説明

シグナルロータ

【課題】円環部を径方向に拡大することなく、円環部の境界部に集中する応力を低減できるシグナルロータを提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明は、内燃機関の回転軸6に圧入されて取り付けられるシグナルロータ10であって、回転軸6に圧入される円環状の円環部11と、円環部11の外周面に設けられた径方向の凸部15と凹部16とを有する信号部12と、円環部11の端面から回転軸の軸方向に突出する突出部13と、を備え、突出部13は、凸部15と凹部16との境界部Aを周方向に跨いでいることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の回転軸に圧入されて取り付けられるシグナルロータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両等に搭載される内燃機関では、カムシャフトやクランクシャフトなどの回転軸の回転角が検出されている。
例えば、ピストンの位置が上死点等にあるか否かを判断するため、Top Dead Centreセンサ(以下、「tdcセンサ」という。)を設けて、カムシャフトの回転角が検出されている。
また、可変バルブタイミング機構を採用する内燃機関においては、カムシャフトの回転位相を変化させて、バルブの開閉タイミングやバルブリフト量を制御するため、カムセンサを設けて、カムシャフトの回転角が検出されている。
【0003】
また、回転軸の回転角を検出するための構成として、下記特許文献1に開示されるように、円環状の円環部と、その外周面に設けられた凸部及び凹部を有する信号部とを備えたシグナルロータが回転軸に取り付けられている。なお、シグナルロータは、円環部に回転軸が圧入されることにより取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−087781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のシグナルロータでは、回転軸の圧入により内径が拡大するような荷重を受け、円環部に応力が生じていた。
ここで、円環部において、外周面に凸部が設けられた部分と、外周面に凹部が設けられた部分との剛性が大きく異なっていた。
そのため、円環部では、剛性が大きく変化する凸部と凹部との境界部に、回転軸の圧入による応力が集中し、シグナルロータの不具合の要因となっていた。
【0006】
これに対し、円環部の境界部に集中する応力を低減させるため、円環部を径方向に拡大することが考えられる。
しかし、円環部を径方向に拡大すると、シグナルロータが大型化してエンジン内部に占める割合が大きくなり、エンジン全体のレイアウトに制限を与えてしまう。
また、円環部を径方向に拡大すると、慣性モーメントが増加して、スリップトルクも増加してしまう。さらには、増加したスリップトルクに対応するために、シグナルロータとカムシャフトとの締め代を増加しなければならないという非効率な結果を招いてしまう。
【0007】
そこで、本発明は、前記する背景に鑑みて創案された発明であって、円環部を径方向に拡大することなく、円環部の境界部に集中する応力を低減できるシグナルロータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本願発明に係るシグナルロータは、内燃機関の回転軸に圧入されて取り付けられるシグナルロータであって、前記回転軸に圧入される円環状の円環部と、前記円環部の外周面に設けられた径方向の凸部及び凹部を有する信号部と、前記円環部の端面から前記回転軸の軸方向に突出する突出部と、を備え、前記突出部は、前記凸部と前記凹部との境界部を周方向に跨いでいることを特徴とする。
【0009】
本願発明に係るシグナルロータによれば、円環部の端面から突出し、かつ、凸部と凹部との境界部を周方向に跨ぐ突出部を有しているため、円環部における境界部近傍は、径方向の断面積が増加し、剛性が向上している。そのため、本願発明に係るシグナルロータは、円環部に回転軸の圧入による荷重が働いたとしても、円環部の境界部に集中的に生じる応力を低減することができる。
また、本願発明に係るシグナルロータによれば、突出部は、回転軸の軸方向に突出する構成であって、円環部が径方向に拡大する構成ではない。そのため、本願発明に係るシグナルロータは、円環部を径方向に拡大することにより生じる慣性モーメントの増加などの不利益を回避することができる。
【0010】
また、前記突出部は、前記円環部の内周面と前記凸部の外周面とに対して、径方向に所定の間隔を有していることが好ましい。
【0011】
