガス洗浄廃水であり、通常、この廃水は、凝集沈殿処理された後、その一部又は全部がガス洗浄水として湿式集塵器に循環される。高炉集塵水中には、休風時および炉内温度が大きく変化する際等に、ガス中にシアンが発生し、集塵水中に取り込まれるため、遊離シアン、Fe、Zn等の金属のシアノ錯体が、全シアン濃度として、0.1〜100mg/L程度含有されている。
【0034】
このような高炉集塵水に対する本発明によるシアン成分の酸化分解処理は、好ましくは、湿式集塵器から排出され、凝集沈殿処理槽で凝集沈殿処理されることにより高炉集塵水中の金属成分が除去された分離水に対して施される。
即ち、前述の如く、高炉集塵水中には、懸濁物質(SS)として、Fe、Zn等の金属成分が含有されているが、これらの金属成分を含む高炉集塵水に過酢酸(塩)を添加した場合、シアン以外の物質を酸化してしまい、過酢酸(塩)の酸化力が消費され、全シアン成分を効率的に酸化分解することができない。
一方で、湿式集塵器からの高炉集塵水中には、これらの金属成分が0.1〜10重量%程度含まれており、通常高炉集塵水の処理設備には、これらの金属成分の凝集沈殿槽が設けられているため、本発明による酸化処理は、このような凝集処理槽で金属成分等が固液分離された分離水に対して行うことが好ましい。
【0035】
なお、高炉集塵水中の金属成分は、Fe、Zn等であるため、凝集処理を行わず、単なる沈殿槽における固液分離であっても十分に除去することができるため、凝集沈殿槽の代りに沈殿槽が設けられている高炉集塵水の処理設備であれば、この沈殿層の分離水に対して本発明を適用すればよい。
【0036】
このようにして、過酢酸(塩)の添加に先立ち、高炉集塵水中の金属成分を除去することにより、高炉集塵水中の金属成分含有量を懸濁物質(SS)濃度として100mg/L以下に低減しておくことが好ましい。
【0037】
ところで、高炉では、その休風時と炉内温度が大きく変化する時等にシアン成分が発生し、発生したシアン成分を含むガスが高炉集塵水に吸収されることにより、高炉集塵水中にシアン成分が含まれるようになる。このシアン成分を含むガスが発生する前に、予め高炉集塵水に過酢酸(塩)を添加しておくと、ガス中のシアン成分が高炉集塵水に吸収されて高炉集塵水中の他の金属成分と反応して難分解性のフェロシアンやフェリシアン等の鉄シアノ錯体を形成する前に或いは形成中に高炉集塵水中に過酢酸(塩)が共存することとなり、この結果、このようなシアン成分含有ガスを吸収することにより持ち込まれた高炉集塵水中のシアン成分の酸化分解効率を高めることができ、好ましい。
【0038】
本発明において、高炉集塵水、一般シアン含有排水等のシアン含有水に添加する過酢酸塩としては、過酢酸ナトリウム、過酢酸カリウム等の過酢酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。
本発明において、過酢酸(塩)は1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0039】
過酢酸、過酢酸塩は、通常、4〜9重量%程度の濃度の水溶液として市販されており、本発明においては、このような市販品を用いることができる。水溶液中の過酢酸は、過酢酸イオンの形態になっており、過酢酸塩(過酢酸ナトリウム、過酢酸カリウム等の過酢酸のアルカリ金属塩等)の水溶液でも、同様の形態になると考えられるので、本発明において、過酢酸塩を用いることができる。
【0040】
高炉集塵水、一般シアン含有排水等のシアン含有水への過酢酸(塩)の添加量は、シアン含有水中の全シアン成分を十分に酸化分解除去できる程度の量であればよく、通常、シアン含有水中の全シアン(CN)濃度に対して過酢酸(塩)換算の添加量として1〜1000重量倍、特に10〜100重量倍とすることが好ましい。過酢酸(塩)添加量が少な過ぎるとシアン含有水中の全シアン成分を十分に酸化分解除去することができず、多過ぎると過酢酸(塩)添加のための費用が嵩み、また、pHが下がり、pH調整の必要が出るため、好ましくない。
【0041】
高炉集塵水、一般シアン含有排水等のシアン含有水に過酢酸(塩)を添加した後は、好ましくは1〜180分程度、より好ましくは1〜30分程度反応させて、シアン含有水中の全シアン成分と過酢酸(塩)とを十分に反応させて全シアン成分を酸化分解する。シアン含有水中の全シアン成分は、過酢酸(塩)による酸化で、シアン酸イオン(CNO)を経て重炭酸イオン(HCO)と窒素(N)に分解される。