前記する構成によれば、突出部は、円環部の内周面と所定の間隔を有しているため、円環部に圧入される回転軸に当接しない。よって、この突出部によれば、回転軸の締め代が増加しないため、圧入により円環部に生じる応力も増加しない。
また、前記する構成によれば、突出部と凸部の外周面とが所定の間隔を有している。そのため、信号部を読み取るセンサが、突出部を信号部の凸部であると誤って読み取るおそれを回避できる。
【0012】
また、前記するシグナルロータの構成において、前記突出部は、前記境界部を基準として前記凹部寄りに配置されていることが好ましい。
【0013】
前記する構成によれば、突出部が凹部寄りであるため、円環部において、外周面に凸部が設けられた部分に比べ、凹部が設けられた部分の方の剛性をより強化することができる。
ここで、円環部における剛性は、外周面に凸部が設けられた部分に比べて、凹部が設けられた部分の方が弱い。つまり、突出部が凹部寄りであることにより、剛性の弱い外周面に凹部が設けられた部分の剛性をより一層強化でき、外周面に凹部が設けられた部分と、外周面に凹部が設けられた部分との剛性の差が縮まり、円環部の境界部における剛性の変化が小さくなる。
そのため、円環部に回転軸の圧入による応力が生じたとしても、円環部の境界部に応力が集中することが抑制され、円環部の境界部に集中的に生じる応力が低減される。
【0014】
また、前記するシグナルロータの構成において、前記突出部は、前記円環部の内周面と同心円弧状に設けられていることが好ましい。
【0015】
前記する構成によれば、突出部が円環部の内周面と同心円弧状となっており、シグナルロータの回転変動が低減される。
【発明の効果】
【0016】
以上、本発明によれば、円環部を径方向に拡大することなく、円環部の境界部に集中する応力を低減させることができ、不具合が生じ難いシグナルロータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係るエンジンの内部構造の一部を上方から見た平面図である。
【図2】実施形態に係るエンジンの内部構造の一部を上方から見た平面図である。
【図3】図2に示すエンジンからカムシャフトとシグナルロータのみを抽出して斜視した斜視図である。
【図4】(a)は、実施形態に係るシグナルロータを、圧入される排気用カムシャフトの軸方向から見た図であり、(b)は、(a)の矢印G方向から見た図である。
【図5】実施形態に係るシグナルロータの変更例を回転軸方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態に係るエンジンについて、図面を適宜参照しながら説明する。なお、実施形態に係るエンジンについて、シリンダの軸線方向を上下方向と規定して説明する。また、実施形態のエンジンの説明において、技術的に同一要素であるものについては、同一の符号を付している。
【0019】
(エンジン)
図1は、実施形態に係るエンジンの構成の一部を上方から見た平面図であり、図2は、図1に図示するエンジンにおいて、直噴用ポンプカバーを外した場合の平面図である。
実施形態のエンジン1は、吸気バルブや排気バルブの開閉タイミングを可変とする可変バルブタイミング機構を採用した内燃機関である。
また、エンジン1は、図1及び図2に示すように、バルブ2やロッカアーム3が配置されたシリンダヘッド4上に、バルブ2を押圧するカム5が形成されたカムシャフト6と、カムシャフト6ともに回転するシグナルロータ10(図2参照)と、シグナルロータ10からの信号を検出するカムセンサ(不図示)を備えている。
そして、エンジン1は、検出されたシグナルロータ10の信号を基に、カムシャフト6の回転角を算出し、カムシャフト6の位相を変化させて、バルブ2を押圧するタイミングを変化させている。
【0020】
(カムシャフト)
図3は、図2に示すエンジンから、カムシャフトとシグナルロータのみを抽出した図である。
カムシャフト6は、図1〜図3に示すように、排気用のカムシャフトであって、シグナルロータ10が取り付けられた一端側には、直墳用ポンプ(不図示)を駆動させるためのポンプカム7b(特に図3参照)が形成されている。そして、カムシャフト6は、シグナルロータ10とポンプカム7bとが直噴用ポンプカバー7内に収容されるように、カムホルダ8に軸支されている。
なお、直噴用ポンプカバー7は、シリンダヘッド4に対して強固に接合されている。そのため、直噴用ポンプカバー7のカムセンサ取付部7aに取り付けられるカムセンサ(不図示)は、検出位置が変位することなく、精度の高いセンシングが可能となる。
【0021】
カムシャフト6は、図3に示すように、円筒形状からなり、その外周面に、カム5と、溝である溝部9aと、シグナルロータ10の孔部14(図4(a)参照)に圧入される圧入部9bと、カムシャフト6の軸方向の移動を規制するスラスト規制部9cが一体に形成されている。
【0022】
カム5は、円盤状の一部が径方向に突出して、中心から外周面までの距離が変化するように形成されており、カムシャフト6の回転に伴って、外周面に当接するバルブ2の押圧を行う。
溝部9aは、軸支されるカムホルダ8に対応するように、周方向に沿って形成された溝である。
また、圧入部9bは、円盤状に形成されており、また、後記するシグナルロータ10の内周面11a(図4(a)参照)の径よりも大きい径となるように形成されている。
スラスト規制部9cは、図2及び図3に示すように、カムシャフト6の一端側であって、ポンプカム7bと圧入部9bと間に形成された窪みである。そして、図2に示すように、このスラスト規制部9cがカムホルダ8に軸支されることにより、カムシャフト6の軸方向への移動が規制される。
なお、上方から見た平面図である図2において、カムホルダ8は、隣接するポンプカム7bと圧入部9bに当接しておらず、隙間があるが、図2に図示されない下方側において、カムホルダ8が、ポンプカム7bと圧入部9bとに軸方向で当接している。
【0023】
(カムセンサ)
また、直噴用ポンプカバー7には、カムセンサ取付部7aが設けられており、図示しないカムセンサが、カムシャフト6に対して直交するとともに、カムシャフト6に取り付けられたシグナルロータ10と同一平面上となるように取り付けられている。
また、図示しないカムセンサは、カムシャフト6に固定されたシグナルロータ10の径方向の変化、つまり、凸部15と凹部16(図3及び図4参照)との境を読み取って、カムシャフト6の回転角の検出を行っている。
【0024】
(シグナルロータ)
シグナルロータ10は、図3に示すように、カムシャフト6が圧入されており、カムシャフト6と一体となって回転する。そして、カムシャフト6の回転角を読み取るカムセンサ(不図示)に対し、回転角を示す信号を与える部品である。
また、シグナルロータ10は、図3及び図4に示すように、円環状に形成された円環部11と、その円環部11の外周面11bに設けられた信号部12と、円環部11の端面11cから突出する突出部13とが一体に形成されている。
【0025】
(円環部)
円環部11は、図4(a)に示すように、円環状であって、その中心部に円形状の孔部14を有しており、外周円と孔部14がなす内周円とが同心円となるように形成されている。
また、円環部11の内径は、締め代を確保するため、孔部14の径がカムシャフト6の圧入部9b(図3参照)の外径よりも小さくなるように形成されている。これにより、図3に示すように、孔部14にカムシャフト6の圧入部9bが圧入されて、圧入部9bの外周面が円環部11の内周面11aを径方向外向きに押圧して強固に結合する。
【0026】
また、円環部11は、図4(b)に示すように、圧入されるカムシャフト6の軸方向における厚みが均一となるように形成されている。これにより、シグナルロータ10が回転変動することを防止している。
【0027】
(信号部)
信号部12は、図4(a)に示すように、円環部11の外周面11bから径方向外向に突出する凸部15と、円環部11の外径と同一の径を有しており、凸部15がなす外周円に比べて径方向内向に凹む凹部16とから構成されている。
なお、実施形態に係る凹部16は、円環部11の外径と同一の径であるため、凹部16の外周面と円環部11の外周面11bとが共通(周方向で一致)している。
【0028】
ここで、凸部15は、図4(a)に示すように、円環部11の外周面11bから、径方向外向に所定の長さを有するように突出しており、時計周りの順で、第1凸部15aと、第2凸部15bと、第3凸部15cとから構成されている。
また、凹部16は、第1凸部15aと第2凸部15bとの間にある第1凹部16aと、第2凸部15bと第3凸部15cとの間にある第2凹部16bと、第3凸部15cと第1凸部15aとの間にある第3凹部16cとから構成されている。
なお、上記する所定の長さとは、凸部15と凹部16とを読み取るカムセンサ(不図示)の性能による。
【0029】
また、実施形態に係る第1凸部15aと第2凸部15bと第3凸部15cとのそれぞれは、図4(a)に示すように、周方向の長さが異なるように形成されている。なお、第1凸部15aを基準とすると、第2凸部15bは、第1凸部15aよりも周方向の長さが長く形成されており、また、第3凸部15cは、第1凸部15aよりも周方向の長さが短く形成されている。
【0030】