【0042】
なお、本発明による処理に供されるシアン含有水のpH値には特に制限はない。通常、一般シアン含有排水のpHは3〜9程度、高炉集塵水のpHは7〜9程度であり、このようなpH値のシアン含有水であれば、特にpH調整を行なうことなく、過酢酸(塩)を添加して、全シアン成分の効率的な酸化分解を行うことができる。
【0043】
また、本発明による処理に供されるシアン含有水の温度についても特に制限はなく、本発明による全シアン成分の酸化分解は温度による大きな影響を受けることなく実施することができる。
【0044】
このようなことから、本発明によれば、pH調整等の水質管理や温度管理などの煩雑な条件管理を必要とすることなく、単にシアン含有水に過酢酸(塩)を添加して混合するのみで全シアン成分の酸化分解が可能である。
【0045】
なお、前述の如く、シアン含有水への過酢酸(塩)の添加に先立ち、シアン含有水中の金属成分を固液分離することが好ましいが、前述のメッキ工場排水等の一般シアン含有排水の処理設備には、凝集沈殿槽又は沈殿槽が設けられているため、これらの固液分離槽からの固液分離水に対して、過酢酸(塩)を添加するのみで本発明を容易に実施することができる。
過酢酸(塩)が添加された後の水は、別途設けた反応槽で攪拌混合してもよいが、過酢酸(塩)による全シアン成分の酸化分解の反応時間は短時間でも十分であるため、配管内での流動作用による混合によっても十分に酸化分解を行える。
【0046】
また、高炉集塵水の処理設備にも、凝集沈殿槽又は沈殿槽が設けられているため、これらの固液分離槽からの固液分離水に対して、過酢酸(塩)を添加するのみで本発明を容易に実施することができる。
【0047】
図1は、このような本発明のシアン含有水のシアン処理方法を高炉集塵水の処理に適用して実施する場合に好適な本発明のシアン含有水のシアン処理装置の一例を示すものであって、湿式集塵器からの高炉集塵水は、受け入れピット1から、凝集沈殿槽2、集水ピット3を経て湿式集塵器に循環されるが、その際、集水ピット3からの流出水に対して、過酢酸(塩)タンク4より薬注ポンプPで過酢酸(塩)が添加されて、水中の全シアン成分の酸化分解が行われる。この過酢酸(塩)が添加された後の水は、別途設けた反応槽で攪拌混合してもよいが、過酢酸(塩)による全シアン成分の酸化分解の反応時間は短時間でも十分であるため、配管内での流動作用による混合によっても十分に酸化分解を行える。
【実施例】
【0048】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0049】
なお、以下において、水中の全シアン(CN)濃度の測定は、JIS K 0102に準拠した4−ピリジンピラゾロン吸光光度法により行った。その際、次亜塩素酸ナトリウムによる残留塩素の前処理は、JIS K 0102に従い、L(+)−アスコルビン酸溶液(100g/L)(JIS K 9502)を添加して行った。また、ホルムアルデヒドの前処理は約pH12の試料にテトラヒドロホウ酸ナトリウムを約0.3g添加後30分間放置して行った。即ち、JIS中には、ホルムアルデヒドの前処理方法はないため、文献:ホルムアルデヒドシアンヒドリン中のシアン化物の定量 Vol.41 No.10 Page.T131−T134(1992.10)を参照して行った。
また、測定に先立ち、試料はガラスフィルター濾紙を用いて濾過した。
【0050】
[実施例1,2、比較例1〜3]
コークス製造設備の安水(pH8〜9、SS10mg/L以下、水温30℃)を原水とし、この水に、表1に示す薬剤を表1に示す量添加し(ただし、比較例1では薬剤添加せず。)、60分撹拌混合した。その後、ガラスフィルター濾紙で濾過し、濾液について全シアン濃度の測定を行った。結果を表1に示す。
なお、表1において、過酢酸としては過酢酸を用い、6重量%水溶液として添加した。表1中の薬剤濃度に記載した数値は上記水溶液としての添加量である。また、次亜塩素酸ナトリウムは有効塩素濃度12重量%水溶液として添加した。表1中の薬剤濃度に記載した数値は上記水溶液としての添加量である。また、ホルムアルデヒド及び亜硫酸水素ナトリウムは、これらをそれぞれ19重量%、21重量%の濃度で含有する水溶液として添加した。表中の薬剤濃度に記載した数値は上記水溶液としての添加量である。