同様に、第1凹部16aと第2凹部16bと第3凹部16cとのそれぞれについても、図4(a)に示すように、周方向の長さが異なるように形成されている。なお、第2凹部16bを基準とすると、第1凹部16aは、第2凹部16bよりも周方向の長さが短く形成されており、また、第3凹部16cは、第2凹部16bよりも周方向の長さが長く形成されている。つまり、第1凹部16aと第2凹部16bと第3凹部16cの中で、第3凹部16cが最も周方向の長さが長く形成されている。
【0031】
そして、第1凸部15aと第2凸部15bは、図4(a)に示すように、第1凹部16aを介して、略半周を占めるように構成されている。一方で、第2凹部16bと第3凹部16cは、第3凸部15cを介して、略半周を占めるように構成されている。
当該構成によれば、シグナルロータ10の外径において、第1凸部15aと第2凸部15bから構成される凸部15が略半周を占め、また、第2凹部16bと第3凹部16cから構成される凹部16も略半周を占めることとなる。
そのため、シグナルロータ10が半回転する度に径方向の長さが変化するため、カムセンサ(不図示)は、シグナルロータ10が半回転したことを検出できる。
【0032】
また、上記構成によれば、第1凸部15aと第2凸部15bとの間にある第1凹部16aは、第1凸部15aと第2凸部15bが成す略半周の凸部15の中間に位置することになる。そのため、第1凹部16aは、図示しないカムセンサが、シグナルロータ10が四分の一回転したことを読み取ることが可能となる。なお、第1凹部16aの周方向の長さについては、特に制限はなく、カムセンサ(不図示)が、第1凸部15aと第2凸部15bとの間に、第1凹部16aが介在することを読み取ることができる長さであればよい。
【0033】
同様に、第3凸部15cは、円環部11の中心軸を基準として、第1凹部16aと点対称となる位置に設けられている。これによれば、第3凸部15cは、第2凹部16bと第3凹部16cが成す略半周の凹部16の中間に位置することになる。よって、図示しないカムセンサが、第3凸部15cを読み取ることにより、シグナルロータ10が四分の一回転したことを検出できる。なお、第3凸部15cの周方向の長さについては、特に制限はなく、カムセンサ(不図示)が、第2凹部16bと第3凹部16cとの間に、第3凸部15cが介在することを読み取ることができる長さであればよい。
【0034】
以上、上記する信号部12によれば、図示しないカムセンサは、シグナルロータ10を四分の一回転毎の検出が可能となる。
なお、本発明は、円環部11の外周面11bに設けられる凸部15と凹部16の数及び周方向における長さは、実施形態で示したものに限るものでない。
【0035】
また、以下において、シグナルロータ10の径方向の長さが変化する凸部15と凹部16との境界について、図4(a)に示すように、第3凹部16cと第1凸部15aとの境界を境界部Aと称して説明する。また、同様に、第1凸部15aの第1凹部16aとの境界を境界部B、第1凹部16aと第2凸部15bとの境界を境界部C、第2凸部15bと第2凹部16bとの境界を境界部D、第2凹部16bと第3凸部15cとの境界を境界部E、第3凸部15cと第3凹部16cとの境界を境界部Fと称する。
【0036】
(突出部)
突出部13は、図4に示すように、円環部11の端面11cから真円状の内周面11aの軸線方向、つまり、カムシャフト6の軸方向に突出するように形成された部分である。また、突出部13は、図4(b)に示すように、円環部11の端面11c、11cの両方に形成されている。
【0037】
突出部13は、図4(a)に示すように、円環部11と同心円弧状となるように形成されて、周方向に延出している。また、突出部13は、図4(a)を示すように、境界部Aを周方向に跨ぐように形成されている。また、突出部13の周方向における長さは、図4(a)に示すように、周方向に跨ぐ境界部Aの周辺である所定領域にのみにあるように形成されている。なお、所定領域とは、この突出部13を設けることにより境界部Aの剛性を高めることができる領域をいう。
そして、突出部13は、図4(a)に示すように、境界部Aを基準として第3凹部16c寄りに形成されており、第1凸部15a側の長さよりも、第3凹部16c側の長さの方が長くなっている。
【0038】
突出部13は、図4(a)に示すように、内周側において、円環部11の内周面11aから所定の間隔を有しており、円環部11の孔部14に圧入されるカムシャフト6に当接しないように形成されている。
一方で、突出部13は、図4(a)に示すように、外周側において、円環部11の外周面11bと面一となるように形成されており、円環部11の外周面11bよりもさらに外周側にある第1凸部15aの外周面に対して所定の距離を有している。
【0039】
以上、実施形態のエンジン1について説明したが、実施形態のエンジン1を構成するシグナルロータ10によれば、突出部13を備えるため、円環部11の境界部A近傍は、径方向の断面積が増加し、円環部11における境界部A近傍の剛性が強化されている。
そのため、円環部11の孔部14にカムシャフト6が圧入され、孔部14が拡大するような荷重を円環部11が受けたとしても、円環部11の境界部A近傍の剛性が強化されているため、円環部11の境界部Aに集中的に生じる応力が低減される。
【0040】
また、換言すると、突出部13は、シグナルロータ10に一つだけ形成され、かつ、円環部11において、応力が最も集中し易い境界部Aを跨ぐように形成されている。
ここで、実施形態に係る第3凹部16cは、凹部16の中で、周方向の長さが最も長く形成されている。そのため、円環部11において、外周面に第3凹部16cが設けられた部分が、最も剛性の低い部分である。
一方で、第3凹部16cに周方向で隣り合う、第1凸部15aと第3凸部15cとでは、第1凸部15aの方が周方向の長さが長く形成されている。そのため、円環部11において、外周面に第3凸部15cが設けられた部分に比べて、第1凸部15aが設けられた部分の方が、剛性が高いことになる。
つまり、剛性が変化して応力が集中し易い円環部11の境界部A〜境界部Fのうち、外周面に第3凹部16cが設けられた部分と、外周面に第3凸部15cが設けられた部分との境界部Aが、最も大きく剛性が変化して、応力が最も集中し易い箇所である。
【0041】
よって、実施形態に係る突出部13は、円環部11において、応力が集中して、変形等が最も生じ易い部分である境界部A近傍の剛性を高めており、円環部11に生じる変形等を効果的に抑制している。さらに、形成される突出部13が一つだけとすることで、突出部13が複数形成されることにより生じる、慣性モーメントの増加やスリップトルクの増加等も抑制することが可能となる。
なお、突出部13の形成される数が増加すると、シグナルロータ10の重量が増加し、慣性モーメント等が増加するが、上記「発明が解決しようとする課題」で述べた、シグナルロータの径方向の拡大した場合に生じる慣性モーメント等の増加に比べて、極めて小さな増加である。そのため、たとえ、シグナルロータ10の突出部13の数が増加しても、シグナルロータを径方向に拡大した場合に比べて、非常に優れた効果を有するものである。
【0042】
また、実施形態のシグナルロータ10によれば、突出部13がカムシャフト6の軸方向に突出しているため、円環部11を径方向に拡大することにより生じる慣性モーメントの増加などの不利益を回避できる。
【0043】
また、実施形態のシグナルロータ10によれば、突出部13が円環部11の端面11c、11cの両方に形成されているため、突出部13が1つ形成される場合に比べて、円環部11における境界部A近傍の径方向の断面積をさらに増加することができる。よって、円環部11の境界部Aに集中的に生じる応力をより低減できる。また、円環部11の端面11c、11cの両方に設けられているため、シグナルロータ10の回転変動を防止できる。
【0044】
また、実施形態のシグナルロータ10によれば、突出部13が、図4(a)に示すように、第1凸部15a側の長さよりも、第3凹部16c側の長さの方が長くなっている。そのため、円環部11において、外周面に凸部15が設けられた部分に比べて、剛性の弱い凹部16が設けられた部分の剛性をより強化できる。
そして、円環部11において、外周面に第1凸部15aが設けられた部分と、外周面に第3凹部16cが設けられた部分との剛性の差が縮まり、境界部Aにおける剛性の変化が小さくなる。そのため、円環部11の境界部Aに応力が集中することが抑制され、円環部11の境界部Aに生じる応力が低減される。
【0045】
また、実施形態のシグナルロータ10によれば、突出部13が第1凸部15aの外周面から所定の距離を有している。そのため、カムセンサ(不図示)が、突出部13を信号部12の凸部15であると誤って読み取るおそれを回避できる。
また、突出部13は、円環部11に対し軸方向に突出する構成である。そのため、カムセンサが、実施形態に示すように、カムシャフト6に対し直交して設けられるカムセンサ(不図示)の場合には、凸部15よりも突出部13がカムセンサ(不図示)に対して近接することがない。
よって、実施形態の突出部13によれば、カムセンサ(不図示)のセンシングに与える影響が極めて小さく、カムセンサ(不図示)が突出部13を信号部12の凸部15であると誤って読み取るおそれを効果的に抑制できる。
【0046】
また、実施形態のシグナルロータ10によれば、突出部13が円環部11の内周面11aから所定の間隔を有しているため、カムシャフト6に当接することがないため、カムシャフト6の締め代の増加を回避できる。
【0047】