【0051】
[実施例3,4]
実施例1,2において、SSを200mg/L含むコークス製造設備の安水(pH8〜9、水温30℃)を原水としたこと以外はそれぞれ同様にして処理を行い、結果を表1に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1より、本発明によれば、シアン含有水である安水中の全シアン成分を効率的に酸化分解して除去することができることが分かる。なお、実施例3,4と実施例1,2との対比より、原水中に、コークス製造設備由来の金属成分を含むSSが含まれていると、全シアン成分の酸化分解効果が損なわれることから、これを予め固液分離して除去しておくことが好ましいことが分かる。
【0054】
[実施例5〜7、比較例4〜10]
高炉の休風後、シアン含有ガスが発生する前の高炉集塵水の給水(SS濃度:56mg/L)をサンプリングし、このサンプリング水に、表2に示す薬剤を表2に示す量添加し(ただし、比較例4では薬剤添加せず。)、薬剤添加後10分後に試薬のシアン化ナトリウム(NaCN)をCNとして2.4mg/L添加し、更に60分撹拌混合した。その後、ガラスフィルター濾紙で濾過し、濾液について全シアン濃度の測定を行った。結果を表2に示す。
なお、表2において、過酢酸としては過酢酸を用い、6重量%水溶液として添加した。表2中の薬剤濃度に記載した数値は上記水溶液としての添加量である。また、次亜塩素酸ナトリウムは有効塩素濃度12重量%水溶液として添加した。表2中の薬剤濃度に記載した数値は上記水溶液としての添加量である。また、ホルムアルデヒド及び亜硫酸水素ナトリウムは、これらをそれぞれ19重量%、21重量%の濃度で含有する水溶液として添加した。表中の薬剤濃度に記載した数値は上記水溶液としての添加量である。
【0055】
[実施例8〜10]
実施例5〜7において、高炉集塵水の代りに高炉集塵水の戻り水(SS濃度:430mg/L)をサンプリングして処理したこと以外は同様に処理を行い、結果を表2に示した。
【0056】
【表2】

【0057】
表2より、本発明によれば、高炉集塵水中の全シアン成分を効率的に酸化分解して除去することができることが分かる。なお、実施例8〜10と実施例5〜7との対比より、原水中に、高炉集塵水由来の金属成分を含むSSが含まれていると、全シアン成分の酸化分解効果が損なわれることから、これを予め固液分離して除去しておくことが好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0058】
1 受け入れピット
2 凝集沈殿槽
3 集水ピット
4 過酢酸(塩)タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン含有水に含まれるシアン成分を酸化分解する方法において、シアン含有水に、過酢酸及び/又は過酢酸塩を添加することを特徴とするシアン含有水のシアン処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記シアン含有水に含まれる金属成分を固液分離した後、過酢酸及び/又は過酢酸塩を添加することを特徴とするシアン含有水のシアン処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記過酢酸及び/又は過酢酸塩の添加量が前記シアン含有水中の全シアン成分に対して1〜1000重量倍であることを特徴とするシアン含有水のシアン処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記シアン含有水が高炉集塵水であることを特徴とするシアン含有水のシアン処理方法。
【請求項5】
シアン含有水に含まれるシアン成分を酸化分解する装置において、シアン含有水に過酢酸及び/又は過酢酸塩を添加する手段を備えることを特徴とするシアン含有水のシアン処理装置。
【請求項6】
請求項5において、前記シアン含有水中の金属成分を除去する固液分離手段と、固液分離手段からの分離水に過酢酸及び/又は過酢酸塩を添加する手段とを備えることを特徴とするシアン含有水のシアン処理装置。
【請求項7】
請求項5又は6において、前記シアン含有水が高炉集塵水であることを特徴とするシアン含有水のシアン処理装置。

【図1】
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