次に、シグナルロータ10の変更例であるシグナルロータ10aを、図5を参照して説明する。シグナルロータ10aは、シグナルロータ10の構成要素である円環部11と信号部12と突出部13とのほかに、第2突出部20と、第3突出部21とをさらに備えている。以下、シグナルロータ10aについて説明するが、シグナルロータ10と同じ構成である円環部11と信号部12と突出部13についての説明は省略する。
【0048】
第2突出部20と第3突出部21は、図5に示すように、突出部13と同様に、円環部11の回転軸方向を向く端面11cから円弧状に突出した部分である。
【0049】
第2突出部20は、円環部11の境界部Bと境界部Cとの二つを周方向に跨ぐように形成されているため、円環部11における境界部B近傍及び境界部C近傍は、径方向の断面積が増加し、剛性が強化されている。
【0050】
また、第3突出部21は、円環部11の境界部Dを周方向に跨ぐように形成されているため、円環部11における境界部D近傍は、径方向の断面積が増加し、剛性が強化されている。
【0051】
以上、変形例のシグナルロータ10aによれば、円環部11の境界部Aのみならず、境界部B〜境界部Dにおける剛性も強化できるため、境界部B〜境界部Dに集中して生じる応力も低減できる。
【0052】
なお、円環部11において、外周面に凹部16が設けられた部分は、外周面11bに設けられる凹部16の周方向の長さが長いほど、剛性が弱くなり、一方で、外周面に凸部15が設けられた部分は、外周面11bに設けられる凹部16の周方向の長さが長いほど、剛性が強くなるという性質を有する。
そのため、変更例であるシグナルロータ10aにおいて、特に応力集中が生じる箇所は、円環部11の境界部Aと境界部Dである。よって、シグナルロータ10aにおける突出部13等の数を減少させたい場合には、突出部13と第3突出部21のみを構成要素としてもよい。
【0053】
なお、本発明の実施形態に係るシグナルロータ10、10aについて説明したが、本発明は実施形態に係るシグナルロータ10、10aに限るものでなく、適宜変形させてもよい。例えば、シグナルロータ10aは、円環部11の境界部Eと境界部Fとの二つを跨ぐ突出部をさらに備えてもよい。
また、本実施形態において、シグナルロータ10、10aが取り付けられる部材がカムシャフト6であるが、本発明はこれに限定されるものでなく、例えば、クランクシャフトなど回転する回転軸であれば、適用することができる。
【0054】
また、本発明は、実施形態で示した可変バルブタイミング機構を採用するエンジン1に限定されるものでない。例えば、上死点等のピストンの位置を判別するために、TDCセンサによりカムシャフトの回転角を検出する場合にも、本発明に係るシグナルロータ10、10aを用いることができ、かつ、上記する優れた効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 エンジン
6 カムシャフト(回転軸)
10、10a シグナルロータ
11 円環部
12 信号部
13 突出部
14 孔部
15(15a、15b、15c) 凸部
16(16a、16b、16c) 凹部
20 第2突出部
21 第3突出部
A、B、C、D、E、F 境界部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の回転軸に圧入されて取り付けられるシグナルロータであって、
前記回転軸に圧入される円環状の円環部と、
前記円環部の外周面に設けられた径方向の凸部及び凹部を有する信号部と、
前記円環部の端面から前記回転軸の軸方向に突出する突出部と、を備え、
前記突出部は、前記凸部と前記凹部との境界部を周方向に跨いでいることを特徴とするシグナルロータ。
【請求項2】
前記突出部は、前記円環部の内周面と前記凸部の外周面とに対して、径方向に所定の間隔を有していることを特徴とする請求項1に記載のシグナルロータ。
【請求項3】
前記突出部は、前記境界部を基準として前記凹部寄りに配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシグナルロータ。
【請求項4】
前記突出部は、前記円環部の内周面と同心円弧状に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシグナルロータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−113121(P2013−113121A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257294(P2011−257294)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)